死中に活ッ!笑えよドラゴンッ!!※転生先が絶望的なんだが   作:ストロング西岡

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第五十三話 すれ違いのプロトコル

 

「ふぅうん!! ほぉ、たぁ、やぁ!!」

 

 どういう気合の入れ方? 顔をしわくちゃにしながら手を回してスクワットしてるけど……。絶対余計な魔力入ってるよね。一子相伝の秘技なのかな。

 

「はぁ……はぁ……ど、どう!?」

 

「10個だ」

 

「は、はぁッ!? 少なッ! 100個くらい出たわよ! おしっこだってちょっと出たのよ!?」

 

 後日行われた魔力測定の追試験。私の左前で暴れ散らかした後、息を切らして肩で呼吸をするイザベラ。だが追試験を担当した女性の研究者は意に介さない様子で試験道具を片付けていく。

 

「もう一回! もう一回だけお願い!!」

 

「……一日に大量の魔力を消費したんだ。今日は休め。それに期間を開けなければ何度やっても同じだ」

 

「じゃ明後日! 漏らしてもいいようにおしめ履いてくるから! ねぇお願い!!」

 

「鬱陶しい。あまり手を煩わせるな」

 

 相変わらず表情が見えない女性研究員はイザベラを一瞥すると、そう言い残して去っていった。

 

「あの……大、丈夫?」

 

 うなだれた様子のイザベラに声を掛ける。

 

 ……おしっこ出たんでしょ、とりあえず着替えに行こうよ。

 

「ほんっと、融通の効かない人ですこと! そう思いません、テレジーさん!」

 

「え、ぁ、あ……うん……」

 

「何度やっても同じだなんて勝手に決めつけて。(わたくし)の限界はこんなものでなくってよ!! まだこんなに余裕がありますわっ! はぁああああッ!!!」

 

 気合とともに蒼混じりの紫の魔力がイザベラの体から溢れる。周囲を微弱な雷が走り、ただならぬ雰囲気を纏う。

 

 ……いやいや。なんでそんなに残ってるの、それは駄目でしょう試験なのに手を抜いちゃ。限界出してやろうよ。

 

「それと、いいですことテレジーさん」

 

「え……あ、はい」

 

「今回は勝ちを譲って差し上げますけれど、次はこうは行きませんわ。覚えてなさい、最後に勝って笑うのはこの(わたくし)イザベラですわっ!!」

 

「あ……うん……ありがとう……?」

 

 イザベラの言う勝ちとはなんだろうか。いつから私達は魔力量で勝負していたのだろう。

 

 ……魔力があったって何にもならない。人生が楽しくなるわけでも、自分が偉くなるわけでもない。ただ灰の嵐に囲まれたこの国を救うため、捧げられるだけの魔力の大小になんの意味があるのだろう。

 

 魔力量が多くて良いことなんて何一つない。魔力を魔法石に込めそれを納品すれば私達は終わりだ。それ以上何かをすることも、されることもないのだ。

 

 試験に使われた魔法石はほんの一部は国のインフラ設備に回される。その殆どは来る灰の嵐への魔力供給に備え城の倉庫に保管される。

 

 もし私の魔力をイザベラにあげられるのであれば、いくらでも渡すのに。

 

「おーほっほっほっ!! …………あ、またちょっと漏れた」

 

「は、早く着替えて……!」

 

 ☆ ☆ ☆

 

 私とイザベラは仲が良い、というわけではない……と思う。

 

「ま、負けましたわッ……!」

 

「イ、イザベラ様がっ……負けるなんて……!」

 

「イ、イザベラ様が負けるなんてっ…………おい、お前!」

 

「……は、はいっ」

 

「お前がズルしたことは分かってるんだ! 卑怯だと思わないのかこの犯罪者ッ!!」

 

「人殺しッ!!」

 

 は、犯罪者? 人殺しッ!? 

