エロゲ世界にTS転生したので好き放題に暗躍した結果   作:影薄燕

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今回と次回、割と暗め。


SS 忍の過去(前編)

 

【side.忍】

 

 

「……けぷっ、ちょっと食べ過ぎましたね」

 

 

 春なのに少し寒々しい風が吹く満月の夜。

 私は柚木家の屋根の上で、友理さんの帰りを待っています。

 

 

 

 今日は友理さんの提案で鍋パーティーをしました。

 毎回のことではありますが、当然のように私も呼ばれてお野菜をたくさん食べてお腹が苦しいです。「成長期なんだから」と友理さん、秋穂さん姉妹にお肉も多くよそられたのが原因ですが、お鍋と同じように私の心はポカポカしています。

 

 

「友理さんたち、どこまで行ったのでしょうか?」

 

 

 鍋パーティーが終わってすぐ、友理さんと明日奈さんの2人は“瑠維さん”なる人物に会うためどこかへ出かけました。

 

 なぜこの時間帯なのか疑問に思ったのは言うまでもありません。

 実際に友理さんに聞いてみると「……ボクも聞きたいなぁー、明日奈の反応が恐いなー」などと、遠い目をしていたのが気がかりです。

 

 会う人物は友理さんの友人だそうなので大丈夫だとは思いますが、やはり心配なものは心配です。

 

 万一の時のためにマルコがいるとはいえ、私もこっそり着いていくべきでしか……いえダメです。私の仕事は友理さんが戻るまで、姉である秋穂さんと保護対象であるアルカさんを見守ること。ここで任務を放棄するのは私を信じてくださる友理さんの信頼を裏切る行為です!

 当の友理さんが聞けば「そこまで背負わなくていいから!? てか、想いが重い!」と言いそうでありますが(過去に言われました)、私の信念の問題なのでこればかりは譲れません。むしろ、もっと頼ってほしいぐらいです。

 

 

 こういう時、自分が友理さんより推定2つも年下なのが残念です。

 どうしても友理さんの中で“護る人”の枠組みに入れられてしまうので。

 

 年上でしたら多少の無茶も通せるのですが……

 でも、それだと今の関係性も変わってきそうで嫌だと思ってしまう。だからやっぱり年下で良かったとも思ってしまう。

 

 

「ダメですねぇ私は」

 

 信頼に応えるべくマジメに友理さんに仕えたい自分と、妹のように甘えたい自分が心の内にいるのです。

 いつだか秋穂さんに相談した時は「当然の悩みだから、ゆっくりと自分の中で消化していけばいいんだよ~」との助言を貰いました。

 

 

 それでも、まだモヤッとした気持ちがあるのです。

 

 自分にできる事を全部しなければ後悔することになりそうで。

 

 姉と慕った人を失った時と同じ思いをするのが怖くて。

 

 

「……そういえば、あの日もこんな綺麗な満月でしたね」

 

 前日が雨だったので空気中の塵が洗い流されたのか、本当に良く輝く2つの月を見て思い出すのは数年前のこと。

 友理さんと初めて会った日でした。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 物心ついた頃にはすでに私は“自由”と無縁になっていました。

 

 質素な服・粗末な食べ物・徹底的に管理された生活・物を見るような感情のない大人たちの瞳・必要最低限しか情報を得られない環境。

 そんな場所に何人もいる内の1人が――私だった。

 

 最初からそんな環境の中で生活をして、周りにいる子供たちも似たような状況で、「おかしい」と「変だ」と感じる幼子がどれ程いるでしょう?

 

 

 外の景色が見えない建物に疑問を思うことは無かった。

 ――だって、それ以外を知らないから。

 

 

 管理された生活を乱す子が大人に叩かれるのに感情は動かなかった。

 ――だって、いつもの光景だから。私も叩かれたことはある。

 

 

 栄養しか考えていないドロドロした食事(後の友理さん曰く、「……何じゃその謎の物体X的なモノは?」とドン引きしたもの)にも疑問は無かった。

 ――だって、それ以外の食事なんて水以外知らないから。

 

 

 私たちは、その場所以外の世界を知らなかった。知れる環境にさえいなかった。質問をすれば大人はぶってくるから。「オマエたちが知る必要はない」と。

 

 

 あの頃の私は、両親どころか名前という概念すら知らなかった。

 皆が皆、英数字や番号を組み合わせたようなものを割り振られていた。

 私は『SN.13』とかそんなのだったはずです。

 

 

 だからでしょうか?

