死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが 作:ストロング西岡
先日の会議とは名ばかりの言い合い。そしてほぼ脅迫同然で突きつけられた作戦。既に受けてしまったから文句は言えないが、それでもやるべきことは成さなければならない。それが例え関心の低い人間の為であっても、私の人間性という沽券に関わる問題であるのなら尚更だ。
つまり何が言いたいかというと……面倒だなぁ、ってこと。
ゴーレムは今まで戦った人間や魔獣とは違い、生物ではないから斬撃や刺突の類いの攻撃が効きにくい。彼らを作製するのに使われる材料にもよるが、効きやすい攻撃方法はゴーレムによって様々だ。このアスキアで主に作られるのは砂製のゴーレムが一般的なので、奴らの対策として打撃攻撃が有効だ。まぁ、斬れ味の良い武器であれば話は変わるのだが。
そこで私は武器調達のため街に出て、貧民街の中央近くの商店、その地下にある武器屋に訪れていた。
「そういうわけで、ゴーレムと戦う武器がほしい」
「……これなんかどうだ?」
この地下の武器屋店主、仏頂面のクレイトン。齢は30半ばといったところだろう、白髪混じりの茶髪で顔の皺が目立つ男だ。
彼は私に向かって近くにあったメイスを投げ渡してくる。長さは大体、握りから槌頭までは大体私の足ぐらいだから、80センチぐらいか。私は片手でもってぶんぶんと、軽く振り回す。
「長さは悪くないが……少し軽いな」
「それより重いのなら……これか」
次に渡されたのは、クレイモアと呼ばれる広く普及している両手剣。それを刃を潰して打撃能力を向上させている代物だ。これも悪くはないが剣ということも相まって少し脆そうだ。装甲が硬いゴーレム相手に長期に渡り戦闘することを視野に入れると不安が残る。
「こいつならどうだ」
今度は両手斧を渡される。しかしこれでは重すぎて取り回しが悪く、囲まれた際に対処が困難になることが予想される。
「うーん……もっと良いのはないか」
「生憎だが、今うちにあるのはこれくらいだ」
「…………」
「おい、『今日は大した物ねぇな』みたいな顔すんな」
「おっと、失礼。気を付ける」
「少しは否定しろよ……まぁ、そうっちゃ、そうなんだがな」
クレイトンは頬杖を付いて大きくため息を吐く。
「久しぶりに顔見せたかと思えば、ゴーレムとはな。なんでそんなもん受けちまったんだよ」
「……色々とな」
「はぁ……あんたのことだから、考えあっての決断だろうけどよ」
訝しげな視線を遮るように、店内にある武器を持っては下ろして品定めをしていく。だめだ、ここにある武器でゴーレムと戦い、生き残れる未来が見えない。
「オーダーメイドを頼めるか」
「言うと思ったよ。ちょっと待っててくれ……おーい、アリシア!!」
クレイトンの大声に反応するように、店の奥から地獄から這い上がってきた屍人のような声が聞こえてくる。ガチャっと、奥の部屋の扉が開いて中から先程まで寝ていたのか、薄汚れた寝巻きを着た女性が出てきた。腰まで伸びた艶やかな灰褐色の髪……ボサボサで纏まりがない。透き通るような白い肌……煤で黒くなり血色も悪い。そしてルビーのような赤い瞳……はそのままであるが、目元はくまだらけで寝不足が伺える。本来は美しいはずの、歳は15前後の女。
「い゛ら゛っ゛し゛ゃ゛い゛……」
「おい、声大丈夫か?」
「ん゛っんん……いらっしゃい、テレジーさん!」
「アリシアッ! お前、パジャマで鍛冶場に入るなって言っただろ!!」
「ごめん兄さん、つい! 溢れ出る創作意欲で目が覚めて、気付いたら金槌片手に武器を打っていたの!」
「アリシア、それいつからの話だ? 一昨日からずっと金槌の音聞こえてたぞ!?」
「えーっと……分かんない!!」
頭を抱えるクレイトン。アリシアは舌を見せて戯けてみせた。
彼女はクレイトンの妹のアリシア。この兄妹は二人で武器屋を営んでいる。ここに並べてある武器は全て妹のアリシアが造ったものだ。
「それで、テレジーさん。どんなのが欲しいの?」
「ああ、ちょっとゴーレムと戦うことになって。使えるものが欲しい」
「ゴーレム……ゴーレムっ!! あの、ゴーレム!?」
「そうだが……」
「イャッホっーい!! ちょっと待っててくれる!? すぐ戻るから!!」
アリシアはなにやら異常に興奮した様子でパタパタと部屋に戻る。数分も経たずに戻ってくると、彼女は手に1本の大鎌を持っていた。その刃は根本が細く湾曲しその刃渡りはおよそ1メートル半の両刃。柄はおよそ2メートル程で、全体の長さとして合わせると2メートル半程はある。刃の大きさもさることながら、異様なのは柄首にも刃がついていることだ。
「これが1番のオススメ、今出来たばかりの、最高傑作よ!」
「これは……」
「そう、大鎌! かっこいいでしょ!」
大鎌、かっこいい……?
