死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが   作:ストロング西岡

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第三十七話ッ もう止めましょうよッ!命が勿体無いッ!!※それでも、守りたい世界がある

 

 ──魔穿孔

 

 魔力を込めた掌底が爛れた人狼の腹部へと直撃する。その時。

 

「うぉおおおお!!! ライフで受ける!!」

 

「ッ!?」

 

 滑り込むように間に入ったマイケルに、全力の魔穿孔が当たる。

 

「ぐはあああ!?」

 

「あっ……」

 

 なすすべなく吹き飛んだマイケルは、背中から爛れた人狼にぶつかる。

 

「マイケルっ、マイケル!!」

 

 おぼつかない足取りでマイケルのもとへ近付く。爛れた人狼が衝撃を和らげてくれたおかげか、潰れずに──。

 

 何を冷静に分析している。私が今何をしたのか、本当に分かっているのか? 

 

「マイケル!! ねぇ、目を開けて、マイケルっ!!」

 

 掌底を当てた腹部の装甲はひしゃげて跡形もなく壊れ、装甲の一部が内側に曲がって腹部を突き刺して、止め処無い出血を引き起こしている。兜を取り外しながら、マイケルの額から溢れた血を拭って安否を確認する。……目を開けてくれない。

 

「治って……治って!! 早くっ、マイケルっ!!!」

 

 思いつく限りの治療を行う。体中の怪我は古傷も含めて全てが消え去り、血の痕跡すら残さない。体内から失われた血も復元させた。既に極めて安全な状態であると言える。

 

「なん、で……なんで、返事してくれないの……なんで!!」

 

 分かっている。本当はもう分かっている。

 

 回復魔法は欠損した体の部位を治すのことはできる。現に潰れかけていたマイケルの肋骨や肺を回復できた。だが、唯一。回復魔法には治せないものがある。

 

「あ、ああ……あああああ!!!!!」

 

 胸の中心から伝わる律動が止まる。

 

 人の死だけは、技術が溢れかえった現代でも治すことは出来ない。どんな魔法も魔術も、科学も啓蒙も、祈祷も(まじな)いも。死の前では無力だ。

 

『無力』だ? ……何だよそれ。

 

 ふざけるな。ふざけるなふざけるな!! 

 

 彼を殺したのは誰だ。──私だ。

 

 外部の法則を引用し、自分の行いに非がないことを証明しようとした愚か者は誰だ。──私だ。

 

 オーフィアを救う。だが叶わず責任に駆られて手を掛けようとし、それすら出来ずに全てを失った原因は誰だ。──私だ。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 

 全ては、私のせいだ。

 

「…………」

 

 エレノアが死んだのも、ガイ殺されたのも、シドが穢されたのも、オーフィアを苦しめたのも。……私が原因。

 

 本当はもっと、私が前に出て計画を無理にでも歪めて……こんな作戦をやるべきではなかった。あまりにも不安要素が多すぎた。ガリッパのスパイ行為。黒ローブの女。クロードの思惑。……リンウェルの不穏な態度。これらを容認してまで実行に移すべきではなかった。私1人で、貴族街に赴けば良かったんだ。

 

 逃げないと誓った結末がこれ? ……笑えない。なら一体今まで私は何のために逃げていたの? 

 

 誰かを頼ることで、自らが弱くなっていくのを日に日に感じていた。これが末路。自分の役目すら果たせず、もはや何も残っていない。

 

「まだ、貴方は苦しんでいるというのに……私は……」

 

 マイケルから手を離し、何となく視線を上げる。そこにはマイケルがぶつかった衝撃で、もはや再生すらできなくなった爛れた人狼。先程から何もしてこないかと思えば、そういうことか。ど道理で私に引導を渡してくれない訳だ。……いつからだ。こんな、他力本願な考えをし出したのは。

 

 いつか誰かに言われた『選択を間違えた』という言葉が脳裏をよぎる。その通りだ。逃げないことが、こんなことを引き起こすのならいっそ、私は──。

 

「貴方とは、出逢いたく……なかった…………」

 

 ☆ ☆ ☆

 

「あ、ああ……あああああ!!!!!」

 

 ……これ、どういう状況? 

