死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが   作:ストロング西岡

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第二十五話 疾風迅雷

 

「は?」

 

 誰が発したのかは分からない、驚愕に満ちた声が私の耳へと届く。しかし、そんなものに反応してやれるほど余裕がない。

 

「がっ、はぁ…………かは!!」

 

 突如として襲う胸の苦しみと吐き気。膝をついて咄嗟に口を押さえるもえずきは止まらない。口に当てていた手に視点を移すと、血がべっとりと付着していた。頭痛も酷く、暫く治まりそうにもないほど痛い。しかし、荒ぶる呼吸を無視し大鎌を杖に私は体に鞭打って無理やり上体を起こす。

 

 身体強化に加え、時間加速の魔法を併用した。時間加速の魔法は自分の未来に干渉する魔法の一種だ。効果は、本来避けられない未来の出来事を自身が次元的に加速することで、自らの手で降りかかる運命を変えることができる魔法だ。

 

 ……自分でも言ってみてよく分からない。そもそも難解な上複雑な魔法で正直使いどころが難しい。というよりまともに使える人間がいない。何故なら使ったが最後、大量に襲いかかる未来のヴィジョンに頭の処理が追いつかず、廃人と化すからだ。

 

 今回は自慢の節約術を使ってそれを自身の動きのみに集中させ、音速での移動を可能にした。しかし、音速で動いたことで強化を施したとはいえ、体が追いつかなかった。また、魔法の併用によって魔力消費が嵩み、だいたい6割ほど失われた。魔力さえ潤沢なら文字通り一瞬で片を付けられるのだが、無い物ねだりしても意味はない。生き残るためには自分の持ちうる手段で最高の結果を出し続ける必要がある。

 

「早く行け…………邪魔だ!」

 

「……行くぞ、オーフィア!」

 

「うん……!」

 

 私は節約版身体強化を施すと、先に走り始めた2人を抜き去って前方から迫りくる防衛ゴーレムと対峙する。

 

 一足先にたどり着いたのは剣斧機銃型。奴はクロスレンジに入ると、子供大くらいの長さの大剣を横に振るう。それを屈んで回避。続けざまに飛来する斧の縦振りを横へのステップで躱す。そのまま斧を装備するアームに大鎌の一撃をお見舞し、アームを切断。そしてすぐさま後方へ全力でバックステップを踏み、左右からの機銃による一斉射撃を避ける。

 

 この大鎌、やはり切れ味が凄いな。ただの一撃でゴーレムのアームを切断できるとは。自らがしでかしたことながら思わず舌を巻く。先日魔獣で試し切りしたときも、獣を切ったとは思えない軽い感触に驚いた。やはりアダマンタイト製は伊達じゃない。アリシアの鍛冶師としての技術が詰まった傑作だ、これならゴーレム相手にも不足ない。

 

 あのときは渋々受け取ってしまったが、今を思えば悪いことをした。あとで謝罪しに行こう。

 

 ドンっ! という肌を震えさせる程の爆音が右から響く。キャノンが撃たれた音だろう。反応が遅れ、回避は困難だ。ならば切り捨てる。この大鎌なら多少の無理なら答えてくれるはずだ。右から迫りくる砲弾に合わせるように大鎌を振って命中する前に切り落とす。分かたれた砲弾は私の体を掠め、後ろから砲弾の着弾による爆風が髪を靡かせた。流石の業物だ。それに身体強化も相まって砲弾が止まって見える。斬るのは容易い。

 

 左から迫りくる剣斧機銃型ゴーレムは機銃を掃射しながら旋回行動を取る。だがその近くをガイとオーフィアが走っている。剣斧機銃型は2人の存在を感知し、体の向きを変え狙いを2人に定めた。

 

 そうはさせない。ピンを抜いておいた手榴弾を右手に持つと、それを軽く宙に投げ大鎌を両手で構えフルスイング。手榴弾をゴーレム目掛けかっ飛ばす。私の意図を察したオーフィアは、ガイの前に躍り出てすぐさま背負っている黒棺を構え防御の姿勢をとり──爆音と爆風が剣斧機銃型ゴーレムを包み、完全破壊。あれは余った火薬詰め込んだ、所謂ラッキーボム。爆発力が他と桁違いだ。次はこうも簡単に壊れることはないだろう。しかし、これで残るは5体となった。

 

「あ、危ねえ……っ!」

 

「ふふふ……楽しい」

 

 こちらに視線を向けた2人はそれぞれ別々の感情を宿している様子だ。そしてこの場にいる残り5体のゴーレムは私を排除すべき敵と判断したのか、一斉に銃身を向けてきた。これで2人の進路は確保した。あとは戦うだけだ。

