仮面ライダーコガラシ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回、遂にその時が来ます。


第二十一筆:激闘の末に告げられる想い

 対峙していたコガラシ・ホムラとマンダラ・ドクロ。先に動いたのはコガラシ達の方だった。

 

「……シッ」

「フッ!」

 

 轟雷を構えたコガラシが前に身を倒し突撃する……と見せかけてそれはフェイントで、マンダラとドクロの視線が一瞬コガラシに向いた隙にホムラが忍者刀で突撃する。意識がコガラシの方に向いていた2人は一瞬反応が遅れ、ホムラの接近を許してしまう。

 

 うまい具合に2人の懐に潜り込んだホムラは、炎を纏った斬撃や蹴りで暴れて文字通りマンダラ達を蹴散らした。

 

「おぉぉっ!」

「ぐっ!?」

「くぉっ!?」

 

 ホムラの攻撃により先手を取られたマンダラは、体勢を崩され術を使うタイミングを失う。それをコガラシが見逃さず、音も無く接近すると轟雷を鋭く振り抜いた。

 

「ゼァッ!」

「ぬぅっ!?」

 

 完全に不意を突いた一撃の筈だったが、振るった刃はマンダラの鋸剣により受け止められた。腐っても相手は上忍、この程度で一撃を入れさせてはくれない訳だ。だがここで攻撃を緩めると途端に血の槍が飛んでくる。コガラシは最初の攻撃の勢いを維持したまま、次々と斬撃を放ちマンダラを釘付けにする。

 

「だぁぁぁりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 次々と振るわれるコガラシの斬撃。手首の僅かな動きによって攻撃の軌道をズラし、マンダラの判断を鈍らせる。これまでに比べて明らかに技量を上げたコガラシの攻撃に、マンダラは焦りを感じずにはいられなかった。

 

 このままではやられる……そう考えてしまった彼は、一瞬でも自身の敗北を考えてしまった事を恥じた。上忍にまで上り詰めた自分が、こんな若造相手に弱気になるなどとプライドを傷つけられたのだ。

 

「舐めるなぁッ!!」

【忍法、噴血槍の術ッ! 達筆ッ!】

「ッ!? チィッ!」

 

 半ば破れかぶれで放たれた噴血槍の術だったが、それはコガラシを引き剥がすのに大いに役立った。無数に突き出た血の槍を回避する為、コガラシはマンダラから大きく距離を取らされた。

 

 マンダラの攻撃は止まらず、その後もコガラシを狙って血の槍が次々と放たれる。コガラシは轟雷で切り払ったりして何とか直撃は免れていたが、それでも反撃の余地なく飛んでくる血の槍は彼を追い詰め体のあちこちを浅く抉っていく。

 

 このままではジリ貧だと感じたコガラシは、一瞬の隙を見つけて反撃の風遁の術を放つ。

 

「執筆忍法、風遁の術ッ!」

【忍法、風遁の術ッ! 速筆ッ!】

 

 一瞬で発動した風遁の術が、竜巻となってマンダラに飛んでいく。視界を埋め尽くすほどの竜巻は流石に無視できないのか、マンダラは攻撃を中断しその場から距離を取った。

 

「くっ!?…………んん?」

 

 コガラシの風遁の術を回避したマンダラだったが、ふと先程までコガラシが居た場所を見ればそこには誰も居ない。そこで彼は先程の一撃は目くらましで、一旦身を隠し体勢を立て直す事が目的であった事を理解した。

 小癪だが理に適ったコガラシの行動に、マンダラは堪らず唸り声を上げた。

 

「ぬぅぅ……コガラシ……!」

 

 何時、何処から奇襲をかけてくるか分からない。相手が同じ忍者であれば猶更だ。隠れ身の術で姿を隠してしまえば相手の背後に回り放題、忍者にとって死角からの奇襲は基本攻撃である。

 それを理解しているから、マンダラは周囲に意識を向けコガラシからの奇襲を警戒していた。

 

 その肝心のコガラシは、半壊した屋敷の中に入り物陰からマンダラの様子を観察していた。

 

「ふぃ~……流石にアイツの相手は厳しいな。一瞬の判断ミスが文字通り命取りだぜ」

 

 マンダラの視線がコガラシが隠れている方に向きそうになった。見つかるとマズイと、彼は慌てて頭を引っ込め息を潜めた。少し間を置き、再び物陰から覗き込むとマンダラの視線は明後日の方に向いている。その事に彼はホッと胸を撫で下ろした。

