死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが   作:ストロング西岡

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第三十四話 ふたりの戦い

 

 彼女を止めるために全力を出す。それが今私がこの力を解放した理由だ。どんな手段であれ形振り構わない。全力を出すことで彼女への抑止力になるのなら、いくらでもこの体を差し出そう。そうまでしなければ彼女を止められないし、そうまでしなければ、なにか大切な物まで無くしてしまうような気がしたから。

 

 そうまでして、危険を冒してでもでも、私はオーフィアを止めたい。その理由を、この戦いの末に見つけたい。

 

 ……なんて、呑気なことだけ考えていられるなら、そうしたかったのだが。

 

 オーフィアが右足を僅かに地面から浮かし、逆足に重心を移動させた。その時、上げた右足へと魔力が集中していくのを感知した。危険を察知し、左肩へと刺した大鎌を抜くと素早く後方へと離脱する。

 

 直後、広いホール内を激しく揺らす衝撃波が襲う。余波が去った後、オーフィアが踏み抜いた地面を中心に大きなクレーターが出来上がった。万が一離脱が遅れてあの場に残っていたら、致命傷は避けられない。そして、今の彼女に致命的な隙を一瞬でも晒せば、私は即座に肉塊へと姿を変えるだろう。

 

「とんだ馬鹿力ね。脳筋なのもいい加減にしなさい!」

 

「ふふふ……知らないの? 筋肉は世界を救う! ちからいずぱわーっ!!」

 

 およそ10m。オーフィアはその距離を一瞬にして詰め、黒塗りの特大剣による横スイング。問題はない、時間加速で背後に回る。

 

「あははは、二度目は通じないよっ!!!!」

 

 再びオーフィアは地面を踏み抜いて衝撃波を発生させる。今度はチャージ時間が短い。先程と比べれば大した攻撃ではないな。使い分けはできるらしい……脳筋と侮ってはいられないか。

 

「その言葉そっくり返してやるわ」

 

 オーフィアは背後に視線を向けるも、そこには私は居ない。背後に私がいると錯覚させるため、私の魔力を彼女の後ろに配置した。存分に引っかかってくれて何より。これならば攻撃は間に合うだろう。

 

「っ……上!!」

 

 ガギィイインッ!! 

 

 オーフィアの真上に移動していた私は、彼女の首元目掛け大鎌を振るう。刈り取れると思って振った刃はしかし、オーフィアの超反応によって見事阻まれる。盾を上に構えて屈んだ姿勢をとったオーフィアは、鍔迫り合いを仕掛けていた私を全身を使って弾き飛ばす。

 

 やはり思った以上に反応が早い。魔力の気配も断っていたし、オーフィアも魔法を使った形跡もない。人間の限界を超えた超反応──と断じてしまうのは簡単だが、些か信じがたい。

 

「あは、不思議って顔してる……分かるよ、テレジーの考えてることくらい、全部ゥ!」

 

「分かって堪るか……私ですら、私を理解できないんだからなっ!!」

 

 空中を舞いながら姿勢を制御。その間に意趣返しで大火球を発生させオーフィアに放つ。攻撃の構えを取っていたオーフィアは出鼻を挫かれたように後ろへ退避。逃げた先に火柱を魔法で出現させ、足場を奪っていく。火柱の弱点は足元に魔力と僅かな光を発生させてしまうこと。回避は簡単だ。だからこそこういう攻め手には弱い。

 

「かっ、あああ!!」

 

 初撃は魔法か。オーフィアは私が天井から発生させた大火柱の直撃を受けてしまう。全身に火を纏ったオーフィアは魔法で頭上に水玉を作ると、それを頭から落として鎮火させた。

 

 先程の超反応は見せなかった。予想では大火柱を回避したあとに更に続けて攻撃をするはずだったが……検証をする必要があるか。

 

「その技……発想力……いつ、どこで覚えたの?」

 

「優秀な師匠が2人もいたのよ。だから、簡単には負けないし、貴方に勝たなきゃいけないの。それに、もし負けたらその片方から口うるさく言われ──」

 

