仮面ライダーコガラシ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回より本編終了後となるコガラシ特別編を全5話に渡りお送りいたします。本編ラストに登場した次回作のライダーの活躍も見られますよ。


特別編『血の巡り合わせ』
特別編第1話:残滓の胎動


 一見すると廃屋にも見える一軒の喫茶店・七篠庵。そのカウンターの奥に居る店主の女性ジェーンは、客の居ない店内で1人カウンター裏に置かれたノートパソコンのキーボードを叩いていた。パソコンのディスプレイには、1人の仮面ライダーの数枚の写真と共にその情報を記した報告書の様な文面が続いている。

 

【仮面ライダーコガラシ:万閃衆に属する忍びの1人であり、執筆忍法と言う忍術の使い手。若くして仮面ライダーデイナや仮面ライダーテテュスに迫る実力を持ち、特に風を始めとした様々な自然現象を巧みに操るその能力と技術は前述した2人の追随を許さない。忍者らしく相手を攪乱する能力にも長けており、その能力を持って卍妖衆や傘木社の残党との戦いに勝利してみせた。】

 

 一通りコガラシに関する情報を書き終えたジェーンは、体をパソコンの画面から離し両手の指を組んで背筋を仰け反らせるように体を伸ばした。体を伸ばしても尚胸元の乳房は潰れる事無く、寧ろエプロンの胸元を逆に押し上げその大きさが強調される。

 

「ん、くぅ~…………ふぅ」

 

 全身を解した彼女は、小さく息を吐きながら軽く店内を見渡した。外見に反して、店内は小綺麗に整えられており客が全く入っていないのが不思議なくらいである。

 

「そろそろ、ここともお別れかしらね~」

 

 誰に対してでも無くそう呟いた直後、扉の外に気配を感じたジェーンはカウンター裏でノートパソコンを閉じた。

 直後、ドアベルを鳴らして入ってきたのは久方振りに訪れたこの店の常連であった。

 

「お久し振りです、ジェーンさん!」

「唯ちゃ~ん、いらっしゃ~い!」

 

 高校まで暮らした住み慣れた街を離れ、東京の大学に進学した唯。彼女がここを訪れたのは、後に彼女が愛する1人の仮面ライダーがとある事件に巻き込まれる僅か数週間前の事であった。

 

 

 

 

 数週間後…………

 

 関東北部に存在するとある町、壬峰町(にんぽうちょう)を主な舞台とした二つの忍びの組織の戦いが終息してから3年が経過していた。

 

 嘗てこの街の高校である皆正高校に通っていた少女だった小鳥遊 唯。本当の両親を忘れ、平和で穏やかな日常を過ごしていた彼女はふとした事から万閃衆に所属する若き忍びである南城 千里と出会い卍妖衆との戦いに巻き込まれていく。

 その中で彼女は千里と仲を深め、互いに愛し合い、そして己の真実を知る事になった。

 

 そんな壮絶な青春を送った彼女も、今や立派な大学生。学生時代も周囲の男子を魅了する美しさを持っていた彼女はその美しさに磨きをかけ、成人し1人の女性として咲き誇っていた。

 唯は高校卒業後、上京して東京の明星大学へと進学し日々勉学に精を出していた。

 

 その彼女の隣に、今は千里の姿はない。

 

「ん~……! はぁ~……」

 

 この日も、一日の講義を終えた唯は大学近くの学生向けのマンションに帰宅していた。卍妖衆との戦いを終えてからは、あの激動の日々が嘘の様に穏やかな日常が流れていた。悪く言えば代わり映えのないつまらない日々とも言えるのだが、それを口にするのは贅沢と言うものだろう。あの日々を送ったからこそわかる。何事も起こらない、こんな平和な日常が何よりもありがたいのだと。

 

 だが、日も落ちて暗くなった街を歩き、暗い部屋に帰宅する彼女の表情は物足りないと言いたげに暗かった。何度目になるか分からない溜め息を吐きながら、自宅の郵便受けを何気なく開ける。中には相変わらず特に興味もない広告のチラシなんかが入っていて、でも中には大事な手紙なんかもあるかもしれないのでチラシを選り分けて届いた郵便物を物色する。

 

「……ん?」

 

 殆どはやはり興味もない広告のチラシばかりだった。が、その中に1枚だけ宛名も差出人も書かれていない封筒が紛れ込んでいた。明らかに怪しい。まさかストーカーの類かと一瞬警戒した唯だったが、封筒の端に掛かれていた”一文字”に目の色を変えた。

