エロゲ世界にTS転生したので好き放題に暗躍した結果   作:影薄燕

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SS 忍の過去(後編)

 

 

「「「「「………………」」」」」

 

 『キャパオーバー』という言葉があります。

 当時の私たちはソレだったのでしょう。

 

 ぶっちゃけ、友理さんが来たことで脳の処理限界に達したわけですね。幼い子供には1時間もしない内に起こったことが多すぎました。

 みんなしてバカみたいに固まってしまったのです。

 

「どうしたんだい! 笑うなり怖がるなりしてくれていいんだよ!(裏声)」

 

 ネズミーマスク――友理さんは、ただでさえ幼いお声を無理に変えていましたね。翌日はのどが変になったそうです。

 

「ねえ! 何か反応してよ! せめて一言だけでもさ。ハハッ!(裏声)」

 

 声に続きコミカルな動きで気を引こうとする友理さん。

 

 しかし、反応できないので喋ることもできません。

 だってキャパオーバーしていますから。

 

「……頼むから、喋ってよぉおお~(裏声&涙声)」

 

 ついに涙声になってきましたね。非常に落ち込んでいるのにまだ裏声のままでいることに若干感心しないでもないですが。

 

 1人でもキャパオーバーしていない子がいればこう言ったでしょう。

 

 

 ――いや、全部アナタが原因だから、と。

 

 

 今の私ですらそう思うのです。

 正体を隠すためとはいえ、ふざけすぎでした。

 

 で、一体どうしようと迷っていると……

 

「――っ! 侵入者か!?」

 

 銃を持った別の大人がやって来たのです。

 倒れた同僚2人とネズミマスクの友理さんを見て、すぐ銃を構えた判断力の高さは賞賛できました。

 しかし、

 

 

「くたば――」

 

「全部オマエらのせいだロリコン共ぉおおおおおおおおおおおお!!」

 

「ぶっ!!?」

 

 

 残念ながら本気になった友理さんには叶いません。

 大人が引き金を引くより早く、友理さんが一瞬で距離を詰めて殴りつけたのです。子供の力では考えられない威力のパンチだったのか、大人は綺麗な放物線を描いてどこかへ吹っ飛んでいきました。

 

「クソ! この子たちが何の反応もしてくれないのも、痩せ細っているのも、おやつのプリンをアルカに食べられたのも、全部オマエらのせいだ!!」

 

「……最後だけ絶対に違う」

 

 完全に八つ当たりでしたね友理さん。

 “アルカ”や“プリン”が何を指す言葉かは分かりませんでしたが、最後の方だけ私情が入ったことは間違いないとツッコんだのです。

 

「――! アハッ! やっと反応してくれたね!(裏声)」

 

 再び無理に変えた声で喜びを露わにする友理さんは、スキップしながら近づいてきます。正直言いますと、泣き出す子がいるほど恐かったです。

 とはいえ、今まで散々私たちを苦しめてきた大人を倒したことは事実。子供の勘ながら悪い人ではないだろうと勇気を出して話すことにしました。

 

「……アナタは誰なの?」

 

「ネズミーマスクだよ、忍ちゃん!(裏声)」

 

「え!? なんで、その名前を……!?」

 

 その名前は姉から貰ったモノであり、当時の友理さんが知っていることに驚きを隠せませんでした。

 

「だって、しばらくの間はこの施設を見て回りながらキミたちのことも可能な限り調べたからね! ネズミ越しに今日のこと、忍ちゃんに伝えたでしょ! 有言実行ってやつさ! ハハッ(裏声)」

 

「あ! あのネズミから感じた視線って……」

 

「その通り! さらに言っちゃうと、ここに来たのはキミたちを助けるためなのさ! ワニ助が注目を浴びている内に逃げよう!(裏声)」

 

「ど、どうして……」

 

 もう頭が追いつけません。

 何で見ず知らずの私たちを助けようとするのか理解できませんでした。

 

「……どうして、か。まあ、偶然とはいえキミたちのことを知ったから、自分にできることをしようとしただけだよ。この施設のある場所を特定するまでは良かったんだけど、強襲計画を立てるにはまだ異能の把握と制御が難しくってね。こんなに時間が掛かっちゃった」

 

 裏声をするのも忘れて、友理さんは悲しそうに俯きました。

 

 

 

