仮面ライダーコガラシ   作:黒井福

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第四十八筆:暴かれし者達

 出し抜けに現れたドクロを前に、千里と学の2人は最大限の警戒を向けていた。相手は卍妖衆の上忍であり、そしてどうやったのかは分からないが逸子から全ての骨を抜き取り無残な姿にした。奴が行った事を考えると、その姿は今までと違ってとても不気味に思えた。

 

 その状況下で、千里は震えそうになる声帯を気合で押さえながら言葉を紡いだ。

 

「何で……」

「ん?」

「何で、泥伯先生をこんなにした? お前、一体先生に何したんだ?」

 

 千里の問いに対し、ドクロは足元の潰れた逸子に目を向けた。そして徐に潰れた逸子の髪を掴んで持ち上げると、忍筆を取り出し一つの忍術を発動した。

 

「執筆忍法、着肉の術」

【忍法、着肉の術ッ! 達筆ッ!】

 

 書かれた文字はドクロ本人に吸い込まれると、彼の体が捻じれて紐の様になりそのまま逸子の口から彼女の体内へと入り込んだ。ドクロが入ると逸子の中から関節が外れる音や肉が押し広げられるような音が室内に響き渡り、その音の悍ましさに唯は顔を青くして今にも喉からせり上がって来そうな胃の中身を口から出ない様に必死に押さえた。

 そうこうしている内に逸子の体は風船に空気を入れていくように膨らんでいき、先程までの陸に上げられて潰れたタコの様な姿から一変して人として正しい姿形を取り戻した逸子がそこに居た。

 

「ん? ん、ん~……ふむ」

 

 まるで着心地を確かめるようにドクロが入り込んだ逸子が首や肩、腰を回す。日頃忍術で非日常的な光景に見慣れている筈の千里や学ですらこの光景には思わず目を見開き唖然とせずにはいられない。

 が、一早く我に返った学は慄きながらも今目にしたものから事の真相を言い当てた。

 

「お前、まさか……!? 先生の骨を全部抜いた後、自分が先生の体を着て今まで俺達の近くに潜り込んでたのか……!?」

「ま、まさか、そんな事が……!?」

「まぁ、これを見れば流石に気付くか。そうだ。この女の骨を私の忍術・骨遁 消骨(しょうこつ)の術で消し、残った体に私が代わりの骨組みとして入り込んだのさ」

 

 これは流石に分からない。何しろ体は逸子本人である事に違いはない。これが変装か何かで逸子に成りすましているのであれば何処かでボロを出させる事も出来たであろう。しかし、今のドクロは文字通り逸子の体を着ている状態。仮に血液検査を受けさせたとしても本人と確認されるし、指紋その他も同様に本人と確認される。逸子の体を着ている限り、ドクロはドクロとバレる事は無いのである。今回の様に他人の体を着る瞬間を見られたりするまでは…………

 

 だがこのドクロの行いの何よりも恐ろしい所は、逸子本人は未だ生きていると言う事だ。学も千里も、確かに逸子の心臓の鼓動や刺激に対する電気信号を確認している。つまり、逸子は骨が無くなっているだけで今も生きているのだ。生きた状態で他人に着ぐるみの様に着られて、本人の意志に反した動きをさせられている。

 今の彼女にどれ程意識が残っているのかは分からない。もしかすると骨が消された時点で心はその異変と苦痛に耐えきれず壊れてしまっているかもしれない。だとしても、今の彼女に直接攻撃する事は憚られた。

 

(どうする? このまま奴をのさばらせる訳にはいかない。だけど……!?)

 

 ドクロが意図しての事か、千里は逸子を人質に取られた形になり動くに動けなくなった。そんな彼に対し、学は静かに近付くと小声で話し掛けた。

 

「南城、やるぞ」

「やるって、正気かッ!? 先生はまだ生きてるんだぞッ!?」

「分かってる。だから先生を助ける為に、先ずはドクロの奴を先生の中から追い出すんだ」

「出来るのか、そんな事?」

「任せろ」

 

 自信たっぷりに返してくる学に、千里も腹を括った。彼がここまで言うのであれば、きっと何か策があるに違いない。千里は彼を信じる事に決め、意を決して逸子を着たドクロと対峙した。