「そっか……わたしと違うね。わたしは、わたしだけで練習してたから」

 

「……十分強いわ。貴方は」

 

 全身をぶるぶるっと犬みたいに震わせ、水飛沫を飛ばすオーフィア。濡れた髪を上げると、今までほぼ隠されていた顔とともに黒い瞳が顕になる。

 

「強い、だって……? あは、ははは、はははははは! ふざけんなァアア!!」

 

 全身から怒気を発しながら咆哮を上げたオーフィア。叫んだときに垂れ落ちた前髪の間から鋭い眼光を向けてくる。その瞳に憤懣の黒炎が宿ったような幻影を覚えた。

 

「違うよ……わたしはテレジーとは違うの」

 

「オーフィア……?」

 

「戦いは、始まったばかり。まだ、わたしは全力を出してないよ。もっとテレジーを楽しませてあげる。そしてもっと……わたしを愉しませて?」

 

 黒い炎が燃え盛る。それは溢れ出る魔力。後光のように揺らめく黒炎態の魔力を滾らせ、魔法に頼らない完全な技術の結晶たる瞬歩でもって急接近してきた。

 

 特大剣による必殺の刺突。躱せなければ死ぬ、そう思えるほどの気迫が籠った一撃だ。棺を背負うことで両手でリーチを最大限に攻撃を仕掛けてくる。反応が遅れ、足を浮かせながら大鎌でガード。躱せないのは承知だ、だからせめて衝撃を空中で受け流す。

 

 被弾の瞬間にオーフィアから魔力の感知した。大鎌越しにもの凄い衝撃が伝わる。勢いに任せて後ろへと離脱。再びオーフィアは瞬歩で接近。横振り。回避する。返し斬り。それも回避。オーフィアの顔面目掛け右足で回し蹴りをお見舞するも、特大剣の腹で防がれる。読み通り。そこを起点に逆足でもう一度、宙に浮いたまま側頭部に回し蹴り放つ。

 

「ぐっ!?」

 

「捕まえた……!」

 

 特大剣をその場に捨てたオーフィアに両手で左足を掴まれ、背負投される。受け身を咄嗟にとって続く特大剣の連撃を交わし続ける。

 

「逃げ足が早いね……これならどう? 『開け、棺よ』」

 

 オーフィアは背負った棺を左手に装着すると、強く地面へと突き立てて短く詠唱のようなものを行った。

 

 勢いよく黒棺の扉が開く。奇妙なほど中が暗くて判然としない、まるで棺の中に暗闇を宿しているようだ。瘴気を放つ棺の中から人の顔を象り、黒炎を纏う人魂状の魔力の塊が無数に飛び出してくる。

 

「『走れ、怨霊』」

 

 再びの詠唱。その瞬間、宙を彷徨っていた人魂がこちらへと急接近してきた。

 

 ギャアアアアァ!!!! 

 

 苦しそうな、悍ましい叫び声を上げながら突進してくる人魂の群れ。後ろ、横、前へとステップで交わし続けるも、誘導性が高く中々振り切れない。大鎌に人魂──怨霊たちが持つ魔力と反対の性質の魔力を付与させ、怨霊を打ち消しつつ叩き切る。ある種のアンチマジックだ。そうすれば実体がなかろうと、魔力でできたものならば霧散させられる。名付けて悪霊退散斬りだ。安直だが呼びやすいから今はこれでいい。

 

 イタイ……イタイ……。

 

 ヤメテ……タスケテクレ……。

 

 人魂が口にあたる部位を動かして、人語に聞き取れないこともないうめき声を上げる。

 

「……! こいつら、まさか」

 

「よそ見厳禁」

 

 ……よそ見はしてない。ただ、聞きたくないものを聞いてしまって意識が揺らいだだけだ。これからは無視すればいい。再度特大剣による刺突を跳躍で交わし、オーフィアの頭を踏みつけ空を飛ぶ。

 

「消えろ!!」

 

 魔力最大。先程よりも大鎌に魔力を纏わせ、追ってくる怨霊に大鎌の乱舞を披露。大鎌の運動エネルギーを利用して魔力経由で魔法へと変換し、斬撃波を周囲に飛ばす。空振り分の力を無駄なく使う。

 

「あは、潰してあげるっ!!」

 

 オーフィアは斬撃波を棺で弾きながらハイジャンプ。私の頭上から特大剣を振り下ろす。そうはさせない。何度も攻撃を受けて堪るか! 