 

「さて、どうするか……やっぱりあの血の槍が厄介だよなぁ……」

 

 一度あの術の発動を許すと、こちらは反撃の隙が殆ど無い。苛烈な血の槍の弾幕の中を逃げ回るしか出来ないのだ。ホムラであれば火遁の術で血の槍を消し炭にする事も不可能ではないだろうが、コガラシの火遁の術にはそこまでに威力は無い。

 

 妙案は浮かばず、実質手詰まりに近い状況にコガラシは顎に手を当て考え込んでしまった。

 

 そこに、横から唯が声を掛けてきた。

 

「南城君」

「うっ!? ぉ、おぉ……小鳥遊さんか。びっくりした」

「ゴメン。ところで南城君、もしかしなくてもあのマンダラの術に悩んでる?」

「ぅ……うん。情けない事にね」

 

 結局この日までマンダラの術に対する有効な手段が考え付かなかった。不甲斐無い自分の姿を見せてしまった事に、彼は情けなさと恥ずかしさで肩を落としてしまう。

 だが唯はそれを気にせず、自分の考えを彼に伝えた。

 

「もしかしてだけどさ? これで何とかなるんじゃないかな?」

「え?」

 

 唯はコガラシに自分の考えるマンダラの術への対処法を話した。それを聞いて彼は素直に感心した。彼女の考えるマンダラの血遁の対処法は、荒唐無稽でもなく話を聞く限りにおいては理に適っているように思えた。

 

「それ……案外行けるかも! でも何でこんな事知ってたの?」

「前に漫画で読んだの。その時の事を思い出して、もしかしたらって。でも本当に上手く行くかは……」

「いや、きっと行けるって。任せて!」

 

 唯からの提案に希望を見出し、コガラシは物陰から出てマンダラに突撃する。荒々しく突撃するコガラシの存在に気付いたマンダラは、そちらに目を向け再び噴血槍の術をしようした。

 

「ハァァァァァァッ!」

「そこかッ!」

【忍法、噴血槍の術ッ! 達筆ッ!】

「行けぇッ!」

【忍法、風遁の術ッ! 速筆ッ!】

 

 放たれたマンダラの噴血槍に合わせるように放たれた風遁の術。幾つもの竜巻が、マンダラの噴血槍を迎え撃つように飛んでいく。

 

 それを見てマンダラはコガラシの狙いを察した。彼は竜巻で血の槍を迎え撃つつもりなのだ。空気中の塵などを巻き込んだ竜巻はさながらミキサーの様であり、触れればコンクリートであっても軽く抉られてしまう。コガラシはその威力で血の槍を相殺して無力化しようとしているとマンダラは考えた。

 

 確かに最近、コガラシは武術も忍術も腕を上げた。以前相対した時に比べれば、彼の風遁の術はミキサーどころかドリルに匹敵する威力があるだろう。噴血槍を無力化できると思っても仕方がない。

 

 だがマンダラは、彼の浅はかな考えを嘲笑った。

 

「フン、馬鹿な奴……」

 

 嘲笑しながらも望み通り付き合ってやると、マンダラは血の槍を敢えてコガラシの風遁の術に向けて飛ばした。赤黒い血の槍が竜巻に向け飛んでいき――――――

 

 

 

 

 竜巻の中心を通り抜けてコガラシに直撃した。

 

「うぐっ!? あぁぁぁぁぁっ!?」

 

 次々と突き刺さる血の槍に、コガラシは赤い液体を撒き散らしてひっくり返った。その無様な姿に、マンダラは堪らず声を上げて笑った。

 

「愚か者めッ! 如何にお前の術が威力を上げようが、台風の目だけはどうしようも無かったようだな!」

 

 マンダラが敢えてコガラシの風遁の術に向けて血の槍を向けたのはこの為だ。どれだけ威力を上げた竜巻であろうと、その中心部分には台風の目の様に無風に近い場所が出来る。そこであれば殆ど影響を受ける事無く、自分の攻撃をコガラシに届けられると踏んだのだ。

 結果は目論見通り、血の槍はコガラシの放った竜巻を通り抜け彼に直撃し体を穿った。あれだけの血の槍の直撃を受けたら、もう殆ど虫の息だろう。だが確実に彼の命を絶つべく、マンダラは鋸剣で彼の首を刎ねようと近付きその首筋に刃を当て一撃で切断しようとした。

