死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが 作:ストロング西岡
木製の扉が建て付けの悪さ故か、ぎぎぎっと耳障りな音を立てて開かれる。店内から金属特有の臭いと、外見にそぐわない綺麗な店内が広がる。
「あ、誰だ? ここに置いてるもんは常連客にしか売らねぇぞ」
「……酷い。名前を忘れるなんて」
「マイケルだッ!! 何度も言わせるな」
「いや知らねえよ」
「あ、ご、ごめんなさい! 私の連れなの、クレイトン」
「いや、誰だ。そんな女らしい喋り方するやつ知らねぇぞ」
「何でよ!?」
「あ、その見たことのある黒コート……テレジーか。なんか変わっちまったな」
「判断したのが黒コートッ!? 私に関係ないところッ!!」
ガビーン、と音が聞こえそうな顔でショックを受けるテレジー。すまんすまんとあまり反省していない表情で謝るクレイトンに、オーフィア殿は近付いていく。
「この店には……女がいると聞いた。抱かせて、お願い」
ほう、欲望に素直だな流石に驚いた。武器を作るという話しだったはずだが。いきなり下ネタをかますとはやりおるな。悪く言えばいつも通り。
だがオーフィア殿……今の、冗談にしては熱が入りすぎでは?
「な、何だこの淫乱女! 俺の妹に手は出させねぇぞ!!」
「間違った……抱かせてください、お兄さん」
「どこを直したんだよ!」
うーむ。もしかしてこの人、本気か。目が真剣さを帯びている。
……それにしてもたくさんの武器だ。直剣やら曲剣、槌や斧、棍棒やら槍まで様々な種類の武器が置いてある。そのどれもが業物であると素人目から見ても分かる。しかしどこにも大鎌は置いていないな。噂に聞く人物ならば誰も彼もに大鎌を勧めるため大鎌しか展示していない思っていた。なるほど『能ある鷹は爪を隠す』ということか。
「う゛う゛ん゙……うるさい、兄さん……」
店の奥からまだ垢抜けない様子の女性が姿を表す。おお、それにしても……凄いな。元は白かったのだろう髪は煤だらけになってボサボサ。頬や露出している腕も同様に煤で黒ずんでいる。パジャマのような作業着も汚れていて、テレジーから聞いていた美少女の印象とはかけ離れた姿だ。ただ、くまの目立つ目元のルビーの瞳だけは輝いて見えた。これだけ見たらただのズボラな女の子、といった印象だが。
「アリシア!! お前パジャマで作業場に入るなって言っただろ!? これで何回目だ!!」
「ごめん兄さん、つい! 大鎌の夢小説書いてたら、溢れ出る創作意欲が私を作業場へと導いたの!!」
夢、小説。
ほう、なるほど。これはあれだな。
……噂通りの変態だな。
「大鎌……大鎌ッ!? 私のデスカッターだぁああああ!! アァァアアアアメェェェエエエエンンンッッ!!!! 神よッ! 私は救われたぁ!!」
「お、おお……」
「すごい……マイケルが、狼狽えてる……」
ここまで来ると変態も極まれり。尊敬すら覚える。なにか1つの事に熱中し、努力できるのはある意味才能だ。
褒めてはいないが。
「さぁ、さあさあさあさあ!! 私に、大鎌を、見せてぇええ!!」
「あ、ちょっ、ちょっと待って! 待ってほしいなぁ!? まずは顔洗ってきたら!? 汚いわよ、あと臭い!」
「汚い格好で会議室……入ってきた、くせに」
「シーッ!!」
物凄く興奮した様子のアリシア殿に引きながらも、早くも危機的状況に陥ったことを悟ったテレジー。話題を逸すのはいいが……うーむ。テレジー……度し難い人だ。遅かれ早かれ、大鎌は預けなければならんのだぞ。
「……アリシア、でいいんだよね」
なおも迫るアリシア殿を止めたのは意外にもオーフィア殿。俺とアリシア殿の間に入るとアリシア殿の手を取って至近距離から見つめる。ふぅ、よかった。手負いの獣より恐ろしい目で迫ってくるアリシア殿をどう止めようかと思案していた所だった。
「えっと……」
「オーフィア」
「オーフィア、さん? その……なんで手を……にぎにぎしてるんですか?」
「可愛い女の子の手は……触っとかないと」
「初対面でセクハラするな」
「お、俺の妹に手を出すなっ!」
「もう出されてるわよ」
「わたしと子ども……作って欲しいの」