 

「この────大馬鹿者ッ!!」

 

 ゴツーン、と拳と頭が衝突する音が室内に響く。

 

「テレジーがそんなことするわけありませんわっ!! 謝りなさいこのクソガキッ!!」

 

「も、申し訳ありませんっ……イザベラ様っ!!」

 

「謝る相手が違うくてよ、テレジーに謝るのよ!!」

 

「そ……そうよ!! テレジーさんが卑怯な手を使うわけないんだから……ちゃんと謝るのよ……!!」

 

「え……ニ、ニーナだってさっき──」

 

「マルクッ!! 貴方は本当に言うこと聞けない子ねッ! もう一発ぶちかましてあげましょうかッ!?」

 

「ご、ごめんなさいテレジーさんっ!!」

 

「…………うん」

 

 あー、うん。一体何度目のやり取りになるのだろうか。彼らの茶番劇を傍目に指折り数えていく。

 

「ふん、テレジー。『今回は』勝たせてあげますわっ! 次はもっともっと練習して魔力増やして、絶対に勝つんだから、譲ってなんかあげませんわっ!! 覚えてなさいッ!! 世界で一番美しく、聡明で、魔力量が多いのはこの(わたくし)イザベラですわ!!」

 

「そうよ! イザベラ様は世界で一番なのよ!!」

 

「そ、そうだ! イザベラ様は世界で──って、ちょっと待ってよ2人共っ!?」 

 

「あ、うん。またね」

 

 高らかに笑いながらイザベラは立ち去ると、従者のような男女2人が後を追いかけ走り去っていく。

 

 女の方はニーナ。オレンジ色の髪に垂れた黒目の、可愛らしい子。オレンジのミニスカドレスで、動的で爽やかな印象を受ける。たまに顔に似合わず強気な発言が目立つ。イザベラに触発された影響なのだろう。なんだかそれはそれで可哀想だな。

 

 男の方はマルク。茶髪に碧眼のイケメン系。だが体が細く紺のブレザーはダボついていて、且つ本人が引っ込み思案気味なせいで弱々しく格好良くない。残念男だ。

 

 これで12度目の魔力測定。つまりイザベラや他の同期も含めて初めて会った日から約1年が経過した日であり、イザベラが12回の敗北を喫した日だ。魔力測定の日がある度に、滅気ずに、魔力量勝負を仕掛けて来たイザベラは、毎度のごとく勝ちを譲ってきた。

 

 そして何度目かの測定のとき、イザベラの隣にはニーナとマルクの二人がいた。私はあの二人とは面識が無かったがイザベラのことだ、強引に話しかけて従者の真似事でもさせているのだろう。つまり、きっと仲良しなのだろう。

 

「……不気味」

 

「イザベラさん、可哀想」

 

 1年という歳月があればおおよその人間関係は構築され、各々が何らかのグループに属する。イザベラはその中でも特殊で、彼女の性格故か同期からの信頼と人気が厚く、何かと注目を集める存在になっていた。

 

 私とは逆。注目を集めはするが、その集め方に問題が合ったのだろう。

 

 私の出自と魔力量の多さは尾ひれはひれに伝わるが、そのすべてが誇張ではないと知ったとき、周りからの私への視線が奇異なものに変わるのは必然だった。

 

 イザベラの魔力量は私を除いて歴代トップの成績を持つ。今回の試験では魔力石を100個満たす程に成長していた。とても1年で成せる成長ではないとローレンス先生も言っていた。

 

 そんなイザベラに惜敗すらさせない私は、恐らく同期からすれば『魔力量が多いから調子に乗っている』と思われているのだろう。私は同期から嫌われている。

 

 仕方がないことだと思う。彼らは悪くない。悪いのは私だ。私が彼らと打ち解けようとせず、1人で行動をしているせいだ。それが余計な誤解を与えてる。もっと私が、もっと私が。

 

「──ねぇ、邪魔なんだけど」

 

 耳に響く凛とした声に、自然と俯いていた顔が上へと引っ張られるように動く。そこには黒と赤が複雑に入り混じる髪色の、灰色の瞳をした女性が立っていた。

 

「無視? ──いい度胸ね、あんた」

 

「ご、ごめんなさい…………」

 

