仮面ライダーブリランテ   作:マフ30

9 / 9
皆さま、いつもお世話になっています。
意外と早くブリランテの番外編を書くことになりました。
今回は特別にハーメルンジェネレーションズ参戦作品の中から素敵なゲストが登場してくださっています。
今回のお話はいくつかゲスト作品様のネタバレにも触れる内容になっておりますのでご了承ください。


EXTRA
番外編 銃士と騎士(ガン×ソード)


 

 

 夕闇の空に羽音が聞こえたら、それは命の危機が迫っているサインだ。

 すぐに逃げろ。

 何を大袈裟なことをと失笑することだろう。

 確かに平和な世界でならばその通りだ。

 精々、黄昏時に空を舞う蝙蝠に脅かされるぐらいが関の山だ。

 けれど、この世界では違う。

 

『ギキィイイイイイイィ――!!』

 

 額から二本の角を生やしトカゲと山羊の中間のような顔。

 猿に似ているが体毛はなく筋張った皮膚に鋭い爪を持った長い手足。

 蝙蝠のような大きな翼と長く先が尖った尻尾。

 真柴の体色をしたこの世の物とは思えない異形――悪魔だ。

 

 こことは違う異界(どこか)から、この世界のどこにでも出現する災厄。

 今宵もまた数体の下級悪魔(レッサーデモン)が闇から這い出て人間を襲っていた。

 長閑な片田舎にある小さな町の一角で。

 耳障りな羽音をバサバサと鳴らして下級悪魔の一体が逃げ遅れた子供に狙いを定めて鋭い爪を突き立てんとする。

 

「はあっ!」

 

 けれど、悪魔の目論見は叶わなかった。

 不気味な異形の爪が子供の肉を裂くよりも速く白光の剣閃が悪魔を斬り払った。

 悪魔退治を生業にする掃除屋が間に合ったのだろうか?

 襲われていた子供が怯えながらゆっくりと目を開くとそこにいたのは仮面で素顔を覆い隠した人型が立っていた。

 

「もう大丈夫」

 

 仮面の人物が呟いたその言葉を怯えて震えている子供が聞き取った頃には恐ろしい悪魔たちは全て退治されてしまっていた。迷いのない切っ先が瞬く間に下級悪魔たちを斬り捨てていたのである。

 

「……初めてみる怪人だったな」

 

 握り締めた白刃をゆっくりと降ろして残心を取りながら、仮面の人はぽつりと独白すると静かな動作で間一髪助けることが出来た子供の方へと体を向けた。

 

「もう大丈夫。安心しておうちへお帰り」

 

 近くにあった倉庫の窓ガラスが鏡のように映し出すそれはまるで騎士の姿をしていた。

 白い鎧を身に纏い、剣を持った仮面の騎士は優しい声で子供を見送ると人知れず路地裏の闇の中へと消えていった。 

 

 

 

 

 白い仮面の騎士が突発的に出現した下級悪魔たちを退治したその日の夜のことだった。

 ある数奇な出会いと体験をした男が一人、この町にはいた。

 平凡な男だった。

 なんの面白みもないこの片田舎の町に相応しいような普通の男だった。

 悪魔が出現するこの世界においても幸か不幸か別段危険に晒されることもなく安寧に生きてきた人種の男だった。

 

『疲れた顔をしているねえ、そこのキミ――』

 

 安定はしているが刺激のない仕事をこなして、ゆるやかに老いていく両親と自分という現実から目を背けて、変化のない平和なだけの日々を繰り返して、無為に浪費する男。

 

『退屈なんだろう面白みのない人生が? そんな君の毎日を君の思うがままにできる機会を与えようじゃないか』

 

 そんな男に狙いを定めて異世界からの来訪者は囁く。

 平穏を壊せと、普通を崩せと、世界を掻き乱せと。

 

『さあ、我々を受け入れろ――愚かな世界の一欠片』

 

 男の目の前に突如として現れた極彩色の火の玉は男の精神をあっという間に掌握すると水が真綿に沁み込むように男の全てを侵略、そして肉体を素材に高次元生命体(おのれ)に相応しい異形を構築していく。

 

『我は汝、汝は我――いま我ら完全の一として、喝采を受け顕現しよう。我らが名はメタロー』

 

 妖しげな光が収まるとそこには悪魔とは異なる一つの異形が立っていた。

 本来ならばこの世界に存在してはならない異形。

 この世界をも見つけ出し、滅ぼすためにやって来た脅威。

 

『同胞たちよ、聞こえるか? 新たに発見した世界にて無事に怪人体での顕現に成功した。同時に観測した結果――この世界には仮面ライダーが存在する』

『おめでとう。素晴らしい成果だ。我らが統括長ネメシス様も喜ぶことだろう。すぐに増援を派遣する』

 

 夜闇にて佇む異形は精神同期と呼ばれる彼らが持つ特殊能力を使ってこことは別の世界にいる同胞たちへとこの世界の情報を送信していた。更には侵略のための応援の手筈までが恐るべき速さで進行されていく。

 

『今回は奴ら(・・)が作ったガラクタの稼働実験も兼ねていたな。独力で世界移動も出来ないとは下等な生物だ』

『あのような低俗な連中と徒党を組まずとも我々だけで教団の悲願成就は可能だが……ネメシス様のお考えに背くわけにはいかない。我らが統括長の深謀遠慮を信じよう』

『ああ、我らが教団とネメシス様に喝采を!』

 

 新たな異界からの侵略が始まったことをこの世界はまだ誰も知らない。

 

 

 

 

「暇だなぁ。これからどうしようか」

 

 悪魔退治のために全国各地を流離う掃除屋の少女キッド。

 彼女はいま都会から遠く離れた田園風景が広がる小さな町にいた。

 愛用している赤い鍔広帽子を指に引っ掛け、くるくると弄りながらキッドは気の抜けた声で呟いく。

 

「初めての土地ならあちこち散策するんだけどなぁ」

 

 平和なのはいいことだがと内心でぼやきながら、寂れているわけではないが決して盛り場とは呼べない街並みを見渡して彼女は帽子を被り直すと、あてはないがとりあえず歩き始めることにした。

 この町自体には特に用は無く、別所にて上級悪魔の討伐を終えた帰りに補給を兼ねて立ち寄ったわけなのだが様々な予定がずれ込んだ影響で時間を持て余していたのだ。

 昼食に頼んだラタトゥイユが絶品だったのがささやかな救いといった心境だった。

 

「この町の小さなガンショップじゃひやかしも満足に出来ないし、前に行ったカフェの名物スイーツも一人じゃ流石に注文するのに勇気がいるしなぁ……おや?」

 

