千里達が卍妖衆本部に隠れた傘木社の秘密研究所を進んでいる様子は、監視カメラにより撮影されていた。カメラが撮影した映像は逐一警備室の様な所へ送られ、そこに待機している傘木社残党の兵士により監視されている。
そこにはブローカーとオボロの姿もあった。
「お客さんは、随分と勝手にしているようですね。どうします、オボロ様?」
隣に立つオボロに訊ねるブローカーだったが、返ってくる答えは分かりきっていた。
「決まっている……歓迎してやれ。俺も準備する」
「畏まりました」
オボロにブローカーが恭しく頭を下げると、オボロは踵を返しその場から静かに離れていく。
その隣には、肩や足の露出が激しく改造された巫女服の様な姿をした唯の姿があった。彼女の目に意志の光は感じられず、人形の様にオボロに付き従ってついていく。
ブローカーはそれを見て怪しい笑みを浮かべるのだった。
***
一方警戒しながら研究所内を進む千里達は、自分達が監視されている事には気付いていた。周囲を油断なく見渡していれば、嫌でも監視カメラが自分達を見ている事にも気付く。だから何が来ても良い様にと、常に神経を研ぎ澄ませ何処から何が飛び出しても大丈夫な様に周囲を警戒しながら進んでいた。
…………のだが、どう言う訳か大分奥まで進んだはずなのに一向に何も出て来ない。兵隊1人も迎撃に出て来ないどころか、後方から下忍などが追撃してこない状況に3人は不気味さすら感じていた。
「変だな……連中、何で俺達に何も嗾けてこないんだ? 俺らが入ってる事は分かってる筈だろ?」
「油断するなよ? ここまでくると罠の可能性が高い。俺達が逃げられない程の奥深くに誘い込んでから一網打尽にするつもりかも……」
隆司と学の議論に千里も頷いていた。ここまで好き放題やっている自分らに、相手が気付いていない等と考える程彼もお気楽ではない。罠であると考えた方がずっと現実的だ。
一瞬、通気口の中でも進むべきかと考えたが、通気口は一度は行ってしまうと容易に抜け出す事が出来なくなる。それによくよく考えるとここは生物実験をしている研究所だ。凶暴で危険な実験動物が逃げ出して通気口に入った時の備えを連中がしていないとは限らない。通気口に入ったら閉じ込められたり、中の生物を無力化するガスなどを流し込まれないという保証も無いのでこの考えは早々に捨てた。
どちらに進んでも危険が待っているのなら、迎え撃つ為の動きが容易な通路を進んだ方がずっと賢明である。
そんな事を考えながら進んでいると、3人の眼前に重厚で大きな扉が立ち塞がった。他の部屋とは違い、鋼鉄製で如何にもな雰囲気を感じさせる扉だ。にも拘らず、扉の向こうからは明らかな怪しく剣呑な気配を感じる。
ここから先が本番だ。そう察した千里が視線を背後の2人に送れば、2人も戦いの気配を察したのか無言で頷き返してきた。それに千里も頷いて答えると、鋼鉄製の扉に手を掛け力の限り押した。
「くっ! くぅ……!」
見た目通りの重量を感じさせる扉に、千里が額に汗を浮かべる。歯を食いしばって力の限り扉を押していると、彼の左右に隆司と学が張り付き一緒に扉を押した。
「こ、の……!」
「~~んでこの扉は人力なんだよ……!」
学は静かに、隆司は文句を零しながら3人で扉を押すと、扉は中央から部屋の内側に向けて開いていく。一度動き始めれば後は早く、扉はゴゴゴ……と音を立てながら開き3人を中に招き入れた。
扉を開き、3人が中に入るとその瞬間眩い光が3人を照らした。
「うぉっ!?」
目が眩むほどの光に照らされ、千里は思わず手で目を覆う。だが完全に視界を塞ぐほど彼も馬鹿ではない。目を細め指の隙間から部屋の中に目を向け、そこに広がる光景に強い警戒心を抱いた。