 

 5体の防衛ゴーレムが計8門の機銃、2門の大砲で形作られる銃弾の嵐。一見隙間なく見える包囲網は、その実穴だらけだ。機銃といえど連射性能はそれほどでも無い。またゴーレムはそれぞれ離れた位置にいるため、5つの射線が交わる交点のみ銃弾の密度が高いだけだ。そこさえ抜ければ躱すのは容易い。

 

 最初の銃弾が右頬を通り抜けるのと同時に、前屈みになりながら前方10メートル先にいる、先程仕留めきれなかった剣斧機銃型ゴーレムへ駆け出す。右へ、左へのサイドステップで大砲による砲撃を交わし、緩急をつけたダッシュで機銃の狙い所を不鮮明にさせる。足元に走る水路を大鎌の石突を突いて体を大きく浮かせ、ハイジャンプの要領で一気に剣斧機銃型ゴーレムへ肉薄し、勢いそのまま両断。しかし寸前で後に逃げられアーム3本と右足を切り、胴体を傷つけるだけにとどまる。だが無力化はできた、あと4体。次だ。

 

 私はすぐさま後ろに振り返って、真後ろまで音もなく接近していた斧機銃型の、両手に持つ斧による振り下ろしを寸前で防ぐ。

 

「くっ……!?」

 

 ギリギリ、とアームが負荷をかけ続け、徐々に大鎌を押し込んでいく。さすがに重い。簡単に剥がすことはできないか。

 

 左右のゴーレムのガトリングが回転する音。その瞬間、斧を受け流して迷わず大鎌の分離機構を作動。左に曲剣、右に棍棒を構えるとすぐさま前ステップで斧による一撃を回避。斧機銃型ゴーレムの装甲に斧と棍棒による連続攻撃を仕掛け、斧を持つアーム1本を残して他アームを破壊に成功。そのままゴーレムを蹴って3角跳びすると、私の残像を狙った銃弾の雨が斧機銃型ゴーレムに命中し、蜂の巣さながらの穴だらけとなった。これで残るは3体。

 

 その時、銃撃を食らった斧機銃型ゴーレムが爆発。空中にいた私は爆風の影響をもろに受け、姿勢の制御を失って字面を転がる。軌跡を追ってきた銃撃が迫る。あえてそのまま転がり続けることで回避し、足を力いっぱい蹴って高速で離脱する。

 

「ぐっ!?」

 

 足が滑って離脱が僅かに遅れ、左脇腹に銃弾を受ける。痛みで僅かに失速し、後方から接近する槍盾機銃型ゴーレム体の攻撃の間合いに入った。槍盾機銃型ゴーレムは盾を構えながら機銃を掃射してきた。

 

「っ、テレジー!」

 

 マイケルの叫び声が耳に入る。しかしそれをかき消すガトリングの轟音が前方から響き、その場から回避を強要される。その時足元が大きく爆発し、なすすべなく私は吹き飛ばされた。槍盾機銃型に隠れた盾大砲型が曲射で私を狙ってきたのだ。

 

 ゴーレムの癖に学習してきたか、小賢しい奴らめ。咄嗟に魔法で風を発生させ無理やり空中で勢いを殺す。少し肌が焼け、擦り傷が増えたが体は無事だ。奇跡的に直撃を受けずに済んだ。だが次はこうはいかないだろう。

 

 3体のゴーレムはそれぞれ散開しつつ掃射。槍盾機銃型ゴーレムを前に先程と同じ陣形で迫ってくる。

 

「くっ……! 今、助けに──」

 

 魔力の残りは体感であと2割程。その一部を使って脇腹の出血を止める。あとの魔力は身体強化で漸減していくだろう。つまりこれ以上の回復は望めない。

 

「──来るな!!」

 

 決起の意で私はそう叫ぶ。これからは少し大胆に勝負する。

 

 あえて私は槍盾機銃型に突進を仕掛け、クロスレンジに入る。槍盾機銃型はシールドバッシュ、刺突、切り払いと攻撃を仕掛けるも、その全てを躱す。槍盾機銃型がしびれを切らして盾を一度引いて槍をこちらへ素早く突き出した。

 

 これを待っていた。私はすんでのところで刺突を回避。そのままさらに踏み込むと、曲剣と棍棒を大鎌へと連結させ、全力の横ぶりをお見舞いする。横に振り抜けられた大鎌の刃は、構えられた盾ごとゴーレムを切り裂き、動力源たる核を破壊したのかその動きを停止させた。これで……あと2体! 

