死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが   作:ストロング西岡

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第三十八話 無尽

 

「本当に……ごめんなさい」

 

「…………」

 

 オーフィアは深く頭を下げる。相対するラルクは依然様子を変えない。人が少ない会議室に緊張感が走る。

 

「どんな罰も……受け入れます」

 

「……要らないよ、そんなのは」

 

「……けど、わたしは」

 

「許した訳じゃないよ。……絶対に許せないし、そんなつもりもない」

 

 拳を固く握り、肩を震わせながらまっすぐとオーフィアに向き合う。

 

「けれど……オーフィアも、クロードに脅されて……仕方なくやっていたんだろ? ……なら、責められないよ」

 

「それは……」

 

「それは少し違うんじゃないか。ラルク」

 

「テレジー……」

 

「オーフィアは、オーフィアの意志で戦っていた。クロードに従っていたのは事実だが、それでも全ての責任を奴に投げていい道理はない。オーフィアにも、罪を背負う義務がある。それが『大人』だろ」

 

 暫くの沈黙。石のように固くなって身動き一つ取らないラルクは、ゆっくりと頷く。

 

「そう、だね……考え直す必要があるみたいだ」

 

「……うん。なんでも、言って」

 

「じゃあ……これからは穏健派として、力を貸してほしい。いや……力をくれ」

 

「……そんなので、いいの?」

 

「『そんなの』でも、必要なんだ。今の僕たちには、とにかく力が必要なんだ」

 

「うん……分かった。何でも、する」

 

 ──先の作戦から1週間と少したった今日。オーフィアへの審問会とは名ばかりの話し合いの機会を設けた。

 

 私が倒れた後、マイケルが私とオーフィアを穏健派のアジトに運んでラルクと合流。その2日後に私が目覚めた。

 

 私が昏睡状態にあった理由は、魔術の効果が切れその影響で起こったマインドダウンが原因だと思っていた。しかし、実際は魔法石内の急激な魔力減少が魔力障害を引き起こし、意識障害が発生したのが原因だった。

 

 起きてからは止むことのない頭痛に酷く悩まされた……正直今も痛い。魔法が使えればすぐにでも治すのだが、1週間たった今でも魔力が回復しないためその手は使えない。仮想脳が過度に損傷している様子もないことから、恐らく一時的なものだと推測している。もうしばらく待てば元通りの魔力量になるだろう。そうなればパラダイスだ。

 

 問題だったのは、それ以外の部分。全身が軽く痺れ、力が入らないこと。体を起こす適度の動きならできるが、戦闘は愚か食事すらままならない。長時間歩くのも辛いくらい。これも魔力障害による弊害だろう。一時的なものなのかそれとも後遺症として残るのかは定かではないが、取り敢えずリハビリがてら体を動かすことだけは毎日続けている。

 

 そして私が目覚めた2日後にオーフィアが覚醒。諸々の事情説明や後遺症の確認、軽いリハビリなどを通して健康のチェック。問題ないことが確認されたため、今日の審問会を開くことが決まったのだ。

 

 今回の騒動での余波はレジスタンスに大きな打撃を与えた。

 

 穏健派は中枢を含む多くの構成員を失った。これにより両手で数えられる程に人員が減り、実質解散となった。

 

 革命派はカリスマ的人気を誇っていたリーダー、クロードの死によって崩壊。纏まりが無くなった彼らは自由奔放に各地に消え去り、残ったのは亡きクロードの意思を継ぐ者とアスキアへの愛国心だけ。

 

 この1週間でラルクは残った革命派の人間等と和解。皮肉だが、あまりにも大きな傷が再びレジスタンスを統合させる要因となった。それからラルクはレジスタンスのリーダーとして就任し、心を入れ替えたように取り組んだ。元革命派たちの懐柔、物資の調達やその他調整、人員集めに奔走した。その結果……既に1カ月後には貴族街への『侵攻作戦』が計画されているらしい。

 

 ……ちらりとラルクの顔を伺う。頬は痩せこけ服は汚い。髪も無造作に散って前までの好青年らしさは見る影もない。その変化に、私がどうこう言える筋合いはない。ただ、見守ることしか出来ない。

 

「へぇ……オーフィアさんの『意思』、ねぇ。流石、責任を投げ続けてきた奴が言うと説得力が違うなあ。中々面白い自虐ね?」

 