 当時の私は6歳。友理さんは8歳です。

 7歳の頃に異能に発現してから、その力の把握の一環でいろいろと試していると偶然違法な人体実験をされている子供たちの情報を知ったらしいです。皮肉にもそれは、姉と慕った少女が亡くなったことが切っ掛けで得られた情報だったとか。

 

 すぐに助けたい気持ちはあったけど確実に助けるためには情報収集と証拠の確保が必須で、しかもこのような事件を担当する公的機関に裏で施設の人間と繋がっている輩が紛れ込んでいる可能性が高いことから、1人で助けに来たのだと後の友理さんは語ります(なぜか非常に申し訳なさそうな顔でした)。

 

 姉は、最後の最後で希望を私たちに届けたのです。

 

 

 

「ボクが、キミたちを助けたいのは本当なんだ。証明するものは何も無いけど、信じて欲しい。……ボクにキミたちを助けさせて」

 

 マスク越しに目が合いました。

 その目は、どこまでも純粋に私たちを心配するものでした。

 

 私は後ろにいる他の子供たちへ問いかけるように振り向きます。

 

「「「「「………………」」」」」

 

 沈黙は数秒程度でした。

 

「たす、けて……」

 

「私、こんな所で死にたくない!」

 

「ボクも! 外の世界が見たい!」

 

「おねがい! ここから連れ出して!」

 

 みんなは口々に言います。「助けて」と。

 それは失った数年間取り戻そうとする、未来を掴もうとする、私たちの心からの叫びでした。心の底から溢れる想いでした。

 

 私も、覚悟を決めたのです。

 

「信じます。お姉ちゃんを失ったここには、もう居たくない! 私たちを、外に連れ出して!」

 

「……了解さ。ハハッ!(裏声)」

 

 友理さんは私たちに自分の側へ来るよう告げます。

 

「……第38柱ハルファス!」

 

 何事かを呟くと、地面に魔方陣が現れて周囲が輝きだしました。

 青白い光がキラキラと私たちを包み込んで、とても綺麗だと思ったものです。

 

 当然のことながら非常に目立つので、増援に来たらしい武装した大人たちがこちらに気付いて向かって来ましたが、

 

 

「ガルラァアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「ひっ!? ――ギャッ!」

 

「ま、また化け物が出たぞー!!」

 

「来るな! 来るなぁあああああああああああああああ!!」

 

 

 突如現れた巨大な何か(・・)が大人たちを蹂躙し出しました。

 ワニ助ほど巨大ではないのに、威圧感はそれ以上に感じる存在は乱射される銃弾をものともせず、目にも止まらぬ早さでその牙と爪を血に染めていったのです。

 

「グルルルル……」

 

「す、すごい」

 

 2メートルもあるかという巨大な狼の体に、グリフォンの翼と蛇の尻尾を持つ大悪魔。友理さんの異能、第35柱マルコシアス。

 後に仲良くなるマルコの、真の姿を初めて目撃した瞬間でした。

 

「ようやく準備が整ったか。やっぱ発動までの時間がネックだな。……マルコ! 残りの敵を殲滅しろ! 1人も逃がすな!」

 

「ガルゥオオン!」

 

「ワニ助! 証拠品やらなんやらは回収した。もうこんな施設に価値は無い! この子たちの辛い思い出ごと全部ぶっ壊しちまえ!!」

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 友理さんの声に応えたマルコは他の大人を倒すためにどこかへ去って行き、ワニ助は期待に応えるよう私たちがさっきまでいた建物を破壊します。

 

 

(……壊れていく)

 

 

 物心ついた頃から私たちを閉じ込めていた建物が、

 

 

 大人たちの悪意しか感じられなかった建物が、

 

 

 お姉ちゃんを死に追いやったモノ全てが、

 

 

 爆発音を響かせて崩れていく。

 

 

 

 その時の感情は今でも分かりません。

 強いて言うならば“開放感”が近いでしょうか?

