仮面ライダーコガラシ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回、実はサブタイトルをちょっとふざけようかとか考えましたけど思い留まりました。因みに最初に考えていたサブタイトルは『大・爆・惨☆』でした。


第十六筆:後悔は先に立たず、覆水は盆に返らず

 ツララとゲッコウ、2人の戦いの始まりは互いの武器のぶつかり合いからだった。

 

 ツララの持つ大十字手裏剣・四華と、ゲッコウの持つ大鎌・三日月がぶつかり合う。まずは小手調べと言わんばかりに互いに力任せの一撃を放ち、鍔競り合い譲らない。

 

 この押し合いはゲッコウの方に分がある。ツララの四華は元々大剣としても使用できると言うだけで大剣として作られた訳では無い。中央の柄を掴んで振り回す事は出来るが、本来の使い方は投擲だ。

 

 片やゲッコウの三日月は、大振りではあるが大鎌と言う接近戦用の武器。振り回して敵を薙ぎ払う事を目的とした接近戦用の武器なのである。

 しかも大鎌はその形状からただ振り回すだけでなく、()()と言う動作をそのまま攻撃に転用できる。ゲッコウは一度軽く下がり三日月を大きく振り回し、ツララがそれを柄の部分を押さえる事で防いだ瞬間鎌を引いて無防備なツララの背中を切りつけた。

 

「グゥッ!?」

 

 意識外からの攻撃に反応が遅れツララは背中を切り裂かれる。幸い前のめりに倒れ込んだ事で浅い傷で済んだが、最初の一撃を相手に許してしまった己の不甲斐無さに思わず歯噛みした。

 

「くぅ……小癪な!」

「ハン!」

 

 床に膝をつき睨み付けてくるツララに、ゲッコウは挑発する様に鼻で笑い三日月の柄で肩を叩く。余裕を感じさせるゲッコウの姿に、ツララは呼吸を整え立ち上がった。その手には忍筆が握られている。

 

「執筆忍法、氷遁の術ッ!」

【忍法、氷遁の術ッ! 達筆ッ!】

 

 ツララが素早く術を発動させると、ゲッコウに向けて何本もの氷柱が槍の様に飛んでいく。食らえば骨を砕き肉を抉る様な一撃、しかしゲッコウはそれを三日月で切り払ってしまった。

 そこでゲッコウは、これが目くらましで本命は別にある可能性に思い至り急いで距離を取った。以前の戦いでツララは舞う氷の礫の中に別の忍術を紛れ込ませ、三日月の性能を下げると言う搦め手を使ってきた。今回も同じ手で来る可能性が高い。

 

「チィッ!」

 

 壁や天井を蹴ってその場を離れると、一度手の中にある三日月の様子を確かめる。幸い今度は氷が纏わりつく事も無く、三日月の性能はそのままだ。その事に軽く安堵すると、ゲッコウは視線を上げツララを見ようとした。

 が、彼が顔を上げるとそこにツララの姿は何処にもなかった。

 

「あ?」

 

 一瞬、逃げたかと訝しむゲッコウであったが彼女がそんなタマではないと思い直す。

 

 この状況、考えられるとすれば隠れ身の術だろう。一時的に姿を消せるあの術であれば、音もなく姿を消す事が出来る。

 問題はツララが何処から攻撃を仕掛けてくるか、だが…………

 

「チッ……」

 

 ゲッコウは僅かに思案すると、素早く近くの壁に背中を付けた。この状況で一番危険なのは背後、自分ならまず確実に相手の後ろを取る。ツララが同じ考えを持つ相手であれば、後ろに回り込んで不意打ちを狙う筈であった。

 

 だがツララの攻撃は予想外の所から飛んできた。何とゲッコウが背中を付けた、壁の向こう側から壁を破壊して攻撃してきたのだ。

 

「フンッ!」

「どあぁぁぁぁぁぁぁっ?!」

 