「子どもぉ!?」
「アリシアに子どもはまだ早いッ! あんた、責任を持てるのか!?」
「黙ってろ、クレイトン」
「間違った……武器を作って欲しいの」
「間違えるか」
「あ、ああ……武器、ですか……よかった……」
「タメ口で、いいよ。駄目、かな……?」
アリシア殿は思案……というよりちょっと驚いたような、恥ずかしがっているような顔で俯く。というよりオーフィア殿、顔が近いな。場所は選んでくれ。
「だめ、じゃないけど……ちょっと離れて……!」
「……硬いけど、綺麗な手。努力してる証……わたし、好きだよ?」
「あ、だ、だめ……くすぐったいよ……!」
「ちょっ……あ……でも……んー……」
手を撫でながら、徐々に距離を詰めていくオーフィア殿にどぎまぎする様子のアリシア。そして止めようにも『これはこれで時間稼ぎできるし、止めるべきかどうか悩むなぁ』といった顔のテレジー。ふむ……俺が間に入ろう。話が進まん。
「オーフィア殿。俺も用事があるんだ。そろそろいいか?」
「んー……しょうがない」
「あ……うん……」
名残惜しそうに手離すオーフィア殿だったが……。
「……え、アリシアなんで満更でもない顔してるの?」
む、アリシア殿の様子が変だ。何でちょっと頬を赤らめて……まさか、そっちの人か。いや絆されただけか、オーフィア殿に。
そうだよな?
「アリシアって、魔道具、造ったことある?」
「魔道具? ないよ」
「そっか。なら、一緒に造って……くれない、かな」
一緒に? この場に居た全員が首を傾げる。確かこの特大剣はオーフィア殿が造ったと言っていたが、まさか鍛冶も出来たのか。いや嘘とは思っていなかったが。深く考えたことはなかっただけで。
「昔は魔法が使えたから造れた……けど今はできなくて。だから、作るのを手伝ってほしい」
「え、オーフィアさんって、貴族……なの?」
「うん……駄目だったかな。貴族の武器作るの、嫌?」
「……ううん。作るよ。それに……」
「それに?」
「──魔道具、造れるんでしょ!? 魔法が絡むなら私の理想の大鎌が造れるかも……やる気、出てきたぁあああああ!!」
「あ、大鎌は……のんのん」
「なんでぇ!? いいじゃん!! 大鎌だよ!?」
「断固拒否」
「むぅ……しょうがないか……はぁ……テレジーで我慢しよ」
「できればやめて? 別に欲しくないから」
「ありがとう……アリシア。いっしょに、つくろう……ね?」
オーフィア殿はアリシア殿の首元に抱きつくと、耳元で囁く。ほう、まるで百合だな。というか百合だ。
「オ、オーフィアさん……だ、駄目だよ。女の子同士、何だよ……?」
「ふふ、そうだね……」
「だめだって……これ以上は!」
「ん……かわいい。こういうの、はじめて?」
「あ、ほんと……だめぇ……」
「──いい加減に、しなさいッ!!」
スパァンッ!!
「痛ァァ!?」
「ア、アリシア!! 大丈夫か!?」
「うぅ、兄さ〜ん……あの人、怖ぃ……」
「よしよし……お兄ちゃんが守ってやるからな」
オーフィア殿は突如頭に襲った痛みに蹲って悶える。流石に見るに絶えないオーフィア殿のしつこさに呆れ、テレジーによる平手打ちが炸裂した。
うん、ちょっと遅いな。いつもの君ならもっと早く制裁してたろうに。窮地を助けるヒーローになろうとしたんだろうけど。ヒーローは下心を持って助けてはいけないよ。君がそんな人だと思わなかったよ。
「お、よく見たら鎧の。あんたいいもん持ってんじゃんか」
アリシア殿を抱き寄せるクレイトン殿は、俺が腰のホルスターに下げていたリボルバーに指差してこちらに渡せと手招きする。
「む、分かるのか?」
「ああ、これでも元軍人だからな」
「ほう、やはりか。体付きがよいと思っていたのだッ」
「そいつはどうも。引退してから大分経ったが、一応鍛えてはいるんでね」
クレイトン殿は手に持ったリボルバーをあらゆる角度から観察する。時にハンマーを引いてみたり、シリンダーを開けて回してみたり。すると次第に表情が曇っていくのが分かる。
「……なあ、これ……何処で手に入れたんだ」
「これは知り合いの遺品でな。詳しい場所までは……」
「ならそいつ元貴族だったんじゃないか? これ、貴族御用達の拳銃だぜ」