アリシアは鍛冶師として優秀だ。ここに並べられている武器はどれもが一級品で、甲乙付け難い代物ばかりだ。しかし、彼女に言わせればどれも産業廃棄物に過ぎない。
「しかしゴーレムに大鎌は……」
「ふふふ……心配要らないわ! この刃に使われてる素材はアダマンタイトなのよ!」
「っ、アリシアッ! お前、何故アダマンタイトを大鎌に使ってしまったんだ! もう2度と手に入らないって言っただろ!!」
唯一にして最大の欠点。そう、アリシアは大の大鎌好きなのだ。
「ごめん兄さん、つい! 溢れ出る創作意欲が止まらなくて、気付いたらアダマンタイト溶かしてたの!!」
「このっ、お前ってやつは……!」
大鎌は一見武器としての性能は高そうに見える。あの大きな刃は相対するものに見かけ以上の恐怖を与えることだろう。しかし、実際は違う。大鎌を振った際の刃の斬撃範囲はあくまで『点』でしかなく、切り裂くには腕を引く動作の一拍が必要だ。刃が付いている分槍として使うには取り回しが悪く、切り裂くとしても剣より使いにくい。つまり、いやはっきり言って実用性はない。精々、盾持ちに圧を掛けることが出来るくらいだ。
「大鎌……大鎌か……要らな──」
「ふふふ……興味津々、って顔ね!」
「いや、違う」
「そう、大鎌はロマン! 至高、神!! やっと分かってくれたのね!」
「話を聞けッ」
いつもいつも私が訪れるたびに大鎌を押し付けてくるアリシアを宥めるのには苦労していた。だというのに滅気ずに押し売りしてくるこいつの大鎌愛には脱帽だ。いっそのこと宗教でも開けばいいのに。私は御免だが。
「しかもほら……見て!!」
アリシアは大鎌の柄首を持つとカチャッと何かを作動させる。すると大鎌は2つに分離し、アリシアは右手に大鎌の柄を、左手に刃を持っていた。
「着脱機能付きで、いろんな局面に対応出来るの! 柄は刃付きの棍棒に、刃は曲剣に……これぞロマン!」
「な、なんだと……か、かっこいい! 流石俺の妹だ!」
アリシアの熱弁にクレイトンはすっかり魅了され、憧憬の眼差しをしていた。いやなんでだよ。
そう、これがいつもの流れだ。妹の無茶を兄が止めることをしないのだ。
「名前は……そうねぇ、デスカッター! どうかしら!」
「す、素晴らしい名前じゃないか……! なぁ、テレジー?」
「……」
そして極めつけはアリシアのネーミングセンスの無さだ。なんだデスカッターって。可愛くもなければチャーミングさもない。死の要素が何処にある。私なら、『つよつよ鎌子ちゃん.verロマン』って付ける。可愛くてチャーミングで親しみやすくて覚えやすいだろう。
はぁ……日を改めようか。これ以上興奮状態のアリシアに構っていられない。私は2人を無視して踵を返すと、アリシアは慌てて私を呼び止める。
「ああっ! ま、待ってテレジーさん! お代はいくらでも払うから、お願いだからこれ使ってこの子に生き血を吸わせてよぉ!」
「アリシア!? お代は払うものではなく頂くものだぞ!?」
いや、そういう問題でも無いんだか。
「折角だが、私は大鎌を扱い切れるとは思えない。ゴーレムとの戦いも迫ってる。もっと素直な武器のほうが──」
「……お代なんか要らないの。この子が貴方の手元で活躍してくれれば」
