死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが 作:ストロング西岡
「──で、実際の所。なんで助けてくれたんだ?」
「たまたま、よ。それだけ」
「……そうか。なら、その『たまたま』に感謝しなくちゃな」
「ええ。そうするといいわ」
「あ、なんか面白そうな話してるー!」
扉の開く音と同時にアリシア殿の年相応に可愛らしいくひょこっと飛び出すと、軽い足取りでクレイトン殿の横に座る。
「今、テレジーと俺等が出会った頃の話をしてたんだよ」
「そうなんだ! テレジーはねえ……とにかく無愛想だったね!」
「それ貴方が言うの?」
「テレジーよりはマシだよ」
「そんな事無いわ。貴方のほうが酷かった」
「どっちも変わらねぇよ。間に挟まる俺の気持ちにもなれよ」
「兄さんはどうせ、テレジーにデレデレしてたから愛想良かったんでしょ?」
「は? 舐めんな。側に世界で一番かわいい妹が居るのになんで他の女に目移りしなきゃならねぇんだよ」
「うわシスコンきも」
「本当。キモいわ」
クレイトン殿は本当にアリシア殿を愛しているのだな。クレイトン殿のアリシア殿を思う気持ちが溢れた過去話に感動した。さぞテレジーに感謝していることだろう。
「う、うぅ…………」
「む、オーフィア殿。無事か?」
「うーん…………ちょっと、休む……」
ぐだぁ、っとソファに崩れ落ち力なく項垂れるオーフィア殿。凄いな、こんなに元気のないオーフィア殿は初めて見た。アリシア殿、恐るべし。真面目そうな顔して1番の狂人はアリシア殿なのかもしれんな。
……ちなみに2番目はオーフィア殿、その下がテレジーだ。俺は番外だ。ピエロを演じてるだけだしな。
本当だぞ。
「テレジーと2度の邂逅のあと、アリシア殿はどのようにテレジーと仲良くなったのだ?」
「仲良くなった、というか……『あ、この人アホな人だ』って気付いて警戒するのがバカらしくなったというか」
「は? ちょっと待てやチビ。アホってどういうことだゴラ」
「クール系に見せかけてただの天然のアホな子なんだよね!」
「分かる……そうだよな……」
「はぁ? 誰が────え、マイケル? なんで頷いてるの?」
おっと失礼。つい本音が。
「だって最初喋ったとき噛み噛みだったし、咳き込んでたし、しどろもどろだったし」
「それはあれよ! 普段必要以上に喋らなかったからよ!!」
「武器だってろくに整備しないし見た目に無頓着で」
「見た目に無頓着なのはあんたもでしょ!?」
「……ふふん、見なよ! この綺麗な作業着をッ!!」
「う、嘘……綺麗……!?」
そうなんだよな。たしかに前見た時は、一言で言えばだらしない印象を受ける格好だった。しかし今は年相応、いやすこし大人びた可憐な少女といった雰囲気だ。髪は良く整えられ枝毛がなく、以前のようなパジャマではなく作業に適した服装で、シワも汚れもない綺麗なもの。
「…………ぶい」
横で俺に向けて小さくVサインを向けてくるオーフィア殿。なるほど、君がレクチャーしたのか。どうやってあの偏屈そうなアリシア殿を言って聞かせたんだ?
……まぁ『偏屈そうな』というのは俺の偏見だが。
「相変わらず芋っぽいテレジーとは違うんだよ!」
「言ってくれたわね、このチビがッ!! 『芋』って言われるのが一番嫌いなのよ!!」
「別にチビでいいもん! 作業場は狭いから身長が低いほうが楽だもん! このお芋お芋のテレジーさん!」
「このガキッ! 表に出なさいブラコン小娘!! どっちが格上が思い知らせてやるわッ!!」
「毎日重たい金槌振ってる私に力勝負で勝てると思ってるの? ほんとに馬鹿だねテレジーは!!」
ソファから立ち上がると両者は互いに向き合い、プロレスさながらのフィンガーロックで力比べを始めた。
「ぐぬ、ぐぬぬぬぬ……!? こんな、小娘なんかにぃ!?」
「ふ、ふふ……やっぱり私のほうが────あ、あだだだだだだ!?」
力仕事をしていた分、そして体が本調子でないからかアリシア殿に押されていた前半戦。しかし後半戦では打って変わって突然テレジーが優勢に……。
……こいつやったな。
「馬鹿めぇえええ!!!」
「馬鹿はテレジーだよ」
バコォオオオン!!
「──痛ぁぁああああ!?!?」
「真剣勝負に……水を差すなッ……!」
頭を抑えてうめき声を上げ蹲るテレジーを尻目にオーフィア殿は元の席へ戻る。今凄い音したな。ありゃ痛いだろうな。でも大丈夫だろう。だってテレジー、身体強化の魔法使っただろうからな。
それくらい耐えられるよな?
