仮面ライダーコガラシ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回は新たな仮面ライダーが登場します。

それと共にあるキャラの意外な一面が……


第三筆:暴かれる仮面の下

 突如姿を現した紫色の忍者の襲撃に、コガラシは気付くのが精一杯で攻撃を防いだりするまでは間に合わない。

 反射的に忍者刀を上げて防ごうと体は動くが、それはどう見ても間に合うものではなく――――

 

【忍法、氷晶塵の術ッ! 達筆ッ!】

「ッ!?」

 

 突如として紫色の忍者の真横から、突風が吹いてきた。よく見るとその風には微細な氷の刃が混じっており、太陽の光に照らされてキラキラと輝いている。

 その刃に切り裂かれながら、紫色の忍者は吹き飛ばされコガラシからは距離を取らざるを得なくなった。

 

「くっ!? 誰だッ!?」

 

 奇襲を妨害され、襲撃してきた忍者は妨害者に怒声を飛ばす。それに対する返答が、凛とした声と共に校庭に響いた。

 

「誰だ、はこちらのセリフでござろう? 一仕事終えたばかりのコガラシ殿を襲う不逞な輩よ」

 

 そこに居たのは水色の忍者だった。コガラシや紫色の忍者に比べると、鎖帷子の様なアンダースーツに覆われた腕と足、タイトなミニスカートの体にフィットするような装束となっており浮き出るボディーラインと声からそれが女性であると伺えた。忍び装束の上からでも目を引く胸元が目立つが、それ以上に目を引くのはその忍者が手に持つバカでかい手裏剣だった。身の丈ほどもありそうな大きさの手裏剣は、中央の穴にグリップの様な物があり彼女はそこを握っている。

 

 それはそれとして、唯にはこの忍者――いやこの場合はくノ一か――の声にも聞き覚えがあった。

 

「は、あいや、『ツララ』さん。助かったよ、危ないところだった」

 

 コガラシはくノ一の事をツララと呼んだ。呼ばれたツララは、顔だけコガラシに向けコロコロと笑いながら口を開いた。

 

「コガラシ殿は相変わらず詰めが甘いでござるなぁ? 何時如何なる時も気を抜くなかれ、我ら忍びの鉄則でござるよ?」

「うぐぅ……」

 

 正論なのかコガラシはツララの言葉に何も言えなくなる。

 

 そんな2人の会話など知った事ではないと言わんばかりに、紫色の忍者は忍者刀をツララに向け再び怒鳴り声を上げた。

 

「おいッ! 無視するんじゃないッ!?」

「五月蠅いでござるなぁ。物事には順序があるのを知らぬのでござるか? と言うより、いい加減そろそろ名乗ってもらいたいのでござるが?」

 

 飄々としたツララの態度に、紫の忍者の口元から歯を食い縛る音がギリリと鳴る。だがそれはそれとして彼女の発言は尤もなので、彼は左手の親指で己を指差しながら名を名乗った。

 

「俺は忍者……忍者『ゲッコウ』だッ!」

「ではゲッコウ殿、そなたに今一度訊ねよう。何故、コガラシ殿を襲った? 同じ忍者でありながらその様な狼藉…………ま、予想はつくでござるが」

 

 言いながらツララは巨大手裏剣を構えた。明らかな戦闘態勢を取るツララに対し、ゲッコウも忍者刀を構えて迎え撃つ意思を見せた。

 

「大した理由じゃねぇ。ただ……お前ら万閃衆(まんせんしゅう)の忍者に挑みたくて仕方ねぇだけだ。ま、こんな不意打ちにも反応が遅れるようじゃ、たかが知れてるみたいだけどな」

「……やはりお主、卍妖衆の忍びでござるな?」

「だったら何だ?」

「知れた事。ここで仕留めさせていただく……!!」

 

 言うが早いかツララは一気にゲッコウに接近し、巨大手裏剣で斬りかかった。身の丈を超える武器を使っているとは思えぬ動きで斬りかかってきたツララを、ゲッコウは圧倒的に小さな忍者刀で受け流す。

