仮面ライダーコガラシ   作:黒井福

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第六十筆:仮面ライダーの定義

 ツララとゲッコウの窮地を、つむじ風となったコガラシが間一髪のところで救った。助けられた2人は、自分達を助けてくれたコガラシの事をポカンとした顔で見ていた。尤も全員仮面で顔が隠れているので、表情自体を伺う事は出来ないのだが。

 

「こ、コガラシ殿……?」

「コガラシ、お前……」

 

 2人が感謝も忘れてコガラシの事を見上げているのは、彼が纏っている雰囲気が先程までと明らかに変化しているからだ。見た目には一切変化がないのに、何と言うかオーラと言うか兎に角何かが違っていた。

 

 その彼の異変はオボロも感じていた。彼とコガラシが直接剣を交えた回数は片手で足りる程度だったが、その時のコガラシと今のコガラシでは別人かと錯覚するほどだ。

 

(何だ、奴は……明らかにさっきまでの奴とは違う)

 

 オボロが警戒している前で、コガラシはツララとゲッコウに手を貸して2人を立ち上がらせた。

 

「ツララ、ゲッコウ、2人共大丈夫?」

「あ、あぁ……」

「忝い。あの……お主、コガラシ殿でござるよな?」

 

 思わずストレートに本人かどうかを聞いてしまったツララ。彼女の問いにゲッコウが無言で窘めるような視線を送り、彼女は言った後になってしまったと口元を手で押さえた。

 コガラシはそんな彼女に苦笑して、頬を軽くかき乾いた笑いを浮かべた。

 

「あ、あはは……そんなに?」

「まぁ、な。正直、見た目だけ同じの別人って言われても納得できちまうぜ。この短い時間で何があった?」

 

 無論、彼が才能に溢れているという事はゲッコウ自身理解していた。ツララと戦った経験と同じくらいコガラシとぶつかり合い、その度に彼はコガラシに秘められた才能の一端を肌で感じ胸を躍らせた。だからコガラシが何時か才能に目覚めた時は、爆発的に強くなるのではと期待しても居たくらいだ。

 しかしいざその姿を目の前にすると、その雰囲気の代わりっぷりに驚きを隠す事が出来なかった。

 

 そんな彼の驚きと疑問に対し、コガラシにはあまり長々と説明をしている時間は無いのか詳しい説明を省いた。

 

「悪いけど、質問は後で。正直、これまだあんまり長続きする気がしないんだ」

「続かない?」

「どういう……いや、承知した。いずれにせよ今はオボロと小鳥遊殿を何とかしなければならぬ故」

 

 色々と疑問はあるが、そう言うのは全部終わった後でも聞き出せる。今はそれよりも、目先の問題を解決しなければ。

 ツララの言葉にコガラシも頷き、ゲッコウも仕方がないという様に溜め息を吐いた。ゲッコウの様子に苦笑すると、コガラシはオボロに視線を向けながら轟雷を構えた。

 

「ツララとゲッコウは唯ちゃんを頼む。兎に角彼女を止めてくれ」

「コガラシ殿、まさか1人でオボロの相手をッ!?」

「おいおい、流石にそりゃ無茶だろ。あの嬢ちゃんも単純な力は無視できねえが、足止めだけで良いならあっちこそ1人にした方が良い」

「1人で相手して追い詰められたお主が言っても説得力が……」

「うるせぇッ!?」

 

 痛いところを突かれて思わず声を荒げるゲッコウ。コガラシはそんな彼を宥め、改めてセツナの相手を2人に頼んだ。

 

「言いたい事は分かる。ただ、今回は任せて欲しい。唯ちゃんを押さえれば必然的に秘宝も押さえられる。そうすればオボロがまた秘宝を纏う心配がなくなるんだ。だから……」

 

 それに、最悪の事態になっても2人掛りでなら唯と秘宝を回収するだけなら可能だろうという考えもあった。そう、自分がオボロに敗北し命を落とす事になったとしても、せめて唯だけは助けてもらえる。