 

 その瞬間、コガラシは手に持っていた轟雷を持ち上げ引き金を引いた。抜刀しても銃としての機能自体は健在な轟雷はこういう使い方も出来る。ただの刀であれば振るわなければ満足に力を発揮できない状況でも、引き金を引くと言うアクション一つで攻撃に変える事が出来るのは大きなメリットだった。

 

「ごはぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 マンダラは完全に油断していた。先程の一撃でコガラシは虫の息だと思っていたのだ。体中穴だらけで、まともな反撃など出来ないだろうと思っていた相手が普通に動いてきた事に彼は混乱を隠せなかった。

 困惑するマンダラの前で、血まみれのコガラシがゆっくり立ち上がる。その足取りはしっかりしており、とても大きなダメージを負っている様には見えない。

 

「な、何故だッ!? 貴様、何故そんな普通に動けるッ!?」

「もう一回やってみろよ。そうすりゃ分かんだろ」

 

 困惑して叫ぶマンダラに、コガラシは挑発するように告げた。激情に駆られたマンダラは彼の挑発に乗り再び噴血槍の術で彼を貫こうと血の槍を飛ばした。

 

「死ねぇッ!」

【忍法、噴血槍の術ッ! 達筆ッ!】

「執筆忍法ッ!」

【忍法、風遁の術ッ! 速筆ッ!】

 

 再び風遁の術が血の槍に向け飛び、竜巻の中央を通り抜けてコガラシへと突き刺さる。

 

 ところが、コガラシに突き刺さる筈だった血の槍は、刺さるどころかコガラシに触れた瞬間水を壁に叩き付けた様に弾けて彼の体を赤く彩るだけであった。

 その不可解な現象にマンダラは呆然となる。

 

「な、なんで……?」

「お前、血を武器にしてる割に血の特性を全然分かってないんだな?」

 

 一見すると赤い液体の血液、だがその赤い色の中には様々な成分が含まれている。酸素を運ぶ赤血球に外部からの細菌などを排除する白血球、そして血管が傷付いた際に傷口を塞ぐ血小板などだ。マンダラは血の槍を相手に突き刺す際、この血小板の作用と赤血球に含まれる鉄分を使って壁をも貫く威力を生み出しているのである。

 

 その血液中に含まれる成分だが、実は意外と簡単に分離させることが出来る。高速回転させることで、血球成分を含む血餅(けっぺい)と液状部分の血漿(けっしょう)に分けられるのだ。血漿に含まれるのは老廃物や栄養素、タンパク質などで凝固因子などは含まれるがこれだけでは固まらない。

 

 コガラシはその特性を利用して、風遁の術で迫る血の槍を高速回転させて血餅を抜き取っていたのである。つまり、血の槍が竜巻の中心を通り抜けたのはマンダラの狙いではなくコガラシの狙いだったのだ。

 

 もう、噴血槍の術は無力化された。

 

「ま、これ小鳥遊さんに教えてもらった事だけど。だけど本当に助かった」

 

 コガラシは物陰からこちらを見ている唯に向けてサムズアップした。それに唯は笑顔で答える。

 

 一方自慢の術があっさりと攻略された事に、マンダラはワナワナと身を震わせていた。怒りもあるが、心のウェイトの半分を占めているのは焦りである。このままでは敗北してしまう。同じ相手に二度も明確な敗北を喫すれば、オボロは確実に彼を許さない。

 

(どうする……どうすれば……!?)

「くっ……!?」

 

 恐怖し焦るマンダラ。そこにホムラの攻撃から逃れて下がってきたドクロが近付く。

 

 見たところドクロに目立った負傷は見られない。骨の兵士や壁を身代わりにやり過ごしてきたのだろう。

 近付いてきたドクロに、マンダラはある事を思い出した。

 

「おいドクロ、硯はまだ持っているな?」

「ん? 当たり前だろ、分かり切った事を聞くな」

 

 ドクロは元々、アジトを放棄した後秘宝の硯を持ち帰る役割を担っていた。だがその途中でマンダラに呼ばれて、こうして南城邸にやって来たのだ。故にその懐には、まだ秘宝の硯が存在している。

 

 それを確認したマンダラは、仮面の奥でニヤリと笑みを浮かべるとドクロの懐に手を突っ込み秘宝の硯を奪い取った。

 