 通行人の量もたかが知れている大通りをぶつくさとぼやきながら肩を落としてキッドがふらついているとどこからか楽器の音色が聞こえてきた。

 彼女が覚えている限り、この町には専門の楽器店はおろかライブハウスの類は無かったはずだ。暇を持て余していたキッドは渡りに船とばかりに音の出所を探し始めた。

 

 麗らかな春の空の下。

 吹き抜ける風に乗ってギターの音色が微かに響く。

 町に唯一ある小さな駅の軒下で一人の少女がギターを弾いていた。

 長閑な町であっても列車のダイヤルがある以上時間に追われて、せわしなく行き交う人の流れの狭間でまるで彼女だけが違う世界にいるように満足げに弦を爪弾いている。

 

「見っけ。へえ、こんな片田舎でもああいう路上演奏者ってのはいるんだね」

 

 音色に誘われて駅に辿りついたキッドは白昼から自由気ままにギターを奏でる自分と似た歳格好の少女を見つけて物珍しさに頬を緩めた。

 

「~♪」

 

 奇抜な格好だった。

 真っ赤なケープコートにフェルト帽。髪は月の明りを閉じ込めたように銀に染まって、右目には眼帯を身につけている。街を歩いていれば思わずふり向いて二度見ぐらいはしてしまいそうな派手な姿だった。

 とはいえ、少女の格好はこの世界ではそれほど目立ち過ぎると言うことはない。

 掃除屋と呼ばれる悪魔を退治するために独創性豊かな装備をしている人間がいくらでもいるこの世界では少女の格好もさほど奇異の目で見られることはない。

 

「~~♪」

 

 加えてその演奏もお世辞にも上手い訳ではなかった。

 ギターを弾く指先に迷いはないがミスは多く、高らかに歌う声も音程が乱れがちだ。

 まるで高校の軽音楽部の練習風景。あるいは放課後の女子高生のカラオケ大会だ。

 だから、少女の傍らに置かれている缶カラが未だに空っぽなのは当然と断じられても無理はない。

 けれども、そんな素人の趣味で開かれたちっぽけな演奏会にも一人ぐらいはお客が入る。

 何の巡り合わせか風に誘われてふらりとやってきた物好きな聴衆もまたギターの少女と同じく、赤い鍔広帽子と外套を纏った旅人だったのは奇縁と言うほかないだろう。

 

「~~――……♪」

 

 ピリオドへと至る最後のフレーズをなんとかノーミスで弾き終えて、少女は曲の締めを飾る。そして、ガードレールに浅く腰かけて自分の演奏を聞き入っていた唯一の聴衆へと、ぺこりと頭を下げた。

 

「いいね」

 

 ギターを持った赤いコートの少女へと銃を携えた赤い外套の少女が拍手を送る。

 

「……まさかこんなところでアコギの生演奏が聞けるとは思わなかったよ。生憎と何の曲かは存じ上げないけど良い心の保養になった」

「……えへへ、ありがとう。いまのは結構上手く弾けたかな?」

 

 キッドがそう絶賛するとギターの少女は照れ臭そうに顔を綻ばせた。

 両者ともにお互いの格好を見て、随分と派手な格好をしている子がいるなと僅かに沈黙が流れたのはご愛嬌だ。

 

「素人のボクでも分かるぐらい音程が外れていたり、あぁ……いま弾き間違えたんだなって思いっきり表情に出ているのは見て見ぬふりをさせてもらったけど、あれだけ楽しそうに弾いている姿を見せられたらこっちも明るい気持ちになれるってものさ」

「え、うそ……私そんなに顔に出てた!?」

「さて、どうだったかな? けどボクは好きだよ、君の演奏。 お堅い雰囲気のコンサートホールなんかでやるクラシックなんか聞くよりもずっと良い」

 

 ともすればミステリアスな美人で通しても問題なさそうなギターの少女はキッドの言葉にコロコロと表情を変えて驚く。まるでどこにでもいる女子高生を彷彿とさせる愛嬌の良さだ。

 

「旅人かい? 掃除屋じゃなさそうだ」

「そうじ? えと、まあ、そんなところ。あはは……ホントは迷子みたいなものかも?」

「そんなスッキリした顔して何言ってるのさ。迷子ならもっと心細そうな顔するものだろ? まだ名乗って無かったね、キッドだ。知り合いはみんなそう呼ぶ」

「私は朔月(はじめ)。朔月……です。よろしく」

 

 ギターを持った少女はそう名乗った。

 ■■朔月。またの名を仮面ライダー皇銀(スメラギ)

 願いと死と罪で装飾された物語を終わらせ、そして数多の世界を流離う旅人なった少女。

 彼女は長い旅路の幕間にこの世界へと降り立っていたのだ。

 

「良いギターだね。別に楽器に一家言あるわけじゃないけど、なんていうか……うん、朔月に似合ってる 」

「別に有名なメーカーのじゃないけど、そう言ってくれるのなら嬉しいな。そうだ! 褒めてくれたお礼ってわけじゃないけど、聞きたい曲があったらリクエスト受け付けちゃうよ? もちろん私が知っていればだけど」

「ボク一人になんかに構っていて良いの? 失礼ながらチップの稼ぎは良くないようだけど」

 

 愛おしそうにギターを白い手で撫でながら、声を弾ませる朔月にキッドは気を悪くしないでおくれよと空っぽで風に吹かれて何処かに転がっていてしまいそうな缶カラに目をやった。

 

「ま、まあそこは演奏を楽しんでくれたキッドへのファンサービスってことで」

「ふーん……ボクだけの特別ライブを開いてもらえるのも興味深いけど朔月、キミってば甘いものは好き?」

「人並みにはかな? 安くて美味しいグルメとかならもっと好きだけど」

 

 腕を組んで値踏みをするような視線のキッドの問いかけに朔月は肩をすくめておどけたようにそう返した。そんな素直なリアクションがキッドにもある決心をさせる。

 

「ハッハハ! それは同感だ。よし、これからちょっとボクと付き合って欲しい」

「ふぇ?」

 

 言うや否や缶カラを自分の外套のポケットにしまい込んでスッと右手を差し出してきたキッドの行動に朔月は思わず間の抜けた声を漏らしてしまう。

 どういう返答をすればいいのかまごついているとキッドの方が更なるアクションへと移った。

 

「だからさ……ほんの一時だけで良いから、ボクだけの所有物(もの)になっておくれよ」

「は……い?」

 

