痛苦と絶望のアングラゲーム ~凄惨たる死を想う少女の過激で危険な電脳遊戯~   作:兎乃葵

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戦闘パート書くのが楽しくて導入部がやたら長くなってしまったので前後編構成です


間章:敗北if(エルダーリッチ・エヴィル)前編

 『汚染された霊廟』入り口。インスタンスダンジョンのボスであるエルダーリッチ・エヴィルが打撃の積み重ねで死亡したため、シヅキは一度リスポーン地点まで戻り赤き呪縛を解除した後、ここへ再びやってきた。

 

「〈外器(オーバーヴェセル):赤き鮮烈なる(レッドラッド)…………あっ、そういえば、血の鎖を習得してから外器(オーバーヴェセル)なしで真面目に戦ったことってもしかして一度もない? ……ふむ、稼ぎ作業も飽きてきたし、ちょっと一回赤き鮮烈なる死(レッドラッドデッド)の使用を縛って普通に攻略してみようかな」

 

 稼ぎ作業としては道中を無視してボスへと素早く辿り着くのが最も効率的だ。そのため今回もシヅキはそうしようとしたが、そのとき不意にとある考えが浮かんだ。

 そういえば、血の鎖を習得してから通常(正気)の状態での戦闘は一度も行っていない。

 

 外器(オーバーヴェセル)使用中の高揚状態でも扱えている以上は通常時でも問題なく利用できるとは思うが、念の為だ。気晴らしも兼ねて、一度くらいは赤き鮮烈なる死(レッドラッドデッド)抜きでここをクリアするのに挑戦しても良いだろう。

 シヅキは外器(オーバーヴェセル)の使用を中断し、『汚染された霊廟』をぽてぽてと歩き始めた。

 

 

    ◇◇◇

 

「ボスフロア到着……っと。なんだ、外器(オーバーヴェセル)抜きでも結構いけるじゃん。鎖一つで機動補助と動作妨害どっちもできるの、すっごく便利~」

 

 『汚染された霊廟』のエネミーはいずれもアンデッドであり、力こそ強いが質量が軽く、動きに重さがない。鎖で剣を受け止めるのは難しくとも、足を引っ掻け体勢を崩すのは非常に容易だった。

 そして、たとえ骨や腐肉で構成されていようとも概ね人型の存在である以上、一度転ばせてしまえばあとは簡単だ。血の鎖で背を押さえつけ、首を刈るだけでいい。

 

 敵が対処できないほどの頭数を揃えてきたのなら、血の鎖を足場とし、相手の攻撃が届かない高みへと移動。そこから下へ向けて血の刃を撃ち下ろす。それだけで知性のないアンデッドには対処のしようがないのだ。

 事実上空中すべてを足場にでき、こちらだけが三次元的機動を行える以上は遠距離攻撃による反撃も苦にならない。

 

「これならボスも楽勝だね! ここのボスの行動なんて取り巻き召喚しか見たことないから、実質的には初見攻略みたいなものだけど……まぁなんとかなるでしょ」

 

 稼ぎ作業によってボスの討伐こそ複数回行っているが、それらは全て取り巻き召喚だけを誘発させ他の行動を取らせないままHPを削り切る形で行われた。

 そのため、シヅキはボスである『エルダーリッチ・エヴィル』の行動パターンを全く把握していない。名前や外見、取り巻きの種類(典型的な前衛型)を考慮するなら恐らくは遠距離攻撃を豊富に持った後衛タイプなのだろうとは思うが、それ以外のことは何一つ分からないのだ。

 だが、そんなことはシヅキにとっては問題にならない。所詮は脅威度110程度(・・)だ、自らが負ける要素などない。

 そんないつも通りの慢心気質を発揮し、恐れることなくボスのいる大部屋へと踏み込んだ。

 

『Guahahahahaha……』

 

「やぁや、素面で会うのははじめましてだねぇ。ちょっとわたしの性能調査に付き合ってもらうよ。〈血の剣〉、〈セルフヒーリング〉……」

 

 シヅキが部屋に踏み込んだ途端、どこからともなく(黒い靄)が生じ、部屋の中央、空中へと集まっていく。

 おどろおどろしい嗤い声が響くが、シヅキは既に聞き慣れている。大して気にもせず、両の手の短剣に血の刀身を生成した。

 