 

 俺の顔面を強く抱きしめる感覚で目を覚ました。耳元で大きな泣き声が響き、テレジーが酷く悲しんでいるのが伝わる。何故かテレジーは『俺が死んだ』と勘違いし、悲しみに打ちひしがれている。

 

 ……自分で悲しんでいるとか言っちゃうのがちょっとはずかしいが。勘違い男みたいだ。というか心臓、動いてるの気付かないのかな。

 

 まさか鎧の上から手を当てて脈の確認してないよな? 

 

 ……でもまあ、勘違いするのも無理ないよな。凄い痛かったし。死ぬかと思ったわ。でも今は不思議と体が痛くない。というか絶好調。テレジーが一生懸命回復魔法を掛けてくれたおかげだろう。肩こりと腰痛と膝が治った。凄いや。

 

 これ以上心配を掛けるのは悪い。起きるとしよう。

 

「貴方とは、出逢いたく……なかった…………」

 

 それは……違う。

 

 違うだろ。

 

 俺は関係ない。君がこの世界に挑み続けることに、俺は関係ない。

 

 君は凄い。今までもずっと、俺が想像する以上に辛い過去を背負いながら、逃げずに挑むことを選んだ。それは茨の道以外の何物でもない。挑むというのは、艱難辛苦を受け入れ歩むこと。俺には選べなかったその選択肢を、君は躊躇なく選んだ。その勇気が何より君を歩ませた。その勇気が消えゆくというのなら。例え君がより辛い道に進むとしても……俺は背中を押したい。多分君ならきっと、越えられる。

 

 この国にいる限り、君は幸せになれない。

 

「それは……違──」

 

「貴方のことを……好きにならなければよかっ──」

 

「──う……?」

 

「った…………え?」

 

 目を開けてガバッと勢いよく起きようとしたその時、眼前のテレジーの思わぬ告白に虚を突かれ言葉尻が狂ってしまう。え、今言うのそれ……? いやまあ愛の告白はいつでもウェルカムだけど。

 

「マイ……ケル……!?」

 

「──復ッ活ッ」

 

 なんか気まずい。テレジーの嬉しくてはにかむ顔も、驚愕して呆ける姿も、羞恥に震える体を眺めるのも悪くないが、それに興じるのはちょっと場違いだ。空気は読めないのではなく読まない男でありたい。

 

「マイケル復活ッッ! マイケル復活ッッ!!」

 

「マイケル!!!! うわああああああああん!!!」

 

「おお。よしよしいい子いい子」

 

「ああ、あぁ!! こどもあつかい……するなぁあ!!」

 

 胸に飛び込みえずいてくしゃくしゃになったテレジーの顔。こんなに心配されちゃ男冥利に尽きる。懐に仕舞ってあるガリッパから譲ってもらったハンカチで涙を拭ってやり、乙女としての体裁を保たせる。

 

「うぅ……ひっ、ぐぅ……うぅううう……なんで、生きてんのよ……! 心臓、止まってたでしょ……!?」

 

「うむ、テレジー…………鎧の上から脈を測っただろ」

 

「…………あ」

 

 瞬時に顔を朱に染めるテレジー。口をわなわなと開閉させて取り乱し始める。こういう所あるんだよな、テレジー。いつもクールでしっかりしているように見えて、抜けてるというか何と言うか……アホの子だよな。絶対に言わないけど。

 

「それにしても凄いな……俺の鎧がボロボロだ」

 

「……そ、そりゃそうよ。私の全力だったから……って、そうよ!!」

 

 突如大声を上げたかと思えば、テレジーは怒り心頭な様子で俺に突っかかってくる。

 

「何であんな事したの!!」

 

 あんな事……ああ、そういうことか。体を起こし軽く動かして不調がないかを確認する。いつまでも寝てはいられない。俺たちにはまだやるべきことがある。

 

「何で、あんな……私を、心配させないで……もう、二度としないで」

 

「すまんな。あれしか方法が思いつかなくてな」

 

「……説明して」

 

「ふむそうだな……手短に言うとだ、あの人狼は、オーフィア殿なのだろう?」

 

