死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが   作:ストロング西岡

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第十九話 憂愁燃ゆ

 

「──以上だ」

 

「そんなことが……分かった、ありがとう」

 

「礼を言う必要はない」

 

「いや、言うさ。仲間だろ? テレジー」

 

「……勝手にしてくれ」

 

 戦闘後、私は穏健派レジスタンスのアジトまで戻ってラルクに依頼完了の報告をしていた。それと灰の嵐についての考察も一緒に報告した。まだ不明な点ばかりで明かすには早い気もするが言わないよりマシだろう。私より情報を持つものが答えを見つけるかもしれない。

 

 アジト内の会議室は調度品がいくつか置かれた小綺麗な印象を受ける大部屋だ。きっと綺麗好きな誰かがこまめに掃除を行っているのだろう、整理整頓が行き届いている。部屋の中央に大きな木製の長方形テーブルが置かれ、入り口より遠いところからラルク、リンウェル、ガリッパ、マイケルと並び反対側にガイ、シド、エレノア、オーフィアと座っている。

 

 ガリッパに会議の内容を紙に纏めさせていたため、この会議が時間と比較し進展していないのは既に分かっている。頭を抱えた様子のガリッパはこう言っていた。

 

『大きな声で言えないっすけどあれっすね、リーダーが悪いっす』

 

 ガリッパの横で爆睡しているマイケルをチラ見し、なるほどなーと他人事と思えない事態に私も頭を抱えた。……とはいえ、ラルクのリーダーシップの無さには飽きれるものだ。

 

 ラルクは犠牲を出さないため危険を排した作戦を立てる。リンウェルはどこか思案した様子を見せながらも基本的にはラルクを支持する。しかしそれをガイに否定され『貴族許すまじ』と怒鳴り散らすガイをシドが宥め、エレノアはつまらなさそうにあくびをする。オーフィアは何も言わず、自慢の黒髪を弄っては寝る。これが私が命がけで戦っていたときの出来事らしい。

 

 お前らやる気あんのかよ。あとガイ、お前は何故穏健派にいる。もう革命派に移籍しろよ。

 

 そんなこんなで報告を聞き終えた私は、空いていたオーフィアの横に座る。マイケルの隣が自然だろうが、あいつがデカくて机のスペースが空いていなかった。しょうが無いとはいえ、なんか嫌だなあ知らない人の隣に座るの。……と、それはちょっと失礼か。

 

 机に突っ伏して寝ているオーフィアを起こさぬよう、慎重に椅子を引いて音を立てずに座る。その最中、会議の途中で参加してきた私に、やけに怪訝そうな視線を送る他6名の面々に気が付く。私が嫌いなのは分かっているが、遅れて来たことに対して少しは大目に見てほしいものだ。依頼があったのだから仕方がないだろう。

 

「テレジーさん、怪我は無いの? 血で酷く汚れているけど」

 

「心配は無用だ。怪我などしていない」

 

「はっ、そんな状態で会議に出るつもりかって聞いてるのよ。少しは綺麗にしてきたら? 汚くて見てらんないわよ」

 

 エレノアは呆れるようにそう言って私の身なりを指摘してきた。最初に聞いてきたシドも頬をかいてあはは、と笑っている。まぁ、たしかに綺麗ではないが街行く人は皆こんなもんだろう。

 

「私は気にしてないが」

 

「はっ、これだから糞女は。会議室を汚すんじゃねぇよ。誰が掃除すると思ってるんだ!」

 

 ……え、まさかお前なの。私は思わず口元に手を当ててしまう。ガサツそうな言動と見た目なのに綺麗好きかよ。……と、それもちょっと失礼か。まぁいいか、私も失礼されてるし。

 

「ふふふ、ガイまた驚かれてるわね」

 

「ちっ」

 

 不服そうなガイをエレノアは誂うように笑う。その様子を見ているとこのくだりはいつもの事らしい。

 

「テレジーって面白いわね」

 

 リンウェルは机の上にちょこんと手をついて嘲笑っていた。きっとその『面白い』はそのままの意味ではないだろう。嫌な女だ。

 

「湯浴み室に案内するよ」

 

 ラルクはそう言って立ち上がると私の席に近づいた。その瞬間リンウェルの目がすっと細くなり、睨み付けるような視線に変わる。

 

「いや、それは他の人に……」

 

「ん……湯浴み……室……?」

 

「あらオーフィア。起きたの」

 

「……わたしが連れてく!」

 

 私の隣りで寝ていたはずのオーフィアが突如大声を上げながら勢いよく立ち上がると、私の手を取って勢いとは裏腹にやんわり手を引いて会議室の外へ連行される。

 

 おい、こいつ絶対起きてたろ。いま起きましたって反応と行動じゃないが。というか何でこんなにやる気に満ち溢れてるの? ちょっと怖いんだけど。

 

「オ、オーフィアが?」

 

「……わたしが適任。野郎は……げっとあうとおぶひあー」

 

