仮面ライダーコガラシ   作:黒井福

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この特別編で書きたかった事の一つが達成出来ました。


特別編第4話:刻まれるカウントダウン

 傘木社残党の大型船制圧作戦の最中、コガラシ達の前に立ち塞がったシラヌイとドラゴンファッジ達。

 

 とりわけ厄介なのはドラゴンファッジだ。シラヌイはコガラシでも何とか対抗できる相手だが、こちらが1人なのに対しドラゴンファッジは複数体姿を現している。コイツがなかなかに強力で、ライトスコープでは複数人で掛かって漸く1体倒せるかと言う程度の戦力差があるのだ。

 

 そのドラゴンファッジと、椿はゲッコウと共に対峙していた。

 

「うぁぁっ!? くぅっ!」

「椿ッ!」

 

 ドラゴンファッジの尾の一撃で殴り飛ばされた椿のライトスコープが壁に叩き付けられる。変身した忍びと違い、ライトスコープの状態では装備の中は生身同然なので受けるダメージも変身した時とは比べ物にならない。尻尾の薙ぎ払いと壁に叩き付けられたダメージで、椿は全身がバラバラになるのではないかと言う程の激痛に喘ぎながら、それでも痛みを堪えて立ち上がろうと藻掻く。

 

「ぐぅ、くぅぅ……!」

 

 この数年、忍びである事を止めライトスコープとして戦う中で、こんな痛みにも大分慣れた。そもそもそれ以前から忍びとして鍛えてきた彼女は、痛みなどに対してもしっかりと耐性を持ち即座に立ち上がり剣を手にする事は容易であった。

 問題はこのドラゴンファッジが、今まで彼女が相手にしてきた異形に比べてはるかに強いと言う事であった。

 

「く、かはっ!? うぅ……」

 

 視線を下に向ければ、彼女の身を護ると共に敵を倒す為の力を与えてくれる筈の鎧は大きく罅割れあちこちから火花が散っている。これでは最早装備としての役割を果たさない。

 

 だがドラゴンファッジは彼女が僅かながらでも体力を回復する時間を与えてはくれなかった。

 

「ガルァァァッ!」

 

 ドラゴンファッジの両手にはちょっとしたサバイバルナイフを超える刃渡りと鋭さを持つ。今の状態の椿がそれを受ければ一溜りも無いだろう。

 だからと言う訳ではないが、共に戦っているゲッコウは彼女の窮地を救うべく動いた。

 

「させっかぁぁッ!」

【忍法、影潜りの術ッ! 達筆ッ!】

 

 危ういところでゲッコウが近くの影に椿を引き摺り込んだ事で、ドラゴンファッジの爪は艦内の壁と通路を抉るだけで終わった。だがその後はただ爪が抉ったと言うにはあまりにも大きく、攻撃をやり過ごし再び影から出た椿はその光景にヘルメットの下で顔を青褪めさせた。

 

「ッ!?……しかしッ!」

 

 一撃でも喰らえば即、死が待っているこの状況。だが椿は怯む事無くドラゴンファッジへと挑もうとしていた。

 当然それを許すゲッコウではなく、ガンマソード1本で戦いを継続しようとする彼女を引き留めた。

 

「馬鹿ッ! お前死にに行くつもりかッ!」

「だが、拙者が戦わなくてはッ!」

 

 揉める2人だったが、ドラゴンファッジはそんな事お構いなしに攻撃してくる。徐に尾を持ち上げると、その先端を突き刺す様に伸ばしてきた。それに気付いたゲッコウは咄嗟に彼女を抱き寄せて床に転がり、先程まで2人が居た場所の床にドラゴンファッジの尾が突き刺さった。

 

 ドラゴンファッジが苛立つ様に尾を床から引き抜くと、その先端からは血とは異なるどす黒い液体が滴っていた。

 

「にゃろう、オボロとは違って毒まで持ってるのか。忍術使えない代わりの特殊能力か尾の先端に毒針を持っているらしいな。面倒な……それより椿、ほれ」

「え?」

 

 態勢を立て直しながらゲッコウが懐から取り出したモノを椿に押し付けるように渡す。

 

