ラーの翼神竜に転生したけどなんか質問ある? 作:悲しいなぁ@silvie
『頼む、頼むよ…起きてくれ』
深い、崩れるような眠りの中で…誰かの声が聞こえる。
『俺は、今から最低な事を言う…
全部を思い出してくれ、
身体の上に重しでもあるかのように、不快で窮屈な感覚。
まぶたすらも自分の意思で動かせない。
『情けないと笑ってくれ、無責任だと怒ってくれ…
俺は君に何を言われても仕方がない事をした』
痛みにうめくように絞り出される言葉。
『あんなにも世界を救ってきた君に、俺は感謝も謝罪もなくもう一度助けてくれって言うしかない…っ!』
自分の不甲斐なさに涙を流す金髪の男は目の前で眠る一人の男…不動遊斗に涙ながらに頭を下げ続ける。
『俺なんかが頭下げたって、何にもならないのはわかってる…
それでも!謝らせてくれ…頼ませてくれ!!』
地に擦り付ける額は血塗れで、男の金の髪を朱く染め上げている。
『救ってくれ…この世界を!
そしてなにより……お前が大事にしてた、
英雄は目覚めない。
ただ、男の嗚咽と慟哭だけが響き渡る。
『死んだ君を、現世に留めて…あまつさえ死の瞬間まで思い出して、その上で闘ってくれなんて……
都合が良いのは百も承知だ、だが、それでも……
俺じゃ無理だった…っ!!君じゃなきゃ……!!』
3つ、その日重なった不幸がある。
1つはその日、
もう1つはカードプロフェッサーグループ【バンデット】のメンバーであるレイブン・ホーガンへのリベンジを果たした結果として彼が借りを返すと協力した為に海馬の予想はおろか、海馬が追う
そして、何よりも…その黒幕達の底知れぬ悪意を、少年達が知らなかった事だ。
「なぁー、ホントにこっちであってんのか?
マップ見てもこの先はスクラップ置き場ぐらいしかねーんだけど…」
目の前を歩くオレンジ髪の少年にそう尋ねながら遊斗はデュエルディスクのマップ機能で行き先を見る。
専用の衛星によりタイムラグ無しで現在の航空写真が見れる現代に地上でアジトだのを造る馬鹿なヤツラなんて居る訳無いと口を尖らせながらボヤく遊斗にオレンジ髪の少年、レイブン・ホーガンは律儀に答える。
「お前の言う黒幕ってのかは知らないが、この先に
なんせ、依頼主のペガサスを
「荷物って…中身もわかんねーのにそんなモンで──」
「中身ならわかってるぜ、配達員襲って奪い盗ったからな」
「………まぁじぃ?犯罪者じゃんかよ」
「今更何言ってんだ」
眉間にしわを作りながらドン引きする遊斗をよそにレイブンはカードケースから1枚のカードを取り出し見せてくる。
「
「カード…?………なんだコレ?」
そのカードを見た遊斗は思わず首を傾げる。
そのカードを見たことが無かったからではない…否、厳密に言うと確かに見たことが無かったが…見ようが無かったのだ。
「コレ…白紙じゃねぇかよ
エラーカードか…?いや、I₂社から送られてるなら印刷前のカードとかか…?」
レイブンの手にあったカードにはイラストも効果テキストも書かれていない白紙のカードだった。
「わからない…が、幾つかわかる事もある
このカード、イラストとテキストこそ無いがフレームはある…黒いフレーム、エクシーズモンスターだろう
そして、名前もな」
レイブンはそう言うとカードを遊斗に手渡す。
「あー、ホントだな…上の方にカード名だけ書いてんな
コレは…
「恐らくだが、
特別な読みをする可能性も無いじゃ無いがな
それに、
「ナンバー1000んー?じゃあ何か?コイツのテーマカードがあと千種類あるってか?
