死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが   作:ストロング西岡

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第二話ッ 自己紹介ッ!!※それどころではない

 

 何もない空間の中で私は目を開ける。依然として何も映らないことに戸惑い目を擦るが、変わらず視界は暗い。

 

 ──あれ、そういえば私は何をしていたんだっけ。

 

 頭に手を当て深く考える。暗闇故、思考は捗る。そうだ、確か鎧の男と出会って、戦闘になって。組み伏せられそうになった所バランスが崩れて地面に激突したんだ。そして追撃の鎧プレスを食らって……。

 

 踏み固められた地面の硬い感触。そして体に伸し掛かる重い物体。すーっと血の気が引く。びちゃ、と冷たい感覚が頭から爪先へと流れていく。

 

「……はっ!?」

 

 がばっ、と上半身を起こし全身をぺたぺたと触る。あ、大丈夫。潰れてない。夢の中で潰れた私を想像してしまい焦った。今日は変な悪夢を見てしまった。

 

「おう、起きたかッ!」

 

「ッ!?」

 

 視界の横からバケツヘルムが覗く。つんのめるのも構わず飛び出す。

 

「お、お前! 私に何をした!!」

 

「む? 膝枕だが?」

 

「何でそんなことッ……うっ、痛い……!」

 

 なんか冷たい感触するなって思ってたら鎧の冷気かよ。通りで……余計に頭痛いし、何しやがるこのクソ男。

 

「はっはっはっ、問題ないッ! 俺は正座しても痺れないからなッ!!」

 

「誰もそんな心配してないッ!」

 

「お、俺の唯一の特技なのに……う、うぅ……」

 

 何で急に泣き出すんだよ。泣きたいのはこっちだ。男のくせにメソメソするな。あとお前の特技しょうもなさ過ぎないか。もっと自分に自信を持てよ。

 

 泣き喚く男を尻目に自身の装備を確認していく。閃光炸裂弾が2個、手榴弾が5個、護身用の短剣が鞘に。問題ない全てある。

 

 太陽の位置は……まぁ太陽と言っても灰に阻まれて薄く光が見える程度だが、あまり変わっていないように見える。数分意識を手放していたか。

 

 失態だ。今回は運が良かったが、もし平時であればどうなっていたか。この身が乱暴に遭うだけなら構わないが、ともすれば死んでいた。そう考えれば眠っていた時間は余りにも無防備で、無警戒だった。

 

 衣服も特に乱れた様子はない。戦っていた位置から壁際へと移動したくらいで、遠くまで運ばれたとかでもない。この男に私をどうにかしようとする意志は無いように見える。数分でも眠っていれば、人間の邪な欲望を叶えるのには十分だからな。

 

「お前は何者だ? 何故私を……」

 

「俺の名前はマイケル。信条は困っている人がいれば皆助けることッ。言わばヒーローだッ!」

 

「へぇ……」

 

「え、全然興味ないじゃん……」

 

「偽善者に興味は無い。1人の人間如きに、多くを救えると過信した愚か者が」

 

「む、それもそうだな……なら君だけを守ろうッ!!」

 

「いや信条を簡単に曲げるな。反論しろ」

 

 こんな会話をするつもりもなかったのだがな。立ち上がって服に付いた埃を落とす。なんだか警戒しているのが馬鹿らしい。この男の放つ陽気なオーラに惑わされている気がする。

 

「もう怪我は大丈夫なのか?」

 

「ああ……この包帯はお前やったのか」

 

 銃撃を受けたところに綺麗に包帯が巻かれている。近接戦闘術だったり応急処置だったり……こいつは元軍人かなにかか? それなら色々納得がいく。それにしたって装備している鎧は些か上等過ぎる気がする。今のこの国でフルアーマーを拵えれる鍛冶師がいるのが不思議だ。

 

「色々迷惑を掛けた。私はテレジー。見ての通り元貴族の、ただの落ちぶれた魔法師だ」

 

「ふむ、魔法師……つまり魔法使いということか」

 

「そういう言い方もあると思うが、一般的ではない」

 

「落ちぶれた、というのは?」

 

「そのままの意味。あの城から追放された、出来損ないだ」

 

「つまり、ここに住んでいる人々は皆追放された魔法師、ということか?」

 

「は? 何言ってんの、そんな訳無いでしょ」

 

「え?」

 

「……え?」

 

 首を傾げる鎧男。話が噛み合わない。

 

