死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが 作:ストロング西岡
「調子はどうかな、テレジー。気になるところはないかい?」
「はい。大丈夫です、ローレンス先生」
部屋の中央よりややズレた位置にある診療台から降りる。いくつかの触診のあと、魔力による精密検査を行い私の体に異常がないことが確認された。
「よかったよ。魔力量が著しく多い者は、場合によっては重度の魔力障害を患う傾向にある。特にテレジーのような、第二次性徴期にも満たない女児だと何が起きるか分からないからね」
「…………よく、分かんないです」
ローレンス先生はぼさぼさの髪を掻き撫でながら苦笑する。
「ああ、すまないね。つまり、僕はテレジーを『心から心配して』いるんだよ。君が元気でいてくれて嬉しいんだ」
私に親は居ない。そのことを悲しんだことも喜んだこともない。強いて言うならば私を実に子供のように育ててくれたローレンス先生が該当する。先生は優しく微笑みながら私の頭を撫でると、彼のデスクの上の書類を手に取る。
「先日から始めた訓練の報告は聞いているよ。既に結果が伴ってきていて嬉しく思うよ」
少し埃っぽいローレンス先生の研究室。内容が難しそうな本や資料が至る所にたくさんあり、室内を所狭しと占拠している。物が散らかり、最早その体を成していない机に向い何かを書き留めるローレンス先生は、私をチラリと横目で見つめる。
「…………」
「どうしたのかな。何か、考え事かい?」
物心ついた時、私は既に歴代の中でも最高峰の魔力を持つ『天才』と持て囃されていた。それがどういう意味で何を表すのかは、当時の私には分からなかった。
本来であれば6歳の時から魔力増加訓練を始めるところ、私の場合はそれより2年も早く始めることになった。それはある意味必然だった。理解も受容もできないまま、私は流水のように促された。
「なんで私だけなんですか……他の子は?」
「テレジーは特別だからだよ。この前も話した通り、テレジーはこの国の中で……いや世界で一番魔力量が多いと断言して良い。それはあの伝説の竜神、エンリルをも凌駕する量だと推察されるくらいだ」
「…………」
「つまり、テレジーはこの国を救える『ヒーロー』なんだ。今はまだ目標量に達していないが、テレジーの努力次第ではそれも可能なんだ」
「……私は、こんな力欲しくなかったです。ヒーローになんか、なりたくないです」
ローレンス先生の大きな手が私の頭に乗っかる。優しく右へ左へと擦ると、柔和な笑みを浮かべた。
「怖いです……自分じゃわかんないのに、『魔力がいっぱいある』って言われても……」
自分の手にあまる魔力量。想像をし得ない大きな闇のような、魔物のような気がして。あの時の私は、私の内側に宿る魔力という名の不可視の化け物に怯えていた。
「そうだね。そうだ、僕から1つ提案があるんだ」
そう言うとローレンス先生は立ち上がり棚に煩雑に並べられた本を1つ取ると、私に差し出してくる。
「僕と一緒に魔力の使い方を勉強しようじゃないか、テレジー」
「……え?」
「全ての生物、物質、果にはエネルギーにすら普遍的に魔力が存在している。万物は全て魔力の奴隷なのさ」
「……わ、分かんないです」
時折先生は難しいことを言う人だった。少なくとも当時の私にとっては。だから先生の言うことに一々私が問いただすことが多かった。けれどそんな私にもローレンス先生は優しく諭してくれた。
「つまりね、自分の中にある『魔力』と向き合って自分のものにするんだ。そうすれば怖くないよ」
「でも、いっぱいあるんですよね……?」
「人間と違って魔力は素直だからね、従わせるのに量は関係ないさ。テレジーがちゃんと使い方を勉強すれば、ね」
それから私はローレンス先生の言葉を信じ、魔力の訓練に勤しんだ。訓練の内容は多岐に渡る。魔力を仮想脳から出入りさせたり、仮想脳内で圧縮と拡張を繰り返したり、その他諸々。
説明してもよく分からないと思うから原理だけ説明すると──。
☆ ☆ ☆
「……仮想脳に変則的な刺激を与えることで、仮想脳深部に宿ると言われている潜在的な魔力総量を──」
「興味ない。続き、早く」
「えぇ…………オーフィアも魔法師なら、この手の話は──」