ナンバーなんて聞いたこともねーテーマのカードが?」
「知らん、だが…何かはあるはずだI₂社がこの場所にこの訳のわからないカードを送った以上はな」
「………これでデザイナーが出て来て私がそのカードのデザインを担当してるんですーってなったらオレら馬鹿みたいだな」
嫌な可能性に行きつき苦笑いする遊斗にレイブンから封筒が手渡された。
「その可能性は無い
中見てみろ…何枚かはイラストもテキストもあるぜ」
封筒の中には先程のカードと併せて7枚のカードが入っていた。
双弓のケンタウロス
オレイカルコス・シュノロス
ヌメロン・ストーム
CiNo.1000 夢幻虚光神ヌメロニアス・ヌメロニア
呪いの双子人形
死札相殺
精霊超獣ディアバウンド
しかし、数少ないテキストが書かれたカードを見ても遊斗の疑いは晴れなかった。
「……なんだこのテキスト…エラーカードか?」
「知らん、だが今までに類を見ないテキストではあるな
1万LPを払うだの墓地が消滅だのな」
えぇ…と困惑する遊斗を無視してレイブンは自身のデュエルディスクを確認しながら立ち止まる。
「……此処だ、荷物の宛先はな」
「此処だってお前…何にもありませんけど?」
レイブンが周囲を訝しげに見渡すも辺りは廃棄されたジャンクが積み上げられただけでそれらしきものは一切見当たらない。
「………受け取り人でも居たか?
それなら此処を張ってればソイツを見付けられるかも…」
少し考え込んだ後、レイブンは振り向きながら遊斗の意見を仰ぐ。
「どうする?張り込むならもう少し人数が…
………?おい、どこ行った…?」
しかし…振り向いたその先には、人影1つ無かった。
『先ずは、自己紹介から始めようか』
透き通るような水色の髪の男は凍てつくような笑みと共にそう言った。
『ハハハハ!ワケもわからんようだな』
赤い髪と黒い肌の人間離れした容姿の男が続ける。
『………チッ』
その二人を見ながら不愉快そうに白髪の男が舌打ちをした。
遊斗は瞬時にジャンク置き場からこの三人が居る空間に移動した事に困惑するも、すぐさまソレを今考える事ではないと切り捨て現状把握につとめる。
「なんだテメーら…知ってるか?中学生誘拐したらセキュリティに捕まんぜ」
軽口を叩きながら周囲を隈無く見る…しかし、あるのは見通せない暗闇とこの三人だけ。
『虚勢など張る必要はない…君の動揺など見て取れるのだから
しかし、
『フン…あんな化け物が何人も居てたまるか
アレは抑止力、血など意味をもたん』
『…………』
水色の髪の男と赤い髪の男が話す中、白髪の男は黙り込んでじっと遊斗を見る。
「血がどーのだのは中学生で卒業しとけやイテーヤツらだな!
いーからオレを元の場所に帰しやがれ!」
遊斗は自分に反応すら寄越さない三人に焦れたようにデュエルディスクを構える。
しかし…
『すまない、気を悪くしないでくれ…君を無碍にした訳ではない
私の名はダーツ、そしてこの大男がドン・サウザンド、そこに居る仏頂面がバクラという』
『我相手にデュエルを挑む気か?愚かな…』
『テメェ…どうやって此処まで来やがった』
三者三様の反応…しかし、その根底にある余裕はまるで崩れない。
ダーツと名乗った男はその笑みを絶やさず、ドン・サウザンドと呼ばれた男はデュエルディスクを構える遊斗を嘲笑い、バクラと呼ばれた男は不愉快そうに遊斗を睨む。
「犯罪者の自己紹介なんざ頼んでねーんだよ!
