死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが 作:ストロング西岡
よく肥えた雄牛の肉は、流石に空腹だったとはいえ一度に食べ切れる量ではなかった。そのため、松茸の惨劇を反省し残った肉は燻製にすることとなった。燻製器は簡単に作れたため、燻製に必要な木片をマイケルに集めてきてもらった。今私は絶賛燻製中だ。
「知ってるか? 雄牛は肉質向上のため去勢されるんだ」
「じゃあこの子も切られたのね……可愛そうに」
代わりにこの国の男どもが切られればいいのに。肉にもならんクソどもが、くたばれ。
……そういう訳で、しばらくは食糧に困ることはなさそうだ。食糧問題をこうも簡単に解決しちゃうと、他の人間に恨まれそうだな。ま、既に恨まれてますけどね。ははっ。『ははっ』ちゃうわ笑っとる場合か。
そういえば焼肉したときガリッパ居なかったな。なんとかバレないようにしないといけないな。ごめんよ、でも美味しかったから私の感想文で許して欲しい。100文字以内のやつで。
煙に包まれた芳醇な肉の香りが漂う。心地よい空気に包まれながら、私は久方ぶりの安堵感を覚えていた。
「…………」
ふと私はこれまでのマイケルの事が頭をよぎる。マイケルには幾度となく助けられてきたが、そんなときいつも不思議な現象がつきものだった。……今はガリッパ居ないせっかくの機会だ。気になることを詰めていこう。
「マイケル。貴方のその不思議な力って何なの」
「不思議な力? 松茸を見つける能力のことか」
「違うわ」
それも不思議だけど。ほんとどっから見つけたんだって問い質したくなるけど。
「なら俺の唯一の特技、正座しても足が痺れない能力のことか」
「違うわッ。もっと自信を持て」
確かにに凄いけど。でもあんたもっと凄いとこあるじゃん、そこを誇ってけよ。
「じゃあ、空気を読めない能力のことか」
「違うわッ! 自分の不出来を能力のせいにすんなッ!! 『パワーッ』で熊型魔獣の柱吹き飛ばしたとか、ぴぴる○るぴるぴ○るぴ~とか、シュ○ちゃん銅像とか牛を急成長させるとか、そういうやつッ!」
「なに変なこと言ってんだ、テレジー」
「お前にッ! 言われたくッ!! ないッ!!!」
あぁ、イライラするッ。なんなのこいつ!?
……落ち着け、私。ため息一つ挟み、メンタルをコントロール。一先ず話題を逸らそう。
「……本当。貴方と出会ってから、毎日が忙しいわ」
「それはテレジーにとって、嫌なことだったか?」
逡巡する記憶たち。そのどれもが騒がしく、慌ただしい場面ばかり。けれど、私はそれらに嫌だと感じることはなかった。あの時、マイケルに出会ったから私は今の自分を見返すことができたし、今の生活を好きになれてきているのだと思う。
首を振って、マイケルの言葉を否定する。すると彼は嬉しそうに腕を組み、うんうんと大きく頷いた。
「なら良かった。君の笑顔が増えて何よりだ」
「笑顔……そんなに笑ってる場面、あったかしら」
「今も、笑ってるじゃないか」
口に手で触れる。マイケルに指摘されて初めて、自分の口元が緩く曲線を描いていることに気付く。そうか、私は……。
ズシ、と胸の中央が軋むような痛み。その痛みに思わず顔を顰めてしまう。……この思考は駄目だ。今はまだ……これ以上余計なことは考えるな。
「もう一度聞くけど、貴方のその不思議な力ってなに?」
「……それがよく分からんのだ」
「分からない?」
「気づけば自分の中にあって、自然と扱えるようになっていたのだ。……テレジーなら何か知らないか?」
「うーん……」
マイケルも分からないとなれば、さすがに私にはお手上げだ。幾つか推論を立てる事はできるが、それだけだ。決定打になり得ない。
1つはマイケルが所有する魔力の特性。魔力とは簡単に言えば万物に宿るエネルギー。すべての物体は元を正せば魔力で構成されている。そのため魔力には『何物にも変化する』という普遍的な正の特性がある。
魔力とはそれを持つ存在によって姿形を大きく変える。マイケルの魔力が、魔力の特性そのものを色濃く写しているというのなら。ある1つの可能性が考えられる……訳だが。
