死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが   作:ストロング西岡

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第五十話ッ 私、気になりますッ!!※自語りババア乙←◯すぞ

 

「嫌っ! 帰ってよ!!」

 

「おい、アリシア。やめるんだ!」

 

「誰がお前なんかに武器渡すもんか!! 絶対に、作ってやんない!!」

 

 肩を突き飛ばされ僅かな痛みが伝う。アリシアと名乗る少女は頭を振って店の奥へと走り去っていった。

 

「悪ぃな」

 

「…………」

 

 私は今まで使っていた剣を先日の戦いで破壊してしまった。日々の戦いで酷使されひび割れ錆付き、切れ味が頗る悪くなっても、私とともに戦い抜いてくれた相棒だった。

 

「……言っとくがさっきの態度のことじゃねぇぜ。アリシアが怒る気持ちも、俺は分かってるつもりだ」

 

「…………」

 

 知り合いに『頼み込んで』教えてもらった、この国に残る数少ない鍛冶師、アリシア。そして仕立て師であり元軍人のクレイトン。彼ら兄妹がひっそりと経営する店に訪れ、何でもいいから使える武器を求めに訪れたのだ。

 

「だからこそ、あんたの魂胆が分からねぇ。本当に武器貰えると思って来てんのか? ちょっとそれは虫が良すぎるんじゃねぇのか」

 

「…………」

 

「それに、『武器ならなんでもいい』みたいな甘ったれた考えのやつに、うちの妹が打った作品を売れねぇよ」

 

 だが見通しが甘かった。この店は本来彼らが選んだ一部の客にしか武器を売らない。そのことを知らずに、私は彼らに武器を図々しくもせがんでしまった。それも彼らの作品に対する敬意も表する事無く、ぞんざいな態度で。

 

 白髮の少女に突かれた肩が痛む。

 

そもそも、私は彼らが忌み嫌う『貴族』だ。なぜ、彼らが私に武器を贈るなんてことをしてくれると、私は思いあがったのだろう。

 

「帰ってくれ。……来世ではご縁があればいいな」

 

 息を吐き出し、瞳を閉じる。一瞬目の前の肩が震えた気配がしたが、気に止めることはない。私はお前を殺す気なんて無いのに、お前たちはいつ私に殺されるか怯えていたのだろうな。

 

「…………」

 

「……一言ぐらい言えねぇのかよ」

 

 ドアノブに触れる手を強く握る。

 

 ……そうだな。何も言わないのは、失礼になるか。

 

「……もう来ることはない」

 

 ☆ ☆ ☆

 

「いやぁ……あの時の目。怖かったなあ……」

 

 クレイトン殿は自らの肩を抱くと態とらしく体を震わせる。

 

「や、やめてよ……恥ずかしいじゃない」

 

「アリシアがいなくて良かったぜ。思わずブルっちまったよ」

 

 うむ、そうだな……まさしく氷河期、といった感じだな。テレジーが革命派に属して、精神がすり減っていた時代だ。貴族と揶揄され差別され、辛い毎日を送っていたことだろう。

 

「それにしてもクレイトン殿よ。あまりにもテレジーへの態度が悪いのではないか?」

 

「しょうがねぇだろ……あの時は貴族への心象が、ほら、悪かったしよ」

 

「そうよ。クレイトンはむしろ優しい方よ」

 

「その割には俺のこと睨んでたけどな」

 

「それは誤解。ただ目つきが悪かっただけよ」

 

「どうだか」

 

 テレジーは手に持つ湯呑みを傾けると一気に飲み干す。一息つくと更に続ける。

 

「今こうして平和にやり取り出してるのだから、別にいいでしょ?」

 

「ま、そうだな」

 

 2人が納得しているのならそれで良いのだがな。あの初対面の後2人、いや3人か。3人はどうやって仲良くなったのだろうな。

 

 ☆ ☆ ☆

 

「に、兄さんっ!!」

 

「くっ、お前ら……何の用だ!」

 

 俺達の店から程遠くない路地裏。ちょっとした買い出しの途中、背後をつける追手の存在に気が付き、妹のアリシアを連れて逃げるも、俺達は呆気なく囲まれた。走るとすぐに転んでしまうアリシアを連れて走り回るなんて、俺にはできなかった。せめて俺が現役の軍人だったのであれば、おぶってでも逃げられたんだろうけど。

 

「別に悪いようにはしねぇよ、クレイトン。昔馴染みだからな」

 

「なら、そこを退いてくれないか。堅気には手を出さないでもらいたい」

 

「『堅気』ね……軍人をマフィアと一緒にされちゃ困るぜ。オレらはこの国のために最善を尽くしてるだけだ」

 

 こいつらに何を言っても通じない。この時間も何もかも全てが時間の無駄。

 

 俺が軍人を辞めた理由。それは民衆から徴税という名の下食料を巻き上げ搾取の限りを尽くし、軍人という後ろ盾に甘えて征服者気取りで大手を振っていたことだ。

 

 俺はこんなクソッタレな国でも、故郷は愛している。そこに住む人たちも当然同じであるはずだと思っていた。だが違った。最早そんな『甘い』考えを抱いていたのは俺だけだった。そんな考えじゃこの地獄のような国を生き残れないと、空気を吸うように理解してたのだ。

