仮面ライダーコガラシ   作:黒井福

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第六十四筆:罪には罰を

 飛翔した龍をコガラシ・カイデンが追いかけていく。地下に作られた施設の天井に穴を開けて外に出るという荒業を用いたからか、途中施設のあちこちが爆発するのが見える。これではもうここは本拠地として使う事は出来なさそうだ。どうやらブローカーは本気でこの施設を完全に放棄するつもりらしい。沙苗と唯を連れて雲隠れする気なのだ。

 

「そんな事させるかッ!」

 

 これ以上、唯を危険な目には遭わせない。これ以上、沙苗を辛い目には遭わせない。その一心でコガラシ・カイデンは龍を追いかけ、遂に外へと飛び出した。

 

 自然あふれる山の大地を粉砕して飛び出す龍の姿は、地上からは大地が突然火を噴きそこから龍が姿を現すという伝説か何かの光景に見えた事だろう。

 

 マンダラの龍の手に守られながら外に出たブローカーは、依然として追いかけてくるコガラシ・カイデンに顔を顰めた。

 

「全くしつこいですねぇ。いい加減諦めて欲しいのですが?」

「諦めると思ってるのか? 人の女攫っておいて」

「やれやれ……その姿が如何に力を持っていようと、この最強の生物兵器となったマンダラに勝てると思うのは少々自信が過剰なんじゃないですかね?」

「グォォォッ!」

 

 ブローカーはコガラシ・カイデンと会話しながらマンダラの龍……クセジとファッジのハイブリッドでもあるセキリュウに指示を出した。その指示を受けて、セキリュウの口内に高温の炎が集束していきコガラシ・カイデンに向け一気に解き放たれる。

 鋼鉄の扉をも溶解させるだろう高温の炎を、コガラシ・カイデンは横に動く事で回避する。風を味方に自在に空中を動ける彼は、セキリュウの火炎を回避しながら唯と沙苗を救出するべく接近を試みた。

 

「オォォォォッ!」

「チッ、セキリュウッ!」

 

 強大な力を持つセキリュウではあるが、その巨体が却って弱点となる事もある。今の様に単体で素早く空中も自在に動ける者を相手にする場合、必要以上に接近を許すと対処が難しくなる事だ。人間で言えば小さな蚊等の羽虫を相手にするような状況である。単純な強さで言えば人間の方が圧倒的に上だが、蚊はその小ささと素早さで人間の目を翻弄し隙を突いて刺していく。

 

 今のコガラシ・カイデンは、セキリュウにとっての蚊も同然の存在であった。ただ蚊と違うのは、相手が己も縦横無尽に動けると言う事。

 

「ガルァァッ!」

「ぐっ!?」

「千里君ッ!?」

 

 セキリュウは蛇のような体をくねらせコガラシ・カイデンに狙いを定めさせないように動くと、長い尻尾を振るって彼を地面に向け叩き落した。しなやかに動けるセキリュウの尾による一撃は、丸太の様に太い尾で放たれた事もあって単純な威力も凄まじい。コガラシ・カイデンは全身がバラバラになるのではと言う程の衝撃に一瞬意識を失いかけながら地面に向け落下していく。

 このまま地面に叩き付けても無力化できるだろうが、念には念をとブローカーはセキリュウに追撃を命じた。

 

「セキリュウ、やれッ!」

「ゴァァァァッ!」

 

 地面に向け成す術なく落下していくコガラシ・カイデンに容赦なくセキリュウの火炎が襲い掛かる。高温の炎をコガラシ・カイデンは回避も防御もせずまともに喰らい、全てを焼き尽くす炎が彼を包み込む。

 その光景に唯が思わず悲鳴を上げた。

 

「あぁっ!?」

「ッ! いえ、まだですッ!」

 

 愛する男が悲鳴も上げずに焼き尽くされる光景に唯が思わず目を背ける。だがその様子を見ていた沙苗は即座に違和感を感じ、焼き尽くされていくコガラシ・カイデンを見つめてある異変に気付いた。

 

 焼き尽くされていく筈のコガラシ・カイデンの姿が崩れない。あれ程の高温、普通であればあっという間に消し炭になってしまう筈であった。

 だが炎に包まれたコガラシの体は燃え尽きる気配がない。それどころか、周りからゆっくりと溶けていったのだ。最初鎧から溶けているのかと思ったが、よく見ると燃え尽きる筈のマフラーですら燃えずに溶けていく。その光景に沙苗は炎に包まれたコガラシ・カイデンの正体に気付いた。

 

「そうか、あれは身代わりッ! 岩で出来た南城君のダミーですッ!」

「えっ!」

 

