痛苦と絶望のアングラゲーム ~凄惨たる死を想う少女の過激で危険な電脳遊戯~   作:兎乃葵

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第九話:わずかな手掛かり

「そういえば聞きたいことがあって誘いに乗ったんだったな……楽しくて完全に忘れてたよ。ね、らっきーちゃん、MP消費をHPで代替するスキル、みたいなのって知らない?」

 

 そもそもそれを見つけるために動いていたのだ。盛大に脱線している。

 とはいえ、装備の外見からして、自身とそこまで進行度に変わりがなさそうならきらきが知っているとも思えない。駄目元での質問だ。

 

「らっきーちゃん…………? それってHPをMPとして使う、ってことっスか? いや、知らないっスね……。逆なら持ってるんスけど」

 

「えっなにそれ」

 

 予想外の返事が返ってきて、シヅキは思わずらきらきの剥き出しの肩を掴んだ。らきらきは口元をもにょもにょと動かし、くすぐったそうにしている。

 

「……。〈マナコンバージョン〉っていう、HPダメージをMPで代わりに受けるようになる効果の、まぁぶっちゃけ産廃一歩手前のスキルっスね。……シヅキサンはゲーム慣れしてるっぽいので多分ご存知だとは思うんスけど、後衛DPSって戦闘ではそもそも相手に殴られないように位置取りするのが基本なんスよ。なんで、わざわざ攻撃用のリソース削って耐久力を増すスキルはかなり微妙なんスよね」

 

「まぁ……そうだね。PTプレイなら前衛が攻撃を受け持つ訳だし」

 

 このゲームではVITに振った槌持ちが壁役をこなすことが多いらしい。HP馬鹿のシヅキとは違い、肉体そのものの強度が高まるVIT壁は非常に安定感がある。

 

「わたしはソロ専で、必然的に攻撃を受ける機会も多かったから取ったんでスけど。消費経験値も安いし。どうもMPで受けてる限りは怪我もしないっぽいんで、ソロなら割と便利ではあるんスよね」

 

「ふむふむ。それで、解禁条件は?」

 

 HPダメージをMPで受けるスキルと、MP消費をHPで賄うスキル。関連性が全くないとは思えない。思ったよりも有用そうな情報に、シヅキはわくわくとした気持ちが湧き出てくるのを感じた。

 

「条件は……なんだったかな、スキル欄スキル欄……。ええと、『魔法系スキルを3つ以上覚える』と『MPダメージを100以上受ける』らしいっス。MPダメージなんてどこで受けたっけな……」

 

「うぅん……? その条件を逆に置き換えるなら『物理系スキルを3つ以上覚える』と『HPダメージを100以上受ける』? もしそれなら既にほとんどの人が解禁してるだろうし、情報が出回ってなきゃおかしいよねぇ。全然違う条件なのか、あるいはそもそもそんなスキル存在しないのかな……」

 

 MP代替スキルはあくまでシヅキの想像上のものでしかなく、実際に存在しているかどうかはまだ全く分かっていない。

 

「うーん、そうっスねぇ。HPからMPへの転換があるのにMPからHPの方は存在しないってこともない気がしまスけど。仮になくてもAIが作ってそうでスし。まぁでも、MPに関わるスキルなんだから魔法の方の条件は同じなんじゃないでスか? 試しに何か魔法を覚えてみるとか」

 

「……わたし、けっこう使いやすい飛び道具スキルを既に持ってるから魔法は別にいらないんだよねぇ。もし取るとしたら補助系かな」

 

「MP消費踏み倒せるなら回復魔法とか超強そうっスよね。HP支払って支払った以上のHP回復みたいな」

 

 確かにそれは強力そうだ。シヅキのビルドでは、おそらくHPが尽きるより先に肉体の損傷で動けなくなることの方が多いだろう。

 怪我で動けなくなり、失血によってHPが尽きるのをひたすら待つというのは、想像するだけで恐ろしい。そういう意味でも怪我を治す手段は持っておきたい。

 

「……うん、ありがと、らっきーちゃん! なんとかなりそうな気がしてきたよ! お礼にもう一回……」

 

「だーやめるっス! 髪さわんないで!」

 