 

「お前の妹の力がオレたちには必要だ。これ以上の猶予期間は与えられねぇぜ」

 

「猶予期間だと……ふざけるな。お前たちが勝手に決めたルールで、俺たちを縛るな!!」

 

 俺は決めたのだ。軍人という名誉ある職を捨ててでも守りたい者の存在。たった一人の家族であるアリシアを守ることを。そのためなら何だって捨ててやる。必ず守るんだ。

 

「やれ」

 

 周りにいるのは3人……戦闘のプロが3人。実力差も人数差も圧倒的だった。

 

「いやっ、いやぁ!! 兄さん! 兄さん!!」

 

「やめ、ろ!! アリシアを、離せっ!!」

 

 2人の大男に組み伏せられ身動きが取れない中、視界に映るアリシアが激しく抵抗している様が見える。俺が何もできないばかりに、アリシアを怖がらせている。

 

「離して! 離してよ!! 兄さん!!」

 

「うるせぇな……おいっ!!」

 

「いっ──やめ、やぁ!?」

 

 髪を鷲掴みされ乱暴に振り回して嫌がるアリシアを無理やり引っ張る男。

 

「てめぇ……! アリシアを──ぐっ!!」

 

「クレイトンさんよ、お前の妹は借りてくぜ」

 

「待て!! やめてくれ……お願いだ……アリシアを…………返してくれ!!」

 

 俺は無力だ。妹を守るために俺にできることはしてきたつもりだ。だがそれだけだった。俺にアリシアを守る力なんてないのに、自分には何でもできると驕って慢心した末路だ。俺は、たった1人の家族すら守れない。

 

「……あ、てめぇ……まさか──」

 

「────シッ!」

 

 ふっ、と重力がなくなったかのような感覚が伝わる。……違う、背中に乗っていた男2人が吹き飛ばされたのだ。俺はすぐさま立ち上がるとアリシアのもとへ駆け出す。何故か呆然と1人で立ち尽くす様に違和感を覚えたが、今は気にしている暇ではない。

 

「アリシアっ!!」

 

「に、兄さん……!」

 

 アリシアを抱きせ、ちゃんと戻ってきてくれたことに安堵する。これは奇跡だ。奇跡以外の何物ではない。

 

「い、一体何が…………起きて……」

 

「…………あの、ときのか」

 

 先程まで威勢よく吠えていた3人の男は沈黙したまま地面に突っ伏している。そしてその真ん中に立つ、フードを深く被る黒コートの人物。

 

「…………貴族」

 

 アリシアは恐る恐る声を絞り出すと、それっきり怯えるように、または怒り故か体が強張る。俺の背中にアリシアを隠すと、俺は黒コートの人物に声を掛ける。

 

「…………助かった。礼を言う……俺は何を差し出せばいい?」

 

 何故あの人が俺達を助けてくれたのかは分からない。ただ、無償で人助けをするお人好しなどこの国にはもう居ない。なら当然見返りを求めてくるはずだ。

 

「…………いらない」

 

「……でも、それだと……」

 

「…………」

 

 いや、それはどうだっていい。貴族に無様なさまを見せた挙げ句助けられたなんてことはどうでもいい。大事なのはそこじゃない。

 

「兄さん、行こうよ」

 

「……けど」

 

「…………嫌だよ。貴族と一緒にいるの。貴族にお礼なんてしたくないよ……」

 

「っ、アリシア。やめろ」

 

「……ごめん、なさい」

 

 今だけはそんな口を聞いては言えないと思った。別に怒りを買って殺されるとか、そんな突飛な想像はしていない。ただ、仮にも妹を助けてもらった恩人なのだ。その相手に失礼な態度を取りたくないと思った。ただそれだけだ。

 

「…………」

 

「っ……ま、待ってくれ」

 

 踵を返して去ろうとした貴族の足を止めさせる。本当はこのまま行ってもらうべきなのは承知だ……その上で俺は声を掛けた。

 

「あんたは……妹を助けてくれた恩人だ。そのお礼がしたい。今度、店に来てくれないか」

 

「兄さん……!?」

 

 アリシアに腕を強く引っ張られる。しかし俺は引くことはしない。妹のわがままを聞くのは兄の務めだが、妹を導くのも俺の務めだ。

 

「約束したよな。アリシアが武器を作りたいだけ作る代わりに、俺が売るって。俺が選んだ相手にだけ武器を売るって……約束したよな」

 

「…………」

 

「アリシア」

 

「……勝手にして」

 

 承諾は貰った。自分の意志が固く頑固で、人の話を聞かないアリシアが首を縦に振ったのだ。アリシアも目の前の貴族に助けてもらったことに、何かを感じ取っているということなのだ。

 

「私は……そんなつもりで、助けたわけじゃない」

 

「じゃあ、どういうつもりで助けたんだよ」

 

「…………」

 

「いや、長くなりそうだからいい。ま、ありがたく思えよ? 俺の妹の腕は確かだぜ」

 

 首を動かすこともなく体を揺することもなく不動な彼女を見ていて、俺に対し何も語ることはないのだろうと諦観した。

 

 その証拠に、次に店に訪れて武器に触るまで、彼女は一言も発することはなかったのだから。

 

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