仮面ライダーコガラシ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回は前回から少し時間を遡って、コガラシ達が戦っている間の元アジトでの様子なんかをお送りします。
ちょっと場面転換が多めなので、インターバル的な話でもあります。


第二十二筆:後処理と後任

 コガラシがマンダラを撃破した頃、卍妖衆がアジトとしていたビルの中ではゲッコウとδ5の戦闘が佳境に入っていた。

 

「クソッ!」

「ハッハァッ!」

 

 δ5は他の隊員が落としていったガンマカービンやガンマソードを駆使して対抗していたが、ゲッコウは彼の攻撃を全て切り抜けて三日月を振るった。大鎌の一撃はガンマカービンを粉砕し、ガンマソードはへし折られた。そして反撃の鋭い一撃は直撃すればどれもライトスコープの装甲を容易く切り裂き、余波だけでも吹き飛ばすほどの威力があった。

 

 ライトスコープは決して貧弱な性能と言う訳では無い。オリジナルであるスコープの簡易量産型とは言え、ファッジを始めとした怪人との戦闘に耐えられるだけの能力を持っていた。ただ、残念な事にライトスコープは名だたる仮面ライダー達が持つような特記すべき能力や性能を持っていない。元々量産型として訓練を積んでいれば誰でも扱えるようにと作られていたので、汎用性を重視した結果抜きん出た何かを持ってはいないのだ。

 尤もそれは悪い事ばかりではなく、複数人で徒党を組んで行動をするのには有利に作用した。だが今回の様な敵のエースを相手に単独で戦うのは、正直に言って無謀と言う他はなかった。

 

 普通に考えればあっという間に振りほどかれ倒されてもおかしくない状況。寧ろここまで持ち堪えているのが大したものである。

 

 だがそれもそろそろ限界だ。もう使える武器は今持っているガンマソード一本のみで、銃器は弾切れか三日月に両断されて使い物にならない。何よりδ5自身の体力が底を尽きかけていた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 大きく息をしながらも、震える手でガンマソードを構え立ち続けるδ5。その彼の姿にゲッコウは三日月の柄で肩を叩きながら素直に称賛の声を送った。

 

「粘るじゃねえの。正直量産品なんて大した事無いとか思ってたが、そいつはどうやら間違いだったらしいな。悪かった、ぶっちゃけ少し馬鹿にしてた」

 

 δ5との戦いでゲッコウは忍術を使っていない。それは彼を侮っての事でもあり、同時に突出した能力を持たない彼に合わせたハンデのつもりであった。こうでもしなければ勝負にならないと思っていたのだ。

 だが目の前に居るのはただの尖兵ではなく、一端の戦士である事をゲッコウはこの戦いの中で認めていた。強敵を前に一歩も引かず喰らい付くその姿は、敵ながら天晴で尊敬に値する強さの表れであった。

 

 そんな相手に手加減をし続けるのは逆に無礼に当たる。ゲッコウは自分の傲慢さと愚かさを素直に謝罪し、彼に対し本気で戦う事を決めた。

 

「次の一撃は本気で行かせてもらう。精々、死んでくれるなよ?」

【忍法、影遁 切影(きりかげ)の術ッ! 達筆ッ!】

 

 忍筆で三日月に文字を書くと、刃に影が集まる様に黒く染まっていく。強烈な技が来ると分かっていても、体力が尽きかけのδ5にはそれを止める手立てがない。今の彼に出来る事はその一撃を何とか受け止めるか、ギリギリで回避できることを信じる事だけであった。

 

 力を溜め、大鎌を大きく振りかぶる。迫る大技を前にδ5が身構えた…………その時、無数の発砲音が室内に響き渡った。

 

「ッ!?」

 

 発砲音の主は隊長のスコープを始めとした動けるライトスコープ達の持つ銃であった。負傷者の運び出しが終わった彼らは、1人残ってゲッコウの相手を務めたδ5を見捨てる事無く助けに戻ったのだ。

 

「δ5ッ! 生きているかッ!」

「た、隊長……」

「隊長、δ5は無事です!」

「よし! δ5を回収後速やかに撤収する! 急げッ!」

「ハッ!」

 

 弾幕が襲い掛かり、堪らずゲッコウは攻撃を中断し後退を余儀なくされた。如何に突起した能力を持っていないライトスコープが相手とは言え、こうも攻撃を集中されては馬鹿に出来ない。頑丈な忍び装束を突き破らんとする銃弾に、ゲッコウは逃れようと動くが弾幕はしつこく追随してきてなかなか逃れられない。その間にδ5は他の隊員達に抱えられるように引き摺られてその場から離れていった。

