仮面ライダーコガラシ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回は前回登場したくノ一・ツララの素顔が明らかになります。


第四筆:当たり屋に天罰を

 庄司が変異したトウロウクセジとコガラシが対峙する。コガラシは右手に忍者刀、左手に投擲武器の手裏剣を持ち、トウロウクセジが少しでも仕掛けてくる気配を見せたらその瞬間に手裏剣で牽制し続き忍者刀で切り裂くつもりであった。

 だが次の瞬間、彼にとっては予想外な事にトウロウクセジは一跳びで後方に下がり、続く跳躍で建物の屋根の上に飛び乗りそのまま屋根伝いに逃げていってしまった。

 

 逃げていくトウロウクセジをコガラシは大人しく見送り、姿が見えなくなると周囲を警戒しつつ手裏剣と忍者刀を仕舞い唯に優しく立ち上がる手助けをした。

 

「小鳥遊さん、大丈夫?」

「うん、ありがとう。……でも、何で南城君ここに?」

「うん……もしかしたら、残りの2人も写経と乱心の術を掛けられてるんじゃないかと思ってさ」

 

 唯が帰った後、3つの湯飲みを片付けている最中千里は気付いた。聡とつるんでいた残りの2人は本当に忍術を知らないのだろうかと。

 

 学校でエロ本を忍術で教科書に見せかけたのは恐らく確実に聡の忍術だろうが、それに付き合っていた2人はそれをどう思っていたのか。普通、エロ本を教科書に見せかけるなどそれだけで目を見張る様な光景の筈。少なくとも唯を嗤う余裕は無くなる筈だ。

 だがあの時、聡は勿論庄司も残りの1人もエロ本が教科書に変化し、そして元に戻っても驚いた様子を見せなかった。それはつまり、そうなるのが分かっていたという事。そうなる事に特別違和感を持たない理由があったという事になる。

 

 勿論それには聡が手品の一つと言いくるめていた可能性も否めない。だがもし、あの時点で3人全員が忍術の存在を知っていて忍術で変化させられている事を理解しているのだとしたら?

 

 そう考えると、唯の身にはまだ危険が迫っていると気付き千里はコガラシに変身して慌てて唯の後を追いかけたのだ。

 

「で、案の定小鳥遊さんが危ないところだったから、こうして助けに来れたって訳」

「そうだったんだ……。南城君、本当にありがとう。私、もうダメかと思った……」

 

 安心すると先程の恐怖が蘇ったのか、体を震わせ目に涙を浮かべる。コガラシはそんな唯を見て、変身を解くとハンカチを取り出し浮かんだ涙を優しく拭ってやった。

 

「大丈夫。安心して、小鳥遊さんは守って見せるから」

「何で、そこまで……?」

「それが、俺の仕事だからだよ。俺達忍びはその為に居るんだ。だから安心して」

 

 そう言って千里が優しく微笑むと、唯も釣られたように笑った。彼の笑みと、何度も助けられた事実に勇気をもらったのだ。

 

 唯が精神的に立ち直ったのを見ると、千里はハンカチを仕舞い彼女の手を取った。

 

「さ、送るよ。こっちだよね?」

「う、うん。…………ねぇ、南城君?」

「ん? 何、小鳥遊さん?」

 

 歩き出した直後、唯は徐に千里に話し掛けた。千里は唯の手を引いて歩きながら、彼女の方に顔を向ける。顔だけこちらを向いた千里に、唯はややハニカミながら言葉を口にした。

 

「今まであんまり話した事無かったけど……南城君って、意外とカッコいいね!」

 

 そう言って微笑む唯の笑顔に、千里は心臓が跳ねるのを感じた。

 唯はクラスでは風紀委員であり、何か少しでも風紀を乱すような事が見つかれば即座に叱って来る堅物として名が通っている。そうでなくとも休み時間などは次の授業の予習などに時間を使うと言う絵に描いた様な優等生と言った感じで、教室に居る時は友達と居てもあまり笑う方ではなくハッキリ言って近づき難い雰囲気であった。

 そんな唯の自然な笑みは、それだけで攻撃力が高かった。元々同年代の少女の中では抜きん出た容姿をしている唯は常々笑った方が絶対可愛いと言われていたし、千里も何気に同じ事を考えていたのだ。

 

