痛苦と絶望のアングラゲーム ~凄惨たる死を想う少女の過激で危険な電脳遊戯~   作:兎乃葵

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第十七話:牛すき焼き

 その後。HPが10%を切った段階で再び鋭角突進を繰り出してきた巨牛に脇腹を抉られる事故こそあったが、シヅキはなんとか崩れずに巨牛のHPを削り切った。

 

「し……死ぬかと思った…………。でも、これで牛肉ゲットだー……」

 

□□□□□□□□□□

特上牛肉

素材アイテム(等級:Ⅲ)

上質な牛肉。柔らかく、肉汁たっぷりの味わいが特徴。

炭火で焼いても、ステーキ用に切っても、脂の甘みがあふれ出し、口いっぱいに広がる旨みは格別。

 

所持数:22

□□□□□□□□□□

 

「ふ、ふ、ふ。いろんな意味で明日が楽しみだなぁ」

 

 シヅキはその場でぐんと背伸びをし、口笛を吹きながら先ほどまでの戦いで緊張していた身体を解しにかかった。

 

 

    ◇◇◇

 

「おぉ……これが例のフィールドボスの……」

 

 翌日、朝。

 前日の『お願い』によってイルミネの予定を押さえたシヅキは、UGR内、クレコンテッタの町の片隅でイルミネと合流、イベントアイテムのチョコレートを食みながら雑談に勤しんでいた。

 

「いやぁ、大変だったよ。攻撃機会は少ないわ、範囲攻撃はナチュラルに即死級だわで。クソボスの忌み名を冠するに相応しい強敵だった……」

 

「もしかして、試合のときに言ったこと気にしてたの? あんなの軽いじゃれ合いみたいなものじゃない。わざわざ強い相手に挑んでこなくても……」

 

「いやぁ? ああやって言われるまでもなく、実際悪いとは思ってたからね。これはほんのお詫び、ということで」

 

 自分からゲームに誘っておいて、イルミネを半ば放置する格好になってしまった。

 イルミネがUGRにハマってくれたから良いものの、そうでなければ今頃はゲーム自体を辞めてしまっていてもおかしくはなかっただろう。

 

「お詫びが高い肉っていうのも……。いや、実際良いものではあるんだろうけど。普通スイーツとかじゃないの?」

 

「それは~……そう。でもイベントの菓子系食材、なんか交換レートが微妙なんだよねぇ。多分メノーで買った方が早いよアレ」

 

 調味料など、普通の食材アイテムはクレコンテッタにあるショップでゲーム内通貨を用いて購入ができる。菓子素材は以前からそこで販売しているため、わざわざイベントアイテムを消費してまで交換するものではないだろう。

 

「わたしは交換したわよ、なんだかんだ菓子以外にも使うものばかりだし。小麦粉とか、砂糖とか」

 

「ふぅん。わたしは料理やんないから、そのへんはよくわかんないや。そういえばイルミネはイベントの戦績どうだったの? レート悪めな食材類交換してるってことは相当勝ってるんじゃない?」

 

 今回のイベントでは、おおよそ五十勝すればイベント限定装備が完成するレートに設定されていた。シヅキがプレゼントした、より強い武器を持っているイルミネはイベント限定武器を完成までは持って行っていないかもしれないが、それでも相応に勝利を重ねているのではないか。

 

「えーっと……あぁ、八十一戦五十二勝みたいね。シヅキは?」

 

「六十六戦六十二勝」

 

「えっ……バケモン?」

 

「失礼な。いや、血の剣を見て、こっちを舐めてかかってくる相手がめちゃくちゃ多かったんだよ。イベント序盤はそうでもなかったから、多分わたし以外の血の剣使いがイベントで負けまくって、それで弱さが知れ渡ったんだろうね」

 

 イベント序盤こそ相手のほとんどが油断なく相対してきたが、中終盤ではほとんどの相手がシヅキの初手〈血の剣〉を見て露骨に気を抜いていた。つまり、シヅキの異様な勝率は、きっとHP特化の同志たちの犠牲あってのものなのだ。

 シヅキは心の中で、犠牲になった同志に合掌した。

 

「ま、わたしの戦績はいいでしょ。それよりあの……オーバーヴェセルだっけ? あれなに? 相当特殊なスキルに見えたけど」

 

「あぁ、あれね……。スキル自体は等級Ⅴの召喚スキルなんだけど、それとは別に『外器(オーバーヴェセル)を冠したスキルは同時に一つしか取得できない特別なもの』って説明に書いてあったから、これは何か特殊なものなんだろうなって思って取ったのよね。結果は知っての通り、かなりのじゃじゃ馬だったわけだけど」

 

「ふーん……? 同時習得不能ってことは、他にも色々種類があるんだね。そんな制限が付いてるってことは、つまりは必殺技的なやつかな? そのうちわたしも何か習得できるかな……」

 

 イルミネの豹変はともかくとして、風雷槍エル・トール自体は非常に見栄えのする、格好の良いスキルだった。

 自身もなにか強力な必殺技が欲しいものだとシヅキは空想を膨らませる。

 

「……ま、今すぐどうこうって話でもないか。よし、それじゃあ肉だよ肉、さっそく何か食べない?」

 

「作るのは私なんだけど……。えぇと、そうね。ちょうどイベントで交換した素材で作れるし、じゃ、すき焼きにしましょうか」

 

「……ボタン鍋と若干被ってない?」

 

「あれ食べたの結構前でしょ、別に良くない?」

 

 言われてみれば、確かに前回イルミネと鍋を囲んでから既に一週間以上経っている。ゲーム内で食事を摂る機会があまりないシヅキは、その辺りの感覚が若干ズレてきていた。

 

「まぁ……確かに? わたしはゲーム内で食べた最後の料理がボタン鍋だったから……」

 

「今食べてるのは?」

 

「チョコは別腹でしょ」

 

 操作パネルを弄り、すき焼きを製作するイルミネを眺めながらシヅキはチョコを口に放り込む。イベント交換に用いるためのアイテムのはずだが、それにしては異様なほど美味だ。

 

「……よしできた。しかしチョコとすき焼きって、どう考えても連続で食べるもんじゃあないわね」

 

「まぁ、あくまでゲーム内の食事だし。後味が残るわけでもないから、そんなに気にすることもないでしょ。いただきまーす」

 

「ふぅむ、ま、そんなものかしら。いただきます」

 

 前回同様、またもや屋外での鍋パーティーと洒落込んだ。

 

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Tips

外器(オーバーヴェセル)

 非常に強力な性能を有したアクティブスキル群。等級Ⅴのアクティブスキルは全てこれに分類される。

 その性能は様々だが、共通している特徴として『使用時の精神高揚』という効果がある。

 VRシステムの設計を半ば悪用したような仕様だが、肝心の設計意図は記載されておらず不明。おそらくは強大な性能に対するデメリットのようなものだと思われる。

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ここで第三章は終了です。
この後は、掲示板回と敗北ifを挟んだのち、第四章を(完成次第)投稿いたします。


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