その部屋は何らかの演習場の類なのか、人工的に野外を再現したような構造になっていた。荒廃した岩砂漠のような大地に、映像を投影しているのか遠くの景色が壁や天井に映し出されている。3人を照らしていると思った光は、偽りの空に誂えられた偽の太陽の光だった。
それ自体も目を見張る光景だが、千里達が注目したのはそこではない。その広大な部屋には、数えるのも億劫な程の数のボディーアーマーを身に着けた兵士……傘木保安警察の隊員と卍妖衆の下忍が待ち構えていたのだ。
部屋を埋め尽くさんばかりに待ち受けていた兵士達に千里達が警戒していると、背後で扉が閉まった。前方には無数の敵、背後は閉ざされ完全に袋の鼠だ。
罠に嵌ったような状況だが、3人の顔に悲壮さはない。彼らの顔に浮かんでいたのはその逆で、これでもかと言う程の好戦的な表情が浮かんでいた。
「さて……やるか?」
「応ッ」
「やらいでかッ!」
3人が同時に忍筆と巻物を手に取り、忍び装束を纏う為筆を振った。
「「「執筆忍法、変身の術ッ!」」」
「コガラシ、変身ッ!」
【忍法、変身の術ッ! 夜の声、しのぎ削りし、忍ぶ者……コガラシッ!】
「イカズチ、変身ッ!」
【忍法、変身の術ッ! 瞬く間、影を置き去り、忍ぶ者……イカズチッ!】
「ゲッコウ、変身ッ!」
【忍法、変身の術ッ! 夜の闇、差す影の中、忍ぶ者……ゲッコウッ!】
【【【達筆ッ!】】】
傘木社残党と卍妖衆の連合軍を前に、3人の仮面ライダーが変身する。並び立った3人の仮面ライダーは、視界を埋め尽くす敵を前に武器で肩を叩いたり首周りの筋肉を解す様に肩を回してリラックスした姿を見せていた。
「こんな連中に構ってる暇はない。さっさと全員ぶっ飛ばすぞ」
「調子乗ってヘマするなよゲッコウ?」
「誰に言ってやがる」
軽口を叩き合う姿すら見せる彼らに、保安警察の隊員が変異したアントファッジが一斉に銃撃を開始した。それに混じって下忍が突撃し、忍者刀や苦無で斬りかかり手裏剣を投擲してくる。
「散開ッ!」
だが3人の忍びを前にそれらの攻撃は意味を為さなかった。素早く散った3人はそれぞれの術や技術を用いて、相手の攻撃を回避しながら反撃で次々と下していく。
「ハァァッ!」
コガラシは風を纏った刃で見た目以上の範囲の敵を倒した。暴風で吹き飛ばされ、真空刃が見えない刃となって敵を切り裂く。さらには風を読む事で周囲の敵の攻撃を察知し、視界外からの攻撃を見もせずに回避して驚いた様子の相手を逆に蹴り飛ばした。
「こ、コイツ、背中に目でもッ!?」
「タァァッ!」
「ぐはっ?!」
風を纏った蹴りで背後から迫っていた下忍を蹴り飛ばした彼の前に、新たな敵が姿を現す。クセジだ。下忍の中に妖蟲変化の術を施されていた奴が居たのか、サソリの能力を持っていると思しきサソリクセジがコガラシに襲い掛かる。
「オォォッ!」
腰から伸びる尻尾の先端の毒針をコガラシに突き立てようとしてくるが、サソリクセジの接近を察知したコガラシはコンマ数秒早くその場を離れると轟雷を納刀して鞘を背中から外し先端の銃口をサソリクセジに向ける。銃口には風が集束していき、圧縮された空気が視覚化できるほどになった瞬間、彼は引き金を引きこう圧縮された風の弾丸をサソリクセジにぶち込んだ。
「そこだッ!」
限界近くまで圧縮された風の弾丸は対物ライフルをも上回る程の貫通力・破壊力を発揮し、サソリクセジの甲殻を一撃で粉砕した。狙ったかどうかは定かではないが、銃弾はクセジの尻尾にも命中し一撃で引き千切る。その激痛にサソリクセジは絶叫を上げ引き千切られた尻尾がのたうつように暴れ回った。
そこにコガラシは介錯する様に疾風激烈脚をお見舞いし完全に倒した。
「ダァァァァッ!」