 それは嘗て、彼女が彼に何時かと気が来るまでと託した巻物と忍筆であった。

 

「ッ!? 隆司、これは……ッ!」

「今のお前に必要なもんだろ」

「だが……」

「そもそもの話、俺が今回お前が居る部隊に来たのもこれ返すのが目的だったんだ」

 

 あれから数年。椿は忍びと言う括りから外れながら、日夜世の為人の為に戦い続けてきた。嘗て、万閃衆のツララとして戦ってきた時とは異なる使命を背負っての戦い。その戦いの中で、彼女は多くの人々を救い悪事を為す者達に罰を与えてきた。

 それで嘗て彼女が為した裏切りの罪が清算される訳ではない。だがそれでも、いい加減彼女は再び忍びを名乗っても許される筈であった。ゲッコウ……隆司は少なくともそう思っていた。

 

「戦え、椿。本当に裏切った事を悪いと思ってるなら、忍びである事から逃げずに忍びとして戦え」

「ッ!!」

 

 ゲッコウの言葉に、椿はヘルメットの奥で目を見開いた。逃げるな……それは今の彼女にとってどれほど残酷で、そしてどれ程聞きたかった言葉であろうか。彼女が本当に求めていたのは単純な許しではなく、贖罪の方法を説いてもらう事。例えどれ程厳しい言葉であろうとも、否、厳しければ厳しい程今の彼女にはありがたかった。厳しい言葉こそが今の彼女を心から救ってくれる言葉でもあった。

 

 本当に厳しい言葉を言ってくれる人物が既にこの世に居ないが故に…………

 

「…………フフッ」

 

 暫くゲッコウの手の中にある巻物と筆を暫し見つめていた椿の口から、小さく笑い声が零れる。くすくすと笑うその姿は、ゲッコウもよく知る嘗てのツララを名乗っていた頃の彼女の姿だ。

 

「全く……そういう所、変わらんでござるな」

「へっ」

 

 何処かスッキリした声で告げる椿にゲッコウが笑みを返す。束の間穏やかな雰囲気が流れたが、この場にはまだ強敵が居ると言う事を忘れてはいけない。

 ドラゴンファッジが再び2人に襲い掛かろうとした。

 

「グォォォッ!」

「チッ、もう少し大人しくしてろッ!」

【忍法、影刺しの術ッ! 達筆ッ!】

 

 近くの影から漆黒の槍が飛び出し、ドラゴンファッジを勢いよく突く。強固なドラゴンファッジの表皮を貫く事は出来なかったが、不意打ちに近い形での一撃は相手を大きく吹き飛ばすだけの力はあった。

 

「ガァァッ!?」

「椿ッ!」

 

 今の内に……そう思いを込めて巻物と筆を差し出せば、椿は装備を外してボディースーツ姿となりながら忍びの魂を受け取った。

 数年ぶりの巻物と筆の感触に、椿は感激に近い何かを感じ目を潤ませながら笑みを浮かべる。

 

「許しは、請わない。この身砕けるその時まで、己が使命を全うするのみッ! 執筆忍法、変身の術ッ!」

 

 実に数年ぶりに振るう忍筆だが、彼女の筆跡に一切の乱れはない。開かれた無地の巻物に、達筆な変身の文字が刻まれる。その文字が変形し、巻物はベルトとなって彼女の腰に巻かれた。

 

「ツララ、変身ッ!」

【忍法、変身の術ッ! 微かな音無く、鋭く冷たく、忍ぶ者……ツララッ! 達筆ッ!!】

 

 再び椿の身に纏われた忍び装束。まだ学生だった嘗てに比べて、心身共にさらに成長した彼女の忍び姿は、身を隠す姿の筈なのに何処か艶やかさを感じさせた。

 

 数年の時を経て復活したツララに、態勢を立て直したドラゴンファッジが襲い掛かる。爪の生えた手を振り上げ、牙の生えた口を大きく開けて彼女の体をズタズタに引き裂こうと飛び掛かる。翼がある為その機動力は高く、驚異的な速度で襲い掛かって来るドラゴンファッジ。