 沙苗の分析に唯が顔を上げる。すると同時に上からだと死角になる所から本当のコガラシ・カイデンが飛び出し、一気に唯に向け接近していった。

 

「唯ちゃぁぁぁぁぁんッ!」

「千里くぅぅぅんッ!」

 

 自分の名を呼びながら手を伸ばすコガラシ・カイデンに、唯も応えるように手を伸ばす。気付いたブローカーがマズいとセキリュウに指示を出すが、一歩遅く彼女の手をコガラシ・カイデンが掴んだ。それでもまだ彼女の体をセキリュウの手が掴んでいる。ブローカーはセキリュウにコガラシ・カイデンを振り払う様に指示を出すが、彼は振り払われるよりも先に轟雷でセキリュウの手を切り裂き逆に唯を解放させた。

 

「唯ちゃんは返してもらうッ!」

「ガァァッ!?」

 

 轟雷の刃で手を切り裂かれたセキリュウが悲鳴と共に唯を離した。解放された唯をコガラシ・カイデンはしっかりと話さない様に抱きしめ、唯も落ちない様にと彼に抱き着いた。

 

「千里君ッ!」

「掴まって!」

「うんッ!」

「忍法、風火蒸岩(ふうかじょうがん)ッ!」

 

 コガラシ・カイデンから放たれる炎に包まれた岩塊。風を受けて勢いよく射出されたそれはセキリュウに直撃すると砕け、内部に満たされていた水が炎で一気に蒸発。瞬間的な水蒸気爆発が砕けた岩を吹き飛ばし、風により勢いを増したそれが手榴弾の様にセキリュウの体を抉った。

 

「ガァァァッ!?」

「うぉぉっ!?」

「きゃっ!?」

 

 爆発と無数の小岩の直撃でセキリュウが大きくバランスを崩す。その際にブローカーの手から縛られた沙苗が離れ、彼女はそのまま倒れるとセキリュウの手から零れ落ちるように落下してしまった。ただでさえ度重なる暴行で体力を消耗していた上に、そもそも縛られた状態では満足に術を使う事すら出来ない。そのまま落下していく彼女を、コガラシ・カイデンは唯を抱えたまま追いかける。

 

「東雲さんッ!?」

「く、間に合えッ!」

 

 セキリュウが体勢を整える前に沙苗を助ける必要がある。コガラシ・カイデンは風の力も借りて急降下し手を伸ばした。

 あと少しで沙苗に手が届く……そう思ったその時、下から飛び上がった何者かが沙苗を掻っ攫うように受け止めた。

 

「あっ!?」

「お前ッ!?」

 

 沙苗を掻っ攫ったのは真であった。彼は傷付いた体で大きく跳びあがり、地面に落下する寸前だった沙苗を優しく抱きかかえていたのだ。彼は降下してくるコガラシ・カイデンを一瞥すると、腕の中の沙苗を優しい目で見た。

 

「姉さん……」

「真……?」

 

 棘が取れたというか、丸くなったように感じられる真の視線。まるで昔に戻ったようなその目に沙苗はキョトンとしていた。

 

 その頃、バランスを崩したセキリュウの手の上で必死に落ちない様にとしがみ付いていたブローカーは、沙苗が真の腕の中に居る事に奥歯を食い縛るとセキリュウに指示を出した。

 

「くぅッ! セキリュウ、やれッ!」

「グルァァァッ!」

 

 奪い返された唯と沙苗を再び奪い取ろうと、セキリュウが降下しながら手を伸ばす。一早くそれに気付いたコガラシ・カイデンは咄嗟に横にズレる事でセキリュウの手から逃れた。だがセキリュウの手はそのまま下へと伸びていき、沙苗を抱える真に迫っていった。コガラシ・カイデンと違い自由落下に身を任せるしかない彼にはそれを回避する術がない。忍術を使おうにも両手は塞がっている。

 

「チッ!」

「え、真ッ!?」

 

 この事態に真は予想外の行動に出た。何と沙苗を突き飛ばす様に放り出したのだ。彼女が離れれば彼は両手が空く。自由になった手に彼は忍筆を握ると、素早く筆を振るい忍術を使用した。

 

「執筆忍法、風遁の術ッ!」

【忍法、風遁の術ッ! 達筆ッ!】

 

 真の風遁の術は沙苗の体を優しく包み込み彼女を安全に地面に下ろした。お陰で彼女は傷一つなく着地できた。

 だがその代償に、無防備となった真の体をセキリュウの鋭い爪が大きく抉った。下半身をもぎ取られ、半分になった真の体が血を撒き散らしながら宙を舞い地面に叩き付けられた。

 

「真ッ!?!?」

 