 

「魔力小爆発!」

 

 右手に魔力を蓄え、爆発系の魔法を発現させる。しかし意図的に魔力を過剰に送ることで性質が変化、暴走する。オーフィアの特大剣の横っ腹に全力の拳で殴りつける。

 

 ドガァアアアアン!!!! 

 

 攻撃を中断し即座に防御の構えをとったオーフィアだが、敢なく撃沈。爆発を受けて地面へと転がり落ちた。

 

 両手をついて着地。これで状況は五分になった。しかしこのままじゃジリ貧だ。大鎌じゃリーチがあるが取り回しが悪い。もっと接近してインファイトを仕掛けたほうが特大剣には有効だ。その分死のリスクが高まるが問題ない。全部躱せ。

 

 大鎌形態変化。右手に曲剣、左手に棍棒。二刀流なら近づきやすいだろう。

 

 曲剣を媒体に雷を前方に迸らせる。棺に結界を張って凌ぐオーフィア。その隙に時間加速で急接近。棺横から棍棒を差し込む。しかし、半身で避けられ、今度はシールドバッシュが来る。回転しながら左へ避け、裏拳の要領で曲剣を振るう。特大剣でガード。棍棒で殴打、と見せかけて更に回転し曲剣の一撃。これもガードされる。ならば、雷を纏わせ下から掬い上げるような斬撃。

 

「ふんっ!!」

 

「かっ!?」

 

 命中の直前、棺の先で腹を突かれ地面を転がる。姿勢を整えつつ、地面から大火柱を出す。もちろん回避される。だからその場所に落雷を発生させる! 

 

「ぁ、あああがあああ!!」

 

 反応が遅れ、その身に雷を受け絶叫するオーフィア。しかし、ふらふらと危なげながらも、持ち前の胆力で膝から崩れることなく立ち続けている。

 

 1つ、分かったことがある。それは、オーフィアの魔力感知能力は低い、ということ。魔力感知能力はその人物の魔力適正……主に総魔力量に依存し、魔力量が多い程魔力感知能力が高い傾向にある。しかし、前提として私達追放された『子供たち』は魔力を蓄積、魔法を扱う……言わば仮想脳とでも呼ぶべき場所から根こそぎ魔力を奪われた影響で、その手の分野に弱くなっている。

 

 私は余りある魔力量のお陰で被害は軽く済み、尚且つ今はエリナから魔力を供給して貰ってる。そのため以前と同じ、もしくはそれ以上に魔力感知が鋭くなっていると考えられる。

 

 しかし、オーフィアはそうではない。オーフィアは元々魔力量が少ないため、魔力を奪われた際に仮想脳が酷く損傷しその結果、魔力感知能力が著しく低下した。今は魔力石で魔力を補填しているのだろうが、それでも先程からの反応から仮想脳の回復は見られない。それが今の彼女の状態だ。

 

 ……であるならば、彼女の超反応は彼女の鍛錬の賜物なのだろう。魔力で私の居場所を感知できないのであれば、それ以外の要因を疑うしかない。今はとりあえず魔法であれ何であれ、あれを覆せるほどの技をぶつける必要がある。

 

「もらった!」

 

「まだ……まだあぁあああ!!! 『嘶け、怨霊』っ!!」

 

 接近しようとステップを踏むも、オーフィアは棺を打ち付け、扉が開く。今度は人魂ではなく2mはあるだろう、露出が多いアーマーを装備した、ヴァイキングを彷彿させる巨漢の幽霊が出現。両手でハンマーを作ると、地面へと振り下ろす。私は無理やり体の方向を曲げて、その場からすぐさま飛び退く。

