死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが 作:ストロング西岡
穏健派レジスタンスのアジトに赴いてから数日後、私達はとある危機に直面していた。
「う、うぅ……」
「テレジー……しっかり、するんだ……!!」
「マイケル……私、もうダメかも」
「テレジーッ、テレジィィいい!!!!」
『ぐぅぅぅぅぅ…………』
お腹、空いたな…………。
約一週間前にガリッパが持ってきた食料は既に底をつき、飲まず食わずの日々を過ごしていた。
ガリッパは用事があるからと二日か三日前に姿を消した。食料は彼になんとか工面してもらおうと思っていたから、誤算が生じた。居なくなってからなんとか宛を頼りに探そうかと試行錯誤したが見つからず、マイケルは松茸探しに没頭し成果は無し。私達は絶望した。あれ……クロードと契約する前の私ってどうやって過ごしてたんだろ……。生活力、ゼロ?
「松茸……もうないの?」
私は無気力のあまり床に寝そべりながらマイケルにもう何回目かもわからない最後の確認をした。
「テレジー、何回も言っているが……もうない。あのとき全部食べちゃった」
「馬鹿ぁ……バカぁ……!!」
「だが、一番食べていたのはテレジーだぞ……」
「うっ…………」
あのとき、というのは穏健派のアジトに訪れてホームに戻った晩のこと。マイケルは私に仲間ができたお祝いだと言って松茸のフルコースを振る舞った。私が見たことのない料理が床にずらりと並んだ様は今でも忘れられない。思い出しただけでもよだれが……。
『ぐぅぅ』
「う……お腹すいた……」
だがやはり少し取っておくべきだったか。腹一杯に美味しい物を食えたのは久しぶりだったから舞い上がってしまった。今度からは少しずつ頂こう。
「革命派を抜けたはいいが、このままでは空腹で野垂れ死ぬな……」
「なんかあんたは大丈夫そうね」
筋肉があるから一日の消費エネルギーが私より凄そうなのに。
「おう、光合成してるからな」
「あんたいつの間に植物になったのよ」
「うっ……そろそろお腹が。N、P、Kください……」
えぬ、ぴー、けー? 美味しいのかしらそれ……。
「このままではいけない……そうだ、羊を育てよう」
「羊……?」
「そんなわけで……ここに子羊を用意した」
『メェェ』
羊って、あのもこもこした『メェェ』って鳴く動物のことか。そんなのこの国にいるわけないだろ……いたとしても環境悪くてすぐ死ぬし、何より育てる知識ないだろ。
『メェェ』
幻聴かな、可愛らしい鳴き声が耳元をくすぐる。くすぐるくすぐる……。
ぺろぺろ。
「きゃッ!?」
くすぐっていたのは声ではなく子羊の舌だった。私の初耳舐めは子羊に奪われたのね…………いや別にそれはいい。そしてちょっと待て、よく見たら羊じゃない。
「子牛……?」
『メェェェェエエ』
そこにいたのは黒に近い茶色の子牛がいた。本で見たのは白黒だったが、こういう品種もいるんだろうか。マイケルはうーむと悩む仕草を見せた。
「間違えた、牛だった」
「間違えにも程があるでしょッ! ……というか、子牛も『メェェ』って鳴くのね」
私はすっと立ち上がって子牛を観察する。私の腰より低い背丈の目がくりくりな子牛は、ミルク欲しさに私の手をちゅーちゅーと吸ってきた。
『トゥンク……!!』
「む、何だ今の音は?」
何、今の胸のときめき。もしかして、これが……母性?
そうだ何を呆けている。この子はこの世に産まれたばかりの儚い子。マイケルにいたずらに連れられ、親と引き離された悲しみは……ごめん、私には分からないけれど。確かに私はあなたの母親ではない。そもそも種族が違うし。けれどあなたの親代わりになって、きっと立派に育ててみせるわ。
……子牛ってどう育てればいいのかしら。草とかその辺のでもいいのか、まぁないけど。いや、そんなことより先に決めることがある。
「名前はメェ子にしましょう」
可愛くてチャーミングで親しみ易くて覚えやすい、良い名前だ。
「それを十ヶ月育てたのがこいつだッ」
マイケルがそう言うとさっきまで腰ほどの大きさだった子牛が、ポンって音とともに煙の中に消え――。
「モォォォ」
頭は私の胸元あたり、体毛は黒く、図体はマイケル一個分くらいに腹が張った牛がいた。でっか、あと顔ちょっとブサイク……? いや、そんなことより────。
「あんたッ! メェ子になんてことしたのよッ、返してよッ!!」
私のメェ子がいない! あんなに可愛かったメェ子はどこに行ったの。メェ子はこんなブスとは違って可愛くて、甘えたがりで、まだ私が付いてなきゃ駄目なんだから……!