「……リン」

 

「ねぇ、ラルク。そろそろこれ、解いてよ。もう1週間もまともに腕を使えてないの」

 

「ごめん、それはまだ無理だよ」

 

 酷く髪を乱し、肌は荒れ、小汚い顔を醜く歪めてこちらへと嗤い掛ける女……リンウェル。椅子に縛り付けられたリンウェルに近付き、見下ろすような位置で止まる。

 

「ほーんと、何でまだ生きてんの? ……死ねよ」

 

「貴様には色々と聞きたいことがある」

 

「えー、嫌だな。リンは話すことなんて1つも無いけど」

 

「……クロードに情報を渡し、襲撃計画を企てたのはお前だな」

 

 髪を鷲掴み、無理やり顔をこちらへと向かせる。1週間頑張ったおかげで、女を甚振るくらいの力は戻ってきた。脅しにはもってこいだ。……だがリンウェルは全く気にも止めずニヒルな態度を変えることはない。

 

「違う、って言ったら──ぐっ!? 乱暴は……良くない、いっ!?」

 

 顔面に一発、さらに一発と拳を埋め込む。一瞬ラルクの手が伸びかけたのが目に入ったが、遠慮はしない。一応幼馴染みが眼の前で甚振られるのは気の毒だろうと思い、事前にラルクにはある程度の『暴力』をすると警告してある。ラルクには配慮するが、この女にはそれも必要ない。

 

「情報は揃ってる。私の聞いたことにのみ答えろ」

 

「……そうだよ、リンだよ。お前を殺すために、クロードを利用した」

 

「リン……! なんで、こんな事を!」

 

「あーでも流石に予想外だったなぁ。マイケルさん……貴方本当に何者? 攻撃タイプゴーレムを倒しちゃうなんてさ……貴方のために折角用意させたんだよ?」

 

「ふむ……そうだろうな」

 

「あ、貴方はやっぱり気付いてたんだ……そこの馬鹿女とは大違い。計算違いだったな」

 

「……マイケル」

 

「気付いたのはテレジーと再び合流した時だ……手遅れだったよ、その時には」

 

「そうね……」

 

 ま、その事はいい。結果論に口出ししてもいいことはない。手元にある情報を纏めた紙を見返し、確定したものには丸をつけていく。

 

「クロードとの繋がりは?」

 

「態々聞くんだ、それ……いい度胸してるね」

 

「いいから答えろ」

 

「レジスタンスが分裂する前から知り合いだった……主にリンとラルクの両親が。連絡を取り出したのは1年半前」

 

「それ……もしかして『あの日』からか……?」

 

 ラルクは目を見開き、リンウェルを見つめた。

 

「そうだよ……『あの日』から、今日のために準備してきたんだあ」

 

『あの日』とは大体1年半前の事件を指す。

 

 クロードは元々今のレジスタンスとは別の組織のリーダーであった。ある時にレジスタンスからクロードに『組織力を高め、より強固な連携をもってアスキア国民総出の大革命を起こす』ため、組織への勧誘をした人間が居た。それがラルクとリンウェルの父親だ。

 

 彼らは全盛期のアスキア時代からの知り合いで、結婚し家庭を持つ頃になっても交流を途絶えさせなかった。灰の嵐が発生し国中が混乱に陥る事態を憂いた2人は、国民を集めて団結させ革命を起こすことを決意。レジスタンスの主導者となったラルクの父親と、その補佐官のリンウェルの父親。彼らによる組織運営が始まった。

 

「リンはね……ちょっとだけ、ラルクにも怒ってるんだよ」

 

「…………そうだよな」

 

「なんで……なんで」

 

 ガチャッ、と鎖が軋む音が室内に木霊する。

 

「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!」

 

 クロードは勧誘を受けて組織を統合させると、レジスタンスの影響力は高まった。クロード率いる組織は軍出身者が多く、組織の戦力強化に大きく貢献した。

 

 それだけなら良かった。あのクロードがなんの考えも無しにレジスタンスに与する訳がない。

 

 クロードはレジスタンスに加入して半年程たった時。貴族街から追放された私を保護した。

 

「この、女は……リンとラルクのパパとママを殺したんだよッ!? なんで、そんな女を仲間にできるの!? そんなの、おかしいよ!!」

 

