魔王を倒したあとの勇者が王女様と一緒に男を異世界に召喚するまでの話。

関連:勇者と王女様に異世界召喚された男の話。
https://syosetu.org/novel/309100/1.html

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テイストが大きく異なるので分けました。


王女様と一緒に男を召喚する勇者の話。

 魔王を倒したからって、別に元の世界に帰れるわけじゃない。最初っから分かってたことだった。

 分かってなかったのは、元の世界に帰れないということは、この世界で生きていかなきゃいけないということ。めでたしめでたしで物語は終わっても、人生は終わらないということだった。

 

 魔王を倒せるということは、普通の人――貴族もここに含まれる――にとって脅威として受け取られる。物語でも確かにそうだった。まだ今は歓迎ムードだ。けど、これから先は?

 王族の人たちの名誉のために言っておくと、そういう話をされなかったわけじゃない。召喚前にもそうだし、出発前にも一通り。でも、特に出発してからなんて、そんなことを考えていられる余裕とか、あるわけなかった。

 他の世界から勇者を喚ばないといけないような時代。それこそ、今直面しているような問題が起こることを分かっていながら、それでもなお、喚ばないといけない時代。そこを、私みたいな女の子一人。

 ……最初は護衛やお供や案内で、人をつけてもらったんだけど、傷ついていくのを見るのが嫌で帰ってもらったから。

 

 ともかく、それでも魔王を倒すことはできたし、相討ちなんかにもならずにお城まで帰ってくることはできた。勇者の力さまさまだ。元の世界にいた頃の私にこんなことができたはずもない。

 そんな力がある相手を、放っておくのはいかにも怖い。私だって、同じ立場なら怖いと思う。だから、勇者は王国とともにある、と、そういうアピールが必要になってくるのだ、という。そこまでは、まあいいんだけど。

 

 こんな時代に、女の子だと分かると良からぬ気を起こす連中も居かねないから、と、ずっと性別を隠してきたので。貴族たちの間では、勇者は男だ、という認識になっていた。召喚した王族たちは知っていたけれど、こちらが隠していたものを勝手に明かすこともできず。ここでいきなり勇者は女の子でした、と言っても信じてもらえない……いや、力を見せつければ勇者だと納得してはもらえるんだろうけど、脅威として扱われないという目的からはズレてしまう。

 そこで、つまり、王国の貴族たちに、彼らが男性だと思っている勇者が、王国と共に歩むのだと納得してもらうには――王国の娘と結婚して土着する、というのが、よいというか。彼らはそのつもりで、自分の娘と娶せるべく策動しているので。それを抑えるには、……事情を知っている、王女様が、結婚した、という形にするしかないんじゃないか、ということらしかった。

 

 王女様はいい人だ。喚んだのが彼女たち王族だというのを考えに入れても、丁寧に懇切にいろいろ教えてくれたし、話もよく聞いてくれた。同性の私から見ても見目よく、間違いない。

 別に結婚という形式だけ整えて、ただの同居というなら、王女様のほうはともかく、別に私にとっては悪い話でもなかったかもしれない。自分が男性と素敵な恋愛をして家庭を、というのは想像の外だったから。

 

 子供ができないと、やっぱり貴族が娘を押し込んでくるんだ、という。半分ぐらい善意で。で、こっちでは女性同士でも子供作る方法あるんですか?と聞いてみたら、それはないらしい。勇者の力というのがなんとかしてくれるわけもなく、結局なんやかんや男性の精が要る、のだと。

 

 召喚を頼ろうということになったのは、まあ当然の成り行きと言えた。こちらに後ろ盾がなく、子供の容姿的な特徴とかがごまかしがきく存在を連れてこられるのは大きい。私も納得づくで喚ばれたわけで、忌避感とかは別になかった。

 王女様はそれでいいのだろうか、と聞くと、相手を選ぶ余地があるんだから、一国の王女としては自由なほうだし、不満はないの、と微笑んだ。

 

 

 この子を不幸せには、したくない。

 

 

 召喚の儀式をする側になって分かったことは、前準備が長いこと。接触する相手を選ぶために、魔術的に条件を決めて捜索、何人もの候補を用意して、その人たちの情報を集めて、誰にアプローチするかを決めて。そうしてやっと儀式に移るのだという。

 まかり間違っても、変なやつに王女様の身を預けられない。やることがやることなんだから、尚更。だから、私から幾つかの条件の提案と、候補のリストの確認と、そして情報収集への協力。最後の最後、誰がいいか王女様が決める前まで、しっかり関わることにした。

 私が召喚されたときは、どういった条件だったんだろう、なんて思いながら。王族の秘儀ということで、やっぱり全部両陛下や殿下方が決めたんだろうけど。

 

 それなりの人数が引っかかって、ああ、あっちの世界を離れてもいい人、けっこういるんだな、って思いながら。どの人がどういう人か、こっちから見える範囲でまとめていく。釣書みたいだな、なんて思いながら。

 そんなことをしているうちに、王女様が見るからに情報収集に力を入れてる相手が出てきた。よほど合わないところが見つかるとかでなければ、本命なんだと思う。大丈夫かどうか、私も精査する。

 王妃陛下の曰く、気に入ると誰にも言わないままああなるのよね、と。そして、あなたのときもあんな感じだったわ、とも。一緒に暮らせる話になって、喜んでいたとも言われて、心配してたことが少し解れる。

 

 それから、この人なら大丈夫そうだ、となって、王女様がはっきりとこの人に、と口にして、いよいよ交渉に移ろう、というとき。

 一緒に来てくれませんか、と王女様は言った。

 緊張して、言葉が出てこないかもしれないなら、と。

 

 そもそもが、私の立ち位置をアピールするための、だから私の問題なんだ。最初から、許されるならば一緒に行くつもりだった。そんな説明を長々するのもどうかと思い。

 

 

 うん、とひとつ応えて、彼女の手を取った。




どんなタグがいいのか手探り……


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