 

 そのコガラシの覚悟が伝わったのだろう。ツララとゲッコウは互いに顔を見合わせると、揃って同時に溜め息を吐いた。

 

「……仕方ねえ。今回はお前の考えに乗ってやる」

「ありがとう」

「感謝は不要。ただし、約束するでござる。必ず生きて帰って来る事。小鳥遊殿には、そなたが……南城 千里殿が必要なのでござる。お主が居ないと知れば、小鳥遊殿がどうなるかなど考えたくもないでござるからな」

 

 今、ツララ……椿は初めて千里の事を名字込みで呼んでくれた。それはつまり、彼女も千里の事を認めてくれたという事。コガラシはそれが嬉しくて、だがそれを今は表に出すべきではないと心の奥にしまい込み代わりに頷く事で応えた。

 

「あぁ、分かった。俺も、今ここで唯ちゃんとお別れなんて真っ平御免だからな」

「ならばよし。ゲッコウ、行くでござるよッ!」

「チッ、しゃーねーな。本当は俺がオボロをぶちのめしたかったが、今回はお前に譲ってやる。キッチリやれよ?」

「任せろ。そっちも任せたッ!」

 

 オボロに向け駆けていくコガラシを見送り、ツララとゲッコウも頷き合いセツナへと向かっていった。2人の忍びが自分に向かってきたのを見て、セツナは素早く筆を動かす。

 

「執筆忍法、分身の術」

【忍法、分身の術ッ! 速筆ッ!】

 

 あっという間にセツナの姿が倍に増えた。ツララとゲッコウが2人なのに対して、分身込みでセツナは10人居る。いきなり2対10の戦いになり、ゲッコウは腹の底から呻き声を上げた。

 

「か~、一気にこんだけ増えるかよ」

「しかも硯と画仙紙の効果で質と効果時間も圧倒的でござる。苦しい戦いになりそうでござるな」

 

 ツララがそう言うとゲッコウは彼女の事を見た。視線を向ければそこでは彼女も彼の事を見ている。仮面で顔は隠れているが、その顔が笑みを浮かべているだろう事が彼には分かった。

 

「……だが、お主と拙者なら?」

「へっ……分かり切った事聞くんじゃねえよ」

【【忍法、分身の術ッ! 達筆ッ!】】

 

 相手が分身するならこちらも分身するまで。片方が5人ずつ分身を作れば負担は少ない。2人は10人のセツナにそれぞれ5人ずつ分身して対抗した。

 

 単純なスペックでは確かにセツナが優れているのだろう。それは認める。だが変身している唯は戦いの素人だし、何より彼女はオボロにより操られた状態。自意識で戦っている訳ではない以上、動きにはどこかに必ず拙い部分がある筈だった。であるならば、付け入る隙は必ずある。若くとも才能に溢れ、何より戦い慣れした自分達ならその隙を必ず見つけられると信じていた。

 

「行くぞッ!」

「応ッ!」

 

 セツナとツララ、ゲッコウの戦いが始まった。無数のセツナは素早く動き回りながら忍術を駆使してツララとゲッコウを追い詰めようとする。火遁、風遁、水遁、雷遁……基本の4属性に加えて氷遁などの派生属性の遁術や、空蝉の様な忍術まで使いこなし一斉に2人を攻めた。激しい攻撃、しかも分身なので全員が同じ思考と言う事で一糸乱れぬ連携を見せ、その立ち回りでツララとゲッコウを2人の分身諸共叩き潰そうとしてきた。

 対するツララとゲッコウ。こちらは苛烈な攻撃により早々に分身を何人か失った。苦し紛れに反撃の遁術を放つが、土豪の文鎮の効果で術はかき消されてしまう。相手の攻撃は強力なのに、こちらの攻撃は完全に防がれるというゲームであれば台パンも辞さない一方的な状況。

 