「お、お前何をッ!?」

「五月蠅いッ!?」

「ぐふっ!?」

 

 慌てて秘宝を奪い返そうとするドクロだったが、余裕を失ったマンダラはドクロを蹴り飛ばした。そしてマンダラは、手に入れた硯を左腕に装着し忍筆を当てた。すると硯が光りその光が筆に移り、傍目から見ると神々しい光を放った。

 

「おぉ、おぉぉぉぉっ! こ、これが秘宝の力……!」

「くっ……俺はもう知らんッ!」

【忍法、隠れ身の術ッ! 達筆ッ!】

 

 これ以上ここに居ては巻き込まれるとでも思ったのか、それともマンダラの失態のとばっちりを受けるのは御免と考えたのかドクロはその場から姿を消した。

 残されたのは秘宝を手にしたマンダラと、対峙するコガラシとホムラ、そしてその様子を半壊した屋敷の中から見つめる唯の4人のみ。

 

 秘宝の力を手にしたマンダラは以前と比べて数段厄介な相手になっている事を、コガラシは経験則から理解していた。半人前の自分でさえ、秘宝の筆を手にして大幅に強化されたのだ。元より自分より圧倒的に強かったマンダラが秘宝の力で強化されたら、どうなるかなど想像もしたくない。

 

「喰らえぇぇぇッ!!」

【忍法、飛刃血爪(ひじんけっそう)の術ッ! 達筆ッ!】

 

 放たれるのは血で作られた爪の様な刃。地面を抉る一撃がコガラシとホムラに向け飛んでいく。

 

 あんなのを喰らっては堪ったものではないと、2人は別々の方向に飛び退き血の刃を回避するが、マンダラの攻撃は止まらない。次から次へと飛来する血の刃を、2人は縦横無尽に飛び跳ねて直撃を喰らう事だけは避けた。

 だが回避できているのは直撃だけであり、余波や掠る様な一撃は避けきれていない。結果、マンダラと対峙する2人の忍者は体のあちこちに小さな傷を増やしていった。

 

「クソッ!? こっちから反撃する隙が全然無いッ! 何で術が止まらないんだ? 普通の術ならそろそろ効果時間切れてる筈だろ?」

「あれが秘宝の硯の力だ。あれを身に着けている限り、執筆忍法は制限時間と言う軛から解放される」

 

 普通執筆忍法は、その多くが制限時間を持つ。偵察用の口寄せ 目張の術は例外的にかなり長時間持続させることが出来るが、それでも永続的に使用する事は出来ず何処かで必ず術が途切れるタイミングが来る。

 だが秘宝・暁の硯を手にした者はその制約から解き放たれるのだ。左腕に装着した硯に筆を当てる事で、次に発動する忍術は術者の望むままに長時間維持し続ける事が出来るようになる。

 

 お陰でコガラシとホムラの2人は反撃の隙を見いだせずにいる。今は何とか直撃を喰らわずにいられるが、それも何時まで持つか分からない。体力が尽きるか、一瞬体勢を崩した瞬間血の刃は殺到し細切れにされてしまう。

 その前にこの状況を変えなければ…………

 

「ハァッ!」

 

 そう思っていた時、マンダラの放った一撃があらぬ方向へ飛んでいく。狙いを定めさせない為に縦横無尽に動き回っていた事が功を奏し、マンダラの狙いを散漫にさせたのだろう。

 それは良いのだが、問題はその刃が飛んでいった先。その先には半壊した屋敷があり、そしてそこには唯が隠れてコガラシの様子を見ていたのだ。

 

「あ……!?」

 

 飛んでくる血の刃に、唯の顔から血の気が引く。逃げなければと思っているのだが、突然の事に驚き足が竦んで動かない。

 刃はそのまま唯の体を切り裂こうとして――――

 

「だりゃぁぁぁっ!!」

 

 その前に割り込んだコガラシの轟雷により、血の刃が切り裂かれた。ギリギリのところで死を免れた事に、唯は安堵のあまりその場に座り込んでしまった。

 

「な、南城君……!」

「小鳥遊さん、大丈夫!?」

「うん!」

 

 唯が毛が一つない事にコガラシは安堵し、そして直ぐに怒りの炎を燃やした。

 

「お前……!」

 