 私を使い、ラルクとリンウェルの親子を襲撃するようクロードに命じられた。それが私の初任務。命令に従い私は用意された爆弾で、両家が一緒に家で団欒しているところを襲った。その時に『生存者を残せ』とクロードに言われ、運良く生き残ってしまったのがラルクとリンウェルの2人。だから恐らく、これがクロードによる策略だと知らない。私単独による虐殺だと思ったはずだ。少なくとも当時は。

 

 ……だから、2人にとって私は因縁の相手。リンウェルが私を嫌う正当な理由だ。

 

「リンはクロードも嫌い。だけどそれ以上に……貴族が憎い。貴族さえ居なければ、お父さんとお母さんは死ななかった。ラルクは、リンだけを見てくれた……なのに、この女が……この女が! すべてを壊した!!」

 

「…………」

 

「ほら、ラルク。言ってみてよ。命令されてたから『仕方が無かった』って。それとも、命令されていても『罪を背負う義務』があるって言ってみる? 生意気だよね……リン達を前にしてそんな事言えるなんて」

 

「罪は背負うつもりだ。だが──」

 

「なら、ならここで死ねよ!! 自分で喉搔き切って死ねよ!!」

 

「リン!! ……やめろ」

 

「なんで、なんでなんでなんで!? おかしいよ、そんなのおかしいよ、ラルク! なんでリンが悪いみたいになってるの? 悪いのは全部あの女でしょ!?」

 

 涙を流しながら悲痛な叫びを繰り返すリンウェルに対して、ラルクは前に出ると項垂れながら言葉を紡ぐ。

 

「……僕は、おかしいのか」

 

「ラルク……?」

 

「おかしいんだろうな……僕は」

 

 ラルクは膝から崩れ落ちるように地面にへたり込む。

 

「僕は、素直に感情を出せるリンが少しだけ羨ましいんだ……。こんなに仲間を失って……両親を殺されて……『復讐してやりたい』って気持ちがこんなに、あるのに。僕はそれを我慢できてしまうんだ」

 

 意外、だった。

 

 確かに不気味なほど彼からは私への憎悪の念が感じなかった。革命派にカチコミに行った際、私を見た時の彼の反応はまるで旧友に会ったかのようだった。革命派のアジトをあとにした際も、気にした様子を見せずに私に仲間入りを打診してきたときは寒気すら覚えた。この男にいつ背中を襲われるのか、と。

 

 しかしそれは心に眠る激情を抑え込んだ結果の出来事。水面下では今も復讐の凶刃が鋭く磨かれていることだろう。そしてそれを制御できてしまう異常なまでの精神力が、何より彼を苛んでいた。皮肉なことだ。心が強いあまりに自分を苦しめることになるなんて。とっくに心が折れてしまえば、こんな事にならなかったのかもな。

 

 ……馬鹿なことを言うな。私にそんな事を言える権利も、考える資格も無い。

 

「僕は、リンの父さんの約束のため頑張ってきたんだ……慣れないリーダーで、皆にはすごく迷惑を掛けたと思う。それでも、僕はリンのために精一杯やってきた。それだけなんだ……」

 

「パパ、が……?」

 

「僕が逃げ遅れていたところを、助けてもらったんだ……その時に、『リンを頼む』って……」

 

 私が、聞いていていい話ではない。場違いだが、そう思った。今になって、途轍もない罪悪感が身を襲う。人を殺すことに躊躇いはなかった。これまで残された遺族の事を考えたことはなかった。

 

「テレジー……無理するなよ」

 

「……いえ、大丈夫よ」

 

 罪悪感でこの場から逃げ出すことが何より許されざる所業だ。私は聞き届けなければならない。

 

「だからリン。頼む。これ以上大切な人を失いたくないんだ……君の知っていることを、教えてくれ。リンの力が必要なんだ」

 

「ラル、ク……」

 

 ラルクは膝を付くと目線をリンウェルに合わせ、まっすぐと視線を向ける。

 

「……クロードに計画を持ちかけたのはリン。けどリン1人じゃ何もできなかった。そこで……オーフィアさんを使った」

 

「オーフィアを?」

 

「うん……ラルクに隠れて怪しい行動をしてたから。それにクロードと一緒の時期にレジスタンスに加入したのに、穏健派に残ってたのが不思議だったから……」

 