 

 その際の発した音は凄まじく、離れた所に居る唯は思わず耳を塞いだ。

 

「きゃっ!?」

「小鳥遊さんッ!」

 

 耳を塞いで頭を下げた唯を、コガラシは守る様に覆い被さる。それでも視線だけは2人の戦いから外すことなく、戦いの推移を見守っていた。

 

 コガラシからの視線を気にすることなく、ツララとゲッコウは激しく切り結んだ。

 

「お主ら卍妖衆、一体何を企んでいるッ!」

「さぁな? 気になるんなら俺を倒して吐かせてみろよッ!」

「言われずともッ!!」

 

 ツララとゲッコウ、両者の力は拮抗しているのかどちらも一歩も譲らない。だが戦いではどちらも忍術を使わず、手にした武器のみでの攻撃に留まっていた。どちらも互いに相手に手の内を晒さないようにしているのだ。

 だがその戦いにも限界が来たのか、ゲッコウが忍者刀を左手に持ち替え忍筆を手に取った。いよいよ術を使うつもりなのだ。自然とコガラシの視線はゲッコウに向けられる。

 

「お前、なかなかやるな。そんな奴に何時までも出し惜しみをするのは失礼ってもんだ」

「御託は結構。何かするつもりならさっさとするでござるよ」

「へっ、じゃあ……お望み通りに…………!」

 

 ゲッコウの忍筆を握る手に力が籠る。筆を振るい、忍法を使おうとした……その瞬間、離れた所からサイレンの音が聞こえてきた。逃げた生徒か教師が警察を呼んだらしい。サイレンの音が明らかにここに近付いてくる。

 

 それを聞いたゲッコウは、音のする方を素早く見やる。ツララも同様にサイレンの音に釣られて視線をそちらに向けるが、警戒心は片時も緩めない。

 

「……ここ迄みたいだな」

「逃げるのでござるか?」

「下らねぇ言い方するんじゃねぇ。お前が逆の立場だったらまだ続けるのか?」

 

 この言葉には共感するものがあるのか、ツララも構えを解いた。ゲッコウは筆と忍者刀を納め、今一度ツララとコガラシを交互に見た。

 

「今日はここまでで勘弁してやる。だが次に会った時は俺の力でお前ら纏めてぶちのめしてやるからなッ!」

 

 ゲッコウはそう吐き捨てると、校舎の屋根に飛び乗りそのまま屋根伝いにその場を離れていった。

 

 それを見送ったツララは、一つ息を吐くと改めてコガラシと唯の方を見た。

 

「やれやれ、厄介な輩に目を付けられた様子。とは言え、小鳥遊殿に怪我はないようで何より」

「どうも……えっと、あなたは? 南城君もそうだけど、忍者って……」

「それについてはこの場では時間が無い故、この後コガラシ殿の家で話を聞かれる方が良かろう。どの道コガラシ殿の正体を知ってしまった小鳥遊殿とはじっくり話をせねばならぬでござろうから」

 

 ツララがなぁ? と視線を向ければ、コガラシはバツが悪そうに頬をかいた。やはりと言うか当然と言うか、忍者の正体を明かす事はご法度の様だ。

 そう考えると改めてコガラシ……千里には悪い事をしてしまったと唯は申し訳ない気持ちになる。

 

「ご、ごめんなさい南城君。私の所為で、面倒な事になっちゃったみたいで……」

「あぁ、いや、小鳥遊さんは気にしないで。大丈夫だから」

 

 コガラシはとっくの昔に徹から折檻される事への覚悟は決まっていた。今更謝る必要はないと手を振り唯を宥めた。

 そんな2人の様子を見て笑みを一つ浮かべたツララは、踵を返しその場を離れていく。

 

「それでは拙者も失礼させていただく。コガラシ殿も、警察が来る前にこの場を離れる方がよろしい」

「分かってるよ。今日はありがとう」

「なんのなんの。小鳥遊殿も、また学校で。ではこれにて御免」

【忍法、隠れ身の術ッ! 達筆ッ!】

 