 倒れたシヅキが起き上がる頃には、エルダーリッチは既に取り巻きの召喚を終えていた。盾と剣を携えた黒い骸骨、『スケルトンナイト・エヴィル』が二体、エルダーリッチを守るように立ち塞がる。

 

「うぅん、遠距離攻撃主体だよね? そうだな……〈マナシールド:強度100〉……これでよし。さー、まずは取り巻き排除だ!〈血の鎖〉!」

 

 シヅキは血の鎖を多重に呼び出し、スケルトンナイトをその場に釘付けにする。だが、すぐに鎖が軋む耳に悪い音が聞こえてくる。

 アンデッドは総じて膂力(STR)に優れており、それはスケルトン系エネミーも例外ではない。骨の身体のどこにそんな力があるのか、シヅキが首や腰の要点を抑えるように生成した鎖をスケルトンナイト達は容易く引き千切っていく。

 

「強度は数で補う!〈血の鎖〉……〈血の刃〉!」

 

 だが、血の鎖はCT(クールタイム)が存在しないという明確な強みがある。破壊された傍から新たに生成し、二体の行動を阻害し続ける。そのまま片方のスケルトンナイトへ接近しつつ、シヅキは横薙ぎに血の刃を連射しスケルトンナイトの首を狙って攻撃を加えていく。

 狙われたスケルトンナイトは鎖を引き千切るのを中断して、盾を構え刃を防ぐ。だが、総金属製と思わしき重圧な盾は血の刃を受け止められず、斬撃は貫通し、スケルトンナイト本体をも傷付けた。

 

 シヅキのビルドはあらゆるスペックが貧弱だが、唯一武器攻撃力だけは〈血の剣〉の効果によって外器(オーバーヴェセル)がなくとも凄まじい値を誇る。真なる龍種の鱗を穿つ刃なのだ、金属製の盾程度なんということはない。

 だが、盾を間に挟んだことで多少勢いは減じてしまったらしく、スケルトンナイトの片腕にぶつかったところで血色の刃は飛散してしまった。

 

「むっ、〈血のやい──っ!?」

 

 仕留めきれなかったのを見て、駆けながらシヅキは追撃の刃を繰り出そうとする。だがその瞬間、シヅキの頭上で何かが割れるような大きな音がした。

 思わず頭上を見ると、そこには水色の板(マナシールド)と砕け散った巨大な氷。おそらくはシヅキの直上、視界外からの攻撃をマナシールドが自動的に防いだのだろう。水色の板には大きな罅が入り、今にも砕けそうだ。

 

「氷!? ……あっ、氷柱か! "エヴィル"なんだから、もっと闇属性の分かりやすい攻撃やってよ!」

 

 大部屋の天井には氷柱がいくつも垂れ下がっているが、あれが偶然シヅキに向けて落ちたという訳ではないだろう。ただの物理現象がマナシールドに罅を入れられるとは思えない。

 そうである以上、これはきっとエルダーリッチによる魔法攻撃だ。攻撃の基点が視界外とは、なんとも厄介な。

 

 シヅキがそちらに気を取られている間に、取り巻きのスケルトンナイト達も血の鎖による拘束を脱してしまったらしい。がしゃがしゃとシヅキに向かって駆け寄ってくる音が聞こえる。前方では、エルダーリッチの錫杖を基点として青白い魔法陣が浮かび上がる。更なる魔法の予兆動作だろう。

 

「んんー……ピンチ! でもここで縛りを解除するのは負けた気がする……! 〈血の刃〉!!」

 

 魔法の形態を取っている以上は攻撃を加えれば動作を中断できるのではないだろうか。希望的観測に従いシヅキはエルダーリッチへ血の刃を飛ばし、肉薄してきたスケルトンナイト達と切り結ぶ。

 彼ら(彼女らかもしれない)は膂力こそ凄まじいが、技術は拙く、本体の質量は軽い。

 シヅキが剣撃を適当にいなしつつ、先ほど盾を破壊した方のスケルトンナイトへ蹴りを見舞うと、シヅキの貧弱な膂力から繰り出された蹴りとは思えないほど大きく姿勢を崩すことに成功した。