 髪に触れた手を弾かれ、シヅキは悲しい顔をした。

 

 

    ◇◇◇

 

「それじゃあね、らっきーちゃん。またしようね~」

 

「もう二度とやんないっス……!」

 

 宿屋の前。シヅキはらきらきにハグをしようとするも、俊敏な動きで避けられた。仕方なく、ひらひらと手を振って別れの挨拶をする。

 らきらきはぷりぷりと肩を怒らせながら去っていった。

 

「……まんざらでもなさそうだったな。小動物っぽくて可愛いなぁ……。今度また誘ってみよっと」

 

 にこにこと笑いながら、シヅキは街の出入り口へとファストトラベルで移動した。

 

「魔法系スキルを最低3つ、それにまだ見ぬMP代用。経験値がたくさん必要だなー。火力問題は部分的に解決できたし、もっと脅威度の高いIDを周回するのがいいかな」

 

 視線を巡らせると、東部の森林地帯が遠くに見えた。意志とは無関係に、シヅキの身体がぶるりと震える。

 

「……森はしばらくはいいや。確か西の遺跡地帯が脅威度20~30だったはずだし、稼ぐにはちょうど良さそう」

 

 まるで森林フィールドから逃れるように、シヅキはフィールドの西方、遺跡フィールドへ向かった。

 

 

    ◇◇◇

 

「『"機械の遺跡" 脅威度:25 適正人数:1~2人』……。うーん、どのIDも似たり寄ったりだな。よしもうこれでいいや。突入!」

 

 手近にあったIDの入り口に近寄り、表記を確認していく。しかし、遺跡フィールドのIDはどれも機械系ばかり。違うのは脅威度と推奨人数くらいだ。

 シヅキは推定で今の自分より少し上であろう脅威度25のIDに挑むことを決め、そのまま空間の裂け目へと跳び込んだ。

 

「おー……地下遺跡って感じ? ちょっと薄暗いけど、見えないほどじゃないな。推奨人数が少なかったのは狭い屋内マップだからか」

 

 暗転の後、眼前に現れたのは苔に覆われた石造りの通路。片道一車線の道路ほどの幅で、戦闘を行う場所としては少し手狭に感じる。

 後方は崩れた土砂で埋まっており、前に進むしか道はないようだ。

 

「機械……機械ねぇ。堅そうだけど、わたしも火力はかなり上がってるし。まぁなんとかなるでしょ」

 

 いつものように独り言を呟きながら、シヅキは通路の奥、暗がりへ向かって進んで行く。なにかを踏み抜く感覚。

 

「は? おわぁ危ない!」

 

 真横の壁面、そこに空いた穴から飛んできた三本の矢を、かろうじて回避する。反対の壁に当たった矢は、そのまま溶けるように消え去った。

 

「えぇ……罠とかあるんだ。それはちょっと話が変わってくるぞ……?」

 

 よく見れば、先ほど踏み抜いた部分は石材に苔が生えていない。とはいえ些細な違いだ、知っていたからといってこの先も見抜けるかどうかは疑わしい。

 

「何? 機械って敵じゃなくて機械仕掛けの罠ってこと? うっそだぁ経験値稼げないじゃん」

 

 たまらずシヅキはメニューから脱出コマンドを選ぶが、そこには暗くなった脱出ボタンと『ダンジョンからの脱出コマンドは初回クリア以降でなければ使用できません』の文字。メニューに拳を叩きつけた。

 

「だ、ダルっ……。探索型IDって……別に今アイテムは必要としていないんだけどな……」

 

 シヅキのビルドの都合上、自刃による脱出は多大な苦痛と時間の浪費を伴う。あまり多用したい手段ではなく、そうである以上はIDをクリアするしかない。

 仕方なく、シヅキはダンジョンの早期クリアを目指すことにした。

 

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Tips

『インスタンスダンジョン』

 UGRのインスタンスダンジョンには、戦闘型と探索型の二つが存在している。

 戦闘型は敵性エネミーが多く配置された、経験値と素材アイテムを主だった報酬とするダンジョンであり、反対に、探索型は罠や謎解きがメインで、ランダムに配置された宝箱が主な報酬のダンジョンとなっている。

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