 その唯の笑みを間近で見て、しかも心からの称賛を独り占めしたのに何も感じずにいられるほど千里は男を捨てていない。

 束の間、唯の笑顔に見惚れていた千里ではあったが、何も言わず黙ってしまった千里に唯が心配して声を掛けたことで正気に戻った。

 

「南城君、どうしたの?」

「へっ!? あ、あぁいや別に? 何でもないよ、大丈夫」

 

 危うく煩悩に塗れる所だった自身を律し、千里は心頭滅却の為歩きながら精神集中に入った。突然見つめてきて、そして今度は仏頂面で真正面を見つめて黙る彼の様子に唯は歩きながら首を傾げていた。

 

 そして帰宅後、千里が帰ってから暫くして唯はこの時の会話を思い出し、自分が結構恥ずかしい事を言ってしまったと気付き顔を真っ赤にしてベッドの上で悶えるのであった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 その日の夜、コガラシから逃げたトウロウクセジは街中にある工事途中のビルの中で佇んでいた。

 

 先程トウロウクセジがコガラシから逃げたのは、自分だけでは勝てないと察したからであった。トウロウクセジは聡のトウロウクセジがコガラシ相手に圧倒された瞬間を隠れてみていた。その時の様子から、自分ではコガラシ相手に善戦する事も難しいという事を理解していたのである。

 あのままでは一方的に敗北する。そう察したが故に彼は逃げ出したのだ。

 

「逃げたのか?」

「ッ!?」

 

 そのトウロウクセジに、背後から突然声を掛けた者が居た。トウロウクセジが振り返ると、そこには赤黒い装束に身を包んだ忍者が居た。乾いた血の様な色の衣装の中で、黄色い複眼が煌めいている。

 

「折角お前に力を与えたと言うのに、ロクに戦わずに逃げたのか?」

 

 再度同じ問いを赤黒い忍者が投げかけると、トウロウクセジはバツが悪そうにそっぽを向いた。本人も逃げる事は癪だった。だがあの場で戦っても、勝ち目があるとは思えなかった。先日のコガラシの戦いでもそれは確実だ。

 勝てない戦いはしない、それの何が悪いのかとトウロウクセジの態度は物語っていた。

 

 そんなトウロウクセジの姿に、赤黒い忍者は溜め息を吐いた。

 

「全く……やはりお前の様な不良未満ではその程度が限界か」

「ッ!」

 

 不良ですらない、情けない男と言われて流石にトウロウクセジのプライドが刺激されたのか弾かれるように顔を上げる。だがそこまで侮辱されても何も言い返さず、反抗すらしないのは、彼我の戦力差を正確に理解しているからに他ならなかった。

 

 その危機感知能力だけは一級品だと、赤黒い忍者は指を弾いて鳴らした。すると忍者の背後から新たなクセジが姿を現した。大きな耳と腕と一体化した翼が特徴的な、蝙蝠の特性を持つコウモリクセジだ。

 

「まぁ、何の役にも立たないよりはマシか。だがお前にその力を与えたのは私だという事を忘れるな。何の成果も挙げられないクズに、生きる価値は無いからな?」

 

 忍者の言葉にトウロウクセジは恭しく頭を下げる。忍者はそれに満足したのか、忍筆を取り出し術を発動させた。

 

「執筆忍法、隠れ身の術」

【忍法、隠れ身の術ッ! 達筆ッ!】

 

 隠れ身の術の効果で、忍者の姿が掻き消える。それと同時に、クセジ達も同じ術を使ったのか姿が消えビルの中には誰も居なくなった。

 その事を示す様に、工事途中で穴だらけのビルの中を夜の冷たい風が吹き抜けていった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 翌日、学校は再開しており唯も戻って来た日常を喜ぶように登校していた。生徒の中には降って湧いた休日が早々に終わってしまった事を惜しむ者も居たが、唯は変わらぬ日常が戻った事を素直に喜んでいた。

 

 下駄箱で靴を履き替え、鞄を手に教室に向け廊下を歩く。その彼女の視線の先で、目立つ人物が目に入った。

 