 

 激震。立っているのも困難になるほどの揺れがホール内を充満する。その直後、私が立っている地面が隆起し、即座にバックステップ。その後人間を5、6人束ねたような太さの柱が出現した。あれをまともに食らっていたら大怪我は免れ無いだろう。

 

「……この怨霊たち、囮部隊のやつらか?」

 

「よく分かったね。そうだよ。この棺に……魂を閉じ込めたの」

 

「最低よ」

 

「そうかな……。この人達と喋ったことないし……どうも思わないや。テレジーも、そうでしょ?」

 

『そう』とは、『他人を害する行為』のことを言っているのなら、私はここで否定しなければならない。

 

 貧民街に来たばかりの私は、持ち前のくだらない倫理観に縛られた温室育ちの少女だった。人から凌辱され、詰られ、全てを奪われた私は、思い描く『人間らしさ』のままでは生き残れないことを悟った。だから、己の中に眠る──己の中にも眠る、人間なら誰もが持つ『獣性』に身を窶した。それこそが、ここでの生き残り方だと思った。

 

 私は人を殺した。私自身が生き残るために。しかし、それは間違いであるかも知れないが、同時に正解でもある、誰にも否定も肯定もできない現実で、事実だ。そうしなければいずれ自分が死んでいた。無垢な生娘のままでは届かない未来だ。

 

「貴方と同じにしないで。死者を愚弄する真似はやめなさい」

 

「利用してるだけだよ……そのまま殺しちゃ、もったいないでしょ?」

 

 だからこそ、私を殺しにくる奴らを殺したのは、その行動にある種の敬意を持ったからだ。……確かに私利私欲のままに私を殺しに来た奴らもいる。しかし、生きるために人から奪うことを選んだ人間だって今までいたはずだ。なら、そいつから私も奪う権利はあるはずだろう。そうやって自分を誤魔化しながら私は生きて来た。

 

 しかし、オーフィアのそれは私の新たな倫理に反する行為だ。殺すだけならまだいい。しかし、それをおざなりに扱うどころか人の魂を道具として扱うなど、今まで生きてきた人間があまりにも報われない。

 

「へぇ…………。テレジーって結構、甘ちゃん……だね」

 

 巨漢の怨霊による地鳴らし。そして続く地団駄からの衝撃波が身を襲う。喧しい、このままじゃ動けない! 揺れが収まった隙を縫って疾走。懐まで潜り込んで悪霊退散切り。一度では消えないらしく、体が僅かに揺らいだ程度だ。ならいくらでも切り刻む! 

 

 ァ、アァ……テレ、ジィ……オー……フィ、ァ…………。

 

「っ──ぐっ!?」

 

「よそ見厳禁。……2度目、だよ?」

 

 聞き覚えのある声。無視すると決めたはずの怨霊に気を取られ、その正体に意識を割かれた一瞬。がら空きの背中に特大剣の一撃を受けてしまう。身体強化のお陰か、骨が折れるまではいかなかった。一先ず転がりつつ打撲を治癒し、体制を整えオーフィアと正面から向かう。

 

「……あん、た……、人の、心が……無いの!?」

 

「それは極めて失礼……。でもテレジー……この男に嫌なことされてきたでしょ? なら、別にいいよね?」

 

「生憎、その男だけじゃなく、他の男からも女からも色々あったのよ。どちらも平等に嫌いで……皆同じくらいどうでもいいの」

 

「そう……なら分かるまで、その体に叩き込んであげるっ!!」

 

「オーフィア──貴方の棺ごと……腐った性根を叩き斬る!!」

 

 ああ、悲しいな。多分この子は生来の『人間』に対する考え方が違う。私達は分かり合うことはできないのだと、悟ってしまう。けれども、私は私の道を信じる。それでも彼女を止める。だって今諦めてしまえば、私はたった今決めたことですら守れない人間になってしまう。もう逃げないと誓った自分でいるため、私は戦いをやめない。

 