 

 封筒の端っこに小さく書かれていた文字は……凩。今日日、俳句を詠む時くらいしか使わないだろう漢字だったが、唯にとってこの漢字は特別な意味を持つ。

 その文字を見た瞬間唯は他のチラシを投げ捨てる様にゴミ箱に放り込むと、居ても立っても居られず封を切って中を見た。

 

 そこに掛かれていたのは、封筒の見た目同様とてもシンプルな一文であった。

 

 『ただいま』…………と。

 

「ぁ…………わっ!」

 

 突如、閉ざされていた筈の窓が開き室内に風が吹き込む。突風に肩の下まで伸びた唯の黒髪が大きく靡き、思わず目を瞑り手を顔の前に掲げてしまった。

 風は数秒と経たずに収まり、唯は出かける前に鍵を掛けたと思っていた窓が開き風が吹き込んできた事に驚き……だが同時に期待を胸に顔の前に掲げていた手をゆっくり下ろした。

 

 視界が開けた唯が目を開くと、そこには開かれた窓辺に佇む1人の男の姿があった。男は掛けていた銀縁の伊達メガネを指で軽く上げると、少年のような笑みを浮かべて口を開いた。

 

「……ただいま、唯ちゃん」

 

 そこに居たのは南城 千里。万閃衆の若き忍びであり、唯にとって最愛の恋人でもあった。

 

「千里君……!」

 

 彼の姿を見た瞬間、唯は歓喜に涙を浮かべながら彼に駆け寄り力の限り抱き着いた。千里もそれを受け止め、彼女の髪に顔を埋める様にしっかりと抱きしめ腕の中の唯の温もりに身を委ねる。唯もまた彼の温もりと匂いに包まれた事に、彼が自分の下に返って来てくれた事を実感し、もっと彼を感じようと甘える猫の様に彼の胸板に顔を擦り付けた。

 

「千里君……お帰りなさい」

「うん……会いたかったよ、唯ちゃん」

「私も……!」

 

 実に数か月ぶりの再会。お互いの温もりを堪能していた2人は、今まで会えずにいた分の時間を埋める様に抱きしめ合い、そしてお互い見つめ合うとどちらからともなく顔を近付けその唇を触れ合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高校卒業後、千里は大学への進学をせず万閃衆の忍びとしての任務に明け暮れる事となった。

 卍妖衆との戦いで万閃衆は総本山を失い、組織の長も失うと言う大きなダメージを受けた。が、千里の父である徹を始めとして生き残った忍びがしぶとく組織を維持し、さらにS.B.C.T.と協力関係を築く事で辛うじて組織としての体裁を維持。以降はS.B.C.T.を支える諜報組織として、依然と同様影に忍びながら傘木社の残党やその影響を受けた組織に対する調査などを行う事を主な活動内容としていた。

 活動内容は新たになったが、重要な人材が致命的に足りていなかった。何しろ傘木社の残党は世界各地に散っている。それらに常に目を光らせる為には、生き残った忍びだけでは数も実力も足りない。

 

 そんな訳で、オボロに勝利した実績もある千里は期待の新星として世界各地に引っ張りタコとなっていたのだ。そんな事情もあって千里は唯と共に大学に通う事は出来ず、卒業後は世界各地を忙しなく動き回っていたのである。

 

 正直、唯はその事を疎ましくすら思っていた。卍妖衆との戦いが終わり、これからは千里と共に平和な日常を送り高校卒業後は共に大学に通って偶にデートしたり……等と考えていた。だから騒動終息後、逆に忙しくなり2人の時間が減ってしまった事を酷く残念にも思っていた。

 そんな彼女を千里は説得した。彼だって唯と共に居たい。だが同時に、自分がやらねばならない事であるのも理解していた彼は長い時間を掛けて彼女を説得し、離れる時間が長くなることを何とか納得させる事が出来た。

 

 そうして日々万閃衆の忍びとしての任務に赴いていた彼が、この日久し振りに唯の元へと変える事が出来た。2人は離れていた分の寂しさを埋める様に触れ合い、互いの愛が褪せていない事を確かめ合った。

 その夜、千里は唯と共に一つのベッドの中で彼女と抱き合いながらある事を告げた。

 

