てかぼっちちゃん視点難しすぎません?
これを制御しているはまじ先生はホンマすごいんやなって…
肝心な時にしか役に立たない女って評価好き。
『昨日はごめんなさい後藤さん、急に帰っちゃって…』
「あ、いや大丈夫、です…」
バンドで顔合わせを終えた翌日。
昼食を食べてから音楽準備室に向かうと、今日は珍しく喜多さんのほうが先に来ていた。
そして挨拶もそこそこに謝罪の一言。LOINEでも謝ってたし、そんなに気にしなくて良いのにな。それに、き、昨日は何とかなったし…えへ
話を聞くと、どうやら喜多さんのお父さんに呼ばれたとのこと。喜多さんがギターを始めたので、その勉強にもなるからと有名なバンドのライブチケットを買ったのだそうだ。
そこまでは良いのだが、問題はそれを喜多さんに伝えていなかったらしい。ライブは昨日の夜で、当日に突然伝えられた喜多さんは予定を変更せざるを得なかった。
『もう! 前もって言ってくれれば予定を空けたのに…』
「ま、まぁ過ぎたことですし、そ、そんなに怒らなくても…あ、バ、バンドのライブはどうでしたか?」
『それは凄く良かったわ! 正直レベルが違いすぎて参考にはならなかったけど、最近ギターの練習ばかりしてたから息抜きにはなったわ。ギターも凄く良い音してた〜』
「それは、良かったですね。れ、レベルが高い演奏を聞けば、目指すところもはっきりしますしね」
喜多さんのレベルアップに繋がるなら、私が置いてきぼりになった甲斐もあったというものだ。
しかしバンドのライブか…生演奏だと私は聞こえないからなぁ。
録画とかなら一人で押入れに篭ってギター抱えてれば聞けるけど、ライブ会場でギター鳴らすわけにもいかないし…
『そうね! 後藤さんの演奏をいつも聞いてる身で贅沢かもだけど…』
「わ、私なんか全然!」
『そんなことないわよ! 後藤さんのギターは本当に凄いんだから!!』
「えへへえへぇ」
あ、とけるう…
『バンドでも頑張りましょうねっ!』
「あっ」
はっ、溶けてる場合じゃない。
思い出せ後藤ひとり、昨日の無様な演奏を…虹夏ちゃんとリョウさんとの音合わせを。音が聞こえなくてボロボロだったセッションを!
今日は全員で合わせる予定だし、そのときに上手く合わせられないのがバレたら失望、もしかしたら音が聞こえていないことまで知られてしまうかもしれない。
それだけは絶対に避けなきゃ。難聴だなんて知られたらバンドに居られなくなるだろうし…
よし、今のうちに喜多さんに言うんだ。合わせるのが下手すぎて喜多さんが思うような演奏をバンドではできないんだって…いや合わせるのは多分難聴関係なく下手だから嘘ではないんだけど…
とにかく、こう言えば上手く合わせられないのは音が聞こえないせいとは思われないはず。
でもそれは別の問題を発生させるんだよね…喜多さんに失望されかねないという…
うぅ、こんなキラキラした目で見てくれる生徒を失いたくないぃぃ…もっと先生ヅラしてたい…
でもでも、それで見栄張ってバンドを組めなくなる、さらには唯一の友達を失うなんてことになったら本末転倒だ。
だから言え、言うんだ…今しかないんだ…
『!!!』
キターン!!
(ヴッ!! 期待の視線!!)
やっぱりもうちょっとだけ言うの遅らせても…ダメだダメだ! 考え直せ! どうせ数時間後にはバレることなんだ!! その暴れる承認欲求モンスターを心に鎮めるんだ…!
「き、喜多さん、あの…」
『なに、後藤さん?』
キターン!
「ア゛ァ゛ッ…じ、実は私………あ、合わせるの下手なんです! だ、だからその! き、喜多さんがそ、想像してるような演奏はバンドでは出来ないんです…。き、昨日もバンドメンバーの方と音合わせしたんですけど、リズムを揃えるだけで精一杯で…」
い、言えた! よく言えたぞひとり!