「──早く」
「…………はぁ、分かったわよ……はぁ……」
☆ ☆ ☆
来る日も来る日も、私はそうやって訓練を続け魔力を順調に伸ばしていった。だが、訓練を手伝ってくれた人はローレンス先生ではなく、別の研究員の人だった。ローレンス先生とは違い、研究員らは言葉だけは優しげに、だが顔は一切表情を見せることが無かった。彼らは最後まで私への冷めた態度を変えることはなかった。それが幼い頃の私には酷く憂鬱な出来事だった。
彼らは私ではなく私の持つ魔力にしか興味がないのだ、と気付いたのは、他の『子どもたち』と一緒に訓練を始めたときであった。
研究員らの献身的な教鞭によるおかげか、私は日に日に魔力量を増やしていき、6歳になる頃には以前より抱えていた『魔力の存在への怯え』はなくなっていた。
「ど、どうですか……変じゃないですか?」
「うん、綺麗だ。よく似合っているよ、テレジー。だからもっと胸を張るんだ」
「は、はい」
「『女性の美しさは自信で決まる』と友人が言っていてね。実際に精神が肉体を変貌させることは無い為、荒唐無稽な妄言だが……僕はこういう根性論は嫌いじゃない。文系にだってたまにはアイデアのきっかけが……」
「…………」
「……心配せずとも、テレジーなら大丈夫。綺麗だ。ほら、行っておいで」
6歳になると、今まで来ていた味気ない白シャツを卒業する。女子はドレスを、男子はブレザーを充てがわれる。私のドレスは白を基調としたシンプルなもの。パニエで少しスカートを広げているため裾が邪魔でやや歩きにくい。しかしこれが正装らしく、これで過ごさなければならないらしい。
……一体誰の趣味なんだろう。先生はこういうのが好きなのかな?
訓練を他の同期らと共にして数週間後のある日。第1試験とも言われる魔力測定の時。用意された魔法石に魔力をマインドダウンが起きる限界まで流し込み、その量を測るといったもの。ここで規定量の魔力量が見込めない場合、即刻処分となる。
その事を知るのは随分後になってのことだったが……。
私の同期である『子どもたち』は大体40人程度。どちらかと言うと女の子のほうが少し多い同期達は、それぞれ充てがわれた魔法石に魔力を込めていった。
大抵の子は既定値を超え合格。一部の子は魔法石の魔力許容限界に達すること無く魔力が尽き処分。……だが私の場合はその2つとも違った。
「素晴らしい……これが『稀代の天才』か」
私に用意された魔法石は10個。一般的な魔法師の魔力量は、試験に使われた魔法石に換算するとおよそ2個程。私は用意された魔法石全てを魔力で満たして尚、余力を残していた。
次の日、精密な検査を行うため私だけ2回目の試験を受けた。城にある魔法石全てを用意され、その数は約120。だが、私の魔力量をは限界を知らず、120個全てを満たしても限界は訪れなかった。
「テレジーさんっ、すごいです!!」
「っ……そ、そうかな……普通、だよ」
「ねえねえ、何を食べたらそんなに魔力を増やせるのですか!?」
「み、皆と同じだよ」
「
「げきまず……そんな事無いと思うけど──」
「──あ、自己紹介がまたでしたわね!
「よろしく……?」
初めて出会ったときから遠慮なく喋りかけてきたのは、今は黒いローブを羽織り神出鬼没の存在……この前子どもたちと遊んでいたのは別として。イザベラとの出会いは2度目の試験を終えた頃だった。この時は縦ロールではなく、長い髪を纏めてハーフアップにしていた。黒に白いラインの入った派手なドレスがよく似合う女の子だった。私としてはこの時の髪型の方が好きだ。
「けれど、
「う、うん……頑張ってね」
「ありがとうですわっ! ですけれどその余裕綽々な態度、360度変えて差し上げますわっ!」
「ま、回し過ぎだよ…………ところで、なんでイザベラちゃんも追試してるの?」
「
「え? 案内されなかったの?」
「壁殴ってたら見失いましたわっ!!」
「ああ……そういうとき、あるよね……」
「そうですわよねっ!!」
……『結構やばい子に絡まれたかも』とあの時は思ったが、『それは間違ってないよ』ってあの時の自分に言って上げたい。
だがそんなことよりも当時の私としては、こうやって積極的に話しかけてくれる存在に感謝していたのだ。