 同じ女子生徒の制服に身を包んだ少女……なのだが、他の女子に比べて背が高い。ともすれば男子の平均身長よりも高い背丈の女子生徒は、起きているのか判別がつかないほど細められた目で廊下を歩いている。こげ茶色の髪は腰の下まで伸びており、項の辺りで一纏めにされている為歩く度に尻尾の様に左右に揺れていた。あの長さは幾らなんでも校則違反なので、唯も何度か注意したのだが一向に聞き入れてもらえない。

 

 そう、あの女子生徒は唯のクラスメートの1人であった。

 

 その名は…………

 

長谷部(はせべ)さん、いい加減その髪もう少し短くしてくださいッ!」

 

 女子生徒の名は長谷部 椿(つばき)。唯に負けぬプロポーションを持つ生徒であり、唯とは正反対に緩く掴み所の無い性格な為、唯にとって悩みの種と言える生徒であった。

 

 朝っぱらから注意せねばならぬ事に頭痛を感じずにはいられなかったが、さりとて風紀委員としても個人的にも無視する事は出来ず出会い頭に厳しい言葉が口を突いて出る。

 その声に椿は今気づいたように唯の方を見た。

 

「おぉ、小鳥遊殿。今日も朝から元気でござるなぁ」

「ッ!?!?」

 

 随分と古臭い言葉だが、これはこの瞬間ふざけた訳ではなく何時もこうだ。こんな変わった言葉遣いを普段からしている為、見た目の割に向けられる視線は奇異なものを見る目であり、その為浮いた話も聞かない。

 だが今の唯にそんな事は関係なかった。椿の言葉を聞いたその瞬間、唯は忘れかけていた疑問のピースがピタリと嵌った感覚に衝撃を受けていた。

 

 このコテコテな忍者だか侍だかの口調。それに加えてこの声を、唯はつい最近聞いたばかりだった。そう、先日コガラシに襲い掛かったゲッコウと言う忍者に戦いを挑んだツララと言う忍者と全く同じだったのだ。

 

 つまり、ツララの正体とは今目の前に居る椿という事。その事実に唯は驚愕し椿を指差して口をパクパクさせた。

 

「あ、な……!? え……? は、長谷部さんが――――」

 

 思わずこの場で椿=ツララと言おうとした唯であったが、それが言葉となって口から出るよりも先に素早く椿が彼女の口にコンビニで売っている小さい羊羹を突っ込んだ。

 

「むぐぅっ!?」

「おやおや、小鳥遊殿? 今朝は朝食を抜いて来たでござるか? 仕方がない、拙者のおやつの羊羹を分けてあげるでござるよ」

「むぐぐ、むぅッ!?」

 

 いきなり口に羊羹を突っ込んできた上、勝手に話を進めようとする椿に唯が言葉にならない抗議をする。が、椿は唯の抗議など意にも介さず、細められた目を少し開けて話を続けた。

 

「ん? あぁお礼でござるか? 気にせずとも良いのに。まぁどうしてもと言うのであれば、今は忙しい故後程昼休みにでも屋上で」

 

 それだけ告げると椿はまた目を瞑っているのかと言う程細めて、その場を去っていった。残された唯は、羊羹を何とか飲み込み椿の後ろ姿を見送る。完全にペースを握られ、再度話し掛ける機会すら奪われた。

 手玉に取られた事を悔しがるように唯は椿の背を睨み、しかし何時までもこうしている訳にはいかないと教室へと向かって行くのだった。

 

 それからの午前中、唯は暇さえあれば席の一つに座る椿に視線を向けていた。椿の事が気になり過ぎて、時に授業に身が入らず呼ばれている事にも気付かない事すらあったほどである。

 

 どうも最近、色々あった所為で調子が悪い気がしていた。それもこれも卍妖衆の所為だと恨みを向けながら、午前の授業は終わりお待ちかねの昼休み。弁当を早々に食べ終え屋上へ向かうと、そこには既に目的の椿が…………

 

「……居ない?」

 

 扉を出るとそこには日差しに照らされた人っ子一人見当たらない屋上の光景が広がっていた。普段であれば屋上で弁当を食べる生徒なんかが居る筈だが、この日は珍しく誰も居ない。目的の椿の姿すらない事に、唯はもしやすっぽかされたのではないかと不安になった。

 

「長谷部さん…………もう、自分で屋上に来いって言っておいて……」

「待っていたでござるよ、小鳥遊殿」

「ッ!?」

 