 

「やった、これなら────」

 

 蹴り一つで数的優位を覆せるのなら、近接役が二体いようとそう苦ではない。シヅキがそう喜んだ瞬間────再び頭上から響く大音響。先ほどと同じ氷柱攻撃だ。

 それに続いて、ぱらぱらと砕けた氷がシヅキへと降りかかる。二発目の氷柱を受け、マナシールドは完全に破壊されてしまったらしい。

 

「だああ警戒すべき対象が多い!!〈マナシー────あっCT!」

 

 スケルトンナイトの剣撃を躱しながら、シヅキは再びマナシールドの使用を試みた。だが、〈生命転換〉の効果によりCTは三倍の時間に膨れ上がっている。先ほどの使用から90秒経たなければ再使用は不可能だ。

 だが、マナシールドが無いと頭上からの攻撃は非常に恐ろしい、警戒すべきものへと変わる。当然シヅキの注意力は頭上へ割かれ、スケルトンナイトへ攻撃を加える余裕も失われる。

 

「〈血の鎖〉〈血の鎖〉〈血の鎖〉……!」

 

 ここは仕切り直すしかない。血色の鎖を複数展開してスケルトンナイトの動きを少しの間阻害し、その間にシヅキは牽引移動によって距離を取る。

 遠距離火力役(エルダーリッチ)との距離まで離れてしまうのは困るが、あのままでは手数の差で押し切られていただろう、仕方のないことと割り切った。

 駆け寄ってくるスケルトンナイトへ向けて血の刃を飛ばしつつCTの経過を待っていると、エルダーリッチが今度は黒い魔法陣を展開しているのが見えた。

 シヅキは頭上を警戒するが、視線を逸らした瞬間魔法陣が弾け、黒い羽根のような小さな刃が八枚、シヅキへ向かって高速で飛んできた。

 

「あっめちゃくちゃ単純な攻撃! 氷柱やめてそれだけやってて欲し────い゙っ……!? ……! …………!?」

 

 若干の追尾性を有した刃を、シヅキは走ることで躱していく。位置の都合上躱せそうにないものは剣で弾こうとして────黒い刃は剣をすり抜け(・・・・・・)、シヅキの腕へ突き立った。

 

 前腕に深々と突き刺さった割には痛みは一瞬で、血の一筋も流れていない。どうやら物理的な実体を持たない飛び道具のようだ。

 だが、その刃を受けたシヅキの様子が一変する。何か焦ったような素振りを見せ、口をぱくぱくと開閉しているが、その喉からは意味のある音は出てこない。

 

 状態異常(バッドステート)『沈黙』。発話を封じる効果を持ち、副次効果として(・・・・・・・)スキルの発動をも妨害する強力な妨害効果を持つものだ。

 封じるのは発話だけであり、動作ショートカットによるスキルの発動は可能だ。だが、シヅキがショートカット登録しているスキルは血の刃と血の鎖のみ。肝心要のマナシールドは発動できない。

 なによりも────

 

(やばいやばいやばいっ……! 最悪の場合でも赤き鮮烈なる死(レッドラッドデッド)解禁して全部薙ぎ倒せばいいっていうわたしの完璧な計画が……!!)

 

 スキルの発動を封じられ狼狽するシヅキ。そこへ畳み掛けるように、拘束から脱したスケルトンナイトが斬りかかる。迫りくる剛剣をなんとか躱すが、頭上が気になって反撃がままならない。

 そうしてまごついている間にもエルダーリッチが新たな魔法を発動し、巨大な氷の弾丸が二つ、ゆったりとした速度で迫ってくるのが見えた。

 

(いや物量差!! ちょっと、これ洒落になんないんだけど!? ────あっ、やばっ)

 

 氷の弾丸に剣撃、更には頭上からの氷柱。警戒すべき対象があまりにも多く、シヅキの意識がどうしようもなく散らされる。

 

 その状況で足元にまで注意が回るはずもなく、落ちていた氷の欠片────氷柱攻撃の残渣────を踏んだシヅキの体勢がどうしようもないほどに崩れ……

 そして、スケルトンナイトの振るった刃が、遂にシヅキの首を断ち切った。

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