 巨漢の怨霊……『彼』は大きな巨体を活かして高速タックルを仕掛けてくる。その横からオーフィアが並走しているのが見える。その特大剣には黒炎が纏わりついていた。恐らく、あれは魔力石由来の魔力ではなく、彼女本来の魔力なのだろう。魔力石の魔力を自分の仮想脳へと送り込んで、魔力へと変換しているのだ。魔力は人によってその性質を大きく変える。オーフィアの魔力は黒炎。それがどのような経緯で生まれたのかは、彼女のみが知る。

 

 正面の『彼』を足止めするため魔力結界を展開。怨霊は魔力によって形成されているため、結界を通ることはできない。

 

 顔面から結界にぶつかった衝撃がホール内に伝播する。とんだ馬鹿力だ。召喚主に似るのだろうか。横から迫りくるオーフィアの黒炎を纏った特大剣を回避。懐に入ろうとした瞬間、特大剣が通った後に遅れて黒炎が発生。慌てて回避するも少し間に合わず鼻先がヒヤッと触れた。正に出鼻を挫かれたといったところか。

 

 冷たい……『黒炎』は通常の炎のように熱を発生させるものではなく、触れたものの熱を奪う吸熱性を持った炎だ。鼻先が妙に気になりコートの袖で何度か擦る。一瞬触れただけで鼻先がじんじん痛い。もろに喰らえば一瞬で凍傷どころか、氷漬けまっしぐらだ。絶対に喰らうわけにはいかない。

 

「わたしは女性が好きなの……凍結させて部屋に飾ってあげる」

 

「そんなことは聞いてないし、させないわよ!」

 

 虚空に特大剣を振るわれる。そして先程よりも広範囲に黒炎が迸る。咄嗟にバックステップをしつつ試しに火球を放つ。だが徐々に黒炎に勢いを殺され、道半ばで消失しオーフィアに届くことはなかった。

 

 グワアアアアアアアア!!!! 

 

 唐突に全力疾走を決め、展開した結界を物理的に破壊した『彼』は私目掛け地面スレスレのアッパーカットを放ってきた。身体強化出力上昇。迫りくる拳に中段蹴りを当て、その右拳を破壊する。他の怨霊とは違い中途半端に実体があるなら、こういう荒業もできる。『彼』は失われた右拳を抱え、痛そうにその場に蹲った。……人らしさを残すな、やりにくいだろ。

 

 攻撃の余韻もそこそこに、風魔法を周囲にはなってタイフーンを起こし、振るわれた特大剣の黒炎をやり過ごす。勢いが殺されなかった僅かな黒炎だけ回避。これは駄目だな、勢いが凄まじい。風魔法は逆効果か。私は再び『彼』に迫って、悪霊退散斬りの乱舞をお見舞いする。

 

 ゥワアアア……!! 

 

「『走れ、怨霊』!」

 

 棺が開く。人魂が次々と現れ、一斉にこちらへと急襲。悪霊退散効果を2つの武器に纏い斬る。曲剣、棍棒を右へ左へ上へ下へ振り、また突き、なぎ、打ち。いくつかの人魂をステップでやり過ごすと、怨霊が触れた地面から黒炎の柱が発生し、霜が一面に広がる。もし触れていれば即死級の攻撃を受けていたのだろう。全く末恐ろしい技しかない。……本当に強い相手だ。

 

 走る。オーフィアとの距離を埋め右手の曲剣で左側から斬りかかる。と見せかけて棍棒による下段攻撃。やはり対応され棺で弾かれる。続いて右足で上段蹴りからの踵落とし。どちらも後ろへ回避される。踏み込んで両手でクロス切り。棺でガードされるも、押し込むように返しで逆斬り。クルッと回転しさらに横から同時に叩き斬り。そして全力の中段蹴り。僅かに体勢を崩すオーフィア。その隙間に曲剣を差し込む! 