 彼女が身に纏う青色のドレスに見惚れ、私は自分が固まっていたことに気が付く。この人を怒らせてはいけない、と本能で察知し直ぐ様その場を避けると、その女性は扉を開いて退室する。

 

「……突っ立ってるだけなら、そこじゃなくてもできるでしょ」

 

「…………ごめんなさい」

 

「……はぁ…………もういい」

 

 ため息一つついてイライラとした態度を隠しもせず、彼女は退室した。

 

 ☆ ☆ ☆

 

「なんであいつ今日も来てんの?」

 

「嫌味ったらしいやつ」

 

「訓練、免除されてるって話なのにね」

 

「何それ、うっざ。じゃあ来んなよ」

 

 気が付けば私への陰口が始まっていた。どこから漏れた情報なのか、私が魔力訓練の自由参加が認められていることが同期に知れ渡ったことが、彼らの妬みの閾値を超えてしまった。そしてそれは私が言い返さないことを良い事に、次第にエスカレートしていった。

 

「……また1人か。他に余ってるやつはいないのか。それに……魔法石はどうした。まさかまた失くしたのか」

 

「……ごめんなさい」

 

「ぷぷ……誰があいつとなんかと組みたがるんだよ」

 

「物忘れ激しいとか、ばばぁかよ」

 

「友達いないんだね」

 

「かわいそー」

 

 仲間外れ、訓練道具の紛失。陰湿で、遠回りないじめ。直接攻撃をしてこないのは、魔力が余りある私の報復が怖いからだろうか。それ故に、ギリギリのラインを攻めて、自分の手を汚さず相手に嫌がらせを仕掛ける人間の──なんて浅ましく小賢しいこと。

 

 まだこの程度のときなら、恐らくまだ私の心の安寧は保たれたままだった。多少軋むことはあっても、折れずに支えてくれる柱が確かにあった。

 

 私が何もかもが嫌になったのは、ある時のことだった。

 

「テレジー。ちょっとよくって?」

 

「……イザベラちゃん。どうしたの──」

 

 イザベラに声を掛けられたと思えば、突然右の頬を拳で殴られ──私は吹き飛んだ。

 

 それも魔力が程よく籠もった、人を殺さずに済む瀬戸際の一撃。

 

「──が、あぁァァアァ!!」

 

「話は聞きましてよ。あなた、人として恥ずかしくないんですの?」

 

 意識が朦朧とする中、ローレンス先生に教えてもらった治癒魔法を掛けながら、見に覚えのない謂れを受けていた。

 

「は、はぁ、はぁ……どう、いう、意味…………!?」

 

「しらを切るつもりですの? もう一度ぶん殴って差し上げても良いですのよ、このクソ野郎」

 

「や、やだ……! ごめんなさい、それだけは!」

 

「なら、認めるというのですわね。シーラに怪我を負わせたことを」

 

 シーラ……名前も顔を知らない女が、イザベラの後ろから態とらしくおずおずと出てくる。頬には湿布が貼られ、額に包帯を巻いていかにも大怪我といった風体であった。

 

「テレジーちゃんが可愛そうだから、一緒に訓練をしてあげたの……そしたら、急にいっぱい魔力を送ってきて……それで私、私…………!」

 

「し、知らない……そんなの、知らないよ!!」

 

 ……名前も顔も知らないと言ったが、少し頭を巡らせるとそれは違うことを思い出す。

 

 確かにこの女とは以前訓練を共にした時がある。

 

 だがあの時のシーラと名乗る女はこんなにしおらしくなく、高圧的で、事あるごとに嫌味を言ってくる嫌な女だった。魔力量は平均より少し上程度で、美形だが目立つ顔立ちではない。そんな女だ。

 

 何か事件が起こった訳でもなく、私達の訓練はつつがなく終わりを迎えていたはずだ。それに、一緒に訓練をしたのは随分と昔の話だったはず。だと言うのに何故今更になって怪我を負うというのか。

 

「あなた、最近図書館に籠もって魔法をお勉強なさっていると聞いたわ。それに、ローレンス研究主任からも手解きを受けていらっしゃるご様子」

 