 

 だがツララを相手にその行動は悪手であった。

 

「執筆忍法、氷遁 氷晶雪塵の術ッ!」

【忍法、氷遁 氷晶雪塵の術ッ! 達筆ッ!】

 

 ツララの体が雪と氷の結晶となって散る。その塵の中にドラゴンファッジが飛び込むと、全身に氷の塵が張り付きあちこちを凍らせた。冷たい氷がドラゴンファッジから体力を奪い、重く硬い氷が動きを妨害する。

 

「グルッ!? ガァァッ!」

 

 自身の身に起きた異変に、ドラゴンファッジはブレスを吐いて自身の身を覆う氷を溶かした。流石に高温の火炎を前には成す術無く、ドラゴンファッジの拘束はあっさり解かれた。

 

 その隙に2人は身を焼く熱を堪えながらドラゴンファッジに接近。共にこの狭い通路では使い辛い武器を出さず、取り回しに優れた忍者刀を抜きドラゴンファッジの周囲を素早く動きまわしながらすれ違いざまに斬りつけると言う動きを繰り返した。

 

「ハァッ!」

「らぁっ!」

「フッ!」

「シッ!」

 

 コガラシ程ではないが、彼ら忍びの素早さは特筆すべきものがある。特にこういう狭い場所では、相手の目を眩ませながらの活動では他の追随を許さない。ドラゴンファッジは2人の姿を捉える事が出来ず、ただ一方的に全身を切り刻まれるだけであった。

 

「ガルッ!? ギシャァァッ!?」

 

 ツララとゲッコウの攻撃で、本来強固な筈のドラゴンファッジの鱗が砕けていく。実はこれには理由があった。

 久し振りに変身してすぐ、ツララはドラゴンファッジの体を動きが鈍る程に冷やした。その直後に奴はブレスを吐いて氷を溶かしたが、その急激な温度変化に体はともかく身を護る鎧である筈の鱗が耐えられなかったのだ。

 

「拙者、ただ無為にS.B.C.T.をしていた訳ではござらぬ。こう言う頑丈な手合いには、このような搦め手が有効であると言う事を学んだでござるよッ!」

「シャァ、決めるぞッ!」

「承知ッ!」

 

 2人の攻撃でドラゴンファッジは虫の息、背中の翼もズタボロで機動力も奪われた。今が好機と並び立った2人は同時に筆を振るい文字を書いた。

 

「執筆忍法、氷河破砕蹴ッ!」

【必殺忍法、氷河破砕蹴ッ! 達筆ッ!】

「執筆忍法、光闇螺旋蹴ッ!」

【必殺忍法、光闇螺旋蹴ッ! 達筆ッ!】

 

 ツララとゲッコウの必殺技がドラゴンファッジに放たれる。氷を纏った蹴りと影を纏った蹴りが突き刺さり、ドラゴンファッジは血反吐を吐きながら倒れた。

 

「グガ、ガァァ……」

 

 力無くその場に倒れるドラゴンファッジに、ツララとゲッコウは小さく息を吐きながら一瞬だが気を抜いた。それが良くなかった。まだこの時点ではドラゴンファッジは完全に戦闘不能になってはいなかったのだ。

 

「ガ……グルァァァッ!」

「なっ!?」

「隆司ッ!?」

 

 残された最後の力を振り絞って牙を剥き襲い掛かるドラゴンファッジ。ここで襲い掛かって来るのは予想外だったのか、ゲッコウが驚愕に動きを止めているとツララが彼を突き飛ばした。結果彼は助かったが、代わりにツララが飛び掛かられ押し倒された。

 

 そしてドラゴンファッジは、押し倒したツララの肩口にその鋭い牙を突き立てた。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「椿ッ!? クソッ!」

 

 尚も抵抗して来るドラゴンファッジに、ゲッコウは忍者刀を抜き背中を突き刺して引き剥がす。同時にツララも肩から首を食らい付かれながらも至近距離から忍者刀を突き刺し押し出した。前後から忍者刀を突き刺されたドラゴンファッジは、ここで漸く限界を迎え動かなくなる。

 