オレを元いた場所に帰すのか、帰さねーのか!はっきりしな!」
ディスクにデッキを差し込みながら怒鳴る遊斗。
しかし、ダーツはその姿を見ながら肩をすくめる。
『これはこれは…嫌われてしまったな
しかし、元を正せば君の過失だ…私達はただ君の手にあるそのカードを返して貰いたいだけさ』
ダーツは遊斗の手にある7枚のカードを指差し言う。
『ソレは私達がペガサスから受け取る手筈になっていたカードでね
受け取る前に襲撃されて奪われたと聞いたんだが…まさか君が持っていたとは
いやはや…運命とやらは余程私達を笑わせたいらしい』
『笑えるものか…あの化け物の身内に我のカードが奪われるなど、虫酸が走る』
『…とっととカードを渡しな、大人しく渡せば何もしねぇよ』
バクラは遊斗の胸ぐらを掴み持ち上げるとその手からカードを奪い盗る。
「ぐっ…!なにしやがんだテメー!」
『…ちゃんと枚数も揃ってるな、ダーツ!とっととコイツを帰してやりな!』
バクラは遊斗を下ろすと素早くカードを確認し、ダーツを睨む。
しかし、ダーツはスッと笑みを消すと首を傾げる。
『帰す…?バクラ、君は一体何を言っている?』
『カードは受け取った、このガキにもう用なんざねぇだろうが』
不機嫌さを隠しもせずに怒鳴るバクラの肩をドン・サウザンドが掴む。
『バクラよ、ソレはヤツの身内…それだけで始末するには十二分の理由がある
まさか、見逃せなどと宣う気ではないだろうな?』
『ケッ!そんなに遊斗が怖ぇかよ…この腰抜け共が!』
肩を掴むドン・サウザンドの手を払い除けるとバクラは嘲笑を浮かべながら二人を睨む。
『……ソレの何が可笑しい?
ヤツは異常だった…私達三人掛かりでも容易に打倒する決闘の腕に、星の総量すら上回る膨大な
恐れを抱くなと言う方が無理筋だろう』
『フン、恐怖とは勝利者の素質よ…最も恐怖に鋭敏で、最も全てを恐れる者こそが王の資質
目的を果たす事こそが至上…ソレを妨げるものを恐れ、いかに排除するかを深慮する
それこそが神の器…まかり違っても貴様のように勝利に固執するなどありえん』
バクラは二人に対峙するように立つと遊斗の襟口を掴み自分の後ろに引き摺り寄せる。
『御高説どうも、そんなに悔しいならオレ様じゃなく本人に言うんだな!』
「不動遊斗…って、なんで……お前らなんかオレ、知らねぇよ…」
自身の背後で、困惑する遊斗を見遣ると舌打ちをしながらバクラは耳打ちする。
『オレ様が時間を稼ぐ、テメェはその間に消えな』
「き、消えなっつったって…どうやって…』
『神のカードだ、テメェの持ってるソイツに祈りでもすりゃあ…』
『随分と……気遣いが出来るじゃないか、バクラ
その半分でも私達に向けようとは思わないか?』
バクラが言い終わる前に、ダーツは瞬間移動のようにバクラの目の前に唐突と現れる。
『気遣われて欲しいか?なら座っときな、テメェらも歳だろうがよ!』
『くだらんな…勝利とはあくまでも手段
目的の前の過程に過ぎん、ソレが何故わからん』
『バクラ…君のその行いに意味は無い
例えどんなに見窄らしく、無様であろうと靴は履ければ用を足す…問題は、ソレを履いて何処へ向かうのかだ
今の君は靴に拘り、向かう先を見据えてすらいない…』
三人の人外達が一触即発の鋭い殺気をぶつけ合う。
この場に残る一人を蚊帳の外に。
『その
『私達が不動遊斗を恐れていると言ったな?
ああ、恐れているとも…九重遊斗という名を聞いて、心底震えた程にね
生きた心地がしなかった…心臓が破れるのではと思う程に速く打ち、嗚咽さえ漏れた
だからこそ、私は君にある意味で感謝しているとさえ言っていい
バクラは目を見開くと背後の少年に怒鳴る。
『聞くな!!』
『あの日、アメリカ行きの飛行機へ乗る筈だった不動遊斗は死んだ…何故だと思う?