あ、後は失望の目で見られませんように…神様お願いします…!
『なんだ、そんなこと? 知ってるわよ!』
「エ?」
『だって後藤さん、私に教えてる時も1人で演奏する時とは全然違うじゃない!』
「あ、そうですね…」
良かった…良かった? これって最初から合わせの技術には期待されてなかったってことでは…
そ、そうだよね…私みたいなコミュ障の音合わせが下手くそなんてそんなの合わせる前から察せるよね…ま、まぁ失望されてなかったから良しとしよう…さよなら虚像の中の自分…
『後藤さーん』
「ンはッ?!」
『戻ってきたわね! じゃあ今日も練習しましょう! ライブのためにも、ね?』
「あっ、はい。そうですね…」
き、気を取り直そう…これ以上この話題について考え込んでいたら負の思考のループに飲み込まれてしまう。
そういえば、虹夏ちゃんが今日には私の分のスコアを用意してくれるって言ってたな…それなら、明日からの練習はそっちのスコアを弾いたほうが本番のライブに近い練習になるかな?
「あ、そ、そうだ。き、喜多さん、実は今日、虹夏ちゃんに私のパートのスコアを貰えることになっていまして…」
『…虹夏ちゃん…?』
「な、何か…?」
『ううん、何でもないわ! 続けて?』
「あ、ハイ。ま、まあ喜多さんも自分のパートはもう通して弾ける、くらいには上達してきましたし、明日からは私は自分のパートを弾いて喜多さんに合わせる感じにしようかなと…」
『あ、そっか。同じスコアを弾くわけじゃないものね。…良いんじゃないかしら? 後藤さんにも自分の練習が必要だろうし!』
喜多さんの言う通り、私自身の練習にもなる。ライブまでそう時間はない、何とかみんなと合わせられるようにしないと!
『…もうちょい頑張ろっか』
「ふぐぅッ…!!」
合わせられるように…しないと…
『すみません…』
『とりあえずはドラムとベースのリズムに合わせるところからかなー。ひとりちゃんは段々合って来てはいるんだけど、体感ワンテンポ…いや0.3テンポくらい遅いかな?』
「頑張りましゅ…」
放課後。
4人で集まって初の練習なのだが、早々うまく行くはずもなく。
やはりというか、聞こえない私は虹夏ちゃんのドラムを見て合わせているので若干の遅れが出てしまう。
そしてドラムに遅れるということは、それと合わせるリョウさんのベースにも遅れてしまうということで…うう、聞こえないことが露骨にハンデになっている…
目を見て呼吸を合わせればいい? そんなことコミュ障にできるわけない。ただでさえ昨日初めて会った人たちだと言うのに…。それに、そんなことができてるならとっくに自分のバンドメンバー集めてる…
『喜多ちゃんは…ひとりちゃんには合ってるんだけどね』
『うっ…普段から後藤さんと2人きりで練習してるので…』
そして、喜多さんは私のギターに合わせている節があり、私がズレている分、リズム隊からはさらに遅れてしまう。不甲斐なくてすいません…
『ギターはリズム隊に合わせて欲しいかな。今からその癖をつけないと今後直すのが難しくなっちゃうからね』
『努力します…』
『大丈夫。1ヶ月弱でここまで弾けるようになったならすぐに出来る』
『絶対出来るようになります!!!』
『テンションの差おかしくない?』
今更だけど、喜多さんの憧れの先輩というのはリョウさんだったようだ。確かに、リョウさんは顔が良いしベースを持っている姿がとても様になる。憧れてもおかしくない。
それはともかく。
直近の私の目標は、虹夏ちゃんのドラムに遅れずに音を取れるようになること。
幸い、段々と虹夏ちゃんのドラムの叩き方の癖を掴めてきている。癖を完全に掴めれば、遅れも無くなるし万が一途中でズレても修正しやすくなる。
ライブまで後4日、グダグダにならないように頑張らないと…!!