 

 戦いが中途半端な所で終わってしまい、ゲッコウは思わず舌打ちをしてしまった。

 

「チッ、馬鹿にし過ぎてたな」

 

 己の浅慮を悔やみながら、ゲッコウは弾幕から逃れようと後退し物陰に隠れた。彼が姿を隠すと、その隙にとS.B.C.T.は一斉に後退しビルから出て行った。

 

 δチームが完全に撤収するとゲッコウは物陰から顔を出した。もう見渡す限りに動く者は見当たらない。窓に近付き外を見れば、S.B.C.T.の輸送車が急いで離れていくのが見える。その光景に彼は小さく息を吐くと変身を解いた。

 

「は~ぁ……上ももう終わりか」

 

 耳を澄ませば、上からも下からも物音は聞こえない。秘宝はとっくの昔に運び出しているだろうから、それを目的にしてきた万閃衆も既に撤退しているだろう。もうこのビルに残っているのは隆司しかいない。

 

「……帰るか」

 

 ここに居る必要は無い。そう判断した彼は、あからさまに肩を落として残念そうにしながらその場を後にした。

 

「あ~ぁ…………思いっきり戦いてえなぁ」

 

 そんな彼の呟きは誰の耳に入る事も無く、無人のビルの中に空しく響き渡るのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方、コガラシとの戦いに敗れたマンダラはオボロに回収されて卍妖衆の本拠地に戻ってきていた。オボロの忍術で姿を消した直後、マンダラは変身が解け本来の姿を晒していたので、タッチの差で彼の正体がコガラシ達に晒される寸前であった。オボロとしてもそれは避けたかったので、内心で冷や汗を流したのは内緒だ。

 

 そして本拠地に戻ってから行われたのはマンダラこと孝蔵の独断行動に対する責任の追及であった。コガラシに敗北し意識を失っていた孝蔵は、叩き起こされて目覚めた時目の前にオボロが立っている光景に一瞬理解が及ばず間抜けな顔を晒していた。

 

「お、オボロ様……!? こ、これは……」

「マンダラよ……失態だな。貴様の行動で万閃衆の手に秘宝が戻ってしまった。しかも相応の使い手まで手に入れて、な」

「くっ……!?」

 

 ぐうの音も出ない。今回、一番の目的は万閃衆に秘宝の硯を奪い返されないようにする事だった。だからこそ万閃衆が仕掛けてくる前にアジトをもぬけの殻にし、足止めの為にゲッコウを配置したのである。

 S.B.C.T.の襲撃は予想外だったが、それでもあの時点で作戦は殆ど完了したも同然であった。

 

 だがここでマンダラの独断が全てを瓦解させる。彼は己の地位や処遇を安定させる為、欲をかいてコガラシを仕留めてポイントを稼ごうとした。それにドクロを巻き込み、剰え秘宝の硯まで持ち出した。結果、彼はただ敗北しただけでなく折角奪い取った秘宝を奪い返されてしまった。しかもその能力を使いこなせる使い手まで与えてしまう始末。

 

 今後万閃衆はコガラシに晴嵐の筆だけでなく、暁の硯も管理と言う名目で預けるだろう。つまりはそれだけコガラシが万閃衆から期待を向けられていると言う事であり、同時に今後は今まで以上に力をつけたコガラシを相手にしなければならないのだ。

 

 余計な欲をかかなければ何も問題なかったと言うのに、要らぬ事をした結果大きな障害を作り出してしまった。そう考えると二重の意味で孝蔵の独断は余計な行動だ。とてもではないが擁護する事も看過する事も出来ない。

 

 それでも孝蔵は諦めなかった。確かに自分は失態を犯した、それは揺るぎようのない事実である。

 だが彼にはまだ、この失態を挽回するチャンスが残っていた。

 

「お、お待ちくださいッ! コガラシは、奴らはマンダラの正体が私であると言う事は知りませんッ! 奴らの教師と言う立場にいる私ならば、隙をついてコガラシを亡き者にする事等造作も――――」

 

 必死に自身の有用性をオボロに説く孝蔵であったが、突如周囲に異音が響き渡った。濡れた布を刃物で突き破り、液体が床に零れ落ちる様な音だ。

 異様に直ぐ近くで聞こえたその音に孝蔵は最初何の音だと周囲の気配を探った。だが次第に音だけでなく、体に違和感を感じた孝蔵は恐る恐る視線を自分の腕に向けた。

 

