仮面ライダーコガラシ   作:黒井福

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第三十七筆:雪景色に紛れる影

 夜の海都に突如現れた卍妖衆の下忍達。小鳥遊夫妻が居る為、コガラシに変身できない千里。

 

 覚悟を決め、2人の前で正体を晒すつもりで変身しようかと考えたその時、彼らを助けに現れたのはこの街を守る仮面ライダー……仮面ライダーテテュスだった。

 

「チップ1枚で……大逆転よ♪」

 

 決め台詞と共に、仮面の奥でウィンクするテテュス。それを合図に下忍達は一斉に彼女に襲い掛かった。

 

 忍者刀や苦無、鉤手甲で攻撃を仕掛けてくる下忍達。それをテテュスは、大きくスリットの入ったスカートを翻して迎え撃った。

 

「ハッ! フッ! ヤァァッ!」

 

 流れる水のような動きで下忍の攻撃を受け流し、お返しに回し蹴りを放つテテュス。まるで舞うような動きで戦う彼女を前に、下忍達は翻弄され1人また1人と倒されていった。

 

 目の前の光景に言葉を失う小鳥遊夫妻。千里はこの隙に2人をこの場から逃がそうと動き出す。

 

「今の内だ、早く逃げよう!」

「うん! お父さん、お母さん! こっち!」

 

 千里と唯に押されるようにして小鳥遊夫妻はその場を離れていく。それを一瞥し、4人が離れていく光景にテテュスは小さく安堵の息を吐く。この街で、もう誰も傷付けさせはしない。

 

 彼らが見えなくなると、テテュスは改めて下忍達を見た。如何にも忍びと言う見た目をした下忍達は、これまで彼女が相手をしてきたディーパーやファッジとは全く違う。

 

「ん~、何だろ? これも傘木社の残党なのかな? コガラシの仲間……とは思いたくないし」

 

 嘗て……4年ぶりにこの街に帰ってきた時、この街の窮地に手を貸してくれた仮面ライダーコガラシの姿を彼女は思い出す。あの時の若く、そして気持ちのいい忍者の仮面ライダーと、この闇夜に紛れて人を襲う忍者集団が同じ存在とは思いたくなかった。

 

 とは言え、街を騒がすなら誰であろうと許さない。このまま全員叩きのめして、どういう連中なのか洗いざらい吐かせようと構えを取った。

 

 その彼女の前に、新たな忍びが姿を現した。白いボディースーツの上に群青色の鎧を纏った、くノ一の仮面ライダー・フブキである。

 フブキは両手に持ったチャクラム『氷鱗(ひょうりん)』を投擲し、テテュスの行く手を阻む。それに彼女が足を止めたのを見て、彼女の前に降り立った。

 

「くっ!? 新手?」

「コイツはお前達には荷が重い。さっさと失せろ」

 

 ドストレートに邪魔になるから退けと告げると、フブキは氷鱗を手にテテュスに飛び掛かった。マンホールサイズの円形の刃を振り回してくるフブキの攻撃を、テテュスは体を逸らしたり手で相手の腕を弾く事で攻撃を逸らす。勿論避けるばかりではなく、攻撃の合間に出来た隙を見ては蹴りをお見舞いし反撃していた。

 

「アンタ達、一体何者なのッ! また傘木社の残党?」

「私達を、あんな負け犬連中と一緒にするなッ!」

 

 素早い攻撃の応酬にはとても手出しできるものではなく、下忍達は負傷した仲間を担いだりしてその場から離れていく。それを横目で見て、テテュスは軽く歯噛みした。この街を騒がせる輩をみすみす逃してしまった事に、口惜しさすら感じた。

 

「私を前に余所見とはッ!」

【忍法、雪幻想(ゆきげんそう)の術ッ! 達筆ッ!】

「はっ!?」

 