 キッドは朔月のギターが地面に落ちないように注意しながら彼女の手を取って少し強引に引っ張り上げると慣れた手つきでもう片腕を腰へと回して密着。

 お互いの吐息や声の震えも感じてしまうような至近距離でやんちゃな笑顔を浮かべてそんな口説き文句を囁いてみせた。

 

「安心しなよ、後悔はさせないから」

「え、え……ええええっ!?」

 

 なにを言われているのか理解できずにポカンと口を開けてしばらく呆けていた朔月の顔がボッと赤くなり、小さな駅に朔月の驚きの大声が響いた。

 ノーアンサーの力の残滓を受け継ぎ、見た目も様変わりしてしまった朔月だがそんな感情豊かなリアクションを見せる彼女はただの女子高生として生きていたあの頃と変わってはいなかった。

 

 

 

 

 駅前に店を構えた町で一番華のある喫茶店。

 そのテラス席に通されたキッドと朔月の目の前には山のように分厚く大きな、何層にも重ねられたクレープが鎮座していた。

 

「ふへ~……久しぶりの生クリームの甘み♪ 紅茶もおいしい」

「気に入ってもらって良かったよ。なにせ、前はこれを食べるためにこの町へ寄ったぐらいの名物だからね。ここまで大きいとは思ってなくてその時は完食した次の日のお昼まで何も食べれなかったけど」

 

 黙っていれば微かに妖艶さも薫る表情をとろけさせて大ボリュームのクレープを頬張る朔月を見てキッドはくつくつと笑ってシェアした自分の分にナイフを入れる。

 

「誘ってくれてありがとうキッド。いや、でもアレはないでしょ? ホントにビックリしたんだからね」

「こっちのセリフだよ。そんな見た目だし、男に口説かれ慣れしていると思ってちょっと悪戯してみたら、まさかあんなに驚くとは……意外と初心だね」

「いきなり抱き寄せられてあんなこと言われたら驚くってば。あと、これでも一応学生の頃は男子に告白されたこともなくはなかったからね」

「なぁんだちゃんと青春してるじゃないか」

 

 白昼堂々と行われた告白。

 それは単に絶品だがジャンボサイズのスイーツを一緒に食べて欲しいと言うお茶のお誘いだった。

 よく喋り、よくからかうキッドとよく笑い、よく驚き多彩なリアクションを見せる朔月の組み合わせが座るテーブルは最初こそややぎこちなかったものの旅情のことなどで話が弾んでいった。

 朔月としても田舎生まれの世間知らずを装うことでそれとなく悪魔や掃除屋といったこの世界特有の事情も把握することが出来た。

 

「そういえば朔月って日本人でいいんだよね? 煮魚は作れたりしないのかい?」

「に、煮魚? なんでまたそんな渋いチョイスなわけ?」

「なんていうか……前に知り合った奴に美味しいのを作ってもらったことがあってね。また食べてみたいなぁってね」

「思い出の味って感じ? キッド、いまなんかすごくいい顔してたよ」

「……うそだぁ」

「あ、更に顔が赤くなった。さてはその知り合いって男の人でしょ? どんな人なの? キッドの大切な人なんでしょ?」

「よく覚えてない……忘れた」

 

 自分がホストで朔月がゲストのつもりで談笑して、彼女の百面相を楽しんでいたキッドだったが不用意に口走ったブルーヘイブンでの思い出話が仇になって気が付けば立場が逆転していた。

 攻守交代とばかりにニヤリと笑いながら話を聞き出そうとしてくる朔月にキッドは何事もなかったように帽子をいつも以上に目深に被るとわざとらしくクレープを口いっぱいに押し込み始める。

 

「あー帽子被ってごまかしてる! ズルいぞー! さっきまでの威勢はどこに行っちゃったのかなキッドちゃん?」

「ボクのはまたいつかドラマが劇的に動いたら教えてあげるさ! で、煮魚! 朔月は煮魚とか料理できるのかい?」

「うーん。前に爽と協力しても焼き魚が上手くできなかったし……ごめん、無理だと思う」

「そうか、残念だけど仕方ない」

「でも、やっぱりスムージーはイケると思うんだよね、私」

「スムージー!? 魚で!?」

「うん」

 

 苦し紛れに無理やり話の方向転換をしたキッドだったが朔月の口から飛び出した思わぬワードに衝撃を受けた。

 

「知らなかった。日本には魚料理が多いとは聞いていたけど、そんなものまであるのかい!?」

「私のオリジナルだし、前に作ろうとした時は止められちゃったんだけど臭みも牛乳入れればクリアできそうだし、アリだと思うんだよね。簡単だし」

「東洋の神秘ってやつだね。そうだ! 牛乳入れるんだったらそのまま煮込んでポタージュっぽく仕上げればもっといいんじゃないのかい?」

「いいねそれ! やっぱりご飯はあったかくないと美味しくないしね」

 

 もしもこの場に朔月の友人――友人になれた少女、竜崎爽あたりがいてくれたのならば、理路整然とした説明をして魚のスムージーなるゲテモノ料理を否定してくれただろう。

 だが、残念なことにいま同席しているキッドもまた料理に関しては焼き加減が分からいのなら兎に角煮込んでしまえば少なくとも腹は壊さないだろうというお粗末なレベルの人間だった。

 

「ボクが今夜泊まる宿は家族経営の小さなところでキッチンぐらい貸してもらえるだろうから夕食に作ってみようじゃないか! 朔月、夜は空いているかい?」

「いいの? うん、まだ(・・)大丈夫だと思うから一緒に作ろう!」

 

 巡り出会ってしまった料理オンチ二人による怪作がこの世に生み出されそうになっていた時だった。

 

「きゃあーーーっ!!」

 

 駅前の方角から金切り声のような悲鳴が響き渡り、次いで自動車事故と思われる大きな破壊音が立て続けに轟いて、周囲は騒然となった。

 

「なんだろ? 交通事故かな?」

「……嫌な予感がする。ごめん、キッド! 私ちょっと見てくる!」

「はっ!? おい、ちょっと待って朔月!?」

 

 悪魔の出現であれば体内に埋め込まれたデモンハートによってその気配を感知できるキッドが呑気に構えているのとは対照的に様々な世界を巡り渡り、経験を積みつつある朔月は悪い胸騒ぎを覚えると躊躇うことなくテラスの柵を飛び越えて駆け出した。

 

 

 

 

 平和だった小さな町は一瞬で地獄絵図に塗り替えられていた。

 破壊された建物、ひっくり返り炎上する自動車の山。

 そして、突如として現れた悪魔とは異なる怪人たちに襲われて傷つく人々。

 

『イッヒャッヒャッヒャ! こいつは暴れ甲斐があるぞ! 憎き御伽装士どもがいない世界ならば存分に穢れを生み、食らいたい放題だ!!』

 

