転生TS吸血鬼さんは灰になりたい   作:銀髪幼女

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第二話 始まりと吸血鬼

 ラミリス王国

 

 政治の中心である王城の一階、西側通路の奥の端の一角、

 この国のほとんどすべての政が行われる場所、会議室。

 

 その場所に、俺たちは召集された。

 

 ラミリス王国は広大な土地を持つ大陸随一の国家だ。大昔とある魔女が引き起こした戦争により大陸全土が魔力災害に見舞われたが、紆余曲折あり奇跡的な復興を遂げた、千年以上の歴史を持つ由緒正しき強国。

しかし、この長い歴史の中でも、今の状況は異例と言えた。

 

『始原の吸血鬼』

 

 始まりの吸血鬼とも呼ばれるある特殊な魔個体が出現したのだ。

 彼女が歴史に姿を現したのはつい最近の事だ。

 それまでは、歴史の表舞台にほとんど立たず、文献にも当たり障りない吸血鬼の特徴が描かれているだけだったことから、頭脳派の吸血鬼が作った彼らをまとめ上げるための偶像ではないかという説すらあった。

 

 しかしそれは否定された。

 

 彼女たちの根城が追跡隊によって発見され、それが何者かによって滅ぼされた古国だったことが判明した。

 

 出会った人間や、農村の家畜など、なんでも見境なく襲っていく彼らを危険視する声は当たり前に多く、吸血鬼たちの住処である城から人間一万人分以上離れた距離にある偵察隊の前哨基地を覗きこむ、伝承通りの始まりの吸血鬼の姿が確認され、それを発見した偵察隊の全員が何らかの体調不良、その中の半数ほどが発狂による精神崩壊を起こした。

 

 と、まあここまでが国民にも伝わっている吸血鬼たちの危険度にまつわる話だ。

 

 ここから先、この会議室での話し合いは国の最高機密だ。

 重苦しい雰囲気と夏にふさわしい熱気で額から汗が伝ってくる。

 

 会議室の壁には、そのいたるところにきらびやかな装飾がなされている。

 その装飾で家庭一つが幸せになれそうなほど美しく、歴史のある高価なものだ。

 会議室だけではない、この王城全体がそうだ。

 

 しかし、そんな美しいはずの装飾が、今日は全く持って美しくない。

 それどころか吐き気を催すほどに汚く見える。

 

 快晴の外とは似ても似つかないこの空間、装飾が悪いわけではない、ただ、見たことないのだ。

 国王のこの苦い顔と、周りの貴族や研究者のような者どもの重苦しい顔を。

 

 

 ***

 

「わかるであろうが、今日、みなに集まってもらったのには理由がある」

 

 国王が口を開いたとき、その場の全員の緊張感が最高潮に達した。

 この老人の顔面は怖い。年を取っているだけなのに無駄に威厳がある。

 

 年齢相応の深いしわを両頬に刻み、鋭い眼光と長身、不協和なほどに筋肉質な体。

 

 この爺は絶対に何人か殺してる。うん、そうに違いない。

 そう思わせるほどに恐怖を感じる風采なのだ。

 

「始まりの、始原の吸血鬼ですね……?」

 

 貴族の一人が恐る恐るといったように返事をする。

 その声色の端々から畏敬の念を感じる。

 この貴族は確か、序列三位の有力な貴族だ。

 国王から直々に大きな領土を受け渡され、そこを収めつつ事業を大成功させた今この国で一番経済力があるであろう貴族だ。

 その貴族が王に返事をするのだから、みなの緊張は一層高くなる。

 

「そうだ、かの吸血鬼……。始原、彼女は、危険だ」

 

 国王が絞り出すように言ったその言葉には、悲しみや恨み、憎しみといった負の感情が綯交ぜになったような、どうしようもない怒りをが含まれているように感じた。

 

「ザビウェル、彼女についてわかっていることを話してくれないか」

「えぇえ。国王陛下殿、もちろんでございます。この私ザビウェルが、かの吸血鬼についてわかっていることを全てお話いたしましょう」

 

 深々と、恭しく頭を下げたこの禿げ男は、国王がそう呼んだように名前をザビウェルという。

 確か、魔物の研究を家業としている男だ。

 特徴的な話し方。禿げ頭。金持ち。

 

 どこか不潔な印象は、冒険者ギルド内で行われた嫌いな偉い人ランキングで堂々2位だった。そこまで行ったならもっと頑張れよ。

 