 不意に頭上から椿の声が聞こえてきた。予想外の所から声を掛けられ、唯は口から心臓が飛び出るほど驚いた。

 

 弾かれるように振り返り後ろに下がりながら上の方に目を向ければ、そこには貯水タンクの上で佇んでいる椿の姿があった。何時もの寝ているのかと疑いたくなるような細めた目で、何処か気の抜けた笑みを向けている。

 

「な、な…………」

「ふふっ、どうでござる? 驚いたで――――」

「何て所に立ってるんですかッ!?」

「へっ?」

 

 唯の様子から度肝を抜く事が出来たとしてやったりな顔をしていた椿であるが、次の瞬間唯の口から出たのは貯水タンクの上に立つ事を叱る言葉。椿が既に待っていて、忍者らしく人の立ち入らない場所に居たこと以上に、唯にとっては貯水タンクの上で立っている事の非常識さの方が重要だったらしい。驚き以上に憤りを感じ、椿に即座に下りてくるように求めた。

 

「そんな所に立ってたら危ないでしょうッ! 今すぐ下りて来なさいッ!!」

「ア、ハイ……」

 

 何かこれ以上刺激すると良くない方に話が進みそうだったので、椿は大人しく貯水タンクから降り唯の近くに飛び降りた。

 

「よっ、と。これで良いでござるな?」

「全く、もう少し常識を考えてください。忍者だからって許される事と許されない事が……」

「待った待った、変な所に立っていたのは謝るからその話はここまでに……」

 

 風紀委員スイッチが入った唯には忍者がどうとかそう言うのは関係ないらしい。思わずタジタジとなる椿に向け、屋上の入り口から千里の笑い声が響いた。

 

「はははっ、小鳥遊さん相手だと長谷部さんも叶わないんだ?」

「むっ?」

「あ、南城君!」

 

 何時の間にか来ていた千里は、一頻り笑うと唯と椿の間に入った。彼が間に割って入る事で、空気が緩和され落ち着いて話が出来る状況が整った。

 

「千里殿は呼んだ覚えはござらんが?」

「小鳥遊さんがやたら長谷部さん気にしてたんだよ? 2人の間で何かあるって気付くに決まってるじゃん。ただでさえ小鳥遊さんは本来俺らとは関係ないんだし」

 

 つまり千里は唯を心配してついて来たのだ。確かに唯は無関係だが、何の関係も無いとは一概に言い切れない。何より件の3人組に狙われているのは唯なのだから。

 

「で、何で長谷部さんは小鳥遊さんを呼んだの?」

「何、小鳥遊殿に拙者が忍者である事がバレてしまったようで。往来でハッキリ言われるより、人払いをしたここで告げておいた方が良いと判断したでござるよ」

 

 椿の答えに千里は勿論、唯もなんとも言えない顔になる。何を隠そう、唯が椿=ツララであると気付いた最大の理由は、聞き覚えのある声以上にその特徴的な言葉遣いにあるからだ。忍者である事を隠す気があるのか疑いたくなるような、コッテコテのござる口調。これで隠しているつもりなのだとしたら、彼女に嘘や隠し事は絶望的に向いていない。

 

「……何時も言ってるじゃん、その口調何とかしなって。それの所為で気付かれたんだよ?」

「何を仰る。今時こんなあからさまな口調の忍びなど居ると思う者は早々居ないでござるよ。大抵は変なキャラ付けと思われるだけ。つまりこれが最高の隠蔽術なのでござるよ!」

「いや、私が気付いた理由もそのござるの所為なんだけど……」

 

 千里と唯からの指摘も何のその。椿は口調を改めるつもりは微塵もない様子だった。

 

「で、話は大分脱線しちゃったけど、結局のところ長谷部さんがツララっていう忍者って事で良いのね?」

「うむ。拙者こそが万閃衆の忍びが1人、忍者ツララでござる。改めてよろしく頼むでござるよ、小鳥遊殿」

 

 椿は両手で如何にも忍者っぽい印を結び、朗らかに笑ってみせる。その雰囲気に唯も思わず頭を下げてしまい、そこで彼女はふと千里が変身するコガラシについては詳しい事を知らないと思い至った。

 

「そう言えば、千里君の変身する忍者って……」

「あぁ、俺が変身するのはコガラシ。仮面ライダーコガラシさ!」

「仮面、ライダー?」

 

