難聴系ぼっち   作:アザミマーン

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最近ぼっちちゃんに色んな設定生やすの流行ってるから便乗。


やっぱり出会う、カルマだから。

 

 

 窓から差し込む夕日は、最近になって如実に昼の時間が伸びたことを私に教えてくれる。

 

 時刻は午後5時半。

 部活に所属せず友達もいない私にとってこの時間は、先日までならば既に帰っている筈だった。しかし今日、いや最近は未だ学校に残っている。特に勉強しているわけではなく、図書室で本を読んでいるわけでもないのに。いや勉強はするべきだけど。

 

 では何故私が居残りすることになってしまったのか。その原因は今も目の前にいる。

 

『ごめんね、付き合わせちゃって…』

 

「あ、いやあの、だっ大丈夫…です…」

 

 ひと目見ただけでよく手入れされていることが分かる赤髪、漂う甘い良い香り。

 そしてナチュラルメイク? というやつにも関わらず、テレビに出るようなアイドルを軽く上回るほど可愛い顔。

 

 我らが秀華高校が誇る(らしい)超絶美少女、喜多さんだ。

 

 容姿端麗歌ウマ運動神経抜群(予想)陽キャな喜多さんと、コミュ障人見知りぼっちくそ雑魚陰キャの私、後藤ひとり。

 はっきり言って何もなければお互い一生関わらない人種だ。私もこうなるまでは自分が喜多さんという陽キャ代表みたいな人と関わるとは思っていなかった。

 

 ではそんな正反対の2人が、こんな時間に音楽準備室という人気のない場所で何をしているのか。

 

『難しいわね…上手く弦が抑えられない〜』

 

(私もあんなだったなぁ…)

 

 私が喜多さんにギターを教えているのだ。

 

 いや改めて状況を整理してもやっぱり意味不明だけど…

 

 

 どうしてこうなってしまったのか、その理由を説明するには少し時を遡らなければならない。

 

 

 ──────────────────

 4月頭のこと。

 

 高校の入学式、私はギターを持って登校していた。

 

 いや誤解しないで欲しいんだけどこれは決して高校では今度こそバンドを組みたいからギターを持っていったら誰か話しかけてくれないかとかバンド女子感をアピールしたかったからとかそんな不純な意味はなくてただギターがないと私の精神が耐えられないというのとどうしようもない時のための実用的(・・・)な意味も兼ねているというのがあってだからその

 

 って、誰に言い訳してるんだろう。そういうところが陰キャなんだよ…

 

 そしてごめんなさい。普通に不純な動機もありました。あわよくば誰か1人くらい話しかけてくれないかなと…

 

 そんな私の目論見は、ある意味で成功した。

 音楽系の雑誌を読んでいると、誰かが席の横に立った気配がする。

 顔を上げると、横の席に座る女の子が私の読む雑誌を指差していた。

 

「あ、な、なんでしょうか…」

 

『その表紙に写ってるの、〇〇だよね? 私も好きなんだ』

 

「!! あっそっ、そそそうですね!」

 

 話しかけてくれた!!! 

 やったよ私! 中学校のときからは考えられない大躍進だ! よ、よし、ここから話を広げて友達を…

 

 そう思ったのだが、人と話すのが久しぶりすぎて続く声が出てこない。

 そして、そんなことをやっている内に、いつの間にか周囲を囲まれていたことに気づいた。

 

「え」

『後藤さんギターやってるの?』

『もしかしてバンド組んでたりする?』

『いいなーちょっと演奏してみてほしいかも!』

『○×△、×□○!』

『〜〜〜〜!!』

『……? ……!』

『〜、〜〜?!』

 

あっ、あのっ、ちょっ、まっ…

 

 ヤバい! そんなに一気に話しかけられても対応できない! な、何か返さなくちゃ…あ、待って意識が…

 

 

「知らない天井だ…」

 

 気づいたら私はベッドに寝ていた。

 私が起きたことを察してこっちに来た先生に教えて貰ったところ、どうやら私はあの場で気絶し、ここ保健室に運ばれてきたらしい。

 

(ああ…終わった…)

 

