死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが 作:ストロング西岡
「さあ、ここが僕たちの拠点だ」
私達はラルクに案内され穏健派レジスタンスのアジトの入口前にたどり着いた。
旧時代では軍の集会所だったところを改修したのだろう、革命派のアジトより一回りくらい大きく、そしてシンプルな外観をしている。元々は革命派、穏健派両派閥が分裂する以前から使用していたはずだ。だから必然として空間面積が必要になるため大きな施設が使われているのだろう。今では多く見積もっても半分以下の人員しかこの施設を利用していないだろうから、身の丈に合わない寂しいアジトになっていることだろう。
「さっきは見苦しいところを見せてしまった。すまない」
背を向けていたラルクは私に振り返ると、深々と頭を下げた。アジトに入って仲間に紹介する前に謝罪を済ませておこうと思ったのだろう。
「不愉快だったが、許す。二度とするな」
私がそう言うとラルクは頭を上げホッとした表情を向けた。
「……ありがとう」
何故礼を言われるのか分からない。謝罪をするくらいなら最初からしないでほしい。心臓に悪い。
準備が整い、ラルクがアジトの扉に手をかけようとしたとき、ふとあることに気が付いた。
「そういえば、ガリッパ。貴方ここに来て大丈夫なの? 敵対してるでしょ」
振り返ってガリッパを見ると、何でもないことだと頭を降って答えた。
「革命派の下っ端って上の連中と関わり無くて。話しても下っ端の言うことだからって無視されることもあるんで、情報抜き出せたとして言う先がないっす」
ガリッパは投げかけるような視線を私に向けてくる。言ってることに矛盾はない気がする。
「こう言ってるけど」
私が判断しても仕方がない。話の矛先をラルクに向ける。するとラルクは口元に笑みを浮かべて話だした。
「例えガリッパ君が僕たちの情報を向こうに持っていったとしても構わない。元々は同じ組織なわけだし、情報は共有されるべきで、むしろお願いしたいところだ。それにこっちの進捗が逐一クロードに伝われば、計画に現実味を帯びさせることができる」
ラルクはそう言ってむしろガリッパを歓迎した。少し楽観的すぎるところがある気がするが、まぁ私にはあまり関係ないから良しとしよう。
話が一段落ついたところでようやく、私達は穏健派のアジトに入る運びとなった。……あ、その前に一言だけガリッパに言っておかないと。
「ガリッパ。これから何があっても絶対に手を出さないで」
「……わかりました、姉貴」
まあまず間違いなく面倒なことになる。そして、その予感は間もなく的中した。
☆ ☆ ☆
「てめぇこの女ァッ!! どの面下げて来やがってんだッ!!」
「おい、姉貴から離れろ」
「何だてめぇ……はっ、そのアバズレに惚れた口か? 男の後ろにコソコソ隠れていいご身分だなぁ、お貴族様はよぉッ!!」
「…………」
「あぁ? どうした、言い返してみろよッ!!」
「ガイ、それ以上はやめるんだ!」
「てめぇもてめぇだ! この女は俺たちの仲間殺してんだぞ!! そんなやつ仲間になんかさせるわけねぇだろうがッ!!」
私がアジト内に足を踏み入れた途端、室内の気温がガクッと下がったかと思えば、今はこうして1人の男に怒鳴られている。男は茶色い短髪を鉢巻きで巻いて、身長が高くガッチリとした印象を受ける。
尽きることのない私への悪態に、ガリッパは既に我慢を強いられている。やはりな、こういうことになるのは想定済みだった。そして案の定ラルクの制御が効いていない。……問題はない。もし想定以上に不利益を被る事態になれば、ラルクとの話は無かったことにすればいいだけだ。
「それはテレジーさんが望んでやったことじゃない! 革命派の連中に強制されて、生きるために仕方がなくやってたんだ。ガイにだってわかるだろ!?」
「それでも……俺は納得いかねぇぞ」
