死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが   作:ストロング西岡

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第五話ッ 女は甘いもんでも食わせとけッ!!※舐め過ぎ

 

「勝手に借りて済まない。これを返そう」

 

「別に……私が落としたものよ。もうそれは貴方の──」

 

「ふっ、可愛い奴めッ。ならプレゼントだと思って素直に受け取っておけ」

 

 マイケルはそう言って短剣を押し付けてくる。

 

「……ありがとう」

 

「おうッ」

 

 護身用の短剣を鞘にしまうと、私は何となくマイケルが鎧を装着していく様を眺める。

 

「本当に消えるんだな……」

 

 マイケルはカチャカチャと腕を動かしながら、色褪せ消えゆく熊型魔獣を見つめる。

 

「あれ、じゃあこの国ってお肉食べられないのかッ!?」

 

「……完全に消える前に加工しきれば、食べられる」

 

「おお……でももう遅いか」

 

 熊型魔獣はその形を朧気にし、ぱらぱらと拭き上げる風に乗って消えていく。残ったのは私達2人と、戦いの跡が残る路地裏だけ。

 

「立てるか、テレジー」

 

「……ええ」

 

 差し出される手を借りず、私は自力で立ち上がる。衣服に付いた砂塵を払い、乱れた衣服を正す。その拍子に外套が破れ、傷だらけの素肌が露出する。

 

「これを使うといい」

 

 そう言ってマイケルが渡してきたのは、廃屋から持ってきていたのだろうシーツ。元は白色だったのだろうが、今は茶色く変色し虫食いも目立つ。だが、露出した肌を隠すには十分な面積はある。……別に肌くらいなら見せてもいいのだが。

 

「……どうして、貴方は私を助けたの」

 

 胸に燻る蟠りが、喉をするりと通る。こんな事を言うつもり無かったのに。シーツを体に巻きながら、私は彼に背を向ける。

 

「言っただろう? 俺が君を守ると」

 

「どうして、私なんかを」

 

「『なんか』じゃない。君だからだ」

 

 増々分からない。混乱が広がる。

 

「ふざけないで。私は、誰にも頼らない」

 

「それでもいい。いつか頼ってもらえるように──」

 

「うるさいっ!」

 

 自分でも驚くほどの大きな声。怒りに任せた激動。

 

「なんなのよ、貴方。何でこんな……私は……私は誰かに助けてなんて言ってない。要らないのに、何で助けてくんのよ……!」

 

 しゃがみこんで、視界を狭めた。

 

 私には分からない。今まで私は虐げられ、私の存在を弄ばれてきた。

 

 はっきり言って不審。不快ではないが不信。分からない。彼が分からない。私に向けられる感情など、精々悪感情。以前までの私ならば疑わずに受け入れられたのかもしれない。しかしこの2年間で私に与えた影響を鑑みれば、性格を捻くらせ誰かの好意を素直に聞き入れる寛容さはとうに消え失せるだろう。だから、彼の好意は私を悩ませるだけ。

 

「まぁまぁ、少し落ち着いてくれ。あ、そうだクッキー食べるか? 粉々だけど」

 

「要らない……」

 

「そうか? もぐもぐ……美味しいッ!」

 

 ……今回の一件で彼が底抜けの善人であるのは分かった。しかし、それ故警戒してしまうのだ。嘗て私は……。

 

 駄目だ、やめろ。それ以上は思い出したくない。

 

「『私』を、助ける理由って……なんなの。何で私なのよ……」

 

「……逃げないって決めたから。テレジーも、あるんだろ? 生き残ってやりたいこと」

 

「やりたい……こと……」

 

「ああ、そうだ。だからこそ、辛い思いを押し込めて、必死に生きてるんだろ?」

 

「あ…………」

 

 そうだ。その通りだ。私には、やらなければならないことがある。ある日誓った、約束したこと。

 

 だか、一度忘れてしまった私に、もう一度追う資格なんてあるのだろうか。

 

「頼りになってみせる。だから、テレジーを助けさせてくれッ」

 

「……!」

 

 マイケルはその大きな手を私の前に差し出す。

 

 分からない。彼が何故私をそこまで助けてくれるのかが。

 

 だが、これはチャンスだ。この2年間で、私に手を差し伸べてくれたのはマイケルだけだ。再び立ち上がれる機会は確実に今しかない。これを逃せば私は何も残せないまま、くだらない人生だと運命を呪いながら、何処かで野垂れ死ぬのだろう。

 

 きっと私はいつか死ぬ。でも、それは今じゃない。運命という不文律に甘えて、私の人生を自らの手で終わらせてはいけない。彼が私を助けるというのなら、存分に利用してやろう。私が成したいことを成すために。

 

 もう、私は逃げたくない。誰からも、自分からも。恥ずかしながら、それを彼から教えてもらった。

 

「……答えて。何で、貴方はそこまでして私を助けるの?」

 

「ふーむ、それはな……」

 

「…………」

 

 これだけは聞いておきたい。彼が私に執着する理由。それは彼の記憶に纏わることかもしれないし、彼の持つ不思議な力にも影響する事項かもしれない。返答次第では……私は彼の助けを受けない。

 

「テレジーのことが好きだからだッ!!」

 

「…………すき……?」

 

「おうッ!!」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………す……き……」

 

 すき? 私を? 

 

「ど、こ……が?」

 

「捻くれてるけど素直なところとか。本心を押し殺して、けれど本当は世話焼きのお人好しなところとか」

 

「は……?」

 

 内……面ッ!? こんな短時間で内面から好きになるの!? チョロくない!? 

 

 え、やばい。急に意識したら気まずくなってきた。

 

「ふ、ふーん。そうなんだ。私は別にあんたのことどうも思ってないけどね……!」

 

「ほほう、この顔を見ても同じことが言えるかな?」

 

 そう言うとマイケルは首元をカチャカチャと弄ると、バケツのような鉄兜に手をかける。

 

「…………っ!」

 

 スポン、という音とともにマイケルの素顔が露わになる。齢は40歳程度だろうか、おにいさん、というよりおっさんだ。顔はこげ茶色。髪は黒く側面を刈り上げた短いパンチパーマ。瞳も同じく黒く、だが大きくくりっとした目は自己主張を忘れない。全体的に丸みがある柔和な顔つきをしていて、口元には綺麗に整えられた髭を貯えている。

 

「ふっふっふっ……どうかな?」

 

「あ、ああ…………」

 

 ニヤリと口角を上げ、得意げな顔をするマイケル。

 

 かっ、か…………。

 

「かっこいいぃぃい〜〜…………」

 

 やばぁぁあああああ。え、すごく好き。タイプかも。年上老け顔ぱっちりお目々とか、どストライクなんですけどぉお!! 

 

「ね、年齢は……?」

 

「26だッ!」

 

「若いぃいいッ!? でもそこもイイッ!!」

 

 ダンッ、と床を拳で叩き爆発しそうな感情に蓋をする。くそ、何だよこれ。心臓がバクバクいってる。止まんない、ドキドキが止まんないぃ……! 

 

「お、まだ綺麗なクッキー残ってた。食べるか? クッキー」

 

「食べるぅうう!!!」

 

「はい、これ」

 

「もぐもぐ……美味しいぃいいいい!!!!」

 

 何これ美味ッ!! もう何だっていいや!!!! 色々考えることあるかもしれないけどどうでもいいや!! 明日考えよ!! 

 

 取り敢えず、マイケルはチョロいッ!! 面食いッ!! 以上、現場からでした!! 

 

 ──私は思考を放棄した。

 

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