「まずは吸血鬼の歴史から話していきたいと思います。

 吸血鬼とはそもそも魔物に分類される人型の生物です。

 彼らの歴史は浅く、数百年前から急にその数を増やしたという事と、動物の血液のみでしか生き長らえることができない事以外はよくわかっておりません」

 

 ザビエルは、会議に出席している全員の顔を等分に見てから話を続ける。

 

「そんな吸血鬼たちが、なぜ急に人々の前に姿を現したのか。

 それは以前、私の編制した追跡隊が証明したように、始原の吸血鬼の存在が偶像ではなく、さらに組織化し、その上古国の城に住んでいるからです。

 おそらく、彼ら吸血鬼は、彼女――始原の吸血鬼に仕える形で組織化しているのでしょう」

「戯言を。そこまではわかっておるのだ。本題に入れ」

 

 全員が息をのんだ、国王の、ただでさえ根源的恐怖を覚える顔面が、怒りにゆがんだように見えたからだ。

 脂汗と、つんとした匂いが会議室いっぱいに広がる。

 

「申し訳ございません、それでは――。

 本題といたしましては、その吸血鬼たちが住処としている古国についてですが……」

「ほう?」

「歴史上のどの文献にも、正式な形ではあの国にまつわる記述はない。それに、吸血鬼は最近になって姿を現し始めた……少なくとも二千年前からはいたはずにも関わらず」

「……」

 

 その古国の城、仮に古城と呼ぶとしたら、その古城は最近になって発見されたこのあたりで一番古い国にある。

 その歴史のある国が文献にも残っていないなんて考えられない。

 いや、正確には文献には残っている。だが、それはもはや神話の類なのだ。

 まるでそれまで姿を隠されていたかのように、ひた隠しにされていたかのように。

 その場を通る調査隊や対魔族の遠征隊など数知れずいるというのに、その国の遺跡が見つかることはなかった。

 それに、最近になって発見された城に住んでいるのは二千年間生きているという噂の吸血鬼と来た。

 

「そのことから導きだせることは――」

 

 その場にいた全員が息をのみ、ハゲの言葉を待っている。

 

「――彼らがその国を滅ぼし、さらに自分たちの姿を歴史に残さないように文献を消した、そうではありませんか?」

 

 国王がうなり、貴族たちが顎やら額やらに手を当てている。

 

 確かに、ザビウェルの言っていることは的を射ている。

 しかし、それでもまだ疑問は残る。

 仮に本当にそうだったとして、ならばなぜ彼らが人間を刈りだしたのが、ここ数年のこととなったのだろうか。

 

 それに、彼らに国一つを滅ぼす力があって、なぜ人間を襲うときに殺さないのか。

 古国を滅ぼすような気性の荒い種族なら、もうとっくに俺たちの国も壊滅していたはずだ。

 

 

「ここから私は、もう一つの可能性を考えました。

 それは、吸血鬼たちが滅ぼした国の人間たちを使って、人間たちを吸血鬼のための牧場のような形で奴隷化しているのではないか、と」

 

 ザビウェルがそういった瞬間に、その場が騒がしくなる。

 貴族たちが騒ぎ立てている。

 

 ザビウェルの話をまとめると、神話の古国を滅ぼしたのが吸血鬼たちで、その吸血鬼たちはその時の人間たちを自分たちのために奴隷として働かせていた。

 

 だとしたらこの国の人間を襲う意味なんてあるのか?

 牧場化していて、かつ奴隷化しているのなら人間なんて外からとってこなくても生きていけるはずだ。

 それに、それを指導したの始原の吸血鬼なら、きっと彼女は頭がいい。

 そんな彼女が人間牧場を作っておきながら外に被害を出すか?

 

 解せない、どこかに疑問が残る。

 

「ちょっといいですか、一つ疑問があります」

「よかろうアレン、話してみよ」

「ありがとうございます。

 私の疑問はこうです、古国を吸血鬼たちが滅ぼした上にしばらく人間に被害が出なかったのは、確かに人間牧場の話を裏付けているでしょう。ただしそれはあくまで仮定の話です。その上で問います。

 ならば、なぜ彼らは最近になって人間を襲い始めたのですか?」

 

 頭のいい彼女がそう簡単に人間に被害を出すわけがない。

 これはあくまで憶測だが、彼女が人間を狙うのであれば、なにか絶対的な理由があるはずだ。

 

「簡単なことです

 その牧場が破綻したのでしょう」

「は?」

 

 そんなことが、あるのか?

 千年間も続いた人間牧場が、破綻することなんてあるのか?