 狙った訳では無いだろうが、マンダラの攻撃で危うく唯が怪我では済まない傷を負うところだった。あんなものを喰らっては、仮に命が助かっても一生消えない傷が残る事は確実だ。唯の体に……好きな少女の体に傷を付けようとした、マンダラを許す事は出来なかった。

 

「執筆忍法、風遁の術ッ!」

【忍法、風遁の術ッ! 速筆ッ!】

 

 コガラシは風遁の術を竜巻として放つのではなく、自身の周りに纏わせ暴風の障壁にしてマンダラに突撃した。ホムラの相手に躍起になっていたマンダラは、雄叫びと共に突撃してくるコガラシに気付くと幾つもの血の刃を飛ばして仕留めようとした。

 

 だがそれらはコガラシが纏った暴風の壁により削り取られた。今の一瞬でコガラシは数えきれないほどの風遁の術を発動し、何重にも風の障壁を自分の周りに張ったのだ。風は多量の塵や砂粒を含んでおり、それはさながら鎌鼬の壁の様であった。触れるもの全てを切り裂き粉砕するミキサーは、血の刃も例外なく削り取り無力化していった。

 

「くぅっ!」

【忍法、噴血槍の術の術ッ! 達筆ッ!】

 

 血の刃だけではあの壁を抜く事は出来ない。そう察したマンダラは、血の槍も加えて攻撃をコガラシに殺到させた。次々と迫る血の刃や槍を暴風の壁が防ぐが、次第にその壁が薄くなっていく。苛烈な攻撃に壁が削られていったと言うのもあるが、コガラシの術には他の術同様制限時間があるのだ。その制限時間が徐々に近づいてきた。

 

 このままではマズイと、ホムラが火遁の術で援護するがマンダラは彼にも攻撃を続けている。飛び交う血の刃と火球がぶつかり合い、空中に幾つも小さな爆発が起こった。

 

「くぅ、千里……!?」

 

 ホムラが息子を想う中、遂にコガラシの術が途切れた。風の壁は失われ、障害を排除したマンダラは彼を亡き者にしようと攻撃を集中させようとした。

 

 刹那、何処からか飛んできた稲妻がマンダラに直撃。その腕から秘宝の硯を弾き飛ばした。

 

「ぐあぁぁぁっ?!」

「今のは、イカズチッ!」

 

 離れたところでその光景を見ていたホムラは稲妻の下手人の姿を直ぐ見つける事が出来た。イカズチだ。コガラシに置いて行かれた彼が、今になってやっと追いつき援護の為術を使ったのだ。

 

 マンダラの腕から外れ飛んでいく秘宝の硯。それは明後日の方向へと飛んでいき、コガラシの頭上も飛び越え、後ろで様子を見ていた唯の目の前に落下した。数メートルもしない所に秘宝が落ちてきたのを見て、唯は考えるよりも先に体が動いていた。危険を顧みず飛び出し、秘宝に手を伸ばす。

 

「ッ! 待てッ!?」

 

 唯の動きを見ていたマンダラは手を伸ばして彼女を止めようとするが、どう足掻いても彼女が硯を手にする方が早い。咄嗟に苦無を抜き投擲したが、それは唯に届く事無くコガラシに弾かれた。

 

 そして唯は暁の硯を拾い上げると、それをコガラシに向け放り投げた。

 

「南城君ッ!」

 

 普段部活のバスケで鍛えたコントロールで投げられた硯は、真っ直ぐ彼に向け飛んでいき手を上げた彼の手の中に見事に収まった。受け止めた硯を見て、コガラシは一度マンダラを見ると先程奴がそうしていたように左腕に装着した。

 

「ッ、おぉ…………!」

 

 装着した瞬間、コガラシは以前晴嵐の筆を手にした時と同じ感覚を味わっていた。言葉では言い表せない、強い力が自分の中に流れ込んでくる感覚。

 

 今ならマンダラにも負ける気はしない。

 

「執筆忍法、分身の術ッ!」

【忍法、分身の術ッ! 速筆ッ!】

 

 手始めに硯を使ってコガラシが分身の術を使うと、マンダラの周りを埋め尽くすレベルで無数のコガラシが姿を現した。周りを取り囲まれ、更には秘宝を奪い取られてマンダラは明らかな動揺を見せた。

 

「な、クソッ!?」

 

 それでも負けを認める事はせず挑んだマンダラの根性は大したものだが、今回ばかりは無謀と言わざるを得なかった。

 