 ツララの姿がドロンと消え、後に残されたのはコガラシと唯、そして気絶した聡の3人のみ。消えたツララにコガラシは1つ息を吐くと変身を解き、近付いてくるサイレンの方を眺めるのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 その後、案の定学校は休校となり生徒は解散。唯は安全の為に千里により自宅へ送り届けられ、怒涛の1日は終わりを告げた。

 

 そして翌日、唯は千里に呼ばれて彼の自宅へと足を運んでいた。目的は勿論、先日唯にバラしてしまった千里の裏の顔と、今後の事について徹を交えて話をする為だ。

 

 千里の自宅に到着した唯は、目の前に広がる立派な日本家屋に圧倒されていた。

 

「う、わぁ……」

「古い家でしょ?」

「あ、うぅん!? そんな……立派な家だって思っただけ。大きなお屋敷……南城君って実はお金持ち?」

「どうだろ? 俺と父さんだけの2人暮らしだし、お手伝いさんとかも雇ってないから」

 

 それよりも今大事な事は徹と話す事だ。先日、千里が帰宅した際に徹は不気味な位何も言わなかった。何も言われない事が逆に怖くなった千里が訊ねると、徹は話は同じ当事者である唯も交えてだとだけ告げた。

 

 一先ず即座に折檻される事は無さそうだと安堵に胸を撫で下ろした千里ではあるが、その分大きな揺り返しがあるのではと今になって戦々恐々としてきた。この場で自分は一体どんな目に遭うのだろうかと。

 

 それを唯には悟られないようにしつつ、千里は門を潜り玄関を開け唯を招き入れた。

 

「さ、小鳥遊さん。入って入って」

「お、お邪魔します」

 

 こんな日本家屋に入るのは初めての事なので、唯はちょっぴり緊張しながら玄関に足を踏み入れた。

 思えば異性の家に上がるのはこれが初めての事だ。この緊張はそれもあるのだろうと、唯は他人事のように感じながら玄関を上がり千里の案内を受けて客間へと足を運ぶ。

 

「父さん、お待たせ」

「うむ」

 

 千里が客間に入ると、そこには既に座布団の上に正座している徹の姿がある。口をへの字に曲げた仏頂面でこちらを見てくる徹に、唯は気圧されて全身が強張るのを感じた。

 

 唯の緊張を感じ取ったのか、千里は彼女の背に優しく手を当て座布団に促した。

 

「大丈夫だよ小鳥遊さん。さ、座って」

「う、うん……失礼します」

 

 一つ頭を下げ、唯は勧められた座布団の上に正座する。目の前には机があり、唯が座ると徹が湯呑に茶を淹れて出してくれた。

 

「まぁ、そう緊張しないで。小鳥遊さん、だったね? これでも飲んで落ち着いて」

「はい、ありがとうございます」

 

 唯は渡された茶を一口飲んだ。良い茶葉を使っているのか、口の中に程良い苦みと温かさが広がる。本当はもっとずっと美味しいのだろうが、生憎と緊張もあって味が殆ど分からない。

 

 それでも温かい茶は唯の緊張を多少でも解すのに役立ったのか、彼女の表情が先程に比べて柔らかくなった。

 

 徹は唯の緊張が解れたのを見て、頃合いかと話し始める。

 

「さて、千里。大体の事情は既に知っているが、当事者であるお前からの話が聞きたい。何があったのかを話してもらおう」

「うん」

 

 それから千里は、先日起こった事を掻い摘んで話した。

 

 突如忍術を使うようになった聡、その忍術に翻弄される唯、乱心の術と妖蟲変化の術でクセジに変異した聡、クセジを倒した直後に襲い掛かって来たゲッコウの事等…………

 

 一頻り、徹は目を瞑り黙って話を聞いていた。だが最後のゲッコウの出現の下りに差し掛かると明らかに目線が鋭くなった。

 