コガラシの一撃を受け、サソリクセジは大きくその場から吹き飛ばされる。そしてその先で倒れると、そいつはそのまま変化が解け元の下忍としての姿に戻り意識を失った。
コガラシが獅子奮迅の活躍をするナカ、他の2人も決して負けてはいない。特に範囲攻撃と言う面に関して言えば、イカズチはコガラシをも上回っている。何しろ彼が操るのは雷、電気だ。コガラシと違い視認しやすいが、代わりにその速度は風など比べ物にならない。瞬きした次の瞬間には体を貫き、全身を焼くほどの電流は一撃で体の筋肉を固まらせ動きを封じた。
「そらッ! それそれそれッ!」
更には渦雷を用いた接近戦。攻防に優れた刃の付いたトンファーによる戦闘は、単純な攻撃だけでなく回転させることで防御にも容易く転用できた。片手の渦雷を高速で回転させ相手の攻撃を防ぎながら、もう片方の渦雷で敵を切り裂くという事もやってのけ敵を一切寄せ付けなかった。
「執筆忍法、散雷の術ッ!」
【忍法、散雷の術ッ! 達筆ッ!】
大きく広がる雷が広範囲の敵を感電させ無力化していく。雷を味方につけ、電撃を巧みに操るイカズチの攻撃を前にアントファッジや下忍は勿論、クセジですらも相手にはならず地面には倒れたそれらが積み重なっていった。
一方、ゲッコウは2人に比べるとその戦いは些か地味と言わざるを得ない。何しろ彼の得意とする影遁は行使に影を必要とし、攻撃範囲も言う程広くはない。彼と言う人間の気質に反して、派手さは控えめであり多数を相手にするにはあまり向いていない忍術なのだ。
だがそれは飽く迄彼が扱う忍術に関しての話。それを扱う彼自身は決して地味ではなく、それどころかド派手に立ち回り近付いてくる敵をバッタバッタと薙ぎ倒した。
「オラァァァッ!」
大鎌の三日月を振り回し、草刈りの様にアントファッジや下忍が切り裂かれていく。武器のリーチを活かして近付いてくる奴は逃さず、それどころか離れている奴も見逃さず三日月で引っ掛けるとそのままそいつを振り回して敵自体も武器としてコガラシ達に負けない暴れっぷりで敵を倒していた。
「執筆忍法、影潜りの術ッ!」
【忍法、影潜りの術ッ! 達筆ッ!】
さらに彼の場合こうした乱戦は逆に有利に働く。相手が多いという事はその分足元に沢山の影が出来るという事。彼は敵の足元に出来た影を利用し、その中に飛び込んでは姿を現し近場の敵を倒してはまた別の影の中に入るという戦法で集団を翻弄していた。
「クソッ!? あの野郎、また消えたぞッ!?」
「何処だッ!」
「落ち着けッ! 奴は足元から出てくる。警戒して、ぐあっ!?」
3人の忍びの奮闘を前に、アントファッジや下忍は勿論クセジですら相手にはならず、気付けば立っているのはコガラシ達だけと言う状況となっていた。
周囲を見渡し、敵が居なくなった事にコガラシがホッと一息つく。その一方で、ゲッコウは物足りないという様に溜め息を吐き、イカズチはそんな彼を呆れた目で見ていた。
「ふぅ、これで全部か……」
「チッ、骨の無い連中だ。面白くねぇ」
「面白いって、お前なぁ……」
ともあれ、敵の戦力を大きく削る事が出来たのは間違いない。卍妖衆だ何だといっても、連中は万閃衆から暖簾分けしたような連中なので、そう戦力自体はそこまで多くはない筈だ。傘木社残党がどれ程合流しているかは分からないが、それでも出奔して以降人材が多く流入したという事はないだろう。
それにしても…………
(傘木社に負けて生まれた卍妖衆が、よりにもよって傘木社と手を組んでるなんてな……)
それは皮肉としか言いようがないだろう。傘木社の存在が生み出した卍妖衆が、傘木社残党の隠れ蓑として使われていたのだから。尤もオボロが何を考えているのかは分からないので、もしかするとオボロはオボロで傘木社残党を利用しているつもりなのかもしれない。