「これがメェ子だぞ」
べろべろ。
「ああ、かわいい。間違いなくメェ子だわ。ああ、ちょっと力が強くなってる」
私はわかっていた、あなたがメェ子だってこと。だって顔の形が特徴的ですもの、お目々もまん丸。ちょっと昔と比べて可愛げがなくなったけど、それも愛嬌。あなたは私の子よ。
「それを二十ヶ月ほど育てたのがこいつだッ!!」
再びメェ子はポンって音とともに煙に消えた。このいちいち出てくる煙は動物の成長を加速させる魔法なのだろう……なにそれ革新的だな。
さっきは十ヶ月であの変化だった。あれから二十ヶ月たったら、一体どうなっちゃうの?
ブモォォオオ
頭の位置は私の目線と同じくらいで、図体は太く長く肥大化していた。腹回りとかマイケル二個分くらいか。それにしたって……!
「ブスッ!? メェ子がブサイクに!?」
なんでこんなにブサイクになっちゃったの!? でも私はあなたを育て親、どんなに醜くなったって決して見放したりしないから。でも女の子としては……失格ね☆
「こいつオスだぞ」
「メェ太!? あんたうちの子じゃないわッ!!」
私は思わず強烈なビンタをオス牛にかました。だが、オス牛は気にも止めない様子で私をつぶらな瞳で見つめると、顔を近づけてくる。
べろんッべろんッ。
「ああ、かわいい。間違いないうちの子だわ。オスならブスでも問題ないわね!!
「テレジー、それは問題発言だぞ」
「ああ、でもちょっと力が…………がッ!?」
私はメェ太に頭突きされ、壁まで吹っ飛んだ。私を吹き飛ばすなんて……強くなったのね、メェ太。嬉しくもあるのになぜか悲しい気持ちもある……これが親心なのかしら。
「それを精肉したものがこいつだ……」
ポンっという音とともにメェ太は煙に包まれた。
「え……嘘でしょ、マイケル待ってッ!!」
気付いたときにはすでに遅い。煙はすっかり晴れ、そこには絶妙な霜のような油が乗った見るからに極上なお肉が姿を表した。でも、私にはそんな事をどうでも良かった。
「ああぁぁぁぁあああああああッッッッ!!!! メェ太ぁぁあああああ!!!!」
眼の前で起きた惨劇に、声を上げることしか私にはできなかった。思えば私はこれまで一体メェ太に、何をしてあげられたというのだろうか。物欲しそうに私を舐めてくるメェ太、頭突きをかましてきたメェ太。あのメェ太はもういない……。
「この……ゲス外道がぁぁあああああ!!!!」
私のメェ太をこんな姿にしたやつを、生かしておけないッ。マイケル、お前だけはッ!!
「ほれ、焼いたぞ食ってみろ」
「美味しぃぃぃいいいいい!!!!」
なにこれ美味い、美味すぎる!! 今まで食べてきたものの中で一番美味い!! メェ太? 何それこのお肉より美味しいの?
でもなんでだろう……このお肉を食べてると、涙が溢れてやまないのは。
「涙……拭けよ」
そう言ってマイケルはハンカチを差し出す。女の泣き顔は見ないと言うように、顔だけはそっぽを向いて。
「いえ、結構よ。この涙はきっと、私を強くするの」
涙の数だけ、人は成長する。程よく焼かれたお肉を口に運びながらも私は、この世の摂理に感謝した。
全国の肥育肉牛農家さん、ありがとう。
「――違うッ!!!!」
「む、どうした?」
いや、なんでだよッ。あの牛どこから持ってきたッ!? 途中の意味わからん茶番劇は何ッ!?私は何故騙されていたッ!?馬鹿かッ!!
――奇跡的に、私は思考を取り戻した。