 手当たり次第に建造物を鋭利な日本刀と一体となっている両腕で切り刻んでいる尖った兜を被った武者のような怪人はバケノダチ。

 

『日の本の外で暴れるのも格別の心地だな! さあさ狩りの時間だ!』

 

 そして、胴体が丸ごと弩のような奇形を持ち大きな矢を乱れ撃つ怪人はバケイシユミ。

 こことは違う世界から招かれた化神と呼ばれる恨み辛み憎しみと言った穢れが意思を持った集合体だ。

 

『キィアアアアアッ!』

 

 更には赤いイモリを模したミラーモンスター・ゲルニュート――否似て非なる存在である怪人レッドミニオンの集団もまたバケノダチに続くように本能のままに暴れて町を阿鼻叫喚に陥れていた。

 そして、おかしなことに怪人たちは皆一様に不思議なブレスレット型の装置を手首に装着していた。

 

「やめて……来ないで! お願いだからこの子には手を出さないで!」

「こわいよ……おかあさん」

『キィアアアアッ!』

 

 逃げ惑う人々の中で運悪く壁際に追い込まれた一組の親子。

 母親は震える体で懸命に我が子の盾になり、哀願するが世界を破壊するためにやって来たこの悪魔の手先たちにそんな命乞いが通用するはずはない。

 ぞろぞろと迫るレッドミニオンの一匹が持つ十字手裏剣が親子の頭上へとゆっくりと振り上げられる。

 

「その人たちから離れなさい!」

『ギィイ!?』

 

 赤いコートがはためいて、鋭利な手裏剣が弾き飛ばされる。

 間一髪で割り込んだ朔月が続けざまに放った二撃目の蹴りを食らい陣形を崩されたレッドミニオンたちは標的を親子から朔月へと切り替えて飛び掛かってくる。

 

「早く逃げてください! ここは……私が!」

 

 大振りの手裏剣による斬撃を回避しながら、着実に蹴りを返してレッドミニオンたちを怯ませる朔月。

 恐怖と安堵が同時に押し寄せて声を出すことも難しかったのだろう。

 母親はこくこくと何度も頭を下げながら娘を担いで他の住人達が逃げていった方向へと走っていった。

 

「ミラーモンスターに化神まで……魔人教団の仕業じゃないなら、ヴァンダル・リーグ?」

『あんな連中と一緒にしないでもらおうか』

 

 侵略者の正体に幾つかの心当たりがあった朔月の疑問に訂正を求めるように今回の主犯である漆黒の異形が空より舞い降りた。

 

『我が名はイービルメタロー! この世界を掌中に収め崩壊へと導く者なり! 我らを知ると言うことは貴様も世界を渡り歩く存在のようだ』

 

 黒く痩身の体躯に異様に長い双腕と鋭い手先の爪。

 ボロボロだが自由自在に空を飛ぶ翼に側頭部から伸びた二本の角はまさに悪魔を思わせる。

 

『だが! 貴様が何者であれ我ら魔人教団に刃向かった罪は万死に値する。精々あの世で悔い改めることだ。やれ』

 

イービルメタローは恐ろしげな右腕を振って合図を送ると配下の怪人たち全員に朔月を襲わせた。

 

『イッヒャッヒャ! 首だ! 首をよこせ!』

『ならば肉と皮は拙者に寄こしてもらうぞ!』

『キィアアアアア!』

「この数は流石にちょっと多いかな……だけど」

 

 二体の化神と数多のミラーモンスターが彼女を目掛けて殺到する。

 多勢に無勢とはまさにこのこと。

 しかし、朔月に逃亡という選択肢はない。

 何故なら、自分の背後には命からがら逃げのびた人たちが大勢いる。

 

「みんなを守らないと……それが私の見つけた願い。貴方たちの好き勝手にはさせない!」

 

 いまこの場でこの侵略の間の手から平和と自由を守れる仮面ライダーは自分一人だけなのだと、気を引き締めて戦いに挑まんと朔月が銀色に光るマリードールを取り出したのとほぼ同時に爆竹の束が弾けるような小気味の良い銃声が鳴った。

 

「……え?」

「お! よしよし、当たればちゃんと効くみたいだね。可愛げのある化け物で助かった」

「キッド!?」

 

 瞬く間に脳天に風穴を空けられたレッドミニオンたちが倒れていく。

 奇しくもそれはいつかの運命の夜のように朔月の髪を掠めて背後から撃ち出された銃撃によるものだった。

 けれど、今度は朔月の命を奪うためではなくその弾丸は彼女と助けるため、共に戦うために放れたものだ。

 右手に握ったラッキーライラックの銃口から硝煙の香りを漂わせて、遅れてやって来たキッドが飄然と朔月の隣に歩み寄る。

 

「遅れてごめんよ。けど、お会計を済ませてたんだからそこは大目に見ておくれ?」

「あ……ご、ごちそうさまです」

「いいとも。で、白昼から迷惑千万なこの暇人たちは一体なんだい? 悪魔じゃなさそうだ」

 

 一部の隙も晒さずにラッキーライラックに再装填を行うとキッドは見たこともない悪魔とも違う怪人たちを一瞥して朔月に問いを投げかける。

 

「なんか顔見知りっぽい口振りもあったけど、まさかとは思うけど朔月のボーイフレンドとかじゃないよね?」

「勘弁してよキッド。私、そこまで趣味悪いつもりはないんだけど」

「それを聞けて安心した」

「この人たちは魔人教団。信じられない話かもだけど、たくさんの並行世界を侵略しようとしている悪の秘密結社みたいな連中だよ。それにヴァンダル・リーグって言うまだ謎が多い集団とも繋がっているみたい」

「教団ねえ……名前からして好きになれそうにないな。丁度いいけど」

 

 的確簡潔に長閑な町を混乱に陥れた正体不明の怪人たちの仔細を教えられたキッドは朔月に助太刀するように躊躇うことなく手にした愛銃を構える。

 

「キッドは逃げた人たちを守ってあげて。キッドが掃除屋って戦う術を持っている人でもただの人間じゃ怪人には勝てない。ここは私が食い止める」

「ふぅむ……ただの旅人じゃないとは思っていたけど、そういうこと」

 

 改めて銀のマリードールを握り締めた朔月の腰に光を放ちながら巻きつく白いベルト・サンクチュアリドライバー。その光景を目にしたキッドはなるほどと得心すると彼女に見せつけるように自分も懐から取り出したハーツドライバーを腰に装着して見せた。

 

「え? キッドそれって!?」

「朔月の気持ちは嬉しいけど、心配は無用さ。たぶんだけど、ボクたち同業者みたい」

 

 こんな偶然があるのだろうか?

