死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが   作:ストロング西岡

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第二十九話ッ 職質ってされたことある?俺はないッ!!※ないんかい

「えっーと。これ、なんすか」

 

「裁判だッ」

 

「職質って言ってたでしょ、あんた」

 

「どっちでもいいすっけど、こんなにガチガチに縛ることあります? それもなんか……これ『やらしい』方の縛り方じゃないっすか」

 

 まるで亀の甲羅を彷彿とさせるような縄の軌跡が、ガリッパの体を縛り付け身動きの一切を封じている。……別にこの縛り方じゃなくてもいいような気がする。言っとくけど、私がやったわけじゃないからな? 

 

「こうなった理由、流石に言わなくても分かるでしょ?」

 

「……」

 

「最近テレジーに構ってもらえてなかったからな……可愛そうなガリッパ」

 

「違うわ」

 

 先日行われた決起会。そして明日行われる大規模な作戦。だがその前に白黒はっきりさせておく必要がある。それは、言わずもがなガリッパのことだ。

 

「私達の情報。どこまで流してたの?」

 

「……流石に、バレるっすよね」

 

 そもそも、彼は自ら下っ端と名乗っていたはず。なのにその下っ端が『私と一夜を共にする』というのが辻褄が合わない。

 

 その権利をお溢れできるのは革命派の中でもひと握りであり、下っ端如きに当たるはずがない。もっと言えば、その後何もなかったように私に舎弟としてついて回り、あまつさえ穏健派の内部にまで潜り込んだ。これを疑わずして何になろうか。

 

「……姉貴と、マイケルの情報を報告してました。それだけっす」

 

「情報の内容は?」

 

「2人の行動や、戦闘面について。後はマイケルの……『陽気パワー』について」

 

「『陽気パワー』について、どこまで喋ったの?」

 

「陽気パワーには制限があるとか……とにかく分からないことが多い、くらいしか」

 

「……やけに素直ね」

 

 粘られたところで無理やり話を聞き出すだけだから、手間が省けたといえばそれまで。逆に疑わしく思えて仕方がないとも言えるが。

 

 クロードが私達の動向を探る真意としては監視の意味合いが強いだろう。恐らくクロードは私が革命派から抜けることを察知し、ガリッパをこちらへと付けて監視させたのだろう。疑問なのはどうやって私の離反に気付いたのか、だ。

 

 ガリッパが事前にクロードに私の離反の話を通そうにも、その話を持ち出したのはそもそもマイケルだ。私が彼と出会わなければ現状に甘んじて行動は起こすことはなかった。恐らくずっと飼い殺しにされていたはずだ。

 

 唐突に決まった事のはずなのに、それをガリッパが情報を流すことも出来ない。クロードがガリッパに監視を命じ、監視を始めた日と離反を決めた日は同じはずだ。監視という危険が伴う任務の代わりに私との一夜を見返りとして与えたのだろう。

 

 ……いや、違う。監視対象と顔合わせするリスクを受け入れる必要はない。私と出会うよりも前からガリッパは私の監視をしていたのだ。それなら筋が通る。マイケルと出会いカチコミの話が決まってから実行に移すまでの期間。離反の話を聞いたガリッパはすぐさまクロードに報告したのだ。

 

「最初は何も思わなかったんです。ただバレないよう見ているだけだったので。……でも続けていく内に、姉貴に申し訳なくなって……もし姉貴にバレたら、組織裏切ってでも全部話そうって決めてたっす。だから、誓って嘘は言ってないっす」

 

「ガリッパ……」

 

「それ、私が聞かなかったら一生横流しし続けてたってこと?」

 

「……すんません。踏ん切りが、つかなくて」

 

「まあ、いいわ」

 

 しばらくの沈黙。唇が震え、何かを言いたそうにしているガリッパを、私はひたすらに待つ。徒に圧がかからないように気を付けながら。

 

「……あいつら。多分灰の病の治し方、知ってるっす」

 

「何だって!?」

 

 灰の病の治療方法。これはまた飛躍した話だ。ともすればこの国の未来を大きく変えかねない情報。その話が本当だとすればまさに革命が起きる。ガリッパがこちらの気を引くためのブラフの可能性がある。

 

「クロードの側近のキルディス……銀縁眼鏡の男がいたと思うんすけど。あいつがオレに話を持ちかけてきた人でして。で、これは結構前のことなんすけど、ある時キルディスが灰の病に似た症状が出てたんす。でもそこから姿を消して……」

