死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが   作:ストロング西岡

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第四十四話ッ 明日から本気出すッ!!※クソニート乙

 

 ソファに深く腰掛け天を仰ぐ。今日の出来事を振り返りながら、俺は今後の予定について思いを馳せる。今日で作業は7日目。だいぶ作業が進んだ。オーフィア殿も女性ながら良くやってくれてる。あと数日間頑張れば終わりそうだ。

 

「オーフィア? どこ行くのよ、こんな時間に」

 

 自室からリビングに出てきたテレジーは、玄関のドアに手を置くーフィア殿に声を掛ける。

 

「ん……女の子を漁ってくる」

 

「何言ってんの」

 

「ほんとだよ?」

 

「いや、駄目でしょそんなの!?」

 

「んー……」

 

 困ったような顔をすると、髪を弄りながら上目遣いでテレジーを見る。

 

「困ったな……じゃあ、今日はテレジーが相手、してくれる?」

 

「はぁ? そんな……の……」

 

 いつもとは違う、冗談っぽい声音ではなく。艶っぽい雰囲気がテレジーの言葉を塞ぐ。

 

「ふふ、冗談だよ……?」

 

「あ、あたり前でしょ!! ていうか、相手、って──」

 

「──いけず。分かってるくせに」

 

 口元に手を当て、流し目を送るオーフィア殿。テレジーを見てみると、耳がほんのり赤く染まっている。ほほう、これはあれだな。百合というやつだ。

 

「2人のおかげ、なの」

 

「……え、何が?」

 

「わたしが生きる道を見出だせたのは……助けてくれた、おかげなの」

 

「……そっ、か」

 

「やりたいこと、できるようになったのは……テレジーと、マイケルのおかげ。だから、行ってくる」

 

 ドアが閉まると同時に、テレジーはため息を付いてソファにもたれる。

 

「んー……ん゛ん゛〜!! 行かせてよかったのかな……?」

 

「まあ良いのではないか? 誰しも溜まるものはあるだろう。下手に溜めさせて爆発されても困るしな」

 

 それにオーフィア殿の場合、爆発した時の破壊力が底知れん。こうして夜回りさせることで発散できるなら、問題は1つもないだろう。

 

「……マイケルも、溜まるの?」

 

「む……それはどう意味だ?」

 

 ……むぅ。このタイミングで『それ』を聞いてくるか。無意識で聞いたのなら小悪魔。そうでないならただの悪魔だ。ここは鈍感を装っておこう。空気は読めないのではなく読まないのだ。

 

「え? ……な、なんでもない」

 

「ふむ。ところでテレジーよ。今後も畑作業をするのは良いのだが、いずれ作業にも終わりが訪れる。それ以降はどうするのだ?」

 

「そ、そうね……ちょうど明日、ラルクのもとに行こうと思ってたの。新たな依頼があるって言ってたから」

 

「む、誰がだ?」

 

「ガリッパよ。貴方たちは遠くで作業してたから、気付かなかったかもしれないけど」

 

「ほう、来ていたのか。ひと声かけてくれればよかったのに」

 

「彼、今物凄く忙しいらしいわよ。要件だけ伝えてすぐ帰ったくらいだし。話らしい話もしてないのよ、私達」

 

 凄いよな。ガリッパ。あの件でガリッパは革命派からのスパイとして穏健派で動いていた。自分の行いを深く反省したガリッパはラルクのもとで秘書兼雑用兼下っ端として日々働いているようだ。ラルクもガリッパの働きには助かっているはずだ。

 

「では明日は畑作業はお休みか」

 

「いえ、私1人で行くから。2人はいつも通りでいいわよ」

 

「む、体の方は大丈夫なのか?」

 

「ちょっと歩くくらいなら平気よ。心配し過ぎ」

 

 そうか。心配のし過ぎ、か。あの戦いの後、テレジーは体の不調が続いていた。俺になにかできないかとばかり考えていたが、余計なお世話だったかもしれん。何だが無性にテレジーが心配になってしまって。過保護なのは優しさではなく甘やかしだ。

 

「あ、そういえばマイケル。記憶、少しは元に戻った?」

 

