死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが   作:ストロング西岡

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第一章
第一話ッ マイケル降臨ッ!!※大したことではない


 

 ──世界のどこかに私の運命を決めたやつがいるとしたら。

 

 きっとそいつは酷く性格が悪く、性根が腐っていてどうしようもないクズだろう。

 

 ──運命なんて、恨みすぎて恨むことを忘れた。

 

 魔力が込められた体は不思議と気力に満ち、私の背中を無限の可能性が支える。

 

 ──私には夢がある。今はそれはただの独りよがりではない。

 

 このクソッタレな国から出て外の世界に旅立つ。そして皆で幸せになるために、そのためなら、私はどんな困難でも戦うよ。

 

「今だッ! やれッ、テレジーッ!!」

 

「テレジーっ!!」

 

「テレジー…………っ!」

 

 最後の一撃を前に、走馬灯のように流れる今までの軌跡に身を任せ、場違いにも物思いに耽けていた。

 

 ──なんで、こうなってしまったのかを。

 

 ☆ ☆ ☆

 

 アスキア帝国城下町、通称貧民街。

 

 西側の貧民街区の砂岩で出来た家屋の上で、なんとはなしに私は空を見上げる。

 

 ……相変わらず空は曇天で陰気。空気も臭くて居心地が悪い。視点を少し下げると、遠くにはこの国の周囲を囲い渦巻く灰色の嵐の一面が映る。

 

 ──『灰の嵐』。

 

 私の故郷である素晴らしきアスキア帝国は、私が生まれる前より『灰の嵐』という正体不明の超災害に見舞われていた。近づけば最後、全身を高速で舞う灰に切り裂かれるように死ぬ。

 

 つまりアスキア帝国とは、内からも外からも近づくことは叶わない牢獄の名前でもあった。

 

 ……つくづく思うが、碌でもない国だ。

 

 風が頬を撫で、同時に巻き上げられた砂が目に入る。何回か目を擦って視界を回復させると、コートの襟を引き寄せフードを目深に被って顔を隠す。そして風が収まるのを待ってから、私はすぐさま飛ぶようにその場から離れた。

 

「見つけたぞ、あっちだ!」

 

 物思いに耽けている暇ではなかったな。屋根の上を軽快に走りながら、左後方に追いすがるボロ布を纏った集団を横目で確認する。

 

 7人か、ちょっと多い。このまま振り切るのは難しいか。

 

 私はコートの内ポケットを探って自慢の自作爆弾のピンを抜いて追手に投げつける。

 

「っ!? やべぇ、早く逃げ──」

 

 もう遅い。

 

 投擲した爆弾は地面につく前に作動。周囲に強烈な閃光を煌々と放ち、その後大きく爆発した。

 

「う、うわぁあああ!!」

 

「い、いてぇ……あ、足が……!?」

 

「うっ……目が……!」

 

 爆風の残滓が私の纏っている黒の外套が大きく靡かせる。フードを深く被り直し、私は裏道の開かれた場所に着地し、爆弾の成果を確認する。

 

 7人中2人が爆死、3人は四肢のいずれかを欠損し無力化。残る2人は遠いこともあって反応が間に合い無傷で、精々爆風を浴びた程度の被害。とはいえ閃光をもろに食らっていたため、その場に蹲って動くことはできていない。これで追手は撒けるだろう 、上出来だ。

 

 ──かつてアスキア帝国が栄えていた頃の軍の遺留品に手榴弾と閃光弾がある。その2つの要素を足して2で割ったものが閃光炸裂弾。私の自作。

 

 相手の目を潰して足を止めたところを、殺傷性を高めた後追いの爆発で確実に仕留める私の自信作。殺し合いにはもってこいの代物だ。

 

 一発投げるだけで面倒事すべて解決できちゃう爆弾ちゃん。でも作成するのに必要な材料のコストが高いから、正直作らない方がいいロマンありきの存在。でも愛さえあれば関係ない。無ぇよそんなの。アホか。