 

 お姉ちゃんと出会えたこと以外、何1つとして良い思い出の無かった場所が壊れていくのを見て、私はやっと全部終わったんだと実感したのかもしれません。私たちのために本気で怒って建物を壊すよう命じた目の前の子供に、心から感謝したのかもしれません。

 

「いくぞ! 集団長距離転移!」

 

 そして、光が私たちを包み込み――

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

『それでは、次のニュースです。先月の〇〇県××市で起きた違法施設への突然の襲撃、そして救助された子供たちについての続報です』

 

 全てが終わったあの日から一月近い時間が過ぎた頃。

 私と、あの施設にいた子供たちはお昼のニュース番組を見ていました。

 

『この違法施設では『Heartギア』に適性のある子供を攫い、人体実験をするなど悪質なことが組織的犯行として行われておりました』

 

 映像では跡形も無く破壊され尽くした、先月までいた施設が上空からの映像によって映し出されています。原形がありません。ガレキの山です。

 

『政府は違法に幼い子供が各地から裏組織を通じて売買されていた事実を掴んでおり、密かに情報を集めていました。証拠が纏まりしだい子供たちの保護と組織の摘発を行う予定だったそうです』

 

 私たちは友理さんに助け出されましたが、どうやらそう遠くない内に助け出された可能性もあったようです。

 ただし、友理さんが指摘したよう問題点もありました。

 

『しかし、その前に施設は何者かに襲撃を受けて、組織もろとも壊滅することとなりました。襲撃した人物は不明のままで、捉えられた違法組織の者たちからの証言も信憑性に欠けるとして、政府が独自に調べていますが未だに謎は残ったままです。そして、同時刻に匿名で政府に違法組織と裏で繋がっていたとされる人物に関する情報及び証拠が送られており、その人物が施設に情報を流していた可能性も考慮して、警察と合同で調べております』

 

 ……そりゃあ、巨大なワニ・化け物のような狼・謎のネズミマスクの子供が襲撃したと言っても、実際に見た人以外は信じられないでしょうね。ついでに、あの施設にいた大人たちと繋がっていた可能性のある人物とやらも本当にいたようです。

 ニュースの続きを聞けば、その人物は違法施設の摘発などをする公的組織の上層部に属している人で、証拠が無ければまず疑われることもなかったであろう表向き人格者な男でした。数年後には大きな学園の理事長に推薦が決まりかけていたというから驚きです。

 もし先に救出されなければ情報漏洩によって逃げられたか、その男が手柄を欲するために組織を裏切ってより地位を確固たるものにしていた可能性だってあり得ます。ゾクリとする話です。

 

 これを当時の友理さんがほぼ1人で準備していたのですから、助け出された身としては感無量ですね。

 

『襲撃した謎の人物に助け出された子供たちは現在保護施設にて、健康診断とメンタルケアを行いつつ時間を掛けて聞き取りを行っているとのことです』

 

『いやー酷い話ですよね。中には赤ん坊の頃から施設に囚われていた子供もいるそうですから、彼らが外の世界を見たことによる混乱の落ち着きや、精神的な傷が癒えるまでは踏み込んだことは聞かないようにするという警察関係者の判断は正しいと思いますよ』

 

『そうですね。集められた子供たちの中で死者は1名のみで済んだということでしたが、心の傷は私たちでは想像することもできないでしょうし、これからたくさんの事を学びながら成長していくことを願うばかりですね』

 

『襲撃したマスク姿の人物についても気になるところですが、こちらは一向に調査が進んでいないとか。情報収集系の異能を使える方に協力しても、異常なまでに(・・・・・・)目撃情報その他手がかりになるものすら無いというので不思議なものです』

 

 そこでニュースは終わります。

 あとに流れるのは個性的な髪型をした女性が綺麗な部屋で有名人と話し合うという内容の長寿番組でしたが、私たちは興味が無いので見ませんでした。

 

 私たちの興味はもっぱら、ネズミマスクの子供と自分たちのことです。

 

「ボクたちの話題、未だにニュースでやってるね」

 

「ホントそれ。“心の傷”とかはイマイチ分からないし考える余裕も無いくらい、外の世界の情報がいっぱいで毎日が大変だもん」

 

「毎日美味しいもの食べられて幸せだし」

 

「アタシはテレビ見るのが好きだなー」

 

「オレはサッカーって遊び。体を動かすのが楽しいんだ」

 

「にしても、あのネズミの子は結局誰だったんだろうね?」

 

「あの襲撃って、あんまり褒められたやり方じゃないんだよね? 私たちのこと助けてくれたし、今も貰ってばかりなのに……」

 

「心配、だよなー」

 

 ニュースでは私たちのことを心配する声が多かったのですが、“心の傷”とやらは案外大丈夫なものでした。

 いきなり救助されて訳も分からないまま保護されていたのでしたら、こうはならなかったかもしれません。

 でも、私たちのことを本気で心配し、本気で大人たちに怒りを向けた人を見たから、みんなの心は救われたのでしょう。崩れ去る建物を見て「全部終わったんだ」という気持ちになったのは私だけではなかったのです。あの時点で“心の傷”はみんなの中からほとんど無くなったのかもしれません。