 テテュスが逃げていく下忍に一瞬気を取られた隙に、フブキは忍筆を取り出して術を使用してしまった。周囲に舞い散る粉雪の小さな結晶。年中暑い海都に似つかわしくない光景に、テテュスは一瞬気を取られるも即座に狙いを定めフブキに飛び掛かりながらボレーキックを放った。翻るスカートから伸びる、スラリとした足で放たれる蹴り。

 

 しかしその蹴りがフブキに直撃するかに想われた瞬間、彼女の姿は粉雪となって散り姿を消してしまった。

 

「なッ!?」

 

 攻撃が当たったかと思ったら姿を消したフブキに、テテュスは思わず言葉を失う。フブキはその隙を見逃さず、背後から不意を突いて氷鱗で彼女の無防備な背を切り裂いた。

 

「あぁっ!? くっ!」

 

 背中を切り裂かれながらも体勢を立て直し、反撃の蹴りをお見舞いしようとするテテュスだったが、蹴りはまたしても雪で出来たフブキの幻影を蹴り抜くだけで本人には微塵もダメージを与えられなかった。

 

 攻撃が不発に終わった事に、テテュスは周囲を警戒する。察するにこの舞い散る粉雪が、フブキの姿を覆い隠し幻影を見せ、テテュスにその位置を悟らせないようにしているのだろう。なかなかに厄介な攻撃だ。

 

 警戒していたテテュスだったが、フブキはそんな彼女を嘲笑う様に次々と攻撃を仕掛ける。元々素早い身のこなしは得意なフブキは、攻撃しては離れるを繰り返しテテュスに着実にダメージを与えていった。対するテテュスは、攻撃を受けては反撃するが本体を捉える事は出来ずダメージが蓄積していく。

 

 次第にテテュスの体はボロボロになっていき、美しいスカートにも傷や流れ出た血が付着して汚れが増えていった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……くっ」

 

 ダメージと共に体力の消耗が増えて行き、動きに精細さを欠き始める。そろそろ終いにするかと、フブキが構えたその時、テテュスが1枚のチップを右手の親指で弾き左手でキャッチした。

 

「忍術とは違うけど、似たようなこと……私も出来るわよ!」

 

 左手でキャッチしたチップを、ドライバーのスロットに投入しレバーを下ろす。

 

〈Good luck.〉

「ッ、させるかッ!」

 

 仮面ライダーテテュスはルーレットで様々な能力を使いこなす、その情報を持っていたフブキはそれを阻止しようと氷鱗で攻撃しようとするが、回転するルーレットに弾かれ失敗する。振り下ろした刃は弾かれ、その勢いに引っ張られる形でフブキ自身もテテュスから引き剥がされた。

 

「くっ!?」

「赤の23!」

〈BINGO! Ability activation! Deep diving.〉

 

 引き剥がされている間に、テテュスはルーレットの出目を当てて能力の発動を終えてしまった。せめて何かされる前に攻撃しようと氷鱗を投擲するフブキだったが、直撃する前にテテュスの体が真下の地面の中に沈んでいってしまった。

 

「あっ!?」

 

 まるで土遁の術の様に地面の下に沈むように潜ってしまったテテュス。忍術で似たような技を知っているが故に、フブキは何処か地面の中から攻撃してくることを警戒する。しかし彼女は知らなかった。テテュスの特殊技『ディープダイビング』は、繋がってさえいればどんな物の中へも入っていけるのだと言う事を。

 

 それを証明するかのように、テテュスは出し抜けにフブキの背後の壁から飛び出し無防備な背中を蹴り飛ばした。

 

「よいしょ!」

「ぐっ!? 後ろッ!?」

 

 まさか背後を取られる事は警戒していたが、まさか壁の中から出てくるとは思っていなかった為完全に不意を突かれた。

 

 それでも倒れる事無く氷鱗を振るい反撃するフブキだったが、その時には既にテテュスは再び地面の中に水飛沫を上げながら飛び込んでしまっていた。同じ攻撃は二度も喰らうまいと最大限に警戒するフブキは、今度は反応が間に合い近くの電柱から飛び出してきたテテュスを逆に投擲した氷鱗で切り裂いた。

