死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが   作:ストロング西岡

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第十八話 砂上の闘い

 

 アスキア帝国城下町──貧民街。北の城門を抜け栽培区画に出る。そこからさらに東に足を進めて気候変動を司る魔術結界を抜け、程なくして広大な砂漠にたどり着いた。

 

 ……あとここから半日ほど歩いたところには灰の嵐がある。なんと世界は狭いこと。半日と少しの時間があれば最果てに着いてしまうなんて。

 

 砂漠の風によって巻き上がった砂塵が体に当たる。目に砂が入らないよう目元を手で覆いながら、足場の悪い砂上を進む。

 

 貧民街にいる場合、僅かに舞い散る灰を吸い込んでも身体的な影響を受けることは稀だ。逆に言えばそうでない郊外では違う。灰の嵐に近づけばそれだけ空気中に存在する灰の割合が多くなる。そのため貧民街から外へ出るときは、必ず灰の吸入を防ぐマスクが必要だ。栽培区画に働きに出る時は着用が必須とされている。……まあ数が足りなくて全員が着けてるわけでは無いのだが。

 

 今日の私の装備は、先程触れた『そこらへんで拾った』防塵マスクに、予備の黒コートを着用。武器は護身用の短剣と閃光炸裂弾が5個。それと、長らく使う機会がなかった対多人数戦用の長槍だ。

 

「このあたりのはずだが……」

 

 目的地だろう場所にたどり着いた私は、あたりを見渡しある事件の痕跡を探す。しかしこんな風が吹き砂塵が飛び交う広大な砂漠で、そんなの見つかるわけ無いかと気づくのには時間が掛からなかった。

 

『うわっ…………』

 

『そ、そんな顔……しないで、なんて言えた身分じゃ無いけど……その……』

 

『……要件を』

 

 先日、ラルクの仲間の一人である金髪チャラ男のシドが私のアジトに訪れた。要件はラルクの代理で魔獣討伐依頼の申し出であった。

 

『なるほどね、全部理解したぞッ!! つまり、どういうこと!?』

 

『……本当は会議に参加してもらう予定だったんだけど。急遽の案件でテレジーさんにしか頼れないってことで──』

 

『──ん? 俺は? 俺は頼りないってことッ!?』

 

『ちょっと黙ってて』

 

 事件は今から2日前に遡り、被害が出たのはここ北の栽培区。作業に従事していた内、約半数が魔獣に殺されたらしい。……ざまぁみろ、とは言わないでおく。言ったら最期、私もここで死にかねん。

 

 通常であれば貴族が造った、貧民を護衛するための作られたゴーレムが機能するはず。生き残った貧民によればゴーレムは魔獣の速さに翻弄され、またたく間もなく破壊されたという。ならいったいなんの為に造られたのだろうか。

 

『俺も行こうッ!!』

 

『だから、鎧着てるあんたじゃ砂に足取られて動けないでしょ。邪魔』

 

『ぬぉぉおおん!! 脱げばいいんでしょッ!?』

 

『脱いだらオメェはただのマッチョだろ』

 

『そうね……はっ、魅力の所為で魔獣を惹きつけてしまうかも……?』

 

『戦闘じゃあ役に立たないだろってことです』

 

 まぁ、そういった理由で彼は連れて来なかった。しかも目撃情報によれば狼型の魔獣だそうで、足場も悪けりゃ相手は早い。マイケルには不向きな戦いになるだろう。マイケルには私の代わりに今後の方針を改めて計画する会議に出てもらっている。あいつが暴走しないか心配だ。一応ガリッパを付けているから会議の内容が私の耳に入るように手配をした。あいつ人の話聞かないしな……会議中ずっと寝てそう。

 

 周囲をいくら見回しても魔獣の姿どころか痕跡が見当たらない。やはりこんな砂漠では捜索は絶望的か。もし逃げ延びた人間が居れば保護してくれ、とも言われていたが。もし残念ながら生き延びていやがった場合、守りながら帰ってくるの面倒くさいな。どうせ碌な事言われないし、何されるか分かんないのに。そんな相手を助けたって何の得が──。

 

 ──突如、足元から濃密な殺気を感じ咄嗟に飛び退く。視界の端にオオカミの輪郭が浮かび上がる。……まさか砂中に潜んでいるとは狡猾な連中だ、案外知性があるらしい。

 

 バサッと大量の砂が舞い散り、視界が悪くなる。複数の気配を感じる。……どうやら襲ってきたのは一匹だけではなかったらしい。敵の襲撃を抑制するため、私は右手を中心に魔力を練って周囲の空間に衝撃波を発生させた。

 