『そういえばライブでなんて紹介すれば良い? ひとりちゃん。本名でいい?』
「あ、いや、それは、ちょっと…」
『なんかあだ名とかないの? 学校で呼ばれてたりは…』
「き、喜多さんと練習してる、とき以外は…誰とも……あだ名で呼び合うような交友関係を持ったことは……」
『ああああごめんごめん!!』
『ひとり、ひとりぼっち…【ぼっちちゃん】とかは?』
『お゛ぅまたデリケートな所を…』
『リョウ先輩、流石にそれは…』
「ぼ、ぼぼぼぼぼっちです!!!」
『喜んでるし…なんか涙出てきた。…喜多ちゃんは? どうする?』
『あ、私は喜多で…』
『郁代でいい?』
『絶対やめてください』
(喜多さん、郁代って名前なんだ…てか真顔だ)
それから毎日4人での練習を続け、ついにやってきたライブ当日!
メンバーのみんなに許可を取って録音した音源で自主練も欠かさず、昨日は虹夏ちゃんから『今までで1番良かった』という言葉も貰えた!!
その勢いのまま控え室に到着した私は────!!!
『ぼっちちゃーん、そろそろ出てこない?』
「やっぱり無理です…」
ゴミ箱に身を収めていた。
いや無理…さっきチラッと見ただけでも結構な数のお客さんがいた。あんな人数の視線に耐えられる訳がない…!
『大丈夫だよー、今日私たちを見にきてるのなんて私の友達くらいだから…』
『あ、私の友達も来てくれるみたいです!』
「ふ、ふへ、へへ、へ」
『とりあえずゴミ箱から出てきて〜』
そう言われても、私が人前で演奏したことがあるときの最大人数は4人(父、母、妹、おばあちゃん+犬)なのに…
今日見にきているお客さんは最低でもその10倍はいる。虹夏ちゃんや喜多さんの友達だけでも10人はいるだろう。急にハードル上がりすぎ…!?
『ぼっちちゃん』
「…な、何でしょうか…」
怖気付いて動けなくなった私の肩を虹夏ちゃんが叩く。あ、良い匂い…
『さっきも言ったけど、今日あたしたちを目当てにしてるのはあたしとか喜多ちゃんの友達だけだからさ、そんなに緊張することないよ。普通の女子高生に演奏の良し悪しとか、分かんないって!』
『私は分かる』
『…流石先輩!』
『リョウは普通じゃないから…とにかく、今日は演奏を楽しもうよ! ちょっと練習したとはいえ、あたしたちまだ結成してから一週間も経ってないんだし、技術を求めるのは次のライブからで良いって!』
「虹夏ちゃん…」
『音は凄く感情が出るからさ、上手い演奏ができなくても、楽しむことだけは心がけよう?』
そういえば、初めてここに来たときも、虹夏ちゃんがゴミ箱に隠れる私を励ましてくれたっけ。こんなミジンコ以下の私にも優しい言葉をかけてくれるなんて、虹夏ちゃんは天使なのかもしれない。
…折角夢にまで見たバンドを組めたのに、変われないままで良いの?
良い訳ない。そんなの頭では分かってるんだ。でも、分かっていても恐怖で体が動かない…
「わ、分かってるんです…このまま隠れてても、な、何も変わらないって。でも、おおお客さんの目がこ、怖くて、体が…」
『なら、これ被る?』
リョウさんが取り出したのは烏龍茶のペットボトルが入っていたであろう大きな段ボール。確かにアレに入れば視線は気にならなくなるだろうけど、私の場合視界が塞がれることは合わせられなくなることに直結している。
「そ、それなら視線は気にならなくなるかもし、知れませんが…視界が」
『…なら、こうするか』
「え…」
リョウさんが何処からかカッターを取り出し、段ボールを手際よく切っていく。
そうして出来上がったのは、頭が入る部分の背面と右側面だけ切り取られた段ボール。
『ぼっちの立ち位置は客席から向かって右側。だからこうすれば、お客さんの視線を防ぎつつ後ろの虹夏や横の私たちの様子を確認できる』
「た、確かにこれなら…!」
『え、ほんとにそれで出るの? …まぁ最初のライブだしぼっちちゃんがそれで出られるならいっか』
『もしもぼっちが野次られたら私がベースでポムってするから』
「ベースってそんなファンシーな音しましたっけ…それはしなくて大丈夫です…」
どうせ私は野次られても聞こえないし。でもリョウさんなら本当にやりかねないし一応止めておこう…
「あ、そういえば、今更ですけどバンド名まだ聴いてなかったです…」
『ゔっ』
『結束バンドだよ』
結束バンド…結束バンド? あの縛るやつ?