 

「うあっ!?」

「貰った!」

【忍法、氷遁の術ッ! 達筆ッ!】

 

 空中に書いた『氷遁』の文字から、猛烈な吹雪がテテュスに襲い掛かる。視界を塞がれるほどの雪と風に思わずその場で両手を上げて吹雪を防いでしまったテテュスは、体のあちこちが凍り足も地面に固められてしまった。これでは潜る事が出来ない。

 

「な、あぁ……!?」

「ふっふっふっ……モグラ叩きは終わりよ」

 

 動けないテテュスなど恐れる必要は無い。まな板の鯉ならぬまないたの人魚姫をゆっくり調理しようと、フブキは凍結から抜け出そうと必死にもがくテテュスにゆっくり近付いていった。

 

 そして動けないテテュスの眼前に立ち、その身を切り裂こうと氷鱗を振り上げたその時、あらぬ方向から無数の火球が飛んできてフブキを追い払うと同時にテテュスの足元の氷を溶かした。

 

「くっ!? 誰だっ!」

「あなたは……!」

 

 テテュスとフブキは同時に同じ方向を見た。火球が飛んできた方向、そこに居たのは小鳥遊夫妻と共に逃げていった筈の千里であった。彼は逃げる途中、分身の術で自分の分身と入れ替わるようにしてこの場に戻って来たのだ。

 

 千里の正体を知らないテテュスは、何故危険なこの場に戻って来たのかと驚きを隠せない。だが次の彼の行動で、その理由を理解した。

 

「執筆忍法、変身の術ッ!」

「えっ!?」

 

 広げた真っ白な巻物に、千里が変身の文字を書く。すると書かれた文字が変形していき、巻物自体が重厚な輝きを放つベルトに変化した。それを腰に巻き、新たに空中に凩の文字を書いた。

 

「コガラシ、変身ッ!」

【忍法、変身の術ッ! 夜の声、しのぎ削りし、忍ぶ者……コガラシッ! 達筆ッ!!】

 

 空中に書いた凩の文字がベルトの中央の水晶に吸い込まれると、千里の姿が一変し忍者コガラシの姿に変身する。記憶にある、以前この街の為に戦ってくれた仮面ライダーの姿に、テテュスも漸く彼の正体を理解した。

 

「そうか、あなたが……」

「そう言う事。名を南城 千里、仮面ライダーコガラシさ。改めてよろしく!」

「えぇ!」

 

 まさか昼間助けた青年が仮面ライダーだったとは思ってもみなかったテテュスではあったが、そうと分かればこれ以上に頼もしい存在は居ない。コガラシと並び立ったテテュスは、ダメージの残る体に鞭打つように拳を握る手に力を込めた。

 

 一方、コガラシの参戦にフブキは怒りに身を震わせた。自分より劣る筈の青年が、自分の憧れる人物を実の母に持つ彼が現れ嫉妬と怒りの炎を燃やしていたのだ。

 

「コガラシ……! コガラシィィィィッ!!」

【忍法、分身の術ッ! 達筆ッ!】

 

 フブキは分身の術で2人に増えると、数の差をカバーしそれぞれ手分けしてテテュスとコガラシに対応した。分身はテテュスに、そして本人は己の手でコガラシを始末すべく彼の方に向かっていった。

 

 突撃してくるフブキを前に、コガラシも武器である轟雷を構え迎え撃つ。

 

「コガラシィッ!!」

 

 飛び掛かり、回転を交えながらコガラシに斬りかかるフブキ。勢いの乗った斬撃を彼は鞘から抜いた轟雷で防ぐが、強烈な一撃は完全に防ぎきる事は難しくコガラシの体は攻撃を防ぐ体勢のまま後ろに下がらされた。

 

「ぐぅっ!? くっ! お前は一体、何だッ!」

「ハァァァッ!」

 