「……卍妖衆、遂に中忍以上が出るようになってきたか」

「ツララさんが来てくれなかったら危なかったよ」

「お前は詰めが甘い。忍びたるもの、何時如何なる時も油断するな。そんなだからお前は半人前なのだ」

「ツララさんにも言われたよ」

「大体、我ら忍びは忍ぶ事が何よりも重要だと常々言っておいた筈だ。その禁を破って小鳥遊さんに忍びの姿を晒す、その意味が分かっているのか?」

「いや、でも……放っておけなかったし……」

 

 己の迂闊さを再認識しつつ、それでも譲れない部分はあったのか小さい声で反論を口にする千里。流石に見過ごす気にはなれなかったので、彼女なりのフォローをした。

 

「あの、でも! 南城君のお陰で、私は2度も助けられました。だから、その……」

 

 精一杯言葉を紡ごうとする唯だったが、こんな肝心な時に限って語彙が出てこない。己の無力さに目を伏せる唯だったが、徹はそんな彼女の様子に目元が優しくなった。

 

「…………千里、俺は少し席を外す」

「あ、うん……」

 

 徐に徹は立ち上がり、襖の向こうへと姿を消した。残された2人は、重圧を放っていた徹が居なくなった事で肩の力が抜けホッと息を吐く。

 別に怒られているという訳ではなかった筈なのに、何だかドッと疲れを感じた。あれが達人と言う奴なのだろうかと、唯はぼんやりと考えていた。

 

「はふぅ……ところで、南城君のお父さんはどうしたの?」

「さぁ? 偶に話の途中でああやって出て行くんだ」

「おトイレ……?」

「いや? あっちにトイレは無い筈なんだけど……」

 

 2人の疑問を他所に、徹は真っ直ぐある部屋へと向かった。彼が向かった先にあるのは、彼自身の寝室。

 そこに辿り着いた瞬間、徹は目にも留まらぬ速さで文字通り部屋の中に滑り込み、スライディングしながら部屋の奥に鎮座する仏壇へと向かった。その仏壇は今は亡き彼の妻である(かえで)のもの。

 

 そして…………

 

「聞いたッ! ねぇ楓ちゃん聞いたッ!! 千里ってばイイ子だよぉッ! 流石俺と楓ちゃんの子供ッ!!」

 

 目から滝の様な涙を流しつつ、仏壇に祀られた遺影に向け報告し、りん棒で”おりん”を鳴らした。その姿からは先程の威厳と重圧ある姿はとても想像できない。もしこんな光景を千里が目にしようものなら、自分の頭がおかしくなったことを疑って近くの柱に頭を叩き付けるか偽物を疑うだろう。

 

「千里ってば、忍びが姿を晒すのはご法度って分かっていながら、小鳥遊さんを助ける為に戦ったんだって! 後で怒られる事を覚悟して、自分の事より人を助ける事を選んだんだよッ! 立派だよぉ、本当に立派ッ!」

 

 ズビズビと鼻を啜りながら徹は妻の遺影に如何に千里が気高く立派な心を持っているかを語った。

 

「あの子ならきっと将来立派な忍びに育ってくれるよ。だから楓ちゃんも、安心して天国から見守ってあげてね」

 

 徹は最後に一際大きくハンカチで鼻をかむと、涙を拭き立ち上がって寝室を出た。

 

 障子を開け寝室から廊下に出る頃には、彼の顔は先程千里達に見せていた仏頂面へと戻っていた。そのまま徹は2人を待たせている客間へと向かう。

 

 程無くして客間に戻ると、少し緩んでいた千里の顔が引き締まる。その様子に徹は顔に出さないながらも、内心では頬を緩めていた。

 

(千里の奴……普段なら戻る前には気を引き締めていると言うのに……)

 

 今回に限っては、徹が戻ってくることに気付いていなかったのか気を引き締めるのが遅れた。徹はそれを単純に千里が弛んでいると断じることはしなかった。

 チラリと見るのは千里の隣に同じく緊張した面持ちで正座する唯の姿。心なしか、彼女が隣に居る今は千里も心に余裕があるように見えた。そして唯の方も、緊張していると同時に何処か安心しているように感じられた。