 

 全部、友理さんのおかげです。

 

 

 

 長距離転移なる異能の力で連れてこられたのは、私たちのように何らかの事情を抱えた子供たちの暮らす保護施設でした。

 

 事前に頭を下げてまで了解を取ったようで、保護施設の方々は大人も子供も関係なく受け入れてくれました。

 あらかじめ用意してくれていたシチューを食べた時は、みんな初めて知る“美味しい食事”というものに驚愕し涙を流したものです。

 恥ずかしながら私も大泣きしてしまいました。心の温まる優しい味に。改めて全部終わったんだと実感して。……お姉ちゃんにも、食べて欲しかったと。

 

 それから簡単に体調がおかしくないかを調べ、明日には警察の方にも来て貰うことになる旨を聞かされました。

 ほとんどの子は話を聞いたあとで崩れるように眠ってしまいました。

 

 ただ、私は――

 

「あの……」

 

「ん? 何だい忍ちゃん!(裏声)」

 

 保護施設の大人との会話を終えたらしい、ずっとネズミマスクを付けている友理さんに話しかけました。眠気は意地と根性で我慢です。

 どうでもいいですが、なぜそこまで裏声に拘ったのでしょうか?

 

「……ありがとう。助けてくれて」

 

「……気にしないでいいんだよ。子供っていうのは助けられてなんぼだからさ。ま、お礼は素直に受け取るね」

 

「……ふふ、アナタも子供なのに?」

 

「おっと、そうだった。ガチで忘れていた」

 

 ふざけてたり、マジメだったり、不思議な人だなーと思いました。

 それと、助けてくれたのがこの人で良かったとも。

 

「どんな理由でもいいの。みんなを助けてくれて、ありがとう」

 

「……みんな(・・・)じゃ、ないさ」

 

 そこで友理さんは酷く落ち込んだように頸を横に振りました。

 

「キミの大事な人、助けられなかった」

 

「あ」

 

「その子のことも助けてハッピーエンド!ってしたかったのに、ボクは、間に合うことができなかったんだ。……本当に、ゴメンね」

 

 友理さんは、泣いていました。

 私に悲しい思いをさせてしまった自分が不甲斐なかったと、もっと上手く立ち回れたらお姉ちゃんのことも助けられたんじゃないかと。

 

 

 気付けば私は、友理さんに抱きついていました。

 

 

「そんなことない!」

 

「忍ちゃん……」

 

「アナタがどこの誰かは分からないけど、私たちのことを本気で心配してくれているのは分かっている! アナタは何も悪くない! お姉ちゃんは、あの子は、最後まで笑顔で生きた! 私のことを愛してくれた! 誰も恨んでいないし、後悔もしていなかった! だから……!」

 

 たくさんの涙が目から溢れ出ます。

 私自身、具体的に何を友理さんに伝えたかったのか……。心の内からドンドン出てくる思いを言葉にしているだけでした。ただ、アナタは悪くないと、お姉ちゃんは天国でアナタに感謝しているはずだと、自分を責めないでと、そう伝えたかったのです。

 

 

「……忍ちゃんは、強いんだね」

 

 

 どれくらい抱きついた頃でしょうか。

 友理さんは私の頭にポンと手を置いて、

 

 

「ありがとう」

 

 

 私にだけ見えるようにマスクを取って、素顔を見せてくれました。

 

 

「キミと出会えて嬉しかったよ」

 

 

 それは、いつも見ていた姉と同じ笑顔だったのです。

 

 

「さよなら。幸せになってね」

 

 

 その表情で、優しげに頭を撫でてくれました。

 その手つきは偶然か必然か、姉と同じものだったのです。

 

 

「ああぁ……」

 

 

 涙が止まりませんでした。

 背を向けて去って行く友理さんに、手を伸ばしたまま何かを言いたくて、でも何も言えなくて、そのまま見送ることしかできませんでした。

 

 

 こうして、友理さんとは1度別れたのです。

 

 

 

 翌日からは、まぁいろいろ大変でした。

 警察の人が来て、最低限聞かなければならないことを爆発物の処理でもするかのよう慎重に質問してきたり、わざわざ近くの病院の方々が医療器具ごとやって来て、本格的な検査をしたりと大忙しです。体調に関して言うと、案の定みんな栄養失調気味でした。地味に私が1番酷かったようです。