ラルクの説得によりガッチリ男、もといガイは勢いを殺すも、すぐには落ち着かない。そうだろうな、確か穏健派の連中に手を掛けたのは……何時だったが忘れたが、その中にガイ似た男を見た気がする。自分が殺されかけた相手が目の前に居て、上の立場の者から『仲間にする』と言われ連れてこられたら、私だって同じ反応するだろう。
「悪いけど、あたいも。革命派に居たんだったら尚更無理でしよ。いつ裏切るか分かんないし」
その時、同じくエントランスにいた少し派手目な格好をした金髪女は、髪を弄りながら気だるげに返答。そして横にいた清楚っぽい少女然とした青っぽい髪の女が続けて発言した。
「リンは別に……ラルクを信じるよ」
自分のことをリンと呼ぶ少し痛い女。その時リンウェルの妙な視線がラルクに向いたのを感じる。……ああ、なんか面倒くさい予感がする。寒気が収まらない。
「オーフィアは?」
「……エレノアに任せる」
「いや任されないわよ。自分で決めなさい」
壁際近くにいた地味な黒髪女は他力本願な意見を出した。
「オイラは構わないぜ。こんな世の中色々あるでしょ〜、それぞれの事情とかさ。それにテレジーちゃん綺麗だし」
「シド……あんたはそっちが目当てでしょ」
シドとか言う自分のことをイケメンだと勘違いしてそうな金髪男はラルクの意見に賛成した。客観的にはイケメン男のシドは下卑た笑みを浮かべながら私に近づいてくる。
「テレジーって呼んでいい? 初めましてオイラはシド。宜しく!」
ほう、この男そう来たか。私は男の目を正面から睨みつける。
「初めまして? はっ、冗談が上手いな」
「え?」
シドは覚えていないフリをしているのか、キョトンとしている。たが僅かに目が泳いだのを見逃さない。
「私は、1度会った人のことは忘れない。2年前、私が貧民街に来た初日、それはそれは『お世話』になったな」
「え……そ……それ、は……っ!」
あからさまに狼狽し、イケメン物の相貌が崩れる。ざまぁ無いね。
この男は私を弄んだうちの一人だ。あらかた人がいなくなって行為は終わったのかと思ったその時に、腕を強く引かれこの男は覆いかぶさって……くそ、嫌なことを思い出した。吐き気がする。
「シド、あんたボマーと────」
金髪の派手女は不自然なところで言葉を止める。ふとエレノアの表情を見るも、何事もなかったように戯けた様子を見せる。
「──知り合い、だったの?」
「いや、その! か、歓迎するよ、テレジーさん!!」
男は分かりやすく挙動をおかしくすると、後ろに引っ込んで行った。ラルクに賛成なのは変わらないらしい。これでここにいる地味女を除く五人中三人が賛成になった。
「おいお前ら、この女を許すってのかよ」
賛成が多い状態に納得がいかない様子のガイは、仲間に考え直すよう厳しい視線を向ける。
「リンはラルクが考えてること分かる気がする。でもガイの言う通り簡単に水には流せないと思ってる。だから……その……」
言葉尻が弱く尻すぼみになっていくリンの発言を引き継ぎ、派手女が指揮をとる。
「はぁ……それでオーフィア、あんたは?」
「えっ? …………さすがエレノア。それで良いと思う」
「……話を聞きなさい」
「痛い……うぅ、酷い……」
オーフィアとか言う黒髪女は、間違いなく話を聞いていないであろういい加減な態度に、金髪派手女はオーフィアの頭を軽く小突いて制裁。
「エレノア」
ガイは金髪派手女、エレノアに意見を求める。数少ない反対派としての意見を早く聞きたいのだろう。エレノアは肩を竦めてみせると、得意げな顔をして私を見る。
「そんな睨まないでよガイ。でもそうね……条件がある」
私に聞いてほしいのだろう、エレノアは言葉を切ってもったいぶらせる。はぁ……ため息が出るぜ。
「……条件とは?」
私がわざわざ聞いてやると、エレノアは口元を見にくく歪めてこう言った。
「身に着けてるもの全部脱いで、謝罪なさい」
「エレノアっ! いくら何でもそれは!!」
「はっ、いいじゃねぇか! アバズレ糞女にはお誂え向きだ」
エレノアの発言に調子を良くしたガイは上機嫌でその意見に乗っかった。ラルクの抵抗虚しく、二人はその話で盛り上がっている様子だ。