 ツララが姿を隠した時、ゲッコウが背後を警戒する事は読んでいた。自分だって相手の姿が見えなくなったら、まずは後ろを警戒する。背後からの攻撃はどうしても反応が遅れるからだ。

 だから、彼女はそれを逆手に取った。背中を壁に付ければゲッコウは後ろへの警戒が疎かになる。それを読んで彼女はゲッコウが壁に背を付けるとその壁の後ろに回り込み、そこから一撃叩き込んだのだ。

 

 これでお互い相手の背中に一撃叩き込んだ事になる。ツララは床に膝をつき自分を見上げてくるゲッコウを前に、先程とは逆の構図になったと少し上機嫌になった。

 

「先程の借りは返したでござるよ」

「律儀な奴……誰が返せっつったよ」

「それよりお主、今宵は影の中に隠れないのでござるか?」

 

 実はそれがさっきからツララは気になっていた。今の時間は夕方を通り過ぎて夜。日はすっかり落ち、ビルの中は真っ暗だ。外から入り込む街灯の光だけが僅かな光源となった今、このビルの中はゲッコウの天下と言っても過言ではない。

 

「俺はそんな迂闊な奴じゃねえ。今影の中に入ったら、どうせお前火遁の術で辺り照らす気だろ? その手に乗るかってんだ」

 

 影潜りの術の弱点は既に知れている。影を照らされると言う弱点を突かれて不利にさせられるくらいなら、別の術で攻めた方がよっぽど利口だ。

 案外強かに考えているゲッコウに、ツララは彼への認識を上方修正した。

 

(やれやれ……猪武者の様に荒っぽい性格かと思えば頭はしっかり回る……なかなかどうしてやり辛い)

 

 しかしそうは思っても、ツララは心の何処かで彼との戦いを楽しんでいた。彼が卍妖衆の忍びと言う事は気に入らないが、叩けば響く様に返してくるゲッコウとの戦いには不思議な清々しさがある。

 

 そこまで考えた所で、ツララは何を馬鹿なと脳裏に浮かんだ考えを振り払った。今し方考えた通り、ゲッコウは敵だ。敵を相手に何を考えているのだと自分を律した。

 

(敵に絆される等、楓殿への最大の侮辱ッ!?)

 

 無理矢理気持ちを切り替え、ゲッコウへの攻撃を続行しようと一歩前に踏み出そうとしたツララ。だがその足が何故か動かない。まるで何かで固められたように動かなくなってしまったのだ。

 

「これは……!?」

「何暢気に考えてたのか知らねえが、大人しくしてくれてる間に仕掛けさせてもらったぜ」

【忍法、影遁 影沼の術ッ! 達筆ッ!】

 

 ツララは己の迂闊さを呪った。ゲッコウは影潜りの術を使っていなかったがそれはイコール術を使わないようにしていると言う事ではない。既に対策が練られた術を封じて別の術で攻める方針に移行しただけと言う事だ。

 影沼の術は文字通り、影をまるで泥沼の様に変え相手の動きを阻害する術。何も知らず術を掛けられた影に足を踏み入れた相手は、泥沼に足を取られた様に満足な身動きが取れなくなる。しかもこの術で泥沼化された影はその粘度をゲッコウの意のままに出来る。ツララはゲッコウが仕掛けた罠にまんまと嵌ってしまったのだ。

 

「お前って、ホント視野狭いって言うか、詰めが甘いよな?」

 

 ツララが動きを阻害されたからか、ゲッコウが悠々と近付いてくる。それを奥歯を噛みしめながら睨むツララは、近付いて来たゲッコウに一撃喰らわせてやろうと四華を振るうが破れかぶれの一撃はあっさり弾かれ、鎌で手裏剣を絡め取られ取り上げられてしまった。

 

「あぁっ!?」

「さて……今回は勝負ありだ。それともまだ何かするか?」

「くぅ……!?」

 