 謎の物体X的なものしか食べたことがないと言えば、警察の人も病院の人も嗚咽を漏らすほど泣き出しましたね。

 

 保護施設での生活で楽しみなものはやはり食事です。

 数日経っても、朝の食パンやおにぎりを食べる度に泣き出す子もいましたからね。以前から保護施設にいる子ですら思うところがあるのか、最初から非常に優しかったです。おかわりの優先権とか貰いました。

 ちなみに、私が野菜好きだと判明したのはこの時です。

 

 本来、保護施設の食事は栄養などを考えつつ飽きないよう、決まったお金の中でやりくりしますが、私たちが入所してからそのバリエーションが多くなりました。

 理由としては寄付金が大量に送られてきたことですね。

 

 私たちのことは政府・警察・病院関係の人たちには有名だったので、涙を流すレベルの同情からか結構な額が保護施設に寄付されました。

 そのお金で失った数年間を取り戻させようと遊びにしろ食事にしろ、様々なことができるようになったのです。

 

 

 その寄付金の送り主の中には……「ネズミーマスクから!」と書かれたものもありました。お金だけでなく、まるで知っているかのように保護施設に無い本やおもちゃも大量に詰め込まれていたのです。

 

 

(会いたい)

 

 

 みんな、新しい生活に慣れていきました。

 でも、私は友理さんのことが頭から離れません。

 

 

(会いたい)

 

 

 みんなは余裕ができたからか、将来のことを話すようにもなりました。

 サッカー選手になりたいと言う子もいれば、料理人になりたいと言う子もいます。結果として私たちをあの施設に縛り付けていた『Heartギア』による異能で生計を立てようとする子までいたのです。

 ちなみに、その子の異能は『薬物探知』というものです。警察から熱烈なオファーがすでに届いているとか。

 

 私に発現した異能の名は『影操(シャドウ・ドミネーション)』。

 影を操ったり、影から影へ移動できる異能です。

 

 諜報向きだと、私にも警察からオファーが来ました。

 でも、どうせなら、あの人――友理さんの役に立ちたかった。

 もしかしたら、私たちの時のように無茶をするかもしれなくて、ちょっとでも助けになりたくて、……何よりも一緒にいたくて。

 

 

(会いたい)

 

 

 別れの時に撫でてくれた手は、間違いなく姉と同じものでした。

 姉と同じ、優しさに満ち溢れたものでったのです。

 それが、どうしても私は忘れることができませんでした。

 

 

 気付けば、助け出されて数年の時間が過ぎました。

 私は11歳になり、中学校に通うかどうかの決断を迫られたのです。

 

 小学校には通わずに保護施設で勉強なども教わりましたが、やはり学校生活で得られるものは大きいと、問題が無ければできる限り通うようにして欲しいというのが周りからの意見です。それでなくても高校生になれば『Heartギア』によって発現した異能を扱うための専門学園に入ることが決まっているのです。こればかりは決定事項だと言われました。

 年上の子はすでに近場の学校へ通うようになり、みんなにどれだけ楽しかったかを聞かせています。

 

 しかし、私は……迷っていたのです。

 友理さんのことが頭から離れずに。

 

 そして、とうとう行動に移すことに決めました。

 保護施設で世話になった人たちを説得するのに時間は掛かりましたが、私は中学校に入る手続きをするギリギリの時期まで、大恩人を探すことにしたのです。

 

 普通なら無理だったでしょう。

 ニュースでも言っていましたが、警察や政府が本気で捜査しても探し出すことができなかったのですから。

 

 でも、勝算はありました。

 

 私だけがハッキリと覚えていた単語、“アルカ”“マルコ”“ワニ助”という1人(?)と2匹の名前です。

 2匹に関しては恐らく異能で召喚された存在だと分かりましたので期待しませんでしたが、“アルカ”は人の名前だと踏んでいたのです。

 

 私の向かった先は――とある探偵事務所。

 ええ、普通に人の力を借りることにしました。

 

 もちろん、依頼するのはただの探偵ではありません。

 『人物位置特定』という異能を扱える知る人ぞ知る名探偵です。保護施設を卒業した人が来た際に、偶然にも存在を知ることができました。

 居場所も泣き落としで手にしました。必死だったのです。

 

 今までに貯めたお小遣い――全財産を依頼料に出しました。知る人ぞ知る名探偵への依頼料は子供割引があっても高かったです。

 

 そして調査の結果、見事“アルカ”と“マルコ”の居場所が判明しました。

 