「ん……いや、まだ、だな」

 

「そう」

 

 テレジーはマグカップに入った白湯を飲み干すと、俺の顔を覗き込んでくる。

 

「……そうよね。最初から失っていないんだもの、戻るわけ無いわよね」

 

 ……テレジーにしては、と言うと流石に失礼か。彼女は人をよく見ている。些細な変化にも気付きやすいし頭も回る。だが肝心なところでなにかを抜かすんだよな。何でだろうな。

 

「なんで嘘、吐いたの? 隠す理由はなに」

 

「……ふむ。それはだな、説明が難しいからだ」

 

「難しい……どういうこと?」

 

「俺にもよく分からなくて。気付いたらこの世界にいたんだ」

 

「この『世界』? 国、じゃなくて?」

 

 コップに入ったお茶を一飲みし、息を整える。

 

「そうだ。俺は……別の世界からやってきたんだ」

 

 空気が緊張感で満たされる。つい言ってしまったが、大丈夫だろうか。余計な混乱を招くのは俺の本意じゃない。果たしてテレジーはどう判断するのか。

 

「…………」

 

「……テレジー?」

 

「あ、ちょっと待って……今、何かを思い出しそうなの」

 

 その時。テレジーは「あっ」と声を上げて立ち上がると、手を宙でぶらぶらと忙しなく動かす。

 

「あれよ……あれ……『召喚魔術』よ!!」

 

 ほう、何ともベタな魔法だな。その言葉通りと受け取っていいのだろうか。

 

「その召喚というのは、一体どういうものなんだ?」

 

「まずは両者に魔術的な繋がりを──」

 

「──いや、原理ではなくてな。何を、いつ、どこまで、召喚できるのかを聞きたい」

 

「む〜……」

 

「……あとで聞くから、今は、な?」

 

 そんなムスッとした顔されてもな。可愛いけど、今はそこが聞きたいんじゃないんだ。あと、『あとで聞く』とは言ったが保証はできない。

 

「召喚魔術が刻まれた魔道具に触れるか、それとも直接刻むか。どちらかの条件が満たされれば召喚魔術は起動するわ」

 

「ふむ、では俺の場合は魔道具の方だろうな。俺の体に魔術式? を見たことがない」

 

「……見えないのよ。その、魔力がない人には」

 

「むう、だが俺には誰かに魔術を刻まれた記憶なんて無いぞ?」

 

「高度な魔術師、或いは魔法師であれば遠隔からでも魔術式を刻めるのよ。痛みとか、違和感とかは別にないし、気付かないのも無理ないわ」

 

「ほう、そうなのか。知らぬ間に体に刻まれている可能性もあると?」

 

「そ、そういうこと」

 

 …………。

 

 つまり? 

 

「じゃあ、すまないが──」

 

「──は、はぁ!? そんなハレンチなこと、だ、誰がするかぁ!?」

 

「いやまだ何も言っていないんだが…………」

 

「え、あ、ああ……ご、ごめんなさい」

 

「嫌なら別にいいんだ。どの道、召喚魔術が起動したことに変わりはないのだろうからな」

 

「え……別に、嫌、って訳じゃ……ない、の……」

 

 ふむ、どっち? 

 

 いやはや分からんな、年下の女の子の扱いが。ちゃんと理解してあげなくてはな。この年でおじさん呼ばわりされたらキツイ。

 

「と、取り乱してごめんなさい。確認したいから……脱いで欲しい」

 

「分かった。よろしく頼む」

 

 ソファから立ち上がると、身につけていた鎧を脱いでいく。というか室内なのに鎧来てる必要もないな。けれど仕方がない。癖になってるんだ、鎧着て過ごすの。

 

「い、言っとくけど。私がマイケルの裸見たくて行ってるわけじゃないから! 魔術式を見れば、その傾向から誰が書いたか──ちょっ、ちょちょちょこっち向かないでえ!?」

 

 ふむ。DNA鑑定みたいなものか。いやどちらかと言うと筆跡鑑定か。だがそれは鑑定したものと照合させるオリジナルの筆跡が必要なのではないか? ということは、テレジーはある程度魔術式を書いた人物に心当たりがあると見てよいのだろう。

