エロゲ世界にTS転生したので好き放題に暗躍した結果   作:影薄燕

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SS レイカの心

 

 

【side.氷道レイカ】

 

 

 

 ――自分の人生は毎回なぜ、こうも唐突に変わるのだろう?

 

 

 

「氷道さん、ハーフだけど日本に来るのは初めてってホント?」

 

「え、えぇ。数日前に」

 

「あの! 彼氏とか募集はしていませんか……!?」

 

「そういうのは、興味ないというか……」

 

「ロシアかぁ……本場のボルシチって美味しいのか?」

 

「少なくとも不味いと感じたことはないけど……」

 

「わあ! 髪がサラサラ! 何つけてるの? メーカーは?」

 

「特に何も……」

 

「『この豚野郎!』って罵ってください!!」

 

「こ、この豚野郎……?」

 

「ありがとうございまs――「何言わせてんの!!」――ぶぎょわ!?」

 

 

 さ、騒がしい……!

 これがジャパンのハイスクールなの!?

 こんな所で3年間も過ごさなければならないの!?

 

 と、ここで救いの手(?)が。

 

「待て待て、同胞たちよ。ここにいる氷道レイカは学園生活において、この我! 地獄の猟犬《ヘル・ハウンド》黒羽が世話をすることに決まってるのだ。……安心するがよいレイカちゃんよ。我に任せれば、3年間この巨城での生活は素晴らしき幸福《ヘブン》になることは間違いなしだ。豪華客船に乗ったつもりで存分に任せるがいい!!」

 

「まっっったく、信用できない! あと誰がレイカちゃんよ……!?」

 

 差し伸べられたのは払いたくなってしまう手の方だった。

 ネコの手の方が100倍マシね!

 

「昨日の敵は今日の友、それがこの国の文化! あと『レイカちゃん』呼びは決定事項でもある。全ては生徒会長の決定だ」

 

「イカれた文化ね……! そしてまたあの女か!?」

 

 あろうことか私の世話役? 監視役? に選ばれたのは、私が所属していた組織が狙っていた張本人であるクロバ・ルイだった。

 

 明らかに人選ミスだと思ってしまう。

 推薦した人物は相当空気が読めないに決まっている。

 というか昨日殺し合いをした女を相手して、何でここまでフレンドリーになれるのこの子は? 平和ボケどうこうで済む話じゃない。

 

 朝から拒否しているのに呼び名が『レイカちゃん』に決定してるし。これが教師に匹敵する権力を持つという生徒会長という存在の力なの!?

 異能の件といい、いつか下克上するべきかしら?

 

「まあまあ氷道さん落ち着いて。黒羽さん、見た目と性格はちょっと個性的だけど、決して悪い子ではないから」

 

「それは……知ってるわ」

 

 若草色の髪をした女が宥めてくる。

 

 先日の戦いはお互いの感情のぶつけ合いで決着がついた。

 会ってから僅かしか時間は経っていないが、クロバ・ルイが善人であることだけは理解しているの。

 

 

 ――だけど……

 

 

「その個性的な子が3年間、私の世話をすると聞かされて、かなり不安なのだけど? 大丈夫なの? そこのところ?」

 

 確か“中二病”という病気でこのようになったと聞いているけど……

 

「…………だ、大丈夫だよ。ね、ねぇ?」

 

「あ、あぁ。何も心配いらないさ」

 

 先の女と、隣にいた赤毛の女が表情筋を無理に変えたような笑顔で頷き合う。

 心配しかない!

 

「諦めが肝心だよー」

 

 髪を2つに分けた快活そうな女が何となしに言う。

 ほっといてちょうだい!

 

「氷道さん、いえ、レイカさん! 瑠維さんのことで困ったことがあればいつでもわたくしたちに相談してくださいね。24時間対応致します!」

 

 私と同じハーフだという金髪の女が潤んだ瞳で手を握ってくる。

 ほぼ毎日、困るということの裏返しか!?

 

「実際、困ったことがあれば何でも聞いて良いのよ? 詳しいことは知らないけど、アナタも友理に関わっている子なんでしょ? 少し騒々しい私の友達だけど、頼りがいではクラスで1番だから」

 

 委員長という役職のメガネの女が「ほら?」とばかりに視線を変える。

 

 その先には――

 

 

「離せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!! ボクはあのロザリオを破壊するんだあああああああああ!!」

 

「それ今までの努力を水の泡にする行為だから! 瑠維ちゃんが悲しんじゃうから! だから落ち着きなさいいいいいいいいいいいいいっ!!」

 

「どうしたんだ柚木さん!? さっきまで嬉しそうn――ごはっ!?」

 

「黙っとれ女の敵が!」

 

「兄貴!? ちょ、今のはさすがに理不尽が過ぎるんじゃないの!?」

 

 

 ――なぜかクロバ・ルイの元に眉をつり上げながら向かおうとする組織を壊滅させた影の功労者らしいオレンジ色の髪の女と、それを羽交い締めにして必死に押さえ込むサイドテールの女と、駆け寄ったところを腹部にケリを入れられて倒れる男が。

 

 

「……少し騒々しい? 頼りがいが、ある……?」

 

 どう控えめに見ても、クロバ・ルイ以上の問題児に見えるのだけど。

 あの女、確かクロバ・ルイを含んだ仲間内のリーダーよね? たぶん?

 さっきも目線で助けを求めたら、目が合ったのに助けてくれなかったのだけど?

 

「………………見なかったことにしてちょうだい」

 

「ちょっとぉおおおおお!?」

 

 それでいいの委員長!?