 テレジーの刺すような視線が揺らぎ、動揺が伝わってくる。図星だな。俺の予想は当たりだった。

 

「……どう、して……それを……」

 

「何となく。テレジーの様子とあの人狼の戦い方とか……まぁ勘だな」

 

「……っそんな、勘であんな事を──いえ、もうそれはいいわ……」

 

 呆れたのか、矛を収めてため息を吐く。ようやく落ち着いてくれたようで何より。

 

「オーフィア殿がああなってしまった経緯を教えてくれないか。もしかしたら、陽気パワーなら……オーフィア殿を救えるかもしれない」

 

 オーフィア殿本人であるのが確定したのなら、やることは1つ。

 

 救う。絶対にテレジーに殺させない。何があっても助ける。折角出来たテレジーの友達だぞ。簡単に居なくならせてたまるか。それに……そんな別れは悲しいじゃないか。

 

 それに。

 

「……分かった。教える」

 

 ──こんな『忌々しい』力でも、使いようによってはテレジーを救える。皮肉すぎて反吐が出る、どうしょうもない力に。俺は頼るしか無い。

 

 ☆ ☆ ☆

 

「恐らく魔法石はオーフィアの体全体と融合して、今の巨体を造ってる。だから、魔法石だけを取り除くのは現実的じゃない、と思う」

 

「なるほどな」

 

 一通りの説明を終え、一息つく。長く喋ったおかげで頭の中を整理でき、幾分か冷静さを取り戻せた。先程までのヒステリックな私とは違う。現実と向き合い、彼女を本当の意味で救うためにこの時間を使う。独り善がりではなく、今度こそオーフィアを助けるんだ。

 

 マイケルには、マイケルと別れてからオーフィアと戦い、そして異形と化した経緯とそれに関する私の考察を説明した。

 

「何か、思いついた?」

 

「うーむ。閃きそうな何かはあるのだが……」

 

 腕を組んで唸り声を上げるマイケル。私も並んで考えてみるが、私の乏しい発想力では限界がある。何かヒントがあれば、マイケルは閃いてくれるだろうか。

 

「もし、体内に散った魔法石を完全に取り除くことができたとしたら……どうなる?」

 

「そうね……考えられるのは2つ。何事もなくオーフィアの体に戻るか……急激な仮想脳の魔力量変化によるショックで、体が崩壊して原型を留めなくなるか。かしら」

 

 前者の説は希望的観測、としか言いようがない。だからその場合は考えない。

 

 オーフィアに埋め込まれた魔法石は何者かによって『異形化の魔術』が施されていた。魔法石内に蓄積された魔力を流し、強制的に魔力障害を引き起こして対象者を脆弱化させる。魔力的な抵抗力が薄まった所に異形化の魔術を自動発動させ異形化。あくまで予想の範疇であるが概ねロジックとしてはこの辺りだろう。

 

 ただ1つ懸念点があるとすれば、今のオーフィアの人体の維持を、何が請け負っているのかという点。

 

「もしオーフィアの生体維持活動の主体が、オーフィアではなく魔法石に移り変わっていた場合……それが失われれば当然オーフィアは死ぬ」

 

 オーフィアは現在、魔法石に蓄積された魔力によって体を繋ぎ止めている状態だ。実際爛れた人狼はその姿を形作った時から虚弱で、形成不良が目立つ部位がいくつも見受けられた。その不整合さを回復魔法による再生で無理やり取り繕い、体組織を活性化させてなんとかそれらしく見せていただけのハリボテ。それが今回の異形化。

 

 ……恐らく、これは失敗作。作成者が想定していたものとは違う結果となった可能性が高い。考えられる失敗した理由は、魔術を施した時点でのオーフィアの魔力が少なすぎたこと。本来はもっと魔力量が多い状態で魔法石を融合させることを想定していたのだと思う。でなければ、あんな不出来な魔獣を作り出す理由がない。それではただ対象者を甚振りたいだけの、やけに手の込んだ悪趣味な魔法石だ。

 

「ならば、魔法石を取り除いた後、テレジーが魔力をオーフィア殿に与えれば良いのではないか?」

 

「1回だけならそれでいい。でもその後恒久的に必要になるというのなら無理よ。……私の今の状態は長くは持たないの」

 