「それが、なに……?」

 

「この世には『呪術』という、一部の部族で使われる魔法の種類があると聞きましたわ。それをシーラに使ったのでしょう?」

 

「っ、そんなの使ってない! 第一、呪術っていうのは、グルト族に細々と伝わる、気候変動や健康祈願、降霊を起こす(まじな)いの一種で、決して誰かに危害を与えるようなものじゃ──」

 

「──わけのわからないことをごたごたうるさいですわっ!! それでもあなた、この国を栄化に導いた魔法師の一族、ナイルシュバルツ家の末裔ですの!? 恥を知りなさいっ!!」

 

 聞く耳持たずにイザベラは私の胸ぐらを掴むと、無理やりシーラの前で組み伏せられる。

 

「たった一言、シーラに『ごめんなさい』と素直に言えばよろしいだけですのよ、なぜそんな事もできないのですかっ!?」

 

「ご、ごめんなさい……! い、いたい、痛いよイザベラちゃん!」

 

(わたくし)に謝っても意味なんかないですわっ! ほら、ちゃんとシーラの顔を見て謝るんですのっ!!」

 

「イ、イザベラさん……そんな、私、そこまでしなくても……」

 

 組み伏せられ地に顔を擦り付けるような力が加わる。私は力を振り絞って視線を上へ向け、シーラの顔を見て睥睨する。

 

 涙声で震えるように発した言葉はイザベラに届き、私の首元は一層締まる。それを見たシーラはより笑みを深め、声が漏れないよう口を抑えるが、肩は震える。その様子は、決してイザベラに見えることはない。

 

「シーラ…………あなたはなんて優しいのっ! テレジー! いい加減になさいっ! 謝るんですのよっ!!」

 

 多分、イザベラは騙されている。彼女の中では、引っ込み思案で言葉に出せないシーラに変わって、私を罰している……のだろう。

 

 ……だから、イザベラは悪くない。悪いのは騙したこの女だ。

 

「ごめん、なさい……」

 

「声が小さいですわっ! もう一度っ!!」

 

「ごめんなさい……!」

 

 押し付けられた額が擦れて痛い。視界は涙が滲んで霞む。

 

 情けない自分。でっち上げられた罪を押し付けられて、無駄に頭を下げさせられて、殴られて、謝罪を強制される理不尽。周りの嘲笑が微かに聞こえる。蔑むような視線が、どうしようもなく私を甚振る。

 

「う、うん……もう、しないって言うなら……」

 

「よかったですわねっ、シーラ! これで一件落着ですわっ!!」

 

 重圧が風が吹くようにかき消え解放される。イザベラは高らかに宣言すると大声で笑い出す。

 

「…………ざまぁ無いわね」

 

「……っ」

 

 ただ私は訓練をしていただけなのに。やりたくもない訓練を、それだけのために来ていただけなのに。

 

 …………ああ、そうか。

 

 勘違いをしていた。私は彼らと同じ場所に立ってはいない。

 

 何故なら、私には『選ぶ』権利がある。彼らにはない。私にはあって、彼らには無いものがある。『選ばれた』立場でありながら、態々『選ばれなかった』者たちと一緒の道を歩もうなどとすれば、どう考えても顰蹙を買う。

 

 その事に気付けない、知ろうとも、分かろうともしなかった私を、彼らは憎んだのだ。

 

「そんな人だとは思いませんでしたわ。テレジー。以後、あなたの行動次第では、(わたくし)はあなたへの態度を改めさせていただきますわ」

 

「…………イザベラ、ちゃん」

 

「そうよ! あと、イザベラ様に『ちゃん』付けは失礼よっ!」

 

「そうだ! イザベラ様にはちゃんと『様』と付けるよう──って、2人共待ってよっ!?」

 

 友人だと思っていた。遠からず近からず、親しい仲だと思っていた。

 

 そして、歪かもしれないが。私は私達のあのくだらない関係が嫌いではなかった。

 

 そして私はイザベラの事を、少なからず好意を抱き、感謝し。何も彼女に還元できていない自分に嫌気が差した。

 

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