 一斉にマンダラに飛び掛かる無数のコガラシ。鋸剣で対抗するマンダラだったが、多勢に無勢と言う状況故かあっという間にボコボコにされた。最近急激に力をつけたコガラシ数人を一度に相手にするのだ。度重なる術の使用とコガラシ達との戦いで消耗したマンダラには厳しい戦いなんてものではない。

 

「うごっ!? ぐっ!? がっはぁっ?!」

 

 四方八方からの攻撃に直ぐに対応できなくなり一方的に袋叩きにされる。そして動けなくなった頃に、分身は全て姿を消し本物のコガラシが1人マンダラの前に佇んだ。

 

「これで終わりだ。観念しろ……」

「ふざ、けるな……!? このマンダラが、貴様如き小僧にぃぃぃッ!?」

【忍法、血遁の術ッ! 達筆ッ!】

 

 激昂したマンダラは両足を血遁の術で強化しコガラシに向けドロップキックを放った。飽く迄足掻く姿勢を崩さないマンダラに、コガラシは晴嵐の筆を暁の硯に当てこちらも忍術を発動した。

 

「書かせてもらうぜ、俺の勝利をッ! 執筆忍法、疾風激烈脚ッ!」

【必殺忍法、疾風激烈脚ッ! 速筆ッ!】

 

「ハァァァァァァッ!!」

「オォォォォォォッ!!」

 

 コガラシとマンダラが空中でぶつかり合う。激しい火花を上げながらせめぎ合う2人だったが、ただでさえ大きく消耗しているマンダラと秘宝で大幅に強化されているコガラシではどちらに軍配が上がるかは明白だった。

 

 程無くしてマンダラは力負けし、コガラシの必殺技を前に血遁の術ごと蹴り飛ばされた。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 屋敷の塀を突き破り道路に落下するマンダラをコガラシとホムラ、イカズチの3人が追いかける。強烈な一撃を喰らい、地面に叩き付けられたマンダラは立ち上がる事も儘ならず道路のど真ん中で倒れていた。

 動けないマンダラを万閃衆の忍者3人が取り囲む。

 

 その中でホムラが忍者刀を手にマンダラに近付いていった。

 

「年貢の納め時だ、マンダラ。ここまでだな」

 

 このままマンダラを捕らえ、然る後総本山にて卍妖衆に関する情報を吐かせる。これで万閃衆と卍妖衆、二つの組織の戦いが前進する筈であった。

 

 しかしホムラがマンダラを捕らえるより先に、空から無数の黒い稲妻や炎が降り注いだ。直前でそれに気付いたホムラは後ろに飛び退いて回避し、コガラシとイカズチの2人も巻き込まれないようにと下がった。

 

「これはッ!?」

「黒い遁術?」

「あそこだ」

 

 突然の奇襲。黒い遁術など初めて見るコガラシが凝視していると、イカズチが何かを指差した。

 

 その指が差す先を見たコガラシは、マンダラに近付く1人の忍者の姿を確認した。

 

 それは明らかに普通の忍者とは異なっていた。普通の忍者の装束の上から鎧を纏い、忍者と鎧武者のハイブリッドの様な見た目をしたそいつは外見だけでなく放つオーラも違った。胃が縮む様な威圧感、迫力、一歩足を踏み出す毎に地面が揺れるかと思う程の力強さ。

 

 見た事は一度も無いがコガラシには直ぐに分かった。コイツがオボロ……卍妖衆の首魁だ。

 

 オボロ相手にはホムラも迂闊な動きが出来ないのか、コガラシを守る様に立ち塞がり相手の出方を伺っていた。

 

 警戒するコガラシ達3人の忍者。だがオボロはそんな彼らを一瞥しただけで直ぐに興味を失い…………

 

「……む?」

 

 ふとコガラシの後ろの方で、屋敷の中に隠れるように佇んでいる唯に一瞬視線を向けた。本人は自分が注目されている事に気付かず、ただ固唾を飲んで事の推移を見守っていた。

 

「…………フン」

 

 暫し睨み合っていたコガラシ達とオボロ、その緊張感漂う均衡を崩したのはオボロの方だった。小さく息を吐くと倒れたマンダラを担ぎ、そして霞の様に姿を消してしまった。空気に溶けるようにオボロが姿を消すと、イカズチが警戒しながらオボロが居た場所に駆け寄り何か痕跡が無いかと辺りを調べる。だが結局は何も見つける事は出来なかったのか、無言でホムラに向けて首を横に振った。