 

 魔法によって強化された健脚を惜しげなく使って、盾を構える槍盾機銃型に特攻。その途中で再び大鎌を分離させ二刀流スタイルをとって素早く移動。次々と襲いかかる盾大砲型ゴーレムが放つキャノンによる曲射大砲と槍盾機銃型の射撃をステップで回避し、屈んでくぐり、ジャンプで飛び越して紙一重で避け続ける。迫りくる2つの砲弾を曲剣で切り落とすと、姿勢を地面スレスレまで下げ槍盾機銃型に一気に踏み込む。

 

 接近して棍棒による刺突。それを盾をで阻まれ、ゴーレムは槍を突き出すもそれを曲剣で弾く。超至近距離にも関わらずゴーレムは機銃を周囲にばら撒く。左回りで旋回し銃弾を回避する。正面から槍の柄による殴打が飛んでくるのを確認し、スライディングでくぐり抜け、方向転換後再び棍棒をゴーレムに振るう。今度は防御が間に合わず本体を直撃し、装甲の一部を破壊。

 

 ゴーレムはなりふり構わず機銃を乱射しながら盾と槍を振り回し始めた。一旦距離をとって様子を伺う。恐らく近くまで接近され張り付かれたときの行動としてプログラムされていたのだろう。だが、それは悪手だ。魔力の消費を抑えるため節約術を用いて一瞬だけ時間加速の魔法を使用。ただ、身体強化は消失させる。

 

 再びスローになった視界の中で、私だけが早く動けるようなイメージ。槍が左から迫る。回避。銃弾が右と正面から来る。左へ移動。そのまま踏み込んで曲剣でゴーレム本体を左上から右下へ切り、今度は来た道をなぞって斜め上へ切り上げ、その流れで曲剣を上に投げると同時に手榴弾のピンを抜いておく。大きく開かれた傷跡に棍棒を両手を使って差し込み、捻って損傷を拡大させる。一気に引っ抜いて穴が空いた装甲に、左手で持った手榴弾を押し込む。投げた曲剣をキャッチして離脱──内側から爆発し破壊に成功。

 

「ぐふっ…………おえっ」

 

 一瞬だけとはいえ無茶をした。堪らずその場に蹲って大量に吐血。追い打ちに吐き気が襲い胃の中のものをぶちまける。呼吸が苦しい。息を吸う毎に肺がズキズキ痛む。内蔵が大きく損傷している気がする。完治していない脇腹から血が滲む。見た目以上に内側がボロボロだ。

 

 しかし、無茶の甲斐あってこれで残るは1体。そして魔力の残りはあと僅か。そろそろ戦闘を終わりにしたいところだ。

 

 いつの間にか換装したのか、盾大砲型ゴーレムは盾を1枚とキャノンを捨て、機銃と斧に装備を変更していた。私が苦戦していた装備を戦闘中に学習し、適応してきた。恐らく死に際にゴーレム達が残ったものに通信で学習データでも送ったのだろう。本当に小賢しい奴らだ。となると、防衛ゴーレムは既に他の仲間に通信してここに呼び寄せてる可能性が高い。ならばより早い撃破を狙ってこの場を離れる必要がある。

 

 装備を換装したことによって斧盾機銃大砲型となったゴーレムは、盾を構えながら距離を取って大砲を撃ってルートを制限。避けたところに的確に機銃による射撃。やはり学んでいる。簡単には近づけない。私が持つ切り札の使用のためもうこれ以上無駄な魔力は使えない。手榴弾も警戒されて投げたところで撃ち落とされるのが関の山。

 

 額の汗を拭って逸る気持ちを抑え込む。チャンスは1回、ミスれば魔力は枯渇する。魔力が尽きればマインドダウンが発生し、意識を保つのに精一杯で戦闘どころじゃなくなる。

 

「テレジーっ……!」

 

 その時私を呼ぶ声が聞こえ、その声の主を特定する。オーフィアだ。貴族街への侵入路が見つかったのか──少し短絡的で楽観的だと思うが──彼ら彼女が戻ってきた。オーフィアは動けなくなっていた剣斧機銃型ゴーレムに止めを差していたのか、片手には特大剣が握られている。ならば話は早い。ここで決着をつける! 

 

 身体強化……さらに出力を上げ、速度上昇。魔力消費量は上がり、持って8秒……問題ない。5秒で近づき3秒で破壊する! 

 

 異変を察知した斧盾機銃・大砲型となったゴーレムは後退しつつ、機銃と大砲で牽制射撃。だがあまりに遅い。4本の足は飾りか? 私の足はお前の半分の2本だが、こんなにも早いぞ! 