いずれにしても、ここで考えても詮無き事だ。
「さ、先を急ごう。もう中は俺達の所為で大わらわ、何時次が来るか――」
刹那、コガラシ達3人の視線が一点に向かった。示し合わせた訳でも、気を引くほどの派手な何かが起こった訳でもない。
彼らが感じたのは威圧感。それまで感じていたのとは比べ物にならない程の、息苦しく感じる程の気迫を感じた。
こんな威圧感がこの場で出せる者など、考えられる相手は1人しかいない。
「オボロ……!?」
遠くに居ても分かる程の存在感を感じさせるのは、卍妖衆の首魁オボロ。忍び装束に加え、コガラシから奪った4つの秘宝を身に着けて現れたオボロを前に、3人は一瞬で気を引き締め身構える。
緊張感と共に待ち受ける3人にオボロがゆっくりと歩み寄って来る。
何時何が起きても良いようにと身構えていたコガラシ達だったが、コガラシはオボロと共に歩み寄って来る相手を見て思わず冷静さを失った。
「唯ちゃんッ!?」
そこに居たのは唯だった。意識を感じさせない顔で、扇情的な改造が施された巫女服を着せられた彼女はオボロに付き従う様に歩み寄って来る。
戦いの場に唯を連れてきたオボロに対する憤りを感じるコガラシであったが、イカズチはこの状況に強い危機感を感じていた。
「アイツ、唯ちゃんをこんな所に……!?」
「マズイな……」
「あぁ。このままだと唯ちゃんが巻き込まれる」
「そうじゃねえ」
「え?」
コガラシの感じる危機感とイカズチが感じる危機感は別の物であった。コガラシは純粋に唯の身を案じたが故の危機感であったが、対してイカズチが感じている危機感はオボロが唯を同席させている意味に関係していた。
そう、
イカズチの危機感を証明するように、オボロは歩み寄りながら隣を歩く唯の肩を抱き寄せた。
「白金の書き手よ、我に力を。我を想え、強く……強くだッ!」
オボロの言葉に応えるように、唯は自分からオボロに抱き着くと身を委ねるように目を瞑り寄り添った。その光景にコガラシは頭に血が上るのを感じ、感情を抑えきれなくなり飛び出した。
「お前ぇぇぇぇッ!?」
「南城、待てッ!?」
「おいッ!」
イカズチとゲッコウの制止も聞かず飛び出したコガラシが、唯をオボロから引き離そうと飛び掛かる。だがオボロはそんな彼を鼻で笑うと、何時の間にか手にしていた晴嵐の筆で術を発動させた。
「土遁
【忍法、土遁 生山の術ッ! 速筆ッ!】
素早く発動した術により、突如として大地が大きく隆起する。出し抜けに突き上げてきた大地により、コガラシは高所から落下したような衝撃を真下から受け強制的に地面に叩き付けられた。
「ぐはっ!? ぐ、う……」
オボロの忍術により作り出された崖の上に倒れるコガラシ。その彼の前で、オボロは抱き寄せた唯を愛おしそうに撫でた。
「良いぞ……力が漲るのを感じる。お前を手に入れて良かったよ」
オボロに撫でられ、しかし唯の顔には何の感情も浮かばない。目の前でコガラシが倒れている事にも、嫌悪すべきオボロに抱き寄せられている事にも何も感じた様子の無い彼女の姿は普段感情をよく表に出す姿からは信じられない様子だった。
そんな彼女は見たくない。オボロなどに愛でられる彼女を見たくないと、コガラシは痛む体に鞭打って立ち上がる。
「や、めろ……!? 唯ちゃんから、離れろお前……!」
「……フン」
気合で立ち上がるコガラシをオボロは鼻で笑い、黒い雷遁の術を喰らわせ逆に崖から突き落とそうと吹き飛ばす。
「ぐぁっ?!」
黒い雷遁により大きく吹き飛ばされ、崖の縁へと追いやられる。ギリギリのところで落ちる事を免れたコガラシだったが、防御も儘ならず直撃を喰らってしまい立ち上がる事が出来ていない。そんな彼をオボロは崖から蹴り落とそうと言うのか、近付くと倒れた彼の腹に足を乗せた。