 その視線の先では、自身の右腕を異様な形に変形した骨が内側から切り裂いているのが見えた。それを見た瞬間、彼は激しい痛みに右腕を抑えながら悲鳴を上げ倒れ込んだ。

 

「ひっ!? ひぎあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!?!」

 

 骨を無理矢理変形させられた痛みと、その骨が皮膚や筋肉を切り裂き突き破る痛み。二つの痛みが孝蔵を襲い、彼は無様とかそんな事を考える余裕もなく悲鳴を上げながら床に零れた己の血の上でのたうち回った。

 

「腕ッ!? 腕が、腕がぁぁっ!?」

「無様だな、マンダラ? 人を巻き込んでおいて、辿り着いたのがそれか」

「ど、ドクロォ……!?」

 

 孝蔵の腕の骨を変形させたのは、ドクロの扱う骨遁の術である。マンダラの用いる血遁同様禁術に指定されたその術が、孝蔵の腕を変形させ内側から彼の右腕を破壊したのだ。

 

 咄嗟に孝蔵は反撃しようと左手で苦無を抜いて飛び掛かろうとした。だがその瞬間今度は足の骨が変形させられ、ひしゃげた骨が孝蔵の左足を内側から切り裂き身動きを取れなくさせた。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ?!」

 

 骨をバキバキと変形させられ左足を内側から切り裂かれる痛みに、孝蔵は再び悲鳴を上げながらその場に倒れた。のたうち回る彼をドクロが足で踏み付け動けないようにしたのを見て、オボロは彼に処遇を告げた。

 

「マンダラよ、お前をこれまでの任務から解く。追って次の処遇を告げるので、それまでは頭を冷やしておくのだな」

「うぐっ!? ぐぅぅぅぅぅっ!? お、お待ちくださいオボロ様ッ! チャンスをッ! 私にもう一度だけチャンスをッ!?」

「連れていけ」

「オボロ様ぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 室内に孝蔵の絶叫が響き渡る中、下忍2人が孝蔵を引き摺りその場を離れていく。それを見送り、オボロはドクロに視線を向ける。

 

「奴の後任はお前に任せる。いいな?」

「お任せください、オボロ様」

 

 ドクロは恭しくオボロに頭を下げながら変身を解いた。本来の姿に戻ったドクロは、その名の通り骨と皮だけの様にガリガリの姿を晒した。

 

 恭しく下げていた頭を上げたドクロだった男は、オボロに向けて怪しく不気味な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 コガラシとイカズチによる卍妖衆のアジト襲撃は、結果だけを見れば目的であった暁の硯を奪還できたと言う事で成功と言う形に納まった。この件は万閃衆の士気を高める意味もあり、日本各地に潜伏している万閃衆の忍び達に広く知らされる事となる。

 その中には当然、マンダラとドクロによる南城邸の襲撃とコガラシによるマンダラ撃破も含まれていた。遠く離れた地に居る忍びの中には、若き忍びの活躍に期待を寄せる者も少なくない。

 

 だがそんな中で、コガラシの活躍を素直に喜べていない者がいた。椿である。

 咄嗟の判断ミスからS.B.C.T.に攻撃を仕掛けてしまい、無用な諍いを生んだ事の責任を取る形で謹慎となっていた彼女は、己の未熟を恥じて謹慎中も精神鍛錬などに時間を費やし二度とあの様な事が起こらないように努めていた。

 

 そんな彼女にも届いた今回の作戦の結果報告。卍妖衆に奪われていた暁の硯を奪還できたことは素直に喜ぶべき事なのだろうが、しかし彼女の心に浮かんだのは暗鬱とした気持であった。

 今回の作戦、本来であれば参加していたのは椿と千里の2人だった筈だ。だが彼女は失態が原因で謹慎せざるを得なくなり、代わりにイカズチが作戦に参加した。そして彼女が知らない所で千里が活躍し、強敵であるマンダラを見事に下してしまった。

 

 今回の一件で千里には今まで以上の期待が集まる筈だ。総本山からの評価も高まるだろう。自分が今まで未熟だ何だと言い、悪い言い方をすれば格下と見ていた彼が、だ。

 元々彼に対しては、楓と血の繫がりがあると言う事で嫉妬を抱いていた。それが今回の事も加わり、彼女の中で嫉妬の炎が大きくなった。それと同時に焦りも感じる。見下していた相手が気付けば自分のすぐ後ろにまで来ているのだ。この分だと自分を追い抜かすのもそう遠い話ではないと、そう思えてならなかった。

 

