痛苦と絶望のアングラゲーム ~凄惨たる死を想う少女の過激で危険な電脳遊戯~   作:兎乃葵

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◇第二十三話:『エルダートレント・エヴィル』後編

「トレントのHPが半分を切るわよ! パターン変化注意!」

 

「はいはーい。まぁこんだけ相性いい相手だし、多少変わっても問題ないでしょ。〈血の~……刃〉っ!」

 

 トレントの腕枝を切り飛ばし、範囲攻撃を誘発すること3回目。イルミネがHP減少によるパターン変化を警戒する中、シヅキの無警戒な追撃によってトレントのHPが50%を切る。

 

「その慢心癖なんとかしなさい! 根拠のない自信を持つな!」

 

「えぇ~?」

 

 しかし、イルミネの警戒とは裏腹に、最後の追撃によって腕枝を切り飛ばされたトレントは以前と同様、頭を振る範囲攻撃の予備動作を行い始めた。

 その様子に、HP50%以上のときとの違いは見当たらない。

 

「うーん……おんなじ範囲攻撃だねぇ。これは30%とか25%で変化するタイプかな? よっと」

 

「ふむ……?」

 

 トレントを警戒しつつも、シヅキ達は範囲攻撃の安全地帯へ移動する。2回目の範囲攻撃の際の反省から事前に広場の中央付近に移動していたため、小走りで十分間に合う距離だ。

 

「とうちゃーく。よし、多分大丈夫だよね。〈血のやい──」

 

「……ちょっ、シヅキ危ない!」

 

 安全地帯に移動後、すぐに攻撃を加え、ダメージを稼ごうとシヅキは剣を振り上げる。するとその足元、地面からシヅキに向かって、鋭利な木の根の先端がずるりと顔を見せた。しかし、振り上げた剣、頭上へと意識を向けているシヅキはそれに気付かない。

 咄嗟にイルミネが警告するが、間に合わずに木の根が地面から飛び出し──シヅキの腹部を貫いた。

 

「ぃ゙ぎっ!?」

 

「HP減少による範囲攻撃の性質変化ね、あーもう、言わんこっちゃない……!」

 

 その直後、地面から根が突き出す攻撃がイルミネへ向けても行われた。だが、警戒を怠っていなかったイルミネは悠々と躱す。

 しかし、三発目、続く根の攻撃は、傷を受け地面へ倒れ込んでいたシヅキを狙い、その胸部を貫いた。

 

「ごぶっ……」

 

「うわっ大丈夫!?」

 

「う、ぐ…………。〈セル、フ、ヒー、リン……グ〉…………ぐっ、くそ、完全には治り切らないか……」

 

 不幸中の幸い、範囲攻撃中の根による攻撃は三発までで打ち止めだったようだ。爆発により赤い葉が舞い散る中、シヅキはなんとか自らの負った傷を癒す。

 しかし、二ヶ所に及ぶ甚大な傷は一度の回復では完全には癒しきれなかったようだ。腹部からは未だにぼとぼとと血が零れ落ちている。

 

「ほらシヅキ、上級HP回復薬! これも併せれば多分治りきるはずよ!」

 

「……えっ? ちょっ、待っ……」

 

 傷の痛みでその場に蹲っていたシヅキに、イルミネから水薬入りの瓶が投げつけられる。だが、傷を負ったばかりのシヅキにはそれを受け止める余裕がない。

 その結果として、シヅキの頭に瓶が直撃。瓶が割れ、中身を頭から被ってしまった。

 

「あっ……ごめーん!」

 

「……塗布でも治るんだ、これ」

 

 シヅキ達がわちゃわちゃと戯れている間に、範囲攻撃の終わったトレントが再び動き出す。その腕は2対4本に増え、葉の色も黒っぽく変化している。

 

「あー、なるほど。パターン変化と特殊行動が被ったせいで、外観の変化が後に回されたのね」

 

「いてて……そのせいで酷い目に遭ったよ。……腕が増えたって言っても多分強度は変わらないでしょ? 血の刃で終わりそうだけどなぁ」

 

「…………。今の今まで死にかけておいてまだ油断できるの、最早才能ね……っと!」

 

 距離を取り、敵の様子を見ながら会話していたシヅキ達に、増えた腕枝に加え地面から突き出す根までもが襲い掛かる。二人はそれぞれで迎撃、あるいは回避を選ぶが、攻撃の密度が高く反撃には踏み切れない。

 

「近距離じゃなくても根を伸ばしてくるようになったの、結構大変だねー! どうする、イルミネ! 何か策はあるー?」

 

「私ができることってもう外器くらいしかないわよ! サポート頼める!?」

 

「んんー……。いや、それならわたしが頑張るよ。ほっ……と、よし架かった、突撃ー!」

 

「む、無謀な……!」

 

「もうだいたい慣れたから! 〈血の刃〉からのもういっぱーつ!」

 