 悔しいが、ここまで近づかれてはツララが何かをする前にゲッコウが一撃加えてくる方が早い。こんな無様な敗北を喫してしまう事に、ツララは情けなくて泣きたくなった。

 

 悔やむツララにトドメを差そうとするかのようにゲッコウが三日月を振り上げる。が、そこで彼は動きを止め外の方を見た。何をしているのかとツララが訝しんでいると、外が俄かに慌ただしくなってきた事に気付く。

 

「……どうやら今日はここまでみたいだな」

 

 近付いてきているのはS.B.C.T.だ。この騒ぎに異変を感じて様子を見に来たらしい。人は引き上げさせたが、警戒を怠っていたと言う訳では無かったのだ。

 

 この事態にツララは焦った。彼女は今足元を影で固められている。このままではS.B.C.T.に見つかってしまう。

 そう焦っていたのだが、不意に脚に纏わりついていた泥の様な影の感触が消え自由に動けるようになった。まさかと思いゲッコウの方を見ると、彼は背を向けて彼女から離れていた。

 

「ゲッコウッ!?」

「あ? んだよ、今日はここまでだっつったろ? お前の相手はまた今度だ」

【忍法、影潜りの術ッ! 達筆ッ!】

 

 ゲッコウはそれだけ告げると影の中に潜り姿を消した。後にはツララと彼女の武器である四華だけが残される。

 

 暗いビルの中で、ツララは先程までゲッコウが居た場所に手を向けてわなわなと震えていた。

 

(また……拙者が遅れた。拙者が……楓殿が…………!?)

 

「おいっ! そこで何をしているッ!」

 

 やり場のない怒りに震えていたツララに、現場に到着したS.B.C.T.の隊員がライトの光を向けながら声を掛ける。ツララは反射的に顔を手で隠し、同時に光源に向けて普通の手裏剣を投げつけた。手裏剣は狙い違わず、ライトスコープの銃身下部に取り付けられたフラッシュライトを破壊した。

 

「うわっ!?」

「コイツッ!?」

 

「煩わしいッ!!」

【忍法、火遁の術ッ! 達筆ッ!】

 

 激情に身を任せ、ツララはS.B.C.T.に向け火遁の術を使ってしまった。放たれた火球が炸裂し、数人の隊員が吹き飛ばされる。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「くそっ!? 隊長、こちらδ7ッ! δ8とδ6がやられた、応援をッ!」

 

「くっ!?」

 

 彼らが混乱している間にツララは四華を回収してその場を離れる。逃げる彼女に気付いた隊員が後ろから彼女を撃つが、素早く動き回るツララには当たらずそのまま彼女の逃走を許してしまった。

 

 逃げる最中、ツララは自分が何をしたのかを思い出し仮面の奥で顔を青くする。もしかしなくても、自分はとんでもない事をしてしまった。己の未熟から不意を突かれ窮地に陥り、その上で見逃されてしまった事に腹を立て八つ当たりの様な事をしてしまった。しかもその相手はS.B.C.T.だ。これは後程問題となる。

 

 楓からの教えを守るどころか、自分が万閃衆の看板に泥を塗るような真似をしてしまった事に、ツララは足元が崩れ落ちたような錯覚に陥り着地に失敗して盛大に転んでしまった。

 

「はぁっ!? はぁっ!? はぁっ!? 拙者は……拙者は、何と言う事を……!?」

 

 死者こそ出てはいないだろうが、無関係な人々への無意味な攻撃は万閃衆が唾棄すべき行為。それを自分がやらかしてしまった事に、変身を解いた椿は涙を流した。

 

「楓殿……楓殿ぉ……!? 母上、お願いでござる。拙者を……拙者を叱ってくれ…………!?」

 

 悪いことをしたら親に叱られる。しかし今、椿の事を叱ってくれる……椿が叱って道を正してほしいと思える人はいない。

 

