死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが   作:ストロング西岡

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第二十八話 夜叉姫

 

 冷たい夜風が頬を撫でる。灰の嵐が発生させる灰の雲によって、空にあるという『星』や『月』とかが覆い尽くされる。そのせいで光源は何もなく、ただ真っ暗な夜空が聳えるだけだ。これが無ければ、きっと天上には綺麗な光景が広がっているのだろう。……昔、絵本で見た夜の風景から推察しただけだから、もちろん見たことはないんだけど。

 

 アジトの玄関口右手の壁に背中を預け、黄昏るように夜空を見上げる。どうやってここまで来たか。その道中の記憶はなく、ただ何となく見たことのある道を辿ってここまでやってきた。無意識にでも地形を把握しているなんて、結構記憶が良いほうなんだな、私は。──敢えて無駄にポジティブになることで、ネガティブな思考を塗りつぶそうとしている。そんな自分に気付き、思わず笑いが込み上げる。

 

「ご愁傷さま」

 

 急に横から声をかけられ肩がビクッと跳ねる。驚きつつも振り向くとそこには、エレノアが私と同じようにして佇んでいた。

 

「……なんのこと」

 

「流石に誤魔化せないって。どうせリンちゃんになんか言われたんでしょ? あんま気にしないほうがいいわよ。それこそあの子の思う壺なんだから。本当性格終わってるわよね、あの雌ガキ」

 

「……」

 

「あたいも何度か喧嘩吹きかけられてるけど……全部返り討ちにしてやったわ。感情論振りかざしてくる馬鹿は理責めでイチコロよ。それにあたい、悪口言われてもその分反論しつつ言い返すから、相手はどんどん墓穴掘るだけで無駄なのよね。それに気づいたときはもう敗北必至よ。今じゃあの子、あたいに何も言ってこないもの」

 

「……強いのね」

 

 エレノアは自慢げに腕を組むと、呆れた表情を見せつつさらに続けた。

 

「まぁ……色々とね。我が強くないと生きてけないじゃない、この国では。あんたもそうでしょうに」

 

「そのはずだったんだけど……」

 

 エレノアの言う通りだ。私だって今まで軟な人間であったとは思わない。それなりに耐えられる心構えはあったはずなのだ。しかし、やはり今日は少しナイーブになっている気がする。

 

「言っとくけど、あたいに慰めの言葉とか求めないでね。そういう態度とかも嫌いなの」

 

「うん……分かってる」

 

「……は? なんでよ。アンタには初めて言ったんだけど」

 

「いや、何というか……エレノアは、私の友達に少し……似てて」

 

 自分でも、驚くような発言だと思った。それも無意識に口から出たものだったから尚更。

 

『だまりなさい、ポンコツクソタヌキ。誰にものを言っているのかその小さい脳みそで考えなさい』

 

『やっぱあんた馬鹿でしょ。この陰険引き籠もりネクラオタク』

 

『常に自分自身が誇れる振る舞いをなさい。他人の顔色伺って生きるなんて、そんなのただの道化よ』

 

 昔の記憶が想起する。口も性格も悪いエリナは、1人だった私に手を差し伸べ寄り添ってくれた唯一の人。他の誰とも違う特別な人。たまには言い合いもしたけれど、結局いつも私が負けるんだよな。あいつ口論強すぎるんだよ。言い返せない正論ばっか言ってきて、最後には有ることないこと含めた悪口のオンパレード。思い返せば、彼女に従ったほうが結局いい方向に進むことが多かった。

 

 だから、あのときの。エリナが持ってきた魔導書も、私は信じることにしたんだ。

 

 エリナは魔法師としても魔術師としても優秀で、特に魔術の分野は到底敵わないほどだ。今の私ならエリナにも劣らない魔術師であると思っている。しかしそれは、彼女が全くの成長を見せていない、というあり得ない前提があるが。

 

 魔法とは、魔力の性質を活かして脳内で演算処理した魔力を特定の現象に変形させ、任意に発生させる魔力技術の1つ。要は手元ないし自分の周囲で発生させることができる即効性があり、脳内イメージによって簡単に形を変えられる技術だ。

 

 魔術とは、魔力の性質を活かすというのは魔法と同じだ。しかし魔法と違い脳内での演算処理を必要としない。魔法を発生させるための式、陣などを特定の物に描き、そこに魔力を流すことで魔法を発生させる魔力技術の1つ。要は、予め用意する必要があるためアドリブ性に欠ける分、演算処理が不要で魔力消費量も格段に減らせるため、主に戦闘以外の分野で活躍している技術だ。

 

 エリナが持ってきた魔導書は、城にあった図書室に入り浸っていた私ですら見たことがない書物だった。エリナが指し示したページに書いていた魔術は、魔力分配の方法。私が契約者、エリナを被契約者とし私の持つ魔力をエリナに分配。分配された私の魔力は彼女の一部となる。そんな通常の魔術では考えられない、なし得ない術式がそこには書かれていた。

