転生TS吸血鬼さんは灰になりたい   作:銀髪幼女

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おうちがありんこの巣になったので初投稿です。


第一章
ぷろろーぐ


『吸血鬼』

 

 それは、白髪に紅色の瞳を宿し、絹のように繊細な真白の肌をした、人と同じ見た目をした、人ではない存在。

 文献から、彼らは少なくとも1500年程前からこの世界にいたとされる。

 だが、歴史の表舞台に顔を出さず、吸血の種であるにもかかわらず人を襲わなかったことからことから、彼らに白羽の矢が立つことはなかった。

 

 ——彼女が現れるまでは。

 

 彼女の名は「始原の吸血鬼」

 

 とある文献によれば、彼女は二千年以上の時を生きる強大な力を持った魔物であり、たった一人でかつて繁栄していた人の国を壊滅させ、最古の吸血鬼として他の吸血鬼を傘下の僕とし、複数の幹部と共にかつて滅ぼした古城に住まう、魔王ですら恐れ慄く悪魔である、とされている。

 

 また、とある報告では、王国のAランク冒険者パーティーを単騎で壊滅させ、殺すことなく血だけを取りその場を離れた吸血鬼の少年がいた、と記述されている。

 冒険者がその少年に『お前は何者だ』と問うと『始原様の忠実なる僕』と答えたという。

 

 Aランク冒険者のパーティーを単騎で壊滅にまで追い込む力を持った吸血鬼を従え使役する原初の吸血鬼、彼女の噂や逸話は年を経るにつれて次第に増えていった。

 

 

 曰く、古国を一夜にして滅ぼした。

 曰く、2000年間生き続け、強大な力のもと滅ぼした古国の人々を吸血鬼のための奴隷としてかっている。

 曰く、精神力の弱いものは目が合うと精神崩壊を起こす。

 

 実際に、有力だとされる歴史書の中には彼女のいくつかの特徴とそれを表した言葉が記されいる。

 人の少女と変わらぬ小柄で長い白髪、真紅の瞳と陶磁器のごとく真白な肌をした少女、伝承通りの吸血鬼の姿。

『夜闇』『血鬼』『悪魔』『篭絡』

 —―そして、『黒靄』

 

 

 しかし彼女は、その強大な力と噂話とは裏腹に、表舞台にはほとんど顔を出していない。

 その理由は数百年たった今でも議論されつづけているが、

 一つ有力な説がある。

 それは、彼女が吸血鬼たちが作った偶像だから、だ。

 

 実際、彼女自身が人間を刈っているという報告も、彼女の姿を見たという報告も一切上がっていない。

 何人かの学者が、本当は始原の吸血鬼の存在なんてなく、

 あるのは強大な魔力と多数の配下を従えた魔王クラスの吸血鬼たちが複数体いるだけであるという論文を発表したほどである。

 

 これがもし本当なら世界が覆ってしまうほどの発見だ。

 何故なら、すでにいくつかの国が彼ら吸血鬼とその噂によって破滅の道をたどり、

 討伐隊を送り彼らを駆逐しようものなら、表舞台に出てくる幹部たちよりも圧倒的に強いであろう始祖の吸血鬼を相手に戦わなくてはならないという定説が立っているからだ。

 

 しかしそれはすぐに否定された。

 彼らがその論文を出した数年後に始祖の吸血鬼が表舞台に現れ、かつそれを見たという目撃証言、吸血鬼たちが住んでいるといわれる古城から偵察隊の前哨基地を見つめる伝承通りの吸血鬼――始祖の吸血鬼の姿が確認された。

 

 苦しくも始祖の吸血鬼の存在は世界に認められ、激震を走らせることになった。

 始祖の吸血鬼が存在する、たったそれだけで、人間たちは恐怖し、混乱した。

 

 伝承通りの姿の吸血鬼がそこにいたということは、つまり、これまであったすべての伝承が真実であるということの裏付けに他ならない。

 魔王ですら恐れ慄く吸血鬼。確かに、近年魔王軍はその動向を止めている。

 

 また、この時彼女の姿を確認した調査隊の隊員たちの多くは、目が合ったことで精神崩壊を起こし、吸血鬼という単語をきいただけで目に涙を浮かべ、恐怖に震え発狂するようになってしまった。

 

 このことから伝承にある精神崩壊の記述も真実であると証明され、始まりの吸血鬼を危険視する声が王国内で多く上がり始める。

 

 もう人間側に勝利はない、いつか王国は滅ぼされてしまう。

 誰もがそう思っていた。

 

 しかし、それは早計であった。

 

 

 

 王国は会議に次ぐ会議によって要人の意見を合わせ、国王声明を発表する。

 

『勇者に付き、始まりの吸血鬼たちを駆逐せん』

 

 吸血鬼たちが古国を滅ぼしたという古書の記述、意志の弱い人間は目が合うと洗脳されるという過去の文献、そして人間牧場。

 そんな彼ら吸血鬼は、うわさの範疇を超えて、ついに姿を出し始めた。

 それも最悪の形で。

 

 始まりの吸血鬼発見から一カ月後、一人の人間が王宮謁見の間に呼ばれた。

 

 勇者一族の血を引く者。

 

 魔王軍から人間の国を守るために500年前に異世界から召喚されたこの世でただ一人聖剣を扱える者、その正統な血を引く一族の末裔。

 

 Aランク冒険者アレン

 

 生まれ持ったその驚異的な身体能力、求心力でAランク冒険者の地位まで上り詰めた彼に、国王が聖剣を授ける。

 

 王国全土を巻き込み行われたそれは、同時に、国内に希望を与えることとなった。

 

 彼の授けられた聖剣には神の御加護と呼ばれる能力が宿っている。

 彼ら一族のその腕には救世主の烙印が押されている。

 うやうやしく頭を垂れてその聖剣に触れ、彼は声高々に宣言する。

 

『私は勇者アレン、リンデル・ウィリアム・ラミリス陛下から承りしこの聖剣をもってして、必ずかの邪知暴虐の悪魔、始祖の吸血鬼なる存在を討伐することを誓おう!!』

 

 ――と。

 

 その日、全国民が歓喜した。

 

 そのために新設された軍は、異世界より来たりし者の血を引く勇者、魔法大学きっての優秀な魔術師、近衛騎士団の団長である剣士、そして王国の催事を担当する聖女、彼らを筆頭に優秀な者たちで構成された十万人規模の大隊『討魔軍』。

 

 彼らはすぐに王都を旅立ち吸血鬼たちの根城となった古城のもとに向かった。

 討魔遠征と呼ばれるその旅路は、人々に大きな希望を与えた。

 

 旅立ちから半年後、彼ら勇者一行は吸血鬼たちの住む古城に到着する。

 王の命にこたえるために進み続けていた彼らは、古城にたどり着き、絶望した。

 

 始祖の吸血鬼はおろか、幹部にすら到達しえない。

 古城、いや。

 古国そのものが吸血鬼たちの根城だったのだ。

 

 

 

 ***

 

 そんな王国の脅威とされている始まりの吸血鬼、2000年前のこの世界に、月の女神によって異世界から転生させられた存在である彼女の本当の姿を、皆さんにお見せしよう――。

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