 

「何も知らない先生をそんな目に遭わせて、許さねえ……! 覚悟しろドクロッ! お前そこから引きずり出して、ぶちのめしてやるからなッ!」

「出来るのか? 一応言っておくが、骨組みはともかく肉体はあの女でしかもまだ生きてるぞ?」

「嘗めんじゃねえッ!」

 

 流石に変身して攻撃を仕掛ける訳にはいかないので、千里は生身のまま逸子へと攻撃を仕掛けた。飛び掛かって首筋を狙って蹴りを放つ。

 

(今の先生には骨が無いッ! 骨が無いなら、先生の骨折を気にする必要は……!)

 

 無論、打撃のダメージ自体は逸子の肌や筋肉に残るだろう。だが彼女を傷付ける事を完全に避ける事を考えていては、出来る事等無くなってしまう。当然ドクロも反撃してくるだろうから、ある程度ダメージを受ける事は必要最低限の被害として我慢してもらうのだ。

 

 千里はそう自分に言い聞かせながら蹴りを放つ。しかし外見は逸子でもその体を動かす中身はドクロのそれ。そして彼は卍妖衆の上忍として、忍術だけでなく体術も相応に極めている。

 千里の蹴りはいとも容易く受け止められ、その勢いを逆に利用されリビングのテーブルに叩き付けられた。

 

「がはっ!?」

「ふん、甘いな」

「千里君ッ!?」

 

 テーブルが粉砕されるほどの勢いで叩きつけられ、千里の口から苦悶の声が上がる。ドクロが入った逸子はそんな彼に追撃しようと足を振り上げていた。

 このままだと振り下ろした足で千里の腹が内臓毎踏みつぶされる。それをさせじと学が素早く近付き千里に追撃しようとして無防備になっている逸子の腹に掌底を当てた。

 

「そこだッ!」

「ぐっ!?」

 

 学の掌底が逸子の腹を捉える。ドンと言う鈍い音が唯の元に届くほどの威力の掌底を喰らい、逸子の口から息を詰まらせたような声が上がるが、相手は即座に不敵な笑みを浮かべた。

 

「ぐ……ふっ。その程度でどうにかなるとでも?」

「思ってるさ! 俺が何を得意にしてるか忘れたか!」

【忍法、電浸透(でんしんとう)の術ッ! 達筆ッ!】

「ッ!?」

 

 余裕の笑みを浮かべていた逸子だったが、学の言葉に息を呑み次の瞬間体の内側に走った電撃に悲鳴を上げた。

 

「うごぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「相手の内側を焼く電浸透の術だ。骨代わりに先生の中に潜んでるお前にゃ、効果覿面だろうが。さぁ、さっさと出てきなッ!」

「ぐぐッ……クソッ!?」

 

 ドクロは電撃で焼かれる苦痛から逃れる為、逸子の体を脱ぎ捨て難を逃れた。逸子の口から吐き出されるように捻じれたドクロが出てくると、彼女の体は見る見る内にしぼんでいった。あっという間にまた空気が抜けた風船のようにその場に崩れ落ちた逸子の体を、学は床に叩き付けられない様に優しく受け止めた。ドクロの言葉を信じるなら、今の逸子の体に無いのは骨だけで内臓も脳も残っている。それらが下手に衝撃を受けると大変だ。

 

 逸子の体から追い出されたドクロは、ベランダ付近で苦痛に蹲り肩で荒く息をしていた。

 

「はぁ、はぁ……くっ! 酷い奴だな、教師の体の中を電撃で焼くだなんて……」

「甘く見るな。これでもちゃんと加減してる。お前はしっかり焼いたが、先生の内臓にはほとんど傷を付けちゃいない。焼いたのはピンポイントでお前だけだよ、ドクロ」

 

 学の言葉にドクロは仮面の奥で苦々しい顔になった。若手の忍びだからと舐めていた。まさかこんなあっさりと人質代わりの”宿”を奪われるとは。

 

 ドクロが歯噛みしていると、粉砕されたテーブルの欠片を落としながら千里が立ち上がった。口の端が少し切れて血が流れ落ちているが、彼はそれを手の甲で乱暴に拭って学の隣に立った。