 

 2人の姿に徹は内心でフッと笑みを浮かべた。

 

「あ、父さん……」

「待たせたな」

「いや……」

 

 徹が何をしていたか、何を思っているかなど知る由もなく千里は彼の顔色を窺う様に話し掛ける。徹はそれを適当に流しつつ、元居た場所に戻り腰を下ろす。

 

 徹が腰を下ろし、湯呑に入った冷めつつある茶を一口啜るとそのタイミングを見計らって唯が口を開いた。

 

「あの……話が途切れた所で、ずっと聞きたかったことがあるんですけど……」

「ん? 何かな?」

「南城君って、何なんですか? 忍者って言うのは、もう分かるんですけど……いえ、そもそも忍者が現代に現実に居るって言う事自体が信じられないって言うか……」

 

 忍者が過去に存在したと言う話は唯だって知っている。だが唯が知る忍者とは所詮スパイの一種であり、間違ってもこんなアクション映画の様な戦いをするような連中ではない。現代では忍者は決して戦わず、情報を持ち帰る事を最優先にするスパイや密偵のような存在と言われていた。そこを踏まえると、忍術や手裏剣で飛んだり跳ねたりして戦う忍者と言う存在そのものが最早架空の存在に近いと言えた。

 

 だが、現実に物語に出てくるような摩訶不思議な術を使う忍者はここにいる。初めて目にする非日常の体現者に、唯は心の奥では未だに驚愕し混乱していた。これが現実の出来事なのかを疑う自分すら居る。

 

 唯の疑問に千里が徹を見ると、彼は唸りながら頷き重い口を開いた。

 

「そうだな……どの道君は、今後大変かもしれない。知らないよりは知っている方が良いだろう」

「え? 待って、どう言う意味ですか?」

「それはおいおい説明するから」

 

 何やら不穏な言葉が徹の口から出てきて、不安に駆られる唯だったが千里に宥められ口を閉ざす。新たな不安と言うか疑問が浮上したが、それは徹の話を聞いてからでも遅くはない。

 

「まず、千里は勿論この俺も、万閃衆と言う昔から国に仕える忍びだ」

「まん、せんしゅう?」

「こういう字」

 

 千里が取り出した懐紙に筆で万閃衆の文字を書く。唯がぼんやりと知る中で忍者の集団は伊賀と甲賀しかいなかったので、万閃衆など聞いた事も無かった。だからどんな字を当てるのか分からなかったから、この千里の補足はありがたい。

 

「古くから伝わる話では、万閃衆は昔からこの国の影で動き、人の世の裏で蠢く怪異や悪意と戦ってきたとされている」

「悪意はともかく、怪異?」

「妖怪として言い伝えられている何かだろうが、まぁそこは眉唾だな。実際俺が若い頃にそんな奴と出会った覚えはない。俺達万閃衆の忍びが戦う相手は何時だって人間で、世間の裏で人々の安寧を脅かしかねない秘密結社などだ。いや、だった……か」

「だった?」

 

 これは唯もすぐに気付いた。明らかな過去形にしたという事は、人間だけを相手にしていられる状況がある時を境に大きく変わったという事だ。

 

「…………小鳥遊さん。君は、傘木社と言う企業があった事は知っているか?」

「一応……詳しくは知らないですけど、人体実験したとかで6年くらい前に倒産した企業ですよね?」

 

 6~7年前の話だが、傘木社の悪事は未だに人々の間で語り継がれている。それだけ被害に遭った人が居て、鮮烈に人々の記憶に刻まれているという事だろう。

 だがその傘木社と忍者が唯にはどうにも結びつかない。一体どういう事かと首を傾げていると、徹は深く溜め息を吐いて続きを話し始めた。

 

 その際、徹の顔に悲しみが浮かんだ事に唯は気付かなかった。

 