 人間の寿命は大体七十年だ。

 そうなれば千年間では十世代以上の人間が生まれるはず。

 

 その最後の方にもなれば、俺たちが歴史の千年前をさかのぼれないのと同じように、彼らも自分たちがどんな歴史をたどったかなんてわからないはずだ。

 

「いいですか、勇者アレン

 人間とは脆い物なのです、毎日魔物と向き合っていればわかる、人間は脆いのです」

「……?」

「父から子へ、そのまた子へ、脈々と受け継がれていくことの中で、伝承なんてものも語られていくのでしょう」

 

 伝承?なんの話をしているんだ?

 それに、人間は脆い?

 こいつの人の事を心底馬鹿にした態度がいけ好かない。

 

 何を言っているんだ、こいつは。

 

「あなたは、子供のころ、父や母から伝説を聞きませんでしたか?

 例えば、そう、勇者についてとか」

「聞きましたね、それがどうかしたのですか?」

「あなたはそれを、子供ができたときにその子に話すでしょう?」

「そうですね、それがなんだというのですか?」

「ええ、ならわかるはずです

 言伝で現在の状況が伝わっている、これが普通ではないと、伝えられてきたのです」

「……!!」

 

 そうか、俺が勇者召喚によって召喚された異世界からの血筋であることを、誰も証明できないのに信じているのは、それを信じるに足る根拠なんてものがなくても信じてしまっているのは、あの優しい父と、美しい母親がそれを語って聞かせてくれたからだ。

 

 そうか、そういうことだったのか。

 

「なるほど、彼ら奴隷たちは言伝にそれを聞き、自分たちの状況について把握し続けていた、と」

「ええ、ですが、それだけではありませんよ」

 

 ザビウェルが下卑た笑みを浮かべて続ける。

 

「それだけでは、疑問が残りますねえ?

 それは、ならばどうやって牧場が破綻したのか、です。

 彼らがそれを当たり前だと思っていたのなら、破綻することはなかったしかし。

 当たり前ではないと気づいていながらも破綻することはないでしょう。これは、なんでだと思いますか?」

「それは、わかりません……」

 

 また、ザビウェルが、こんどは下卑た笑みを浮かべて続ける。

 

「自殺、でしょうね」

「自殺?

 禁忌なのではないですか?」

「ええ、あなたたちの価値観ではそうなのかもしれませんが、もし古国の住人がそれを禁忌としていなかったとしたら、もし古国の住人が子孫を不幸な目に合わないように、と集団で自殺をしたら……。

 この人間牧場は破綻しますね?」

「……そうですね」

 

 吸血鬼たちの作った人間牧場は、千年間で破綻して、崩壊した。

 なるほど、実にわかりやすい意見だ。

 その話し方を省けば、かなり頭の切れる優秀な人間に違いない。

 もっとも、切れているのはその毛根なわけだが。

 

「アレン、ザビウェル、そこまでにしておけ。

 本題に移らせてもらおう」

 

 王の一言で、その場にいた貴族、ザビウェル、ザビウェルに付いている研究員が服のすそを整えたようで、会議室中で布の擦れた音がした。

 

「では、いかにすれば吸血鬼たちを討伐できるのか、話し合おうではないか」

「はっ!!」

 

 その場にいた全員がうなずき、威勢の良い返事をした。

 

 ***

 

 

 その後会議は俺の提案した『騎士団が幹部の二人と戦闘し、その隙に俺が始まりの吸血鬼を一騎打ちで打ち取る』という作戦に落ち着いた。

 魔術師、聖女はそれぞれ支援攻撃、支援魔法で応戦をする遠距離でのサポートをすることになり、これから出立の日までに彼らと打ち合わせをしつつ、明日は王都を凱旋するらしい。

 

 正直、勇者としてSランク冒険者に格上げされたときは浮かれていたが、始まりを吸血鬼の逸話や危険性を鑑みても、これほどまでに危険な任務はこれまでもこれからもないだろう。

 

 これができるのは俺たちしかいない、この聖剣を受け継ぎしこの勇者アレンしか、いないだろう。

 

 その日俺はパーティーメンバーを集めて、酒場で飲み散らかした、そのせいかは知らないが、先ほどからずっと頭が痛い。

 早めに寝てしまった方が、明日の自分のためにも、国民のためにもいいのかもしれない。

 俺は幼馴染で俺のパーティーの魔術師アリサの横顔を見た。

 薄桃色に色付いた微笑を浮かべ、あどけない寝顔を晒す少女に、そっと瞼を閉じ、眠りについた。




作者です。どうしようもない地方都市以下の田舎配備の自立型空想製造機です。パクリです。

読んでいただきありがとうございます。
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