 

「流石だぜ、学ッ! これで……」

「あぁ、心置きなくやれる!」

「唯ちゃん、先生の体を頼む」

「う、うん……!」

 

 このままでは逸子の体を巻き込んでしまうと、千里は唯に彼女の体を任せた。任されはしたが、唯は学から逸子の体を受け取る時かなりおっかなびっくりと言った様子だった。無理もない、骨が全部なくなった人間の扱いなどどうすればいいのか分からない。迂闊な接し方をして、致命的な事になってしまったらと思うと高級な壺を受け取った時の様な気持ちになってしまう。

 

 恐る恐る逸子の体を受け取りその場から離れていく唯を尻目に、千里と学はドクロの前で忍筆を構えた。

 

「さぁて、そろそろお前との因縁にも決着付けようか……ドクロ?」

「卍妖衆の情報、余さず吐いてもらうぞッ!」

「誰がッ!」

 

 若い忍び2人に迫られ、ドクロは手裏剣を投げ迎え撃つ。だが手裏剣が2人を切り裂く前に、2人が振るった忍筆が文字を書く方が早かった。

 

「「執筆忍法、変身の術ッ!」」

 

 空中に書かれた変身の文字がドクロの手裏剣を弾く。弾かれた手裏剣が逸子の部屋の壁や床に突き刺さる中、書かれた文字は2人がそれぞれ広げた白紙の巻物に吸い込まれ文字の形が変わり巻物を金属製のベルトに変化させた。2人はそれを腰に巻くと、己が最も得意とする文字を書いた。

 

「コガラシ、変身ッ!」

「イカズチ、変身ッ!」

 

【忍法、変身の術ッ! 夜の声、しのぎ削りし、忍ぶ者……コガラシッ! 達筆ッ!!】

【忍法、変身の術ッ! 瞬く間、影を置き去り、忍ぶ者……イカズチッ! 達筆ッ!!】

 

 2人が書いた凩と雷の文字がベルトの水晶部分に吸い込まれ、2人の体が忍び装束に包まれる。千里は緑色の装束の上に鈍色の鎧と白いマフラーを巻いた秘宝を4つ身に着けた姿に、学は黄色い装束を纏った姿に変化する。

 

 コガラシとイカズチに変身した2人は、それぞれ轟雷と渦雷を取り出し構えた。対するドクロも棍を取り出し、どちらが先に攻撃してきてもいい様に身構える。

 

 睨み合う両者の間に張り詰めた緊張感が漂う。物陰に隠れた唯が逸子の体を胸に抱きながら見ている中、先に動いたのはイカズチの方であった。

 

「――――シッ!」

 

 全身に電気を纏い一瞬でドクロの懐に飛び込んだイカズチは、渦雷の刃で相手を切り裂こうとする。ドクロはそれを棍で防ぎ、攻撃の威力を受け流してイカズチのバランスを崩させると反撃を放とうとする。それをコガラシがカバーした。目には見えない風の刃を飛ばしてドクロを切り裂き、ベランダに押し出すとそのまま飛び蹴りをお見舞いしてベランダの外に押し出した。

 

「ぐぉぉっ!?」

「イカズチッ!」

「応ッ!」

 

 空中に押し出されたドクロは絶好の的だ。この機を逃す手はないとコガラシはイカズチとタイミングを合わせ、風遁と雷遁を放った。

 

「執筆忍法、風遁の術ッ!」

【忍法、風遁の術ッ! 速筆ッ!】

「執筆忍法、、雷遁の術ッ!」

【忍法、雷遁の術ッ! 達筆ッ!】

 

 竜巻に雷が纏わりつき、雷の暴風となってドクロに襲い掛かる。空中に放り出されているドクロにこれを避ける術はなく、彼に出来る事は手に持つ棍を回転させて2人の術を受け止める事だけであった。

 

「ぐぬぅぅぅぅぅ……!?」

 

 高速回転する棍が雷の暴風を散らしていく。並の忍びなら防ぐことも叶わず吹き飛ばされるだろう程の威力を受け止める事が出来ている所を見るに、ドクロと言う上忍の能力の高さが伺えた。