 

「ああ、強い。強いよ……テレジーっ!!」

 

 確かな感触。曲剣を引き抜き遅れて血が宙に舞う。『彼』による足蹴りを回避するため、棺を蹴って3角跳びで後ろへ後退。着地際を狙った拳に棍棒を振り下ろして反撃。そのまま跳躍して『彼』の首元まで空を翔ける。

 

「……さようなら」

 

 曲剣による首元を狙った一閃、悪霊退散斬り。怨霊であっても致命傷になりうるだろう攻撃に、『彼』は為す術もなく崩れ落ちる。

 

 ァ……リガ……ウゥアアアアア…………。

 

「はぁあああっ!!!!」

 

「くっ!!」

 

 感傷に浸っている場合はない。下段から迫りくる特大剣を曲剣で受け流す。遅れて黒炎が舞う。それに対し、炎を纏った棍棒で打ち消す。吸熱反応を起こすのなら、熱を吸いたいだけ吸えばいい。こちらは既に燃え盛っている! 

 

「もう対応してくるの? ……いいね、いいねいいねいいネェエエ!!!!」

 

 狂ったように笑いながら、棺を背負って特大剣をぶん回すオーフィア。それと同時に黒炎が襲う。弾き、打ち消す。何度も死線を掻い潜る。

 

 時間加速。後ろへとステップし、高速移動。時折加速を緩めつつ、急襲。しかし防がれる。再び加速し攻撃。ガード。3度目の加速の時、オーフィアは周囲へと黒炎を撒き散らす。回避しつつ、針の穴を通すように黒炎の隙間から突進攻撃。だが読まれていたのか、オーフィアは黒炎を飛ばす。棍棒で打ち消しつつ大火球を飛ばす。

 

 特大剣を地面へと突き刺し、オーフィアの周りに黒炎の嵐が巻き起こる。泡が割れるように弾け飛んだ大火球。爆発を目眩ましに、軽く飛んで斜め上から曲剣で襲いかかる。

 

「いい目をしてるわ……それは独りで練習した成果?」

 

「違うよ……ただの先読み。見てれば分かるよ? ……特にテレジーは分かりやすいけどっ!!」

 

「へぇ、私ばっかり見てていいの?」

 

「え……いたっ!?」

 

 コツン、とオーフィアの頭に『閃光炸裂弾』が落ちる。大火球と同時に頭上に投げておいた閃光炸裂弾がちょうど頭に落ちたらしい。

 

「私も……貴方のことなら少しは分かるわよ」

 

 時間加速による高速離脱。オーフィアも離脱しようとするが間に合わない。

 

 ピカッ、と強烈な光が走る。直後、広範囲に高威力の爆発が起きる。目が良すぎる分、魔法と私の動きに警戒してその他のことが疎かになっていた。灯台下暗しというやつだ。

 

 煙が消えきる前に、その渦中に突撃。ガツン、と棺に棍棒が当たる。オーフィアは纏う服をボロボロにしながら、腕や足を大きく怪我をしつつも何とか立ち上がっていた。

 

「もう魔力がないのでしょう? 降参しなさい」

 

 受けた傷を回復させる素振りが見られない。身体強化魔法の維持と、私への最後の切り札であろう黒炎の付与に精一杯で、回復へ回す魔力に余裕がないのだろう。

 

 私の消費した魔力はほぼゼロ。時間加速は燃費が悪く、後に尾を引くかと思ったが、意外と何とかなる。というより想定よりも減りが少ない。いくらエリナの魔力を含んでいるとはいえ、我ながらあまりにも魔力量が多い。魔力量が増えたのか。

 

「……余裕ぶった態度、気に食わないっ!! 『響け、怨霊』っ!!」

 

 棍棒が棺の開扉で弾かれる。5、6体の怨霊が飛び出し、その場で耳障りなかな切り声をあげる。思わぬ反撃に一瞬動きが止まってしまう。

 

「……喰らえっ!!」

 

 黒炎を纏った特大剣の刺突。怯んだ体に直撃──の瞬間、時間加速で右へ避け、悪霊退散斬りを怨霊たちに振るう。流れ際にオーフィアへ曲剣を振るう。

 

「『捕まえろ、怨霊』っ!!」

 

「!? こいつ!」

 

