死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが   作:ストロング西岡

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第三十六話 唸れ、乾坤一擲

 

 マイケルの前へと躍り出ると即席の物理障壁を展開する。直後ドシン、と重たい衝撃が両手から伝わってくる。

 

「ぐっ……!? ……この馬鹿ッ、何でもっと早く言わないの!?」

 

「まさかこんな事になるとは思わなくてなッ、ハッハッハッ」

 

「状況分かってんの、笑ってる場合かッ!?」

 

 障壁に魔力を送り込む。身にかかる重荷が軽くなった。これならそのまま爛れた人狼を押し返せる。腕にぐっと力を入れつつ、魔力を込めていく。少しずつ突進の威力は減少していき、最後はこちらが勝って押し返すことに成功。……なんとか耐えられたか。

 

「陽気パワーは回復しそうにないの?」

 

 あれ以上怒っても仕方がない。今は現状の把握とこれからの作戦に思考を回すべきだ。

 

「しばらくすれば使えるようになる、と思うが……」

 

「ならそれまで、貴方に身体強化の魔法をかけるわ」

 

 予想通りの答えだ。私はマイケルのチェストプレートに手を添える。触れた手を介して魔力を伝達させ、徐々にマイケルの体が緑の魔力光に包まれていく。

 

「お、おお……これが身体強化の魔法。力が漲ってくるぞッ」

 

「最初は自分の動きに違和感を覚えるかもしれないけど、すぐに慣れて。じゃないと力の入れ過ぎで死ぬわよ」

 

「お、おう……少し怖いな……?」

 

「でも……死ぬくらいなら私の近くまで下がって。回復をかけるわ。本当は遠くでも出来るのだけど、集中力がいるから今回は無理」

 

「分かった……それはいいがテレジー。そんなに魔法を使っていいのか?」

 

 剣を構えながら、恐らくだが、横目でこちらをチラリと見てくるマイケル。彼には魔力の感知が出来ないから、私が今大量の魔力を抱えていることを知らないのだろう。

 

「ええ、問題ないわ。貴方は貴方の役割を果たしなさい。私も……そうするから」

 

「そうか……よし、やってやるぞッ!!」

 

 そう意気込んだマイケルは、特大剣を上段に構え爛れた人狼へと突撃した。

 

 私が魔法障壁を解除し、その間マイケルが爛れた人狼を引き付けつつ私の護衛をする。彼のほうが荷が重い。厄介な仕事を任せてしまった事を申し訳無く思う。しかし、彼ならばやってくれると、無条件で信じる私がいる。それだけが今私を支えてくれる。

 

「オーフィア……もう少し、待ってて」

 

 今は失われた彼女の原型に思いを馳せる。もうこれ以上苦しまなくていいよう、私が貴方を終わらせる。そのための力を、私は持っている。ならば十全に使ってそれを、果たすのみ。

 

 さて、これからは私も魔法障壁解除作業に全力を出さなければならない。まずは解読からだ。手を頭にかざし、片方の手を爛れた人狼へと向け、障壁から発せられる魔力波を受け取る。その間に空いた視線は常にマイケルに合わせ、不測の事態に対応できるようにしておく。不信からではない、むしろそれは逆。ただ、もうこれ以上大切に思える人が、眼の前から居なくならないでほしいと思っているだけだ。

 

 頼んだわよ……マイケル! 

 

 ……信頼してるんだから。 

 

 ☆ ☆ ☆

 

「うぉぉおおおお!!」

 

 上から叩き潰すように特大剣を振るう。やはり例の『魔法障壁』とやらに防がれ、振るった特大剣は大きく弾かれる。

 

 ガァァアアアアアッ!! 

