痛苦と絶望のアングラゲーム ~凄惨たる死を想う少女の過激で危険な電脳遊戯~   作:兎乃葵

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第八話:変な女

「ふぅ。こんなところかな? ……ちょっとオーバーしちゃったか」

 

 イルミネと分かれた後、草原のIDに通いつめ。無事700と少しの経験値を稼ぎ終わった。

 しかし作業が進むほど、一度に獲得できる経験値の量は落ちていた。どうやら経験値に掛かる補正は、彼我の保有している経験値の総量の差を元に算出されているようだ。

 

「よし……〈HPブースト・Ⅲ〉と〈血の剣〉を獲得! そんでもって……〈血の剣〉! ……うぁ?」

 

 シヅキの全身から滲み出た赤黒い霧が、短剣の刃を包み込むように渦巻き、赤い刀身を形成する。それと同時に感じる、強い虚脱感。

 痛みに対して身構えてはいたが、想定していない感覚には耐え切れず、シヅキはその場に倒れ伏した。

 

「……これはー……問題ありだなぁ。敵の前じゃあ使えないじゃん……はー…………。……血の刃と違って痛みじゃないのはなんでだろ、ゆっくり抜けるからとかかな」

 

 シヅキは地面に横たわったまま、手の内にある短剣を眺める。スキルの効果から、武器に対するエンチャント、単純な性能強化のようなものだと考えていた。しかし、実際に形成された刀身は短剣の刃よりはるかに長い、普通の片手剣と同程度のサイズだ。

 

「うーん……? やたら長いな……。これじゃ片手剣二刀流だ。重さはないから取り回しはいいけど。……ふむ」

 

 ゆるりと立ち上がり、軽く素振りをする。感覚としては短剣のときとほとんど変わりがなく、今まで通りに動いても問題はなさそうだ。

 

「おー……? 悪くないな。これなら単にリーチが伸びただけだし。これで……2450の3割の1割で、えーと……武器攻撃力プラス73か。いや強いなこれ、火力問題が一瞬で解決しちゃったよ」

 

 シヅキが感心したようにしげしげと眺めていると、血色の刃が解けるように消え去った。効果時間である300秒が経過したらしい。

 

「ネックは効果時間とMP消費かー。性能相応の制限とはいえ、現状だと2回しか連続して使えないんだよなぁ。10分はちょっと短いよ。なんか……そう、MP消費をHPで代替するようなスキルが欲しいな。けっこうありがちだと思うんだけども」

 

 習得可能スキル一覧を眺めるが、めぼしいものは見当たらない。

 

「スキルの解禁条件が実際に解禁するまで分からないの、わりと厳しいよな……」

 

 その後、軽く慣らし戦闘を行った後、シヅキは一旦街へと戻った。

 

 

    ◇◇◇

 

「う~ん……。解決策が思いつかない……。いやしかしノーヒントって……」

 

「──そこな道行くお姉さん! ちょっとアタシとお茶しないっスか?」

 

 ぶつぶつと考えを呟きながら都市を歩くシヅキに突然降りかかる、ハスキーな声。顔をあげると、眼前には小柄な存在。

 

「……うん? もしかしてわたしに言ってる?」

 

「そーっス! えーっと……シヅキサン!」

 

 シヅキに向かってびしりと指を突きつけ、名前を呼ぶ、橙色の髪をもった中性的な見た目の人物。その頭上には『らきらき』の文字。

 

(わたしに目を付けるとはいいセンスしてるな。男の子……いや、少なくともアバターは女性体か。ふぅん……)

 

「なるほど、素敵な誘いだね~。いいよ、どこに連れてってくれるの?」

 

 シヅキの好意的な返しに、らきらきは何故かびしりと固まる。自分から誘っておいて、相手に承諾される可能性を考えていなかったのだろうか。

 

「……あー、いやぁ~……特になんも考えてないっスね。顔が好みで衝動的に誘っちゃったので。まさか出会い厨ムーブが通るとは……」

 

 らきらきは目を泳がせつつ、わたわたと愉快な動きをしている。どうにも、彼女の挙動の節々からは外見以上に幼そうな印象を受ける。シヅキと同じ年齢詐称プレイヤーだろうか。それにしても若そうだ。

 

「顔。……それなら仕方がないね!」

 

 シヅキの顔は非常に良い。そう、これは客観的な評価だ。この顔を見たのなら、衝動的なナンパ行為に及ぶのも仕方がないだろう。たぶん。

 

「あ、納得するんだ……。割と変な人っスね……」

 

「それで、どこ行く? 宿?」

 

「宿……? いやそもそも、このゲームってお茶できるところあるんでスかね?」

 

 下世話なジョークに怪訝な顔を返され、シヅキは内心渋い顔になる。それと同時、ナンパ行為をしてきた割には思いのほか純粋そうな少女の姿に、シヅキの心にむくりと悪戯心が湧き起こった。

 

「いちおう飲食店はあるらしいよ。現実相応の味でしかないからイマイチ人気ないけど。……お茶よりももっと楽しいところがあるんだけど、もし良かったら一緒に行かない?」

 

「楽しいところ……。 行くっス行くっス!」

 

 幼げな印象かららきらきの興味の対象を推測し『楽しさ』を強調したところ、容易に餌に食いついた。これはもう、引っ掛かったらきらきの方が悪いだろう。きっとそうに違いない。

 

「そっか。じゃ、着いてきて」

 

 らきらきを手招き、シヅキは宿屋へ向かっていった。

 

 

    ◇◇◇

 

「うーん、久々だけどやっぱり楽しい! 感覚的には現実とほとんど差がないみたいだし、めんどくさい後始末もいらないし。イルミネとも今後はこっちでしようかな……? あ、いやぁ、ごめんね? 騙すつもりはなかったんだけど、ちょっと魔が差しちゃって」

 

「……穢されたっス…………うわぁーん…………」

 

「……べつに現実の身体という訳でもないんだから、これも娯楽として楽しめばいいんだよ。というか、そもそもそういうタブーを求めてこのゲームやってるんじゃないの?」

 

 性的なものに忌避感を抱く人間が、わざわざ過激なシステムが売りのゲームをやるとは思えない。そもそも、本気で嫌がっているのなら、システム上行為は成立しないはずだ。つまり、らきらきのこれはただのポーズだろう。

 

「……非認可のゲームって……カッコいいと思ってぇ。……うぅ」

 

「それであのめんどくさい工程をこなせるならある意味立派だねぇ。ほら、いつまでも泣いてないで。痛くしないよう気を付けてたんだから、別に大丈夫でしょ?」

 

 言いながら、シヅキはらきらきにフレンド申請を送る。

 少しの間を空け返ってきた『フレンド申請が受諾されました』の表示。思わず笑みが溢れた。

 

「そーいう問題じゃないっスよ…………。何笑ってるんスか、も~……」

 

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Tips

『ゲーム内での性交渉』

 UGRにおいて、性交渉は互いの承諾がなければ絶対に(・・・)行えない設計となっている。

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