 動きを止めたドラゴンファッジを引き剥がすと、ツララはその場で四肢を投げ出し動かなくなる。そのまま変身が解けた彼女の姿を見てゲッコウは顔を青褪めさせた。

 

「椿、お前……!?」

 

 元の姿に戻った椿の顔色は土気色となり、口の端からは泡を吹いて全身を痙攣させていた。見ると先程ドラゴンファッジが牙を突き立てた所が明らかに変色している。弾かれるように動かなくなったドラゴンファッジに目を向ければ、その口元にある牙は毒蛇の牙の様に先端に穴が空き毒々しい色の液体が僅かに滴り落ちていた。

 

(コイツ、尻尾だけじゃなくて牙にも毒があんのかよッ!?)

 

 ゲッコウは動かなくなったドラゴンファッジを一睨みすると、倒れて口から泡だけでなく血まで吐き出し始めた椿に近寄り変身を解いて懐から薬瓶を取り出した。

 

「待ってろ、んな毒程度コイツで――」

 

「無駄よ」

 

 手持ちの解毒剤で椿を助けようとする隆司に聞き覚えのある声が掛けられる。まさかと思い彼が顔を上げると、そこに居たのはこの場に居る筈の無い七篠庵の店主であるジェーンであった。Tシャツにジーンズと言う明らかに場違いな格好でさも当然な様にこの場に居る彼女に、隆司も束の間呆気に取られてしまっていた。

 

「あ、アンタ、何で……」

 

 何故ここに居るのか。ここで何をしているのか。何故一目で無駄だと断言できたのか。色々な何故を含んだ言葉が自然と隆司の口から零れるも、彼女はそれを無視して倒れた椿に近付き彼女を優しく抱き上げるとその状態で隆司と目を合わせた。

 

 その瞬間、彼は彼女の目が一瞬赤く煌めいたのを見た。怪しい光が目に入ると彼は息を飲みながら目を見開き、そしてそのまま魂が抜けた様に崩れ落ちた。ジェーンは倒れる彼を静かに見つめている。

 

「その毒は即効性の神経毒だからね~。解毒剤で毒が抜けるのを待ってたら椿ちゃんの方が持たないわ~」

 

 倒れた隆司を優しく見つめながら呟いたジェーンは、そのまま同じ視線を痙攣して今にも死にそうな椿へと向け土気色をした彼女の頬を撫でた。

 

「大丈夫よ。心配しないでね」

 

 ジェーンはそう言うと、先程ドラゴンファッジに食らい付かれた部分に近い首筋に口を近付けた。そして椿の首筋に一度軽く舌を這わせると、次の瞬間口を開き彼女の首筋に食らい付いた。

 もしこの時まだ隆司に意識があったら、彼はジェーンの口の中の犬歯が異様に長く鋭い事に気付いていただろう。

 

「あ、か……!?」

 

 首筋に食らい付かれた椿の口から小さく声が漏れ出た。ジェーンの鋭い犬歯が首筋の皮膚を突き破り、僅かに血が滲み垂れる。そのままジェーンの口の中からは何かを啜るような音が響き、ジュルジュルと音が鳴る度に椿の体が先程とは違う理由でビクビクと痙攣した。

 

「ひ……きひっ! ぁ……! ぅ、ぁぁ……!」

 

 小さく嬌声のような声を上げながら痙攣する椿の顔は気付けば土気色ではなくなっていた。それどころか、頬には赤みを帯びて上気し何かに興奮している様にすら見える。気絶しているにも拘らず悩ましい顔をし、まるで淫らな夢を見ている様にすら見えた。

 

 どれ程そうしていたか、ジェーンは徐に椿の首筋から口を離した。口を離す際、彼女は椿の首筋の犬歯が刺さった痕を一舐めする。首筋を舐められた椿は小さくビクンと痙攣するが、意識を取り戻す事は無く、だが上気した顔で安らかな寝息を立てていた。

 

「ん……んぅ……うん……ん~」

 

 一方椿の首筋から口を離したジェーンは、何やら暫く口をもごもごと動かしていた。口の中で何かをかき混ぜる様に口元を動かしていた彼女は、徐に明後日の方を見ると口から何かを吐き出した。