 

 左の爪による爪撃を一歩下がって避ける。しかし思ったより力が入って姿勢を崩してしまう。だがそれが功を成したのか追撃の爪撃を回避できた。

 

 むぅ、身体強化魔法恐るべし。まるで自分の体じゃないかのようだ。オーフィア殿の特大剣もバットのように軽い。片手でも振れそうだ。

 

「おっと、それは当たらないぞッ、ほ〜ら!」

 

 ヘッドスライディングしながら鷲掴みを狙う化け物をするりと躱し、体を踏みながら反対方向へ。まるでブ○ンカだな。挑発に乗った化け物はまんまとこちらへ猛然とダッシュしてきた。これでテレジーから距離を離せるな。思う存分戦える。

 

 右手のクローを特大剣で受け流し、左手の正拳突きを受け止める。だいぶ力の加減が分かってきた。これくらいの無茶は無茶になり得ない。むしろ余裕だ。全くテレジーは凄いやつだ。彼女が居なければ俺はとっくに死んでいた。……一層、気張らねばな。

 

 オーフィア殿の特大剣。確かに強いが流石に元の世界ではこんな武器を持ったことはなかったから、扱いがよく分からん。精々がM4くらいなもんだ。その点エレノア殿の武器はピースメイカーみたいなやつで扱いやすかった。あれはどこで手に入れたものなのだろう。この世界には魔法という誰もが扱える武器が存在するのに、銃が普及しているというのが驚きだ。速攻力がある分目視可能な範囲では銃の方が強いのか。……いや、『誰でも』とは間違いか。それであればこの国はもっと早くに灰の嵐の脅威から逃れている。

 

 化け物による爪撃を躱す、躱す、躱す。そうして何度か回避していると、化け物は叫び声を上げながら両手を天井へと突き出した。

 

「マイケル!! 後ろに飛んでっ!!」

 

 全身に黒い炎を纏った化け物。特に両椀には今にも溢れそうな大量の黒炎が巻き起こっている。右爪による縦振り。間合いから外れ避けたかと思ったが、しかし黒炎がこちらへと襲撃する。

 

「うぉっ!?」

 

 なんと範囲攻撃とは。驚いて足を挫いたお陰で、被弾は避けられた。これからはもう一歩ステップを踏んで黒炎の範囲から逃れる必要があるな。ふぅ、身体強化の魔法がなければ即死だった。 

 

 頬を冷たい残り火が撫でる。火なのに氷に触れたように冷たい。不思議な感覚だ。だが事実あれは火ではないのだろう。流石異世界と言ったところだ。いずれにせよど触れたところでいい事は1つもないだろう。なら回避一択だ。当たらなければどうということはない! 

 

 黒炎の一撃。範囲から逃れつつ、さらに訪れる黒炎を回避。避けたところに大口を明けた化け物による広範囲の黒炎ブレス。まずい、流石に躱し切れないぞ。

 

「─―『弾け』ッ!!」

 

 ヒットの直前、強烈な横風で黒炎が吹き飛ばされ何とか当たらずに済む。

 

「助かったッ! テレジー」

 

「構わないわ。あんなの私でも避けられない」

 

「あの黒い炎を何とかできないか、テレジー」

 

「無理ね。魔法障壁があるから、まずはあれをどうにかしないとね……作業に戻るわ!」

 

 テレジーは脂汗を流し、頭を抑えながら難しそうな顔でぶつぶつと解読作業に戻る。黒炎ブレスを喰らいそうになったせいでテレジーに遅れを取らせた。あれを撃たれたら敵わん。ショートレンジに入って撃ち辛くしよう。

 

 左へ右へと揺さぶりをかける。すると化け物は釣られて拳を振るうもそこには俺はいない。又を抜けて背後に回ると特大剣を背中に振るって存在感をアピールしておく。振り向き際に裏拳と共に黒炎が迫る。特大剣で防ぎつつ、後ろへ後退。

 

 いや、それにしても随分ひんやりとしたな。特大剣で隠れてもこれか……凄い威力だ。くぅ〜、キンキンに冷えてやがるっ……悪魔的だ! 

 

「っ、よしっ! マイケル、物理障壁を何個か壊した! 攻撃が通りやすくなってるはず!!」

 

「よし来た、任せろッ!!」

 

 身体強化様々の踏み込みで一気に化け物に距離を詰め、特大剣の一撃を与える。すると今度は先程とは違い化け物の爛れた皮膚に直撃し、その腕を醜く変形させた。

 

 グゥァァァァァアァアアアァアァアア!!!! 