「くっ!? ハッ!」

 

 そんな中でもツララは諦める事無く、自分の分身と協力して四華を手にセツナに対抗していた。大手裏剣を大剣の様に扱い、蹴りを放って来るセツナの分身を相手にする。本当に幸いだったのは、唯自身には戦いの心得が微塵も無かった事である。お陰で動き自体は単調で読みやすく、秘宝によりブーストされているとは言え彼女の動きに対抗する事は出来ていた。

 問題なのはそのブーストだ。単純な力技でもツララ達の分身が片手間で粉砕されるほどの力がある。今も単純な体術での戦いで、ゲッコウの分身がセツナの分身により蹴り飛ばされ消滅した。

 

 横目とは言え意識をゲッコウの分身の方に向けていたのが悪かったのだろう。複数のセツナの分身が一斉にツララに向け攻撃を仕掛けた。拳、蹴り、忍術などがツララに向け一斉に襲い掛かる。

 

「はっ!?」

 

 セツナの攻撃は全て本体であるツララ本人に集中している。何故複数ある分身の中から本体である自分を特定して攻撃できたのかと疑問に思ったが、少し周囲を見渡してその理由にすぐ気付く。彼女の分身はとっくの昔に全て倒され、残っているのは本人しか居ないのだ。

 

「くっ!?」

 

 絶体絶命の窮地に、ツララが咄嗟に防御態勢を取る。焼け石に水かもしれないが、回避が間に合わない以上防御するしかない。それで防げるかは別として、だ。

 

 だが彼女の防御は徒労に終わる事になった。何故なら彼女の前にゲッコウの分身達が立ち塞がり、身代わりとなってセツナの攻撃を受け止めたからだ。

 

「ぐぉぁっ!?」

 

 強烈なセツナの一撃を見に受け、ゲッコウの分身達が消滅する。ツララの前に立ち塞がったゲッコウは全部で5人。本体を含んだ全てのゲッコウがツララの代わりにセツナの攻撃を受け止めてくれた。お陰で彼女は助かったが、代わりにゲッコウがセツナの攻撃により大ダメージを負う事となった。

 と…………思いきや…………

 

「――貰ったぁッ!!」

「ッ!?」

 

 出し抜けに複数いるセツナの影の一つからゲッコウが飛び出し、近くに居たセツナを三日月で切り裂いた。一撃のみならず何度も斬りつけ、その怒涛の攻めに遂に白旗を上げた分身のセツナは遂に消滅する事となった。

 セツナの分身の中に動揺が広がる。その中で真っ先に1人のセツナが晴嵐の筆を取り出し術を使おうとした。それを見てツララが動いた。

 

「そこだッ!」

「あっ!?」

 

 ツララはセツナに組み付き、後ろから羽交い絞めする様な形で彼女を押さえつけた。彼女はこれが本体の唯であると確信していた。分身の術は本体を見つけ出す事が非常に困難な術だが、そんな中でも一つだけ分身を見分ける手段がある。

 それは咄嗟の判断力。無論分身の判断力が劣っているとかそう言う話ではない。

 

 本体と分身で一つだけ確実に違うのは、保身に対する気持ちである。分身はそもそも身代わりとしての側面も持つので、自分で自分の身を護る事等に関してはそこまで積極的ではない。場合によっては今し方のゲッコウの分身の様に、その身を挺して本体や仲間を守る動きをする。

 逆に本体はと言うと、緊急事態には保身や反撃の為に即座に動く。分身を使っての戦いにも慣れた2人はそれを経験から見抜き、多数いる分身の中から本物だけを発見し拘束する事に成功したのだ。

 

 勿論本体がゲッコウに組み付かれたのを見て、何もせずにいるセツナの分身ではない。分身のセツナ達はゲッコウを引き剥がすべく彼に襲い掛かろうとした。

 しかし…………

 

「ツララッ!」

「承知ッ!」

【忍法、落氷瓦礫の術ッ! 達筆ッ!】

 