「海都に?」

「うん。暫くは時間に余裕が出来そうでさ。それで、唯ちゃんも大学が夏休みに入るだろうって事で、久し振りに海都に旅行にでも行こうかなって思ったんだけど……」

 

 思えば海都に行くのなんて高校時代に唯の家族と共に旅行に行った時以来だ。あの時は同時に海都に隠されていた秘宝の回収を行おうとして、卍妖衆との戦いになったり現地の仮面ライダーであるテテュスと共闘したりと色々な事があった。あの時は任務と同時進行だったので完全に気を抜く訳にはいかなかったが、今回は完全なオフ。千里も唯も心行くまで海都を満喫できる。しかも今度は唯の家族のいない、2人きりの旅行だ。

 

 愛する千里と2人だけの時間が過ごせると分かり、唯は歓喜に目を輝かせながらベッドの上で千里に思いっきり抱き着いた。柔らかな胸が彼の胸板に押し付けられ形を歪める。

 

「うん! 久し振りの旅行、すっごく楽しみ!」

 

 満面の笑みで来たる旅行を楽しみにする唯の姿に、千里も帰ってきて良かったと思うと同時に彼女に喜んでもらえて嬉しくなる。

 千里は抱き着いてきた唯の髪を梳く様に撫で、彼女の温もりを全身で感じた。そして、胸を押し付けられて再び昂った思いに突き動かされるままに彼女に口付けをした。

 

「唯ちゃん、愛してる……ん」

「ん、ちゅ……」

 

 再会した愛し合う2人は、誰の邪魔が入る事もなく互いの愛を確かめ合った。その最中に、2人は互いへの愛しさと同時に同じ事を考えていた。

 この穏やかな日々がずっと続けば良いのに……と。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 同時刻、北陸地方のある街では一つの戦いが起こっていた。戦っているのはS.B.C.T.δチームと傘木社の残党。傘木社残党の主力はファッジに加えて、卍妖衆から得た執筆忍法のメカニズムを解析して生み出したクセジ。ファッジとは異なる特異な能力を持つクセジを相手に、δチームの隊員は時に翻弄を余儀なくされた。

 

 そんな中で目覚ましい奮闘を見せる者が”3人”程居た。1人は隊長であるスコープ。ライトスコープに比べてずっと高性能なスコープ、それも纏っている隊長の剛田はS.B.C.T.発足当初から戦い続けているベテランだ。戦い慣れた彼が優れた装備であるスコープを纏えば、そこらのファッジなどは相手にならない。

 

 もう1人はδ5。基本徒党を組んでファッジなどを相手に立ちまわる事を前提としたライトスコープを纏いながら、その動きは他と一線を画しておりメインの武装であるガンマカービンを振り回しながら同時にガンマソードで迫るファッジを逆に追い詰めていた。

 

 それとは別に活躍するライトスコープが居た。左胸に刻まれた紋章に描かれているのはδ11。

 知る人が見ればこれはおかしいと違和感を持つだろう。S.B.C.T.の部隊構成は一つのチームで隊長1人と隊員9人の10人編成。δチームで言えばスコープが率いるδ2からδ10までで定員の筈なのだ。δ11は明らかに定員外となる。

 

「ハァァッ!」

 

 そのδ11は、戦い方も他の隊員とは異なっていた。片腕で抱える様にガンマカービンを構えて引き金を引きながら、もう片方の手にはガンマソードを逆手に持ちファッジやクセジの間を軽快に動き回っている。ライトスコープの装備にはサーボモーターなどが内蔵され装着者の動きをサポートする機能があるので、見た目以上に素早く動く事が出来た。だがδ11の動きはそれだけでは説明が出来ない。まるで忍者の様に軽快に、まるで踊っているかのような動きで次々とファッジやクセジを下していくのだ。δ5も良い動きをするが、δ11の動きは異質だった。まるで異なる装備の動きをライトスコープでそのまま再現しているかのようである。

 

 特記戦力とも言える3人の活躍もあり、この地で隠れ潜み活動していた傘木社残党は討伐された。元研究員は全員捕縛され連行されていく。

 その様子を眺めながら、δ11は装備のヘルメットに手を掛け脱いだ。炭酸が抜けるような音を立てて装備の接続が解かれ、汗を飛び散らせるように勢いよくヘルメットを脱ぐと項の部分で一纏めにされた髪が背中に垂れた。

 

「ふぅ~……」

 