 何処か違和感を感じるフブキの動き。戦いの中でそれを観察しながら、コガラシは異様に自分に対し敵愾心を燃やす彼女の目的を聞いた。彼が記憶している限り、卍妖衆にここまで憎しみを向けられる覚えはない。マンダラは分からないが、少なくとも卍妖衆のくノ一と接点を持った覚えは無かった。

 

 しかしフブキはコガラシの問いには答えず、鋭い斬撃と蹴りの連打で攻め立てた。縦横無尽に振るわれる刃に加えて、鞭の様にしなやかに振るわれる蹴りにコガラシは徐々に追い詰められていった。

 

「ぐっ!? うぅ、くぅぅ……!?」

「だぁぁっ!」

「ガハッ?!」

 

 遂に一瞬の隙をつき、フブキの蹴りがコガラシの防御を抜き彼の腹に突き刺さる。削岩機の様な一撃を腹に喰らい、コガラシは体をくの字に曲げて蹴り飛ばされた。蹴り飛ばされたコガラシは地面を数回バウンドした末に、転がりながら壁に叩き付けられて漸く止まった。

 

「ぐ、うぅ……くそ」

 

 痛みを吐き気を堪えながら、轟雷を杖代わりに立ち上がる。立ち上がりながらコガラシは相変わらずの強さを発揮するフブキを相手に、敵ながら舌を巻きつつより強くなる違和感に内心で首を傾げた。

 

(何だ? 俺はこのくノ一を知ってる? 何なんだ、この違和感は……)

 

 何処か既視感を感じさせるフブキの動き。それが彼の知るくノ一の動きと被るような気がして、しかしそんな筈はないと彼は首を振り違和感を振り払い忍筆を取り出した。

 

「執筆忍法、鎌鼬の術ッ!」

【忍法、鎌鼬の術ッ! 速筆ッ!】

 

 風による不可視の刃が回転しながらフブキに向け飛んでいく。複数の風の刃は、しなやかなフブキの肢体を切り裂いた。

 

 そう思った瞬間、フブキの体が罅割れ氷の欠片となって砕け散った。何時の間にかダミーと入れ替わっていたのだ。

 

「なっ……!?」

「ハッ!」

「ぐぁっ!?」

 

 氷で作った囮にコガラシが気を取られている間に、フブキは彼の背後に移動し氷鱗で無防備な背中を切り裂いた。背中を切り裂かれて前のめりに倒れたコガラシの、傷付いた背をフブキが足で踏み付ける。傷口を踏みつけられる痛みに、コガラシの口から苦悶の声が上がった。

 

「ぐぅっ!? あぁぁぁぁぁぁっ?!」

「お前が……お前如きが……!」

 

 動けないコガラシにフブキはトドメを刺そうと氷鱗を振り上げ、その首を刎ねようとする。その最中、彼女の脳内を占めるのは、この程度の力しか持たないコガラシが楓の息子であると言う事に対する失望であった。

 

(南城 千里……お前はやはり、楓殿の息子に相応しくない……!)

 

 今、フブキが万感の思いを込めてコガラシを始末すべく凶刃を振り下ろす。その刹那、彼女の脳裏に浮かぶのは育ての親であり恩師でもある、楓の悲しそうな顔。

 

 自分の中の楓が悲しむ姿に、束の間フブキは胃が縮む様な気になりヒュッと息を呑んで振り下ろそうとした刃を途中で止めた。

 

「うっ……!?」

「ぐぅ……え?」

 

 絶好の機会であるにもかかわらず、中途半端な所で攻撃を中断したフブキにコガラシが唖然となる。今の今まで、最早これまでかと残される唯の事等を考えていたと言うのにだ。何故このタイミングで攻撃を中断するのかが分からず、コガラシも自分を足蹴にしているフブキの事を凝視する。

 

 激しい戦いの最中に発生した一時の静寂。互いに見つめ合うコガラシとフブキだったが、そこに水を差す様にテテュスが飛び掛かりフブキを蹴り飛ばした。

 

「タァッ!」

「ガハッ!? な、何ッ!?」

 