 

 もし名前付けるなら、私の名前『テレジー』と『爆弾』から取って『テレ弾子』と付けよう。可愛くてチャーミングで親しみ易くて覚えやすい良い名前だと思う。

 

 ……いや、流石に爆発物に自分の名前を付けるのは嫌だな。縁起が悪いにもほどがある。

 

「見つけたぞ、ボマー!」

 

 今日の連中はしつこい。先程の爆発を聞きつけたのか周囲を3人のボロ布を纏った貧民共に囲まれた。これが閃光炸裂弾の唯一の難点だ。これだから爆弾は魔法より弱い。二度と使わん。

 

「随分と舐めたマネしてくれたなぁ……仲間の敵だ。地獄に落としてやる」

 

 リーダー格らしき男が憎悪との籠った声音で吐き捨てる。その手には剣が握られていた。

 

 しかし準備が良すぎる。それに爆発を聞いてやって来たにしてやや早すぎる。恐らくこいつらは私が気付かないよう、気配を消して追ってきた戦闘慣れしている集団だろう。恨みを買いすぎたか? 

 

「地獄だと? 脅し文句にしては三流だな、頭まで貧相とは救いがない」

 

 私は敢えて挑発して時間稼いで男どもを観察する。背丈は平均的、筋肉質で体格はいい。髪は短めに切られており、顔は頬が痩せこけている。服装は薄汚れてはいるものの、それなりに上等そうな服に見える。

 

「はっ、貴族崩れの無能が、この人数に勝てると思ってんのか? ……とっととくたばれ!」

 

 男の1人が剣を低めに構え、突撃してきた。他2人は死角に入ってジリジリと距離を詰める。

 

「うわっ!」

 

 右後ろから男の悲鳴が聞こえる。男は突如足を躓いて転んでしまう。それもそのはず、私は地面を僅かに隆起させ攻めのテンポを崩した。

 

「っ、魔法だ! 下からくるぞ、気をつけろ!!」

 

 見当違いに、リーダー格の男は下方へと警戒を促す。

 

「っ! ぐぁっ!?」

 

 正面の男は頭上から降ってきた岩石に対応が遅れ、そのまま脳天に直撃。如何に戦闘慣れしてるとはいえ、魔法師相手に戦ったことはないらしい。まぁそれもそのはず貧民街には魔法師なんて1人も居ないからな。全員アスキア城で隠居してるさ。

 

 ……まぁ、私も魔法師とは模擬戦くらいでしか戦ったことはないのだが。

 

 左から迫る敵を正面に構える。男の手に持った剣による袈裟斬り。それを短剣で弾き、続く蹴りをバックステップで躱す。ステップの隙を突くように男は剣を真っ直ぐ突きだす。

 

 それを待っていた。私は身体強化魔法を施し、突き出された剣を上から被せるように拳で叩き割る。

 

「シッ!」

 

「ぐはっ!?」

 

 武器が破壊された驚きで固まっている男の頭部にハイキックを浴びせ撃沈。残るは躓いた男だけだ。

 

「てめぇ……! ただで済むと思ってんのか!?」

 

「負け犬にしてはよく吠える」

 

「吠え面かくのはてめぇだ!」

 

 男はへたり込みながらも威勢よく吠え、懐から何かを取り出す──拳銃だ。

 

 男はこちらに銃身を向けてハンマーを起こし、引き金に指をかけた。銃撃は間もなく。既に魔法による防御も回避も間に合わない! 