 

 エリナは魔力量が平均よりも少ない、言わばゴミ溜め行きが控えていた子供たちの1人。その彼女を憂いた私は、何とか既存の魔術で彼女を救えないかを考えていた。その時に、エリナは突然魔導書を持ってきたのだ。

 

 そこまでは良かった。私はエリナの為なら私の魔力なんて惜しむことなく捧げる。なにせ、私は魔力量にはそこそこの自身があって、半分渡したところでなにか問題があるわけでもないからだ。2人で大人たちになれるのならそれは本望だし、なによりエリナを失いたくはなかった。私達は誰にも勘付かれないよう慎重に魔術の準備を行い、完成した魔術式を起動させた。この起動をもって私達の苦労が実り、私の魔力がエリナへと受け継がれていったのだ。

 

 それらは全て、上手く行けば、の話だったが。

 

「……やめてよ、そうゆうの」

 

 エレノアの声音に違和感を覚えた私は、振り向いてエレノアの顔を伺う。少し、突き放すような言い方だった。

 

「エレノア……どうかした?」

 

「どうせ死んでるんでしょ。死人と重ねて変なものを押し付けないで」

 

 呆れた口調でエレノアは捲し立てると、背中を預けていた壁から離れて空を見上げる。

 

「ううん。今も生きてるよ。私の友達は……あそこにいるんだ」

 

 エレノアの前に出ると、私は遠くに見える大きな城を指さす。

 

「……貧民街に落ちたアンタのことなんて、忘れてるに決まってるでしょ」

 

「そうかも……」

 

「なら、アンタも忘れたほうが身のためよ」

 

「忘れないよ。だって……」

 

 目を閉じて、昔のやり取りを思いだす。

 

『ねぇ、テレジー。アンタやってみたいこととかないの?』

 

『んー。毎日、本読んで勉強して、そして魔法の鍛錬いっぱいしたい! ……とか?』

 

『はぁ……夢とかないわけ? 退屈な人生ね、陰キャ芋モグラらしいけれど。因みにあたしにはあるわよ』

 

『一言余計だよッ! ……それで、エリナの夢ってなに?』

 

 エリナの語った夢。あのときの私には途方もない考えもしなかった夢。だが、今になって思う。彼女は本気で夢を叶えようとしていて、それでいて自分には無理だと悟っていながら、辛い思いを抱えて生きていたのだろう。だから、エリナは私に夢の話をしたんだ。私なら、私達なら一緒にその夢を叶えることができるって信じて。

 

「──大切なんだ、何よりも」

 

 やがてエリナの夢は私の夢となり、いつしかそれは希薄となって一時は私の中から消え去っていた夢。だが、今は違う。それを思い出させてくれたのは……。

 

「あっそ……勝手にしたらいいわ。あたいには関係ないもの。……もう寝るわ。おやすみ」

 

「うん……聞いてくれてありがとう、エレノア」

 

 肩をすくめて手をひらひらと振ってけんもほろろに受け流すと、エレノアはアジトへと戻っていった。

 

「本当は言うつもり無かったけど……言っておくわ」

 

「……?」

 

 扉に手をかけたままエレノアは振り返らずにそう言うと、もったいぶるようにため息1つ挟む。

 

「貴方が思っている以上にリンウェルは危険よ。精々寝首を掻かれないよう気を付けなさい」

 

 そう一言告げると、エレノアは有無を言わせる暇なく去っていった。

 

 危険──どういうことだ。確かにあの女とは少なからずの因縁があり、一方的に敵視され、憎まれている。しかし、リンウェルはただの小娘。力もなければ影響力も無い。そんな女が私にとっては危険とは、エレノアは一体何を伝えたいのだ。

 

 リンウェル如きに、一体何が出来るというのだ。

 

「おーい、テレジー! ここにいたのか! もう帰るなら荷物持ってくるぞ?」

 

「マイケル……ええ、お願いするわ」

 

 マイケルはうむ、と頷くと余計な勘ぐりをせず踵を返して荷物を取りに行った。……彼にはいつも助けられている。こういう気遣いも、私が気づかぬまま幾度もさせてきたのかもしれない。

 

 ……ちょっと頭がぼんやりしてきた。昨日の今日というのもあり、特に今日は色々あったのもあってで疲れた。これ以上考えても結論には至らず空回りな思考ばかりで意味はないだろうから、課題は明日以降に持ち越そう。

 

 今後の方針は決まった。来る日に備え私にできることはやっておこうと思う。一難去ってまた一難。まったく、マイケルに会ってから碌なことがないな……まったく、まったくだ。

 

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