 朔月もまた困惑に近い驚きを覚えつつ、ならば自分たち二人がやることは一つだと頷き合うとそれぞれ力を解放するためのモーションを起こす。

 

「分かった。一緒に戦おう、キッド!」

 

 手にしたマリードールをドライバーへと叩きつけ、朔月は叫ぶ。

 

「変身!」

 

《 Select 》

 

《 犯した原罪(つみ)は消せない それでも

  もうどこにも(かえ)れない それでも! 》

 

《 The Answer! 》

 

 銀の光が彼女の全身を覆い、少女の姿を炎の十字架を背負いながらも人類の平和と自由のために戦い続ける仮面の聖騎士へと変えていく。

 

「仕事は一人(ソロ)でやる方が好きだけど、たまには悪くない。いくよ、朔月!」

 

【Start up! Heart's Cry!】

 

 キッドが外側に振り出したシリンダーに黄金の弾丸・ブリランテバレットを装填すると電子音声がハーツドライバーから鳴り響く。

 

「――変身!」

 

 シリンダーを一撫でして起動させるとバックル中央の歯車が連動して激しい回転を始めやがて眩い光が溢れ始める。燦然とした輝きに包まれてキッドは悪魔を狩る仮面の銃士へと変わるのだ。

 

『なんだと……! 仮面ライダーまさか二人も居合わせるなど!!』

 

 暗黒を打ち消すような強く眩い二つの光に怯みながらイービルメタローは予想外の事態に苦虫を噛み潰したように狼狽した。

 そして地上を照らす星の瞬きのような聖なる光が晴れた時、そこには人々を守るため二人の仮面の戦士がそびえ立つ。

 

『いまの私は仮面ライダー皇銀!』

『カッコいい名前だ。ボクはブリランテ。仮面ライダーブリランテだ』

 

 皇銀は十字架を模した柄を持つ銀の光を放つ長剣、銀墓剣クリプトを携えて。

 ブリランテはパルスビームモードへと切り替わった真紅の大型拳銃ラッキーライラックを握り締めて。

 

『朔月、準備はOK?』

『バッチリ!』

『なら、お片付けの時間だよ!』

 

 微かに互いを見合って頷き合うと皇銀とブリランテは先手を打って怪人軍団に突撃していった。

 

『やあっ!』

 

 腰元から伸びた青い十字架を刻まれた僧衣(クロス)めいた前垂れをたなびかせて皇銀は銀墓剣クリプトを振り抜いて応戦する。白光を放つ聖なる刃が角砂糖に集る蟻のように襲い掛かってくるレッドミニオンを次から次へと切り裂いていく。

 

『キィアアアア!』

 

 接近戦では分が悪いと判断したレッドミニオンたちはならば遠距離から一方的に彼女を嬲り殺しにしてしまえと散開して獲物である巨大な十字手裏剣を投擲しようと構えた。

 

『遅い遅い! そういう玩具はせめて移動と同時に投げないといい的だよ』

 

 まるで射的ゲームを楽しむようにラッキーライラックから光の弾丸が飛び出していく。

 レッドミニオンの十字手裏剣はどれ一つとして皇銀に届くことなくブリランテの卓越した銃撃によって鉄のガラクタになってしまっていた。

 

『ありがとうキッド! いまのうちに……!』

 

《 Funeral Blood 》

 

 ブリランテが作ってくれた好機をのがしてはならないと皇銀は手にしている銀墓剣クリプトの柄に取り出したブラッドのグレイヴキーを柄に押し込む。

鳴り響く澄んだ電子音声。クリプトの蒼白の輝きは血色に塗り変わり、そのオーラはまるで尾のようにしなった。

 

『まとめて仕留める! はああああぁっ!』

『ギィアッ――!?』

 

 刀身から伸びた鮮血の様に赤いオーラが鞭のようにしなり迸ると広範囲に散っていたレッドミニオンたちを一気に薙ぎ払う。

 

『朔月も掃除上手だね。残り三体……このまま押し切ろうか!』

『もちろん!』

 

『小癪な……化神ども! 仮面ライダーに調子付かせるな!』 

『言われなくてもあのそっ首斬り落としてくれようぞ!』

『ならば拙者はあの鉄砲使いを射殺してくれる!』

 

 手駒であったレッドミニオンたちを全滅させられて苛立ちを募らせるイービルメタローは空中に浮遊した状態で残る二体の化神たちに檄を飛ばす。

 殺気を剥き出しにしたバケノダチとバケイシユミはそれぞれの得意な戦法で皇銀とブリランテに挑んでいく。

 

 

 

 

『ヒョオオオオアアアア!』

『このっ……ハアアッ!』

 

 まるで死が飛び交う合戦場で恐慌状態に陥った武者のように荒々しい太刀筋で刃となった両腕を振り回すバケノダチを相手に皇銀は冷静に敵の動きを見て斬り結ぶ。

 皇銀というライダーが秘めた凄まじい力もさることながら世界を流離ながら無辜の人々のために戦うことを選んだ朔月には戦いにおける経験値が溜まっていた。

 

『やるではないか! お前の首はさぞ誉れになるだろう!』

『……そこだ!』

 

 バケノダチが大きく振り抜いた斬撃と二太刀めを放とうと腕に力をこめる僅かな合間を見逃さずに皇銀は咄嗟に上空に自身の剣を放り投げると体当たりを仕掛けた。

 

『なにを!? ぐおぁ!?』

『ハアッ! ぜやぁっ!』

 

 予想外のタックルに足元を盛大によろけさせたバケノダチに重い右ストレートが突き刺さる。

 その外見と得物で勝手に剣術一辺倒な騎士だと相手だと誤認していたバケノダチの意表をついて徒手空拳で果敢に攻めていく皇銀。

 

『ぐっ……いくら攻撃を仕掛けようと命脈を断てぬ攻めに意味はない! 殺し合いとはこうやるんだ!』

 

 懐に入られて成す術もなく殴り倒されるバケノダチであったが執念で踏み止まると右腕を囮に注意を引き付けて、渾身の唐竹割で皇銀を一撃で仕留めようと画策する。

 だがバケノダチは既に皇銀が一度は放り投げて落下してきた銀墓剣クリプトを掴み取っていたことに気付いていなかった。

 

《 Funeral Unbreakable 》

 

 十字架を思わせる長剣から電子音声が鳴り、皇銀の前に紫のオーラが広がっていきそして――真っ向からバケノダチの攻撃を受け止めた。

 