乗る筈だった時間から大きく遅れたから、事故にあった…何故だと思う?
あの日、君が引き留めてくれたからさ
本当に………ありがとう』
ダーツは嬉しそうに、嗤う。
バクラの後ろの少年は、ひきつけを起こしたように震えている。
『だからこそ、嘘はいけないな
死人の名を名乗るなどあってはならない…そうは思わないか?』
『黙りやがれ!それ以上口を開くんじゃねぇ!!』
バクラがダーツに掴み掛かる、しかしダーツはバクラが離れた事で目線が合った少年に嘲笑混じりに言うのだ。
『不動遊斗…いや、
「………ちがう、朔八は死んだんだ…死んだのは、朔八なんだ……オレは、遊斗は死んでなんか…」
震えながら、絞り出すように呟くそのさまにダーツとドン・サウザンドの笑みが深まる。
『ハハハハハハ!!なんたる道化か!
己を殺して兄を演じるとはな!』
『そう笑ってやるなサウザンド、人の子には受け入れ難いのだろう…自分が兄を殺したという事実はな』
「ち、ちがう…ちがう…ちがう、ちがうちがうちがうちがう!!!
死んだのは朔八だ!!
我儘言って兄ぃを困らせた朔八が死んだんだ!
朔八が我儘言ったから……行かないでなんて言ったから、兄ぃは飛行機に乗れなくて……だから…」
ごぽ、と喉から水音と空気の漏れる音がする。
喉が焼けるような感覚と共に、その小さな身体から出たとは思えない量の吐瀉物が止めどなく吐き出される。
「ぐぷっ、お…げぇ…うぐ…」
時折水泳の息継ぎのように嘔吐が止まり、嗚咽混じりのか細い呼吸が挟まると再び吐き出す。
『人の顔が覚えられない?それはそうだろう…
自分の顔と名前も見ない者が、他人のソレを覚えられる筈がない』
ダーツはうずくまりながら嘔吐し続ける少女を見下ろす。
………いや、小学生と中学生間違えるなよ
すまん…【小さかった】からつい……
知らねーもんは知らねーよ!そもそも、オレは人の【顔と名前】覚えんのがニガテなの!
しかし、小さい頃に【家族】を飛行機事故で亡くしていて九重は引き取ってくれた叔母の名字らしい
遊斗は将来良い【お嫁さん】になれますよ!ふふ〜ん!このホルアクティが保証しますとも!!
お前…まだそんな気持ち悪い事してんのか
……そうか、お前はまだ鏡を見ない気か
家族が死んでも…お前はソレを見ない気か!!
『君が正気になる機会など無数にあった…
しかし、選んだのは壊れたままでいる事…逃げ続ける道』
『無様な、こんなものがあの化け物を名乗っていたとはな』
侮蔑、軽蔑、軽侮…二人からの憐れみすら混じるその視線に反応する余裕すら少女にはない。
現実を突きつけられた少女は、いまだに自身の死と兄の生を
吐瀉物と、涙と、唾液とでぐしゃぐしゃに汚れた顔で
溺れたように覚束ない呼吸と、ひきつけを起こしたように震える身体で
少女はただ、泣きながら目を閉じ続ける。
現実を、見ない為に。
これは、英雄不在の物語
悪を正す英雄は既に亡く、此処に居るのは一人の嘘つき
正義が無くとも悪はあり、世界は危機に瀕している
さぁ、
名前は子供への最初のプレゼント、とは良く言ったもので
作者はタイトルが中々決まらずかなり考える方だったりします
なので、こうして書いている以上作者の中では納得のいくタイトルになっている訳です
本作のタイトル…というか作中作という形でのタイトルではありますが、このONCEというタイトルをキャラクター達へのプレゼントとしてようやく渡せたと思うと感無量です
この小説にこれ以上シリアス(及び曇らせ)は…
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要る(鉄の意志)
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要らない(鋼の強さ)
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やめろー!こんなのギャグ小説じゃない!!
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それがお前の心の闇か…