 こうして私は公衆の面前で突然気絶するヤベーやつとしてクラスメイトに認識され、次の日から遠目で見られるだけの存在と成り果てた。

 午前中で終わる入学式の日なのに1人学校で午後まで過ごしていた私は、足取りも重く2時間かけて来た道を再び2時間かけて帰るのだった。

 

 

『ギター…?』

 

 

 

 

 翌日以降も、一縷の望みを持ってギターを引っ提げて登校するが、今度こそ誰にも話しかけて貰えなくなってしまった。

 かと言って自分から話しかける勇気はコミュ障には無いのです…

 

 入学してから1週間ほど経ったある日のことだった。

 

(学校辞めたい…)

 

 入学したばかりだというのに既にメンタルが崩壊しかけている始末。

 

 しかし学校を辞めたところでなんのビジョンも見えないため高校中退に踏み切ることもできない。

 毎日毎日、口を動かして何事かを言う先生の授業を必死にノートに取り、でも内容を理解するところまでは行けず。

 

 その日も午前中の授業が終わり、階段下の謎スペースでお弁当を食べていた。

 

「ここは落ち着くなぁ」

 

 いつもギターを弾いている押入れの中の環境と似ている場所を学校でも見つけられたことは僥倖だった。上の階段もあまり人通りが多くなく、私みたいなコミュ障陰キャにはピッタリの場所だ。…自分で悲しくなってくるけど。

 

「…誰もいないよね」

 

 キョロキョロと周囲を確認し、良し誰もいない。

 傍に立てかけていたギターケースを開け、黒いギターを取り出す。父から借りているもので少し古いが、そのラックや錆びが愛嬌のように見えて私は好きだった。

 

「…」

 

 ギターを持ち、集中する。

 無音(くらやみ)だった世界に、段々と(いろ)が流れ込んでくる。

 

 ああ、この瞬間は好きだ。

 

 こう(・・)なってしまったときは、一体これからどうなるのだろうとも思ったけど。

 

 全身が鋭敏になるような、世界の流れが遅くなるような、そんな感覚。

 

 これを知ることができたならば、その甲斐もあるのだろうか。

 

 

 

 

 

 私、後藤ひとりは耳が聞こえない。

 

 

 

 

 

 難聴というやつだ。

 昔からストレスに弱く、突発性難聴は何度も起こしてきた。しかし中学のある事件以降、ついに全く聞こえなくなってしまったのだ。心因性のものらしく、治る可能性はあると医者には言われたが。

 

 ただこの難聴、実は条件付きのものだ。普段は全く音が聞こえないけど、ギターを弾いているときや、弾く直前の集中した状態になると音が聞こえるようになる。

 ギターが心の拠り所となっているかららしい。なので、心の拠り所が増えれば治る可能性も上がると言われた、けど。

 

「ネットだけが友達…」

 

 こうして現実に打ちひしがれるたびに動画サイトで【guitarhero】として活動する回数が増えていく…私にはもう現実で花開く可能性は残っていないというのか。

 ヤバい、このままではメンタルが死んでしまう。暗い気持ちを曲に込めて吐き出してしまおう…

 

「聞いてください、【陰キャの人生ベリーハード階段下の謎スペース弾き語りver】」

 

 

 

「うぅ…」

 

 暗い気持ちを吐き出したはずなのに涙出てきた…でもその甲斐あってか何だか気分が少し良くなった気がする。

 ギターもいつもより音がノッてたし。たまにあるんだよね、こういう日。ゾーンってやつなのかな? 今日は押入れじゃないところで弾いたからかな。

 薄暗く狭いという環境自体はそこまで変わらないはずなのに途中からものすごく甘い良い匂いしたし…

 

 もう昼休みも終わるだろうし教室に戻ろう。ここで憂鬱な気分を一度吐き出せたのは大きい。午後の授業もこれで頑張れるかも。

 集中が解け、また音が潜んでゆく。勿体無いような寂しいような、でもこの感覚も嫌いじゃない。また夜に弾くからそのときまでお預けだ…

 

「わぁ、すごーい!!」

 

「ぴぎゃああああああああ!!!!???」

 

 なになになになに?!?! 

 なんか音が聞こえなくなる直前に後ろから声がしたんですけどおおお?! 