 

「確かに、これなら……テレジー、行けるぞッ!!」

 

「っ……! え、ええ……まだ解除は終わってないから、頼むわよ」

 

 一瞬虚を突かれたように狼狽えるテレジーは、再び難しい顔をしながら作業に戻る。なんだかさっきからテレジーの動きに違和感を覚える。見落としてはいけない何かがあるような気がしてならない。

 

 体中から血を流しながら、こちらへの敵意を剥き出しに襲いかかってくる化け物。今まで見た魔獣とはわけが違う。こいつの正体は一体何なのだ。

 

 化け物は魔法を使用したのか、湾曲した左腕がみるみる治っていく。左腕を治せるなら他の部位だって治せそうなものだが、そうもいかないのか。とはいえ、ああも治されてばかりだと骨が折れる。……魔法はずるいな。俺も使えれば……いや、そんなifは考えても仕方がない。

 

 黒炎ブレスを出させないよう、牽制をするために化け物へと接近。両手でハンマーを作った化け物による振り下ろしを、特大剣によるホームランで弾き返す。続いて踏みつけによる攻撃を特大剣で弾くように受け流し、流れで足の指に刺突。移動を制限できれば幸いだ。

 

 ガァァアアアアア……! 

 

 藻搔き、苦しそうに叫ぶ化け物は足元にいる俺目掛け、自分が巻き込まれるのも構わず黒炎ブレスを放った。

 

「無理は承知だッ!」

 

 嘗てやったゲームのジョブ、竜騎士のジャンプよろしく高く飛んで上空へ退避。幸いこの空間は天井が高い。上へならいくらでも避けられる。

 

「うぉぉぉおおおお!!!!」

 

 上空へ黒炎ブレスが放たれる。それを特大剣で真っ向から受け止める。手が凍傷になりかけながらも何とか耐え凌ぎ、眼前に迫った化け物に全力の叩き斬りを放つ。しかし、特大剣は宙を切り裂き、空振りに終わる。その時寸前で避けられた化け物による、飛び回し蹴りが飛んできた。

 

「ぐぉ!?」

 

 何とか特大剣を間にはさみ、衝撃を和らげることに成功。しかし、当たりどころが悪く肩を痛めてしまった。腕も折れているだろう。だが、左腕だけだ。なんとかなる。

 

「馬鹿ッ! 怪我してるでしょ、早くこっち来なさい! 今治すから!!」

 

「え? あ、ああ……助かる、テレジー」

 

 跪く俺のすぐ横にテレジーがいた。そんなところまで運ばれたのか。戦闘に夢中で忘れていたが、怪我はテレジーの魔法で回復できるんだったな。どうにも慣れん。

 

 魔法による治療……さっきはああ言ったが、やはりいいもんだ。もう痛みを感じない。むしろさっきより調子がいい。肩こりが治った感じに似ている。実際治ってるのかもしれん。手の凍えも解消された。手が悴んで動かないといった心配はなくなった。すっげぇぞ、これ。

 

「いいわよこれくらい…………ごめん、もうちょっとかかるかも」

 

 申し訳無さそうに暗い顔をするテレジー。やはり何か思い詰めているように見える。多分あの化け物が関係しているのだな。それでも彼女が今それを話すことを良しとしなかったのは、それだけの理由があるのだろう。なら、敢えて聞かずに待つというのが男というものだろう。

 

「ああ、問題ないッ。君の為ならあと1秒だけ稼ごうッ」

 

「お願い、もっと稼いで!?」

 

 ふむ、冗談にツッコミで返せる程度にはメンタルは良好だ。なら今は余計な心配はしなくて良いな。

 

「あの黒炎は熱を奪うの。もう体寒くない?」

 

「大丈夫だ。テレジーに触れていると心が熱く燃える」

 

「っ、そ、そういうの今いいから……!」

 

「ふむ、なら今度改めて言わせてもらおうかッ」

 

「も、もうっ! ……危なくなったら戻ってきなさい。必ず治すから」

 