 出し抜けに空中に無数の氷の塊が出来たかと思うと、それが地上に落下してきた。それらはセツナを直撃こそしなかったが、降り積もった氷がぶつかり合い砕け足元を埋め尽くした。

 無論純粋な防御にも優れる土豪の文鎮を身に纏った状態の分身はその程度で消滅はしない。だがツララの攻撃はここで留まりはしなかった。

 

「動きを止めろ、執筆忍法ッ! 氷遁 冷界の術ッ!」

【忍法、氷遁 冷界の術ッ! 達筆ッ!】

 

 続くツララの発動した術により、周囲の気温が一気に氷点下を下回る程に下がった。冷気その物を下げる術は流石に鎧でも無力化は出来ず、セツナの分身達はその寒さに例外なく凍えて身を震わせた。

 更にはその冷気が足元で砕け礫となった氷同士を凍らせ繋ぎ止め、セツナ達の足を地面に氷漬けにした。氷遁により生み出された氷は物理的な本物の氷、なので衝撃は防げても氷そのものは文鎮の効果をもってしても消す事は出来ない。

 

「元々は、フブキだった時に対コガラシ殿用に編み出した術の筈なのでござるが……世の中塞翁が馬でござるな」

 

 セツナ達はあまりの寒さに震えて、筆を満足に振るう事が出来ずにいる。ここら辺はやはり鍛え方が違うという事か。とは言え極寒の局地に匹敵する寒さは例え鍛えていたとしても耐えるのは難しかっただろう。

 事実氷漬けにこそされていないが、セツナを取り押さえる為に寒冷エリアの内側に取り残されたゲッコウは彼女に組み付きながらも寒さに震えていた。

 

「ツララ、俺も寒いッ!?」

「我慢するでござるよ、男でござろう?」

「だったらお前もこっち来いよッ!?」

「分身達がおかしな真似をしたら拙者が止めなくてはならぬ故。頑張るでござるよ」

 

 軽口を叩き合っている2人だったが、実際問題これで憂いは無くなった。セツナは実質無力化され、誰もコガラシとオボロの戦いを邪魔する事は出来ない。

 

 そのコガラシとオボロは、当初の予想とは裏腹に静かに互いに睨み合っていた。

 

 コガラシは眼前で漆黒の剣を構えるオボロに問い掛けた。

 

「オボロ……いや、敢えてこう呼ぶよ。東雲 真……お前、何で万閃衆を裏切ってこんな事を……?」

 

 コガラシの問いをオボロは鼻で笑い一蹴した。

 

「何故? 何故だと? お前こそ何故何時までもあんな黴臭い組織に縋る? 何時まで経っても新しい時代に進めない、時代遅れの骨董品だぞ」

「だけど、今までこの国を、世界を裏側から守ってきたのは事実だ。いや、昔の話じゃない。今だって……」

「笑わせるなッ!」

【忍法、火遁の術ッ! 達筆ッ!】

 

 漆黒の炎がコガラシに襲い掛かる。それを彼は轟雷で切り払い、オボロに肉薄しようと一臂足を前に踏み出した。

 が、今の火遁はオボロによる目くらましだった。コガラシが切り裂いた炎の向こうには既にオボロが迫ってきており、既に斬りかかれるように剣を振り被っていたのだ。

 

「ッ!?」

「遅いッ!」

 

 コガラシが構えるよりも先に振り下ろされた刃。だが彼は()()()()()()()()()()()()()素早く防御の構えを取り、オボロの斬撃を受け止めてみせた。それだけでなく、相手の斬撃を受け流し往なして隙を作らせ、そこに反撃の一撃を叩き込む事すらしてみせる。

 

「ぬっ!? くッ!」

 

 迫るコガラシの一撃をオボロは跳躍して回避。距離を取り、態勢を立て直した。

 

「ふん、少しは利口な様だ」

「それで? 何だってこんな事を?」

 