 

「プッ」

 

 ジェーンの口から吐き出されたのは毒々しい色をした、ドラゴンファッジにより注入された筈の毒であった。ジェーンの唾液と混ざり合った毒液は、床に広がりゆっくりと揮発していく。

 

 血と毒液を選り分けたジェーンは、口の中に残った椿の血を飲み下す様にゴクリと喉を鳴らすと安らかに眠る椿の頭を優しく撫でた。

 

「ごちそうさま~……もう大丈夫よ~、心配いらないわ~」

 

 椿に向けるジェーンの視線は優しくもどこか寂しそうだった。まるで何かを憂いる様に、ジェーンの口から溜め息が零れる。

 

「あ~ぁ~、これで皆ともお別れね~。喫茶店楽しかったんだけどな~…………うん?」

 

 唐突に何かに気付いた様な声を上げると、次の瞬間ジェーンの口から何かが吐き出された。ゴボリと言う音と共に吐き出されたそれは、血に塗れてはいるが水色の十字架の様な物であった。ジェーンは自分の喉奥から飛び出したそれを手に取ると、小さく笑みを浮かべてその十字架にそっとキスをした。

 

「……じゃあね~、椿ちゃ~ん。()()()()()()()()()()()()()()()()ごめんなさいね~。借りてたものは全部返すから~」

 

 ジェーンはそう言ってもう一度椿の頬を撫でると、彼女を優しく床に寝かせてから立ち上がりその場を立ち去っていったのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方甲板では、テテュス・オケアノスと旧傘木社の幹部怪人4体との戦いが行われていた。

 

「たぁぁぁっ!」

 

 スパイダーファッジの攻撃をテテュスが体を捻りながら飛んで躱しつつ、その勢いを利用して飛び蹴りを放つ。スカートの裾を翻しながらの飛び蹴りを喰らったスパイダーファッジに代わり、触手の鞭を振るうスクイッドファッジが襲い掛かった。

 

「なんのッ!」

〈BINGO! Skill activation. DEEP DIVING.〉

 

 ギリギリのところでディープダイビングが発動し、危ういところで攻撃を甲板に潜る事で回避したテテュスはそのままスクイッドファッジの死角から飛び出し回し蹴りで蹴り倒す。

 

 テテュスが2体のファッジ相手に善戦している頃、オケアノスもまたフロッグファッジとシーアーチンファッジを圧倒していた。

 

〈BINGO! Skill activation. TEMPEST RUSH.〉

「オラオラオラオラァッ!」

 

 オケアノスのテンペストラッシュが2体のファッジの表皮に突き刺さる。鉄板をも抉る威力の拳を何発も喰らい、フロッグファッジの体が砕け始めた。このままではマズイとシーアーチンファッジが棘を伸ばし防御の姿勢を取るが、高水圧を纏った拳は伸ばされた棘ごとシーアーチンファッジの表皮をも砕いていく。

 

 2人の仮面ライダー相手に、嘗てデイナの前に立ち塞がった怪人達は手も足も出ない。気付けば4体のファッジは数の上では上を行っているにも拘らず、テテュスとオケアノスに挟まれる形で追い詰められていた。

 

「ネイト、決めるよッ!」

「あぁッ!」

〈〈All in〉〉

 

 チップケースをドライバーに装着し、レバーを下ろして必殺技を発動する。テテュスのジャックポットフィニッシュとオケアノスのビッグウィンフィニッシュが4体のファッジの逃げ場を奪い、強烈な一撃に挟まれた4体は爆散して倒れた。

 

 流石に元は幹部クラスの怪人だった事もあり、テテュスも少し手を焼かされた感はあるがそこは流石にデイナに並び嘗て世界を救った仮面ライダー。外側と性能を再現しただけのコピー相手に後れを取るような事は無く、余裕を持って勝利を収めた。

 

「ふぅ……」

「うし、これでここは大丈夫だな」

「うん」

 

 甲板上には他の敵の姿はない。2人は艦内に突入したコガラシやS.B.C.T.の援護の為、急いでその場を移動するのだった。

 

