死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが   作:ストロング西岡

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第二十話 巡る視線

 

「それで、結局どうすんのさガイ。正直ガイ次第だと思うよ?」

 

「クソッ、なんで糞女なんかと……」

 

「あたいとオーフィアも付いていくんだから文句言ってんじゃないわよ男らしくない。それに美人を3人も侍らせられるんだから役得じゃない」

 

 湯浴みをして体を清めた後、事前に用意されたシャツとズボンに身を包んだ私はオーフィアの隣に座る。どうやらガイが何かを決断すれば糞女とエレノアとオーフィアとガイの何かが決まるらしい。果たして一体何なのだろう。隣でぬぼーっとしているオーフィアに聞いてみる。

 

「オーフィア。今どうなってる」

 

「テレジーとわたしと、エレノアとガイでどこかに行く……みたいな感じ」

 

「……いや持ってる情報私とほぼ同じかよ」

 

「聞いてなかった……分からない」

 

「なんでだよ聞いとけよ」

 

「楽しくなりそう……」

 

 オーフィアのぴっ、と閉じられていた口が僅かに緩む。上品に口元に手を当てて隠すと、私の顔を覗くように見てくる。楽観的物事を見るタイプの人間か。それにしても度が過ぎないか。だけどきっと多分楽しくなんかならないだろうな……少なくとも私は。

 

「ガイはいつでもあんな感じか」

 

「たまに頭を撫でてくる。そしてエレノアに怒られる」

 

「猫扱いされてるぞ、お前」

 

「ガイ。きっと、テレジーの事が好き。好きな人にほど、いじわるしたくなる……って本に書いてた」

 

「偏った知識で語るな。お前はガイの何を見てきた」

 

「わたしもさっきテレジーに胸をいじわるされた……つまり……そういうこと?」

 

「へぇなるほど。前歯、要らないの?」

 

「テレジーって結構ぐいぐいツッコんで来る……楽しい」

 

 オーフィアは口を隠しながら楽しそうに目元を緩ませる。私の周りにはなんでツッコミどころが多いやつが沢山いるのだろう。いいよなお前らは。適当なこと言ってるだけでいいんだから。ツッコミ役は下手なこと言って滑ると全ての責任を取ることになるんだぞ。

 

「オーフィアさん、楽しそうね」

 

 2人で話していると、いつの間にか後にいたリンウェルが奇妙なほどににこやかとした表情でオーフィアに話しかけてきた。オーフィアはうきうきとした様子でリンウェルに応じる。

 

「……楽しい」

 

「いつもは寝ているから言わなかったけど、会議中だからちゃんと参加してねオーフィアさん。テレジーも、ね?」

 

 ね、と可愛く付け足したが実際には無表情で、しかも目一杯の怒りが有無を言わせない鋭い視線と共に向けられていた。私にだけ。ラルクの1件があってからこいつからのヘイトが確実に高まった所為だろう。……とりあえず夜道には気を付けよう。

 

 リンウェルからやんわりと怒られたオーフィアは、肩を落として意気消沈といった様子だ。というかいつも寝てんのかよこいつ。もっと早く言ってやれよ起こせよ。

 

「ああ、分かった。やればいいんだろッ!!」

 

「ええそうよ。全く強情なんだから」

 

「それではテレジーちゃんの負担が大きすぎる。できるだけ危険を分散するため4人で対処したほうが────」

 

「ああ、はいはい静かにしててねラル坊。あんたが今出しゃばると面倒になるから」

 

「っ――エレノアさん。リーダーに向かってその口振りはどうかと思う」

 

「あらやだ、怒らせたならごめんなさいねリンちゃん。いつもなら我慢してる本音がつい……ね?」

 

「それって……どういう意味?」

 

「そのままの意味以外あるの?リンちゃん」

 

「……前も言ったよね、『ちゃん』付けしないでって。もう忘れたの?」

 