『ぷふ…傑作…!』
『サムいし! 絶対変えるから!!』
『え、可愛いよね?』
「あ、ハイ」
『うあああぁぁぁ…』
そうして本番の時間が近づき、ステージへと旅立つ時がくる。
段ボールに隠れた私は少しマシな状態になったけれど、依然緊張は解けていなかった。
このとき、言葉にはしていなかったけど、虹夏ちゃんやリョウさんもそれなりに緊張していたのだと思う。
だからだろう。
「……」
喜多さんの発言が極端に少なくなっていたことに、誰も気づけなかった。
『結束バンドでーす! 今日はみんなも知ってる曲を幾つかやるので、聴いていってください!』
虹夏ちゃんのドラムを合図にギターをかき鳴らす。よ、よし。少なくとも虹夏ちゃんのドラムに視線を固定している限りは横目にお客さんの顔が入ることもないし、これならいける!
「〜♪」
今のところ遅れはなし。今日はかなり調子がいい。いつもの練習だとこの辺から少し遅れ始めるんだけど、初ライブを失敗させたくないという気持ちが集中を生み出してるのかも…
精神的に余裕ができ、少し視線を上げる。皆、演奏中はどんな顔してるんだろう。
笑顔を期待していた私の視界に入ってきたのはしかし、難しい表情を浮かべた虹夏ちゃんの顔だった。
(え…な、何で?)
改めてドラムと自分のギターを見比べるが、遅れもズレもない。いや、ドラムに所々ミスがあるからそのせい? でもリズム自体は大丈夫だし…
お客さんの顔が視界に入らないように慎重に視線をずらしてリョウさんのベースもチラ見するが、リョウさんは完全にいつも通りで調子が狂った様子はない。
なら何で、いやまさか…
(喜多さん──?)
お客さんの目が視界に入るのも気にならず、喜多さんのいる中央を見る。
そこには、顔を青ざめさせている喜多さんの姿があった。
手元を見ると、明らかに虹夏ちゃんのドラムとズレている。虹夏ちゃんとズレているということはリョウさんや私ともズレているということ。特に今回喜多さんが担当しているパートは主旋律であるリードギターだ、そのズレは致命的になってしまう。
(練習ではできてたのに…もしかして、喜多さんも緊張して…?)
これは後から考えたことだが、喜多さんが緊張するのも当然のことだ。何せ喜多さんがギターを始めたのはたったの1ヶ月前で、人前での演奏は今日が初めて。そして、知り合いがいない私とは違って、喜多さんには喜多さんを見に来たお客さんがいる。
そんな中、無様な演奏をするわけにはいかないというプレッシャーが喜多さんにはあったはずだ。
しかし、このときの私にはそんな事情を考える余裕はなかった。ただでさえ自分が虹夏ちゃんのドラムに合わせるのが精一杯なのに、他人の背景まで思考は及ばない。
ただ、背景にまで考えが行かなくとも、どうにかしてこの場を乗り切りたいとは思った。
だって結束バンドでの、初めてのライブ。
こんなに優しい人たちが集まったバンドなんてもう二度と組めない。
失敗して、終わらせたくない!
広がった視野の中で、リョウさんが喜多さんにアイコンタクトを送っていることに気づく。
落ち着いてベースに合わせて欲しいと合図してるんだ。
でも、喜多さんは演奏に一杯一杯でリョウさんのアイコンタクトに気付いてない!