 椿が自分の事を忍者と評したのに対し、千里は己の事を仮面ライダーと評した。その事に唯が首を傾げていると、椿は呆れたような溜め息を吐いた。

 

「千里殿、まだそんな事を?」

「いいだろ? 俺達みたいなのを仮面ライダーって言うらしいし、仮面ライダー本人からも言ってもらえたんだ。それにカッコいいし」

「我らは忍、英雄の類ではござらん。浮ついた気持では何時まで経っても南城の名を背負うには値せぬよ」

 

 千里が己を仮面ライダーと称した事に、椿は不満があるのか辛辣な物言いをする。忍者は決して無頼漢ではないが、さりとて日向の道を往く者の目にそうそう留まる様なものでもない。ましてや世間では人々を助けるヒーローと称されている仮面ライダーは、椿からすれば自分達忍者とは正反対の存在に思えていた。

 故に、椿は千里の言葉を受け入れられなかった。

 

 一方、2人の会話を聞いていて唯はある事に気付いた。

 椿は唯の事は名字で呼ぶが、千里の事は名前で呼んでいる。唯は最初それを椿と千里の距離が近い故の事と思っていたが、2人の会話を聞いているとどうもそう言う訳ではないらしい。

 

 それを聞いて、何だか唯は面白くないものを感じた。椿の言う通り、忍者は人目に触れぬ活動を求められるので、都市伝説にある仮面ライダーの様なヒーロー性は求めるべきではないのだろう。だがしかし、唯にとっては危ないところを何度も助けてくれた千里は紛れもないヒーローだ。椿の物言いは、千里の頑張りを無下にするように思えて仕方なかった。

 

「長谷部さん、あなたは――――」

 

 千里に口添えしようと唯が口を開いた瞬間、千里が明後日の方を見ると唯に飛びつき押し倒した。その際に唯が床に後頭部をぶつけないよう、やんわりと抱きしめるような形になる。

 突然の千里の行動に、唯は顔を赤くして目を白黒させた。

 

「きゃっ!? な、南城君……!?」

 

 いきなり何をと思った次の瞬間、2人の傍にコウモリクセジが倒れるように落ちてきた。見るとコウモリクセジの体には手裏剣が何枚か突き刺さっている。千里が唯を押し倒すと同時に、椿がコウモリクセジに向け投擲したのだ。

 

「こ、これって……!?」

「大方、最後の1人ってところか。って事は……」

 

 千里が唯に手を貸しながら立ち上がると、コウモリクセジとは反対側にトウロウクセジが降り立った。

 

 出現した2体のクセジを前に、千里と椿は唯を挟むように背を向け合って立った。

 

「こやつらが、小鳥遊殿を狙う無頼漢でござるか」

「そう言う事。長谷部さん、蝙蝠の方任せていい?」

「無論。寧ろ千里殿は1人で大丈夫でござるか?」

「当然」

 

 2人は背中を向け合いながら不敵な笑みを浮かべると、忍筆を取り出し巻物を開いた。

 

「「執筆忍法、変身の術ッ!」」

 

 巻物に描かれた変身の文字が、巻物をベルトに変化させる。変化したベルトを腰に巻き、2人はそれぞれの忍者としての名を描いた。

 

「コガラシ、変身ッ!」

「ツララ、変身ッ!」

 

【忍法、変身の術ッ! 夜の声、しのぎ削りし、忍ぶ者……コガラシッ! 達筆ッ!!】

【忍法、変身の術ッ! 微かな音無く、鋭く冷たく、忍ぶ者……ツララッ! 達筆ッ!!】

 

 2人が変身し、コガラシとツララがクセジ達の前に立ち塞がる。

 

 現れた2人の忍者を前に、トウロウクセジとコウモリクセジは狼狽えた様子を見せた。

 

「2人ッ!? クソ、忍者が2人とか聞いてないぞッ!?」

「しゃ、喋った!?」

「この間の黒鉄のクセジは乱心の術で狂わされてたから。対してコイツ等は自分の意思で動いてる。不利を悟って逃げるだけの知恵があるなら、喋りはするだろうなと思ってたよ」

「クソッ!? こうなったら自棄だ、やるぞッ!!」

 