「~~~~ッ、いかんいかん。こんな事ばかり考えては……。今拙者がすべきことは己の失態を反省し、同じ失態を繰り返す事が無いようにと己を鍛える事。拙者は楓殿の教えを受けた、その教えを穢す様な事をしてはならぬでござる」

 

 自分に言い聞かせるようにそう言うと、椿は荒れた心を鎮める為座禅を組み目を瞑った。

 

 だが心の中には悔しいという思いと、千里の成長を認めたくないと言う嫉妬が何時までも渦巻いていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 卍妖衆のアジト襲撃と南城邸への奇襲から、早くも数日が経過していた。この間、唯の周りでは事件と言うべきものは起きる事が無かった。

 やはりマンダラがやられた事は卍妖衆にとっても大きな衝撃であったのか、あれから少し経つが不気味な位卍妖衆は大人しい。下忍や影忍も騒ぎを起こす事無く、誰かがクセジになって暴れると言う事も無い。

 

 その事に唯は若干の気味悪さを感じながらも、それ以上に平和な日常が戻ってきた事に大きな安堵を感じていた。

 

 そしてそれ以上に今彼女が心をときめかせているのは、千里と恋仲になれた事であった。あの戦いの後、2人は千里の家の一室で互いの気持ちを確かめ合った。と言っても、唯はうっかり千里に想いを告げてしまっていたし、千里が唯に想いを寄せている事も彼女は知っていたのでそれはどちらかと言うと互いの気持ちの確認という感じであったが、それでもハッキリと関係の進展が出来た事は素直に嬉しい。嬉しさのあまりあの後彼女は千里の顔を上手く見る事が出来なかったほどだ。

 

 だが今ではそれも落ち着き、千里と共に過ごせる日々を心から楽しんでいた。

 

 正門を抜け、下駄箱の所に向かうと視線の先に目的の人物を見つけ、胸のときめきに笑みを浮かべ声を掛けた。

 

「南城君、おはよう!」

「小鳥遊さん!」

 

 横から唯が声を掛けると、彼女の接近に千里も眼鏡の奥の目を細めて笑みを返した。歩走りで下駄箱に駆け寄り手早く靴を履き替えた唯は、一足先に靴を履き替えていた彼に近付いていった。

 

 駆け寄ってくる唯の笑みに、千里も胸に温かいものを感じながら改めて朝の挨拶を返した。

 

「おはよう、小鳥遊さん」

「うん!」

 

 晴れて互いに恋仲となれた2人だが、学校では出来るだけ今まで通りに接しようと決めていた。恋を知り愛する事を知った唯だが、それはそれこれはこれ。学び舎で爛れた事をする訳にはいかないと己を律し、また今まで散々他人の色恋に文句をつけてきた自分が学校でイチャつく訳にはいかないからだ。だから互いに呼び方は今まで通り『南城君』であり『小鳥遊さん』だった。

 

 しかし呼び方は今まで通りでも、傍にいる事で醸し出される甘酸っぱい空気は隠せるものではなかった。並んで教室に向かう2人は、他愛のない会話を楽しんでいたのだがその姿は傍からはどう見ても相思相愛のカップルのそれ。恋する乙女のする顔を見せる唯の姿に、今まで厳しい風紀委員としての彼女しか知らない生徒達は思わず我が目を疑っていた。

 

 そんな周囲からの視線を気にしていないのか気付いていないのか、2人は揃って教室に入っていった。仲睦まじく教室に入り、そして何処か名残惜しそうに分かれて自分の席に向かう2人を先に教室に居た少数の生徒達は目で追った。

 

「よぅ、南城。今朝もラブラブだな?」

 

 千里が席に着くと、早速学が揶揄ってきた。彼の言葉に千里は思わずむせた。

 

「ん゛んッ! 山崎、ちょっと……」

 

 自分達が付き合っているのは事実なのでそれを否定する事はしないが、あまり大っぴらに指摘されたくはない。何よりも唯が嫌がる。学校では飽く迄も仲の良い友人同士と言う体で付き合い、恋人同士となるのは放課後に学校を出てからと決めているのだ。それが今まで、学校内でイチャつくカップルに対して厳しい態度を取ってきた彼女なりのけじめであった。

 尤も周囲からはどう見てもカップルにしか見えないのだが……

 

「あのな……お前相手だから言うけど、そういう事いちいち指摘したり言いふらすの止めろよ? 小鳥遊さん嫌がるから」

 

 学を引き寄せ、顔を近付け声を抑えて千里は告げる。真剣な彼の物言いに、学の方も納得した様子で頷いた。

 