 口では感心したように言うオボロだったが、その実内心では肝を冷やしていた。コガラシ程度の小僧に自身の攻撃が簡単に防がれたどころか反撃までされた事が予想外だったのだろう。

 その気持ちを仮面で隠し、おくびにも出さないようにしつつオボロは己の胸の内を打ち明けた。

 

「俺は欲しかったんだよ、力が……なりたかったんだよ、何者にも負けない仮面ライダーの力がッ!」

 

 オボロの感情の発露に合わせるように、()()()()()黒い稲妻がコガラシに向け放たれる。喰らえば心を痺れさせ、心身共に焼き付くす闇の雷。それをコガラシは轟雷の刃で受け止めた。だが電撃は完全に防ぐ事は出来ず、刀を伝わりコガラシの腕を焼く。

 

「ぐっ!? ぐぅぅ……!?」

「フン、お前は今までの戦いの結果全てが、自分の能力によるものだと思っていたのか?」

「な、にぃ……!」

「おめでたい奴だ。お前の戦果は全て、お前と共に居たあの姫巫女の助力のお陰だというのになッ!」

 

 唯は最後の秘宝・白金の書き手である。その力は秘宝の力を引き出させるというものだ。本人にその自覚はなくとも、その力は既に目覚め無自覚に自身が認めた相手であるコガラシに力を分け与えていたのである。

 

「だから……だから唯ちゃんを狙ったのかッ!」

「そうだとも。言っただろ、俺は力持つ者……仮面ライダーになりたいのさッ!」

 

 オボロの斬撃がコガラシに振り下ろされる。コガラシは黒い刃を轟雷で防ぎ軸をずらして受け流そうとするが、膂力はオボロの方に軍配が上がるのか完全に受け流す事が出来ず逆に体勢を崩される。そして体勢が崩れた所に立て続けに攻撃を放たれ、コガラシはそれらを辛うじて直撃を喰らわないようにするので精一杯となっていた。

 

「くっ!? う、くぅっ!? あっ!?」

 

 何度も重い斬撃を受け止めている内に、衝撃で轟雷を握る手が痺れてきた。そして遂に、オボロの一撃の前に轟雷がもぎ取られるように弾かれる。そして無防備になったコガラシの首元に、オボロの剣の切っ先が突き付けられた。

 

「うっ!?」

「あの日……傘木 雄成が敗北し傘木社が完全崩壊する事になったあの時、俺は見た。仮面ライダーデイナが怪物となった傘木 雄成に勝利し、ミサイルと共に空へと飛び立ち、そして遥か空の彼方で1人ミサイルを破壊したのを」

 

 嘗て、富士山麓の浄水場に偽装した傘木社の秘密研究所での仁と雄成の最終決戦。その戦いをオボロは隠形で隠れ潜みながら見ていたのだ。当時万閃衆が雄成に敗北し、規模を大幅に縮小させていた。だがそれでも腐る訳にはいかないと、傘木社への密偵として数人の忍びが傘木社周囲に潜入し情報収集に努めていた。

 その忍びの中に、オボロは居たのである。当時はまだ卍妖衆が無く、オボロも万閃衆の忍びの一員として任務をこなしていたのだった。

 

「衝撃であり、感動でもあった。あれこそが本当の力ッ! 巨悪を打ち砕き、己の正義を貫き通す力ッ!! 落ち目の組織に何時までも縋って、カビの生えたような因習に囚われる万閃衆では決して辿り着けない領域ッ!」

 

「それを見て思った。俺も仮面ライダーになりたいと……仮面ライダーの力を手に入れたいとなッ!」

 

 それが彼が卍妖衆を組織した切っ掛けであった。オボロは卍妖衆を使って力を手にし、自身の正義を貫き通す存在……()()()()()仮面ライダーになろうとしたのだ。

 