 その頃、艦内のブリッジ付近では激しい戦いが行われていた。

 

「うわぁぁぁっ!?」

「クッ!? δ6、δ7! δ9を援護しろッ!」

 

 S.B.C.T.のライトスコープは単体ではドラゴンファッジに手も足も出ない。複数人で連携してようやく対抗できるかと言う程の性能差を前に苦戦を強いられ、スコープが必死に指示を出しながら自身も攻撃に参加するが状況は芳しくなかった。

 本来であれば同行しているコガラシが積極的にドラゴンファッジと相対するべきなのだが、こちらはこちらでシラヌイの相手で忙しくそれどころでは無かった。

 

「そらッ! それそれッ!」

「くっ!?」

 

 シラヌイが獣のような動きで艦内の廊下を縦横無尽に動き回る。壁や天井に鉤手甲を引っ掛け、三次元的な動きでコガラシを翻弄する。反応速度には自信のあるコガラシだったが、シラヌイの動きは彼が今まで見てきた中でも明らかに上位に入る素早さであり、予測の出来ない動きを前に風を読む間もなく相手の攻撃を防ぐだけで精一杯だった。

 

「フンッ! オボロを下したと言うが、所詮はその程度かッ!」

「何をッ!」

「違うと言うのなら、それを証明してみせろッ!」

【忍法、土遁の術ッ! 達筆ッ!】

 

 コガラシを翻弄しながら、シラヌイは筆を振るい土遁の術を発動させる。土遁の術でシラヌイはその場に素早く穴を開けるとその中へと入り込み、かと思えばすぐ傍の壁から飛び出しコガラシの不意を打った。

 

「ぐっ!? チィッ!」

〈忍法、風遁の術ッ! 達筆ッ!〉

 

 カイデンをしてしまえばこの程度の相手に後れを取る事は無いのだが、シラヌイの素早く不規則な動きの前にはそんな余裕もない。だが反撃しない訳にはいかない為、コガラシは風遁の術でシラヌイを迎え撃つ。シラヌイが開けた穴の中に突風を送り込み、その風圧で隠れ潜んだ相手を引き摺りだそうとした。

 

「甘いぞ、小童ッ!」

 

 だがシラヌイは思わぬところから姿を現した。シラヌイは何時の間にか天井の物影の中に潜み、コガラシが隙を晒すのを待っていたのである。

 

 コガラシの死角から襲い掛かろうとするシラヌイだったが、それは途中で気付いたδ5の援護射撃により防がれた。

 

「コガラシッ!」

「ぐぬっ!?」

「コガラシ、大丈夫かッ!」

「サンキュー、助かった」

 

 δ5の援護により僅かながら余裕が出来た。この隙にコガラシは嘗て唯により作られた秘伝の巻物を取り出した。

 

「行くぜ、シラヌイッ! 変身ッ!」

【忍法、変身の術ッ! 神羅万象、免許皆伝、疾風の如く忍ぶ者! コガラシ、皆伝!】

 

 元々巻いていたベルトの上から重なる様に秘伝の巻物が変化したベルトが巻き付く。するとコガラシから通路を押し流す様な暴風が吹き荒れ、シラヌイだけでなくS.B.C.T.やドラゴンファッジですら立つ事も出来ない状態になる。

 その風が収まった時、そこに居たのは免許皆伝を会得した最強の忍びの姿であった。

 

「コガラシ・カイデンッ! 一筆書きより簡単に終わらせてやるッ!」

「ほざけッ!」

【忍法、雷遁の術ッ! 達筆ッ!】

 

 カイデンとなったコガラシに、鉤手甲に雷を纏わせたシラヌイが攻撃を仕掛ける。普通であれば迂闊に受け止めようものなら感電して逆にダメージを受けてしまう為、回避して攻撃をやり過ごすのが基本的な対処法。だが今のコガラシであれば…………

 

「忍法、水遁の術ッ!」

 