 その女性は長谷部 椿……嘗ては万閃衆の忍び・ツララとして千里が変身するコガラシと共に卍妖衆と戦い、そして敵の首魁オボロに洗脳され寝返り敵対してしまった過去を持つ。

 卍妖衆との戦いの最中、正気を取り戻した彼女は再び千里達の味方として舞い戻った。が、それまでに彼女は卍妖衆の忍び・フブキとして幾度となく千里と戦い、S.B.C.T.にすら襲い掛かった。

 

 今となってはその事を突く者も居らず、そもそも当時の事は洗脳されていた彼女自身被害者であるとする声もある。確かに彼女はオボロに洗脳された際に傷付けられ、その心を、誇りを弄ばれた。

 だが誰よりも彼女自身が自分の事を許せなかった。自分の心の弱さが周囲に多大な迷惑を掛け、唯すら危険に晒してしまった。その事を恥じた彼女は、卍妖衆との戦い終結後忍びである事を止め、高校卒業後は迷惑を掛けてしまった事への詫びと償いの為にこうしてS.B.C.T.の一員として日夜戦いに赴いているのだ。

 彼女をS.B.C.T.として迎えるに当たり、どう扱うかで悩んだ剛田達は彼女が特例で隊員になった事等を鑑みδチームの一員とする事になった。彼らが一番事情を知っているからだ。

 

 そう言った事情で異例の11番目の隊員として、忍び装束を脱ぎ鎧に身を包んだ椿はこうしてライトスコープとして戦っていたのであった。

 

「よ、忍者ガール」

「む?」

 

 一仕事終えて火照った頭に浮き上がった汗を拭っていた椿に、隊員の1人であるδ5が声を掛けてくる。スペック的にライトスコープの遥か上を行くスコープを纏った剛田を除いて部隊のエース的活躍を見せる彼は、椿がこの部隊の一員となった時から何かと気に掛けてくれていた。最初椿はそれをただの物珍しさから来るものだと思っていたが、触れ合っていく内にそう言うのではないと言う事が分かってきた。

 

「何か御用で?」

「おいおい、同じ部隊の仲間なんだから別に用事がないと話し掛けちゃいけないって事もないだろ? お疲れ。今回も良い動きだったな。流石仮面ライダーだ」

 

 要約するとこういう事だ。どうも彼は仮面ライダーというものに対して並々ならぬ想いのような物があるらしく、椿が千里と同じ忍びであった事もあって色々と気に掛けてくるのだ。

 尤も必ずしもそれだけとは言い切れず、色々な事情があるとは言え自分の身を売るような形でS.B.C.T.に参加した彼女の事が心配だから気に掛けてくると言う面もあるらしい。その証拠に彼は椿が入隊した当初、彼女に対してあまりいい顔をしなかった隊員を宥めて回っていた。

 

 お陰で椿は思っていたよりもスムーズにδチームの一員として活動する事が出来た。それをありがたいと思うと同時、どうしても申し訳ないと言う気持ちが彼女の中で何度も首を擡げていた。

 

「この程度、どうと言う事はないでござるよ。だが何度も言うが、拙者は仮面ライダーと称されるほど立派な人間ではないでござる故、その様な呼び方は遠慮願いたい」

「だけど、コガラシの仲間なんだろ?」

「元、でござるよ。何より、拙者は其方等に対しても不義理を働いた。そんな弱い拙者が、強者の代名詞とも言える仮面ライダーの名を冠するなど恐れ多い」

 

 己の弱さを理由に、頑なに仮面ライダーと呼ばれる事を避けようとする。責任感が強いが故に、過去の失態を何時までも引き摺っているのだろう。それを否定する事は簡単だ。だがそれでは彼女は救われない。彼女が過去の罪に囚われている今、どんな言葉も届く事はないだろう。

 

 椿が今よりも前に進み、再び忍びに戻る為には何らかの切っ掛けが必要となる。その事にどうしたものかとδ5が溜め息を吐いた次の瞬間、物陰から何かが飛び出し椿へと襲い掛かった。

 

「ッ!? くッ!」

「うぉっ!?」

 

 突然の襲撃に、しかし椿は素早く対応した。脇に抱えていたヘルメットを投げ捨てながらガンマソードを抜き襲撃者が振るってきた刃を受け止める。

 その横では突如姿を現した襲撃者に面食らいつつも素早く銃を構えたδ5が居た。

 