「……アリシア?」
私が断ろうと話し始めに被せるように、アリシアは曇った表情で俯きながらぽつぽつと喋り始める。
「この子はね、私の夢と希望が詰まってるの。私は戦えないけど、私が作品を造って、それを誰かに振るってもらうことで一緒に戦えるって思ってる。そして私の作品がこの国に、この世界になにか影響を与えられたらなって思うの。それが私にできる唯一の方法で……それが例え、私の造ったものが人を殺める道具になるとしても」
「……」
「……言ってよく分かんなくなっちゃった。とにかく、要らなくなったら捨てて。この武器は最初から貴方のために造ったものだから」
そう言ってアリシアは微笑む。その笑顔はとても悲しくて、寂しそうに見えた。
「言葉巧みに言っても無駄だ。どうにか受け取ってもらおうって魂胆が見え見えだ」
「何で分かったのッ!?」
ガーン、という効果音が聞こえてきそうな表情で項垂れるアリシア。よよよ、と頼りなく地面へとしゃがみ込むと、すかさずクレイトンが駆け寄って体を支える。
「無理をするからだ。部屋、戻れるか?」
「うん……ごめん、兄さん。ありがとう」
連続した徹夜作業で体が限界を迎えたのだろう。顔色は悪く、手は少し震えているように見える。
「……まぁ、アリシアの気持ちは分かった。不本意だが貰おう」
本来であれば貰わない予定だったのだがな。全く、上手く誘導された気分で、複雑だ。
「本当!? ありがとう、テレジーさんっ!!」
「うお、危ない! 大鎌持ってジャンプするな!」
こいつ意外と元気だな!? 本当に騙されたのか、私?
アリシアから強引に大鎌を貰い、その握りを両手で持つ。見た目の割には重すぎず、だがこの大鎌のしっかりとした重量は、ゴーレムやそれ以外との戦闘でも十分な破壊力をもたらすだろう。
「良い武器だ」
「ふふふ、当然よ!」
椅子に腰掛けながら胸を張るアリシアは、心底嬉しそうに微笑む。
「当たり前だろ? うちの自慢の妹の作品だぜ? ……そうだ、これもやるよ」
「これは……」
クレイトンが投げ渡したのは、黒のコートだ。今着てるのと似たデザインだと思ったが、その実裏地が赤色の素材が使われていて、且つポーチが増えていることが分かる。
「暇つぶしに作ったもんだから、大した出来じゃない。だがそのボロ纏ってるよりマシだろ」
「……助かる」
暇つぶしにしては手が込んでいる。前もってこのコートを見繕っていたのだろうか。クレイトンは照れ隠しなのかしっし、と『用が済んだなら帰れ』とばかりに手をはらった。収穫は十分以上だ。戻るとしよう。
「今日はいい物を貰った。また頼む」
「ええ! また来てね、テレジーさん」
「ああ、また来る。アリシア、クレイトン」
ボロのコートをアリシアに手渡すと、クレイトンから貰った新しいコートを袖に通す。以前までのコートより軽いし、自分の動きが阻害されないため動きやすく感じる。大鎌を分解してアリシアから貰った鞘に刃を納め腰に帯び、柄を背中のベルトに引っ掛けて背負う。
「……なんか変わったね。テレジーさん」
「そうか?」
「うん……ちょっと前向きになった?」
「まぁ……その通りかも、ね」
アリシアは上目遣いでそう言うと、頬をかきながら年相応に可愛く微笑んだ。