 

「っ……!」

 

「死ね!」

 

 当たりどころが悪ければ私は死ぬ。心臓と脳と脊椎以外であれば治療は間に合う。だが銃口は頭に向いているし、何より距離が近い。余程の馬鹿でなければ体から外すことはないだろう……分が悪い賭けだ。

 

 本来は魔力さえ潤沢なら敵にもならないが、無い物ねだりしても仕方がない。計画性の無さを恨むだけにしておこう。

 

 何とか精一杯体を右へ動かして、銃弾による致命傷を負わないよう足掻く。その甲斐あってか、銃弾は正中線を避け左肩に吸い込まれた。

 

「がっ……あぁ!?」

 

「へ、避けやがったか」

 

 銃撃を受けた左肩が燃えるように熱い。その場に蹲って痛みを必死に堪えつつ、急いでその場から離脱。そこに追撃の銃弾が襲う。なけなしの魔力を使って治癒魔法を施し、簡易的だが止血を行う。

 

「良くもやってくれたな、この女ァ!!」

 

「ぐっ、う……っ!」

 

 這いずり回る私を見て男は素早く近付いて、鬱憤を晴らすように腹を足蹴にしてきた。そして私の髪の毛を鷲掴みにすると、顔面めがけ全力で拳を振るう。

 

 殴られた勢いで私は後ろに吹っ飛び頭から地面に激突。視界がぐわんぐわんと揺れ、地面との感覚が薄れる。腕に力も入らず立ち上がることが出来ない。

 

「はぁ、はぁ…………これで終いだ」

 

 男は私の胸を踏みつけ、おでこに銃口を突き付けた。痛みで思考が回らない。魔法の展開も難しく、身体的にも限界で身動きが取れそうもない。

 

 ……だが、それがどうした。それは私が死ぬのにたる理由になり得るだろうか? いや、ならないだろ。最後まであがき続けろ。こんなところで死んでたまるか! 

 

「あぁああああ!!」

 

 僅かに動く右手で、男の右足を切りつけた。

 

「痛っ!?」

 

 男がたじろいだ隙をついて体を捻って拘束から脱出し、切られた足を気にする男に組みかかる。右から袈裟斬り、そして突き。それを回避され、今度は逆に持った拳銃の柄が眼前を掠める。一度距離を取って再度詰め寄り、短剣を頭に振るう。左手で弾かれ、男は至近距離で2回発砲。さらに銃身を掴んで逸らすことでもう1発を不発とさせ、そのまま手首を捻って銃を奪う。

 

「くっ……!」

 

「これで……隠し玉はなしか?」

 

 チェックメイト。男は明らかに焦った様子で目を泳がせる。もう奴に抵抗できる手段は残されていない。拳銃を男に向け、ハンマーを起こして、発射の構えを取る。

 

「私に挑んだことを、あの世で後悔するといい」

 

 震える指に力を込め徐々に沈んでいくトリガー。銃を打つのは初めてだが、この距離だ。外すことなんてあり得ない。今から確実にこの男は死ぬ。私はこの男を殺し、今日を生き残る。そうやって私達『貧民』は生き残ってきた。

 

 私も恐らくお前も、この街の誰かから生きる権利を奪ってきた。ならば、奪われた誰かも奪う権利があるはずだ。そうでなければ平等ではなく理不尽だからだ。

 

 お前は、その迎えが来ただけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺ッ! 降臨ッ!!」

 

 背後から突然男の大声が聞こえた。慌てて振り返ると、鎧を纏った大男が立っていた。特に目立つのは頭の兜で、まるでバケツみたいな鉄兜をしている。武器の類は見受けられない。しかしそもそも何者で、そして音もなく現れたのかが疑問だ。私の知らない武器を隠している可能性を考慮し、鎧男に対し半身をとって短剣を前に出して拳銃を体で隠す。

 

「…………誰だ……!」

 

「俺が来たからにはもう安心だ! 迫りくる敵は全てこの俺がシュシュッ、とはっ倒す! 懇ろに! 必要以上に!!」

 

「…………」

 

 とんちんかんな言葉を並べる男。さらに不信感が増す。

 

「ふーむ、俺を恐れてひれ伏したかッ! それとも逃げたのかッ! ハッハッハッ」

 

「さっきから何を言っている……!?」

 

 男の言う敵とは何だ。そして、最初の御託は誰に向けたものなんだ? 