 え? 何? 幽霊?! というか何で後ろから??? 

 私物置を背にして弾いてたよねぇ?! 

 

『2組の後藤さんよね?私は5組の喜多っていうの!』

 

あっ、ぇ、ぁの…その。ぁぅ…

 

 恐る恐る振り向くと、そこには陽キャを体現したかのような女の子がしゃがんでこっちを見ていた。か、可愛い! って、違う違うそうじゃなくて。

 一体いつからそこに…

 

『私? 後藤さんが弾き始めてから少ししてからだと思うわ、ギターの音がしたからこっちに来たんだし』

 

 喋ってないのに察された?! 

 というか、私の名前覚えてくれてる。この子は良い子だ…

 

『ギター弾けるのね! 凄い! 何か感動しちゃった!』

 

「あ、えへへ」

 

 しかも褒めてくれる。絶対いい子だ…

 聞こえないけれど口元を見れば読める。昔から突然耳が聞こえなくなることが多かったから、読唇術だけはかなりできるようになった。密かな特技である。披露する機会は殆どないけど…しかも2人以上の人の会話を同時に見ることはできないし、こっち向いてないと何言ってるか分からないし、ずっと口元を見なきゃいけないから目を見て話すなんてできないし…使い勝手の悪い技術である。まぁそもそも目を見て話すなんてできないけど…

 

『後藤さん?』

 

あっ、すみませんすみません聞いてませんでした!?

 

 つい1人の世界に入ってしまった、ドン引きされてないかな…

 

『怒ってないよ! それでね、私憧れの先輩がバンドのギターボーカルを募集してるのを知って、この前つい勢いで応募しちゃったの!』

 

(こ、行動力が凄い)

 

『歌にはそこそこ自信があるんだけど…実は私、ギター全く分からないのよね。こっちジャンジャンするだけじゃないのね。ちょっと調べてはみたんだけど…メジャーコード? マイナー? 野球の話?』

 

(分からないの次元が違う)

 

 どうやら引かれてはいないようだった。

 そこから話を聞くと、喜多さんはギターを弾けないことをバンド仲間に明かしていないらしい。ギター弾けないのにギターボーカル応募すぎるの度胸強すぎでしょ…

 このままではライブどころか音合わせすらできないため、どうにかギターを弾けるようになりたいとのこと。行動力が凄いだけじゃ解決できないこともあるんだなぁ。

 

『後藤さんはどこでギター習ったの?』

 

「あ、私は殆ど独学で」

 

 そう話すと喜多さんは目を輝かせる。うおっ眩しっ! キターン!!という効果音がどこからか聞こえてくる。おかしいな、何も聞こえないはずなんだけど…

 

『えー凄ーい! 独学じゃ限界があると思ってたのにこんなところに先駆者が…。そうだ! ねぇ、後藤さん良かったらなんだけど…』

 

 喜多さんは両手を顔の前で合わせ、私に向かって頭を下げてきた。

 

『〜?! 〜〜!』

 

「(口元が見えないから何言ってるか分からない…!)あ、えと、その」

 

『他に頼れる人もいないの! お願い、私にギター教えて下さい!』

 

(あ、そういう話…いやいや無理無理無理! 人に教えられるほど上手くないと思うし、何よりコミュ障陰キャがコミュ強陽キャにギター教えるなんてハードル高すぎ?!)

 

『……』

 

 喜多さんは目を輝かせながらこっちを見てくる。ヤバい眩しい! 顔を見れない! 

 

 キターン!!

 

「うっ…目がっ」

 

『放課後とか後藤さんが都合のつくときだけでいいから!!』

 

あぁ、あう、分かりました…

 

『本当? ありがとう!!!』

 

 キタキターン!!

 

ヤバい死ぬ…

 

 くそぅ…真のコミュ障は断ることすらできない…

 というか教える以前に私は喜多さんの光に浄化されてそのまま消えるんじゃなかろうか。

 

『後藤さん、今日は空いてる?』

 

「あ、空いてます…」

 

『本当? ならギターを一緒に選んでほしいの! どれがいいかとか分からなくて!』

 

ひいいいいいいヤバいヤバいこの人ぐいぐい来る止まらない!!