 曲剣がオーフィアに当たる直前、隠れていた怨霊が右手へと噛みつき動きが止まる。攻防のせめぎ合い、その途中で一瞬でも動きを止めればどうなるかは自明の理。オーフィアは特大剣を逆手に持ち柄で側頭部を突く。棺を捨て、両手で構えた黒炎を纏う特大剣のスイングが腹へと吸い込まれる。

 

「ぐっ、がああぁぁぁぁああああ!!!!」

 

 ホール内を一直線に飛び、そのまま背中から壁へと激突する。直後、当たったところを中心に凍結が全身へと侵食していく。

 

「あ、ぁああああ!?!?」

 

「あはははは!! もっと、もっと痛めつけてあげるっ!!」

 

 地面へと転がる私は、オーフィアに腹をつま先で蹴り上げられる。蹲る私に追撃の足蹴。何度も何度も踏み付けてくる。その一撃一撃の衝撃が凄まじく、激しい痛みが脳内を転がりまわる。

 

 それに寒い。酷く体が震えている。回復魔法を施したから凍結による人体の破壊は免れた。しかし、極度の冷えが末端まで行き届き、軽く痺れているかのように悴んでいる。

 

「それ……特大剣の、効果……?」

 

「そう……この特大剣は通した魔力を増大させる効果があるの……凄いでしょ。わたしが作った自信作」

 

「凄いわね……そんなこと、ぺらぺら喋るなんて、ね……!」

 

 ピンを抜く。それは言わずもがな手榴弾の。そして最後の一発。

 

「──小癪」

 

 投げようとしたその時、手首を強く掴まれてその場に爆弾を落とす。それを見届けてオーフィアはその場から退散する。体勢が悪く、投げ返そうにも時間がない。

 

 だが忘れたか。私は魔法師だ。手なんか使わなくとも手榴弾のピンは抜けるし、投げれもする。敢えて眼の前で抜いたのは、油断を誘うためだ。

 

「がぁぁあぁああああああ!!!!」

 

 魔法で投げ飛ばした手榴弾はオーフィアへと飛んでいき、その懐で大きな音を立て爆発。身体強化をしていたとはいえ手榴弾の爆発だ、体幹を揺するのには御誂え向きだ……! 

 

「テレジーィイイイ!!!!」

 

 曲剣を右手に構え、オーフィアに刺突。黒塗りの棺盾で防がれるも、続けて中段蹴りを棺に放つ。少し押し込まれたオーフィアに左手の棍棒を振るって盾を剥がすように攻撃。しかし振るわれた特大剣によって阻まれ、屈みつつ回避。空いた隙間に飛び膝蹴りを仕掛け、隙を強引に作る。

 

「これでとどめよ」

 

 飛んだ位置エネルギーを利用し、大きく振りかぶった曲剣による袈裟斬りを放つ。

 

「あははは! 油断したねェ、テレジーィ!!」

 

 オーフィアはただでさえ重い棺と特大剣を持ちながら、宙にいる私に鋭いサマーソルトを放つ。姿勢を制御して何とか防ごうとするも僅かに失敗し、曲剣が勢いよく手元から弾かれる。

 

 調子付いたオーフィアは特大剣を何度も振るう。それに対し両手で構えた棍棒で何とか受け流すも、流石に相手の腕力、そして技量の高さで圧倒され反撃ができない。

 

「そんなこと言って……怨霊は? 黒炎は? 今使えば簡単に倒せるでしょ……何で使わないのかしらね!」

 

「使うまでもないよ……今のテレジーなんか!」

 

 右肩のタックル。反応が遅れまともに受けてしまう。たたらを踏んで体勢を崩した私に、オーフィアは大ぶりの一撃を放つ。

 

「終わりだよ、テレジー!!」

 

「……本当に油断してるのは、どっちかしら」

 

 体勢を崩した『フリ』を辞める。素早く懐に入り込んで体を半身に棍棒を持ちつつ左手を軽く前に突き出して、右手は腰まで引く。腰を低く落として左足は前、右足は後に構える。