 イルミネの外器には複数の懸念事項がある、軽々に切るべきではないだろう。シヅキはそう考え、自身で打開を試みるためトレント本体の方向へ向け蛇腹剣を伸ばし、中間の地面へフックを架け一気に接近。

 牽引移動中に空中で身を捩りつつ剣を振るい、血の刃を飛ばして一気に3つの腕枝を断ち切った。

 

「……やる気のときはちゃんとカッコいいのよね。普段から常にああならいいのに……」

 

「聞こえてるよー! わたしはいつだってカッコいいし可愛いでしょ!! ……ほら、イルミネもこっちきて手伝って! 一々範囲攻撃避けるのも面倒だし、腕ひとつ残したままHP全部削り切っちゃおうよ!」

 

「これっ、近付くほど根の速度が上がるみたい、なん、だけどっ! 近付いて攻撃するのはちょっと厳しいから、こっちで腕枝を引き付けるわ!」

 

「わかった、よろしくー!」

 

 近距離の根を躱すため、シヅキはトレントの眼前でフックによる牽引移動を繰り返す。左右にくるくると宙を舞いながら血の刃を撃ち込み、かなりの勢いでトレントのHPを削っていく。

 

「わははは、これ楽し~!!」

 

「うわぁ、めちゃくちゃやるわね……。普通、加速やステップ系スキルなしにできる動きじゃあないでしょうに……っと」

 

 どうやらシヅキの狙い通り、腕枝が残っている限り範囲攻撃は行われないらしい。高速で振り回される腕枝を捌きつつ、イルミネは敵のHPゲージを注視する。

 シヅキの奮戦により、既にHPは40%を割り、30%に迫ろうとしていた。

 

「シヅキー! そろそろ敵HP30%よ! ここから25%辺りまではしっかり警戒なさい!」

 

「はいはぁーい! ……オワー接続外れた! 死ぬ!!」

 

「…………本当に大丈夫なのかしら」

 

 イルミネが注意を促すと、シヅキは軽く返事を返した。その直後、フックによる牽引に失敗し、ごろごろと無様に転がりながら根を躱すシヅキ。

 その姿を見て、イルミネの心に不安が募る。

 

 だが、イルミネの不安とは裏腹に、順調にトレントのHPは削られていった。時折失敗を挟みつつも、時間が経過するほどシヅキの動きは洗練されていく。

 トレントのHPは30%を切り、そのまま25%帯にまで至った。その途端トレントの葉が更に黒く染まり、シヅキ達に向かっていくつかの爆弾林檎が山なりに飛んでくる。

 

「パターン変化! 多分、通常時にも爆弾林檎を撃ってくるようになったわよ!!」

 

「ちょっ、これ……爆発範囲が分かんないからかなり怖いんだけど!?」

 

 今までとは違い、黒い爆弾林檎はフィールド全域にばらまかれるのではなく、シヅキ達を明確に狙って撃ち出されているらしい。黒い林檎が地面に触れた途端、そこを中心として赤い葉が円形に撒き散らされる。

 

「見た感じ接地した時点で爆発するみたいだから、とにかく距離を取りなさい! 自機狙いだから移動し続ければ当たらないはずよ!」

 

「腕枝と根、それに加えて爆弾! これだいぶキツくな~い!?」

 

 正面からは枝腕、地面からは根、そして空からは爆弾林檎。注意すべき攻撃の方向がそれぞれでかけ離れており、否応なしに意識が持っていかれる。だが、防御するだけではいつまで経っても戦いは終わらない。ここから攻撃にまで意識を割かなければならないというのは、シヅキ達にとってかなりの難題だ。

 

「アンタなら問題ないでしょ! ほらキリキリ働く!」

 

「無根拠な信頼……! じゃあイルミネも手伝ってよ~! 〈血の刃〉!」

 

「こっちはアンタと違って相性最悪なのよ! 腕枝引き付けてるだけでありがたいと思いなさい! くっ……〈スピードアップ〉〈ストレイトピアッシング〉!!」

 

 三面攻撃を躱しながら、遠距離攻撃スキルによってじりじりとHPを削っていく。気を抜けば崩れる、辛うじての優勢。だが、攻撃密度が高い分の差し引きなのか、トレントの攻撃パターンはそれ一辺倒で変化する様子がない。

 このままならなんとか削り切れるだろうか。シヅキの気がわずかに緩む。その瞬間、赤黒い刃が形を失い霧散、短剣の刀身が剥き出しになる。

 

「……あっやばっ、血の剣の効果切れた!」

 

「シヅキィ! いい加減にしろー!!」

 

「……いや仕方ないでしょ再使用する隙が無かったんだから! 攻守交替、今からはイルミネがメインで攻撃して! 〈マナシールド:強度1000〉…………〈セルフヒーリング〉!」

 

 再三警告したにも関わらず慢心気質が抜けず、結果この局面で致命的な失敗をしたシヅキに、イルミネが思わず本気で怒号を発する。

 だがしかし、たとえ油断していなかったとしても相手の攻撃に隙が無い以上血の剣の再使用は叶わなかったはずであり、つまりこれは不可抗力だ。決して自身が慢心したせいではない。