 が、所詮そこまで。今のコガラシの忍術は4つの秘宝のバックアップを受けて大幅に威力を上昇させている。それを完全に受け止めきる事は非常に難しく、結果ドクロは持っていた棍を弾き飛ばされ暴風の直撃を受けた。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」

 

 風の刃で切り裂かれながら電撃で全身を焼かれる苦痛にドクロの口から悲鳴が上がる。そのまま彼は落下していき、受け身も取れず道路に落下。コンクリートを砕き小さなクレーターを作りその場に倒れた。

 

 そのドクロの落下地点の直ぐ近くに驚きの表情で佇む1人の男の姿があった。

 

「うぉ……!?」

 

「ん? ゲッ!? 先生ッ!?」

「マジかッ!?」

 

 そこに居たのは骨猪だった。恐らく逸子の事が心配になって様子を見に来たところだったのだろう。マンションの前まで来たところで上からドクロが降ってきて、驚きのあまり動きを止めてしまっている。

 

 このままだとドクロが余力を残していた場合、体勢を立て直した時今度は骨猪が狙われる危険性があった。2人はベランダから身を乗り出し下に向け飛び降りた。

 

 一方ドクロはと言うと、全身ボロボロになりながらも自力でクレーターから脱出。体を引き摺って凹みの底から出たが、そこが限界だったのか骨猪の前に辿り着いたところで変身が解けてしまった。ドクロが本来の姿である、骨と皮だけの様なガリガリの細身を白日の下に晒す。

 

「ぐっ、くそ……」

 

 変身が解けてしまった事にドクロが悪態をついていると、飛び降りてきたコガラシとイカズチが骨猪を守る様に立ち塞がった。

 

「そこまでだドクロッ!」

「観念しな……って、えッ!?」

 

 顔を上げたドクロを見て、イカズチは思わず言葉を失った。何故ならそこにあったのは、今正に2人が守ろうとしている骨猪と瓜二つの顔があったからだ。

 自分の目が可笑しくなったのかと隣のコガラシを見れば、彼にもドクロの正体が骨猪とそっくりに見えるのか驚いた様子を見せる。これはどういうことかと2人が後ろの骨猪を見れば、彼は顔を上げたドクロを前に信じられないと言った様子で体を震わせながら口を開いた。

 

「に……兄さん……!?」

「兄さんッ!?」

「まさか、行方不明になってたって言う先生の双子の……!」

 

 コガラシ達がまさかの事実に驚いている間に、僅かながらでも体力が回復したドクロは立ち上がり3人から距離を取った。

 

「くそ……こんな、失態……」

「兄さんッ! 骨己(こつき)兄さんッ! 何で……何で兄さんが……!」

「何の話だ? 俺はお前など知らん」

「なッ……!?」

 

 ドクロ改め、骨己に必死に呼び掛ける骨猪。だが対する骨己は骨猪の事等知らないと言う。そこに嘘を吐いている様子は見られない。こんな状況で嘘を吐く余裕も無いだろう。

 では、2人の顔がここまで似ている理由は何なのだろうか?

 

「イカズチ、どうする?」

「どうするもこうするもあるか。詳しい話を聞く為には、どの道アイツをとっ捕まえないと」

「フッ、出来るものならやってみろッ! ドクロ、変身ッ!」

【忍法、変身の術ッ! 宵闇に、響く経の如く、忍ぶ者……ドクロッ! 達筆ッ!】

 

 再びドクロに変身すると、彼は骨舞踏の術で次々と骨の兵士を作り出しコガラシ達に襲い掛からせた。

 

「くっ! 先生、今は取り合えず!」

「俺達の後ろにッ!」

 

 兎に角骨猪を巻き込んで怪我をさせる訳にはいかないと、2人は前に出て骨の兵士達を迎え撃つ。ドクロの骨遁により操られる骨の兵士達は、例えバラバラにしたとしても直ぐに近くの骨と合体して元の姿に戻ってしまう。それだけならまだいいが、最悪なのは骨自体を砕いても一定の大きさまではドクロの忍術の効果が及ぶ事。骨自体を砕いて元の姿に慣れないと安心していたら、不意を突いて飛んできた骨の礫が銃弾の様に襲い掛かって来る。

 