 

「それは本当に灰の病だったの?」

 

「恐らく。体に斑紋があったし、ちょっと熱っぽかったから。相当我慢してたと思うっす」

 

 なるほど。それなら灰の病であると認識していい。

 

「姿を消してたある日、クロードと歩いているところを見て……でもキルディスの体には一切斑紋が無くなってて」

 

「む、どうやって確認するのだ?」

 

「腕とか首とか露出する場所にも斑紋が出るから、分かりやすいのよ。……けれどガリッパ。それだけでは治療方法があるって分からないんじゃない?」

 

「そう思ったんでオレ、潜入してみたんです」

 

「思い切ったな!」

 

 2人の言動を怪しく思ったガリッパは、革命派のアジトに侵入。生来の隠密術を活かし、内部を探索しクロードの部屋へ。そこには緑色の魔法石と、灰の病の治療方法について書かれているだろう手紙を見つけたという。……だが結局所業がバレて、脅し半分で私の監視を言い渡されたらしい。それだけで済んで良かったな。

 

「それがこれっす……オレでは読めなくて」

 

「……なるほど。確かにこれは、灰の病について書かれているわ」

 

「本当ですかっ!」

 

 本当に凄いな。何でバレてまで手紙を持って来られるんだよ。お前の胆力どうなってんの。

 

 手紙に書かれた魔術式に目を通していく。読めば読むほど納得する理論が構築されており、灰の病を治すという突飛な事実を現実へと押し返している。だが可笑しい。何故、奴らがこんな情報を握っている。理論上は可能だが現実的に不可能な……。

 

「……」

 

 まさか。いや……流石に無いか。クロードに限って、そんなことは。

 

「貴方はこの情報を、どうしてそこまで危険を犯してまで手に入れようとしたの?」

 

「……前に、『妹が居た』って話したことあると思うんすけど」

 

「うむ。覚えているぞ」

 

「兄として何にも出来なかったから……せめて何かしてやれたんじゃないかって思って。誰かの灰の病を治せれば、罪滅ぼしに……ただの自己満足っすね、これ。そんな下らないことで、姉貴の情報流すなんて……最低っすね、オレ」

 

「そんなこと──」

 

「そんなこと無いッ!!」

 

「マ、マイケル……」

 

 縛られていた縄をするすると解いていき、ガリッパを解放するとすぐさま抱きしめて再び拘束する。

 

「ちょっ、ちょっと。まだ話終わってないんだけど」

 

「もういいだろう。ガリッパは真摯に話してくれた。なら俺たちもそれに見合う対応をするべきだ」

 

「マイケル……お前」

 

「ガリッパ。君は凄いよ。よく頑張ったな」

 

「や、やめろよ……う、くそ……やめろっ、やめろ!」

 

 徐々に涙混じりの嗚咽が聞こえ完全に牙を折られた私は、どっさりとソファに座り込む。沈む体に感覚を全身で味わい、自分が思った以上に緊張していたことに気が付く。

 

 亡き妹のため、ここまで命を懸けられる男が居るだろうか。そんな彼が決死の覚悟で手に入れた灰の病の治療方法。しかし、残念なことに私の手に負えない代物だ。私では灰の病を治す事はできない。例え彼がまだ妹君が存命のときにこれを手に入れたとしても、誰にも救うことは出来ない。

 

 この手紙によれば、灰の病を治すには『一定量の魔力』を特定の方法及び手段での注入する必要があるという。……まるで灰の嵐への対抗手段のようだ。だがそれはきっと偶然ではないのだろう。元はと言えばあの嵐が生み出す灰を吸入し発症する病。詳しい原因は分からないが、何となく辻褄は合っている気がする。

 

 魔力を持つものがもっと早く灰の病について調べていれば、犠牲者はもっと少なくて済んだはずだ。

 

「ねぇガリッパ。貴方の他に、クロードに与している人に心当たりは無いの?」

 

「……他に、っすか。すんません、分かんないです」

 

「何でもいいの。怪しいと少しでも思った人が居れば。それだけでもいいの」

 

「…………あ」

 

 はっとした表情の後、顎に手を当て長考に入るガリッパ。思い当たる節があったのだろう。私は一言も聞き逃さないよう聞き耳を立てる。

 