 忍術により生み出された水が、シラヌイでは無くコガラシ・カイデン自身に降りかかる。自分で自分の体を濡らして何をするつもりだと思いながらシラヌイが鉤手甲を振り下ろすと、コガラシ・カイデンはなんとそれを片腕で受け止めてしまった。それも雷を纏っていない腕では無く、今も放電している鉤爪の部分をである。だがコガラシ・カイデンは少しも苦痛を感じた様子もない事に、受け止められたシラヌイは驚愕に言葉を失った。

 

「なぁっ!?」

「フンッ!」

「ぐっ!?」

 

 コガラシ・カイデンが反撃の掌底をシラヌイの腹に叩き付ける。その一撃はシラヌイの体を木端の様に吹き飛ばし、後ろにあったブリッジに続く扉を粉砕して中へと転がる様に入っていった。

 

「うわぁっ!?」

 

 ブリッジで戦闘の様子を見ていた寅泰は、背後の扉をブチ破って入ってきたシラヌイとその後に続くコガラシの姿に腰を抜かす様に崩れ落ちる。

 

 コガラシ・カイデンがゆっくりとブリッジの中に入り、その後にS.B.C.T.のライトスコープが続く。ライトスコープ達はブリッジに入ると素早く寅泰を含む内部の人員を拘束していった。

 

「動くなッ!」

「全員、逮捕するッ!」

「くぅっ!? シラヌイ、何をしているッ! 早く助けろッ!」

 

 2人のライトスコープにより床に押さえつけられる寅泰が堪らず叫ぶが、シラヌイだっていっぱいいっぱいなのだ。先程の攻防で嫌でも理解してしまった。コガラシ・カイデンとの戦力差は、そう簡単に覆せるものではない。

 

 シラヌイが唸っていると、扉を守っていた隊員が何かに向けて発砲し始めた。先程対峙していたドラゴンファッジが、ブリッジの中へと入り込んだ隊員を追い詰めようとしているのだ。扉の影を盾にするように通路の先に居るドラゴンファッジへと銃撃を続けるライトスコープ達。

 

 その時、ドラゴンファッジを迎え撃っていたライトスコープ達が慌てた様子で扉から離れた。

 

「伏せろぉぉっ!」

 

 直後、ドラゴンファッジが放ったと思われる火球がブリッジの中へと飛び込んできた。火球は一瞬でブリッジの中を火の海に変え、機材を焼き払い粉砕した。その炎に拘束していたブリッジ要因の何人かが焼かれて悲鳴を上げる。

 

「うわっ!? うわぁぁぁっ!?」

「ぎゃぁぁぁっ!?」

「くそっ! 忍法、水遁の術ッ!」

 

 火だるまになった人や室内の消火の為、コガラシ・カイデンが水遁の術を使う。お陰で捕縛すべき者達も火傷を負う程度で済んだが、今の一撃でブリッジ内部の機材が破壊されてしまった。その結果、誰にとっても予想外の事態が発生してしまう。

 

『警報。警報。緊急事態が発生しました。緊急事態が発生しました。フェイルセーフを起動します。後5分で本艦は自爆します。脱出可能な乗員は速やかに退艦してください。繰り返します――――』

 

 艦内に響き渡る警報と通知に、全員の顔が青ざめた。

 

「何ぃッ!?」

「おい、どう言う事だッ!」

 

 突然の警報にδ5が拘束している寅泰に問い掛ける。胸倉を掴まれて持ち上げられ苦しそうに顔を歪めながら、寅泰は今起きている事態を説明した。

 

「ふ、不思議な事じゃないだろ。この船も実験艦としての一面を持っている。不測の事態に実験体が暴走した時の処分として、船ごと沈める為の処置が用意されてたんだ。それが先程の攻撃で誤作動を起こした」

 

 傍迷惑な話だ。態々そんなものを船に仕込むなど。とは言え、だったらさっさと逃げればいいだけの話。この船にだって脱出艇位ある筈だ。それに乗れば、寅泰たちも纏めて船から逃げられる。

 

 そう思っていたが、スコープがふと窓から外を見るとそこに広がる光景に思わず息を飲んだ。

 

「な、何ッ!?」

「隊長? どうしたんです?」

「いかん、これでは……おいッ! どうすれば止められるッ!」

「隊長、どうしたんですッ!?」

 