 今は胸の魔法石に刻まれた魔術を発動させ、私がエリナに譲渡した分の魔力を含め、エリナが持つ全ての魔力を受け取っている状態。しかし、あくまでそれは一時的な魔術。しばらくすれば魔力はエリナへと返される。体感の話になるが、恐らくもう長くはない。あと数10分もすれば私は元の無力な存在になる。……いや、それは前から変わらないか。

 

「あ、魔法石……魔法石があればオーフィアの生体維持ができる」

 

 私の魔力は現在エリナから受け取った魔力を魔法石に蓄積。そして魔法石を介して仮想脳へ送り込み、魔法へと変換している。言ってしまえば今のオーフィアの状態と近い。ならば、理論上は魔法石さえあればオーフィアに持続的な魔力の供給が可能になる。態々私のように埋め込む必要はない。本来はちょっとの細工さえ施せば、肌見放さず持っているだけでいいんだから。

 

「テレジー、何処に行くんだ?」

 

「オーフィアが魔法石を持っていたことを思い出したの!」

 

 確か……この辺りだったはず。私がオーフィアを実体のない魔力で魔法石とともに斬り伏せた場所。

 

「これだ! ……でも、これじゃ込められる魔力が少ない」

 

 綺麗に分断された魔法石は元は片手で握れるくらいのサイズだったのだろう。今は丁度半分くらいの大きさになって2つの半球へと姿を変えている。オーフィアとの戦闘の余波で潰れなかったことを幸いと思うべきだろう。

 

 魔法石に込められる魔力量の総量は、魔法石の大きさを係数に魔力吸収率……鉱石の純度を掛けて2次関数的に増加していく。だから、半分になったサイズの魔法石にそれぞれ魔力を充填しても、元のサイズの時の魔力総量には到底届かない。そのため例えこれを生体維持のための装置にしても、すぐに枯渇してしまうだろう。

 

「これを直せば良いのか?」

 

「……直せるの?」

 

「多分……それ、ぴぴ○ぴるぴるぴ○るぴ~」

 

「あ、出た。気持ち悪い呪文……でも凄い。元通りだわ!」

 

 マイケルの陽気パワーによって2つの半球は1つの球を成す。オニキスを彷彿とさせる黒い魔法石は、相当な純度であることを伺わせる。手をかざして余計な魔術式が刻印されていないことを確認し、さっそく魔力を充填していく。

 

「……でも、魔法石があっても……オーフィアの体から魔法石を取り出さないと」

 

 そうだ。そもそも前提がおかしい。一番最初に魔法石を取り除くことは現実的ではないと結論付けたはずだ。

 

「む、それなら大丈夫だ。俺に考えがある」

 

「考え……?」

 

「ああッ。体に散りばめられた魔法石……言わばウイルスを取り除けばいい」

 

「そういう捉え方もあるわね……?」

 

「ならあの技しか無い……ル○エキ○トラ○トだッ」

 

「る、るな○きすと○くと?」

 

 また変なこと言い出した。頭が混乱しそうになるが……しかし、今はそれでいい。確かに彼は時たま奇々怪々な言動をするが、そのどれもが最善の結果をもたらして来た。だから、私は彼を信頼する。彼の言葉は正しい、と。

 

 爛れた人狼……変貌を遂げてしまったオーフィアの下へ歩いていく。鼻腔を刺す血錆びた臭い。見れば見るほど痛々しい全身の傷の数々。オーフィアから溢れ続ける血の海を渡り、その足元へとたどり着く。先程まで暴れ狂っていたオーフィアは鳴りを潜め、ただ横向きで静かに唸り声を上げているだけ。こちらに気付いてはいるだろうが、攻撃の構えは一切見せない。そんな気力すら無いのだろう。

 

「俺が陽気パワーで魔法石を取り除く。そしてテレジーはその間オーフィア殿の体に異常が起きないか見張りつつ、魔力の供給を行う。完全に魔法石が取り除かれたら、魔力の供給はそのままに生体維持を新たな魔法石へとすげ替える……これでいいんだよな」

 

「ええ……いつもそれくらい記憶力を発揮してくれていいのよ……」

 