「黒いローブを来た女……をチラッと見た気がします。クロードの部屋に入っていったのを見たことがあるっす!」

 

「黒いローブ……他に特徴は?」

 

「……黒い癖っ毛が見えた気が……でも、どうだったか……」

 

「黒い癖っ毛……胸は大きかった?」

 

「デカかったっす」

 

 こんな状況で聞く私もあれだけど、即答すんな。そこだけはちゃんと見るな。

 

「何か分かったのか?」

 

 分かったと言えるほど確信なものはない。というより、信じたくないというのが正解だ。たとえそうだったとしても、何故か彼女がここに居るのかが分からない。何のためにクロードに近づいた? クロードに接触して何を起こそうとしているのか。

 

「……1人だけ、思い当たる人物が──」

 

「──テレジーッ、避けろッ!!」

 

 直後、頭上から大きな爆発とともに黒い影が飛来する。咄嗟に回避行動を取り、一命を取り留める。

 

「何っ!?」

 

「あ……この女です!! 黒いローブの……デカ乳!」

 

「ふむ、確かに……デカイな」

 

「オーフィアさんよりデカイんじゃね?」

 

「かもしれんな」

 

「黙れ」

 

 埃が舞う中、徐々に襲撃者の姿が露わになる。

 

 ガリッパの言う通り黒いローブを纏い、全身の様子は伺えない。身長は私より少し低いくらい。露出している腕や足は筋肉質ではあるが少し細い。フードから覗く黒髪と胸元の相当な膨らみだけが分かりやすい特徴だ。

 

 しかし前情報との相違点が1つ。確かに黒髪であることは一致しているが、癖っ毛ではなく縦ロール……のような気がする。あまり手入れされていないのか、ロールが弱いからウェーブみたいになっている。直毛ではないから間違えたのかもしれないが……まぁ男だし、髪型に詳しくないのも無理ないか。

 

 ……ロールヘア。どこかで見たことがあるような──。

 

「っ! ガリッパっ!!」

 

 黒ローブの女は姿勢を下げると、手に持っていた直剣を構えガリッパへと突撃。まるでガリッパ以外が見えていないように、脇目も振らずに走り出した。

 

「させんっ!!」

 

 事態を察したマイケルが即座に間に入り、鎧で凶刃を受け止める。しかし黒ローブの女は意にも返さず刃を力一杯押し込み続ける。

 

「この、離れろ!」

 

 大鎌の石突で側頭部を強打。弾き飛ばしてマイケルとの距離を取らせる。

 

「馬鹿なの!? 相手の武器がどんな性質かも分からないのに、鎧で受け止めるなんて!!」

 

「体が先に動いてしまってなっ! 結果オーライってやつだ!」

 

「だからって──っ!」

 

 黒ローブの女は懐から短銃を取り出すと、ガリッパに向かい発砲した。くそ、ふざけろ。何でそんなものも持ってるんだ!! 

 

「『弾け』ッ!!」

 

 躊躇わずに魔法を使用。部屋中を突風が駆け回り荒れていた室内がさらに乱れる。殺人的な暴風はガリッパの眼前を通り、銃弾全てを弾き飛ばし命中を防ぐ。

 

「う、うわっ!」

 

「テレジー! ガリッパを外へ! 狙いはガリッパだ!!」

 

「っ……分かったわ! ガリッパ、行くわよ!!」

 

「う、うっす!!」

 

 黒ローブの女へと突撃するマイケルを尻目に、ガリッパの手を引いて地上への階段へと駆け出す。

 

「ア、ァァア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

「この、よそ見をするとは! テレジー!」

 

 後ろから高エネルギーの魔力体を感知。どうやらガリッパを狙わなければならない理由があるらしい。重い女は嫌われるぞ。後ろを振り返り、襲い掛かる紫電に備え魔法障壁を張る。

 

 重く伸し掛かる、恐ろしい威力の雷。実態が無いはずの雷で、ここまでの高出力を出すのは至難の業。術者の相当な努力と、天賦の才がなければ成し得ないだろう。

 

「か、階段が……!」

 

 防ぎきれなかった紫電が周囲を破壊し尽くす。爆音を立てながら破壊し尽くされた地上への階段はもう使えない。残るは黒ローブの女が開けた天井の穴のみ。前に進むしか無い。

 

「うおおおおお!!」

 