(喜多さん…涙が)
このままじゃズレる一方だ。何とかして喜多さんを助けられないかな。
どうしよう、何か無いかな、何かできないか…喜多さん…
[わぁ、すごーい!]
[お願い、私にギター教えてください!]
[私と同じバンドに入らない?!]
[そんなの、後藤さんが友達だからに決まってるじゃない!]
「っ!」
……いや、違う!
何か無いか、できないかって。私には元々
なら方法なんて一つしかない!
ボリュームペダルを踏み込む。
私には聞こえないけど、これで私のギターの音が不自然に大きくなったはずだ。
多分お客さんからは変に思われただろう、なんせ主旋律でもないリズムギターが出しゃばってるんだから。
でも、烏龍茶の段ボールのおかげでこっちからその様子は殆ど見えないし、もし野次が飛んでても私には聞こえないから関係ない!
喜多さん、大丈夫だよ。自信を持って! だって喜多さんはあんなに練習頑張ってきたんだから。
私に合わせて、練習のときみたいに…
虹夏ちゃんも言ってた、音には感情が出るんだって。下手でもミスしてもいい、だから今は楽しもう?
気づいて、喜多さん────!!
────────────────
(手が、震える…)
結束バンドとしての初ライブ。
憧れのリョウ先輩と一緒にライブをすることになって、浮かれすぎていたのかもしれない。
調子に乗って友達を呼んだ。
強気な言葉も吐いた。
後藤さんに、自分の練習をしていいなんて強がりも言った。
それは、今回のライブのギターを弾き切る自信があったから。人と関わることが好きな私なら、人前で演奏することも大丈夫だと思ったから。
でも結局、この様だった。
(指が重い)
練習ではできたことができない。
簡単だと思っていたところでミスが出る。遂にはリズム隊と完全にズレてしまっている。
(どうしよう…このままじゃ…)
焦っても事態は変わらない。私の音が遅れたことで、結束バンドの初ライブは大失敗で終わるんだ。
頭が真っ白になる。
次に弾くべき音が思い出せなくなる。
(あ、指止まった)
涙でボヤけた視界に映った手。自分のことなのに、他人事のように思えてしまう。
(終わりだ…)
そう思って半歩後ずさった。
そのときだった。
〜〜〜〜〜〜〜!!!!
「えっ…!」
大音量のギターが鳴り響く。
あまり音の大きさに目の前のお客さんたちが顔を顰めている。
しかし、その音のおかげで私のギターが一瞬止まったことには誰も気づいていないようだった。
私もその音で正気に戻り、飛んでいたスコアを思い出す。
(後藤さん)
後藤さんの方を見るが、後藤さんはこちらを一瞥することもない。
徐々に音量は元に戻った…と思いきや、少し大きいままだ。でもこれは…
(もしかしなくても、合わせろってことよね)
私は後藤さんと2人きりで弾いた時間がかなり長いから、リズム隊よりも後藤さんに合わせる方が容易だ。
後藤さんも私の音がズレてることに気づいて、合わせさせるためにこんなことをしたんだろう。
しかし、その代償は大きい。
【あの段ボールのギター、へったくそだな…】
【喜多ちゃんの演奏聞こえなくなったじゃん】
【なにやってんだ?】
「っ…!!」
小声だが野次が飛ぶ。ステージの上は、思っているよりも周囲の声が届く。
私に聞こえているということは、私の隣にいる後藤さんにも当然聞こえているはずだ。
それでも、後藤さんのギターは乱れない。いつも通り、いやいつも以上に安定してリズム隊と合っているように思う。
(後藤さん…ごめんなさい、ありがとう)
リズム隊に合わせたギターの旋律は、後藤さんが一人で弾いている時よりは、確かに下手だ。
でも、みんなで演奏している今の方がずっと楽しそうだった。
(そっか。下手でもいい、楽しむことが大事って、こういうことなんだ…)