 

 大砲を最小限の動きで避け、進行の邪魔になる銃弾を致命傷になる部分と足に迫るものを重点的に狙って切る。多少は被弾するかもしれないが無駄遣いは出来ない。少しの振りも失速の原因になる。

 

 反応が遅れ躱しきれなかった銃弾を左肩に受ける。少し失速したところに右腕に続けざまに着弾。両腕の感覚が一瞬で薄れ、曲剣と棍棒を落としてしまう。だが大鎌は要らない。むしろ重みが減って助かる! 痛みも戦闘の興奮で感じないから問題ない。このまま一気に近づく! 

 

 武器を手放しながらも近づいて来る私に困惑したのか、ゴーレムは虚を衝かれたように一瞬挙動が止まる。ゴーレムのくせに私の行動を読むとは生意気だ。大鎌を取りに行くと思ったか? 残念だったな、私は武器なんかなくともお前を壊せるぞ! 

 

 相手の斧の間合いに入った私に、盾による殴打。それを蹴り飛ばして弾く。先程までなら出来なかった力技も、ここまで強化を施した一撃なら可能だ。続く斧による斜めの振り下ろしを前に接近しながら回避。そうして念願のゴーレムの懐まで潜り込むことに成功する。

 

『あんた、頭良さそうな見た目してポンコツで、ネーミングセンス皆無ね』

 

『そんなことないし! 可愛くてチャーミングで親しみ易くて覚えやすい名前よ!』

 

『たかが技名に可愛さとか要らないでしょ』

 

『じゃあエリナなら、どんな名前付けるの?』

 

『……そうね、こんな名前はどうかしら』

 

 昔のやり取りをふと思い出す。かつての私は貴族街にいながら、道楽で魔法の研究をしていた。私達貴族──私達の言葉で『子供たち』というが、子供たちは魔力の有無と量が最も重要視された。そのため子供たちは魔力を規定の期間で魔力上限を上げ、とある試験を乗り越えた後『大人』になることが許される。皆その為に日々魔力を鍛えるのだ。

 

 だから魔力増加のための訓練を怠って魔法の研究や魔力操作の練習の他、体術を学んでいた私はさぞ異端で……酷く妬ましかっただったろう。最初は周りにいた『友達』と称する人らも、気付けば誰もいなくなっていた。そんなとき、魔力操作の練習中に思いついた魔法解放術の一種……現に今放とうとしている切り札。その練習をしているときにエリナに出会い、そして2人で作り上げた正にとっておき。

 

「っ……!!」

 

 体を半身に左手を軽く前に突き出して、右手は腰まで引く。腰を低く落として左足は前、右足は後に構える。

 

 嫌な記憶、封印していた思い出が脳裏をよぎる。エリナのことを思い出すと、どうしても釣られて2年前の悪夢を思い出す。男たちによる凌辱。女たちによる暴行。そして初めて人を殺したあのとき。

 

 ああ、やっぱりあのときの選択は間違ってなかった。毒舌で高飛車で頗る性格が悪い女。だがその実素直になれないだけで本当は優しく、誰よりも高潔で……自分に厳しい人。そんな彼女にこの地獄は見せられない。

 

 ゴーレムが僅かに動きを見せる。弾かれた衝撃によって動けなくなっていた体に自由を取り戻す。再び斧を振り下ろそうとアームを上段に構える。

 

 今エリナは『大人』になって、あの城にいる。あの城でエリナは今何を思い、考えているだろうか。私のことを、忘れないでいてくれてるだろうか。

 

 ──ここにいるのが私で良かった。ここに来てからの2年間で、私はあの切り札を完成させた。……エリナが名前を付けてくれたこの技の初披露は、えずきにこそしたかったな──。

 

 左足で地面を蹴って重心を右足へ。その右足で地面を強く踏み抜いて引き絞った右手を突き出し、掌底をゴーレムのボディを撃ち抜く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──魔穿孔っ!!」

 

 切り札を受けたゴーレムは、その巨体を10メートルほど浮かせ、その装甲に巨大な風穴を開けた。

 

 やった。これで……私の勝ちだ。

 

 一気に全身から力が抜け、後ろから倒れる。視界がぐわっと上向きに変化し、気持ち悪さで一杯になる。魔力全消失、マインドダウンの発生だ

 

 ──ああ、ちょっとまずい。使い過ぎだな。まぁでもいいか……ここまでやったんだ。後は何かしらの成果を挙げてることに期待するぞ、ガイ、オーフィア。

 

 薄れゆく景色。無くなっていく四肢の感覚。気を失う直前に映ったのはいつもの見慣れたバケツヘルムと──。

 

「エ、リ……ナ……」

 

 幻影、エリナの姿だった。

 

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