「…………ま、若干。行き過ぎだったが、大体こういうことよ。分かったか? マイケル」
「うむ。よく分かったッ!」
例え心を塞ぎ込んで周りを排していても、心の奥底の本質、テレジーらしさは変わっていなかった。つまり、テレジーは強い女性なのだと再認識できた。こんな状況でも俺は冷静な分析を忘れないクレバーな男なのさ。
現実逃避ではない。
☆ ☆ ☆
「ねえねえ。私貴族のこと、もっと知りたい」
「…………どうしたの突然。気持ち悪いわね頭おかしくなったの、相談なら乗るわよ、いやもう手遅れかしら」
「『酷い』、『酷い』、に『酷い』だね。自覚はあれど偏見だらけの目で私を見ないで?」
アリシア殿はテレジーとオーフィア殿を順に眺め言葉を続ける。
「魔道具のこと研究してたら、『そういえば私、貴族について何にも知らない』って思って……」
「別に知らなくてもいいことよ」
「なんで?」
「なんでって、それは…………」
言葉尻弱く消え入るようなテレジーの声。そこに詰め寄るアリシア殿。
うーむ……テレジー。こっち見られても困る。
「せっかくテレジーと、オーフィアさんとも知り合えたのに、ふたりのこと何も知らないのは……なんか嫌だなって思って」
「…………」
渋い顔で腕を組むテレジーに困った様子のアリシア殿。テレジーは昔のことを聞かれるのを避ける傾向にあるからな。彼女にとってもあまり気持ちの良い話でもないのだろう。
「…………その、私。本当は、テレジーの子どもの頃のことが聞きたいの」
「え、私の……?」
「……それなら、話してくれる?」
「…………余計嫌だな……」
「えぇ……」
おぉ、そんな顔するなアリシア殿。せっかくの美人が台無しだぞ。
「いいじゃん……話してあげたら?」
「オーフィア?」
お、ここでオーフィア殿が助け船を出すか。
「テレジーはいいよね。話すかどうか、選べるんだし……アリシアはわたしのことには興味ないようだし……」
「…………あ! ち、違うのオーフィアさん!! オーフィアさんの子どもの頃の話も聞きたい!!」
何だそういうことか。いじけてただけか。可愛いとこあるじゃん。
「わたしも気になる…………わたしが居なくなったあとの『研究所』の様子」
「研、究……所?」
研究所……あの城のことだろうか。貴族と呼ばれる人たちは研究所と呼ぶのが一般的なのか?
「……と、わたしの友達」
「友達…………私知り合い少ないから、名前言われても分からないわよ?」
「大丈夫。いっぱいいるから。絶対当てはまる」
「は? …………あぁ……」
「オーフィアさんの友達!? どういう人達なの!」
「やめときなさい。きっと都合よく呼んで都合よく遊ぶタイプの友達よ」
「んぇ……? どういうこと?」
それが本当だとして。テレジーよ、君のオーフィア殿への理解力の凄まじさに少々驚いているよ。
「そうそう。アリシアには、まだ早い」
「おめぇにだって早ぇだろうが」
「失礼な。肉欲溢れる22歳です」
なんだ肉欲溢れるって。一体溢れたらどうなっちゃうんだよ。
「マジか。結構歳いってんのな。もっとガキだと思ってたぜ」
「……後で詳しく、聞かせてもらう」
「アリシア。最初に行っておくけれど…………あんまり面白い話じゃないわよ?」
「え。テレジーの話はいつも面白いよ?」
「思ってもないこと言ってんじゃないわよ」
「嘘じゃないもん」
はぁ……と、大きなため息が聞こえる。テレジーが発したものだ。そしてテレジーが何かを決意したときの合図でもある。
「…………隠すほどのことでもないしね。良いわ、話してあげる」
「ほんと!? やったあ!!」
「……こりゃあ長くなりそうだな。ちょっと待ってな、お茶持ってくる」
「わくわく」
「何であんたも楽しみなのよ……」
正直意外だった。あれこれと理由つけて話を有耶無耶にすると思っていた。
そもそも人と関わろうとしなかったテレジーが、態々自らの過去を話そうとは思わないだろう。
「無理のない範囲でいいからな? テレジー」
「……ありがと、マイケル。別に黒歴史ってわけじゃないから、大丈夫よ」
言っとくけど、ほんとに、面白い話じゃないからね──と続け大きく息を吸うと、ゆっくりと吐き出す。
ただの深呼吸ではないのだろう、彼女にとっても大きな意味を持つ間だったはずだ。恐らくテレジーにとってあの城での出来事は、何よりにも代えがたい代物なはずだ。
例えば、彼女の数少ない友人であるエリナ氏。テレジーにとってのターニングポイントであり鍵であり、『爆弾』……と俺は認識にしている。そう思うのはただの俺の勘。今のテレジーはエリナ氏について考えることを無理やり放棄しているように見えた。それは過去のいざこざ故か、何かに気付いてしまったからか。
例えば、イザベラ殿。テレジーはイザベラ殿とは『仲良くない』と発言していた。しかしそう言う割にはイザベラ殿に対する態度が煮えきらない。だだの知り合いではないはずだ。
必ずテレジーの過去には大きな秘密が隠されている。俺はテレジーの地雷を踏み抜いてしまうのではないかと立ち入れなかった危険地帯。それをテレジーは自ら開場してくれるのだ。この機を逃すわけにはいかない。
それが、テレジーを救う為の一歩になるのなら。
☆ ☆ ☆
──テレジーが語りだすのは、本来は語られるはずのない物語。彼女の深奥に迫る、たった1つの物語。
悪意に染められる前の、幼き娘の物語だ。
「…………いや、そんなにハードル上げないで? 喋りにくいわ」
「雰囲気作りは大事だぞッ!」
「余計なお世話よッ!」