「あ~、はいはい。そういう感じで行く訳ね。オーケーオーケー、分かったよ」

 

 一見軽薄に見える学だが、意外と物分かりは良く話の出来る男であった。だからこそ千里も彼とは付き合う事が出来ている訳だし、彼のそういうところは心の底から信頼している。

 

 これ以上この事を指摘するのは野暮だと察した学は、千里と唯が付き合った事実から話題を変えた。

 

「そう言えば南城、聞いたか? 加藤先生が辞めるって話」

「あぁ、何か体調崩して教師続けられなくなったんだって?」

「そうそう」

 

 ここ最近、彼らの担任である孝蔵は学校に顔を見せず、ホームルームや授業は副担任が担当していた。表向きは体調不良だが、真実は敗北を重ねて失態を犯した故に処罰されたから。だが千里は彼の正体を知らない為、その真実を知る事は無かった。

 

 もし千里が孝蔵の正体を知り、そして自分に敗北して教師としての地位から離れたと知ったら、彼は一体どんな顔をするだろうか。

 

 しかしこうなると気になるのは彼の後任で赴任する担任だ。副担任が今はホームルームなんかを担当してくれているが、それは飽く迄も暫定的な処置。近い内に新しい教師が赴任する事になるだろう事を教室内の誰もが想像していた。

 爽やかな笑顔が人気を集めていた為、多くの女子は彼ともう会えなくなることを心底残念に思っていた。

 

「次はどんな人が先生になるのかね?」

「さぁ?」

 

 別に千里としてはどうでもいい事であった。学生としての顔は半ば仮の姿でしかない。学生生活を楽しんではいるが、そこに教師の指定はこれと言ってなかった。最低限、人間が出来ていてホームルームや授業を受けて不快にならない人間であれば誰でも良かった。

 

 そんな他愛のない事を話し合っていると、始業のチャイムが鳴りバーコード頭の中年の副担任が教室に入ってきた。何時の間にか教室の中は生徒で埋まり、席に戻り静かになっていた。

 その中には謹慎が解けた椿の姿もあった。

 

 副担任は教壇に立つと、開口一番このクラスに新たな担任が赴任する事を千里達に告げた。

 

「え~、先日体調不良で急遽学校を止める事になった加藤先生に代わり、新しい先生がこのクラスを担任する事が決まりました。それでは宇賀八先生、こちらへどうぞ」

 

 副担任に声を掛けられ、教室の扉が開き1人の男が入ってきた。

 

 入って来た新たな教師の姿に、生徒達は思わず息を呑んだ。不健康そうな肌色に肉が付いているのか怪しいやせ細った肉体。落ちくぼんだ目の下には隈が浮かび、雰囲気もどこかおどろおどろしい。暗い夜道で遭遇しようものなら、お化けと見間違えて悲鳴を上げて逃げ出すこと必須の見た目だ。

 

 生徒達から畏怖の視線を受けながら教壇に立ったその男は、黒板に自分の名前を書いて自己紹介をした。

 

「初めまして……今日からこのクラスの担任に赴任しました、宇賀八(うがはち) 骨猪(こつい)です。よろしく……」

 

 骨猪はそう言って頭を下げる。本来であればここで拍手の一つでもするべきなのだろうが、流石にそこまでしようと思える者はここには居なかった。

 教室内の多くの生徒の考える事はただ一つ、「マジか」と言う現実を疑う言葉であった。

 

 とは言え折角赴任してくれた先生を無碍に扱う訳にもいかない。誰もが言葉を失う中、唯は気を取り直して一歩前に踏み出し、手を上げると歓迎の意味を込めて拍手した。

 彼女の勇気に他の生徒達もまばらにだが拍手を始め、教室は彼を受け入れる雰囲気を作り出した。かなり頑張って作り出された雰囲気だが、ともあれこれで晴れて骨猪はこのクラスの担任として受け入れられたのである。

 

 骨猪は頭を上げると素早く視線を彷徨わせる。じろりと動く彼の視線の中には当然千里と椿、そして唯の3人が映るのだが、見られた当人たちを含めその事に気付いた者は誰も居ないのだった。




と言う訳で第22話でした。

前回の戦いで盛大に失態を犯したマンダラはめでたく更迭です。今回で一度表舞台からは姿を消す事になります。
ドクロの骨遁の術の本当の恐ろしさは今回描いた通り。その気になれば相手の骨をも操れてしまうので、ジョジョ5部のリゾットのメタリカみたいな事も出来てしまいます。と言うか、今回ドクロがマンダラに仕掛けたシーンはそれが元になってますね。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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