 

 マンダラを結果的に逃がしてしまった事は残念だが、オボロを相手にこれ以上の戦闘をする事は避けれて良かったとホムラは安堵する。卍妖衆首魁オボロはこんな突発的な戦闘でぶつかり合っていい相手ではない。相応の準備をして挑まなければ、例えホムラであっても苦戦は免れない相手なのだ。

 

 悔やむと同時に安堵の溜め息を吐き、そしてこの戦いで大きな活躍を見せた我が子を労おうと振り返った。だがその時には、既に彼は唯の元へと駆け寄り変身を解除していた。

 

「小鳥遊さん、大丈夫?」

「うん。南城君こそ、怪我は?」

「へっちゃら。それより、ゴメンね? 守る為にここに呼んだのに、結局は危ない目に遭わせちゃって……」

「ううん、そんな事無い。ここに呼んでくれたから、南城君や南城君のお父さんに助けてもらえたんだし」

 

 互いに相手を心配する千里と唯の様子に、ホムラは肩から力を抜き小さく息を吐くと音も無く彼の背後に近寄った。千里と対面している唯も気付かぬほどの隠形で近付いたホムラは、唯との話に夢中になっている息子の脳天に手刀を叩きつけた。

 

「ふんぎっ!? イッテェ!? 何ッ!?」

 

 突然の折檻に千里が目を白黒させながら背後を振り返れば、ホムラは仮面の奥から鋭い視線を我が子に向けていた。

 

「馬鹿者。安全が確認できていないのに警戒を解く奴があるか。オボロが退いてこちらが気を抜いた時に別の奴が仕掛けてこないとは限らないのだぞ」

「うぐっ……」

「勝って兜の緒を締めよとも言う。お前は毎度詰めが甘い。その自覚を持て」

「は、は~い……」

 

 秘宝の力を借りてとは言え、マンダラには勝てたと言うのに待っていたのは説教と言う状況に千里は不満そうな声を上げる。

 そんな息子の姿に溜め息を吐くと、ホムラは厳しい雰囲気を解き先程とは打って変わって柔らかな声で彼の頭を優しく撫でた。

 

「とは言え、此度の戦いは見事だった。成長しているな、千里」

「あ…………あぁ!」

 

 普段あまり褒めない方の父が褒めてくれた事に、千里は一瞬唖然となったが直ぐに嬉しそうな顔で頷いた。彼の様子に仮面の奥で笑みを浮かべたホムラは、そのまま彼と唯を下がらせた。

 

「千里、小鳥遊さんをとりあえず中の安全な場所に連れていけ。この場は俺が片付けておく」

「分かった。さ、小鳥遊さん」

「うん。あ、南城君のお父さんも、ありがとうございます!」

 

 唯がホムラに頭を下げ、2人は屋敷の中へと入っていく。屋敷はあちこちが戦いの余波で崩れているように見えるが、見た目に反して中にはまだ無事な場所が残っている。そこへ向けて歩いていく2人の背を見送ったホムラは、待機していたイカズチに指示を出した。

 

「下忍を呼べ。オボロの追跡と、この場の後始末だ」

「ハッ」

 

 音もなくイカズチが姿を消す。それを見たホムラは、振り返り半壊した屋敷を見て溜め息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方屋敷に入った千里と唯は、被害の無い部屋に辿り着くとそこで腰を下ろし一息ついた。千里は勿論、唯も足を投げ出す様に座り少しだらしない姿を見せた。それだけ先程まで2人が感じていた緊張感は凄かったと言う事だ。一つの修羅場を越え、緊張の糸が切れてしまったのである。

 だが唯は直ぐに姿勢を正した。曲がりなりにも千里の前でだらしのない姿を見せるようなはしたない事はしたくなかった。

 

 千里はそんな唯の姿に気付かず、疲れを吐き出す様に大きく息を吐いた。

 

「はぁ~~……大変だった。まさかアジトがもぬけの殻だった上に、こっちに上忍が2人も来るなんて……」

「お疲れさま」

「ありがとう。でも小鳥遊さんが無事で本当に良かった」

 

 こちらにマンダラ達が出たと聞いた時、千里は本気で肝を冷やした。それを聞いた瞬間彼の頭からは今回の任務も何もかも消え去り、只管に唯を守らなければという強い想いが彼を突き動かしていた。