「うぐッ……」
「所詮この程度。ガキがちょっと強い力を手に入れただけで調子に乗っていただけと言う事だ。お前には彼女も相応しくはないな」
「な、にを…………!」
オボロの物言いに、コガラシは傷付きながらも激昂し自身の腹の上に乗った足を掴む。無駄な抵抗とオボロがその手を振り払うついでに彼を蹴り落とそうとしたが、しかし彼の思惑に反してその足は全く動く気配を見せなかった。
「?」
動かない足を訝しげに見て気付いた。足を掴むコガラシの手には、信じられない程の力が籠っている。よく見ると彼の手は震えるほどの力が入っており、掴まれている鎧からは今にも軋みそうなギリッと言う音が鳴っていた。
「ッ!」
咄嗟に危険を察したオボロがコガラシを振り払おうと足に力を込めたその時、目の前の崖の下からゲッコウとイカズチが飛び出し攻撃を仕掛けてきた。
「オボロォォォォッ!」
「オラァァァッ!」
飛び出すなり手にした武器を振り下ろす2人の忍び。それをオボロは漆黒の刀身を持つ剣で受け止め、その衝撃で彼の体がコガラシから離れた。
「くっ……フンッ。2人掛りなら何とかなるとでも?」
「甘く見ないで欲しいな」
「俺を敵に回した事、後悔させてやるぜッ!」
ゲッコウが影を利用し、素早くオボロに近付き三日月を振るう。大きく湾曲した刃が死神の様にオボロを切り裂こうと迫るが、オボロはそれを一撃で弾き返し、返す刃で逆にゲッコウを攻撃しようとした。
だが黒い刃がゲッコウの体を切り裂く寸前、雷となって迫ったイカズチの渦雷がオボロの姿を捉えた。
「隙ありッ!」
トンファーに着いた刃が確かにオボロの姿を捉えた。が、直撃したと思った一撃は片手で受け止められていた。
「なッ……!?」
「残念だったな」
イカズチの攻撃を片手で受け止め、それを振り払う事で体勢を崩させる。そして体勢が崩れたイカズチに、オボロの黒い刃が振り下ろされる。イカズチは振り下ろされる刃を渦雷で何とか防ぐが、オボロの一撃は秘宝による強化もあるのか非常に重く、防御を弾かれ対処が間に合わなくなる。
あわやと言うところでゲッコウがオボロへの攻撃に加わり、イカズチを猛攻から救った。
「んの野郎ッ!」
「ゲッコウ!」
「仕掛けるぞッ!」
「あぁッ!」
長物の得物故に少し離れた所からの攻撃が最大の力を発揮するゲッコウに対し、イカズチは至近距離での戦いで最も力を発揮する。互いの攻撃距離を活かして、2人はオボロに態勢を立て直す暇を与えず攻撃し続けた。
この2人、息が合うのか非常に不安だったがそれは杞憂だったらしい。コガラシが一方的にダメージを受けた相手だという事で、舐めて掛かれる相手ではないと揃って理解したらしい。その緊張感が2人にいがみ合ったりすることを止めさせ手を取り合う事を意識させたのだ。イカズチは勿論、ゲッコウも意地を張り過ぎることはなく互いに息を相手に合わせる事を意識して動き、お陰でオボロは防戦一方に追い込まれていた。
「ぬぐ、むぅ……なかなかやる。しかしッ!」
突然、オボロが防御を解いた。その身で2人の攻撃を正面から受け止めると、予想に反して振り下ろされた刃は鈍い音と共に弾かれた。
「グッ!?」
「かってぇ!?」
「チッ、秘宝の文鎮……流石の硬さだ」
「だったらこれでッ!」
【忍法、影遁 影刺しの術ッ! 達筆ッ!】
「ッ! おい、待てッ!?」
通常攻撃がダメージにならないと見て、忍術の影刺しで攻撃を仕掛ける。それを慌ててイカズチが止めるが、彼の制止も意味を為さずゲッコウの術がオボロに突き刺さる。が、黒い影の槍はオボロの鎧に当たるとまるで水鉄砲が壁に当たるように霧散してしまった。