 人の居ない場所で、椿のすすり泣く声が静かに響き渡っていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 唯は翌日、早速この想いを千里に伝えようと思い立ち、登校して彼の姿を見つけると早速彼に近付いた。

 

「南城君、おはよう!」

「小鳥遊さん、おはよう」

 

 何時も通り、互いに朝の挨拶を交わす2人。そのまま2人揃って廊下を歩きながら、唯はさてどのタイミングで彼に告白しようかと考えを巡らせる。

 

 タイミングを伺いながら歩いていると、運良く周囲に誰も居ない状況が訪れた。朝日が差し込む廊下に、千里と2人っきり。告白するなら理想的な状況だ。

 

「あの、南城君……!」

「ん? 何?」

「あ、あのね……私、その…………」

 

 意を決して千里に胸の内の想いを打ち明けようとする唯であったが、その想いに反して口は上手く動いてくれない。言葉が喉でつっかえた様に、小さく吐息が漏れるだけで肝心の告白が出てこなかった。

 

 口を開いて一向に言葉を口にしない唯に千里が首を傾げる。このままではマズイ、千里に変な女と思われると、唯は一度気を取り直す為口を閉じ唾を飲んで心を落ち着けると、今度こそ告白しようと口を開いた。

 

「南城君、私……!」

 

「やぁおはよう君達。こんな所で何してるのかな?」

「あ、先生。おはようございます」

 

 あと一歩で告白の言葉が口から出ると言う時、何時の間にか近くまで来ていた担任の孝蔵が2人に声を掛けてきた。

 彼の接近に気付いていなかったのは唯だけだったようで、突然声を掛けられたにもかかわらず千里は普通に返事を返した。だが千里への告白に意識を全て向けていた唯は、孝蔵がいきなり出てきたようにしか思えずしかも告白を聞かれそうになった事に驚きの声を上げずにはいられなかった。

 

「ひゃぁっ!?」

「た、小鳥遊さん?」

「どうかしたのかい?」

 

 彼女にしては珍しく珍妙な悲鳴を上げたことに、千里と孝蔵が揃って目を丸くする。2人から奇異なものを見る目を向けられ、居た堪れなくなった唯は逃げるようにその場を離れた。

 

「な、何でもありません! おはようございます先生。南城君、私先に教室行くね!?」

 

 全力で走って逃げたくなるのを我慢し、だが出来る限り早く教室に逃げ込もうと足早にその場を離れる唯。おかしな唯の様子に千里は彼女の背を見送りながら首を傾げた。

 

「小鳥遊さん……どうしたんだろう?」

 

 何か様子がおかしい事に彼女を心配する千里。孝蔵はそんな彼に鋭い視線を向けた。軽く気配を探るが、離れていく唯以外に他の生徒の気配はない。そして千里は唯の後ろ姿を見送ることに意識を向けていて隙だらけ。孝蔵の正体が卍妖衆のマンダラである等とは欠片も思っていない様子だ。

 

 今なら不意を突いて仕留められる。孝蔵は千里の首筋に苦無を突き立てようと懐に手を伸ばし…………

 

「お! 南城! 加藤先生! おはようございます!」

 

…………ギリギリのところで廊下の角から学が顔を出し、千里達に声を掛けてきた。千里は後ろを振り返り、孝蔵も取り出そうとした苦無を急いで懐の奥に押し込み平静を取り繕いながら、その実内心ではあと一歩と言うタイミングで出てきた学に憤りを感じつつ挨拶を返した。

 

「やぁおはよう山崎君」

「おぅ、山崎おはよう」

 

 気付けば先程までの人気の無さは何だったのかと思う程、周囲は登校してきた生徒で賑わっている。この状況で千里を始末するのは面倒だと、孝蔵は彼を始末する事を諦め教師としての仮面を被り直しそのまま職員室へと向かった。

 