 スパンッ、という音とともに視界を狭めていた砂と数匹の灰色の狼型魔獣が飛んでいった。やはりまだ潜んでいたか。

 

『2年前から魔獣による襲撃が発生した。現れる度魔獣の凶暴さが増して被害者もどんどん増えてる。何があるか分からないから、気をつけてね』

 

 シドは報告の最後にそう付け加えた。私は今まで魔獣に会ったことはなかったが、シドの言葉は私が遭遇した熊型の魔獣が如実に証明している。奴は規格外の強さだった。……相応の準備をすれば何とかはなるだろうが、幾ばくかの犠牲を容認しなければならない。とはいえそんな強敵がゴロゴロ居るならば、この国はとっくに終わっている。油断は禁物だが、過大評価をし過ぎると却って動きが鈍くなる。何事も適度だ。

 

 狼は確認できるだけで11匹。その内1匹は他の個体と違って体が大きく目立つ。群れのボスといったところだろうか。

 

 緩慢なく槍を斜めに構えて、狼どもの位置を確認していく。前4匹、右、左、2匹ずつと後に3匹か。狼どもは位置を気取られないようにか私の周囲を旋回している。

 

 ……さっきは余計な思考を挟んだせいで危ない目にあった。最近嫌なことばかり考えてしまう。こんな調子ではいつか死ぬ。ため息1つ挟んで、心を落ち着かせる。迷うな、少なくとも今は。眼の前の敵に集中しろ。奴らが私の命を狙うように、私もお前たちを狙う。殺すんだ。

 

 何秒か或いは何分か。全方位から締め付けるような殺意は無限に思える圧空間を作り、その大きな歪が時間を何倍にも引き伸ばした。

 

 複数を相手にするときの基本。それは先手必勝。早めに数を減らして数的条件を同じにすること。理由は群れているものは、数的有利を取れている間は無類の強さを誇るが、単体になってしまえば雑魚も同然だからだ。……まぁ、持論なのだが。

 

 瞬時に身体強化を行って後にいる狼に急接近。その頭に狙いをつけ、槍で刺突する。狼は想定以上の加速に反応出来ていない。突き出された槍は頭を貫き背中から穂先が覗いた。

 

『キャンッ!?』

 

 狼の絶命を確認して槍を抜くのも束の間、右隣にいた狼によるタックルをその場でターンをして回避し、石突で脛骨を砕く。左にいた狼は危険と察知したのかバックステップを踏んだ。その隙を見逃さず、体勢を下げて槍を地面と平行に構えたまま全力で地面を蹴り上げ急襲する。ズドンッという大きな感触が右手に伝播した。穂先は狼の心臓を貫き、動かぬ死体となった。

 

 残り8匹。このまま殺しきる。左手で閃光炸裂弾を作動させながら近くにいた狼に肉薄する。槍をチラつかせて回避を強要させ、空中にいる狼を体全身を使った回転斬りをお見舞する。

 

 そろそろ作動する時間だ。私は閃光炸裂弾を一際大きい個体に投げつけた。

 

 投げた直後、ボス狼の近くにいた狼がタックルで閃光炸裂弾を弾き飛ばした。その間にボス狼は後ろに飛び抜き────閃光炸裂弾は眩い光を放った後1匹巻き込んで大きな爆発を起こし、爆風が砂塵と共に他の個体にも襲いかかる。

 

 しかし狙い通りとは行かなかったらしい。私は後ろから魔力体が急速に飛来するのを感知し、右に大きくステップを踏んで回避行動をとる。どうやらあれでは仕留めきれなかったようだ。だがまだ視界が悪くて目が開けられず目視による確認を取れない。恐らく狼による攻撃だったのだろうが、それにしては妙だ。少し気になることがある。

 

 今度は前と後ろから魔力体が飛んでくる。頭の中で打ち立てた仮説を立証するため閃光炸裂弾を作動させる。それをその場に置き去って瞬歩の要領で高速離脱すると、爆弾目掛け火炎弾を発射する。

 

 2度目の閃光炸裂弾が起動する。体全身を打ち付ける爆風を利用し、背中で受けて爆心地から距離を取る。急に吹き付けた風によって砂塵がかき消えると、爆心地は砂面が抉れ大きなクレーターが出来ていた。

 

 先程まで感じていた魔力体は消失。であれば仮説通りあれは魔法による攻撃ではなく、狼による突進攻撃であることがわかった。

 

 魔力の感知は魔法師にとって切り離せない存在だ。そもそも魔力を扱うというのに知覚出来なければ話にもならない。魔力感知にはその魔法師の魔力適性が大きく関与する。魔力適性が高いとされる人物ほどより高度に魔力を知覚でき、且つ魔力操作技術が優れているという。