 何故か狼狽えた様子のラルクを、あまり背の高くないオーフィアが見下ろしながら親指を廊下の方へ指した。無駄に堂の入った様だな。

 

「そうそう、オーフィアちゃんに任せとけって。テレジーさんが気になるからって、あんまりしつこいと嫌われるぜ?」

 

「い、いやそんなのじゃ──いッ!?」

 

「ふふ、ラルクったら…………『ドジ』、なんだから」

 

 シドは誂うように言うと、ラルクは動揺してしどろもどろに言い返すも、飛び出てきた椅子に勢いよく足をぶつけ、激痛にその場に蹲る。……私はちゃんと見てたぞ。リンウェルが足で椅子を蹴ったところを。

 

「ふふふ……じ、えんど……ってね」

 

「いいから早く連れて行きなさい」

 

 ……別に誰に連れられようが構わないが、お前らはその活力を会議のために使えと言いたい。あとラルク、お前は隣の女を制御しろ。

 

「安心して……優しくするから」

 

「何を……?」

 

 握られた手をにぎにぎと動かすオーフィア。やっぱ嫌だな……この隣の人。

 

 ☆ ☆ ☆

 

「ここ」

 

「ああ」

 

 道中特に話すこともなく沈黙を保ったまま長い廊下を曲がったりして、湯浴み室とやらについた。室内は脱衣所と浴場を仕切る布が天井から張られ、湿気を逃すためか小窓がいくつか設けられている。今は板で塞がれているが。

 

 仕切りを手で除けてくぐると、中央には水が入った大きな鉄の桶が置いてあった。水源は貴重でもないが、こういった身綺麗にできるような施設と、それを使う習慣は今のこの国では少し薄れた。理由は、水を暖めるための燃料が手に入り辛くなったからだ。だから、こんな贅沢品を独占しているのかは分からないが、随分と裕福な生活をしているらしい。

 

 ……まあ、私が言えた身分ではない。元貴族街に居た私にとっては、湯浴み室は当たり前のものだった。こんなこと口が裂けても言えないな。

 

「ここで脱いで」

 

「ああ」

 

 脱衣所を指さされ頷いて了解と伝える。するとオーフィアも頷き返してきた。身に纏う外套に手をかけ脱いでいくと、ぱらぱらと砂が足元に落ちた。結構砂被ってたんだな、こりゃあ訝しげに見られるわけだ。

 

「……」

 

「……いつまでいるつもりだ」

 

 私が脱いでいく様子をまじまじと妙に真剣な表情で見てくるオーフィア。なんかちょっとだけ鼻息が荒い気がする。気になることでもあっただろうか。それはそれとして早く居なくなって欲しいのだが。

 

「胸元に晒し……」

 

「……それがなにか」

 

 オーフィアは不思議そうに小首を傾げると自分の胸を揉みしだき始めた。結構でかいなこの女。

 

「まな板……」

 

 背が私のほうが高いからか上目遣いで物欲しそうに私を見つめてくる。なんだ、自分の胸の大きさでも自慢してんのか喧しいわ。

 

「ふんふん…………ん、あれ……どこ、かな……?」

 

 私の胸前で手をぶんぶんと振り、顔を下から見上げてくる──。

 

『バシンッ!!』

 

「痛っ……胸は、叩かないで……自分に、無いから、って……」

 

「それ以上喋ってみろ。胸引き千切って頬ぶつぞ」

 

「仲間を、増やそうったって……いた、いたたたたた!?!?」

 

「これどこまで伸びるのかな……」

 

「伸び、ない……! 伸びない、から……!! 止めてくださいごめんなさい……!!」

 

 違う。こいつは今、私に無い『胸』を叩き、そして下から見上げたのだ。そんな奴叩かれて当然だろ。くたばれクソ豚女。2度とその面みせんなよ。

 

「うぅ……鬼畜。女の敵」

 

「自業自得だ。早く出ていけ」

 

 この女何なんだ……私はオーフィアの様子を伺いながら顔を見る。痛そうに胸を擦りながら、涙目で俯いている。……ちょっとやりすぎたか。

 

「……頭に血が上った。今治すよ」

 

 オーフィアに近づいて胸元に手をかざして回復魔法をかける。これなら治りが早くなるはずだ。

 

 私が回復魔法に専念している時、オーフィアは私の胸元の中心、胸骨のあたりをピンポイントで指し、ツンと触れる。ゾワっとした悪寒が体に走り、思わず身を引いしまう。

 

「な、なによ」

 

「……なんでも無い」

 

 なんでも無い、って。なら急に体を触ってくるな。……驚いただろ。

 

「……痛みはもう引いたただろ」

 

「うん……ありがと」

 

 オーフィアはこくんと小さく頷くと、踵を返して出入り口の方へ向かう。これでやっと一人になれる。

 

「ところで……湯浴み姿。見てても、いい……?」

 

「いいわけ無いだろ早くでていけッ」

 

 足蹴にしてオーフィアを外へ追い出す。やばいやつに絡まれた。脳内危険人物リストに登録しておこう。

 

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