 一方千里は、結局唯は何を言おうとしていたのかと考えながら教室へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから時は流れ、今は放課後。部活も終わり、唯はバスケ部のユニフォームから着替え校門を出て帰路に就いていた。

 

 結局あれから千里に告白するチャンスは訪れず、また冷静に思い返して学校で告白するのは少しまずいかと思い直していた。校内で告白し、それが千里に受け入れられてしまっていたら、唯には自分を抑える事が出来た自信がない。感動と嬉しさに突き動かされて学校の中でとんでもない事をしてしまうかもしれないと思うと、校内でチャンスが訪れなかったのは逆に幸運だったかもと思ってしまう。

 

 だがここからは違う。ここから先、千里の家に寄り彼の修行に付き合ってから唯の家に帰るまで。ここまでの間であれば学校は関係なく、また2人きりになれるチャンスも学校より遥かに多い。

 狙うならこの時間だと考えながら歩いていると、ふわりと風を感じ次の瞬間隣に千里の気配を感じた。

 

「お待たせ」

「うぅん、大丈夫」

 

 もうこのやり取りも慣れたものだ。最初下校途中に合流しようと千里から言われた時は、偶然を装って道中で合流するのかと思っていたら忍術を使って隣に現れたのだから驚かされた。それが今は、見もせずに彼が隣に現れた事に気付けるくらいになった。

 唯にはその事が何だか誇らしく感じられた。

 

「部活はどうだった?」

「何時も通り、好調よ。そう言えば長谷部さんは?」

「分からない。結局連絡つかないし……」

「そっか……大丈夫かな?」

 

 歩きながら何気ない会話に花を咲かせる。途中、この日学校に姿を見せなかった椿の事を心配したりとしたが、それを除けば2人の間に交わされるのは特に特筆すべき事も無い取り留めの無い話ばかり。

 そんな何気ない話でも唯は楽しかった。千里と同じ時間を共有出来ていると考えれば、それだけで唯の心は温かくなり満たされる様な気がした。

 

(……って、ダメダメ! こんな事だけで満足しちゃ……今がチャンスなんだから!)

 

 ここでなら告白の勢いで抱き着いたり、受け入れられた嬉しさに突き動かされてキスをしたって許される。自分が今まで学外での事に関しては見逃してきたのだ。自分だって見逃してもらったって罰は当たらないだろう。と言うか文句は言わせない。

 

 そんな変な理論武装をした上で、唯はキョロキョロと周りを見渡し自分達以外に他の人が居ない事をしっかり念入りに確認した。右よし、左よし、前よし、後ろよし……ついでに上もよし。

 

「小鳥遊さん? どうかしたの?」

 

 流石に露骨に周囲を気にしすぎて千里にも変に思われたらしい。千里も自分が何か見落としているのではと心配し周囲を警戒しているが、唯が落ち着かなくなっているのは告白の邪魔が入らない事を確認する為だったので彼の心配は杞憂でしかなかった。

 

「あ、何でもない何でもない!」

「そう?」

「うん!」

 

 慌てて取り繕い、この場は何とか乗り切った。落ち着かない唯の様子に千里も違和感を覚えたようだが、あまり深く踏み込むのも悪いと考えたのかそれ以上問い詰める様な事はしない。そんな彼の優しさが嬉しく、同時に彼にいらぬ心配をさせてしまった事に罪悪感を覚えないでもなかった。

 

 ともあれだ。シチュエーションは整った。邪魔になりそうな者は居らず、この場に居るのは唯と千里の2人だけ。夕日に照らされた人通りのない道の上と言う、告白するなら絶好のタイミングだ。

 

 やるなら今…………!