 しかしそれは普通に物理攻撃や忍術で粉砕した場合の話。コガラシの身に纏う土豪の文鎮の鎧は相手の忍術を打ち消せる。その特性を誰よりもよく理解しているコガラシは、イカズチよりも前に出て1人骨の兵団を迎え撃った。

 

「オォォォォッ!」

 

 白いマフラーを靡かせながら、コガラシが骨の兵士達を蹴散らしていく。その様は正に一騎当千、これまでに彼が経験した戦いを昇華させて得た力が発揮されていた。

 

 作り出した骨の兵士が木端の様に蹴散らされていく様子にドクロも焦りを感じずにはいられなかった。禁術である骨遁は術の行使に代償を必要とする。今はまだ彼がかき集めた骨にも余裕があるが、この調子で削られていくと最悪自分の骨が使われてしまう。

 

 今のコガラシ相手にあまり忍術は使えない。ドクロは急遽戦法を変え、棍による戦いに切り替えた。

 

「嘗めるな、小僧ッ!」

 

 ドクロの棍はただの棍ではなく、三つの節を鎖で繋がれた三節棍となる。変幻自在に動く三節棍による攻撃には、コガラシとイカズチも近付く事が出来ず手をこまねいて見ているしか出来ない。

 

「くっそぉ、ブンブンブンブン振り回しやがって……!」

「コガラシ、その鎧で受け止められないか?」

「やってできない事は無いが、あの野郎狙いが厭らしいッ! 俺相手には顔や足元ばかり狙ってきやがるッ!」

 

 土豪の文鎮により防御力を増したコガラシ相手には、生半可な攻撃が通用しない事はドクロも既に理解していた。故に、ドクロはコガラシ相手には顔や足元など兎に角相手を怯ませて足止めできるところを優先的に狙い、コガラシが動きを止めている間にイカズチを先に仕留めようと動いていた。

 これは確かに厭らしい。しかしこれに対してはイカズチに考えがあった。

 

「一瞬で良い。コガラシ、奴の注意を引き付けてくれ。それで勝負を掛ける!」

「分かった!」

 

 イカズチが何をするつもりなのかは分からないが、考えがあると言うのならそれに賭ける。コガラシは轟雷を手に前に出てドクロの攻撃を1人で請け負った。

 

「俺が相手だぁぁッ!」

「チッ! 何なんだお前はッ!」

 

 迫るコガラシに対しドクロは三節棍を縦横無尽に振り回して彼を滅多打ちにした。一撃一撃の効果は薄くても、それが幾つも重なれば話は別。嵐のような乱打がコガラシの鎧を打ち、その衝撃が徐々にその下にある彼の体に沁み込み動きを鈍らせていく。

 

「グッ……うぐぐ……!?」

「そらそらそらそらッ!」

 

 鎧自体はとても頑丈だ。これだけ滅多打ちにされても傷一つ付かない。だがその中身は話が別だった。響く衝撃が徐々にダメージとして蓄積されていき、遂に彼の足が止まった。その様子にドクロは今が好機と三節棍を元の棍に戻して強烈な一撃を放とうと振り上げた。

 

 その瞬間…………

 

「執筆忍法、雷遁 神槌(しんつい)の術ッ!」

【忍法、神槌の術ッ! 達筆ッ!】

 

 コガラシがドクロの攻撃を一身に受け止めてくれている間に、イカズチが必殺の一撃となる術を発動した。イカズチの術が発動した瞬間、上空に暗雲が立ち込め雷鳴が轟き、凄まじい光と共に強烈な落雷が棍を振り上げたドクロめがけて振って来た。

 その様子、正に雷神による一撃。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」

「うぉぉっ!?」

 

 イカズチの忍術による一撃は本当に凄まじく、ドクロの傍に居たコガラシもその衝撃で吹き飛ばされるほどであった。

 

 落雷の衝撃で吹き飛ばされたコガラシは地面の上をゴロゴロと転がってイカズチが居る所で止まった。漸く立ち上がれる状態になったコガラシは、立ち上がって埃を払うと近くで一仕事終えたと一息つくイカズチの肩を叩いた。

 