 貧民街は魔法が扱えない、魔力を持たない人々が住んでいる場所だ。それに対しあの城は貴族街と揶揄される、魔力を持つ魔法師が多く住んでいる所。

 

「この国の名前は?」

 

「……アスキア帝国だけど」

 

「遠くに見えるあのストームは?」

 

「灰の嵐でしょ……?」

 

「あの城の名前は?」

 

「マグナ・アスキア城。常識だと思うけど」

 

 さらに首の角度が鋭くなる鎧男。納得したのか、うんうんの頷くと立ち上がる。

 

「あんた何者? まさか記憶でも失ってんの?」

 

「あ、ああ……そうなんだ。ここ最近の記憶が無くてな……」

 

「そう、それはめ……大変だな」

 

「え、『面倒』って言いかけた?」

 

 記憶喪失。それは少し困った。こいつに色々聞きたいことが合ったのに、これでは聞けず終いになってしまう。

 

「まぁ、助けてもらった礼もある。案内くらいはしてやる」

 

「おお、それは助かるッ! よろしく頼む!」

 

 案内と言っても大したことはできないがな。精々お人好し集団にぶち込むくらいだ。私は男1人を、それも記憶を失ってて上品な鎧を装備している輩を養えるほど裕福ではないし、暇ではない。厄介事はなるべく関わらないほうが得なのだ。事なかれ主義最高。万歳。

 

 裏路地を抜け、広場を通って大通りを避けながら進んでいく。砂岩でできた家屋をいくつかの通り抜け、狭い道を縫うように歩く。

 

「テレジーよ。もっと広い道はないのか? よ、鎧が擦れて……あ、傷が!」

 

「これが最短で着く道だ」

 

「……ちなみに、どこへ行くんだ?」

 

「知り合いの所。その道すがら案内などを少々」

 

「ふむ、なるほど……あれ、俺捨てられる、ってこと?」

 

 ほう、察しがいいな。

 

「捨てるとは言い方が悪いな。委任するんだ。私では手が余る」

 

「俺いい子にするから、捨てないでテレジーッ」

 

「うっ、気持ち悪いな。捨てたくなってきた」

 

 ていうかこいつ、さっきからめっちゃ話しかけて来るんだけど。初対面の距離感じゃないぞ。ちょっとうざい。捨てるのは正解だな。

 

「うーむ。さっきから裏道とは言え人が少ない気がするが、いつもこうなのか?」

 

 傷が入った鎧を眺めながら、マイケルは意外にも鋭い指摘をしてくる。言われてみれば確かに。いつもならごろつきや慣れ損ないのホームレスが屯していたり、草臥れていたりしてもおかしくない。というより人が居ない。

 

「ここの住民は皆必要以上に家を出ないんだ。外は危険で溢れてるから」

 

「なるほど……」

 

「だから、人が居なくても別に問題は──」

 

 鎧男がぶつくさと独り言を始めた時、鼻孔を擽る不愉快な匂いに気付く。

 

「待て、テレジー」

 

「……鎧被ってるくせに鼻は効くんだな」

 

 建物の影に隠れ、匂いを辿って視線を大通りへ向ける。人の姿は相変わらず見えないが、代わりに地面に赤い染みが広がっている。匂いの正体はやはり血か。

 

 遮蔽物を利用して身を隠しながら、ゆっくりと大通りへ出る。

 

「なんだ、これは……?」

 

 床や壁、樽、何かの看板などあらゆる場所に血が飛び散り、貧民街を血で染め上げられている。

 

 血を確認する。殺害から時間が経っていない。だが死体は全て『消えて』いることから、少なくとも10分以上が経っていることは間違いない。とすれば血が消えるのも後数分くらいか。

 

「む。何故、この街に死体がないのだ? こんなにも血が流れているというのに……誰かが運んだのか?」

 

「何言って……ああ、そうか忘れているのか。この国は『死体が残らない』の。……ほら、私の指を見て」

 

 鎧男の視線が指先へと向く。だんだんと人差し指に付着していた血が薄っすらと色褪せていく。そして、完全に元の色を失って、ぱらぱらと灰のように消えていった。残ったのは血がついていたとは思えない綺麗な指だけ。

 

「ほう、なんと不思議なこともあるものだ」

 

「不思議、ね……私にとっては当たり前の事だから、その感覚はわからないな」

 

「ふむ、しかしこれでは墓を建てることも出来んな……」

 