 今の瞬間完全にコガラシに気を取られていたと言うのもあるが、何よりも彼女が不意を撃たれたのはこんなに早く自身の分身が破れた事が最大の原因だった。オリジナルに劣るとは言え、それでも分身は彼女自身に匹敵する能力を持つ。そんな分身をテテュスは物の数分で始末し、コガラシの救援に駆け付けたのだ。驚かない訳がない。

 

「くっ、まさかこんなに早く分身が倒されるとは……」

「ふっふ~ん! お姉さんを舐めてもらっちゃ、困るわよ?」

 

 言いながらテテュスはゴールドライフコインを取り出し、ノーブルレイズにレイズアップしようとした。が、気合を入れる彼女に対しフブキは状況の不利を悟って撤退に動いた。見れば先程あれだけ追い詰めた筈なのに、今見るとテテュスに刻まれていた傷などが綺麗になくなっている。絡繰りは分からないが何らかの方法で回復したと思しきテテュスを相手に、これ以上戦うのは厳しい物があった。

 

 コガラシを始末できなかった事は残念だが、チャンスはまだあると自身に言い聞かせフブキは煙玉をその場に叩き付けその場から姿を消した。

 

「今日の相手はここまで。だけど気を付ける事ね? 何時か必ず、私はお前の首を頂くわ」

 

 煙の中に消えていくフブキの言葉は、風と共に流されていく。それを見送ったコガラシとテテュスは、共に小さく息を吐いて変身を解きお互いに素顔を晒した。

 

「何か変なのに目を付けられてるわね。知り合い?」

「じゃ、無い……と、思いたい。(知ってる筈がない。俺に、卍妖衆の知り合いなんて……)」

 

 正体不明ながら自分に執拗なまでに執着するフブキに対し、千里は言い様のない不安を感じずにはいられないのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 翌日、千里と唯は2人だけで再びBAR・FUJINOを訪れていた。

 

 この日は自由行動と言う事で、小鳥遊夫妻も子供の面倒を見る親の仕事から解放され今頃思い思いの時間を過ごしているだろう。この隙に千里は秘宝を回収しようと目論んでいた。

 が、既にこの街で卍妖衆が活動しているとなると、自分1人では少し厳しい物があると考えた彼は急遽この街の仮面ライダーである瑠璃に助けを求める事にした。フブキも居る状況で、自分1人では秘宝の回収も唯の守護も手が回りきらないと言う判断からである。

 

 ついでに言えば、土地勘のある彼女の助力を得られれば活動しやすいと言う考えもあった。

 

「えっと……ここ、だよね?」

「うん、確か……」

 

 日中のBAR・FUJINOは夜間と違ってとても静かだった。ここが街の中心部から少し離れた、住宅街に近い場所にある事も関係しているのかもしれない。まるで日中に眠りについているかのように店は静かだった。

 

 こんな時間にBARを訪れる事に、言葉に出来ない背徳感の様な物を2人は感じたが、何時までもつっ立っている訳にもいかないと意を決して店の扉に手を掛けて店の中を覗き込んだ。

 

「お、お邪魔しま~す……」

 

 千里が中の様子を伺う様に挨拶をしながら扉の中に頭を入れると、目の前に浅黒い肌の男性が姿を現した。店内の掃除でもしていたのか、手にモップを持った状態で仁王立ちしジトッと見つめてくる男性に千里は思わず顔を引き攣らせた。男から堅気ではない雰囲気を感じたのだ。

 

「ガキがこんな時間に、何の用だ? ここはBARだぜ?」

 

 明らかに千里達を警戒した様子の男性に、千里は気圧されそうになりながら言葉を絞り出した。

 

「あ、あの~、俺達、ここの大梅 瑠璃さんに用があって……」

「瑠璃に?……あぁ、お前か。この街の仮面ライダーってのは」

 

 どうやらこの男性も関係者らしい事に、千里はホッと息を吐く。仮面ライダーに対して理解があるなら話が早い。最悪色々と誤魔化しながら話さねばならないかと覚悟していただけに、秘密を抱えず話が出来ると言うのは素直にありがたかった。