 

「テレジーの真意は分かってるから、気にせず診てくれ」

 

「わ、分かればいいのよ……分かれば!」

 

 顔を真っ赤に染めて慌ただしい様子のテレジーは、ぱたぱたと手のひらを仰いでる。可愛い奴め。

 

「ん、っと……んー。どこ、かな……」

 

「…………」

 

 パンツ1枚になった俺の周囲をぐるぐると回りながら、ぺたぺたと体を触り始めるテレジー。ふむ。まるでジムに通っていたときを思い出す。ジム仲間とこうして身体を触りあったことがあったな……。

 

 一応言っておくが、俺はゲイではないぞ。あくまで筋肉を触り合っていただけだからな。

 

「ん……はぁ、はぁ……うわ……」

 

「…………」

 

「おぉ……すごっ……いい……」

 

 ふむ。この子本来の目的忘れていないか? まるで何時ぞやのオーフィア殿のような顔をしている。というか触る必要ないのでは? 

 

「む……テレジー。鎧の内側を見てくれ」

 

「……え、鎧?」

 

 地面に置かれたチェストプレートの内側。そこには幾何学模様の、これぞ魔法陣といった感じの刻印が存在していた。

 

「これが件の魔術式では?」

 

「そ、そうね。これだわ…………」

 

 最初っから鎧の方を先に見ておけば……と、野暮なことは言わない。ちょっとガッカリした様子のテレジーを見ていたら、そんなイジワルを言いたくなってしまっただけだ。

 

「ちょ、ちょっと待って。なんでマイケルにも見えてるの」

 

「む、本当だな。なんでだ」

 

「しかも、これ……式が掠れてよく見えない……」

 

「摩擦で消えてしまったのでは?」

 

「そんな訳無いわ。インクで刻んでるわけじゃないし、摩擦とかの物理的な要因で消えるほど軟弱な魔術式じゃない。けれどこれを見る限り今もちゃんと機能してる……なにこれ」

 

 う〜ん、と唸り声を上げ考え込むテレジー。魔法に関する知識で彼女を上回る人物はいない。テレジーが閃くまで待つことにしよう。取り敢えず服着よう。

 

「マイケルにも見えている理由……でもマイケルには魔力が……あ」

 

「お、なにか分かったか」

 

「恐らく。これ、特異属性の魔力が使われてる……のだと思う」

 

 特異属性……確か闇属性と聖属性の2つがあり、それは竜や天使、悪魔などの特定の種族にしか扱えない魔力のこと、だったか。そして特異属性の魔力は『特異属性を持つものにしか見えない』という性質がある。テレジーですら分からない未知の魔力。

 

「ここ。私には掠れて消えているように見えるけれど、どう? なにか書いてあるでしょ」

 

「うむ。書いてある。なら逆にここはテレジーには見えていないのか」

 

「そうね、見えないわ。ということはつまり、あの時の私の仮説。あれが正しかった、ってことね」

 

 むんっ! と無い胸を……ごほん。胸を張って自慢げな様子を見せながら、鎧を手渡してくる。可愛いかよ。

 

 陽気パワーが特異属性、ということ。それはつまり……。

 

 つまり、どういうこと? 

 

「ま、分かったところで何もできないんだけどね」

 

「うむ。そうだな」

 

 三度繰り返すが、特異属性についてはテレジーは愚か人類そのものが詳しくないのだ。だから、俺が特異属性を持っていたとしても、そこから『確実にこれだ』と判断できることが現状無い。そうだと知ったところで、新たな力を得られるわけでもない。俺以外の特異属性を持つ人物に出会えたなら、話は別だろうが。

 

「それよりも大事なことは、マイケルをこの世界に召喚したのは『特異属性を扱える人物』ということよ」

 

 俺たちが考えるべきは今しがたテレジーが言ったことだ。特異属性を持つ人物が、意図的に俺をこの国に召喚したのだ。もしかしたら『陽気パワー』は、俺を召喚した人物が与えたものなのかもしれないな。

 

「召喚された前後、何か覚えていない?」

 

「む……それなんだが……『そこだけ』記憶が無いんだ」

 