『そんな馬鹿な……!?』

 

 アンブレイカブルのグレイヴキーの能力を発動して強力な防御力を得た皇銀の装甲の前にバケノダチの刃腕の方が強度負けをして情けない音を立ててへし折れた。

 

『やあああッ!!』

『あぎゃあ……ああ!? こんな、はずでは……!?』

 

 片腕と共に戦意まで折れたように愕然としていたバケノダチを皇銀が振るう曇ることを知らない銀輝の剣が袈裟切りに両断して見せた。

 ゆっくりと崩れ落ち爆散するバケノダチを見届けながら皇銀は静かに残身を取る。

 

『……よし』

 

銀姫として生き足掻くだけでただ精一杯だったころの朔月はもういない。

彼女はもう何度も自分じゃない誰かを救い、守ってきた仮面ライダーの一人なのだ。

 

 

 

 

 皇銀がバケノダチと戦っていたのと同時進行で別の場所では弾丸と大きな矢が飛び交う銃撃戦が展開されていた。

 胸部の大型弩から発射される杭と錯覚するような巨大な矢は恐ろしい威力でコンクリートも金属もお構いなしに貫通しながらブリランテへと猛威を向く。

 

『色んな悪魔と戦ってきたけど、クロスボウの怪物と撃ち合うのは初めてだ! ちょっと古臭いかもだけど西部劇よろしく真昼の決闘と洒落込もうか!』

『フン! 口だけは達者な駄馬が調子に乗るなよ』

 

 破壊力とは不釣り合いなほど無音で弩から放たれる大型矢を目にも止まらぬ早撃ちで迎撃しながらブリランテは軽口を叩く。

 スクラップになった自動車に突き刺さった矢を足場に宙へと飛び上がり、お返しとばかりに死角からバケイシユミへと一音五射を決めるブリランテ。

 しかし、敵の弓術もなかなかに天晴れで右腕と融合した連弩にてその全てを撃ち落とす。

 

『そんなやかましいだけの豆鉄砲、当たらんよ』

『あんな古臭い武器でよくやるなぁ。ガンマンの端くれとして気合入れていかないとね』

 

 銃を構え直して、敵を制するための算段を素早く脳内で構築したブリランテは機を見て飛び出すと弩の連射から逃れながら平屋の建物の屋根に飛び乗ると高所から円を描くように反撃のトリガーを弾く。

 

『むう……どこを狙っている? 跳弾によるまぐれの当たりでも期待したのか!?』

『いや~そういうのも別にできるけど、次も控えているわけだからなるべく低コストで仕留めるも良い掃除屋の腕の見せ所だとキッドちゃんは思うんだよね』

『なに!? 貴様……なにを企んでいる?』

 

 仮面の奥で意味深にほくそ笑むブリランテの腹が読めずにその場に留まり身構えるバケイシユミ。

 その慎重さが既に敗北へのレールへの第一歩だった。

 逃げ回る獣を追い回す狩人の気分で自分が優位に戦いを進めていると錯覚していたバケイシユミはまだ自分が自らの手で破壊し続けた廃車が山のように転がる場所のその中心に誘い込まれていることに気付いていない。

 

『そろそろか……ちょっぴり大人な火遊びの始まりだ!』

 

 反撃の狼煙を上げるようにブリランテは後ろ腰に携行していた小型散弾銃ヴィクトワールピサに手をかけた。それには既にグレネード弾が装填済みだ。

 そしてバケイシユミの周囲に転がる廃車たちからはガソリンがたっぷりと漏れ溢れていた。

 常人ならば漂う臭いで危険を察知して離れるところだが純粋な生物ではなく、躰を手に入れて直ぐは現世の知識も乏しい化神にはこの場に榴弾が撃ち込まれたらどうなるかが分からなかった。

 

『ぬぉおおおおお!?』

 

 まるでドミノ倒しの様に連鎖して次々に爆発して夥しい炎を噴き出す廃車たちの中心にいたバケイシユミは悲痛な絶叫を上げながら高々と吹き飛ばされた。

 

『逃がさないよ! クイックワンダー!』

 

 ダミー人形のように爆発によって上空へと吹っ飛んだバケイシユミをしっかりと確認しながらブリランテは愛機へと声を上げる。

 すると自動走行で走り出したクイックワンダーの左サイドのリアボックスが射出され主人の足元へと届けられる。

 

『サンキュ♪ 朔月も勝ったみたいだし、ボクもカッコいいとこ見せないとね!』

 

 リアボックスに収納されていたガトリング型機銃グランアレグリアを展開させると今回は更に今回はとっておきのオマケを付け加える。

 肩の装甲の裏側から専用の銃剣トップナイフを引き抜くとグランアレグリアの先端に装着する。

 

『えいやっ!』

『ガァッ――!?』

 

 重力に囚われて落下してくるバケイシユミが受け身の体勢を取るよりも前にブリランテは素早く跳躍してその懐に肉薄すると容赦なくトップナイフの切っ先をその腹部に突き立てる。

 

『串刺しと蜂の巣のセットメニューだ! 耐えきれるものなら耐えてみな!』

 

 そのままブリランテはグランアレグリアの引き金を強く絞る。

 ゆっくりと動き出した銃身は瞬く間に加速すると大車輪の回転から銃弾をこれでもかと吐き出していく。

 

『ウオオオオオリャア――!!』

『ギヤァアアアアアア!?』

 

 獣の雄叫びのようなガトリングの銃声とブリランテの勇ましい叫びがバケイシユミの断末魔をかき消しながら一切の抵抗を許さずに異形を完膚なきまで粉砕した。

 至近距離で起きたバケイシユミの爆発で生じた黒煙を黄金のホーンアンテナが裂いて、ブリランテの姿が露わになる。彼女もまた皇銀に続いて白亜の姿を汚すことなく勝利を収めた。

 

『おや?』

 

 そして、ブリランテはこの勝利によってちょっとしたある戦利品を得ることになる。

 

 

 

『残り一体!』

『覚悟はいいかい? 悪魔モドキくん!』

『チッ……やはり、我ら魔人教団以外の怪人などこの程度か』

 

 次々と撃破されていく手下の怪人たちの醜態に舌打ちをしながらイービルメタローはついに自らが皇銀たちを倒すべく漆黒の翼を広げて地上に降り立つ。

 白き銃士と聖銀の騎士は一気に勝負を決するべく、闇色に染まった痩身の魔人へと立ち向かう。

 

『はあああっ!』

『我らメタロー……魔人の本領を思い知れ!』

 