「あぁっ!?」
「土豪の文鎮の力だ。あの鎧の前じゃ、忍術が意味を為さない」
「そう言う事は早く言えッ!」
「話す暇を寄越さなかったのは何処のどいつだ?」
つまり今のオボロ相手に忍術は何の意味もなさないという事。だが通常攻撃も、相手の単純な防御力が高くて有効打となり得ない。攻防共に完璧と言えるオボロを前に、改めて敵の強大さに2人は身構えながら仮面の奥で冷や汗を流した。
そんな中で果敢に攻撃する事を止めないのがコガラシだった。2人が戦っている間に体力をある程度回復させた彼は、痛みの残る体を奮い立たせて轟雷を握り締めるとオボロへの攻撃を再開した。
「うぉぉぉぉっ!」
「まだ来るかッ!」
「当たり前だッ! 唯ちゃんを返せッ!」
「フンッ、そんなに欲しければ返してやろう」
「何ッ!?」
予想外のオボロからの返答に思わずコガラシが動きを止めると、オボロはふら付きながら佇む唯の隣に立ち晴嵐の筆を取り出した。その様子に危険を察したコガラシとイカズチが止めようと迫るが、2人の手は届かずオボロの手が振るわれ忍術を描いた。
「止めろッ!?」
「遅い。執筆忍法、変身の術」
筆を振るうと同時に唯に向けて無地の巻物を放るオボロ。開かれた無地の巻物に変身の文字が刻まれ、ベルトに変化し唯の腰に巻かれたそれに更にオボロは文字を書いた。
「セツナ、変身」
【忍法、変身の術ッ! 瞬きの、刹那を見抜き、忍ぶ者……セツナッ! 達筆ッ!】
オボロが唯を強制的に忍びに変身させた。白い巫女服と忍び装束の中間のような姿に身を包んだ唯は、更にオボロから離れた秘宝を全身に身に纏いコガラシ達の前に立ち塞がる。
隣に立つ唯……否、オボロの手により変身させられた仮面ライダーセツナがコガラシに向け構えを取る。明確に彼女が敵として立ち塞がる事になった現実に、コガラシは驚愕とオボロに対する怒りが綯い交ぜになった叫びをあげた。
「オボロォォォォッ!!」
「行け。コガラシの相手をしてやれ」
コガラシの叫びなど全く気にした様子もなく、オボロはセツナを彼に嗾ける。オボロからの命令にセツナは静かに頷くと、首から伸びる深緑の画仙紙を靡かせながらコガラシに接近し彼の胸板に向け掌底を叩き込んだ。
彼女からの攻撃をコガラシは必死に受け止める。
「グッ!? 駄目だ、止めてくれ唯ちゃんッ! 目を覚ましてッ!」
必死に彼女を説得しようとするコガラシだったが、彼の言葉は今の彼女に届いていないのか反応が返ってこない。次々と放たれる掌底や蹴りを必死に防ぐが、秘宝の力で地力が底上げされているからか一撃一撃が重く彼女自身は戦闘の素人であるにもかかわらずコガラシは圧されていた。尤もこれは彼が彼女に対して攻撃に移れない事も大きく関係しているだろう。彼にセツナを……唯を攻撃する事等天地がひっくり返っても出来ない。出来る訳がない。
「コガラシッ!?」
「チッ、あいつ……!」
「おっと、お前達の相手は俺だ」
このままではコガラシがジリ貧だと、彼を援護に向かおうとするイカズチとゲッコウだったがその前にオボロが立ち塞がる。2人掛りとは言え、オボロを抜けるのは非常に難しい。
その間にもセツナの激しい攻撃がコガラシに襲い掛かり、彼は彼女を傷付けないようにと気を付けつつ必死にそれを凌ぎ続けていた。
「唯ちゃんッ!?」
彼女が目覚めてくれることを願い、一縷の望みをかけてコガラシが彼女に呼び掛ける。しかし彼女はその声が聞こえていないかのように彼への攻撃の手を緩めることは無かったのだった。
と言う訳で第58話でした。
操られたヒロインが敵対するのって王道ですよね。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。