「え……エレノアが貴族?」
「ったく、身近な所に貴族がうじゃうじゃと……不思議な縁もあったもんだぜ」
むぅ、エレノア殿が……。まあ確かに立ち居振る舞いから何処となく気品さを感じ、言動も気丈で自信家であった。俺の想像する貴族らしいといえばそうだが、果たして本当にそうなのか。
「違う……それ、エレノアが闇市で拾ったやつ」
「闇市? ……闇市に貴族の銃が流れたなんて聞いたことねぇな。いや決めつけは良くないか。闇市なんだ、何が置いてあっても不思議じゃねぇ」
「まず、貴族街から物を持ち込む、なんてことが許されてないの。というか銃なんて見たことないわよ」
「へ〜、そういうもんか」
2人の反論ですっかり納得した様子のクレイトン殿。彼の言うことも最もだ。2人の意見も頷ける。しかし果たしてそういうものだろうか。俺としては、何か大事な事が引っ掛かっているような気がする。記憶の片隅に置いておこう。……テレジーが難しい顔をしているのが気になるし、な。
「そいつのカスタムを頼みたい」
「いいぜ。内容は?」
「グリップを変えて欲しい。サイズは後で俺が削る。あと砲身を太くするのと、サイトを3点ドットに変えてくれ」
「……あんたも元軍人か?」
「そうでもないさ……銃弾の作成も頼めるか。材料はこちらで何とかする」
「なら構わないぜ」
なるほどクレイトン殿は銃に詳しいようだ。十中八九アスキア帝国軍の出身者なのだろうが、銃のカスタムまで知れ渡っているのだな。俺のは所詮付け焼き刃の知識でしか無いため、多少俺好みに変えるだけだ。これしか知らん。取り敢えず俺の用事は終わった。
「ねぇ、そろそろ……大鎌! 見せて!!」
「ん、ああそうだな……ほら、こいつだ」
「あ、マイケルぅ……!」
わなわなと今にも泣きそうな顔で見つめられてもな。テレジーよ。諦めてくれ。どの道こうなるしか無い。
「あはぁ……大鎌さまぁ……。ん、意外と綺麗に使ってる。てっきり刃こぼれの1つでもあるって思ってたのに」
「で、でしょ!」
「んー、やっぱ私の作品凄いなぁ……こーんなにもかっこよく──」
パキンッ。
カラカラ、と金属の破片が地面に転がり音を立てる。誰もがその破片に視線を寄せ、耳が痛いほどの沈黙が伝わる。大鎌の連結部分、曲剣と棍棒の変形機構の部位が破損した音だ。アリシア殿の手にはそれぞれ曲剣と棍棒が握られている。アリシア殿は真っ二つになった部位を見つめたまま、石像のように固まった。……これはまずいか。
「あ……これ……え……」
驚きのあまり譫言のように、言葉にならない言葉が口から漏れ出る。目の前の現実をうまく処理できていないといった様子だ。
「……アリシア、これ」
席を立ち上がりアリシア殿の隣に立って大鎌を見つめるクレイトン殿。そしてその様を見るからに震えながら見守るテレジー。何とも不思議な構図だ。
「わ、わ、私、悪くないわよ!? だってアダマンタイトだし、壊れないって聞いてたし、信用して使ってたの。そしたらなんか急に? 嫌な音が聞こえてさ……! いや、まぁ確かに? 石突で高跳びしたり、地面に何度かぶつけたり、変形を中途半端にしたまま振ったりしたけど……ていうか、大鎌が良くないのよ。私には合わないし、使いにくいっていうか。ぶっちゃけ弱いっていうか」
「…………」
「そう、これに懲りたら大鎌とか作んないほうがいいわよ。これ以上アリシアの恥をさらさないよう言ってあげてるんだから。年上の忠告は素直に聞いておいたほうがいいわよ!」
「……は?」
「……テレジー。『やぶ蛇』って知ってる?」
うむ。本当にその通りだと思う。オーフィア殿が正しい。
「うっ……つまり、その武器は弱いのよ!」
「……なんで、この人は……そういう……」
うーむ。アホの子だ。絶対に言わないが、間違いなくアホの子だ。
「さっきから黙って聞いてれば……ぐちぐちぐちぐち……」
「……えっと、その! 悪気はないのよ、本当に」
嘘つけ。敢えて煽ってたようにしか見えなかったぞ。
「……ねぇ、そういえば私が渡した槍、どうしたの。整備したいんだけど」
「え? 折れちゃったわ…………あ」
「────ああぁぁああぁぁああぁぁあああああッッッ!!!!!!!!」
ガンッ!! ガンッ!!