「勿論覚えてるに決まってるじゃない。でも、1度目を付けた獲物は逃さないものよ?リンちゃん」

 

「……いい加減にしないと、怒るよ」

 

「えぇ?まだ怒ってなかったんだぁ〜凄いわリンちゃん。短気な性格が治ったのね!頭を撫でてあげるわ!」

 

「っ、ころ……ッ!!」

 

 バンッ!!と机を激しく叩く音が、酷く剣呑な雰囲気となって室内を満たした。

 

――いや怖。やめてよ……。関係ないのに縮こまっちゃうじゃん。

 

「…………」

 

「こわぁ〜い。あたい殺されちゃ〜う」

 

「エレノア、性格悪……」

 

「リ、リン……落ち着いてくれ。エレノアさん、あんたは少し言いすぎだ」

 

……こんな調子ではあるが一応どうやら話し合いは終わったらしい。ガイは機嫌悪そうに椅子から乱暴に立ち上がると、ドシドシとこちらに向かってくる。

 

 聞いていた限りどうやら貴族街へ通じる地下路の探索を、私を含む4人で行くという内容らしい。しかしガイは私に背中を預ける事なんて出来ないと言って駄々を捏ねていた。見かねたエレノアがオーフィアと一緒に探索に行こうと誘うも、尚も首を縦に振らないガイにエレノアは説得に苦心していた。

 

「俺はお前を信用してねえ。信用してほしけりゃ、ゴーレムの足止めをてめぇ1人でやれ」

 

 ガイは上から目線で私に一方的に要求を突きつける。どちらかといえば脅迫に近い。……どうやら断れる雰囲気ではないな。

 

 ゴーレムは栽培区画に設置されている、無能が証明された護衛タイプの他にも何種類かいる。そのうち警備タイプと防衛タイプが私が足止めをすることになるゴーレムだ。

 

 警備タイプはプログラ厶された範囲内で巡回を行って貴族街周囲を常に哨戒している。侵入者がある一定のラインを超えると警備タイプのゴーレムは威嚇射撃をしつつ防衛タイプのゴーレムに報告を行う。

 

 防衛タイプは警備タイプによる侵入報告を受けると直ちに現場に急行し、侵入者の撃退もしくは排除を行う。もしも防衛タイプのみでの対処が不可能と判断された場合は、状況に応じその上位種の攻撃タイプがやってくるが……今回はこいつらを呼ぶことは無いだろう。

 

 複数種のゴーレムによる強固な防衛システムが築かれている貴族街に侵入するためには、地上地下問わずこれらのゴーレムを引き付けその間に侵入する必要がある。今回の作戦は、今後の大規模な作戦に備えた事前準備。貴族街地下にいるゴーレムを私単独で無力化しつつ引き寄せて、他メンバーは貴族街への道の確保するというのが今回の作戦内容らしい。

 

 つまり死ぬ覚悟があるなら信用してやる、と言っていると解釈していい。

 

「オーフィアもそれでいいわね」

 

「うん。テレジーは……強い」

 

 オーフィアはこくりと頷くと、満足そうな表情をしながら左右にゆらゆら揺れだした。オーフィアに私の戦闘の様子は見せていないはずだが。過大評価されて面倒を押し付けられても嫌だから、適当なことは言わないでほしい。あと私が強いからと言って、他人に負担を押し付けるのもやめてほしい。

 

「なら決まりだな」

 

「そんなのほぼ脅迫だ! それにテレジーはまだ何も言ってないだろ!」

 

 ラルクは、解は得たとばかりに腕を組んでいるガイに、非難の声を浴びせる。しかしガイは聞く耳を持たず、そのまま自分の席へと戻っていった。様子を伺っていたシドはため息を吐くと、椅子に背もたれに深く腰掛け座り直した。

 

「君たちが納得できるなら……でもオイラは――」

 

「少し過激がすぎるけど、作戦が成功すれば大きな戦果が上げられる……そんなに悪くないと思うよ、ラルク」

 