「……まぁ、そういうことならいいんじゃない?」
「リンまで!! そんなこと、僕は絶対許さないぞ」
「……っ」
この流れだと、一肌脱ぐのは確定しそうだな。そう思っていると横にいるガリッパが歯を食いしばっているのが見えた。
「ガリッパ」
「っ……はい」
私が呼ぶと、ガリッパは少しだけ冷静さを取り戻したのか落ち着きを取り戻す。そんな固くならなくてもいい。私はなんともないから。
エレノアとガイは期待のこもった雰囲気で私の返事を今か今かと待っている。ラルクはこちらを見て、私が何を言おうとしているのか不安としている様子だ。他の者たちも一様に私を見ていた。しかしリンだけは興味が無いのか髪をいじっていた。
奴らの思考は容易く見える。私を辱めて、一時の慰め者として扱いたいだけだ。だが、そんなもの私にとっては慣れっこだ。こんな肌に価値なんて無い。無価値なものがこの場では価値を有するというのであれば、やることは一つしか無いだろう。
外套を止めるボタンに手を掛け、一つ一つ外していく。
「あ、姉貴……っ!」
「動かないでガリッパ。いいから」
「っ……」
外套を地面に捨て、晒しとハーフパンツのみになったことで、一段と視線を集めるようになった。……くだらん。
「…………」
「……ラルク。見ちゃだめだよ」
「なんで、こんな事を──」
「──ラルク! おめぇは黙ってろ。おいクソ女。とっとと手を動かせ、まだ残ってんだろ?」
「……面白くない」
各々が好き勝手に喋り、喧騒が広がる。その渦中に私を置いて、どこまでも不快な空気が増長していく。
ショートパンツを止めるボタンを外し、下ろしていく。突き刺さるような視線が、ずり下がるズボンに移動していき……そこで、私はショートパンツを履き直した。
「……あ? 何してんだよ」
私の突然の行動に、周囲に緊張が走った。ガイが一歩一歩と近付いて、私に脅しをかけてくる。
「誰が止めていいと言った?」
確かにこの場で私が全裸になり頭を地につけ醜い言葉を述べれば、騒ぎは収束を見せスムーズに穏健派に属することになるのだろう。しかし、それは今だけだ。今私がこいつらに謙れば、革命派の時と同じ、主人と奴隷の関係になる。そうなれば、再びこういった自体に陥る。
……そうなるのが分かっているのなら、私はここに来るべきではなかったし、今すぐにでも回れ右をしてとっとと帰るべきだ。だが、敢えてその選択をしないのは……在りし日の夢を思い出したから。それを叶えるためには、穏健派の力を借りるなりして、貴族街に入る必要がある。私だけでは得られない情報や、人員を動員しなければ……成し得ない。だから、今ここで対等な立場を築く為には、『私個人』を確立させる。
安易な選択に逃げるな。
「……すまないね。サービスはここまでだ。これ以上は課金が必要だ」
「……は? 何だって……?」
「意味が分からなかったか耳聾。貴様らに頭を下げるくらいなら死んだほうがマシだ、クソッタレ」
「なっ!?」
ガイは呆気に取られ、怒りを忘れて開いた口が塞がらない。折角だ、奴らが困惑している内に、思っていたことを全部ぶつけてやろう。
「そもそも最初から上から目線で話していたのが気に食わない。潜在的に私を下に見ているのだろうが、私は貴様らの道具になるつもりはない。何故協力を請われている立場の私が、お前らに頭を下げなければならないのかが分からない。頭が高いにも程がある。立場を弁えろ。はっきり言って不快だ」
私は挑発するように言ってやると案の定ガイは激怒して、突っかかってきた。
「てめぇ、言わせておけばッ!!」
「ガイっ! やめろ!!」
「引っ込んでろ愚図がッ!!」
ガイを止めようとラルクは間に入るが、体格差がありすぎて勢いを止められずラルクは押し飛ばされてしまう。
「殺してやるッ……生まれてきたことを後悔させてやるッ!!」
怒り心頭の様子のガイはそう言うと、腰に帯びていた剣を構える。ガリッパが応戦しようと剣を構えるが私は肩を叩いて諫める。ガリッパの前に出ると私は短剣を突き出してガイに向けた。