 先陣を切った皇銀の振るう銀墓剣クリプトの刃をイービルメタローは五指に生え揃った鋭い爪で受け止める。そのままその細腕のどこにそんな剛力が秘められているのかと信じられないような力を発揮して弾き返すとあべこべに滑空による突撃から乱れひっ搔きを繰り出す。

 

『くっ、ううう!』

『朔月、踏ん張れ! 悪魔のパチモンが舐めるんじゃないよ!』

 

 大型トラックが追突したような衝撃、更には飢えた野獣のような爪撃を何とか耐え切った皇銀だが刀身や体の装甲からは火花が上がり、堪らず苦悶の声が漏れる。

 すかさず敵の側面に回り込んだブリランテが横っ飛びになりながらラッキーライラックの連射でイービルメタローを引き剥がそうと援護する。

 

『愚かな! この世界に現れる連中のことは把握しているが高次元生命体メタローにまさる存在などいるはずがないだろう! 貴様らが悪魔と呼ぶ者たちの方こそが劣等種なのだ!』

『うわっ!?』

 

 ブリランテの正確無比な射撃を片手で容易に斬り払うとイービルメタローは掌からドス黒い火の玉を出現させて無数に撃ち出して怯ませる。

 イービルメタローは化神や悪魔、ミラーモンスターを見下す発言をするだけはある高い実力を有した怪人だった。

 

『一匹、一匹相手をするのも面倒だな!』

『きゃっ、あああ!?』

 

 イービルメタローは懸命に自分に食い下がっていた皇銀をブリランテにぶつけるように投げ飛ばすと翼を広げて大空へと浮遊する。そして、漆黒のファイヤーボールを乱射して二人諸共一気に葬らんと激しい攻撃を加える。

 

『痛った~……なるほど、口だけの野郎ってわけじゃなさそうだ』

『うん。あの怪人は強い』

 

 火炎弾の豪雨に晒されながら徐々に傷が目立ち始める二人の仮面ライダー。

 しかし、両者の心の闘士に陰りは少しも見えていない。

 一人一人の力で届かないのならばやることは一つだと二人は理解していた。

 

『だったら、ここからは……』

『協力してアイツを倒す。ボクたちさっきお茶して仲良くなっていて良かったね』

『クス。キッド……いくよ!』

『任せとけ、朔月!』

 

 示し合わせることもなく二人はごく自然に呼吸を合わせて、そして――共に駆けだす。

 

『何度やっても同じことだ! 私手ずから八つ裂きにしてやろう!』

 

 自分たちの脆弱さを理解せず蛮勇を振るっているとしか思えない仮面ライダーたちを軽蔑しながらイービルメタローはグライダーのような滑らかな急降下から突っ込んで迎え撃つ。

 

『やああああっ!』

『ウオオオオっ!』

 

 先頭を切って走る皇銀の肩を踏み台に高く飛び上がったブリランテがその身を錐揉み回転させながら射撃を敢行する。

 一見すれば万策尽きた悪あがき。だが優れた銃技の持ち主であるブリランテがする行為ならばそれには別の意味が生まれる。

 

『うぐっ!? 人間らしい小細工をする!』

 

 あちこちに撃ち放たれた光の弾丸は緻密な軌道を辿った末に着弾箇所から更に跳弾。

 予測不能のほぼ全方位からイービルメタローを撃ち抜き、その機動力を奪う。

 

『今度は私の番だ!』

 

《 Funeral Intelligence 》

 

 ブリランテの攻撃でイービルメタローが怯んだ隙にインテリジェンスのグレイヴキーを剣の柄に差し込んだ皇銀は黄色いオーラを纏うと目にも止まらぬ速さで動き出す。

 

『やああぁぁーーっ!』

『ぬお……なにぃいいいい!?』

 

 黄色い残像をこそ確認できたイービルメタローだが超高速で行動する皇銀の姿を補足できない。そして、まるで刃物の壁に叩きつけられるような超速にして連続の斬撃が漆黒の異形を切り刻んでいく。

 

『まだ……!』

『まだぁあ!』

 

 皇銀とブリランテの攻勢は止まらない。

 空中から地上へと落下する勢いを利用してブリランテがイービルメタローの脳天に踵落としを叩き込む。更に入れ替わるように皇銀がアッパーカットで勢いよく顎下を殴り抜く。

 

『ガッハァ……クソッ! これしきの事で!』

 

 視界を歪ませ、仰け反りながらも持ちこたえるイービルメタロー。しかし、反撃の準備をしようとした矢先に両腕を左右から掴まれて自由を奪われる。

 

『たぁあああ!』

『えいやっ!』

 

 二色の裂帛の気合に満ちた声が轟くとイービルメタローの胴体に大きなX字の傷が刻まれた。一筋の傷は皇銀による斬撃。片やもう一筋の傷はブリランテがラッキーライタックを撃ち続けながら振り抜いたことで与えたらた弾傷だ。

 

『うあ……があああ!?』

 

 会心の一撃をまともに食らってしまったイービルメタローは体力気力共に極限まで追い込まれガクガクとその場に崩れ落ちていく。

 

『いまだ!』

『うん!』

 

 それを勝機と感じた二人はそれぞれ必殺の一撃を決めようと迷うことなく体を動かす。

 皇銀は蒼白の輝きを放つ銀墓剣クリプトをヒュンと振るって一度消すと銀色をしたマリードールの上に手を置いた。

 

《 The Answer Cremation Strike 》

 

 紛い物の悪魔を騙る魔人へと処刑宣告のような電子音声が鳴る。

皇銀の全身に銀色の清廉なるオーラが湧き上がるように漲りやがて頂点へと至る。

 

【Boost up! Just a Way!】

 

ハーツドライバーのシリンダーを展開するとブリランテは白銀の弾丸を装填して気前よく回転させる。電子音声が鳴り響き、ドライバーの歯車の動きが激しさを増すと膨大なエネルギーがブリランテの全身に満ち溢れていく。

 

『ボクという弾丸から逃げれるものなら逃げてみな?』

 

イービルメタローに終焉を告げるかのように指鉄砲を向けたブリランテの額にあるホーンアンテナがガシャンと音を鳴らしてスライド降下する。複眼の双眸は覆い隠され、その仮面は苛烈な騎士のように面構えを一変させる。

 

『『ハアッ!』』

 

 そして、皇銀とブリランテは同時に宙へと跳び上がった。

 

『せやあああぁぁぁーーー!!』

『ファイア――!!』

 

 鮮やかな輝きを纏ったダブルライダーの全身全霊を賭した必殺のキックがイービルメタローに炸裂する。イービルメタローは最初こそ高次元生命体のプライドを以て踏み止まったが皇銀の必殺技セイントパーティングとブリランテの必殺技シューティングハープスターの威力の前についに成す術もなく蹴り飛ばされ、木っ端の様に崩壊していく。