 体が半分に千切れて落下した真を沙苗が抱き上げる。上半身だけになった彼は口からゴボリと血の塊を吐き出しながら、残された力を振り絞って手を上げた。

 

「ね、姉さん……姉、さん……」

「真……!」

 

 死に掛けている彼には、最早沙苗の姿も見えていないのだろう。すぐそこに居る筈の彼女を探す様に視線を彷徨わせ、何かを求めるように手を右へ左へと動かしている。沙苗がその手を優しく取ると、彼の顔が僅かに和らいだ。

 

「あ、あぁ……姉さん……」

「真、大丈夫。大丈夫ですよ。私はここに居ますから……」

 

 沙苗は少しでも彼を安心させようと、聞こえているかも怪しいが優しく声を掛ける。すると彼は目から涙を一つ流し、血を吐きながら震える唇で言葉を紡いだ。

 

「ご……ごめ、ん……お、れ……ねえさ、ん……の、こと……が…………かはっ……」

 

 何かを言葉にしようとしていた真だが、全てを言葉にする前に力尽き彼は沙苗の腕の中で息絶える。最後に血を吐き出しながら脱力し目を瞑った。自身の腕の中で安らかな顔をしながら目を閉ざした弟に、沙苗は彼の死に静かに涙を流していた。

 

「真……真……!?」

 

 あの時、執筆忍法ではない忍術を使えば或いは真も生き残れたかもしれない。だが彼はあそこで敢えて執筆忍法に頼った。それは確実性を求めての事だろう。直前の戦いで彼は大きく消耗していた。その状態で迂闊に筆を用いない忍術を使えば、集中力が途切れて術が不発に終わる危険もあった。

 だが執筆忍法であれば、多少のコンディションの低下も関係なく術を駆使できる。姉を確実に助ける為、真は自分を危険に晒す事を覚悟の上で執筆忍法を用いだのだ。或いはこれも、彼なりの贖罪のつもりなのかもしれない。

 

 その真意は最早知る術は無い。無いが、それでも沙苗は愛する弟の行動をそう捉えていた。沙苗は自分何かの為に自らを危険に晒し、そして命を落とした彼の亡骸をギュッと抱きしめ静かに涙を流し続けた。

 

 血の海に沈みながら、最愛の姉の腕の中で息絶える真。その姿を見て、セキリュウの動きが止まった。

 

「ガッ!?」

「ん?」

 

 突然動きを止めたセキリュウを、ブローカーが何事かと見上げる。するとセキリュウは何を思ったのか突然暴れ出し、手に乗せていたブローカーも投げ捨ててしまった。

 

「う、うわぁぁぁぁぁっ!?」

「何だ、どうした?」

 

 何が起きたのかも分からず悲鳴を上げるブローカーを、コガラシ・カイデンも唯を地面に下ろしながら見上げていた。彼が見ている前でセキリュウは空中でのたうつ様に暴れていたが、徐にブローカーの事を見ると彼に向け火炎を放とうとした。

 

「ま、待っ――――」

 

 慌ててセキリュウを制止させようとするブローカーだったが、セキリュウは彼の制御を振り払い火炎を放射。鉄をも溶解させる高温の劫火が放たれ、生身の人間であるブローカーを一瞬で消し炭すら残らない程焼き尽くした。

 

 突然の事態にコガラシ・カイデンが唖然と上空を見上げていると、セキリュウは暴れながら辺り構わず火炎を吐き散らした。放たれた火炎は周囲の樹木を焼き、あっと言う間に周囲を火の海に変えてしまう。

 このままだと唯や沙苗も丸焼きになってしまうと、コガラシ・カイデンは水遁の術で消火活動を開始。兎に角火を消して回っていると、不意に彼の耳にセキリュウが発したと思しき言葉が入ってきた。

 

「オボロ、ザマァァァッ!? オ、ボロザバァァッ!?」

「えっ!? 喋った!?」

 

 コガラシ・カイデンはセキリュウの正体を知らない。だから元が人間である事、ましてやそれがマンダラであるなど思ってもいなかった。

 ただ、このままでは消火が間に合わないと言う事だけは分かった。見た所セキリュウは完全に暴走状態であり、誰の制御も受け付けず自然に止まる様子も見せない。このままだと周囲の森だけでなく人里まで被害が及ぶと、消火活動を止めセキリュウへの攻撃に向かおうとした。

 

 その時、セキリュウが放った火炎が唯達の方へと向かう。マズイと思い踵を返して唯達を守ろうと印を結んで術を使おうとした。

 

 が、セキリュウが放った火炎は突如空中で霧散した。何が起きたのかとコガラシ・カイデンが目を凝らすと、そこには自身が誰よりも尊敬する忍びであるホムラが唯達を守る様に佇んでいた。