「…………」
「……ふふ、面白い」
後悔だと。私は既に十分後悔している。これ以上後悔しないため私は生きることを誓った。その邪魔をするなら容赦は──。
「おーいテレジー! 松茸、採れたぞー!!」
「!?」
鉄兜に白のタオルを巻いて麦わら帽子を被って鎧の上からオーバーオールを着用し、背中に大量のキノコ──多分それがマツタケ? ──が入った籠を背負った男、マイケルが登場した。
「だ、誰だてめぇ!?」
「……なんか、凄そうな人……」
突如現れた闖入者にガイは警戒心を露わにした。しかしマイケルはそれをもろともせず、それどころか平常運転であった。
「トム・ク○ーズだ! いい加減に覚えろ!!」
「覚えるもなにも、会ったことないだろっ!!」
「いやそもそも名前違うでしょッ!?」
「マイケルは偽名だ!!」
「偽名ッ!?」
「来て早々騒がしいわね。コント?」
初対面の相手に偽名使うなよ、こっちからしたらそれじゃ真名なんだよッ。
「はっ、お前もボマーに惚れ込んでるって口か? どいつもこいつもイカれてんな、そんな糞女のどこがいいんだよ!!」
ガイは私の周りに増えた事に腹を立てたのか、ガリッパに言ったようなことを言って挑発する。
「惚れてるだと? 当たり前だ、テレジーは世界で一番素敵な女性だ、文句あるかッ!!」
マイケルはガイの恨み言に返答を────。
「え……っ!? 素敵……私が…………?」
「「…………!?」」
「……ん……あれ……?」
予想を裏切られた私は堪らず思考が停止してしまう。へー。あ、そう。そうなんだ、へー。ふーん。まぁ、客観的に見ても私は容姿が整ってるし、どうせ一目惚れしたんでしょ? だから別に嬉しくないけどね。今更そんなこと言われてもって感じ。ありきたりな言葉だよね、素敵って。それ言っとけば何とかなるって思ってる男って多そう。てか世界一って何? 規模がでかすぎてよく分からんわい。惚れてる……当たり前? あっそ、別になんとも思わないわ、うん。
「え、えへへ……素敵な、女性……世界一、当たり前…………ふふ」
あ、あれぇ? なんでだろ……に、ニヤけるのが止まらないよぉ…………。
「……姉貴。今取るべき反応が違います」
「え? あ、ああ……」
ガリッパに正され、私は冷静さを取り戻す。そう、私はマイケルのツッコミ役。常に冷静にツッコミを入れなければならない。上気した顔をパタパタと仰ぎながら努めて冷静にツッコむ。ふぅ……一息ついた。精神ばっちぐー。
「具体的に、どこが素敵だと思ってる……?」
「姉貴、ツッコミどころが違います」
「や、やっぱりいい……聞くの怖い……」
「姉貴、女を出さないでください」
「ああ、でも……あ、や、やっぱり……」
「姉貴……そろそろマツタケにツッコミを入れてください」
「──え、マ、マツタケ? なんだっけそれ……」
「思いもよらぬ角度からの攻撃に姉貴の頭がパニックを起こしてる!?」
「おお、そうだ松茸。テレジー、食うか?」
そう言ってマイケルは背中の籠からマツタケ一つを取り出して私に手渡してくる。凄いおっきくて美味しそう。マイケルが採ってきたんだから、美味しいに決まってるよね?
「え、ええ……頂こうかしら」
あ、マイケルの手に触れちゃった……凄い固くて、男らしい手……手袋越しだったけど……嬉しい……。
「いやそれ絶対生で食っちゃ駄目なやつでしょ!? 姉貴も食べちゃ駄目です!!」
「むぅ? ちょっと前に一つ食ったがなんにも……うっ、腹が……!!」
私は両手で持ったにマツタケを食べようとしたとき、マイケルは腹を押さえて腹痛を訴えた。
「ほら」
「な、何てもの食わせようとしてんのよッ!!」
「あ、姉貴が戻った」
危ない、私はこの男に騙されるところだった。この男は冗談しか言わないから本気にしてはいけない。そのことを肝に命じておこう。
でも、綺麗っていうのは冗談じゃないといいなぁ……。
「──違うッ!!」
──私は、止まりそうになった思考を、床に頭突することで無理やり動かした。
「え、怖っ」
エレノアが、引いた。