 恥ずかしそうに頬を掻きながら、再び解読を行うテレジー。しかし今は先程と違って眉間に皺が寄っていない。リラックスできたようで何より。場を和ませる冗談には自信がある。俺にはそれくらいしかできないからな。

 

 改めて人狼然とした化け物と相対する。醜く皮膚は爛れ、傷は癒えているのに流血は夥しく、何故今も立ち上がれているのかが不思議なほど。痛みに苛まれているのか時折小さく呻いている。

 

「…………」

 

 少しだけだが、テレジーが言うところの『陽気パワー』が溜まっていく感覚がある。忌々しい、陽気なんて言葉に似つかわない悍ましい能力。そして、それを使わなければテレジーを救えない皮肉。そんな自分が嫌になる。

 

 ──たが、まだ『陽気パワー』を十全に使うには足りない。テレジーを守り魔法障壁を突破するためにもう少し、この人狼然とした化け物と戦うこととしよう。恐らく、それが今できる最善の選択肢だ。

 

 地面へと爪を突き刺すと化け物は、床を切り裂くように振り抜く。黒炎を纏った瓦礫と、斬撃波が飛来する。特大剣で防ぎつつ、斬撃波を回避。続く斬撃波は飛んで避ける。死がチラつくような必殺の爪による横振り、回し蹴り、踏みつけを回避し、足を止めた隙を突いて特大剣の一撃をお見舞いする。しかし化け物に爪で弾かれ、今度は裏拳が迫る。特大剣で咄嗟に防ぐも、あまりに重い攻撃にたたらを踏む。一歩引こうとした化け物に対し、すぐさま刺突を横っ腹に叩き込んで離脱を防ぐ。

 

 化け物の体が一瞬赤く光る。その直後、化け物の手には人間一人分の大きさの大火球が出現し、こちらへと投げてくる。

 

「……多分、出来るはずだ!」

 

 防御と回避の構えを捨て、特大剣の切っ先を大火球へと向ける。

 

 陽気パワー、解放。剣を自らの一部であると錯覚するほどの集中力。その剣先に触れた途端、大火球が分解し魔力が特大剣へと吸収されていく。なにも、何かを題材にしなければ陽気パワーを使えないわけではない。想像力が足りないから、その力を借りているだけだ。だからこれくらいの芸当なら可能だ。

 

 無事全ての大火球を吸収することに成功する。しかし、眼前にいたはずの人狼は、口にから溢れる黒炎とともに化け物は大きくジャンプをすると、上空から黒炎ブレスを放った。こちらが大火球への対応を迫られているうちに、必殺の攻撃の準備をしていたのか。あんなに錯乱した状態になっても尚冷静な思考を保っている。恐ろしい戦闘力だ。

 

 陽気パワーが溜まっていくのを感じる。体の芯からじんわりと暖かく心地良く、無限の可能性を体感する、そんな不愉快な感覚。

 

 陽気パワー、再び解放。出し惜しみは要らない。ここで使い切ってしまえ。内に秘めているというだけで悪寒が走る。

 

 自らの限界を超えた、超常たる力が漲っていく感覚。黒炎を寸前で避けつつ、化け物へと肉薄する。

 

「ツキが無かったなッ!!」

 

 一撃目は顔面に。通り抜けて、二撃目は背中に。三撃目は腹。腕、足、肩、など、全身を次々と、何度も切り叩いていく。そうして最後の十五撃目。上段に構えた特大剣による、渾身の振り下ろし。

 

「どりゃぁあああ!!!!」

 

 グァァァアアアアアア!!!!!! 

 

 大きな爆発。超新星爆発を思わす衝撃をその見に受けた化け物は、地面を転がって大きく隙を晒した。特大剣に吸収させた魔力を解放するときだ! 