「う、うぅううん……?」
「違う。そんなに腕に力を入れても魔力は流れない。体の中の管から水を通すイメージで」
「ふん! ……とりゃッ!! せいやッ!!」
「だめだこりゃ」
マイケルに魔力の扱い方を教えてみるも、全く魔力が動く気配がしない。魔法師でない一般人であることを加味しても、ここまで魔力が感知できない事があるのかは知らないが、とにかくマイケルには魔力がないこと判明した為仮説の1つは潰えたことになる。
「2つ目は……貴方の異能かも知れないわね」
「ほう、異能とな。それは一体どんなのがあるんだッ!?」
「ごめんなさい、私も詳しくないの」
「えぇ……」
「私の魔法師の師匠、ローレンス先生から聞いたことがあるくらいで……」
ローレンス先生は、アスキアが健在だった頃遠国から招かれた魔術師の一人。アスキア内でとある研究をしていた所灰の嵐によって閉じ込められたという。だが彼は誰よりも先に灰の嵐を調査し解決方法を発見。アスキア城に魔力を持つものを集め、大量の魔力を持つ魔法師を誕生させることで灰の嵐を消し去るという方法を提案したのがローレンス先生だ。
「異能とは、6つある属性の2つのいずれかを持つものを指すの」
「6つ……の内の2つのどっちか?」
魔力の特性を使えば理論上はすべての事象を再現出来るとされているが、実際にそれを成した者はいない。基本属性の火、水、地、風。これらを組み合わせて扱うことで魔法を発言させている。
「基本属性に対して特異属性。聖属性と闇属性の2つが該当するわ。……だけど、これらは自然界で扱えるものは居ない」
「むぅ……なら一体誰なら使えるんだ?」
「生物に対して生命体と言われる……まあ、人外ね。竜とか天使とか悪魔とか」
「ほぅ! ドラゴン、それに天使と悪魔か!! 見てみたいものだな!!」
「無理よ。竜はもう片手で数えるくらいしか居ないし、天使は絶滅、悪魔は絶賛引き篭もり中だから」
「えぇ……」
確か、遠い昔。竜同士が殺し合って……世界を取り合ったみたいな話だったと思うが、あまり記憶が定かではない。真面目に勉強しておけば良かった。
天使は……悪魔と竜が協力して滅ぼしたとか。悪魔はやることが無くなって姿を消したとかなんとか。やばい何も覚えてない。
「特異属性は特異属性を持つものにしか感知が出来ない。だから、マイケルが特異属性を持っていたとしても、私には分からないの」
「ふむ……特異属性について、分かっていることは何かあるのか?」
「お察しの通り何も無いわ。だからこそ、選ばれた者のみが扱える人知を超えた『異能』とローレンス先生は呼んだの。そして先生が研究していたものがそれよ。……流石に内容は教えてくれなかったけど」
「なるほどな……」
一通りの説明を終え、一息ついてから燻製作業に戻る。こんなに昔のことを思い出しながら、魔法について喋ったのは随分と久しぶりだ。満足感で胸がいっぱいだ。……あの頃は毎日のようにこうして語っていた。私に付いてこられる人、あんまりいなかったからなあ。
「思えば、随分と熱心に聞いていたものね。いつ茶化してくるんだと構えていたのが馬鹿みたいじゃない」
「あぁ、すまない。そういう気分じゃなかったから」
「あ……なんかごめんなさい。真剣に考えていたのね」
「お肉、めっちゃいい匂いだなぁって……」
「知識欲じゃなくて食欲の方の気分だったのね!? ややこしいわッ!」
さっきのはあくまでも私の仮説。1つ目はいずれにしろ無いだろうが、かと言って2つ目を証明する証拠も無い。結局何も得ていないのだ。あの不思議な力について、もっと考察をするため情報を得ていく必要がある
それはそれとして。『あの不思議な力』、じゃあ言いにくい。一体どれを指してるのかも分からない。だから分かりやすく覚えやすい名前を付けよう。
「取り敢えず、『あの不思議な力』は今度から『陽気パワー』と呼ぶことにしましょう」
「……びっくりするほど明るい名前つけたな」
「あなたに似合ってるわ」
「う、うーむ。素直に喜んでいいのかどうか……」