 

 とはいえ感覚の話であり個人差があるから、他と比較することに意味はないだろう。ちなみに私は感知能力が高くはない。並以下程度だと昔の経験から察している。

 

 先の狼は恐らく潰れた目の代わりに魔力探知を作動させ、私を襲ってきたのだろう。機転は効いていたが愚かだ。隠密魔法を使うなら、そこにさらに感知されにくくするための隠蔽工作を張るのは常識だ。隠蔽の痕跡は見られたが、あらが目立つ。あれでは砂上にできた血染みを見つけるようなものだ。見つけるのは容易い。

 

 狼の残存数を確認するとボス狼を除いて3匹。思わぬ強敵の出現に狼たちは足が竦んでいる様子だ。まるで熊型の魔獣と戦っていたときの私のようだ。……自虐が過ぎるな。

 

 右足で地面を強く蹴り、砂上を駆け抜ける。前進してきた私に釣られ2体の狼が接近してくる。2体はそれぞれ交差するようにステップを踏んで、こちらの混乱を誘ってきた。私は右足で急制動をかけ左にいる個体へ突進を仕掛ける。読み通り二手に別れた狼はそれぞれ左手、右足を狙って噛み付いてきた。

 

 ただの突進から回転率のある噛みつき攻撃に切り替えてきた。やはりただの獣ではない。私は槍を地面に突き刺してハイジャンプで攻撃を避けつつ2匹を追い抜かす。

 

 着地し、2匹の影に潜んでいたもう1体による突進を蹴り飛ばしていなす。強化された足撃は狼を遥か遠くへ吹き飛ばす。懐から閃光炸裂弾を出して動けないでいる狼に投げつけ──爆発。

 

 仲間の死も厭わず背後から攻撃を出して仕掛けてきた魔獣に、石突による刺突を顎に命中させ体が宙に舞う。浮いた狼の首元に全身を使って槍を振り抜き、胴と頭が永遠にお別れする。

 

 血潮が空中に舞う。その中からもう1体の狼が大口を開け急襲してくる。読み通りだ。私は石突と穂先の腹で2連続殴打を当てて脳震盪を起こさせる。間隙なく槍を構えがら空きの腹目掛け槍を突き刺す。絶命を確認。これで視界に映る魔獣は全て殺した。

 

「お前が最後だ」

 

 私は残ったボス狼を睨みつけて牽制しながら、砂中に勢いよく槍を突き刺す。確かな手応えとともに引き抜くと、穂先には血混じりの砂がついていた。地中にいる狼には途中から気づいていた。残念奇襲は失敗だ。

 

『…………』

 

 残り1匹となったボス狼は先程から変わらない様子で、堂々たる様出で立ちで佇んでいる。下僕がいなくなったというのに余裕なもんだ。

 

 ボス狼が身に纏う魔力から察するに、こいつは強い。私1人で殺しきれるか不安が残る。特技の節約魔法をメインに戦闘していたから魔力には余裕がある。怪我もない。閃光炸裂弾は残り2つだが、問題はないだろう。切り札も場合によっては使うよう念頭に置いておく。

 

 しばらくボス狼と睨み合っていると、ボス狼は魔力を練って魔法の展開を始めた。

 

「…………」

 

 魔法に関する知識があれば発動過程から魔法を特定するのは容易い。ボス狼は今転移魔法を使った。昔見た魔法書に書いてある特徴と一致する。しかし、書かれていたものとは細部が違った。確か、この特徴は熊型魔獣が使用した魔法にも共通する。こいつらは一体何なんだ。

 

 だがこうして転移の魔法を見るのは初めてだ。ボス狼の手足の先から徐々に細々としていき、灰のような粒状になって消えていった。

 

「灰……」

 

 熊型、狼型の魔獣。優れた知性に特徴的な魔法の展開式、灰のように消える転移魔法。

 

 2年前から増えた灰の病感染者と突如現れた魔獣。そして2年前と言えば私がここに貧民街に来た年だが…………最後のを除けばあまりにも出来すぎている。何かがおかしい。

 

 2年前、私がまだ無垢だった頃。1回だけ北の栽培区で作業をしたとき、こんなにも灰の嵐は『近かった』だろうか。

 

「灰の嵐が、狭まっているのか?」

 

 これ以上の考察は無意味かもしれない。取り敢えず街に戻って今日のことを報告せねばなるまい。逸る気持ちを抑えつつ、しかし頭によぎる嫌な予感が胸中に渦巻いていて、ずっと無くなることはなかった。

 

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