 明らかに動揺した様子のスコープにδ5達が何事かと狼狽えていると、彼は外を指差した。

 

「見ろ、この船は既に海都に近付き過ぎているッ! このままでは規模にもよるが船の自爆に巻き込まれるッ!」

「なっ!?」

 

 言われて窓から外を見れば、そこには既に確かに目前まで迫った海都の港の光景が広がっていた。

 

「げぇっ!?」

「何時の間にッ!?」

「今までずっと船が海都に近付き続けていたんだッ!」

「おいッ! 自爆装置はどうすれば止まるッ!」

 

 スコープが寅泰を強めに揺すって自爆装置の止め方を聞けば、彼は案外あっさりと口を割った。このままだと彼も自爆に巻き込まれるからだろう。その表情は必至だった。

 

「こ、ここから離れた区画にメインのコンピューター室がある。そこに自爆装置の緊急停止スイッチがある。入れば正面だ、直ぐに分かる。だが……」

「だが、何だ?」

 

 何か問題があると言わんばかりの寅泰の言葉に、不安を感じたスコープが問い掛ける。だがその答えを彼が口にする前に、火球で破壊されたブリッジに別のドラゴンファッジが飛び込んできた。

 

「グルァァァッ!」

「げっ!? コイツまた……!」

「チッ、おいッ! コイツ等一旦黙らせろッ!」

 

 流石にここまで乱入されると落ち着いて戦えない。コガラシだけでなくシラヌイも仮面の奥で顔を顰めてドラゴンファッジを制御させようとする。だが……

 

「だ、駄目だ……さっきの一撃で、ブリッジにあった制御装置も破壊された。どの道全部を止めるには、コンピューター室に行くしか……」

「マジかよッ!?」

 

 つまりは完全に制御不能になった強力な生物兵器が闊歩する中を、切り抜けた上で限られた時間内にコンピューター室まで行かなければならないと言う事である。考えただけで頭を抱えたくなる事態に悲鳴を上げる隊員が居る中、スコープは部下に檄を飛ばして行動に移らせた。

 

「文句を言う暇があったら動けッ! こうしてる間にも時間は刻々と過ぎているんだぞッ!」

「そうは言いますが、アイツらを突破していくのは……」

 

 ブリッジに入ってきた奴だけでなく、他にも数体のドラゴンファッジの姿が確認できる。コイツ等を突破しつつ、決して長くはない時間以内にコンピューター室まで辿り着いて自爆装置を停止させなければならないとなると、どれだけ困難であるかは想像するに難くない。

 

 そんな中で真っ先に立ち上がり、ドラゴンファッジに挑もうとしたのはδ5であった。

 

「隊長の言う通りだ。俺達が今動かないでどうする。仮面ライダーにばかり全部任せるつもりかッ!」

「δ5……だ、だが……」

「行きましょう、隊長。俺が先頭を行きます」

 

 δ5が片手にガンマソードを持ちながらドラゴンファッジに突撃しようとする。流石に1人では無茶だと、周囲の隊員が彼を止めようとした。

 

 その時、赤黒い影が飛び出したかと思うとドラゴンファッジを蹴り飛ばしてブリッジから追い出してしまった。

 

「えっ!?」

「あれは……?」

 

 突然の乱入者は、今この船に居る筈の他の仮面ライダーの誰でも無かった。ボロボロの赤黒いコートを羽織った、鈍色の仮面の戦士。

 

 その姿に、自然とコガラシ・カイデンの口からはこの単語が零れ出た。

 

「仮面、ライダー?」

 

 コガラシ・カイデンの声に、新たな仮面ライダーが振り向いた。束の間、2人の仮面の戦士の視線が交錯した。




ここまで読んでいただきありがとうございました!

はい、ジェーンの正体ですが彼女は人間ではありません。詳しい正体に関しては次回作で語られる予定ですが、所謂吸血鬼的な感じの存在です。

そしてラストには満を持して次回作のライダーを登場させる事が出来ました。次回からはこの新ライダーがその力を見せつけてくれますよ。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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