 リンは視線だけをオーフィアに向けると、オーフィアは静かに首肯する。

 

「リンウェルに脅された……『クロードに話をつけろ』って」

 

「オーフィアさんを介してクロードに接触して、計画に参加してもらった。けれど、リンの想定ではそこの女だけを狙うはずだった。マイケルへの対処は魔獣と攻撃タイプのゴーレムに任せるつもりだったし、オーフィアさんをぶつければそこの女は殺せるはずだ、って」

 

「計画の内容は……テレジーへの復讐と、穏健派への攻撃で合ってる?」

 

「穏健派には手を出さないって話だったはずだったのに……リンは知らないよ」

 

「……エレノアさん、ガイ、シドや仲間たちを襲った理由は?」

 

「それはリンじゃないの。クロードが勝手にやったことだよ」

 

「オーフィアが魔獣化したのは?」

 

「知らない。……オーフィアさんの自作自演じゃないの?」

 

「違う……わたしは魔術、使えない」

 

「なら、一体誰が……」

 

 ……やはり。私の予想通り。

 

 ──黒幕は別に居る。

 

 リンウェルの復讐心を煽るため私を利用して彼らの両親を殺害。いずれ協力を仰ぐだろうことを予想して、且つ穏健派の監視のためにオーフィアを穏健派に残した。

 

 リンウェルはオーフィアの行動を怪しみスパイを見破った、と言っていたが恐らくそれは違う。敢えて怪しい行動を取ってリンウェルに接触させたのだろう。そして案の定リンウェルはクロードに接触し、穏健派への切り口を掴んだ。

 

 ここまではクロードが想定したストーリー。そこに真の黒幕の思惑が入り込んだ。ガリッパが話した、『黒ローブの女』だ。

 

 黒ローブの女は、どうやってかクロードやリンウェルの計画を知り、利用。クロードが貴族に対抗するための魔法石を欲していることを逆手に、黒ローブの女は奴に何かしらの要求をしたのだろう……流石にその内容までは分からないが。そして要求を了承したクロードに細工を施した魔法石が渡った。

 

 そして実際に要求を飲んだクロードが持っていた魔法石はオーフィアに渡り、見事異形化。秘密を握るクロードは狂乱したオーフィアに殺され、黒ローブの女の情報は守られる。それが黒幕の描いたストーリー。

 

 ……確かあの時、クロードは『こいつがあれば、お前ならまだ戦えるのだろう?』と言っていた。魔法石の長所と短所を加味しての発言だと思っていたが……。

 

 もし細工した魔法石をオーフィアに取り込ませることが黒ローブの女の目的だとしたら。オーフィアが私に負けることを見越して魔法石を渡し、さも第2の手段と言わんばかりにクロードに提案していたとしたら。

 

 不完全な異形化を招くよう細工された魔法石は、オーフィアに甚大な影響を与えた。ただ苦しみに喘ぎ、いずれ訪れる死を減っていく魔力と共に自覚するのだ。そして耐えかねた私がオーフィアにとどめを刺す。そうでなくともオーフィアは失血で死ぬ。細工した魔法石を取り込んだ時点でオーフィアは詰んでいたのだ。

 

 ならつまり、黒ローブの女は『オーフィアを殺す』ことが目的だった、ということだ。オーフィアに個人的な恨みを持つ者の仕業になる。誰かに恨まれるような人物には到底見えないが……。

 

「確か、黒いローブを纏った赤髪の女が──」

 

 リンウェルの何気ない一言が、私の世界を根底から揺らした。

 

 ──赤。

 

 赤髪……。ガリッパが言ったのは黒髪の癖っ毛。私が見た黒ローブの女は縦ロールであったため、恐らくガリッパの言っている女とも違う人物だと仮定。

 

 そしてガリッパは『でも、もうちょっと胸が小さかったような……』と発言していた。黒いローブという人相の情報が遮られた中、胸の大きさは数少ない情報源。私が見た黒ローブの女は見るからに相当なサイズであったこと。ガリッパが記憶との齟齬を感じていたこと、の2つから総合して判断する。

 

 つまり、リンウェルが見た人物とガリッパが見た人物は別人ということになる。

 

 

 

 

 

 

 ──なるわけないだろ。現実逃避するな。この特徴は明らかに……。

 

 ザシュ。

 

「え……?」

 

 鮮血の飛沫がラルクの顔に付着する。

 