 

「俺はバーソロミュー・藤野、バーツで良い」

「南城 千里です」

「小鳥遊 唯です。それで、瑠璃さんは……?」

 

 瑠璃の事が気になっていた唯が訊ねると、バーツは店の奥の方を親指で指差しながら答えた。

 

「あぁ、瑠璃なら俺の嫁と一緒に赤ん坊に飯やってる最中だ。もうすぐ終わるだろうから少し待ってな」

 

 彼の言う嫁と言うのは、先日瑠璃と共に給仕をしていた女性の海羽の事だと千里は気付く。瑠璃もあの海羽と言う女性も、どちらも美しく若々しかったが共に結婚していて更に子持ちだとは思っていなかったので少し驚いた。まぁあの2人ほどの美人であれば、男が放ってはおかないだろうから結婚していてもおかしくは無いのだろうが。

 

 少し待つと言う事で、バーツは2人を椅子に座らせ適当にソフトドリンクを出して待たせた。2人がジュースを飲みながら暫く待っていると、バーツから話を聞いたのか瑠璃が少し急いだ様子で出てきた。昨夜接客していた時とは違う、落ち着いてゆったりした服装の彼女はまた違った印象を受ける。

 

「ゴメンね、待たせちゃって!」

「いえ、こっちこそいきなり押し掛けちゃって……」

「お子さんの世話で大変な所を、すみません」

「良いの良いの。多分来るかなって思ってたしね」

 

 言いながら瑠璃はコーヒーサーバーで手早く3人分のコーヒーを淹れ持ってくると一つ自分で飲みながら2人にも差し出した。千里と唯は軽く頭を下げながらコーヒーを受け取り、普段七篠庵で飲むのとは違う風味のコーヒーで一息ついた。

 

「俺はちょっと海羽の方に行ってくる」

「うん。ゴメンね?」

 

 恐らく今瑠璃の子供は海羽が一緒に面倒を見ているのだろう。その負担を和らげる為、バーツが手助けに向かうらしい。彼の気遣いに瑠璃が礼を言うと、彼は背を向けたまま小さく手を振り店の奥へと引っ込んでいった。

 

 バーツを見送り、コーヒーをもう一口飲んで本題を切り出した。

 

「それで? 今日は何の用……って、何となく想像出来るけど」

「実は……」

 

 千里は自分がここに居る理由を瑠璃に掻い摘んで説明した。万閃衆の事や任務に関しては何処までどのように説明するかで少し悩んだが、瑠璃が相手なら信用しても良いと判断して必要な情報として開示する事にした。

 

「俺が今ここに居るのは、この街に隠された万閃衆って言う忍者の組織の秘宝を回収する為なんです」

「忍者の組織ねぇ……2年前、ネイトと一緒に旅した時はあんなに探しても見つからなかった忍者が、まさかそんなにワラワラ居たとは思いもよらなかったわ」

「そりゃまぁ、忍者ってのは隠れ潜んでるもんなんで。探されて見つかる様じゃ、忍者失格ってもんです」

「それもそうか。で? 秘宝って?」

「はい。この街に、俺達万閃衆の秘宝が隠されてるんですけど、卍妖衆もそれを狙ってるらしくて……」

「この街で騒ぎを起こすつもり、って事ね?」

 

 恐らく連中がその気になれば、昨夜の戦いなど比ではない被害が街に及ぶ。クセジやドクロなど上忍による攻撃で、街の人々にも犠牲になる人が出る可能性は大いにあった。それを踏まえて千里が静かに頷くと、瑠璃は目を瞑って一つ溜め息を吐くと手の中のコーヒーを一気に飲み干し両手で頬を叩いた。

 

「よしっ! そう言う事なら、お姉さんも一肌脱ぎますか」

「それじゃあ……!」

「えぇ、私もあなた達に協力するわ。どの道その秘宝の問題が解決しないと、この街がまた大変な目に遭いそうだしね?」

 