 

「燃え尽きるがいい──ヒートブ○イドッ!!」

 

 激しい業火を纏う特大剣を、体を中心に振り回すような6連撃。そして最後にクルッと一回転して遠心力を利用した7撃目を放つ。7撃目とともに、地面から噴火を彷彿とさせる大爆発が化け物を直撃した。

 

 タイミングは完璧だ。この技が命中したということは、魔法障壁は既に解除されている。これ以上ともない隙を作り出し、そしてここまで化け物を追い込んだ。最初から満身創痍だったことを鑑みれば、よくここまで善戦したものだと思う。……いやはや、何故敵を労っているのだろうか俺は。

 

 吹き飛んでいく化け物。それを追って俺の上を高速で通り過ぎていく人影。テレジーだ。最後は彼女が決めると、言外にもそう語っていた彼女に俺は全てを任せることにしよう。

 

「魔神旋風脚ッ!!」

 

 体をコマのように回転させながら、衝撃波とともに何度も蹴りつけるテレジー。それらを辛うじて全て防ぎきった化け物は、素早く跳躍すると空中機動でテレジーの周囲を翻弄するように飛び回る。宙を翔けながら黒炎ブレス、黒炎球、柱など、これでもかという攻撃を、テレジーは全て炎をぶつけることで回避していく。凄いな……本当にファンタジーな世界なんだな、ここは。

 

 テレジーは一瞬屈むと、勢いよく宙へと飛び出して化け物へ追いすがる。壁や床、天井などを駆使して空中で殴り合う化け物とテレジー。時折魔法を駆使しながらの高速戦闘。黒と赤が入り交じる花火さながらの爆発の連鎖に俺は見惚れた。

 

 地に先に降り立ったのはテレジー。続いて体をボロボロにしながら地面へと落下してきた化け物は、命からがらその場を立ち上がる。ふと人狼の姿が消えたかと思うと、ガシンッ、と背後からの爪撃を肘と膝で挟んで白刃取りしたテレジー。力強く挟まれた爪は粉々に砕け散った。誂えた武器を失った化け物は大きく隙を晒した。

 

「…………」

 

 ──ふと、化け物とテレジーの戦いを見ていて気になることがある。テレジーがあの化け物を見るとき、どこか辛そうにしているときがあった。あの黒い体毛に、あの戦い方……どことなく既視感を覚えなくもない。それに、あれは獣の戦い方というより、窮地に陥って形振り構わなくなった人間の戦い方だ。

 

 ……例えば、これが元人間だったと仮定して、それがテレジーが辛い表情を見せるだけの思い入れのある人物である可能性。そして、ここにいるはずのない『囮部隊』のオーフィア殿の特大剣。切り裂かれた棺の残骸もチラリと見えた。

 

 そんなまさか、と思った。

 

 しかし、その結論が頭から離れない。だが、そうと断言するにはあまりにも信じがたい。いやそれを言うのならこの原状とこの世界が、俺にとって現実とか空想とかあったもんじゃない。何があろうと不思議ではない。その先入観こそが真実を歪ませるフィルターだ。

 

 その『誰か』は、臨んでこの姿になったわけではないだろう。考えられる理由は単純。あまりにも戦闘には向いていない貧弱極める姿になって戦う必要はないからだ。誰かによって仕組まれた策略に巻き込まれたと考えるのが自然だろう。まるでテレジーを取り巻く『悪意』の1つような、嫌な気配がする。

 

 虫酸が走る。何故だ。何故彼女にこんなにも多くの『悲劇』が襲う。一体誰が、何のためにテレジーを追い詰めるのだ。そんなの、理不尽だ。そんなの、あまりにも悲劇が過ぎる。

 

「待て、テレジーッ!」

 

 だがこの場において誰がそう仕向けたのかはどうでもいい。ただ、テレジーが目の前の人狼を亡き者にする事を良しとしてはいけない。ならば、ここで止まっている暇はない。俺が、俺が止めなければ。悲しみの連鎖を断ち切って、彼女を幸せにすると決めた、過去の俺とそうしたい今の俺に殉じる為に、全力を尽くせッ! 

 

「────魔穿孔」

 

 ……だが願い虚しく、必殺の一撃は放たれた。

 




書き直し版はここまでになります。ほら、失踪しなかったでしょ?

37話以降はもうしばしお待ちを……。
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