「そうだ。その企業は、ある怪物を作り出した。ファッジと言う、人間を変異させる怪物だ」

「えっ!? 人間を、怪物にッ!?」

「そう。社会の裏で人々を攫い、怪物を作り出すと言う悪事に手を染めていたのが傘木社だ。我ら万閃衆の忍びは当然それに対抗したのだが…………」

 

 そこで徹は沈痛な面持ちになり口を噤んだ。隣を見れば、千里も表情が沈んでいる。唯はそれだけで何があったのかを察した。

 

「……もしかして?」

「あぁ。俺達は負けた。傘木社は、いや……傘木 雄成は俺達が培ってきた力を物ともしない程強大だったんだ…………!?」

 

 目を瞑れば今でも思い出せる。雄成が変異したのっぺりとした特徴らしい特徴の見られないファッジにより、自分と共に挑んだ楓が無残に殺される瞬間を。何も出来ず、最愛の妻を目の前で奪われる悲しみを。

 

 そして――――

 

『こんなものかね、忍びとは? 期待外れも良いところだ』

 

 命を賭して挑み、そして散った楓に向けて放たれる雄成の無慈悲な言葉。それに言い返せない己の弱さへの怒りと悔しさを、徹は忘れた事は無かった。

 千里は当時まだ小学生だったが、その光景は彼も見ていた。彼の中にもその時の悲しみは刻まれている。

 

「傘木 雄成との戦いで、俺の妻であり千里の母親の楓は命を落とした。当時楓は万閃衆最強の忍びと言われていた。その楓の敗北は、事実上万閃衆の敗北を意味していたんだ」

 

 そこから万閃衆は大きく活動を縮小させた。させざるを得なかった。楓が散るまでの間に、何人もの忍びが雄成に挑み、そして倒れていった。万閃衆は大きく戦力を削られていたのだ。そこに楓の敗北がトドメとなって、万閃衆は動く事が出来なくなってしまった。彼らには日本の密偵としての活動もある。傘木社の相手だけで組織そのものを散らす訳にはいかなかったのだ。

 

 幸いその後は警察の中からS.B.C.T.と言う組織が生まれ、更には仮面ライダーデイナにより傘木社は崩壊。日本どころか世界が傘木社により荒されると言う最悪の事態は防がれた。

 それ自体は喜ぶべき事なのだろうが、それは同時に自分達の力不足をまざまざと見せつけられる結果となったのだった。

 

「そう、だったんですね。あ、それじゃあ、私を襲ったあの忍者は?」

 

 あまりこれ以上この話を長引かせるのは得策ではないと感じたのか、唯が露骨に話題を変えた。徹はその優しさに感謝しつつ、だが実際にはあまり話題の変更になっていない事に内心で苦笑しつつ話した。

 

「連中の名は卍妖衆。傘木 雄成に敗北した後、万閃衆から出奔した忍び達が結成した集団だ」

 

 隣で千里が懐紙に卍妖衆の文字を書いて、どう言う字を当てるのかを唯に教える。それを見てふんふんと頷きつつ、徹の話に耳を傾けた。

 

「出奔?」

「そう。万閃衆を見限って出奔したのか、それとも前々から野心を持っていて出奔したのかは知らんがね。とにかく奴らは万閃衆から抜け、独自に動き出したんだ」

「ただ連中が何を考えてるのかはよく分からないんだ。何か目的はあるみたいなんだけど、それが何なのかはまださっぱり」

 

 千里が困ったもんだと肩を竦める。だが唯には一つ懸念があった。

 卍妖衆の目的が分からないと言うが、ではなぜ自分は襲われたのか? 自分が狙われたのは、卍妖衆の目的の内に含まれているのだろうか? もし卍妖衆の目的に含まれているのだとして、それは一体何なのか?