 

「──魔穿孔」

 

 右足で地面を踏み抜く。そして右手の掌底で腹を撃ち抜く。

 

「かはっ!?!?」

 

 敢えて威力は落とした、中途半端な『魔穿孔』。それは私の意志であり、そしてこれからの行動の布石である。突如体を襲った衝撃に思わずオーフィアは声を漏らし、今まで以上に、この場においてあまりにも致命的な隙を見せる

 

 左手の棍棒を右手に持ち替える。それを天へと突き上げる。

 

 ガチャン。

 

 棍棒に確かな感触を覚える。繊細な制御に自信がなかったが、どうやら上手く行ったらしい。

 

「な……そんなっ、そんなのありえない!!」

 

「魔法は奇跡じゃない……偶然を起こすものなのよ」

 

 右手に弾かれた曲剣を棍棒と合体した『大鎌』を構える。もちろん偶然ではないし、例えば弾かれた場所に移動したとか、そんなふざけた事象ではない。いち早く曲剣の場所を把握し、それをタイミングよく引き寄せて棍棒と結合させただけ。とはいえ、敢えてオーフィアに曲剣を弾かせるのには苦労したが。

 

 鋭く踏み込む。咄嗟に棺盾を構えるオーフィア。しかしこのままでは大鎌で攻撃したところで、ここまでリスクを背負って作り出した絶好のチャンスに見合うリターンを得られない。ならば、1つ。試したいことがある。

 

 この大鎌には分離機構がある。言わずもがな曲剣と棍棒のことだ。大鎌の刃は大鎌の柄の先から細い棒状のものでくっついている。刃と柄との間の棒状のものが曲剣モードの柄になる。ならば、これを大鎌モード時に変形させればどうなるか。

 

「大鎌変形──剣槍モード」

 

 大鎌の刃が柄と直線上で一体となり、使い勝手の良いリーチのある剣槍へと変化する。身を捻って繰り出した剣槍による一閃。がら空きのオーフィアに吸い込まれていった凶刃は、確かな感触を伝えた。

 

 ──バギィン!! 

 

「そんな……!」

 

 耳に響く金属音……それはオーフィアが藁にも縋る思いで構えた黒塗りの棺が、無惨にも真っ二つになる音だ。

 

 オーフィアの黒棺。その材質は硬質な木材か、よく鍛えられた鋼鉄か、定かではない。しかし、なんであれ所詮それらはこの大鎌の素材アダマンタイトには勝てない。それにこちらは腕利きの鍛冶師が、魂を込めて打った逸品だ。斬れないものはない。

 

「終わりよ」

 

 変形解除、大鎌モード。剣槍モードは悪くなかったが、先程の一撃で刃と柄の接地箇所の辺りから嫌な感触を覚えた。想定されていない運用をしたせいで、変形機構に罅が入ったのかもしれない。変なことは思いつきでもしないほうがいいと学んだ。

 

「断ち斬れ、デスカッター」

 

 がら空きのオーフィアの体を右斜め下から左斜め上に抜けていく大鎌──デスカッター。

 

 両手に伝わる確かな感触──残心。この一撃でオーフィアを完全に仕留めることができたと悟った。私達の戦いは幕を閉じた。

 

「え……なん、で……?」

 

 膝から崩れ落ちるように倒れるオーフィア。大鎌を地面へと捨て、私は地面と激突するする前にオーフィアを抱きかかえる。戦闘によってボロボロになったオーフィアの黒のワンピース。しかし、先程の大鎌の通り道には流血や切り傷、それどころか服の破れすら見受けられない。

 

「貴方の持っていた魔力石──あれだけ斬ったのよ。あと貴方の魔力を奪った。今は急激に体内の魔力が消失したことによる軽いマインドダウン状態になってる」

 

「そっ、かぁ……わたしの負け、だ……」

 

 腕の中で力なく笑うオーフィア。その表情は戦闘中に見せた狂気的な笑みとは一線を画すほど綺麗で、私の好きなオーフィアの笑顔だった。

 

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