「お前、あんな威力あるなら先に言えよッ! 俺まで丸焦げにされるかと思っただろうがッ!」

「ちゃんと威力は調整してたに決まってるだろ? それにそれ着けてれば他人の忍術喰らっても平気なんだから」

「そうかもしれないけどさ……」

 

 何だか釈然としない事にぶつくさ文句を言うコガラシだったが、落雷の直撃を受けたドクロはそれどころでは無かった。

 

「お、おぉ……ぉぉぉ……」

 

 ドクロは未だそこにオブジェの様に立ち尽くしていた。全身黒焦げにして、棍を振り上げた体勢で固まっている。一瞬まだ戦うつもりがあるのではないかと思ってしまう有様だったがそれは杞憂だった。少し強めの風が少し服と、それに押されるようにドクロの体がグラりと傾き変身を解かれながら仰向けに倒れた。

 

「ぐ、はぁ……」

 

 倒れた骨己は落雷に焼かれてボロボロになった手を空に向け伸ばした。まるで何かを掴もうとするように手を伸ばし、そして力尽き倒れ意識を失う。

 これでドクロも倒された。残るはフブキとオボロのみと、コガラシ達がホッと一息ついているとそれまで固唾を飲んで見守っていた骨猪が倒れた骨己に駆け寄ろうと前に一歩足を踏み出した。

 

「兄さんッ!」

 

 一体何故双子の兄が悪の忍びなどになっているのか、聞きたい事は山ほどあったが今は兎に角傷付き倒れた兄を介抱したいと駆け寄ろうとする。しかしその前に壁となるようにフブキが吹き込むと、次の瞬間骨己の前にフブキが立ち塞がり骨猪を通せんぼしていた。

 

「ッ!? 君は……!」

「先生、離れてッ!」

 

 フブキの登場にコガラシ達は再び気を引き締めた。行く手を塞がれ足を止めた骨猪の腕を引きフブキから離れさせると、臨戦態勢を取り何時でも戦い始められるように身構えた。

 

「ちぃ、ここに来てフブキかよ……」

「ボヤいてる場合か。それよかコガラシ、アイツは……」

 

 イカズチはフブキの正体が椿ではないかと疑っている。今対峙しているのが彼女であるなら、裏切ったその真意を問わなければならない。だが今それを指摘したところで、彼女はきっとしらばっくれるに決まっている。だって物的証拠が何も無いのだ。証拠も無いのに相手を決めて掛かっては、最悪それを逆に逆手に取られて攪乱させられる。もしここでフブキが椿であると言う前提で動いた上で、それが間違っていた場合それを利用して同士討ちさせられるなんて事も在り得る。

 

「今はその話は後だ。アイツを追い払うか倒すかしないと」

 

 この事態に、コガラシはその疑念を敢えて無視した。今は余計な事を考えず、フブキの正体が椿かもしれないと言う疑いを捨て去り戦いにのみ集中する。

 

 コガラシとイカズチが構えている前で、フブキが手を上げると卍妖衆の下忍が姿を現した。彼女は背後に音もなく現れた下忍に目を向けると、倒れている骨己に向け顎をしゃくった。それだけで下忍達には全てが伝わり、一度頷くと倒れた骨己を抱えてその場から姿を消した。

 目の前でみすみす骨己を連れ去られる事に骨猪が慌てたが、今前に飛び出すのは自殺行為だとコガラシが彼を宥めた。

 

「兄さんッ!」

「先生、駄目だッ!」

「ここは抑えて」

 

 コガラシとイカズチが宥めている間に骨己を抱えた下忍は姿を消し、仲間が去った事にフブキも満足そうに息を吐くと踵を返した。今回は戦うつもりは無いらしい。倒れた骨己の回収だけが目的だったようだ。

 

 しかしイカズチはここで彼女を逃がすような真似はしない。彼女が椿であるかどうかを確かめる為にも、ここで確実に彼女を倒すつもりで飛び掛かった。

 

「逃がすと思ってるのかッ!」

「チッ!」

 

 渦雷に電撃を纏わせての攻撃を、フブキは冷気を纏った氷鱗で弾く。直後に始まる冷気と電撃のぶつかり合い。2人の攻撃がぶつかり合う度に火花と放電、氷の礫が周囲に飛び散った。

 