 それらを考えて唯は不安に駆られた。

 

「あの、私、何で襲われたんでしょう?」

 

 思い切って疑問を口にすると、千里と徹が顔を見合わせて唸り声を上げた。徹は唯の顔と机の上の湯飲みを交互に見やり、眉間に皺を寄せ指でトントンと叩く。

 一方の千里はと言うと、天井を仰ぎ見たかと思うと視線を床に落とし畳の縁を眺めつつ考え込んだ。

 

「……変異させられたのがつい最近小鳥遊さんに叱られたアイツだから、私怨で狙われたって考えるのが普通だけど…………何か引っ掛かるんだよな~……」

「案外、誰でも良かったのかもしれない」

「「えっ?」」

 

 徹の口から出てくる思いもよらぬ言葉。誰でもいいとはどういう事か?

 

「誰でもいいって?」

「言葉通りの意味だ。今回の件で千里の高校に忍びが2人居る事は卍妖衆の知る所となった。今後連中はあの手この手でお前とツララを炙り出そうとするだろう。つまり……」

「連中の目的は、俺達万閃衆を本格的に潰す事って訳か?」

「可能性はある。卍妖衆がそれだけの力を付けたとするなら……」

 

 何だか会話の内容が不穏になって来た。だがどうやら卍妖衆の狙いが自分ではなく千里だと言うのは、唯にとっては安心すべき事かもしれない。唯は思わず安堵の溜め息を吐いた。

 そして直後に、本当の矛先が向けられている千里達の前で無神経な安心を感じてしまった自分の浅ましさに嫌悪感を抱いた。

 

「……ごめんなさい」

「え? 何が?」

「ぁ……うぅん、何でも……」

 

 思わず口をついて出てしまった謝罪の言葉。それを聞いた千里が思わず問い掛けると、唯は咄嗟に誤魔化してしまった。

 

「まぁ、そう言う訳だ。写経の術はもう既に解かれているだろうし、明日からは普通の生活を送れるはずだから、小鳥遊さんは安心してくれていい」

 

 複雑そうな顔をする唯を、今後も卍妖衆に襲われるかもしれないと言う不安に駆られていると思った徹がフォローする。

 フォローの方向が間違っているのだが、その事はおくびにも出さず徹の気遣いに感謝して少しぎこちないながらも笑みを返した。

 

「さて、他に何か聞きたい事は?」

「あ…………いえ、もう大丈夫です」

「そうか……今日は態々来てもらって、済まなかった」

「いえ。お話、ありがとうございました」

「千里、外まで送ってあげなさい」

「うん」

 

 千里が唯を促して席を立ち、客間を出て玄関へと向かって行く。徹はそれを見送り、そして視線を机の上に戻す。机には湯呑が3つ置かれているが、唯の所に置かれた湯呑の中身は最初に一口飲んだ後は一口も手を付けられていない。

 すっかり冷めた茶を眺めつつ、徹は唯の事を考えていた。

 

(誰でも良かった……本当にそうか?)

 

 自分以外誰も居ない客間で、徹は1人考え込んでいた。小さな胸騒ぎを感じながら…………

 

 

 

 

 一方千里は、門の外へと唯を送っていた。

 

「今日は来てくれてありがとう、小鳥遊さん」

「こっちこそ。色々とお話聞かせてもらっちゃって」

 

 まさか自分が平和に日常を過ごしている裏で、クラスメートの千里が忍者として世の平和の為に戦っているなどとは思ってもみなかった。知ったからと言って自分に何が出来るという訳ではないことは分かっているが、知らずにのうのうと過ごしているよりは知っている方がいざと言う時に手助けが出来ると考え、唯は今日千里と彼の父から話を聞けた事を素直に良かったと思っていた。

 

「本当に家まで送らなくて大丈夫?」

「大丈夫よ。心配しないで。それじゃ、また学校でね」

 

 千里に別れを告げて、唯は踵を返し帰路へと就いた。まだ日の高い街を唯が1人歩いていく。その道中、唯はある事を思い出した。

 

「あ、そう言えば、あのツララって言う忍者は誰だったんだろう?」

 

 昨日ツララは確かに言った。学校で会おうと……それはつまり、ツララと唯は学校で顔を合わせる可能性があるという事だろうか。果たして生徒なのか、それとも教師なのか。

 そう言えば昨日も疑問に思ったが、ツララの声をどこかで聞いた事がある様な気がする。だが学校の何処で聞いたのかを具体的に思い出せない。そのもどかしさに唯は歩きながらうんうん唸った。