 

『あ、お昼休み終わっちゃうわね! じゃあ放課後迎えにいくから!』

 

「あ、ちょ!」

 

 教室に戻ろうとする喜多さんをギリギリで呼び止める。見逃せない発言があったからだ。

 

(え、待て待て喜多さんみたいな人気者(推定)に教室に来られたら…)

 

 

 [え、なんで後藤さんみたいなコミュ障陰キャのミジンコが喜多ちゃんみたいな美少女と?]

 [もしかしたら喜多ちゃん脅されてるのかも?!]

 [私たちで喜多ちゃんを守ろう! 後藤は排除だ!]

 [後藤を消せ! 後藤を消せ!]

 

 

『後藤さん、作画崩壊してない?!』

 

「(絶対こうなる〜)あ、あの喜多さん、わ、わざわざ教室、まで来なくても大丈夫ですので、裏門前で待ち合わせとかにしませんか…」

 

『じゃあそうしましょう! あ、後藤さんLOINEやってる? 友達登録しましょ!』

 

 そして喜多さんは流れるように私のスマホを操りLOINEの友達登録を済ませていった。何という早業、私には見えなかった…

 

『じゃあ後藤さんまた放課後ね!』

 

「あ…はぃ…」

 

 言うや否や喜多さんは階段を駆け登って自分の教室まで帰っていった。

 

「嵐、いや流星のような人だった…これからあの子にギター教えるのか…教えられるの? 私…耳も聞こえないのに?」

 

 吐きそう。プレッシャーで。

 

 こうしてその日に喜多さんと一緒にギターを買いに行き、翌日から毎日練習することになってしまったのだ…

 

 

 

『後藤さん、これとかどう? 良くない?』

 

「あ、その、喜多さん、それ多弦ベースです、ギターじゃないです」

 

え?

 

 なお、ギターは無事買えた。

 

 

 

 

 あれからもう3週間経った。

 

 今日も今日とて喜多さんのギター練習を見ている。私は喜多さんが弾く手元を見て音を想像し、ぎこちないところやミスがあったところを指摘する。幸い私もギター始めたての頃はミスばっかりしてたし、初心者の喜多さんも同じようなところで手間取っているので教えられることは多い。

 

 あと、教えているけど結構私が学ぶことも多い。特に、他の人と音を合わせるのが難しいことを知れたのは良かった。…バンドを組んでからこれに気づいてたら、絶対「ド下手ですみません…」とか言いながら切腹する羽目になっていた。

ギター教えるとか言いつつ合わせるの下手ですみません喜多さん…少しは手本になっていると信じたい。

 

 ただ、私の教え方はともかく、本人のモチベーションが高いせいか上達がとても早い。ついこの前は持ち方すら覚束なかったのに、今はなんとなく弦を弾くのが様になってきている。教えている私としても鼻が高いというものだ。いや100%喜多さんの素質だと思うけど…

 

 しかし、問題が一つ。

 こうして喜多さんがどんどん上達していく中、私は未だに喜多さんに耳が聞こえないことを話せていない。本当はもっと早くに白状して教えるのを辞めようと思っていたんだけど…いやあの、頼られるのが思ったより心地よかったんです…。

 喜多さん凄く褒めてくれるし、承認欲求も満たされるし。

 

 でも耳が聞こえないなんて言ったら…

 

 [後藤さん耳が聞こえなかったの? そんな人が自慢げに私に教えてたなんて…許せない! 私の広くて深い人脈を駆使してこれからの高校生活を全力で台無しにしてあげるわ!キターン

 

 ってなるかも…中指立ててるロックな喜多さんの幻覚が見える…

 そうならなくても、喜多さんは優しいから私に遠慮して他の人を探しにいくかもしれない。うん、喜多さんならこっちの方が可能性が高そう。

 ごめんなさい喜多さん、貴女がキラキラした目で見ている私は、貴女で承認欲求を満たしている最低なギタリストです…

 どうかこれからも気づかないで…そして私の承認欲求を満たして下さい…

 

『〜』

 

「あっ、ど、どうかしましたか…」

 

 そんなことを考えてたら、喜多さんが浮かない顔で口に手を当てて悩んでいる。今日は初めて曲を通しで出来たのに、何かあったのだろうか。

 

『〜〜? 〜…』

 

「…?」

 

 その状態のまま何事か話しているようだが、読唇できないと何も分からない! ギターを教えている最中ではあるけど、別に私が集中して弾いている訳ではないから耳は聞こえないままだ。

 

『〜? 〜?』

 

(ヤバい何か話さなきゃ?!)