「リンまで……」

 

「誰かが危険を背負ってでも情報を得ることは大事。それにテレジーなら魔獣を単独で討伐出来たのだから、戦闘力はある……そうでしょ?」

 

「あれはやむを得ず一人で行ってもらっただけだ! 本来であれば────」

 

 リンウェルはもっともらしいことを言っているが、結局は『貴族である』私の犠牲は容認するべきだと言っている。この女らしい説得だ。というよりリンウェルは私に死んでほしいのだろう。それが、寄りにもよってエレノアの案に乗っかることになったとしても。

 

「口を閉じろラルク。私がゴーレムを引き付ければいいのだろう。引き受ける」

 

「テレジー!」

 

 下手に敵を分散するより、私一人で請け負ったほうが成功率は高いだろう。彼らがどれだけ戦えるかを知らないから、他人に頼って失敗するなら一人でやったほうがいい。つまりいつも通りということ。なら話は簡単だ。

 

「決行日はまた追って伝えさせるから。もう帰っていいよ」

 

「そうか、なら失礼する。ガリッパ、マイケルを起こして。――ほらマイケル行くわよ」

 

机を回ってマイケルの席に近づく。ガリッパがマイケルを揺すって起こそうとするも、マイケルは寝言を零すだけで覚醒する気配はない。

 

「おい、マイケル。起きろって」

 

「うーむ…………あと5年だけ……」

 

 冬眠か、5年も欲張るな。せめて5分と謙虚にねだれ。私は思いっきり頭を引っ叩いて首根っこを掴み、嫌がるマイケルを無理やり外へ引きずり出し、アジトを後にする。

 

「テレジー!!」

 

 後ろから床を強く踏みしめながら走ってくる音がした。ラルクは私の肩を掴んで足を止めさせると、正面に回って私を糾弾してきた。

 

「なんで……なんであんなことを言ったんだ!」

 

「私が彼らの信用を得るために必要なことだ。それを臨んだのは彼らだろ」

 

「もっと、別のやり方がある! 僕が今からでも説得するから──」

 

「やめてッ!」

 

「!!」

 

 あまりのしつこさにイライラが抑えられず、自分でも驚いてしまう程の声が出た。ラルクは何かに怯えるように一歩引くと、悔しそうに顔を歪ませる。

 

 ラルク、お前は1つ勘違いをしているかもしれない。別に私は自己犠牲で誰かを助けたいとは思っていないし、誰のためにも死んでやるつもりもない。確たる勝算があるから私は受け入れたのだ。

 

 ラルクのやり方ではお前の成したいことは最後まで成せない。それをお前に見せつけるためでもあるし、何より私には1つ成したい事がある。

 

「これは、チャンスでもあるの。私がやりたいこと……叶えたいことへの」

 

「それは……今じゃなきゃ、だめなのか」

 

「ええ……そうよ」

 

 今回の任務で、やりたいことへの道が出来るかもしれない。逃げ続けて来た私にやって来たチャンスで、最後かもしれないチャンス。もう、何からも逃げたくはないから、どんなに困難でも私は進むことを選び続ける。例えそれが間違っているのだとしても、それすら否と唱えて私は進み続けるのだ。遅れた分の歩みを進めるために、躊躇はしていられない。

 

 話は終わった。私はラルクの横を通り過ぎると、マイケルの首を掴んでいる手に力を入れ直し、私のアジトへ足を進めた。

 

「忘れているかもしれないから言っておく。私はただの『協力者』。貴方達と最後を迎えるつもりも、迎えられるつもりもない」

 

「…………」

 

「む……ど、どういう状況……?」

 

「後で説明すっから黙ってろ」

 

 ラルクがどんな表情をしているかは見えないが、多分見えなくて正解だったろう。彼はそんな声をしていた。私は、お前たちの為ではなく自分の為に戦う。その事を理解してほしい。

 

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