「ガ、ァァァアァ!!」

 

 だが、そんな危機的状況の私達は、マイケル1人の活躍によって危を脱しようとしていた。

 

「す、すげえ」

 

 あらゆる方向から迫る刃を全て手刀でいなし、一方的に黒ローブの女へと攻撃を浴びせ続けるマイケル。当たり前のように繰り返される絶技の前に、黒ローブの女はなすすべなく崩れる。

 

「真──昇○拳っ!!」

 

「ガアアアアアア!!!!」

 

 全身を使った、地面を掬うような強烈なアッパー。その拳は顎へと命中し、まるで天へと登るような勢いで黒ローブの女は上空へと消えた。

 

 ……消えてしまった。

 

「ふぅ……」

 

「『ふぅ』、じゃなくて。……ぶっ飛ばしちゃったら、話聞けないでしょ」

 

「あ」

 

「ま、危なかったっすから」

 

「……それもそうね。けっかおーらいってやつ?」

 

 本当は捕らえることができればよかったのだが。実際彼女の戦闘力は計り知れない。もしあのまま無力化のために全力を注いでいたら、殺されていたのは私達かもしれない。それぐらい、彼女は危険だ。

 

「……あれがガリッパが見た『黒ローブの女』で間違い無いのね?」

 

「そうっすね……でも、もうちょっと胸が小さかったような……」

 

「胸の話はもういい」

 

 何でそこだけ記憶力いいんだよ。……乳だけ見てろくそが。

 

 黒ローブの女。結局正体は分からず終い。目星は……もはや分からなくなってしまった。そうと断定するものが無く、なにより私がそうと信じたくない事実が多すぎる。……いや、この考えは捨てるべきだ。先入観が真実を捻じ曲げることは往々にしてあるのだから。

 

 ふとシドが話していた殺人事件が思い起こされる。犯人の特徴について彼らが言及することはなかった。だが恐らく、あの黒ローブの女が犯人だろう。もちろん確証はないが、ガリッパに対して真っ向から殺意を持って襲い掛かってきた女だ。ガリッパが誰かに私怨を抱かせていない限り、何者かが仕向けた刺客と考えていい。犠牲になった者たちの共通点が分かればもう少しはっきりするのだが。明日以降聞いてみようか。

 

 刺客か……。何故そんなことを。

 

「取り敢えず、天井直すか」

 

「そうだな……」

 

 せっせと部屋の片付け及び天井の修復を始める2人に倣って、私も荒れ果てた室内の掃除を始める。

 

 ガリッパの話を纏めると、彼が横流しにしていた情報は私とマイケルの行動及びその他諸々。恐らく明日の作戦のことも重ねて報告しているはずだ。動機は灰の病について調べるため。他のスパイの存在は分からないが、黒いローブの女が何やら怪しいと言っていた。

 

 恐らく先程現れた黒ローブの女がその人物だと思われる。そして情報が渡るのを恐れ、ガリッパを消しに現れたのだと推察する。だが、それだけ聞けば大した情報は渡っていないような気がする。態々ガリッパを消す必要があるのか? あまりにもリスクに対しリターンが取れない行動な気がする。ガリッパを殺すことが目的ではなく、他の事に狙いがあったのか? 

 

 今から調べようにももう夜の兆しが見える時間帯だ。それに明日はともすればこの国の命運を分ける大事な日。他の厄介事に手を付けていい時間でもない。……下手にラルクに伝えて面倒事が起きても嫌だ。彼ならガリッパの為と行動を起こしてしまうだろう。それに他の人間にも迷惑が掛かる。

 

 全てが遅い。多分明日面倒事が起きる。それを知ってでも、明日はやってくる。自分の無力さを呪うしか無い。

 

 水面下で動く何者かの思惑。それに気付けなかったのは偏に私が他人との接触を拒んだから。逃げ続けてきた代償が回り回ってやってきた。何も出来なかった、してこなかった私を嗤うために。

 

 いいんだ、全部。明日で変わる。今から変える。私は戦うことを選んだ。もう逃げることはしない。そう決めたんだ。ならどんな壁だってぶち壊してやる。遠慮なんてしない。全ては自分のために。

 

「あ、ここにシ○ワちゃん銅像置こ!」

 

「どさくさに紛れて置くな」

 

 相変わらずだな……マイケルは。貴方のようになりたいよ、私は。

 

 

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