 

「死ね…………この、クソ女っ!!」

 

 背後から強烈な殺意を感じとる。男との会話で油断していた。まさかこの男は、これを誘っていたのか。私は咄嗟に回避行動に出る。間に合うか? 

 

「ふんッ!!」

 

「ぐはっ!?」

 

 後ろに構えていた銃向けようとしたとき、鎧の男が素早く接近し男の顔面を殴り飛ばした。

 

「おいたが過ぎる。レディーの扱い方、ママに教わらなかったのか?」

 

 頭の片隅が熱くなる、不愉快な感覚。それに従い、憐れにも私に背を向ける鎧男に銃口を突き付ける。

 

「おっと、初対面で拳銃のプレゼントとはサプライズ好きなようだが?」

 

「その通りだ。大人しく受け取ってくれ」

 

「ふむ、それは最高だ。だが君は一つ勘違いをしている……そいつじゃ俺の鎧は撃ち抜けないさ」

 

「なら、試してみるか?」

 

 男は私の脅しに怖じけず悠長にこちらを振り向く。

 

「動くな、殺すぞ」

 

 男は手を上げた状態でゆっくりと近付いて来る。

 

「リボルバーの装弾数は6発──その銃、もう弾は入ってないぞ?」

 

 バンッ!! 

 

「ぐおッ!?!?」

 

 馬鹿か。こいつは7発だ。

 

「な、なんと……キングコブラの改造品かッ」

 

 男は腹を擦って痛がる素振りを大して見せず、奇想天外なことを発する。しかし銃弾を受けたはずの鎧に傷はなく、ただ空虚な結果だけが残った。この距離だぞ、あまりにも硬すぎる。そんな上等な素材がまだ貧民街にあったのか。

 

 私はその場に銃を捨て、斜めに構えた護身用の短剣を鎧で守られていない関節部を狙って振るう。幾らか装甲が厚かろうと、可動域を確保するために関節部は柔らかい素材でできている。そこならば刃が通るはずだ。

 

「うおッ、やめるんだ!! 当たったら死んじゃうッ!」

 

 短剣を振るい、鎧男目掛け刺突。その全てを鎧を纏いながら器用に避けていく。言葉では悲壮感が溢れているが、行動は冷静で焦りはまるで見られない。クロスレンジの戦いに慣れているとしか思えない。

 

「危ないってッ!?」

 

 クソッ、仕留めたと思ったのに手を弾かれ阻まれる。こいつ…………強い。明らかに行動を読まれている。

 

「舐めた真似を……くたばれ!」

 

 短剣を腰に振るう。避けたところに回転蹴りを浴びせる。

 

「ふっふっふっ、淑女が足を上げるのは些か下品だぞぉ?」

 

「ッ!?」

 

 当たる寸前で右足を捕まれ、拘束状態に。そこを起点に左足で側頭部を狙うも、片腕ですんなり叩き落され私は転落。体が宙を舞う中、手を必死に伸ばして鎧男を掴もうとする。簡単に負けてやるか、どうにかしてお前を倒し、身ぐるみ剥いで売りさばいてやる。

 

「うぉッ!? 危ないッ!!」

 

 だが運悪くチェストプレートの上部を鷲掴みしたことで、私と鎧男の重心が後ろへ傾く。流石に耐えきれず鎧男はバランスを崩し重力に従って落下していった。

 

「痛っ!!」

 

 先に落下したのはもちろん私。背中を強く打ち付けた私だったが、すぐさま今しがた私が置かれている状況を察する。そして、妙にゆっくりと進む世界の中止まることなく鎧男が私の上へ落ちてくる。

 

 ……やばい、それはやばいっ。あんな全身鎧の大男が落ちてきたら私はッ──。

 

「────ぐえッ……ッ」

 

 ──私は意識を手放した。

 





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