「あ、あ、あっがぁ……ぐぁ」

 

 リンウェルの胸の中心から突き抜けた直剣は血に塗れ、見事に貫通していることを愚直に示している。

 

 リンウェルの体が浮き、縛り付けられていた椅子ごと会議室を横っ飛びする。壁にぶつかる爆発音が室内に響く。

 

 ……心臓を一突き。一撃だった。

 

「リン……リン……あ、ああ。ああああああああああ!!!!」

 

 黒ローブの女。人一人を殺したというのに、緊張感のない立ち姿で直剣を力なくぶら下げ俯いていた。

 

「お前は、あの時の!!」

 

 伝播する金属音。拳を振り上げたマイケルに対し、黒ローブの女は直剣の腹で受け止める。

 

「アァ、アアアアアアア!!!!」

 

「……うるさい。黙れ」

 

 横から素早く近付いたオーフィアによる飛び蹴り。鍔迫り合いをやめた黒ローブの女は既のところで回避する。追撃でマイケルが追いすがるも黒ローブの女には届かず、直剣がマイケルに接近する。

 

「甘い」

 

 オーフィアの蹴り上げが黒ローブの女の顎に吸い込まれる。大きく体勢を崩した黒ローブの女に、強烈なエルボーを顔面に御見舞する。

 

「ガアァァ、ァア」

 

「──あ」

 

 女が纏っていたフードが大きくズレ、隠されていた素顔が日の目に当たる。

 

「まさか、あれがテレジーの……」

 

 いや、それは違う。エリナではない。違うのだが……。そうと知っていても、予想していたとしても、私が受けた衝撃は凄まじい。

 

「イザ、ベラ?」

 

「……イザベラ。確か、高飛車お嬢様風情の……」

 

「アアアアアアア──―ァア!? ガァアアァアァアアア!!!!」

 

 突然黒ローブの女──イザベラは苦悶の表情で喉を掴むと、その場に蹲って体をくの字に曲げる。

 

「ア、ァァァ……」

 

「イザベラ、なんで……貴方がここに? それに、その様子は──」

 

 私の質問に、イザベラは懐から魔法石を取り出すと直ぐ様それを起動させた。あれは……妙に見覚えのある、転移魔法。

 

「待て! まだ話が!!」

 

 マイケルがイザベラを止めようと走るも既に間に合わない。イザベラの体は灰の粒子へと変え、そのまま何処かへと消えてしまった。

 

 ☆ ☆ ☆

 

「ラルク……私も、貴方に協力するわ。いつでも力になるから」

 

「ありがとう、テレジー」

 

「俺もだぞッ!!」

 

「…………わたしも」

 

「ああ、分かってるよ。マイケル、オーフィア」

 

 黒ローブの女もといイザベラの襲撃から数刻後。私達はオーフィアの審問会もそこそこにおひらきにする運びとなった。そんなのを続ける理由もなかったし、続けられる空気でもない。誰も一言も口にすることもなく、私達は穏健派のアジト──現統合レジスタンスのアジトの玄関へと集まった。

 

 これからはより忙しくなることが予想される。今までは人がいない寂しいアジトだったが、レジスタンスが統合され再集結するとなっては、今後は懐かしい話になることだろう。

 

「……難しいと思うけど、思い詰めないで。貴方の所為じゃないわ。あそこまで接近を気付くことができなかった私が──」

 

「テレジーこそ、思い詰めない方がいいよ。君の所為でもないのだから」

 

「…………」

 

「悪いのは、全部……」

 

 アスキア城を眺め黄昏れるラルク。彼が今何を考えてあの城を見つめているのか。

 

「じゃあ……また今度」

 

「ああ……また今度」

 

 私達は統合レジスタンスのアジトを後にする。

 

 残ったものは何もない。ただの空虚。

 

「テレジー……顔色が悪いぞ。疲れたのならおぶってやるぞ」

 

「いえ……大丈夫……まだ歩くわ」

 

 恐らく、今の私は相当酷い顔をしている。見なくても触らなくても分かる。次々と襲いかかる衝撃的な展開に辟易した。

 

 ただ私だけが置いていかれただけ。

 

 本当に、私だけが置いていかれただけ。

 

 なぜ、私だけが置いていかれたのだろう。

 

 決まっている。私が……逃げたからだ。

 

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