 

 ついにこちらを訝しむような表情になってしまった! 何か答えなきゃ何か答えなきゃ何か答えなきゃ…

 

『後藤さん、大丈夫? 聞いてた?』

 

「あああすすすすみませんすみません私は耳が聞こえないんですううう聞いてませんでしたあああああ!!」

 

 あ。

 

 いいい勢い余って本当のことを言ってしまったああああ!!! 

 ヤバいヤバい何とか誤魔化さないと!? でもそんな急に言い訳なんて出てこない! 

 

「ああいやちがくてこれはそのアレですあの」

 

『あはは、何を言うかと思えば、後藤さんって冗談も面白いのね!』

 

「…へ?」

 

『こんなに流暢に話してるし、会話も成立してるじゃない! そんなこと言われても信じられないわ?』

 

「…あ、そそそうですそうです! ううう嘘です嘘! や、やだなー本気にしししないで下さいよよよ??」

 

『分かってるわよ! それでね、さっき言ったことなんだけど、私バンドではギターボーカルを任される予定なの。今日は確かに初めて通しで弾けたけど、よく考えたら私はこれに加えて歌も歌わなきゃいけない訳じゃない? ギターを弾くのに必死になってるのに、歌も歌うなんて出来るのかなって…』

 

「あー…」

 

 よ、良かった誤魔化されてくれた。ふぅ〜…

 

 でも…信じて貰えなかったのは少し、悲しいかもなんて。

 

 いやいやそうではなく、今は喜多さんの悩みに応えなければ。

 でも私も歌いながらギター弾いたことなんてないしなぁ。クソみたいなオリジナル曲弾いてるとき以外は。

 

「そ、そうですね…あっ、ライブは来週でしたっけ?」

 

『そう。だからそれまでに何とか形にしたいんだけど…』

 

「うーん…」

 

 来週までにギターと歌を同時に出来るようになる…いや無理だ、少なくとも私なら挑戦しようとも思わない。それをやろうとしている時点でやっぱり喜多さんは凄いと思う。

 でも今回は流石に無謀な気がする…

 

「喜多さん、い、幾らなんでも無謀な気が…。バンドの方に話して、今回は…インストバンドとして参加したらどうですか…?」

 

『インストバンドって、歌わないバンドのことだっけ? 確かに、下手に歌を入れて大失敗するよりはそっちのほうがマシなのかも…』

 

「き、喜多さんもここ最近は上達が凄いですし…今回は、ギターだけでも…」

 

 実際、歌なしならば喜多さんは今回バンドでやる曲を弾き切る実力が既にある。確かにそんなに難しくはない曲ばかりだし、それしか練習していない。それでもギターを始めて1ヶ月も経っていないのにここまでの力をつけたことは素直に尊敬できる。凄い。

 

『…そうね、一回相談してみようかしら。そのときに、私があんまりギター弾けないことも正直に言おうかな…』

 

(ウソを正面からちゃんと謝れる…コミュ障にはできない…)

 

『よし、そうしましょう! あ、後藤さん。方針も決めたことだし、ちょっと休憩したいのだけど…』

 

「も、勿論いいですよしましょう休憩」

 

『その前に、また後藤さんのお手本見せてくれない? 完成形を見て修正しておきたいの』

 

「え、ええ…?」

 

『お願い!』

 

 キターン! 