 この街を守る為、瑠璃は千里達に協力する事を決めた。一度は世界を救った仮面ライダーの力が得られるとなり、千里の顔にも喜色が浮かぶ。笑みを浮かべて唯と顔を見合わせると、座った状態で深く頭を下げた。

 

「大梅さん、ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」

「良いの良いの。街の平和を守るのも、私の役目みたいなもんだしね?」

 

 感謝する2人に、瑠璃はウィンクを返した。意識しているのかどうかは分からないが、瑠璃程の美人にそれをやられると一瞬心臓が跳ねる。千里だけでなく唯もまた、彼女の色香に頬を赤く染めた。

 

 まだ色事を知らぬ少年少女の初心な反応。そんな中でチラリと唯の方を見てやれば、彼女は頬を赤く染めながら千里の事をチラチラと見ていた。どうも彼の反応が気になっているらしい。

 それを見て瑠璃は薄っすらと妖艶な笑みを浮かべると、唯の手を優しく取って静かに引き寄せ、耳元で小さく囁いた。

 

安心して? 昨日も言ったけど、彼にそんな気は無いから

「ッ!?!?」

何だったら、男を誘うやり方を教えてあげようか?

 

 千里には聞こえないように囁きながら瑠璃は自分で自分の体を抱き、その豊満な巨乳を強調させた。それを前にして、唯は同じ女であっても見惚れ劣情に近い物を感じずにはいられなかった。

 

 思わず飛び込みたくなるような巨乳を前に、しかし唯は誘惑を振り払って赤い顔のままそっぽを向いた。

 

「け、結構です! 私は、そんな……」

 

 千里を誘惑したくないかと言われれば誘惑したかったが、同時にそう言うやり方には忌避感に近い物を感じずにはいられない。

 自分の提案を拒否する唯に、瑠璃は面白いものを見る目を向け彼女の頭を優しく撫でた。

 

「そうね。あなたはそのままの方がきっと魅力的だわ。ただ、分からない事があったら遠慮なく聞きなさい? 人生の先輩として、女性の先輩として、色々と教えてあげるから」

 

 先程の妖艶さとは違う、母性を感じさせる笑み。一児の母だからこそ出せる包容力だろうか。それを前にすると不思議と心が落ち着き、気付けば唯はその身を彼女に委ねていた。

 

 寄り添いながら、終始小さな声で話していた2人。小声だから普通なら会話の内容なんて分かる訳ないのだが、しかしその様子を見ていた千里はほんのり頬を赤く染めていた。そう、彼には2人の会話が聞こえてしまっていた。意図せず風を読み、2人の会話を聞いてしまったのだ。

 

(ゆ、唯ちゃんが誘惑かぁ……ちょっと、見てみたいかも……)

 

 彼女は絶対そんな事しないだろうが、しかし瑠璃から手解きを受け女の武器を全力で使ってくる唯の姿も見てみたい。そんな事を考えつつ、千里は冷めたコーヒーを静かに口の中に流し込むのだった。




・tips:分身の術
 基本忍術の一つ。執筆忍法で書いた分身の文字がそのまま術者の分身となる。一度に何人にでも分身出来るが、大人数・長時間の分身の維持には相応の集中力を維持する必要がある。また、作られた分身はどう頑張っても元の術者に比べると能力が何割か割り引かれてしまうと言う欠点を持つ。
 これらの問題を秘宝『暁の硯』と『深緑の画仙紙』は解消してくれる。

と言う訳で第37話でした。

久々のテテュスの戦闘シーンでした。雑魚相手には圧倒的だった彼女も流石にフブキ相手は部が悪かったです。前作のキャラと言うことで、今の仮面ライダーである千里に見せ場を作らないといけないと言うメタい理由もありますがね。
ただ同時にやられてばかりではいられないので、分身フブキはサクッと攻略してもらいました。

執筆の糧となりますので、感想評価その他宜しくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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