 

「あの、南城君!」

「ん? どうしたの? 何かあった?」

 

 思い切って告白しようと千里を呼び止める。千里はやはり何か異変があったのかと周囲を気にしながら唯と向き合う。

 

 これから彼に胸に秘めた想いを口にしようとしていると思うと、心臓が痛い位早鐘を打つ。胸元に手を当て、心を落ち着ける為深呼吸を一つ。

 

 吸って……吐いて……覚悟完了。

 

「うん……南城君、あのね! あの、私…………」

 

 唯が何か重要な事を打ち明けようとしているのだと言う事は千里にも伝わった。真剣な表情で彼女の口から出てくる言葉を待ち、唯は震えそうになる唇を気合で押さえ付けその言葉を口に――――――

 

「――――コガラシィッ!!」

「ッ!? ゲッコウ!?」

 

 ――――出来なかった。

 

 あと一歩でその言葉を口に出来ると言うところで、近くの影からゲッコウが飛び出し千里に飛び掛かった。ゲッコウからの奇襲に気付いた千里は、唯を守る様に立つと飛び掛かって来たゲッコウにカウンターで蹴りを喰らわせ迎え撃った。

 

「ぅおっと!?」

 

 カウンターの蹴りをギリギリ防いだゲッコウは、そのまま蹴られた勢いを利用して千里達から距離をとる。

 このタイミングを見逃さず、千里は忍筆を取り出しコガラシに変身した。

 

「執筆忍法、変身の術ッ! コガラシ、変身ッ!」

【忍法、変身の術ッ! 夜の声、しのぎ削りし、忍ぶ者……コガラシッ! 達筆ッ!!】

 

 千里はコガラシに変身すると同時に口寄せの術で轟雷を取り出し、離れた位置にいるゲッコウに向け引き金を引く。コガラシの銃撃と同時にゲッコウは影潜りの術で近くの影に潜り込み、影を伝ってコガラシへと接近した。

 

 ゲッコウの次の攻撃を影の中からの奇襲攻撃であると呼んだコガラシだが、この場で影を十分に照らすだけの光を作り出す事は難しい。以前教室で戦った時とは状況が違う。

 それならば火遁の術で火を作り出しそれで影を照らせばいい様な気もするが、相手も同じ忍びならその行動に関しては想定内であると考えるべきだ。何しろコガラシはゲッコウの影潜りの術を破った張本人。ゲッコウもコガラシを相手に影潜りからの奇襲が簡単に成功するとは思っていないだろう。

 

 それを証明する様に、ゲッコウは素早くコガラシの死角に移動し彼が何か行動をする前に影から飛び出した。その際同時に三日月を取り出し、唯を守りながら警戒しているコガラシに振り下ろした。

 

「オラァッ!」

「そっちか!」

 

 コガラシはゲッコウの存在に気付くと、敢えて彼に接近し銃身で三日月の柄を押さえ斬撃を無力化した。三日月を見るのはコガラシは初めてだが、この武器が相手に必要以上に接近される事を苦手とする武器であると言う事は分かる。

 

 そのままコガラシはゲッコウを押し出す様に唯から引き剥がした。あのままあそこで戦っては唯を巻き込んでしまう。

 

 程良く唯から離れたのを見ると、コガラシは轟雷を抜刀し至近距離からゲッコウに斬りかかった。初めて見る轟雷に、ゲッコウは仮面の奥で目を見開く。

 

「おぉっ!?」

 

 ただの銃だと思っていたら剣になる轟雷。その斬撃は重く、ゲッコウは思わず三日月を持って行かれそうになった。

 

 斬撃の威力の秘密はその形状にある。轟雷は納刀状態で狙撃可能な銃として使用する都合上柄に浅く角度が付いているのだが、この絶妙な角度によって斬撃の威力が効率よく刃に乗る様に工夫を施されているのだ。ただ剣と銃、両方の機能を持っただけの武器ではないのである。

 

「おぉぉぉっ!」

 

 そのままコガラシは何度も轟雷を振るった。鍛錬により、この独特な角度の付いた剣にも慣れた。今では自分の手足のように扱え、鋭く思い斬撃がゲッコウに反撃の隙を与えず徐々に追い詰めていった。