 イカズチの刃の付いたトンファーによる一撃をフブキが手に持つチャクラムで弾き、お返しとばかりに弾くのに使ったのとは反対の手に持つチャクラムで切りかかる。それをイカズチは攻撃を弾かれた際の勢いを利用して回転しながら回避。そしてそのままの勢いで蹴りを放つと、フブキも蹴りで迎え撃ち両者の蹴りがぶつかり合う。

 激しい攻防は迂闊な手出しを許さない。しかしだからと言って足踏みする程コガラシは意気地なしではなく、一瞬の隙を見て2人の攻防に乱入。イカズチの隙をサポートする様に轟雷を挿し込み、フブキの行動を的確に潰していった。

 

「くッ!?」

 

 これにはフブキも防戦一方に追い込まれた。イカズチは総本山から特命を言い渡されるほどの実力者で、コガラシもこれまでの戦いで大きく成長した。その2人を同時に相手にするには、フブキはどうしても力不足という評価を覆せなかった。オボロにより心を操られフブキとなった当初こそ、千里への嫉妬を元にした憎悪の力で彼を圧倒していたが、それも最近は神通力を失いつつある。そして憎悪の力を得られ無くなれば、浮き彫りになるのは明確なコガラシとフブキ……千里と椿の力の差であった。以前は椿が千里の事を未熟と侮っていたが、心構えはともかく純粋な忍びとしての実力では千里が上回りつつあったのだ。

 

「(認められない……認めたくないッ!)アァァァァッ!!」

 

 彼女にとって何よりも恐ろしい予想を振り払うべく、フブキは雄叫びを上げながら力任せに氷鱗を振り下ろす。その一撃は地面を砕き、余波で2人を吹き飛ばすほどの一撃であった。

 

「うぉっと!?」

「くッ、まだこんな力が……」

 

 2人は一旦フブキから距離を取った。今ので完全に流れを止められた。仕切り直して再度2人で攻撃を仕掛けなければ…………

 

 そう思っていた時、突如フブキの懐から場違いな電子音が鳴り響いた。飾り気のないその音は、スマホの着信音に他ならない。

 

「ッ、な……?」

「は?」

「あれは……」

 

 この状況でフブキの懐から着信音が鳴る。その異様な光景に思わずコガラシ達も責め手を止めてしまった。一方フブキの方も面食らっていた。こんな時に誰かが連絡してきた事もそうだが、何よりも自分にスマホで連絡してくる相手が居る事に驚いた。何しろ彼女はこれまでにロクな交友関係を築いていなかったのだ。必然、連絡用に持っているスマホの連絡先もほぼ真っ白で連絡先を交換し合った相手など限られている。

 

 この状況で連絡を掛けてきたのは…………

 

「あなた……」

 

「あっ、唯ちゃん!」

 

 不意に背後から聞こえてきた声に振り返れば、そこには自分のスマホを持った唯が佇んでいた。彼女のスマホは”ある人物”に向けてずっと通話をしようとしている。

 

 そのディスプレイに映し出されている相手は…………『長谷部』と言う名。そう、唯は椿と連絡先を交換し合っていたのだ。

 懐から着信音を鳴らしながら佇むフブキを前に、唯は危険を顧みず彼女に歩み寄った。

 

「やっぱり……あなた、長谷部さんなのね?」

 

 唯からの指摘に、フブキは何も言わず懐に手を突っ込み自分のスマホを取り出した。そのディスプレイには、案の定『小鳥遊殿』という名前が表示されている。

 

 唐突に戦いが止まった街中で、フブキと唯が見つめ合う。その両者の間には、場違いな程飾り気のない着信音だけが響いていた、




と言う訳で第48話でした。

ドクロの正体は骨猪の双子の兄である骨己でした。実はドクロ周りに関してはどうしようかと設定を転々とした経緯がありまして。最初は骨猪=ドクロと言う風にしようかとも思ったのですが、それだとちょっと物足りないと思ったのでこのような形に落ち着きました。

椿の方もとうとう言い逃れが出来ない状況に追い込まれました。これで彼女は正真正銘、裏切り者となってしまったわけです。以降は卍妖衆の忍びとして堂々と活躍してくれることでしょう。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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