「動くなッ!」

「貴様何者……んん?」

 

 最初残党の生き残りかと警戒していた椿だったが、落ち着いてよく見るとそれが見知った相手である事に気付き訝しげな顔になった。δ5も銃口を向けていたが、彼もまた相手が誰なのかに気付くと上げていた銃をゆっくりと下げた。

 

「あ? お前……」

「隆司?」

 

 襲撃してきたのはフリーの忍びである隆司が変身するゲッコウであった。彼は椿が自分の攻撃を受け止め、その正体に気付いた事に満足そうに息を吐くと椿の短剣とぶつかり合っていた忍者刀を下げ変身を解き姿を晒した。

 

「へへっ、よっ! 久し振りだな?」

「何のつもりでござるか? いきなりこのような事、場合によっては冗談では済まされぬでござるよ?」

「冗談にしたって質が悪い。何しに来たんだよ?」

 

 δ5が椿に続き苦言を呈す。今し方の騒ぎを聞きつけて他の隊員も警戒した様子で集まって来てしまった。集まってきた隊員の中には隆司を見た事の無い者も当然混じっていたので、明らかな不審者である彼を警戒して銃口を向けている者も居る。

 

「どうした2人共ッ!」

「この男は……?」

「何者だ、手を上げろッ!」

 

 俄かに騒がしくなる周囲に椿がどうしようと視線を右往左往させていると、ライトスコープをかき分けるように前に出てきた剛田のスコープが部下の隊員達を落ち着かせた。

 

「待て、彼は敵ではない。銃を下ろせ」

「ハッ!」

「……で? 君は何故こんな所に? まさか彼女にちょっかいを掛ける為だけに来た訳ではないと信じたいのだが?」

 

 剛田の探るような視線が隆司に向けられる。銃口こそ向けられていないが、向けられる威圧感はそこらの隊員が銃口を向けている時よりも強い。それは彼の強面がそう感じさせるだけであるのかもしれなかったが、どちらにせよこのままだと居心地が悪いので隆司は早々に本題を切り出した。

 

「ま、椿の顔を久し振りに見たかったってのはあるけどな。ただ、あんたらに伝えておきたい事もあるのは事実だ」

「何だ、真面目な理由もちゃんとあったのか」

「流石の俺も遊び目的でアンタらにちょっかい掛けたりしねえよ」

「どうだか……それで? 拙者らに伝えたい事とは?」

 

 椿が先を促すと、それまでどこか緩かった隆司の雰囲気がガラリと変わった。彼が真面目になる、それだけで彼が持ってきた情報がただ事ではない事が伺えて、椿だけでなく剛田達も彼の口から出る言葉を固唾を飲んで待った。

 誰かが唾を飲む音が聞こえそうなほど静まり返ったその場に、隆司の言葉が響いた。

 

「傘木社の残党が動いてるのを見つけた。しかも連中、何か物騒なモノを持ち運んでるらしい」

「何だ? その物騒なモノって?」

「そこまでは分からねえ。ただ連中、物々しいデカい船を確保してやがった。放ってはおけねえだろ?」

 

 傘木社の残党自体が物騒なのに、それが更に物騒なモノを大きな船に乗せて運んでいるとなればそれは由々しき事態だ。その情報が事実であれば放ってはおけない。

 

「隊長……」

「分かっている。情報、感謝する」

「気にすんな。南城からもアンタらには手を貸してやれって言われてたんでな」

 

 基本1人であちこちをフラフラとしている隆司ではあったが、それでも彼は彼なりに傘木社の残党の動きに対して目を光らせていた。個人で動いているが故の隠密性の高さ。残党もS.B.C.T.だけでなく万閃衆の動きには警戒出来ても、隆司と言う一個人の動きまでを完全に把握できるほどの情報網はない。そもそも彼はただでさえ得意とする忍術の性質から隠形も優れている。傘木社が健在であった頃ならともかく、会社が崩壊し横の繋がりも薄い残党では、隆司の動きを察知する事は不可能に近かった。

 

「それで? その残党の船とやらが向かっているのは?」

 

 海上と言うフィールドは厄介だ。ヘリなどで向かおうにも降り立てる大地は無く、相手は縦横無尽に逃げられる。そして障害物の無い海上では、接近しようとするこちらの動きが相手に筒抜けとなる。本職の軍隊であれば海上でも対象に気付かれず襲撃を掛ける為の装備に事欠かないのだろうが、生憎とS.B.C.T.にはそんな便利なものはない。仕掛けるとすれば十中八九強襲と言う形になるだろう。