 クセジ達は同時にコガラシ達に迫った。コガラシにはトウロウクセジ、ツララにはコウモリクセジ。それぞれの相手を定めた2人は、腰の後ろから忍者刀を取り出しクセジを迎え撃つ。

 

「くっ!? 乱心させられてない分、前よりは攻撃が正確だな」

「だが所詮は何の心得も無い無頼漢。恐れる事など何もない。それとも、千里殿はこの程度の輩も相手に出来ないでござるか?」

「な訳あるかッ!」

「結構。ではここは任せたでござるよ」

 

 ツララはそう言ってコウモリクセジの体を掴むと、引っ張る様にして屋上から何処かへと飛んでいった。学校の屋上は決して狭くはないが、唯を傷付けないように気を付けて戦うとなると少々手狭感が否めない。万全を期すなら、少なくともどちらか片方は戦場を移す必要があると考えたのだ。

 

 そのままツララはコウモリクセジと共に近くのビルの屋上へと飛んでいく。コガラシはそれを一瞬目で追い、直ぐに視線をトウロウクセジに戻すと蹴りを放って引き剥がした。

 

「ぐぅっ!? チィッ!!」

 

 蹴り飛ばされたトウロウクセジは、素早く体勢を立て直すと両手の剣を逆手に構える。コガラシはそれに対抗する様に、忍者刀を逆手に開いた方の手には手裏剣を数枚持ち構えを取った。

 暫し互いに相手を睨み合い視線で牽制し合うコガラシとクセジ。唯が見守る前で、両者が睨み合っていると昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。

 

 その瞬間、トウロウクセジは駆け出し同時にコガラシは持っていた手裏剣を投擲した。投擲された手裏剣をトウロウクセジは両手の剣で苦も無く弾き飛ばす。

 

「こんな物ッ!」

 

 容易く弾かれ明後日の方向に飛んでいく手裏剣をトウロウクセジが僅かな間目で追う。その間にコガラシはトウロウクセジに接近すると、手にした忍者刀ですれ違いざまに切り裂いた。

 

「もらった!」

「ガッ?!」

 

 鋭く胴を切り裂かれ、トウロウクセジが苦悶の声を上げる。聡の変異したトウロウクセジと違って意識がはっきりしているし考えて行動してくるので苦戦を予想していたが、それは杞憂だったようだ。この分なら今回もコガラシの圧勝だろう。

 傍から見ていた唯はそう思っていた。

 

 しかし…………

 

「舐めるなッ!!」

 

 激昂しながらトウロウクセジが剣を振るうと、鎌鼬が発生し不可視の風の刃がコガラシに放たれる。危険を察したコガラシが防御の構えを取るが、鎌鼬はコガラシの体を鋭く切り裂きそのまま彼を後ろに押し出した。

 

「ぐぅぁっ……?!」

 

 吹き飛ばされたコガラシはそのまま屋上のフェンスに押し付けられる。鎌鼬はコガラシだけでなく彼の周りのフェンスまでをも切り裂き、踏ん張りの利かないコガラシはそのまま屋上から押し出され校庭に向けて落ちていってしまった。

 

「南城君ッ!?」

 

 落ちていくコガラシに唯は屋上の縁に駆け寄ろうとする。だがトウロウクセジはそんな彼女の肩を掴み、自分の方を向かせると顔に剣の刃を近付けた。

 

「うぁっ!?」

「やっと話が出来るな、小鳥遊?」

「な、何よ? 私が何したって言うのよッ!?」

「そんなの決まってんだろッ! お前、何時も何時もお高く留まってムカつくんだよッ! 毎度毎度細かい事でいちいち突っかかってきて、風紀委員で成績も良いからって調子に乗ってんじゃねぇッ!?」

 

 トウロウクセジの言い分は身勝手も良いところだ。確かに唯はやや潔癖な部分はあるが、彼らが注意されているのは注意されるだけの理由があるから。明確な校則違反をしているのは彼らの方であり、唯が文句を言われる所以はない。

 勿論、何事も厳しければいいというものではないのは確か。だから唯は学校の敷地外でプライベートな空間であれば、そこまで口うるさく言うつもりはなかったし実際見かけても何かを言うことはしない。それが明らかに人の道に反している内容であれば黙ってはいないが、ヤンチャと言う言葉で済まされる程度の内容であれば見過ごす程度には寛容であった。

 

 だがトウロウクセジらにはそんな事関係ないらしい。成績優秀で風紀委員として手腕を振るっている、その上学校でも上位の容姿を持つ唯は、それだけで腹の立つ存在であるようだ。少なくともトウロウクセジはそう思っている。

 

「前々からお前は一度痛い目に遭わせたいと思ってたぜ……!」

「う、うぅ…………!?」

 

 顔に刃を近付けられ、唯の目に涙が浮かぶ。恐怖に顔を引き攣らせる中、唯は心の中でコガラシ……千里に助けを求めた。

 

(南城君…………!)