 名前を付けて貰った時に、世界が変わったかのように錯覚したのは。

 

 

 

「んー、じゃあアナタは今日から“シノブちゃん”ね!」

 

「シ・ノ・ブ……?」

 

「うん! 数字の13って合体させたら“B”になるから、S・N・Bでシノブって読めるかなーってさ!」

 

 

 

 そんなことを言ったのは物心ついた頃から一緒にいる子供たちではなく、あとから来た子供たちの中の1人で、やたら笑顔を振りまく2、3年上の少女でした。

 

 不思議でした。

 その少女は体が弱く、私みたいな子供を秘密裏に集めていたそこの大人たちが引き取ったと言うのです。

 

 

 ……まあ、世間を知った数年後に分かったのは、その少女は育児放棄されたうえ裏組織に金で売られたという事実でしたが。

 今思うと、少女は多く語らずとも薄々ながら自分が親に“いらないもの”として捨てられたことに気付いていた節がありました。

 それでも、笑うことをやめませんでした。

 

 

「どうして……」

 

「ん? なーに?」

 

「どうして、笑うの?」

 

 あとから来た子供たちという大なり小なり“外の世界”を知る存在ができたことで、私は自分で考えるということをするようになった。

 そして漠然と「この場所には希望なんて無い」と理解しました。

 

 だからこそ、聞いてみたくなった。

 どうして笑えるのか、と。

 

 私は……1度も笑ったことがなかったから。

 笑い方を、本当に知らなかったから。

 

「こんな所にいるからこそだよ! “いつか”が来るその日まで、暗い顔なんてしたくないから! 知ってる? 暗い顔していると、自然と幸せが逃げちゃうんだぞー? “最後”まで私はちょっとでも幸せを手元に置きたいんだよ!」

 

「幸せ……よく、分かんない」

 

「これから知ってけばいいんだよ!」

 

 そういって少女は優しく頭を撫でてくれました。

 それが胸の内をポカポカさせました。

 私が初めて“嬉しい”という感情を知った瞬間でした。

 

「あれ!? シノブちゃん、今笑ったよね!」

 

「え? そう、なの……?」

 

 自分では分からなかったけど、口元が緩んで笑っていたそうです。

 せっかくだからと自分の意思で笑おうとしましたが、表情筋が上手く動かせずヒクヒクしていると言われてしまいました。

 

 だから、

 

「もう1度、頭撫でて……?」

 

 そんなお願いを頼めば、

 

「……ヤバい。この子、天然の天使だ……!」

 

 なぜか眩しいものを見たかのように仰け反りました。

 

「あーもう♡ シノブちゃん可愛すぎるよ~~~!!」

 

「え、わ、ちょ、えええええ……???」

 

 

 よく分からない内に抱きしめられて頬ずりされまくりましたね。

 目を白黒させた覚えがあります。

 あれです。秋穂さんがたまに友理さんにするようなスキンシップです。

 

 

「決めた! 今日からシノブちゃんは私の妹!」

 

「妹って……何?」

 

「あ、あ~そこからか~。あれだよ。家族で姉妹ってこと!」

 

「家族……妹……」

 

 

 その時は、本物の家族を知らない私はピンと来ませんでした。

 でも、それが温かいものだということだけは理解できたから、自然と「お姉ちゃん」と呼ぶようになって慕いだした。

 

 ここには希望は無い。

 それでも姉と呼ぶ少女がいればそれでよかった。

 自由でなくても、姉と過ごす時間があれば十分幸せだ。

 そんな風に思ってた――思い込んでいた。

 

 

 

 そんなもの、大人の都合で簡単に壊れるとも知らずに。

 

 

 

 姉と慕う少女と出会って1年が過ぎた頃だったでしょうか。

 私たちの生活サイクルに変化があったのは。

 

 それぞれの得意不得意・考え方の違いなどを調べられたと思ったら、個別でよく分からないことをやらされる時間を充てられるようになりました。

 

 ある男の子は射撃訓練をされ、ある女の子は戦術だか戦略だかの本を覚え込まされるなど、それぞれが別々のことをするようになったのです。

 私は――何をさせたかったのでしょうか? 赤外線に引っかからないよう短時間で通路の先を目指す特訓を知識と実技でやらされました。

 

 この頃になれば自分たちに大人たちが何をさせたいかなど、食事時や空き時間にみんなと話すようにもなりました。

 とは言っても、全員知識が偏っているのでまともな結論は出ませんでしたが。私は基本会話に参加せず、右から左に聞き流していたはずです。

 

 

 そんなことよりも、気になることが当時の私にはあったから。

 

 

「お姉ちゃん、大丈夫?」

 

「心配してくれるの? ただの風邪だって……コホッコホッ」

 

 姉と慕う少女は、日に日に体調を崩していた。

 

 姉が個別で何をされているのか、当時の私には予想もできませんでした。

 知識があれば、姉の腕に増える模様が注射痕だと気づけたかも知れませんし、元々体が弱い姉に最低最悪の大人たちが“どうするのが効率的か”を考えて実行するのか分かったかも知れなかったのに。

 

 今思えば、姉は自分が早々に切り捨てられることを――危険な薬物実験の被験体にされることを、幼いながら分かっていたのかもしれません。

 

 以前姉が言った“いつか”がここを出られる時のことではなく、自分の命の灯火が消えてしまう日のことを指しているのに気付いたのは半年後。

 

 

 姉と慕った少女が亡くなる日でした。

 

 

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