「はっ、この国に死人にくれてやる土地はない。砂塵になって消えてくれる方がいいに決まってる」

 

「……ふむ。文化の違いか。それはそれとして、これではこの惨劇を引き起こした犯人が分からんな。何か探す手はないか?」

 

「は? 何で探さないといけないの?」

 

「え? 探さないのか? このまま放っておけないだろう?」

 

「別にいいだろ。多く死んでくれたほうが平和になる。殺戮者さんには頑張ってもらいたいくらいだ」

 

 街中を染め上げる血が色褪せていき、元の姿へと戻っていく。何もなかったかのように綺麗な街中は、最初から人なんて居なかったように静かだ。

 

「……本気で言っているのか」

 

「……ああ。本気だ」

 

 かちゃかちゃと鎧の音がやけに響く。腕を回して軽く体を解すと、私の前に躍り出て歩き始める。

 

「ちょっと、どこ行くの」

 

「犯人を探しに行く」

 

「……正気じゃない。無駄だ、何処に居るかも分からないのに」

 

「それでも、俺は探す。助けられる命なら放っておけない。もう逃げないと約束したからな」

 

 そう呟くと、マイケルは私を置いて大通りを進んでいく。呆気にとられた私は、ただ彼の背中を眺めることしか出来ない。

 

「……はっ。なによ、それ……」

 

 耳元に垂れる横髪を抓って引っ張る。なんだか無性に腹が立つ。胸騒ぎがする。

 

 助けられる命だと。貧民共のくだらない命なぞ救ってどうする。お前になんの利益がある。名前も知らない誰かはきっとお前に感謝をしないし、果てにはお前に牙を剥く獣共だ。

 

 もう逃げない? そもそも逃げるとは何だ、何から逃げる? 誰かを救うことはお前の使命かなにかなのか。だとしたら、お前はこの世界の救世主を騙るクソ野郎だ。お前には何も守れない。

 

 約束なんてものもくだらない。いつでも破りかねない自分自身に課した約束を、大事そうにぶら下げて戯ける道化。そんなもの、とっとと忘れてしまったほうがいいに決まってる。忘れたほうが楽で、何も考えずに生きていける。

 

『グォォォオオオオ!!!!!』

 

 思考に意識を割いているとき、背後から低い獣の叫び声が全身を貫く。

 

「な、なに、こいつ……!!」

 

「テレジーッ!!」

 

 がばっ、と抱えられた私の視界は急激に変化し、すぐさま地面に落ちた衝撃が身を包む。

 

「無事だな?」

 

「マ、マイケル……」

 

「このグリズリーは、もしかしてこの国ではペットとして飼われているのか? 随分愛されているように見える」

 

 グリズリー……確か熊の一種だったか。あれがそうであるかはわからないが、確かに体毛は黒というより灰色で、体も大きい。立ち上がれば5メートルは優に超えそうな巨大だ。

 

「だったら首輪でも着けて顎を撫でれば懐いてくれるでしょうけど。お生憎様違うわ。あれは『魔獣』の一種」

 

「『魔獣』、とな」

 

「見た目はただの獣と同じなのが多いけれど、1つだけ大きな違いがある」

 

「魔法を使う……とかか?」

 

「その通り。だから一般人が相手するのは──」

 

「ふっふっふっ……なるほど、ならばこの俺に任せておけッ!」

 

 私の前に躍り出ると、仁王立ちで熊型魔獣の前に──。

 

「──ちょ、ちょっとマイケル待って!!」

 

「この超人的POWERを持つ、この俺がッ!!」

 

「だから、話を──」

 

「うぉおおおお!!!」

 

 完全に自分の世界に入り込んだマイケルは、猛然と熊型魔獣に突進していく。ジャンプで空を低く飛び上がり、拳を振り上げる。

 

 熊型魔獣の体が淡く光る。それは魔法の兆候だ。魔力を体内で充実させ、一端に集めて事象を形成させる。

 

「今、必殺の────」

 

 ペシッ。

 

「──ぐぁぁぁああああ!!!!!!」

 

 目の前の虫をはたき落とすような、魔獣の前足による殴打。身体強化が乗った一撃によって、鎧を着ただけのマイケルは空高く飛んで何処かへ消えてしまった。

 

「いや、人の話聞けよッ!!」

 

 ……まぁ、別にいいか。面倒事が消えたと思えばそれで。

 

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