そのまま曲は終盤へと向かい、終わりのタイミングを合わせるために伊地知先輩のほうに体を向け、旋律を止めた。
それなりの拍手が起こる。
そして、それなりの批判の呟きが聞こえる。
「…っ、ありがとうございました! 続いて2曲目──」
そこからは特に大きなミスは無くライブは終わった。
結果だけ見れば、成功とまでは行かなくとも、なんとかライブとしての体をなしていたと思う。
「ミスりまくった〜」
「MC、滑ってたね」
「ふふ」
伊地知先輩もリョウ先輩も、初ライブが終わったことで緊張が抜けたのか笑顔だ。
…あんなに野次が飛んでいたというのに、後藤さんも表情を変えていない。
「っ、後藤さん!」
「お゛ぉ゛ア゛ッ…な、何でしょうか…」
後藤さんの眼前に飛び出すと、後藤さんは大きくのけぞった。確かに、野次の原因となった私が急に近づいたら不快かもしれない。でもこれだけは言いたかった。
「後藤さん、ごめんなさい、そして本当にありがとう…! 私、動揺して指が動かなくて…」
「おお〜そうそう、ぼっちちゃん、ナイスフォローだったよ!」
「ぼっち、よくやった」
先輩達も口々に後藤さんを褒める。
普通に考えたらボリュームペダルの踏み間違いだが、あの状況なら後藤さんがフォローのためにわざと音量を大きくしたのは明らかだ。先輩たちもそれを分かっていたんだろう。
「いや、そ、そんな…わ、私こそかか勝手なことして、すすすみませんでした…!」
「いやいや、ぼっちちゃんがやってくれなかったら今頃あたしたちボロボロだったって!」
「褒めて遣わす」
「そうよ! あんな、野次まで飛んでたのに冷静に最後までギター弾いて…」
本当に尊敬する。
私なんてお客さんの前に立っただけで震えて指が重くなってしまったんだ、野次なんて入れられたら動けなくなってしまっただろう。
「や、野次なんて飛んでたんですね。き、聞こえませんでした」
「もうっ、またそんなこと言って!」
「あはは、ドラムのあたしのところまで聞こえてきたんだから、前に立ってたぼっちちゃんが聞こえてないはずないだろうに…優しいねえぼっちちゃんは」
「……」
「あああ、や、やや野次飛んでましたねそそそういえば!も、ももももちろん聞こえてましたよ?!」
「やっぱり聞こえてたのね、ごめんなさい私のせいで…」
「ああいやそんな頭上げて…!!」
震える言葉と同じように後藤さんの体を構成する線が物理的に震え始める。原型がなくなり始めた。
その様子に思わず笑いが出てしまう。
「ちょちょ、ぼっちちゃん体が崩壊してない?!」
「後藤さんはいつもこんな感じですよ!」
「あ、そうなんだ…」
後藤さん初心者である伊地知先輩はダイラタンシー流体と化した後藤さんに驚いているようだが、彼女の変化は良くあることなので慣れてもらうしかない。
打ち上げの話もあったが、私も後藤さんも疲労していたためまた後日となり、今日は解散となった。
…今日はたくさん後藤さんに助けられてしまった。いや、今日だけじゃない。今までもだ。
いつか、後藤さんを助けられる側になれたらな…
そんなことを思いながら、私も帰路に着いた。
「……」
やけに真剣な目で後藤さんを見つめるリョウ先輩にも、その視線の意味にも、私は気づけなかったのだった。
それを知るのは、もう少し先のことだ。
なんか耳が聞こえない設定というより、喜多ちゃんとぼっちちゃんの加入順が逆だったらのifみたいになってきてるな…
ま、まぁ次くらいから難聴設定も生きてくるって(未来に丸投げ)
次回のお話は〜?
・山田の言い訳が実は全部本当だったら
・ぼっち・ざ・ろっく・ぜろ!〜廣井きくり編〜
・タイムリープから抜け出せない喜多ちゃんを救うguitarhero
の三本でお届けします(大嘘)
誰か書いて