 私はすぐ情報にある場所へ向かいます。

 

 電車を乗り継ぎ、地図を片手に探し出し、

 

 

 

 見つけました。

 

 

 

「はぁ、今日も疲れたー。なあ、マルコ(・・・)?」

 

「ワン!」

 

「ボクが明日奈を困らせたのが原因だって? 酷い奴だ」

 

「ウ~……ワゥン」

 

「私も疲れた。夕飯はステーキがいい」

 

アルカ(・・・)、オマエは後ろで見学していただけだろが……!」

 

「……ダメ?」

 

「はいはい分かりましたよ。ったく、作る身にもなってほしいよ。それじゃあ、さっさとスーパーに行くか。今日は肉が安いはずだし」

 

「わーい」

 

 

 

 ようやく、会えました。

 

 

 

「? 友理、マルコ。あの子、こっち見てる」

 

「ワウン?」

 

「あの子ってどの子n……なっ!? あ、あれは……!?」

 

 

 

 別れてから随分経ちましたが、すぐに探している人だと確信しました。

 

 

 

「……お久しぶり、です」

 

「ど、どうして、ここに……?」

 

「ずっと……会いたかった」

 

 

 

 私は、数年ぶりの涙を流しました。

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「まあ、そこからも大変でしたねー」

 

 友理さんに会いたい、一緒にいたいという気持ちだけで行動していたからか、咄嗟にしたのは「アナタに仕えさせてください!」という言葉と土下座。

 自分でも何でそんなことをしたのか不明です。

 ただただ必死だったのです。

 

 突然のことでオロオロする友理さんに追い打ちを掛けるかのよう、柚木家に来ていた明日奈さんが私の姿を見て素っ頓狂な声を上げ、その声を聞いたご近所さんたちが何事かと出てきて……と、初っ端で友理さんに迷惑を掛けてしまいました。

 しばらく家から出づらかったそうです。

 

 そこからも一言でまとめられない程いろいろとあり、無事に私は隣のアパートに引っ越すことができました。

 1番がんばったのは自己PRでしたね。

 最期は遠い目をした友理さんに「……うん、合格。合格でいいよ。だからこの辺で勘弁して」と言わせるぐらい熱弁しました。

 

「あと数日で友理さんの入学式ですか……」

 

 学園に入ると私に頼むことが多くなるという話なので、やる気が満ちます。

 非常に忙しい毎日が待っているそうです。

 

「……望むところですね」

 

「何が?」

 

「!? ゆ、友理さん!?」

 

 いつの間にか背後に友理さんが立っていました。

 全く気付かなかったです。短距離転移でしょうか?

 

(いつから聞かれてたのでしょうか?)

 

 何だか微笑ましいものを見るかのような目が逆に辛いです。

 先程の独り言から、おおよそ私が何を考えていたのか知ったのでしょう。

 すごく……恥ずかしい。

 

「お帰りなさい。ゆ、友人とは会えましたか」

 

「うん。明日奈が号泣したけど大丈夫」

 

「明日奈さんに一体何が……」

 

 明日奈さんが号泣する出来事とか大丈夫に思えません。

 

「……そんなに気張らなくてもいいんだよ?」

 

「そういうわけには、いきません」

 

 ここで頑張らねば、何のために友理さんのお世話になっているのか。

 異能だって、極めたのですよ? 潜入調査だってできます。

 

「ふふ、忍は本当にいい子だなぁ」

 

「ふあ……」

 

 友理さんが私の頭を優しく撫でてくれます。

 この撫で方が……とても好きなんです。

 

 

 だから、一緒にいたいんです。

 

 

「……忍」

 

「はい」

 

「これからも、よろしくね」

 

「はい!」

 

 




 やっと終わりました。次回はアルカです。

 原作の忍は訳が分からないまま救出されたので、心の傷が残ったままです。
 学園の理事長になるはずだった男も自分のこと優先で先に裏切ってます。自分を知る人間は口封じ。救出された中で1番便利そうだった忍ちゃんに目を付けて便利な拾い物扱い。
 このロリコンめ! 主人公の手により、現在は豚箱の中。

~おまけ~
・第35柱マルコシアス:悪魔マルコシアスの召喚(送還不可)。
・第38柱ハルファス:集団長距離転移。
・第72柱 ? ? ? : ???????????

 実は主人公、ソロモン最期の悪魔の力をこの話で使っていますが、詳細はあえて伏せます。
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