 

「あうぅ…」

 

 人前で弾くの緊張するぅ…でも聞くのは喜多さんだけだし、前にもやったし…何よりかわいい生徒のためだ、一肌脱げ後藤ひとり! かっこいいとこを見せるんだ!! 妄想では何度もアリーナライブしてきただろ?! あああでも心臓ががが…

 

「わ…分かりました…」

 

『ありがとう! 私後藤さんのギター大好きなの! かっこいいし、何か惹かれるっていうか!』

 

うぇ、うぇへへへへ

 

 もっと褒めて〜

 

 ────────────────

 

「じゃ、じゃあやります…」

 

 後藤さんが遠慮がちにギターを構える。相変わらず顔は青ざめ視線は下を向き、お世辞にもギターが得意そうには見えない。でも、後藤さんのギターがとても上手で、心に響くメロディーを奏でることを私は知っている。

 

 後藤さんにギターを教わり始めてから3週間ほど経った。強引なお願いだったにも関わらずこうして親身に教えてくれてとても感謝している。私が練習で詰まるたび、吃りながらも的確な指摘で助けてくれた。「私もそこで躓いたので…」と言っていたけれど、そのおかげか指導も実感が篭ったもので分かりやすい。

 

 まだ後藤さんと友達になってからそう時間は経っていないけれど、かなり独特で、それでいて面白い子だ。禁句があるようでそれに触れると顔面崩壊したり自分の世界に引きこもってしまうが、個人的にはそれも魅力の一つだと思う。

 さっきのように耳が聞こえないなんて斜め上の言い訳をしたりはするが、基本的には真面目な良い子だ。特にギターに対する姿勢はとても誠実で尊敬している。

 

 後藤さんが目を瞑り集中し始めた。これが彼女が音を奏でる合図。次に目を開けたときには、自信なさげな普段の彼女を忘れさせるような姿になっている。

 

 借りてきた猫のようだった後藤さんの纏う空気が一変する。世界が後藤さんを中心に変わってしまったかと錯覚してしまう。

 

 目を細く開け、その視線は自らの手元を注視。

 力強く、それでいて丁寧なストローク。

 彼女が独学だと言っていた通り、以前に私が手本にしていた動画と比べるとかなり癖のある弾き方だと思う。しかし、それすらも魅力となってその音を引き立てる。

 

 ギターの音に乗り、後藤さんの体も自然と動く。姿勢は猫背のままだ。

 でも、目つきは鋭く、まるで獰猛な虎のような雰囲気。視線を逸らせばそのまま食い殺されてしまいそう。

 

 音の暴力が私の心を突き抜ける。どこか恐ろしく、それでいて別の感情を抱かせる。

 

(ぞくぞくする…!)

 

 体が震えてくる。寒いんじゃない、これは興奮してるんだ…! こんな凄い子に教えてもらっているんだと考えると、時間を使って貰って申し訳ないと思うと同時に、なんだか優越感を感じる。

 

 曲が終盤を迎えた。ああ、もう終わってしまう。まだ行かないで…

 

 少しの余韻を残して演奏が終わる。それを機に、後藤さんの雰囲気も元に戻った。少し残念かも。

 

「あ、終わりです…」

 

「…」

 

「あの…?」

 

「っごめんなさい! 凄く良くて…。ちょっと余韻に浸ってた」

 

「え?! そ、そうですか…えへへ」

 

 素直に感想を言うと、後藤さんが限界まで表情を緩め、くねくねと体を捻る。原型を無くしかけているがそれも愛嬌だろう。

 

 後藤さんは凄い。でも、後藤さんは私といるとき以外、いつも一人だ。誰もその凄さを知らない。

 どうして? と思う。

 勿体無いとも思う。

 私には後藤さんがこんなに輝いて見えるのに。

 他の人にも、後藤さんの凄さを知ってもらいたい。この気持ちを共有したい。

 何か方法は無いのかな…

 

 

 

 

 

 次の日、伊地知先輩の音合わせの誘いに、初めて参加した。そこで、本当はギターを弾けないのにバンドに参加してしまったことを正直に告白した。

 

「ごめんなさい…」

 

「あーだからこれまで頑なに練習の誘いを断ってた訳ねー。納得したよー」

 

「正直に話せたのは偉い」

 

 リョウ先輩…優しい! 素敵! やっぱりリョウ先輩最高!! 