 

「父さんッ!」

「千里、行くぞッ!」

「あぁッ!」

 

 コガラシ・カイデンとホムラは互いに頷き合うと、それぞれ忍術を用いて空中へと飛翔。セキリュウが居る高度を超えた上空まで向かうと、下で暴れるセキリュウに向け一気に降下。飛び蹴りを放つ姿勢で急降下してくる2人に気付いたセキリュウは、彼らに向け大口を開けると噴火の様に火炎を吐き出した。しかし2人は迫る炎を恐れず術を発動させた。

 

「忍法、不倶風燐ッ!」

「執筆忍法、烈火爆炎撃ッ!」

【必殺忍法、烈火爆炎撃ッ! 達筆ッ!】

 

「「ハァァァァァァァッ!!」」

 

 2人の必殺技がセキリュウの火炎とぶつかり合う。圧倒的な暴風を纏うコガラシ・カイデンの必殺技とセキリュウの火炎にも負けない劫火を纏うホムラの必殺技が、噴き上がってくる火炎を文字通り蹴散らしていった。

 そして、高温の炎を突き破った2人の必殺技が揃ってセキリュウの体を捉えそのまま地面に叩き付けた。

 

「グギャァァァァァァッ!?!?」

 

 セキリュウの悲鳴が周囲に響き渡る。コガラシ・カイデンとホムラがセキリュウの上から退くと、セキリュウは口から血の塊を吐き出す。そしてそのまま力無く地面に横たわると、その体が徐々に崩れていった。まるで砂の城が崩れるようにボロボロとセキリュウの体が崩れ落ちると、その中から1人の人間が這い出てきた。まさかこの中から人が出てくるなどと思っていなかったコガラシ・カイデンは心底驚いたが、その顔が見覚えのあるものだった事に更に驚きを露にした。

 

「な、加藤先生ッ!?」

「知り合いか?」

「学校の担任だった先生だよッ! 少し前にいきなり居なくなっちゃってどうしたのかと思ってたのに……」

 

 2人が見ている前で、孝蔵……マンダラは脇目も振らず沙苗の腕の中の息絶えた真に向けて這っていく。よく見るとその肉体もセキリュウ同様崩れつつあり、既に足は半分ほどが形を失っていた。

 

「オボロ様……オボロ様……!?」

「オボロ、様……? まさか、先生もッ!?」

 

 真の事を様付のオボロと呼ぶ孝蔵に、コガラシ・カイデンはここでやっと彼が卍妖衆の関係者であった事に気付く。流石に彼がマンダラであった事までは考えが至らなかったが、信じていた嘗ての担任が実は敵だった事はそれだけで大きな衝撃であった。

 

 コガラシ・カイデンの驚愕など意にも介さず、孝蔵は体が崩れていく中で真の亡骸に手を伸ばした。

 

「オボロ、様……お役に、立てず……申し訳、ありません」

 

 孝蔵はそれだけ告げ、目から一筋の涙を流すとそこで完全に力尽き、倒れるとそのまま体を崩れさせてしまった。コガラシ・カイデンはその際に孝蔵が伸ばしていた手を取ろうとして、だが間に合わず伸ばした手が虚空を掴んだだけである事に握り締めた拳を額に押し付ける。その肩は悔いるように、悲しむ様に震えていた。

 

「千里……」

「千里君……」

 

 嘗ての担任教師の死を悲しむ彼の肩に、唯とホムラが優しく手を置いた。

 

「知らなかった……先生が、卍妖衆だったなんて……」

 

 絞り出す様に紡がれたコガラシの言葉に、返す言葉を持っている者はこの場にはいなかった。

 

 オボロが倒れ、彼に手を貸していたブローカーももう居ない。卍妖衆の主だった立ち位置に居た者が居なくなった事で、この組織は瓦解するだろう。後はS.B.C.T.が後片付けをしてくれる。

 しかし決着が付いたというのに、それを成し遂げた戦士たちの心は晴れたとは言えない物であった。




と言う訳で第64話でした。

オボロは最後の最後で真としての本来の心を取り戻しましたが、今までのツケを払う様に命を散らせました。物悲しいですが、椿以上に今までやらかしてきた彼を簡単に許す訳にもいかなかったので。

千里はマンダラが孝蔵だと言う事を知らなかったので、今の今まで孝蔵は一身上の都合で学校を去ったものと思っていました。なのでここで初めて彼が卍妖衆の一員だったと知り、洒落にならない位驚いています。

次回は遂に最終回。長く続いたコガラシのストーリーにも一応の終わりが訪れます。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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