 「今日はちょっとメガネが曇るわね」って言って拭きだして……、話の逸らし方が露骨すぎるうえに下手くそ!

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「つ、疲れた」

 

「フフフ、良い場所だろう? この学園は」

 

「えぇそうね。10年以上の裏世界の常識が木っ端微塵よ。まだ半日しか経っていないのに、ここまで疲労するなんて、素晴らしい学び舎だわ」

 

「そうだろう。ここが我らの母校となるのだ」

 

「皮肉すら通じないのね。もう好きにしてよ……」

 

 朝の質問責め&騒動から解放され、ようやくお昼休みに突入できた。

 学園の案内役を意外にもマジメにこなすクロバ・ルイに連れられてやって来た学園食堂で、ようやく一息つくことができたわ。

 

 学食では無難にサンドイッチと飲み物を頼んだけど、疲れているせいか想像していたよりずっと美味しかった。

 

「美味いだろう? ここの学食は?」

 

「まあ、ね」

 

「ここで学食を作る者たちはな、我ら学生のことを愛しているのさ。元気に育ってほしいと。以前、友理が調理を担当している女性と楽しそうに話しているのを見て確信したよ。愛情が込められているから、ここの学食は美味いのだと」

 

 そう言って、クロバ・ルイはカレーを本当に美味しそうに頬張る。

 こちらにまでスパイスの香りが漂ってきて、お腹がすきそうになる。

 

「愛? 何でそれで美味しくなるの?」

 

「相手のことを思う気持ちが伝わるからさ。……我が友理から聞いたところによると、幼少期は普通に家族と暮らしていたのだろう? 母が作りし料理と、組織とやらに入ってから今の今まで食してきた食べ物。どちらが美味しいと言える?」

 

「そんなの……!」

 

 そんな、の……

 

 ………………

 

 

 

「……お母さんが作ってくれた料理が、世界一に決まってるじゃないの」

 

 

 

 お母さん……お父さん……

 

 組織に入ってからも、何度も思い出した。

 楽しかった家族との食事風景を。

 

 お母さんの作ってくれたものは何でも美味しかったのに。

 組織に入ってから食べたものは、まともに記憶に残っていない。

 

 今なら分かる。

 私は、両親のことを今でも愛していたと。

 

 今なら分かる。

 両親が、私のことを最後まで愛してくれていたと。

 

 

「そういう“心”が残っているから、友理も必死になったんだろうなぁ」

 

 気付けば、クロバ・ルイは食事の手を止め、正面に座っていた私の手に自分の手を重ねていた。

 その手は、とても温かった。

 

「友理は優しいけど、甘くはないんだよ。レイカちゃんの過去がどうあれ、本当に優しい心が残っていないなら、さっさと警察とかに全部委ねて悪い奴らをレイカちゃんごと捕まえる手段を作ることだってできたはずなんだ」

 

「それは……」

 

 考えなかった訳じゃない。

 先日のあの戦いから組織の壊滅まで、全てユズキ・ユウリという名の女の手のひらの上だったとしたら、もっとスムーズな手段があったんじゃないかと。

 

「友理は戦いの前からレイカちゃんのことを気にしていたよ。戦いのあとも『やっと普通の生活をさせられる』って喜んでいた」

 

 生徒会長の持つ異能『契約』の効果で私は半ば強引に学生にさせられたが、あれは私の行動を縛るのと同時に私のことを護っているはずだ。

 ユズキ・ユウリと生徒会長がどのように各方面と交渉したかは知り得ないが、苦労に見合う対価があったとは思えない。

 だから、私を学園に入れたのにも何か裏があるんじゃないかと疑ったりもしたけど……

 

(本当にただのお人好しなの?)

 

 あり得ない。そう、言いたいのに……

 

「友理は友理で考えがあったのかもしれないけど、結果としてレイカちゃんを救うことができるんなら、何でも良かったんだと思うよ?」

 

「私に、それだけの価値があるの?」

 

 

「大丈夫。レイカちゃんの手は汚れていない。キレイなままだよ。これからいくらだってやり直せる。お母さんの御飯が世界で1番って言える人なら、周りの人みんなが助けてくれるよ。友理も、明日奈も、もちろん私だって。一緒に学園生活送って、一緒に卒業しようよ」

 

 

 ………………

 

 ……あぁ、そうか。

 

 だから、私たち組織は負けたんだ。

 

 負けて当然じゃないの。

 

 

「バカばっかね。アナタたち」

 

「えへへ、良く言われるんだぁ」

 

 愛、か……

 

(私の心、思っていたよりも冷え切っていなかったのね)

 

 

 

 お母さん、お父さん。

 

 私のこと、愛してくれてありがとう。

 

 ずっと私の“心”にいてくれてありがとう。

 

 少し寄り道しちゃったけど、

 

 もう1度だけやり直してみるわ。

 

 だから、天国から応援してくれる?

 

 そしたら私、がんばることができるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、アナタって変な口調の時と優しい口調の時とあるけど……情緒不安定なの? 差が激しいから落ち着くと混乱するのよ」

 

「な!? 我は情緒不安定ではない!」

 

「恐ろしい病気ね。中二病って」

 

「話を聞かんか!?」

 

 




 当初の予定では教室での騒ぎをダイジェストに氷道レイカの過去を執筆する予定だったのですが、忍のSSの時と違ってあまりに救いようがないので急遽ボツに。


~おまけ~
 早朝、生徒会室にて……

友理( ・`ω・´)「レイカの学園での世話役、瑠維にしたいと思います!」

八千代( ・`ω・´)「その案……可決します!」

明日奈(;゜Д゜)「いろんな意味でダメでしょその人選!!」
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