「……本当に?」

 

「流石にこの流れで嘘は吐かん」

 

 それは本当だ。何も思い出せない。いやもしかしたら『思い出せないよう』細工をされた可能性がある。ただでさえ未知の力を持つ存在だ。記憶の改竄くらいできそうなものだ。

 

「なら記憶の改竄、かしらね」

 

 む。今のテレジーの口ぶり……。

 

「……もしかして、その魔法ってテレジーも使えるのか」

 

「できるわよ。魔力が潤沢なら、記憶全部を消して廃人にすることも可能よ」

 

 ふむ……凄いな。この世界の魔法は。なんでもできちゃうんじゃないか。というか、特異属性さんよ。ここまで来たら、お前には何ができると言うんだ? 

 

「テレジーなら、俺の記憶を元に戻せるんじゃないか?」

 

「ん〜……ちょっとその手の分野には詳しくなくて。恐らく魔術的な拘束力が、記憶を司る領域である大脳皮質に影響──」

 

「──すまない。説明は明日以降聞くから、今は端的に頼む」

 

「むぅ〜……むぅう゛う゛う゛!!!!」

 

「ごめんな。あと近所迷惑だから地団駄はよしてくれ」

 

 可愛いかよ。あと『明日以降聞く』とは言ったけど、嘘だ。

 

「はぁ………………つまり、複雑な魔術式な可能性があるから、私には解けない、ってこと。記憶はもとに戻せない、ってこと!」

 

 ま、どの道魔力の消費量が尋常じゃないからできないけど、と付け足したテレジーは再びソファに座ると、気持ちよさそうに伸びをした続けて欠伸をした。

 

「ふぁ……ちょっと頭使いすぎて疲れちゃった。もう寝ようかしら」

 

「おう、そうした方がいい」

 

 今日のテレジーはずっと休むこと無く雑草取りに勤しみ、こうして俺の『陽気パワー』の謎についても考えてくれた。全身余すこと無く働かせたのだ。今日はゆっくり休んでもらいたい。

 

「ふぁ…………ん。おやすみ」

 

「おう、おやすみ」

 

 コップを持ち上げ一気に飲み干す。それを台所に置いて洗うと、そのまま自室へと向かった。

 

「その……マイケル。今まであまり言えなかったから、今言うね」

 

 ドアが閉まる直前、その隙間からひょこっと顔を出したテレジーが俯きがちに視線を向けてくる。

 

「いつもありがとう。……これからも、よろしくね」

 

 返事を待つことなく扉は閉まり、室内に静寂が訪れる。

 

「はぁ……」

 

 ソファに深く腰掛け、沈んでいく身体の感覚を味わう。

 

 俺の戦いは始まったばかり。今はその途中に過ぎない。これからも、俺は走り続ける。

 

『お願い……テレジーを。テレジーを助けてっ!!』

 

 テレジーには『覚えていない』といったが、あれも少しだけ嘘だ。

 

 聞き覚えのない女性の悲痛な絶叫。泣きじゃくって聞き取りづらい声が、宛もなく街を歩いていた俺の耳に届いた。ただそれだけを俺は覚えている。

 

 何故俺が見ず知らずの女の子を助けると判断したのか。何故そのために危険を承知で異世界に転生したのか。そしてそう決断するに至った過程を、俺はまったく覚えていない。

 

 けれど。そんなことはどうだっていいのだ。

 

 この胸に眠る力と。どうしょうもなく、テレジーを『幸せにしたい』という思いが。迷いなんてくだらない壁を吹き飛ばして俺を進ませてくれる。只管に、愚直に、テレジーを救えと叫んでいる。

 

 だってよく考えてみてくれ。目の前の女の子が悲しんでいるのなら、それを助けるのが紳士ってやつだろ? なら、細かいことは考えるな。

 

 ここに来た理由がどんなことであったとしても、俺は。

 

「絶対に、テレジーを幸せにする」

 

 ──それが、俺がこの世界に来た意味だと確信している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え、今……なんてぇッ!?」

 

「──おやすみッ!!」

 

 おっと、聞かれていたか。はっはっはっ。

 

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