ふむふむ……どうやら気に入ってくれたようだ。やはり私が付ける可愛くてチャーミングで親しみやすくて覚えやすい名前は最高だ。誰だよ私のネーミングセンスが悪いって言ったやつ。出てこいよ。
ガチャッ、と上の部屋から地下室への扉が開けられた音がする。気配から察するにガリッパだろう。ガリッパは階段を下り終え、地下室に入室する。
「うぃーっす、おつかれーっす」
「何そのノリ気持ち悪いわね」
「え、そうっすか……ん……あれ、なんかいい匂いしますね?」
「おう、肉を焼いていたからなッ!!」
「あ、ちょっ、それ言わないほうが──」
「はぁっ!? 肉ぅぅ!?!? あの伝説の!?」
「伝説……竜の肉じゃないぞ?」
「当たり前だろ。話聞いてたか」
「ど、どこにあるんすか、肉!!」
「あー、ごめん。全部食べちゃった。燻製ならあるわよ」
今しがた燻製し終えた肉をガリッパに手渡すと、まるで獣のように肉に齧り付きあっという間に食べ終えてしまった。凄いな、食いっぷりが。
「うめぇ……うますぎて、馬になっちゃう……」
「なんと! 俺、乗馬は得意だぞッ!!」
「どうでもいいわそんなの」
「こんなの初めて食ったっす……どこで取ってきたんすか?」
「あー、なんかマイケルが陽気パワーでひょこっと……ね」
「なんすかその絶妙にダセぇ名前のパワー……それはいいとして。おいマイケル。もっと出してくれよ」
「うーむ、すまぬ。あまり力が残っていないようでな。また今度」
「そんなぁ!!」
膝から崩れ落ちたガリッパから哀愁が漂ってくる。まあ確かに腹減っていたとはいえ、ちょっと悪いことしたな……いやそうでもない。あいつは革命派で飯食えてんだから、別にいいだろ。
「妹にも、食わしてやりたかったな……」
「……あの城に行けば、食べられるわよ」
「え、マジっすか! この貴族のクソッタレども!! 絶対に許さねぇ!!」
「うむ、そうだな! 穏健派の皆と協力して、腹いっぱい肉を食おう!!」
おー! ……と意気込む2人。本来の目的とは大分ズレた気が……いや元々そんなの無いか。それは私だけの目的で、彼らが見出した目的がモチベーションに繋がるのなら。それは良いことだろう。達成のために、私も成すべきことをしよう。関わった以上は、それが責任というやつだ。
『責任』か。燻製したものを1つ1つ保管庫に納めながら、改めて考える。今まではすべて私が独りで生きてきて、私一人が責任を負えるだけだった。何があっても自己責任。他の人間には一切関係がない、私だけに降りかかる責任。それが今は組織として属すことで、私の行動が私だけの責任にならなくなった。より一層慎重な行動が求められる。
以前までの私であれば、考えられなかった。元々人間関係のいざこざに苦手意識があった私は、複数人数で行動することをしてこなかった。そして2年間の経験で、より加速した人間嫌いは私の心情を捻くらせるには十分だった。
これが良い変化だと、今は願うばかりだ。そして、そうあれるように私は……まずは目の前の彼らのために頑張るとしよう。
「『絶妙にダセぇ名前のパワー』ってどういうこと?」
「む、それを聞くのか……今」
それはそれこれはこれ。さっきは気になることをサラッと流してしまった。これではいけない。ガリッパに問いだ出さねば。
「え? 自覚ないんすか。なんかすんません」
「何故謝る……ダサくないわよ」
「いや、ダサいっす」
「はっ、名前を付けたことのないボンクラには、私のネーミングセンスの良さが分からないのよ」
「凄い言われようですね……だとしても『陽気パワー』はダサいっす、安直っす」
「なら、あんたはなんて名前つけんのよ!」
「『サイコキネシス』とかでいいんじゃないですか?」
「おお、それっぽいな。ヒールキャラみたいな」
「ダサダサじゃない。可愛くもなければチャーミングでもなく、親しみやすさもなければ覚えやすくもない。クソそのものよ。『陽気パワー』が可哀想」
「そこまで言わなくても良くないっすか……まぁ、もう『陽気パワー』でいいっすよ」
よしっ、論破ッ!! 認めさせたら私の勝ちッ!!
──なにしょーもないことやってんの、私。