 

 改めて思う。彼女を好きだと言うこの気持ちは本物だ。それを自覚すると彼女に向ける視線も自然と暖かなものとなる。

 千里から熱の籠った視線を向けられ、唯も何だか気恥ずかしくなり頬を赤く染めた。

 

「な、南城君? その……あんまり、見つめられると……」

 

 千里の視線に込められた想いを理解している唯は、それにどう対処すればいいのか分からず身動ぎした。些細なその仕草すら、今の彼には愛おしい。

 

「……小鳥遊さん、聞いてほしいんだ」

「う、うん……」

 

 不意に千里の顔が真剣になり、だらけていた佇まいを正し正座して唯と向き合った。真面目な雰囲気となった彼に唯も思わず緊張してこちらも正座してしまう。

 

「前に、ゲッコウが襲ってきた時に言ってたよね? 俺に、その……告白するつもりだったって」

「あ、あれは……えと……」

「確認したいんだ。あれは、その……恋愛的な意味での告白って事で、いいのかな?」

 

 もしこれが間違っていた場合自分はとんでもない勘違いをしていたと、人生最大の黒歴史となること間違いない問い掛けをした。否定されたらどうしようと内心ビクビクしながら勇気を振り絞って問うと、唯は顔を真っ赤にしながらもハッキリと頷いて見せた。頷き上目遣いで見てくる彼女の姿に、千里は己の想いを打ち明けても良いのだと確信し口を開いた。

 

「なら、俺の気持ちも言うよ。俺は小鳥遊さんが好きだ! 俺も、恋愛的な意味で小鳥遊さんの事を大事に想ってる。普段学校で恋愛に対して厳しい事を言う小鳥遊さんにこんな事を言うのはいけない事なのかもしれないけど、それでも俺は――――」

 

 それ以上の言葉を千里は告げる事が出来なかった。何故なら次の瞬間、唯は感極まった様に千里に抱き着いて来たからだ。千里の胸板に顔を埋め、両手を彼の背中に回してギュッと抱き着く。

 

「た、小鳥遊さん?」

 

 突然の抱擁に言葉を失った千里だが、髪の隙間から見える彼女の耳はこれ以上ない程真っ赤に染まっている。豊かな乳房が押し付けられる柔らかな感触を感じるが、そんな事よりも彼は彼女のその反応がOKを意味している事の方が重要だった。

 

「えっと、OKって事?」

 

 確認する千里に対し唯は無言で彼の胸に顔を埋めたまま頷いた。何も言わないのは、愛しさのあまり言葉が出てこないから。顔を彼の胸に埋めるのは、嬉しさと愛しさで緩んだ顔を彼に見られたくないから。恋愛に対してはド素人以下の唯が、唯一出来た愛情表現がこれだったのだ。

 

 彼女の気持ちは千里にも伝わった。その事を彼は嬉しく思い、そして変な所で不器用な彼女を可愛く思い包み込むように抱きしめ返した。

 

「小鳥遊さん……大好きだよ」

「…………私も、南城君……好き」

 

 千里の告白に対し、唯も消え入りそうな声で答えた。

 

 屋敷の一室でお互いの想いを伝えあった2人の居る部屋のすぐ外には、諸々の指示を出し終えた徹が佇んでいた。彼は部屋の中から死角になる場所で2人の告白を聞くと、その場を音もなく離れるのだった。




と言う訳で第21話でした。

強敵・マンダラの得意技である噴血槍の術をコガラシは遠心分離させることで攻略しました。因みに作中では描写を優先して簡単に分離する様に見せていますが、実際に血液を遠心分離させる為には抗凝固剤と言う血液が固まらないようにする為の薬剤が必要になります。分かり易いのを上げればクエン酸ナトリウムなんかがそれですが、この場で用意する事は流石に難しかったのでこの話では思い切って省きました。まぁ忍術に利用する過程で性質に若干変化が加わったみたいな感じで流してください。

そしてコガラシが新たな強化アイテムを入手。本作冒頭で卍妖衆に奪われた硯の効果は、忍術に使用制限時間などの延長です。今まで以上に速く、そして長い時間沢山の術が使えるようになりました。

戦いが終わって一安心と言うところで、遂に千里が唯に告白です。これで晴れて2人は恋人同士になれました。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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