「それで……そんな事で卍妖衆なんて作って、こんな戦い始めたのかッ!」

「あぁ、そうさッ! 力とは呪いに等しい。それを存在するだけで他者を惑わし、更なる力への渇望に繋げる。お前もそうだろうッ!」

 

 オボロが叫びながら刃を振り下ろそうと剣を振り被る。その瞬間コガラシは腰の後ろから忍者刀を抜き、黒い刃が振り下ろされる前に懐へと潜り込み至近距離からの斬撃を喰らわせた。鋭い斬撃がオボロの胴に入るが、元からオボロは忍び装束の上に鎧を身に纏っていたのでダメージ自体は然程でもない様子で僅かに動きを止めた程度だった。

 

「んぐっ!? く、小癪なッ!」

「はっ!」

 

 時間にして数秒にも満たない程度でしかなかったが、しかしコガラシにはそれだけの時間で十分であった。オボロが動きを止めている一瞬の内に、彼は転がるようにしてその場を離れオボロの攻撃を受け止めて弾き飛ばされた轟雷を回収する。

 そして拾い上げた轟雷を納刀すると、先端の銃口をオボロに向け引き金を引く。轟音と共に放たれた銃弾がオボロの鎧に突き刺さり衝撃で彼は体勢を崩した。

 

「くぉっ!?」

 

 体勢を崩したオボロにコガラシは立て続けに引き金を引き、銃撃で追い詰めていく。だが流石のオボロと言うべきか、彼は3発目からは銃弾を見切った様に防ぎそれだけでなく逆にコガラシに銃弾を弾き返した。

 弾かれた銃弾が轟雷の銃身をかち上げ射線をオボロから外す。その隙にオボロはコガラシに接近し、黒い電撃を纏った刃を振り下ろした。

 

「死ねぇぇぇッ!」

「ッ!?」

 

 脳天からコガラシを切り裂かんとする、落雷を思わせる斬撃。鋭く力強い一撃を前にコガラシは仮面の奥で一瞬目を見開くが、次の瞬間彼は迫る刃を睨みながら抜刀し同時に鞘をその場に残して後ろに飛ぶ。結果オボロの斬撃は轟雷の鞘だけを切り裂き、鞘が切り裂かれると仕込まれていた銃としての機構に引火したのか小さな爆発が起こる。その爆発は見事に目くらましとなって、オボロからコガラシの姿を隠した。

 

「うっ!?」

「そんなものがッ!」

 

 オボロが動きを止めている間に構えたコガラシは、風を纏いオボロに攻撃を仕掛ける。烈風を思わせる突撃はオボロであっても止められる事はなく、コガラシの怒涛の攻撃を前に防戦に追い込まれた。

 

「そんなものが、仮面ライダーな訳ないだろッ!」

 

 そこにあるのはただの突撃力だけでなく、コガラシが爆発させたその想いも関係していたのかもしれない。彼にとって仮面ライダーとは単純な力に非ず。仮面ライダーとは、信念の形の一つと言うのが彼の印象であり、そして目指す仮面ライダーの形でもあった。

 

「仮面ライダーってのはただの力じゃねえッ! 心の在り方が仮面ライダーかどうかだッ!」

「な、にぃ……!?」

 

 万閃衆が雄成に敗北し、母である楓が死んでから千里は己の力の無さを呪った。一時は子供ながらに大いに荒れ、背伸びする様に力を求め我武者羅に自分の体を虐めた事もあった。

 そんな中で存在を知ったのが、仮面ライダーだった。嘗て自分の母を奪った雄成を打ち取った存在に興味を抱いた彼は、忍びとしての腕を上げ自由に動けるようになってから独自に仮面ライダーの戦いの事を調べたりした。世には決して出回らない、人知れず人々を守る為に戦った孤高の戦士。

 