 

「先輩…許してくれるんですか?」

 

「まぁ気づかなかったあたしたちにも問題あるしね。でもそっかー、喜多ちゃんギターできないのかー」

 

「ギター覚えるまではボーカルだけやって貰うとしても、新しいギターを探さないといけない」

 

 伊地知先輩がフォローしてくれる。ただ、私の言い方が悪かったせいで2人とも私がまだギターをできないと勘違いしてしまった。補足しないと。

 

「あ、でも今は教わりながら練習したので、今回ライブでやる曲のギターはできます!でも、歌と同時にやるのはまだ無理なので、今回のライブはインストバンドとしての参加にできないか相談しようと思って」

 

 そう言うと2人は驚いた顔をする。うん、私も3週間前の自分に言ったら絶対信じないと思う。

 

「え、バンドの募集に手を上げてくれたのってまだ1ヶ月も経ってないよね? それなのにそこまでギター弾けるようになっただなんて…凄く頑張ったんだね!」

 

「本当に凄い。それなら、一回音合わせしてみようか」

 

 そんなわけで一度通しで弾いてみることになり、先輩たちと演奏する。しかし、いつも後藤さんと2人きりで練習してるときとは違い、リズムも音も気を使うことが多く、たくさんミスしてしまった。

 

「す、すみません。ミスしてばかりで…」

 

「いやーしょうがないよ。初めて音合わせした訳だしね。あたしもそんな上手いわけじゃないし!」

 

「いえ、そんな…」

 

「私は上手い」

 

「はいっ! リョウ先輩はとっても上手で素敵です!!」

 

「あれーなんか疎外感。反応違いすぎない?」

 

 リョウ先輩が上手いだなんて太陽が東から登って西に沈むくらい当たり前なことじゃないですか? 

 ジト目でこちらを見ていた伊地知先輩が表情を明るいものに戻して私を褒めてくれる。

 

「でも喜多ちゃん、思ってたより全然ギター弾けるじゃん。始めて3週間でこれは凄いよ! そういえば教えて貰ったって言ってたけど、誰に教わってるの?」

 

「もしかして、売れない下北系イケメンバンドマンに…?」

 

 リョウ先輩がよろしくない方向に勘違いしてる?! 大丈夫です! 私はリョウ先輩一筋です!!! 

 

「違いますよ! 同級生の女の子です!!」

 

「え、そうなんだ。高一で初心者にギター教えられるくらいギターできるなんて珍しいねー。運が良かったね喜多ちゃん、身近にそんな人がいてさ」

 

 伊地知先輩の言葉に内心同意する。私は本当に運が良かった。あの日後藤さんを見つけていられなかったら、私はきっと今でもろくにギターなんて弾けず挫折して、バンドから逃げていたかもしれない。

 本当に、後藤さんにはお世話になってばかりだ。何かお返ししたいな。

 

「はい、それは本当にそう思います」

 

「その子もバンドやってるの?」

 

「いえ、後藤さん…後藤ひとりさんというのですが、バンドには入っていないと聞いています。組みたいとは言っているのですが…」

 

 後藤さん…寂しそうにしてたな。

 その私の呟きに、伊地知先輩が指を立てて「閃いた!」という表情をする。

 

「それならその子もバンド誘ってみようよ! ギターボーカルを喜多ちゃんに担当して貰うにしても、リードギターも欲しいしね!」

 

「3週間で初心者をここまで育て上げたその手腕、見てみたい」

 

「どうかな、喜多ちゃん?」

 

「そっ…」

 

「そ?」

 

「その手があったか!!!」

 

 キターン!!!!!

 

「うわ声でかっ!しかも眩しっ」

 

 自分がバンドに対して負い目があったから気づかなかったけど、そうよ! 後藤さんもこのバンドに誘えばいいじゃない! 

 

「早速明日誘ってみます!」

 

「うんうん、よろしく頼んだよ」

 

「待ってる」

 

「はい! 楽しみにしてて下さい!!」

 

 待っててね後藤さん! 

 一緒にバンド、やろう!! 

 

 




(例の全方位中指見てたら思いついた一発ネタなので続きは考えて)ないです。

追記
なんか帰ってきたら物凄い評価になっていたので続きを考えてみます…
ただ本当に何も考えてなかったのでかなり遅くなると思います。期待しないで待ってて
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