突如として頭を壁に何度も何度もぶつけながら、狂ったように叫ぶアリシア殿。額から血が飛び散るのも構わずに、只管に頭をふり続ける。
これが俗に言う狂乱といったやつか。
「マイケル。近づかないほうがいい。死ぬぜ」
「うむ、分かった」
「えくす、ぷろーじょん……」
「大鎌を、大鎌をバカにしやがってぇええええ!! 絶対に許さない、この、ヘタクソッ!!」
「はぁ!? 誰がヘタクソですって! あんたあのクソみたいに使いづらい武器振るったことあんの!?」
「大鎌は最強なんだッ!! 使い手によって真価を発揮する神殺しの武器だッ!! 神を超えた神武器だッ!! ていうか剣も槍も折っておいて大鎌の所為にするとか何なの!? 認めなよあんたがヘタクソだってこと!!」
「ヘタクソじゃない! 大鎌が悪い!! 変な武器ばっか作ってないで真面目に──」
「はぁ!? 変な武器ですって!? 変なのはテレジーの方でしよ、この陰険陰湿ネガティブクソ女! 誰が武器作ってあげてると思ってんのよ!! そんなに嫌ならそこら辺の木のぼっこでも振るっときなさいよ!! 整備要らずで良かったわね!!」
「か、勝手な憶測で馬鹿にすんな!! この引き籠もり、陰キャ趣味、髪ボサボサ、ブラコン、まな板、大鎌変態女!!」
「いいですとも良いですとも!! 私は引き籠もり陰キャですぅ! 毎日金槌振るえて幸せだし、髪はボサボサでも武器の切れ味は最高だし! あと、たった1人の家族のお兄ちゃんのことが大好きで何の問題があるの!? ていうかまな板はあんたもでしょ!? 大鎌の偉大さがわからない女は吠え面かくことしかできないんだね!! 負け犬テレジー!!」
「この、メスガキがッ!! 年下のくせに生意気よ!!」
「はっ、この際だから言わせて貰いますけどね──」
☆ ☆ ☆
30分後。
「──ほんと、人の気も知らないで言ってくれちゃってさ! 大鎌はね、ほんとはテレジーみたいなヘボモグラが持つ権利なんて──」
☆ ☆ ☆
さらに30分後。
「──いい? 大鎌は神が遺したこの世の宝なの! 分かったら二度と生意気な口聞かないでよね! この、クソ雑魚ナメクジ!!」
「うっ、うう…………」
「ほら、テレジーなんかこれでいいのよっ!!」
「いたいっ……! あ、これ、三角ホー……雑草取るやつ……」
「それ使って、大鎌の良さを噛み締めてなさい!!」
「はい……」
む、終わったか。とぼとぼと店外へと出ていくテレジーの背中を見つめる。なんと哀愁漂う背中だ。年下の子に1時間も説教と罵倒された人間は、こうも小さく映るものか。
いや干渉に浸っている場合でもない。取り敢えずテレジーを慰めに行くとしよう。……だが、その前に1つ言い残したことがある。
「アリシア殿」
「……何ですか」
「槍を折ってしまったのは俺なんだ。強敵との戦いでな……言い出せずにすまない。タイミングを失ってな。だが、あれは見事な業物であった。あれがなければ俺は死んでいた。……そのことの礼を言いたい」
頭を下げて感謝の言葉を述べる。これで少しでも溜飲が下がってくれればよいのだが。あとは、そうだな……アリシア殿が自らの過ちに気付いてくれれば。
「そう、ですか……」
「……アリシア。また今度来る。打ち合わせ、しようね」
「あ、うん……また……」
オーフィアは一足先にテレジーのところへ向かう。心なしかいつもより優しい顔をしていた気がする。いつも仏頂面だから、真意が分からなくなるときがあるが、こうして眺めると分かりやすい人だなと思う。
「その、マイケルさん」
「なんだ?」
「その……また、お店に来てくれませんか。……テレジーと一緒に」
「……もちろんだッ! 今後もよろしくッ!!」
女の子の落ち込んだ顔を見るのは紳士ではない。そちらの対応は兄上殿にお任せするとしよう。木の扉を開け、薄暗い商店街に出ると来た道を戻っていく。その途中の路地裏にテレジーはいた。
「はは、ははははははははははは────」
「あ、マイケル……ちょっと、やばいかも」
日の当たる場所に出たはいいものの……ちょっと陰鬱としているな。太陽が恋しいぜ。
──かくして。テレジーがおかしくなってしまった、というわけだ。