 それに対して千里が最初に抱いた印象は、眩しい……と言うものだった。調べれば最初に確認され傘木社と戦い、雄成を打倒したという仮面ライダーデイナは最初傘木社だけでなく当時まだ装備が怪人と戦うには貧弱と言わざるを得なかった装備のS.B.C.T.にすら敵視されていたと言う。傘木社はともかく同じ目的で戦っている筈のS.B.C.T.にすら敵視されていた事が信じられなかった千里だったが、更に詳しく調べていくとその理由も分かった。

 

 デイナに変身していたのは元はただの一般人だった青年だ。そんな一市民が、ファッジという怪人と戦えるほどの武力を個人で所有しているなどと知られれば関係者も含めて最悪逮捕されてしまう。そうなれば、ファッジに対抗できる手段を持たない人々はまた危険に晒される事になる。デイナに変身していた当時青年だった門守 仁は己の世からの評価が下がる事を覚悟の上で、それでもなお人々を守る事の方を選びS.B.C.T.から敵視されても戦い続けることを選んだのだ。

 事実S.B.C.T.が独自のライダーシステムを手に入れてからは、それまでの罪を償い様にその身を差し出していた。

 

 決して己の力や存在を誇示することなく、粛々と人々の為に戦い続ける。それは千里達忍びにも通じるところがあり、そして自分と違い個人でありながら驕ったり腐ったりする事無く戦い続け、戦い抜いた彼に千里は感銘すら受けた。

 

 この頃からだ。千里が仮面ライダーと言う存在を特別視し、憧れを抱き自分もそうありたいと思うようになったのは。

 それはオボロと……真と似通った部分もあるかもしれない。しかし千里と真とでは小さいながらも決定的に違うところがあった。

 

 真は仮面ライダーの様に()()()()と願った。対して千里が願ったのは、仮面ライダーの様に()()()()である。

 

 純粋に仮面ライダーとしての力にのみ憧れ、自身も仮面ライダーとなりたいと願った真に対し、千里は彼らの様に気高くありたいと願った。そこに力は関係ない。千里は過去に活躍した仮面ライダー達の外側ではなく中身の方に注目したのだ。

 

「ただ力を求めるなんて、そんなの傘木社と同じだッ! 俺は違うッ! 俺は……俺は仮面ライダーみたいに、唯ちゃんや沢山の人達を守る為に戦うッ! 戦い続けるッ!」

 

「俺は……俺は仮面ライダーコガラシッ! お前みたいな力に溺れた奴から、人を守る戦士だッ!」

 

 コガラシの咆哮の様な宣言。それと共に、爆風の様な風圧の風がオボロに向け放たれる。そのあまりの風圧に、オボロも踏ん張りが利かず吹き飛ばされ壁に叩き付けられた。

 

「ぐわっ!? な、何だ……?」

 

 ただの気合な訳がなく、だが忍術を使ったにしては明らかにおかしい。何しろコガラシは今、()()()()()()()()()()のだから。

 

 万閃衆、卍妖衆の忍びであれば、忍術の使用には忍術を書く為の忍筆が必要不可欠。その常識に照らし合わせれば、コガラシは忍術を使っていないという事になる。だが結果は明らかに忍術を使用しなければ得られないもの。

 その矛盾を説明できる唯一の要因を知るオボロは、仮面の奥で顔を引き攣らせ冷や汗を流した。

 

「コガラシ……お前は……!?」

「見せてやる、オボロ……」

 

 オボロが見ている前で、コガラシが轟雷を片手に持ち空いた方の手で人差し指を中指だけを立てて印を結んだ。すると彼の周囲で風が舞い、圧縮された風圧が彼の体を僅かだが浮き上がらせた。

 

「本当の……忍びの戦いを……!」




と言うわけで第60話でした。

今回でオボロの真の目的が明かされました。要は彼もまた千里とは方向性は違えど仮面ライダーを目標としていた訳です。ただ千里が仮面ライダーの生き様に憧れたのに対して、オボロは純粋に仮面ライダーの力に惹かれた感じですね。

執筆の糧となりますので、感想や評価その他宜しくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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