 

 そんな彼女の前に、ふらりと人影が現れる。考え事に集中していた唯は、最初そのその人影が誰なのかに気付けなかった。

 

「ん~……ん?」

 

 唯が人影の存在に気付けたのは、あと数歩と言うところまで近づいた時。自分の前に立ち塞がる様に立つ人の存在に気付いた唯が、驚きびくりと震えながら足を止め相手の顔を見る。

 

 そこで漸く唯はそれが誰なのかに気付いた。

 

「えっ? 赤羽、君……?」

 

 目の前に立ったのは赤羽(あかばね) 庄司(しょうじ)。唯のクラスメートであり、先日聡と共に教室でエロ本を読んで彼女に叱られた生徒である。

 

 最初唯は何故庄司が自分の行く手を塞ぐのかが分からず首を傾げていたが、よく彼の顔を見て驚愕に頬が引き攣った。

 目の前に立つ庄司の目は明らかに正気ではないからだ。その目は先日の、変異する直前の聡のそれと同じであった。

 

 それは、つまり…………

 

「忍法……妖蟲変化の術」

 

 静かな言葉でぼそりと呟くと、庄司の体が変異していく。その姿は先日の聡と同様のトウロウクセジ

 

「そんな…………!?」

 

 再び眼前に姿を現したトウロウクセジを前に、唯はゆっくりと後退りしていく。ここはまだ千里の家に近い。今からなら走れば逃げ切れるかもしれない。

 

 だが彼女が動くより早くに、トウロウクセジが飛び掛かる方が早かった。唯の目からは見えない程の速度で飛び掛かったトウロウクセジは、正面から彼女を押し倒し地面に押さえ付けた。

 

「あぐぅっ?!」

 

 唯を押さえつけたトウロウクセジは、手に持った剣の刃を彼女の頬に這わせる。肌が切れない程度の力加減で刃が肌の上を動く感触に、唯は顔を青褪めさせながら動きを止めた。

 

 恐怖に戦き目尻に涙を浮かべて動けずにいる唯を前に、トウロウクセジは肩を揺らした。その様子はまるで笑っているかのようだ。

 

 そのままトウロウクセジは唯の首を掴んで持ち上げる。成す術なく首を絞めつけられ持ち上げられる事に、唯は声を出せず心の中で助けを求めた。

 

(誰か、助けて……!? 南城、君…………!!)

 

「執筆忍法、風遁の術ッ!」

【忍法、風遁の術ッ! 達筆ッ!】

 

 突如声が響いたかと思うと、突風がトウロウクセジを吹き飛ばした。その際の衝撃で唯は解放され、突然自由になり対応が追い付かず倒れそうになる体を後ろから駆けてきたコガラシが受け止めた。

 

「ふぅ、間に合った……」

「南城君ッ!」

 

 助かった事に唯が安堵している前で、コガラシは唯を抱きしめながらトウロウクセジに向け忍者刀を構えていた。

 吹き飛ばされたトウロウクセジは、立ち上がって唸り声を上げながらコガラシの事を睨み付けていた。




と言う訳で第3話でした。

今回は前回ラストに登場したライダー・ゲッコウに加えて新たな女性ライダー・ツララが登場しました。ツララはザ・くノ一といった女性ライダーです。戦力的には千里のコガラシを超えています。

そして今回恐らく多くの読者の方が驚かれたのではないでしょうか。頑固オヤジな徹は実はとんでもない親馬鹿の子煩悩でした。ただ千里にとっての忍者の師匠としての面子を守ろうとしているので、千里は徹のこんな一面を知りません。

千里が属する忍者集団・万閃衆は過去に雄成により壊滅させられています。デイナ本編では一瞬しか登場しなかった雄成のファッジ態・プロトファッジが数多くの万閃衆の忍者達を葬った、と言う過去があります。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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