 

『無駄なことを……我々は既にこの世界を認知した。必ずやこの世界も我ら魔人教団が滅ぼして見せる。お前たち人類に希望はない……カッハハハハハハハ!!』

 

 自らの末路を悟り、イービルメタローは人類を嘲りながら断末魔代わりの哄笑を上げた。

 

『関係ないよ。人類の平和と自由の為に戦い続けるんだ。もう迷わない……それが私が出した答えだから』

『だってさ。あと、ボクらの世界はもう百年もド根性で悪魔だなんてワケの分からない連中と戦い続けてるんだぜ……舐めんな』

 

 だが、イービルメタローの呪詛を一蹴に付して二人の仮面ライダーたちは凛とした声で言い返した。どんな困難が立ち塞がったとしてもあきらめずに進み続けるのが彼女たちだからこそ。

 

 そして、イービルメタローが爆散して後に吹き始めた光り輝く風が滅茶苦茶にされた世界を修復していった。

 戦いは終わった。

 いや、異世界からの侵略という災厄があったことさえこの世界の人間は最初から知らずに時間は流れていくのだ。たった二人の少女たちを除いて。

 

 

 

 

「じゃあ、ここでお別れだね。一緒に入れて楽しかったよ、朔月」

「うん。こっちこそ、助けてくれてありがとうねキッド」

 

 一夜明けて、何事もなく平穏な時間が流れる町の外れにキッドと朔月の姿はあった。

 

「どこか次の目的地は決めているのかい」

「特にないかな 世知辛いことかも知れないけど、明日には別の世界に迷い込んでるかもしれないしね」

 

 戦いが終わったその日の夜に二人はそれぞれの秘密を少しだけ教えった。

 キッドは自分の肉体に施された禁忌の手術と悪魔と戦い続けるその定めを。

 そして、朔月はノーアンサーの力を受け継ぎ、数多の世界を流浪する宿命と旅人に科されるにはもどかしい様々な制約を。

 

「そっか。だったら、この世界にいてくれる間はブルーヘイブンって街を目指すといい。海辺の素敵な街だから」

「ブルーヘイブン?」

「ああ。そこの小さな日本食を出してる食堂に行ってみると良いよ。味も良いし、僕の名前を出せばサービスしてくれるはずだからさ」

 

 遠く続く地平の果てを、けれどあの町があった方角を間違えることはなくキッドは指し示してそんな提案をした。

 

「え? それってもしかして昨日のお昼に話していた人がやってるっていう」

「それは行ってみてのお楽しみだよ」

「はは。そうだね、頑張って行ってキッドの秘密をたくさん教えてもらうよ」

「健闘を祈るよ。せいぜい迷子にならないようにね。じゃあ、ボクも行くよ」

 

 いたずらっぽく微笑む朔月にキッドは少しだけ照れ臭そうに頬を朱に染めながら、これ以上は別れに寂しさが纏わりついてしまうと足早に去ろうとする。

 

「ねえ、キッド」

「うん?」

 

 けれど、そんな彼女を朔月の声が呼び止めた。

 その顔を見て、キッドはハッと目を丸くした。

 一抹の寂しさが差し込まれた朔月のちょっとだけ空虚な微笑み。

 そして、同時に思い出す。

 ボクたちは旅人だ。例え旅する世界の規模が違っても。

 だったら――

 

「また会えたらいいね」

「フフン♪ ギターの練習頑張りなよ。今度はボクも一緒に歌ってあげるよ。いっぱい稼いで美味しいものでも食べようぜ」

「あはは! その日が来るのが楽しみだよ」

 

 二人は何を伝え合うまでもなく、自分の力で一抹の悲しみを振り払って目一杯の笑顔を浮かべる。

 そうだ――終わらない旅をする旅人ならば、いつかはまた歩み道が交錯することだってあるだろうと。

 なにせ、自分たちの人生という名の旅路はまだまだ始まったばかりなのだから。

 こうして二人の赤い衣を纏った少女たちはまたそれぞれの物語(みち)を歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 朔月と別れてまた一人旅を始めたキッドのその日の午後のことである。

 昼食を済ませた彼女はクイックワンダーにもたれて小休止をしながら、あの戦いでこっそりと手に入れた戦利品の目利きをしていた。

 

「形を残して転がっていたから持ってきちゃったけど、これ腕時計じゃないよね? なんだろう?」

 

 それはバケイシユミがこの世界に出現した時から装着していたブレスレット型の謎のアイテムだった。キッドが知るはずもないがそれはギギの民と呼ばれる者たちが異世界を移動する際にしようするポッピング・ジャーニーと呼ばれている物に酷似していた。

 

「正直、あんまり寄りたくないけど結社のラボに持って行って調べさせるか。魔人教団のことも報告しないわけにはいかないしね」

 

 キッドとしては不用意に弄繰り回している自覚はなかっただろう。

 しかし、何の運命の悪戯かその異世界移動装置は起動してしまったのだ。

 

「うん?」

 

 ほんの一瞬、キッドは眩暈のような感覚に陥り強烈な光のようなものを感じた。

 そして、次に明確に意識を取り戻した時には彼女は自分の周囲の異変に気付いて思わず考えることを放棄していた。

 

「……どこ、ここ?」

 

 年季の入ったダイナーの駐車場にいたはずのキッドは気が付けば大勢の人が行き交う都会の一角にいた。

 高層ビルが連なり、見上げた空には自分でも知っているとある国の象徴ともいえるタワーが聳えるのが見える。見えてしまった。

 

「あれ、トウキョウタワーだよね……え、うそ。ボク、日本にいるの?」

 

 仮面ライダーブリランテ/掃除屋キッドは間違いなくどこかの異世界の日本に転移してしまっていたのだ。輝ける銃士の奇妙な冒険の旅路はまだもう少しだけ続く。

 

 

 

 





ここまでお読みいただきありがとうございました!
というわけで、今回は春風れっさーさんのご厚意によって仮面ライダー銀姫の主人公、朔月ちゃんにサプライズゲストとして登場してもらいました。

リンクはこちらから↓
https://syosetu.org/novel/262790/

それから、ハージェネ参加の作者様へのご連絡なのですが今回のお話のエピローグでキッドも無事にどこかしらの異世界の日本にぶっ飛んだのでフリー素材としてお気軽に扱ってもらっても大丈夫になりました。
一応、事前にマフ30にご一報を下さると嬉しいですけれど。

これからもよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。