 椿が緊張と共に訊ねると、隆司の口から出たのはまさかの地名であった。

 

「海都だ……間違いねえ。連中、海都に向かってやがる」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 月明りすらない暗い洋上を、一隻の大型の船が航行していた。見る者が見れば、それがただの船ではなく所謂軍艦の類である事が分かっただろう。艦首近くの甲板上に設置された一門の砲塔を含む船体の色はグレーで統一されており、船体の横には開いた傘のマークが刻まれている。

 一般に現代の戦艦と言えば護衛艦やイージス艦だが、この船はそれらの船に比べて二回り以上大きく見えた。

 

 その船内にはさらに異様な光景が広がっていた。船の内部は端的に言えば軍艦と言うより研究所と言った方がしっくりくる内装をしており、中には無数のシリンダーが並んだ部屋もあった。

 それらを眺めながら、スーツ姿の男が隣を歩く忍び装束の相手に向け口を開く。

 

「もう間もなく海都だ。準備はいいな?」

「それは構わないが、そろそろ聞かせてくれ。何故俺達は海都に?」

 

 首を傾げる忍びに対して、スーツ姿の男は軽く肩を竦めながら答えた。

 

「今は亡き我が同志、深井 恭子が依然教えてくれたのさ。海都は拠点としてとても理想的だとな」

 

 海都は洋上に作られた人工島である。海底に固定されている訳ではなく、GPSと連動した航行装置を用いてその位置を固定させていた。つまり少しの改造で、海都はそのまま超巨大な船として運用できるようになるのだ。大きな街一つ分、それもある程度の自給自足が行えるほどの施設を備えた巨大船。世界から隠れ潜みながら活動している彼ら傘木社残党からすれば確かに理想的な拠点となりえる。

 しかも海都には研究施設も充実していた。元々は海洋研究の為の施設ではあるが、依然は恭子もディーパーの研究の為に用いた施設だ。それはそのままファッジを始めとした生物兵器の実験・研究にも転用できる。

 

「君らにとっても他人事ではないだろう? 欲しい筈だ、隠れ潜む為の場所が」

 

 男の言葉に忍びが腕組みしている手をギュッと握りしめる。

 

「……フン。オボロの顛末は知っている。裏切るなよ?」

「安心したまえ。我々はビジネスパートナーだ。互いに利益がある内は味方だよ」

 

 それはつまり利益が感じられ無くなれば即座に切り捨てると言っているも同然だったが、忍びはその事に気付きつつも指摘する事はなく軽く鼻を鳴らすだけに留めた。彼は言外にこう言っているのだ。益がある内は味方で居るのはお互い様。不要となれば即座に切り捨ててやる……と。

 

 笑顔で握手しつつ、もう片方の手は背中に隠して何時でも相手を刺せる様互いに相手を牽制し合う関係の2人を乗せた船が海都へと向かっていた。

 

 集まりつつある仮面ライダーと過去の悪意の残滓。平和を取り戻した海上の楽園に、再び騒動の足音が近付きつつあった。




ここまで読んでいただきありがとうございました!

本編終了後、千里と唯は諸事情で離れる事が多くなってしまいました。事実上の遠距離恋愛状態です。万閃衆が忙しくなってしまいましたからね。唯は唯で仁の母校でもある明星大学へ進学。こう言う前作前々作の設定をしっかり残した描写とか演出が好きです。

一方椿はS.B.C.T.の一員として元気に活躍中。仮面ライダーツララとして培った技術を用いて、部隊の中でも1~2を争う実力者として一目置かれています。尤も入隊当初は色々な目で見られる事になりましたけれども。

そして再び騒動に巻き込まれる事になった海都。仮面ライダーが常駐してくれてる街ではありますが、それでも狙ってくる輩は居るもので。

最後に一つ報告として、先日私が所属しているハーメルン内のグループ「ハーメルンジェネレーション」にて、大ちゃんネオさん(https://syosetu.org/user/270502/)から私へのインタビューが行われました。主に私のこれまでの執筆活動や、今後の執筆活動に関する内容が語られているのでご興味のある方は是非ご覧になってみてください。

内容は下記の大ちゃんネオさんの活動報告に投稿されています。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=312841&uid=270502

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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