「やるときはやる男なのさ」

 

「頼りにしてる。……さぁ、やるわよ」

 

 まるで糸口が見えなかった暗闇に光が刺す。私1人では彷徨うばかりで、結局孤独に震えることしかできなかった。だが、今は違う。マイケルが隣りにいる。それだけで、今まで見えなかった場所まで光が当たって、自分が立っている場所がはっきりと映る。

 

 ──真っ暗な崖に架けられた縄橋。縄は草臥れ繊維の何本かは切れていて、いつ落ちてもおかしくはない。

 

 マイケルは集中力を高めた様子でオーフィアの前に立つ。するとマイケルの胸前に淡い光が生まれる。それを下から掬い上げ手に乗せる。左の掌をゆっくりと突き出して光をそっと押す。すると魔力の籠もった光がオーフィアへと吸い込まれていく。

 

「ア、アァアァ……」

 

 光を浴びたオーフィアは先程までとは違う穏やかな声を上げる。するとオーフィアの異形な体に変化が訪れる。

 

「凄い……」

 

 オーフィアの体が光へと包まれ、次第にその形を粒子へと変えていく。恐らくあれがオーフィアと融合していた魔法石。細かい粒子となった魔法石が上空へと消えていく。……そろそろ私の出番だ。

 

 いま、助けるから。目を瞑って全神経を前方へと向ける。ただの魔力の移送なら別に集中しなくてもいい。だけど今は、すこしの魔力も無駄にしたくない。胸の前で両手を使ったサークルを作る。そこに私の仮想脳から魔力を引き出して、一切の無駄なく送るために圧縮する。

 

「……っ」

 

 目を開け視界を回復させる。光に包まれた中から、懐かしい幻影が映る。動揺するな。まだ終わってない。これからだ。

 

 圧縮した魔力をオーフィアへ流す。急激に流すと逆効果だ。抜けていく魔法石と同じくらいの量の魔力を供給していく。魔力が枯渇していて且つ、度重なる戦闘で疲弊しているオーフィア。ほんの些細なことでも魔力操作を誤れば、どんな悪影響が出るか分からない。集中力の居る作業だ。だが関係ない。必ず、成し遂げてみせる。

 

 逃げない。どんなに辛くとも、逃げない。絶対に、逃げるもんか。

 

 あれからどれだけ時間が経ったか。オーフィアから抜けていく粒子の量が目減りしていき、そして遂に。

 

 粒子は全て無くなった。

 

「っ、オーフィア!」

 

 だが冷静さを欠くな。魔力の供給は足りているだろうが、万が一に備え一応続けておく。黒コートを脱いでオーフィアに近づいて被せる。これで一先ず関門は過ぎた。そしてもう1つ。魔法石をリンクさせ、魔力の供給先を変える。

 

 魔法石をオーフィアに近づけ、魔力の波長を調整していく。魔力はそれを持つ存在によって形を大きく変える。私の持つ魔力とオーフィア持つ魔力は本質的には同じだが、その内部の特徴は微妙に違う。言わばもう1つの血液。

 

「……これで……終わり…………」

 

 魔法石との同期を確認。魔力の供給を切る……よし、魔法石から魔力が流れてる。オーフィアは、無事だ。

 

「やった……やったぁ……!! やっ、たあ…………」

 

 助けられた。こんな私でも力になれた。

 

「っ、テレジー!」

 

 意識が乱れ、オーフィアの隣へと倒れ込む。腕に力が入らず無抵抗のまま側頭部を打ち付ける。しかし痛みは感じない。全身が柔らかな布団で包まれているような、心地よい感覚に身を任せる。……マインドダウン。胸の魔法石から魔力を感じない。魔術が途絶えたのだ。よかった、間に合って。あと少しでも遅れていたら。

 

「ご、め……ん……後は、まかせ……た……」

 

「ああ……任せておけ」

 

 またあの時みたいにマイケルに頼ることになってしまう。けれどそれでいい気がする。彼なら受け止めてくれると信じているから。

 

 ──マイケルの言葉を皮切りに、繋ぎ止めていた意識がぷつん、と音を立てて切れた。

 

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