 シヅキは全力で開き直った。

 

「あーもう、やってやるわよ! 来なさい!〈外器(オーバーヴェセル):風雷槍エル・トール〉!!」

 

「〈血の刃〉! ……よし、爆弾林檎は飛び道具で破壊可能! これなら血の剣無しでもお馬鹿になってるイルミネの補助くらいはできそう!」

 

 ふと思い立ち、シヅキは上空に撃ち上げられた爆弾林檎へ向かって血の刃を飛ばす。すると、命中した瞬間爆弾林檎が破裂、上空で赤い葉を撒き散らしそのまま消滅した。どうやら爆弾林檎は攻撃を当てることで爆発を誘発できるらしい。

 

「だれがお馬鹿じゃおらー!!」

 

「オワーそれわたし! 今はPvPじゃないから! 敵はあっちだってあっち!」

 

 攻撃役を担うため、外器を発動したイルミネが真っ先にシヅキへ向かって突撃する。シヅキは残像しか見えない速度の刺突をなんとか躱し、慌ててイルミネの意識を誘導する。

 たとえシステム上フレンドリーファイアが存在しなくとも、この盤面で動きを妨害されると、そのまま敵の攻撃に巻き込まれて死にかねない。まったく洒落にならない行動だ。

 

「ふふふふふ……わかってるわよ。今のは冗談、そう、ちょっとした冗談じゃない……」

 

「その『ちょっとした冗談』で死にかねない状況なんだよねぇ! 早く攻撃! プリーズ!!」

 

「はいはいはい、わかったわよ、もう! ま、私に任せなさいな。あの程度の雑魚、あっという間に倒してあげるわ!」

 

「うわっダメそう! ……普段のわたしって端から見るとこんなふうに見えるのか。流石にちょっと反省しよ……」

 

 明らかに思考が蕩け、慢心しきっているイルミネ。言っていることは自身とそれほど大差ないのだが、逆に言えば素面なのにも関わらずこれと同レベルというのは、端から見ればかなりキツいだろう。

 シヅキは自らの普段の言動を自省する。

 

 そうしてシヅキが軽くヘコんでいる間にも、イルミネが凄まじい速度でトレントへと突貫していった。トレント本体に近いほど根の攻撃は苛烈になるはずだが、まるで苦にしているようには見えない。

 やはり外器(オーバーヴェセル)は相当な力を使用者に齎すようだ。これで精神への影響さえなければ正に『必殺技』と言えるのだが。

 

「あはっ、あははははは! 遅い遅い遅ぉい!」

 

「はー、よっと。あの様子なら、腕枝を適当に捌いて……っ、爆弾だけ潰してれば、すぐに終わりそうだなぁ……。〈血の刃〉~」

 

 

    ◇◇◇

 

 HPが尽きたエルダートレント・エヴィルが断末魔をあげ、ぼろぼろと崩れ落ち光となって消えていく。

 

「はー、けっこうな強敵だったねぇ。脅威度64は伊達じゃあない、か」

 

「ほらシヅキ、見なさい! これよ、これが目的のドロップアイテムよー!」

 

 シヅキへ向かってぶんぶんと手を振るイルミネ。その手には真っ黒な果実が握られている。

 

□□□□□□□□□□

堕落の林檎

素材アイテム(等級:Ⅳ)

悪に堕ちてしまった樹霊が実らせる、禁忌の果実。

ひとたび齧ってしまえば、その味に魂を魅了され、次なる果実を求め彷徨い続けることになるだろう。

 

所持数:6

□□□□□□□□□□

 

「……これ食べて大丈夫なの? 依存性とかない?」

 

「あっはー、これはゲームなのよ? そんなもの、あるわけがないじゃない! ……おいしー!」

 

 外器の影響で高揚感に満たされたままのイルミネが、入手した果実に早速口をつける。しゃきりと瑞々しい音が鳴り、齧られた断面からは真っ黒な果肉が顔を見せた。

 

「うわっもう食べてる……。戦闘は終わったんだからさ、もうそれ(外器)解除しない?」

 

 普段は冷静なイルミネが異様なテンションで行動しているのを見るのは、シヅキにとってはなんとも受け入れがたい。

 端的に言って、居心地が悪いのだ。

 

「んぐんぐ……にんい(任意)あいよ(解除)()えひない(できない)()

 

「なんて? ……あ、無理? じゃあ効果時間は?」

 

はん(さん)ふーん!」

 

「……。それくらいなら、まぁ……待つかぁ。…………うまっ」

 

 あと一、二分も待てば普段のイルミネに戻るらしい。シヅキはなにもかもを諦め、堕落の林檎を食べながらイルミネが平静を取り戻すのを待つことにした。

 

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Tips

『Unlimited Gruesome:Rabid運営チームからのお知らせ』

 お客様からお問い合わせを多数頂いておりますが、現段階においてUGRに一般的なゲームの範疇を超えた依存性は確認されておりません。安心してご利用ください。

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