 

 恐怖のあまり唯が目をギュッと瞑った瞬間、トウロウクセジが何かに引っ張られたかのように唯から離れた。見ると足に鉤爪付きのロープが巻き付いており、そのロープの片方は屋上の縁へと伸びていた。

 

「何ぃっ!? まさか、アイツッ!?」

 

「甘いんだよッ!」

 

 外に投げ出された時、コガラシは落下する最中トウロウクセジに向けて鉤縄を投擲していた。その鉤縄がトウロウクセジの足に巻き付き、吹き飛ばされるコガラシの体がそのまま引っ張り引き摺り落としたのだ。

 トウロウクセジは剣を床に突き立てて落下を防ごうとするが、ついた勢いを抑える事は出来ずそのまま屋上から引っ張り出された。

 

 空中に放り出されたトウロウクセジはそのまま重力に従って校庭に落ちる。その様子は教室で午後の授業を始めていた生徒達にも目撃された。

 

「わっ!? な、何だ今の?」

 

 突然窓のすぐ外を落下していくトウロウクセジに、驚いて窓から顔を出す生徒が多数。中にはコガラシが屋上から放り出された時点で異変に気付いた生徒が上から校庭を眺めていた。

 

 校舎の窓から多数の視線が向けられる中、校庭に落下したコガラシとトウロウクセジが構えを取る。

 

「やってくれるじゃねえか……!?」

「あんな身勝手な理由で、誰かを傷付ける事が許されると思うなよ?」

「ほざけッ!!」

 

 激昂しコガラシにトウロウクセジが斬りかかる。コガラシはそれを冷静に捌き、手にした忍者刀で逆に切り裂いた。

 だが、切り裂いた瞬間の手応えにコガラシは違和感を感じた。切ったと思ったのにはっきりしない。

 

「何ッ!?」

「そこだッ!」

「ぐぅっ?!」

 

 明らかにおかしな手応えにコガラシが一瞬気を取られた隙に、トウロウクセジが剣を振るい斬撃を放つ。反応が遅れたコガラシは防御が間に合わず、腕を切られ血を流した。

 

 コガラシが明確なダメージを受け血を流す姿に、唯の口から小さな悲鳴が上がる。

 

「あぁっ!?」

 

 屋上に残った唯の小さな悲鳴に気付く事無くコガラシはトウロウクセジと対峙する。彼が考えるのは、今のおかしな事象について。

 

 今、トウロウクセジは明らかに普通の回避とは違う何かでコガラシの斬撃をやり過ごした。それがなんであるか、コガラシはその答えをトウロウクセジのモデルとなったトウロウ……即ち蟷螂(トウロウ)に見出した。

 

(蟷螂……確か由来は、当たり屋を意味する当郎から来てるんだったか? つまり今のは……)

 

 当たり屋は、本当は当たっていないのに当たった様に思わせて相手を騙す。そこから推察するに、トウロウクセジは常時空蝉の術を使った時の様に当たったと思わせて当たっていないと言う状況を作り出す特殊な能力を持っているのだろう。心を乱された聡の時には使えなかった、クセジ特有の特殊能力だ。クセジのモデルに因んで『蟷螂の術』とでも呼ぼうか。

 

 さて、この能力をどのようにして対処すべきか。考えている間にもトウロウクセジはコガラシに攻撃を仕掛けてきた。コガラシは当然迎え撃つが、能力を使い始めたトウロウクセジにはコガラシの攻撃はなかなかヒットしない。当たったと思っても当たる事は無く、分かってはいても攻撃が不発に終わった直後はどうしても隙が出来てしまい反撃を喰らってしまう。

 