 

 しかしゲッコウも決してこの程度で倒せる程容易い相手ではない。長物の三日月を巧みに操り、コガラシの攻撃を防ぎ一撃を未だ許していない。

 

 コガラシが攻撃し、ゲッコウが防ぐ……暫しこの光景が唯の前で繰り広げられたが、状況を動かしたのはゲッコウだった。

 

「オラァッ!」

「くっ!」

 

 徐にゲッコウが自分から攻撃してきた。連続で攻撃し続け疲労したコガラシが、呼吸を整える為攻勢を緩めたその瞬間を狙われたのだ。だがこの一撃はコガラシが柄を押さえる事で難なく防がれる。

 それこそがゲッコウの狙い。彼は最初から防がせることを目的に三日月を振るったのだ。

 

 コガラシが柄を押さえるように斬撃を防いだ瞬間、ゲッコウは仮面の奥でほくそ笑んだ。攻撃を防いでいるコガラシからは死角になっているが、今三日月の刃は彼の真後ろにある。この状態で三日月をゲッコウが引っ張れば、その刃はコガラシの背を切り裂く。

 

「ッ!?!?」

 

 見ずともコガラシはそれに気付いた。仮面で見えない筈なのに、ゲッコウがほくそ笑んだ瞬間コガラシは背筋に冷水を流し込まれたような感覚を覚えた。

 

 何かは分からないがこのままではヤバい。そう気付いたコガラシは素早く忍筆を抜き術を発動させた。

 

「執筆忍法ッ!」

【忍法、空蝉の術ッ! 速筆ッ!】

 

 晴嵐の筆の力で瞬時に術が発動。そのコンマ数秒後にゲッコウが三日月を引き、コガラシを後ろから切り裂いた。幸い切られる直前に術が発動したのでコガラシの姿は煙と共に消え攻撃は無意味になったが、あと少し反応が遅れていたら彼は背中を大きく切り裂かれていただろう。

 

「あっぶな……!?」

「いい反応だ。それに、武器も悪くない」

 

 仮面の下で冷や汗をかきながら、コガラシは油断なくゲッコウを見据える。あれから幾つかの戦闘を経て自分も少しは強くなれたと言う自覚があるが、ゲッコウの強さは底が知れない。正直、コイツ相手にはまだ勝てるビジョンが見えなかった。

 

 だがコガラシの印象に反して、ゲッコウの彼を見る目は決して悪いものではなかった。今口にした評価も世辞の類ではなく本心からの物だ。

 まだまだコガラシは自分を楽しませてくれる……その気配にゲッコウは仮面の奥で獰猛な笑みを浮かべていた。

 

 束の間両者の間に静寂が訪れる。先に動いた方が不利になるとでも言うかのように、互いに相手の出方を伺いじりじりと間合いを取るだけの静かな時間。

 

 その静寂を破ったのは、コガラシでもゲッコウでも、ましてや他の忍者やS.B.C.T.の様な存在でも無かった。

 

「もぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

 突如唯が何処から持って来たのかゴミ箱をゲッコウに向け放り投げた。まさか彼女がこんな事をするとは思っていなかったので、ゲッコウもコガラシも驚き言葉を失った。

 

「ぅおっ!? 何だ何だッ!?」

「た、小鳥遊さんッ!?」

 

 驚きながらも投げられたゴミ箱を三日月で払うゲッコウだったが、唯の行動はそれだけでは終わらない。何だか分からないが顔を赤くして憤怒の表情で手当たり次第に物を投げつけ、手元に投げられる空き缶やゴミが無くなったら鞄で殴り掛かって来た。何が何だか分からず困惑しながらも腕で振り下ろされる鞄を防いでいると、唯が激情を口から吐き出した。

 

「何で来るのよなんで来るのよ何で来るのよぉぉっ!?」

「何がッ!? 何? 訳が分からねえよッ!?」

「小鳥遊さん?」

 