 コガラシ本人も、そして屋上から見るしか出来ない唯も次第に焦りを感じ始めた。

 しかしここでコガラシは、一度大きく深呼吸し心を沈めた。忍術の行使には集中力を使う。焦りは大敵、まずは落ち着く事が肝要だ。

 

「すぅ……ふぅ~~~~…………」

 

 一度深呼吸すると、心が落ち着き対策を考える余裕が出来た。ここら辺は、彼も幼少の頃から徹に徹底的に鍛えられた恩恵だろう。ツララはコガラシの事を未熟と言うが、この程度の事なら彼にだって容易い。

 

(あの空蝉みたいな能力、常時発動だろうけど一度発動したら次の発動までにはタイムラグがある筈だ。それなら……!)

 

 対策が思いついた。コガラシは作戦を決行する為、忍筆を握ると素早く術を発動した。

 

「執筆忍法、分身の術ッ!」

【忍法、分身の術ッ! 達筆ッ!】

 

 一瞬でコガラシが複数人の分身を作り出し、トウロウクセジの周囲を飛んだり跳ねたりと動き回る。ただ周りを動き回られるだけでも鬱陶しいのに、その上数まで増えられては堪ったものではない。案の定トウロウクセジは目が追い付かない様子で、どのコガラシに攻撃を仕掛けたものかと右往左往している。

 

「くそッ!? ちょこまかと……!?」

 

 その様子からコガラシは確信した。トウロウクセジに分身の術は写経されていない。分身の術を発動する直前、分身の術がトウロウクセジに写経されていたらマズイと不安になったがそれは杞憂だった。

 

 複数人のコガラシはトウロウクセジの周りを動き回りながら、1人が一瞬の隙を突いて忍者刀で切り裂いた。しかしその攻撃は例の如く、当たっていなかった事となり不発に終わる。

 だがその直後、別のコガラシが忍者刀を振るうとその一撃には確かな手応えを感じる事が出来た。

 

「ガァッ?!」

 

 トウロウクセジの口からも苦悶の声が出る。予想通り、あの能力は連続で発動する事は出来ないらしい。

 

 畳み掛けるなら今が好機ッ!!

 

「「「「執筆忍法、火遁 劫火斬の術ッ!」」」」

 

 忍者刀にコガラシ達が素早く”火遁 劫火斬”と書く。するとその文字が燃え上がり、一瞬でコガラシの持つ忍者刀が炎の剣に早変わりした。

 

【【【【忍法、火遁 劫火斬の術ッ! 達筆ッ!】】】】

 

 周囲のコガラシ達の持つ忍者刀が炎に包まれたのを見た辺りでトウロウクセジは危険を悟りその場から離れようとするが時すでに遅し。周囲を囲まれて、逃げ場などとっくの昔に無くなっている。

 

 結果トウロウクセジは、成す術なく四方八方から炎の斬撃を受ける事となった。

 

「「「「ハァァァァァァァァッ!!」」」」

 

 矢継ぎ早に放たれる炎の斬撃。トウロウクセジも蟷螂の術で対抗しようとするが、連続で放たれる攻撃に対しては意味がない。敢え無くトウロウクセジは、燃え盛る斬撃により滅多切りにされてしまった。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」

 

 悲鳴を上げながら炎に巻かれ爆散するトウロウクセジ。

 

 コガラシはその爆炎を背に本体である1人を残し分身を消すのであった。




tips
・下忍:卍妖衆および万閃衆の下っ端忍者。基本的に忍術を使う事は出来ず、万閃衆では一般人に紛れ必要以上に忍者の存在が露呈しないように火消しに回る裏方の事を言う。対して卍妖衆では写経の術で簡単な忍術を教え、下級の戦闘員として活用している。
因みに妖忍が召喚する影忍と卍妖衆の下忍は同じ姿だが、影忍は忍術を使う事が出来ない上に一定のダメージで消滅してしまう。

と言う訳で第4話でした。

ツララの正体は細目の長身美少女、名を長谷部 椿と言います。因みに彼女にはモデルが居て、漫画「魔法先生ネギま」の登場人物である長瀬 楓を意識してます。ツララの時に使う巨大手裏剣や長身、細目なんかです。
彼女は2号ライダーでありがちの主人公に辛辣で腕の立つライダーと言う立ち位置として今後活躍していくでしょう。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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