 ゲッコウは本当に訳が分からなかった。唯に対しては何もしていないのに、なぜ自分がここまで唯から怒られ攻撃されなければならないのかと。

 一方コガラシも困惑していた。今日の戦いは一瞬ヒヤリとする事もあったが決して劣勢と言う訳でもない。唯が心配するほどの無様な戦いはしていないという自負があったのだが何故か彼女は怒り出した。その理由が思いつかず、またその鬼気迫る勢いに彼も唯を止めるに止められずにいた。

 

「ちょっと待てって! 何怒ってるのか知らねえけど、お前はあっち行ってろ!」

「余計なお世話よッ! あと一歩で……あと一歩で南城君に告白できるところだったのにッ!?」

 

「…………え?」

「は?」

「…………ぁ」

 

 唯の口から飛び出た爆弾発言に、束の間周囲の時間が止まった。爆弾発言をしてしまった唯は一瞬この世の終わりの様な顔をした後青褪めていた顔を一気に赤く染め、コガラシどころかゲッコウですら固まり顔だけ彼女に向けている。

 

 2人からの視線……とりわけコガラシからの視線を前に、唯は自分の秘めていた想いがこんな形で彼に知られてしまった事に羞恥やら何やらで目に涙を浮かべて体を震わせた。

 

「えっと……その…………何だ、ゴメン」

 

 あまりにも居心地の悪い静寂。あのゲッコウが素で謝るなど相当な事だろう。そうさせてしまう程の気不味さがこの場に漂っていた。

 謝る以外に選択肢はなく、だが謝った所で先程の唯の口を滑って出た言葉が無かった事になる訳では無い。あまりにも唯に対して申し訳なくなったゲッコウは、居た堪れなくなり三日月を投げ捨てると滑り込みながら彼女に向けて土下座した。

 

「ゴメン!? 本当にゴメン!? マジ知らなかったんだ、この通り!!」

「も、もういいもういい!? 今はそっとしといてあげて!!」

 

 今は唯に触れるべきではないと、コガラシも轟雷を手放し土下座するゲッコウを唯から引き剥がす。引き剥がされた事で漸く邪魔な自分がここにいるのは宜しくないと気付き、ゲッコウは三日月を回収すると2人から離れた。

 

「今日は、もう帰るわ。それじゃ!」

「あ、うん……」

 

 逃げるように去っていったゲッコウに思わず手を振って見送り、そして彼の姿が見えなくなるとコガラシは変身を解いて振り返った。

 そこには依然として顔を真っ赤にした唯が目に涙を浮かべたまま震えている。

 

「あ、あの~……た、小鳥遊さん?」

「ッ!?!?」

 

 千里が恐る恐る声を掛けると、唯は雷が落ちたかのように飛び跳ねる勢いで体を震わせた。

 

 そして…………

 

「~~~~~~!!!!」

 

 声にならない悲鳴を上げながら、千里でさえ目で追うのがやっとなのではないかと言う程の速度で走って逃げていってしまった。

 

 後に残された千里は、1人薄暗くなり始めた道の真ん中にポツンと残される。

 

「小鳥遊さん……」

 

 姿が見えなくなった唯の様子を思い浮かべながら、先程唯が口を滑らせた言葉を思い返す。それが意味する事を完全に理解するまで数分を要し、なかなか帰ってこない彼を心配して徹が家から出た頃には辺りは完全に夜になっていたのだった。




と言う訳で第16話でした。

椿がまさかのやらかしです。この間のクモクセジの一件で頼れるところを見せていたと思ったところでこれです。言うまでも無くこれがまた今後大きく響いてきます。

それとは別に唯が盛大にやらかしました。本当はもっとちゃんとしたところで告白したかったのに、上手くいかないもどかしさに勢い余ってやってしまいました。まぁこういうやらかしも、青春の一つって事で。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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